問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

9 / 25
八話 狂気と献血

「………ライム?」

 

 急に豹変したライムに、耀は目を瞬かせる。ツインテールを解いた瞬間に、今まで聞いたことのない嗤い声を上げているるライムに。

 豹変したライムに驚いているのは耀だけではなく、飛鳥も黒ウサギも十六夜でさえ同じだった。

 耀の呟きに続いて飛鳥が首を傾げて言った。

 

「ライムさん………一体どうしちゃったのかしら?」

 

「まるで別人なのですよ!?」

 

「ああ。真祖ロリの頭のネジが飛んじまったらしいな」

 

 動揺する黒ウサギ。ヤハハと笑う十六夜。しかし彼の目は冷静にライムの力量を推し測っていた。

 

「(真祖ロリの持ってるあの鎌………よく見たら脈を打ってるな。まさか、武器なのに生きてるのか?)」

 

 ドクン、ドクンとリズミカルに脈動する不気味なライムの鎌。アレに斬られたら一体対象にどんな影響を及ぼすのか、楽しみだ、と十六夜は笑みを浮かべた。

 耀は心配そうにライムの背を見つめて、内心で呟く。

 

「(ライム、頑張って………!)」

 

 耀のそんな想いに応えるかのように、赤黒い鎌を構えたライムが白夜叉に突っ込んだ。

 

 

 白夜叉の再開の合図と共に、狂喜に嗤ったライムは、地面に先程よりも深い亀裂を入れる踏み込みで駆け出した。

 その速度は、さっきまでのとは比べ物にならないくらい速かった。

 超音速(スーパーソニック)で振り下ろしてきたライムの鎌を、白夜叉は易々と扇で受け止めた。

 

「ほう。音速(さっき)の三倍くらいは速くなったようだの」

 

「クフフ!アンシンしてシロヤシャ。ワタシのゼンリョクはこのテイドじゃないから」

 

 そう言ってライムはさらに速度を上げて鎌を振るう。三倍から四倍、四倍から五倍へと。

 音速の五倍。それは即ち超音速の中でも最高速度を意味していた。

 しかし超音速の最高速度で鎌を振るい続けても、白夜叉の余裕は全く崩せる気配がなく簡単に扇で捌かれる。

 

「ちょっと!?スコしくらいはクセンしてもいいじゃない!」

 

「ふふ、この程度の速度で、何故この私が苦戦しなければならないのだ?」

 

「くっ………!」

 

 ライムは白夜叉との打ち合いをやめて一旦離れる。白夜叉相手に超音速でも遅いと思ってはいたが、こんな簡単に対応されるのはショックだった。

 これは出し惜しみをしている場合ではないか、とライムが思っていると、白夜叉はじっとライムの手に握られた鎌を見つめてきた。

 

「真祖の小娘、おんしのその鎌………まるで生きてるように脈を打っておるようだが」

 

「ん?ああ、この()のコト?うん、イきてるよ!だってこの()は―――ワタシのチでツクった()だからね!」

 

 クフフと嗤いながら、まるで我が子のように自分の武器(カマ)を撫でるライム。

 道理で、と白夜叉は不気味な鎌の正体を聞いて納得した。しかし血で出来た鎌とは、ますますもって気味が悪い。

 そんな白夜叉にライムはクフフと嗤って血で造った鎌の刃を撫でながら言った。

 

「ちなみにね、シロヤシャ。ワタシの()はユウノウだから………キったモノのチをクらえるのよ」

 

「何?まるでその鎌は吸血鬼みたいだの」

 

「クフフ、そうよ。だってこの()はワタシのチでツクった()だから、ワタシのブンシンみたいなものね」

 

「ほう。それはとても良いことを聞いたの」

 

 え?と疑問の声を洩らすライム。その刹那には白夜叉が眼前に現れて………手刀一閃でライムの血鎌を真っ二つに叩き折った。

 

「―――ッ!!?」

 

 ライムは白夜叉に叩き折られた自分の血鎌を眺めて放心する。血鎌だったものは形を保てなくなったのか、ただの血に戻って地面に零れ落ちた。

 放心しているライムのこめかみめがけて蹴りを叩き込もうとする白夜叉。が、寸前でライムは白夜叉の蹴りを後方に跳ぶこと回避した。

 白夜叉は、今の状態でよく躱したな、とライムに感心する。一方のライムは、怒りの表情で白夜叉を睨み付けて吼えた。

 

「よくも………よくもワタシのカワイい()をコワしたなあ!ユルさない!ゼッタイにアナタをクってやるっ!」

 

 そう言ってライムは、両手の指から鋭い爪を生やすと、自分の両脇腹に突き刺した。

 その行為に誰もが驚き、気でも触れたか、と思った。自分の体を傷つける行為は、とてもじゃないが正気とは思えないからだ。

 白夜叉は驚きの表情から怪訝な顔に変えてライムを見て訊いた。

 

「真祖の小娘、おんしは一体何をしておる?」

 

「クフ、クフフフ!それをイマからミせてあげる!」

 

 狂喜に嗤うライムは、両脇腹に突き刺していた鋭い爪を勢いよく引き抜く。そんなことをすれば当然、傷口から大量の血が噴き出し流れ落ちるに決まっている。

 しかしその傷口は瞬く間に塞がっていき、両脇腹の刺し傷は完全に癒えて消えていた。ライムの足元に血溜まりを残して。

 白夜叉がその血溜まりに目を向けた瞬間―――ズルルル、とまるで生き物のように血溜まりが蠢き出した。

 

「何だ、それは………?」

 

「クフフ!シロヤシャはカミサマだからシってるよね?キュウケツキのスガタはヒトガタイガイにもソンザイしてるってコトを!」

 

 ライムの言葉にハッと思い出す白夜叉。〝箱庭の騎士〟と違って、外界の吸血鬼の姿は人間のようなものだけでなく―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()も存在していたということを。

 

「………まさか、それは」

 

「クフフ!そうよ。シロヤシャのオモってるトオり、この血塊()タチもワタシのカワイいブンシンタチよ♪」

 

 異形な血塊(モノ)を一つ拾い上げて、子供を愛でる母のように優しく撫でるライム。

 白夜叉はいよいよもって、この真祖の小娘が気味悪く思えてきた。これはこの真祖の小娘を更正してやった方がいいかもしれない。

 ライムはクフフと嗤いながら、自分の流した血塊(ブンシン)達に命令を下した。

 

「さあ、ワタシのカワイい血塊(ブンシン)タチ!シロヤシャのウゴきをフウじてきて!」

 

 血塊達は頷いたように一瞬形を歪に変化させると、白夜叉めがけて一斉に飛びかかった。

 白夜叉はそれらを一瞥したのち、扇を広げて軽く一振りする。たったそれだけで巨大な竜巻が発生し、ライムの分身達を呑み込むと細切れに引き裂いていく。

 

「………ふん」

 

 白夜叉がもう一度扇を振るうと、発生していた巨大竜巻は嘘のように勢いを衰え、やがて完全に消滅した。

 巨大竜巻が消滅したところには、ライムの分身達の姿はなく、文字通り跡形もなく消えていた。

 

「………ぁ、」

 

 ライムは自分の分身達を失い、あまりのショックに膝を折りそのまま俯いた状態で座り込んだ。

 そんなライムを見下ろして、勝負あったの、と白夜叉は思った。が、ライムはユラリと立ち上がると、憤怒の瞳で白夜叉を睨み付けて言った。

 

「ニドもワタシのカワイいコタチを………ユルさないユルさないユルさない!アナタなんか、クいコロしてやるっ!!」

 

 ライムは鋭い牙を剥き出しにして叫ぶと、自分の右腕にその牙を突き立て噛み裂く。宙に舞った血飛沫は彼女の左手に集まっていき、それはやがて巨大な赤黒い鎌を形作った。

 右腕の傷口は既に塞がっていた。まるで必要な分しか血を流さないように。

 ライムは両手で血鎌を握り締めると、仕上げに自分の唇を噛み切って溢れ出たその血を飲んだ。自分の血を飲んだところで、人間の生き血を啜った時のと比べたら大して強化されないが、この際は我慢するしかない。

 そしてライムは、今出せる最高速度で白夜叉に突っ込んだ。その速度は超音速を超えて、極超音速(ハイパーソニック)へと至っていた。

 音速の七倍で白夜叉に接近し、同速で鎌を彼女に振り下ろすライム。だがライムの鎌は白夜叉に当たることはなかった。

 

「………カフッ!」

 

 ライムは口から血を吐き出しながら地面に倒れ込む。血で滲んだ腹を押さえて苦悶の表情をした。

 ライムは激痛に苛まれた腹を押さえながら、ゆっくりと顔を上げて自分の鎌を見る。するとその鎌は―――柄だけを残して地面に転がっていた。刃の部分はなくなっているのだ。

 あの刹那にも満たない時間、何が起きていたのか。

 白夜叉は極超音速で振り下ろされたライムの鎌の刃を二本の指で受け止めると同時に無理矢理その刃を奪い取り、さらにほとんどタイムラグのない動きでライムの腹を深々と左手で抉るカウンターを決めたあと抜き取り、今に至る。

 白夜叉は鎌の刃がただの血へと戻って地面に零れ落ちたのを確認すると、地面に倒れ伏しているライムに向き直り言った。

 

「もう諦めて降参しろ、真祖の小娘。おんしの腹を刺した時に、再生阻害のギフトを使った。傷が癒えない状態でこれ以上続ければ、命に関わるぞ」

 

「………そう、ねえ。サスガにワタシも、チをナガしスぎてイシキモウロウよ………でも、まだイけるから………アガかせてもらうよ―――っ!」

 

 ライムは最後の悪足掻きで、腹から流した多量の血を鎌に変えると、立ち上がり低い姿勢で駆け出して白夜叉に鎌を振るった。

 だがライムの最後の悪足掻きは虚しく、鎌の刃先は白夜叉の頬に触れる寸前で止まり………鎌は血へと戻って地面に零れ落ちた。そしてライム自身も力無く崩れ落ちて地面に倒れ伏し動かなくなってしまった。

 白夜叉は、やれやれと肩を竦ませると、しゃがみ込んで気を失ってしまったライムの金髪を優しく撫でて言った。

 

「ふふ、無茶をしおって。そこまでして、あの娘の期待に応えたかったのかの」

 

 あの娘というのは、春日部耀のことだ。仮令(たとえ)豹変したとしても、耀の為に試練をクリアしたかったようだ。

 とはいえこのゲームは戦闘不能でクリア条件を満たせなくなったため、ライムの敗北、白夜叉の勝利に決定したのだった。

 

 

「ライム………!」

 

 ギフトゲーム終了後、いの一番に耀が三毛猫と共に白夜叉が介抱しているライムの下へ駆け寄った。

 白夜叉に膝枕されているライムは、スースーと寝息を立てていた。腹の傷も治っていた。再生阻害のギフトを解除したからだろう。

 それを確認した耀は、ホッと胸を撫で下ろす。ライムはあれだけ血を流していたのに平気だったので幸いした。

 耀達に続いて飛鳥、黒ウサギ、十六夜の順でライムの下へ駆け寄る。

 

「白夜叉!ライムさんは無事なの!?」

 

「ああ。平気だよ」

 

「本当にライムさんは大丈夫でございますか!?幾ら吸血鬼の真祖といえど、あの出血量は致命的なはずです!」

 

「………まあ、そうだの。こやつは眠っておるが、目を覚ますには血が足らんだろな」

 

 白夜叉が困ったようにポリポリと頭を掻く。そんな、と口元を押さえて青ざめる飛鳥と黒ウサギ。

 吸血鬼の生命の源は血だ。血が足りなければ活動することが出来ない。それが仮令真祖であっても。

 十六夜は無言で眠っているライムを見下ろす。雰囲気は元の真祖ロリに戻っているようだ。

 すると突然、耀が自分の親指を噛み切りライムの口元に血が滲み出たその指を近づけた。

 耀の行動をぎょっと目を剥いた黒ウサギが慌てて止めに入った。

 

「な、何をするつもりですか耀さん!?まさか、御自分の血をライムさんに飲ませる気じゃ………!」

 

「離して黒ウサギ!ライムを目覚めさせるには血が必要なんでしょ?だったら私の血を飲ませれば」

 

「駄目です!ライムさんは吸血鬼………それも真祖なんですよ!彼女に噛まれたら耀さんは………吸血鬼になってしまうんですよ!?」

 

 耀の愚行を必死に止める黒ウサギ。しかし耀は覚悟を決めたような瞳で黒ウサギを見返して言った。

 

「構わない」

 

「………え?」

 

「私は、吸血鬼になっても構わない。私の血でライムを救えるなら………人間なんてやめてやる!」

 

「なっ―――!?」

 

 黒ウサギは絶句した。友達を救えるなら人間をやめる。決して簡単に決断出来ることではないはずの行為を、耀は言ってのけたのだ。

 耀がそこまでしてまでライムを救おうとしている。耀にとってライムは、よほど失いたくない存在なのだと理解した。

 そんな耀に飛鳥が最終確認するように問いただした。

 

「春日部さん!本当に後悔はない?無理してるなら、代わりに私が」

 

「大丈夫だよ、飛鳥。心配してくれてありがとう。けど、私は決めたから。飛鳥が代わりにやる必要はない」

 

「………そう。春日部さんが平気なら、私から言うことはないわ。本当は止めたいけれど………止めても無駄よね?」

 

「うん」

 

 迷いのない返事をする耀。飛鳥は、分かったわ、と頷くと耀を優しく抱き締めて告げた。

 

「春日部さん、これだけは言わせてもらうわ。仮令貴女が吸血鬼になっても………貴女は私の大切な友達だから」

 

「飛鳥………!うん。私も、吸血鬼になっても、飛鳥と友達」

 

 抱き合う飛鳥と耀。仮令種族が変わっても、私達の絆は決して消えない。それが仮令出逢って間もない小さな絆だとしても。

 ずっと友達だと誓い合った飛鳥と耀は、離れて耀はライムに血を与える準備を、飛鳥はそれを見守る。

 しかし一人、黒ウサギだけは納得出来ないと耀の愚行を止める。

 

「愚かな真似はやめてください耀さん!ライムさんに増血を施せばまだ助かるかもしれません!」

 

「そうだぞ娘。今回の件は私に責任があるからな。血なら私が輸血用パックの血を至急手配する。その血を飲ませれば」

 

「駄目。そんな血じゃライムが可哀想。そんなものを飲ませるくらいなら、私の生き血をあげた方がマシ」

 

 黒ウサギと白夜叉の言葉に耳を貸さない耀。そればかりか、邪魔しないでと二人を睨む耀。

 それでも諦めきれない黒ウサギは耀に待ったをかけようとし、それを十六夜が黒ウサギの肩を掴んで止めた。

 

「くどいぜ、黒ウサギ。春日部本人が良いって言ってんだから、好きにやらせろよ」

 

「い、十六夜さん!?なんて無責任な」

 

「それよりも、だ春日部。オマエ………何か一つ、重大な問題を見落としてねえか?」

 

「え?重大なこと?」

 

 耀が小首を傾げると、十六夜は黒ウサギを無視して耀に言った。

 

「春日部は真祖ロリを助ける為に血を与える、って言ったな?けど肝心のコイツが、オマエの血をすんなり受け入れると思うか?」

 

「………!?」

 

「俺は思わない。オマエがよくても、コイツはきっと拒絶するだろうからな。オマエのことを傷つけたくない、吸血鬼(バケモノ)に変えたくない………そんな想いがあるだろうコイツに自分の血を吸わせる為に、オマエはどうやって説得するつもりだ?」

 

「……………っ、」

 

 十六夜の言葉を聞いてハッと重大な事に気づく耀。そうだ、私がよくても、ライムが〝(YES)〟と答えてくれる保証はないに等しい。ライムの気持ちを考えてなかった。

 ………でも、私は覚悟を決めたし、今さら引くつもりもない。大丈夫、私の想いを伝えればライムだって分かってくれるはず。

 

「大丈夫だよ、十六夜。私に、考えがある。だから、やらせて?」

 

「へえ?ならお手並み拝見させてもらおうかな」

 

 十六夜がニヤリと笑って耀を見つめる。耀はコクッと頷いて再びライムに向き直ると、血を滲ませている親指をライムの口元へ近づけた。

 

 

 ―――不意に、甘くて愛おしい血の匂いがした。わたしが大好きな子供の、穢れなき純潔な血の匂いが。

 血が足りなくて本来目を覚ますことも出来ないはずのわたしの肉体は覚醒したように活動を再開して、薄っすらと目を開けた。

 映ったのは、小さな親指。その指からは紅い血が滲み出ている。ああ、わたしが嗅いだ匂いはこの指から出た血か。

 その血を見ていたら、急に喉が渇いて、誰かの手を掴むと、その親指を―――あむっ、と口に咥えて舌を使い血を舐める。

 

「―――っ!!く、くすぐったいよライム………!」

 

 すると突然、聞き覚えのある声がわたしの耳に届いた。………この声、ついさっき聞いたような声だ。いつだっけ?たしか白夜叉の試練を受ける前に、わたしを励ましてくれた―――ッ!?

 ハッと目を見開いてわたしはその人物を見つめ………固まった。その人物は耀だったからだ。

 

「よ、耀!?」

 

 わたしは驚いて掴んでいた耀の手を離す。が、耀はわたしの口元に親指を突き出してきた。

 

「駄目。血、足りないんでしょ?もっと飲んで」

 

 わたしは首を横に振る。けど視界に映る血を、吸血鬼の本能が欲していた。

 

「どうして飲んでくれないの?私の血じゃ、駄目なの」

 

 わたしは首を横に振る。駄目じゃない。駄目じゃない、けど………わたしは耀を傷つけたくないの!

 

「駄目じゃないんだ………よかった。なら、私の生き血を飲んで。ライムは今、辛いんだよね?」

 

 わたしは首を横に振る。辛い………辛いけど、それだけは駄目!わたしは、あなたを、吸血鬼に―――化け物にしたくないの!

 

「嘘をついても駄目。私には分かるもの。本当は貴女は、人間の生き血が欲しくて欲しくて堪らないんだって」

 

 わたしは首を横に振る。やめて!言わないで!そんなこと言われたら………ホしくなっちゃうッ!

 

「………いいよ。来て、ライム。私の生き血、飲んで。私は貴女を、拒んだりしないから」

 

 ドクン、と胸が高鳴った。………あ、駄目………受け入れないで、耀!このままじゃ………ワタシのホンノウが、トまらなくなっちゃう―――ッ!!

 

「………ライム?どうし―――きゃ!」

 

 気がつけばワタシは、耀を引き寄せていた。そしてワタシは、耀の首筋に舌を這わせた。

 

「ひゃ!ちょ、ライム!?」

 

「オロかなコね、カスカベヨウ。セッカク、リセイをタモっていたのに………アナタのせいでワタシが、キュウケツキとしてのホンノウがカンゼンにメザめちゃったじゃない」

 

 クフフとワタシが嗤うと、耀は―――待っていたとばかりに笑った。

 

「うん。わざとだよ。貴女なら、躊躇わずに私の生き血を飲んでくれると思ったから」

 

「………ホントウにいいの?ワタシにチをスわれたモノは、カクジツにキュウケツキになるのよ?それをアナタは、ウけイれられる?」

 

「うん。覚悟なら、とっくに出来てるから」

 

 即答だった。流石のワタシも驚いた。簡単に人間を捨てられるはずはないけど………耀はワタシを受け入れた。なら、やることは一つしかない。

 

「バカなコね、カスカベヨウ。………クフフ、コウカイしても、もうシらないから」

 

「………うん」

 

 耀は静かに頷いた。そしてワタシは、渇きを癒やす為に耀の首筋に白くて鋭い長い牙を突き立てた。

 

「………痛っ!」

 

「ん………」

 

 ワタシは耀の生き血を啜り始めた。ああ、やっぱりコドモのイきチはイツノんでもビミね!オトナのケガれたチなんかとは、クラべモノにならないよ!

 耀の血は美味しい。美味しいけど、どうしてかな………涙が溢れ出てきて止まらないよぅ………

 

「泣かないで。私が決めたことだから。私が………望んだことだから」

 

「………ッ!……………ッ!!」

 

 わたしは泣きながら耀の、大切な友達の生き血を啜った。そんなわたしを、耀は優しく抱き締めてくれた。それから泣いている子供をあやすように、頭を優しく撫でてくれた。

 ………暫くして、吸血行為を済ませたわたしは、牙を抜き取って耀を見た。

 

「………耀、大丈夫!?身体に、異変は起きてない!?」

 

「………うん、何ともないよ。私は吸血鬼に、ならなかったみたい」

 

「よがっだ………!」

 

「きゃ!」

 

 泣きながら抱きつくわたしに驚く耀。よかった!本当によかった!どうして耀が真祖(わたし)の血に抗えたのかは分からないけど………何ともなくて本当に、よかった!

 

「………ライム、さっきから泣いてばっかり。本当は泣き虫なの?」

 

「え?」

 

「それに喋り方も変だよ。いつもの口調と全然違うみたいだけど」

 

「―――ハッ!?」

 

 しまった!わたしとしたことが、感情的になりすぎて口調があの頃の喋り方になってる!

 早急に口調を戻さないと―――!ん、んんっ!わ、我は吸血鬼の真祖だ!控えよ人間!………うむ、これでよし!

 

「き、気のせいだぞ耀!最初から我の口調は変わってなどおらぬよ!ふっははははは!」

 

「………そう?ならいいけど」

 

 耀は小首を傾げて不思議そうな顔をしたが、どうやら納得してくれたらしい。………危なかった。もう少しでわたしの秘密がバレるところだった!

 ―――真祖らしくないから口調を変えてました!………なんて秘密がバレたら、絶対に弄られたと思うから。特に十六夜あたりに。

 まあ、それは置いておいて。耀が吸血鬼化しなくて本当によかった!あ、でも痛い思いさせちゃったね………ごめんなさい。

 わたしは心の中で安堵と謝罪をしたのだった。




ライム(狂気バージョン)の速度、音速の七倍って速すぎたかな?神格なしの純血の吸血鬼であるレティシアが音速で槍投げてたから真祖の神格なしはこれくらいは出せるんじゃないかなという私の勝手な妄想です(^_^;)

あ、ちなみにライム(狂気バージョン)の最高速度は血の残量で変化します。
無傷+耀の血で、最高速度は音速の十倍。十六夜の五分の一。
逆に瀕死寸前は、最高速度は音速の七倍。十六夜の七分の一。

十六夜は第三宇宙速度で動けるから、音速の四十九倍………早ッ!?殺○んせーもびっくり!Σ( ̄□ ̄;)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。