問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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やっと投稿。遅くなってすみません。
主にゲームばっかやってたせいなんですが(・・;)
あとインフルで死んでた………

今回は………十六夜がメインですね、はい(^_^;)


二十一話 ペルセウス戦【後】

 狂喜な嗤い声を上げるライム。近くにいた姿の見えない十六夜が彼女を観察して思う。

 

「(真祖ロリは春日部を傷つけられてご立腹だったな。………だが、()()()からはそんな感情は伝わってこねえ。どういうことだ?それに、完全解放ってのも気になる。白夜叉との戦いの時と何が違うんだ?)」

 

 そう。ツインテールに結っていたリボンを解いて髪を下ろし豹変したライムからは、不可視の騎士への怒りは失せているのだ。それどころか食気に変わっている。今のライムは、姿だけライムで中身は別人だというのか。

 それに、完全解放の意味も気になる。まだ見せていない真祖の能力でもあるというのか、と十六夜が思っていると、ライムの姿をした〝ソレ〟はすんすんと鼻をひくつかせ、

 

「アァ!オイしそうなニオいがミッつもあるわ!クらいたいクらいたいクらいたい―――!!!」

 

「(………三つってことは俺と春日部、御チビ様の三人のことを言ってるんだよな?流石に本物の不可視の兜を使ってる奴は含まれてないはずだ)」

 

 その辺で気を失っている騎士達や不可視の騎士ではなく、子供の血を欲するライムが求めている者を自分達と判断する十六夜。それよりも、どこに敵が潜んでるのかも分からないこの状況で呑気な奴だな、と十六夜は苦笑した。

 一方、不可視の騎士―――ルイオスの側近の男は、真祖を前に警戒を強めていた。いくら居場所がバレていなくとも相手は格上の真祖。油断ならぬ敵だ。慎重に食気ライムの出方を窺う。

 食気ライムは、美味しそうな子供達(獲物)を前に涎を垂らしていたが、口元を拭って首を振った。

 

「いけないいけない。ゴチソウは()()()()()にして………サキにマズいエモノをクいコロさないとね」

 

「(あん?()()()にだと?)」

 

 食気ライムの発言に眉を寄せる十六夜。今の発言は聞き捨てならない。コイツは俺達も食うつもりか?だとしたら、コイツと戦わないといけないかもしれないな。

 十六夜が食気ライムを睨むと、彼女はその視線に気付いたように振り返って狂喜に嗤う。

 

「ワタシとヤりたいの、サカマキイザヨイ?ならアトでクらってあげるからマってなさい」

 

「(へえ?コイツ、俺の居場所が分かるのか。春日部と同じでレプリカは看破できるみてえだな。ま、アンタに食われてやるつもりはないが)」

 

「あらムシ?………まあ、いいけど」

 

「(別に無視してるわけじゃねえよ。声を出したら居場所がバレる可能性があるからなんだがな)」

 

 何せ向こうは本物を被って気配が全く分からないからな、と十六夜は内心で呟く。

 食気ライムは、姿の見えない十六夜に背を向けると、手に鋭い爪を生やして自分の腕を躊躇なく切り裂いた。切り口から噴き出した血は宙を舞い、やがて一振りの大鎌へと形作られていった。それを手に取って構え、

 

「さあ、いつでもカカってキなさい。クいコロしてあげるわ!」

 

「……………」

 

 それに不可視の側近は鉄槌を構えて、食気ライムに亜音速で突っ込んだ。足音も、攻撃すら感知不可の一撃を―――彼女の脳天に振り下ろす。

 

 

「(焼き砕け、〝治阻の雷槌〟!!)」

 

 

 不可視の側近が振るった吸血鬼の治癒能力を、再生能力を阻害する雷の鉄槌が、食気ライムの頭蓋を叩きのめした。

 

「ガッ!?」

 

 全身を襲った雷に撃たれたかのような焼かれた激痛と、鈍器で殴られた凄まじい衝撃を脳天に受けて苦悶の声を上げる食気ライム。ふらつき、立っていられなくなったのか片膝を床に突く。

 その隙に不可視の側近は、追撃の一閃を振り下ろして―――ズドドドドドッ!

 

「―――ぐぅ!?」

 

 ―――突如、食気ライムの()()()()()()()()()()()()が、不可視の側近の全身を極超音速で刺し貫いた。

 心臓と首から上の部位は無事だったが、手足や他の臓器は血の棘に貫かれ、見やるまでもなく重傷だった。血の棘達がただの血になって食気ライムの体内に戻っていくと、不可視の側近の体に出来た無数の刺し傷から大量の血を噴き出した。

 

「ガハッ!!?」

 

 不可視の側近は口から大量の血を吐き出すと、その体は床に崩れ落ち、兜が彼の頭から取れて姿を現した。兜は床に転がり落ち、姿の見えない十六夜の足元で止まる。

 十六夜はその兜を拾い上げて、ついた側近の血を手で拭い取る。そして食気ライムに視線を戻す。

 

「(なんだ、さっきのは。アイツの頭から流れ出た血が、まるで武器みたいに鋭い棘に変幻したぞ。武器は鎌だけじゃなかったのか?いやそれよりも、血に戻って体内に還っていったな。どういう仕組みだオイ)」

 

 白夜叉との戦いでは血が還っていく現象など起こらなかった。白夜叉の再生阻害が原因か。それとも、この能力は完全解放しないと使えないものだったりするのか。

 十六夜が考察していると、クフフフと狂喜な嗤い声を上げた食気ライムが瀕死の側近に血鎌を向けていた。

 

「アナタをクらうシュミはないけど………ワタシのイきるカテになるといいわ!」

 

「………ッ!!?」

 

 動けない側近めがけて血鎌を振り下ろす食気ライム。食らうのは彼の肉ではなく、血の方らしい。血鎌は切った対象の血を食らえるのだから。

 しかし血鎌は側近を切り裂くことはできなかった。―――姿の見えない十六夜がその刃先を受け止めたことによって。

 

「おっと、そこまでにしな。兜は手に入ったんだ、もう戦う必要はない。つかなにも殺すことねえだろ。俺達の勝利条件はルイオスの打倒なんだからな」

 

「………ジャマしないでくれる?サカマキイザヨイ。それとも、サキにクいコロされたいの?」

 

「あん?」

 

「クフフフ、いいわ。それならサキにクいコロしてあげる!」

 

 姿の見えない十六夜を睨みつけた食気ライムは、血鎌を振り上げ、極超音速で十六夜の首を切り落としにかかった。この時の速度は音速の十倍に達していた。

 十六夜はそれを難なく躱して、それを軽く凌駕する速度で食気ライムの背後に回り胸―――ではなく、首の後ろに手刀を叩き込んだ。早いところ眠らさないと耀達が危険だと悟ったからだ。

 

「ギッ!?」

 

 食気ライムは、十六夜の手刀をまともに食らって意識が飛びかけるが、彼を食い殺したい想いが強かったのか、倒れずに姿の見えない十六夜に勢いよく振り返り、そのまま極超音速で再び切りかかる。

 十六夜は、チッと舌打ちしてそれを躱し、

 

「(………ちょっと痛いかもしれないが、我慢しろよ!)」

 

 食気ライムの鳩尾を殴りつけた。

 

「―――ッ!!!?」

 

 食気ライムは、悲鳴を上げる間もなく第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。彼女を中心に巨大なクレーターを作り、真っ赤な―――血の花が咲いた。

 十六夜はそれを見て、もう少し加減するべきだったかな、と内心で呟く。真祖の彼女がこの程度で死ぬとは思えないが、これはいくらなんでもやり過ぎたと言っていいだろう。

 十六夜は生死を確認するべく、自身が作ったクレーターの中心にいる全身血塗れの食気ライムに歩み寄ってみると、

 

「………ぅ、」

 

 小さな呻き声と共に、紅い紅い瞳が十六夜に向けられた。

 

「………ぁら?わざわざ、アナタか、らクわれに、クるなんて、オロかな、コねえ」

 

「ハッ、何だよ。心配して来てみりゃ全然元気そうじゃねえか。虚勢も張れるみたいだしな」

 

「………キョセイか、どうか、タメしてみる?」

 

「へえ?なら、来いよ。少しだけなら遊んでやってもいいぜ」

 

 カッ、と笑って構える十六夜。しかし、食気ライムは狂喜に嗤って、首を横に振った。

 

「クフフフ………ジョウダンよ。ワタシに、タタカう、チカラは、ノコって、ないわ。チをナくしスぎて、とてもウゴける、ジョウタイじゃ、ないもの」

 

「ふうん?」

 

「それにしても、アナタ、ってホントウに、ニンゲン?たったの、イチゲキで、セントウフノウに、されるなんて、オモいもしな、かったわ」

 

「生粋の人間様だが?」

 

 ヤハハと笑う十六夜。食気ライムは呆れたような表情を見せたが、クフフと嗤って、

 

「………それだけ、デタラメな、チカラがある、アナタは………クらったら、さぞオイしい、だろうねえ」

 

「ん?」

 

「………クフフフ、なんでも、ないわ。タダのヒトりゴトよ。………ワタシは、ツカれたから、もうネるわね。じゃあね、サカマキイザヨイ」

 

 食気ライムは、それだけを言い残すと、眠りにつくように目を閉じて動かなくなった。それが合図だったのか、辺りに飛び散った血が吸い込まれるようにライムの傷口から体内へと入っていき、壁や床に付いていた血の痕が綺麗に無くなっていった。

 それだけじゃない。おろしていた髪も、封印解除前のツインテールに戻っていた。無意識に結い直したわけでもなく、食気ライムが眠りについたあとすぐ、そうなったのだ。まるで自動的に再封印されたかのように。

 

「……………」

 

 だが、今は優先すべきことがあるため、深く考えることは後回しにした十六夜は、あっという間に再生が完了したライムを抱き上げると、耀の隣に凭れかけさせた。仕上げに、恋人繋ぎで手を繋がせて、

 

「これでよし。さて、御チビ様を連れて野郎をぶちのめしに行きますか」

 

 二人が起きた時の反応を想像しながら笑いを噛み殺した十六夜は、血を失い過ぎて気絶したルイオスの側近が被っていた本物をジンに被せて先を急いだ。

 

 

 ハデスの兜のレプリカを被る姿の見えない十六夜と本物を被るジンは、白亜の宮殿を真っ直ぐ突き進んで最奥、最上階に着く。最奥に天井はなく、まるで闘技場のように簡素な造りだった。

 

「十六夜さん、ジン坊っちゃん………!」

 

 最上階で待っていた黒ウサギは安堵したように二人の姿を確かめて溜め息を漏らす。

 眼前に開けた闘技場の上空を見上げると、見下ろす人影があった。

 

「―――ふん。ホントに使えない奴ら。今回の一件で纏めて粛清しないと」

 

 空に浮かぶ人影―――ルイオスは、膝までを覆うロングブーツから光り輝く対の翼で浮遊しながら吐き捨てる。

 

「まあでも、これでこのコミュニティが誰のお陰で存続出来ているのか分かっただろうね。自分達の無能っぷりを省みてもらうにはいい切っ掛けだったかな」

 

 バサッと翼が羽ばたく。たった一度の羽ばたきでルイオスは風を追い抜き、落下速度の数十倍の勢いで十六夜達の前に降り立った。

 

「なにはともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう―――じゃないね」

 

 ルイオスは突如、にこりと十六夜を見つめた。

 

「途中で失格にならなくて残念だったね。ま、僕としては君が失格にならなくてありがたい限りだけど。だって、」

 

 ふっと笑みを消して、ルイオスは憤怒の炎を燃やした瞳で十六夜を鋭く睨み、

 

「―――僕が貴様を、心置きなく殺すことが出来るんだからなッ!!!」

 

 怒号と共に、懐から取り出した〝ゴーゴンの首〟の紋が入ったギフトカードから鎌のギフト・ハルパーを取り出し、十六夜に斬りかかってきた。

 

「な、十六夜さん!?」

 

 ルイオスの不意打ちに焦る黒ウサギとジン。しかし、十六夜はその不意打ちを難なく足で受け止め、

 

「おいおい、そんなに慌てなくてもお前の相手をしてやるって」

 

 笑って鎌ごとルイオスを蹴り飛ばす。ルイオスは堪らず後方に吹き飛ばされるが、体勢を立て直して十六夜を睨み付ける。

 

「はは、僕としたことが。あまりにムカつく面だったから不意打ちで殺すところだったよ」

 

 そう言いながらも、内心で不意打ちの失敗に舌打ちするルイオス。名無し風情に不意打ちをすることこそ恥だが、なにより失敗したことが腹立たしかった。

 だが、ここで冷静にならねば敵の思うツボだ。ルイオスは、怒りを沈めて天へと舞い上がると、首にかかったチョーカーを外し、付属している装飾を掲げた。

 

「貴様を殺すのは、僕と―――()()()だからね」

 

「っ………!!」

 

 ルイオスが掲げたそれを見て、黒ウサギが焦り始める。もしも彼女の想像通りならば、ルイオスの持つギフトはギリシャ神話の神々に匹敵するほど凶悪なギフトだろう。

 ルイオスの掲げたギフトが光り始める。星の光のようにも見間違う光の波は、強弱を付けながら一つ一つ封印を解いていく。

 十六夜はジンを背後に庇い、臨戦態勢に入る。

 光が一層強くなり、ルイオスは獰猛な表情で叫んだ。

 

 

「目覚めろ―――〝アルゴールの魔王〟!!」

 

 

 光は褐色に染まり、三人の視界を染めていく。

 白亜の宮殿に共鳴するかのような甲高い女の声が響き渡った。

 

「ra………Ra、GEEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!!」

 

 それは最早、人の言語野で理解できる叫びではなかった。

 冒頭こそ謳うような声であったが、それさえも中枢を狂わせるほどの不協和音だ。

 現れた女は体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立たせて叫び続ける。女は両腕を拘束するベルトを引き千切り、半身を反らせて更なる絶叫を上げた。

 黒ウサギは堪らずウサ耳を塞ぐ。

 

「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」

 

「な、なんて絶叫を」

 

「避けろ、黒ウサギ!!」

 

「えっ、」

 

 唐突な十六夜の叫び声に硬直する黒ウサギ。十六夜は黒ウサギとジンを抱きかかえるように跳び退いた。

 直後、空から巨大な岩塊が山のように落下してきたのだ。二度三度と続く落石を避ける十六夜達を見てルイオスは高らかに嘲った。

 

「いやあ、飛べない人間って不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから」

 

「く、雲ですって………!?」

 

 ハッと外に目をやる。雲が落下しているのはこの闘技場の上だけではない。〝アルゴールの魔王〟と呼ばれた女の力は、このギフトゲームに用意された世界全てに対して石化を放ったのだ。

 瞬時に世界を満たすほどの光を放出した女の名を、黒ウサギは戦慄と共に口にする。

 

「星霊・アルゴール………!白夜叉様と同じく、星霊の悪魔………!!」

 

 ―――〝アルゴル〟とはアラビア語でラス・アル・グルを語源とする、〝悪魔の頭〟という意味を持つ星のことだ。同時にペルセウス座で〝ゴーゴンの首〟に位置する恒星でもある。

 ゴーゴンの魔力である石化を備えているのはそういう経緯があるのだろう。

 一つの星の名を背負う大悪魔。箱庭最強種の一角、〝星霊〟がペルセウスの切り札だった。

 

「今頃は君らのお仲間も部下も全員石になっているだろうさ。ま、無能にはいい体罰かな」

 

 不敵に笑うルイオス。だが次の瞬間にはその顔は凶悪なものに歪み、

 

「こっちの準備は整ったし………早速始めようか!ソイツを血祭りに上げろ、アルゴール!!」

 

「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」

 

 問答無用の開戦。ルイオスの命令を受けたアルゴールが、傷だらけの灰翼で舞い、十六夜に猛スピードで襲い掛かってきた。

 

「チッ。おい御チビ、お前は下がっとけ。奴らは俺を殺したくて仕方がないらしいから―――な!」

 

 そう言いながら、突っ込んできたアルゴールの顔面に拳を叩き込んだ。

 

「GYAAAAAaaaaaaa!!?」

 

 十六夜の拳をまともに食らったアルゴールは、悲鳴のような声を上げながら後方に吹き飛んだ。

 その光景に、唖然とするジンと黒ウサギ。ルイオスも一瞬ポカンと口を開けて呆けていたが、

 

「………ま、まぐれだ!もう一度行け、アルゴール!!」

 

「Ra、GEEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!!」

 

 ルイオスは再度命令し、起き上がったアルゴールがもう一度十六夜に特攻を仕掛け、

 

「ヤハハ、気合いは十分ってか?けど、」

 

 軽薄な笑いで容易く躱されて、

 

「気合い入ってるわりには、遅えよ―――オラァ!!」

 

 アルゴールの懐に潜り込んだ十六夜は、腹部に強烈な一撃をお見舞いした。拳ではなく、蹴りである。

 

「Gyaッ!!?」

 

 空中高く蹴り上げられたアルゴールは、

 

「はっ!?ちょっ、こっちくん―――ぎゃあ!?」

 

 同じく空中にいたルイオスに衝突し、揃って闘技場の上に落下した。そんなルイオスを十六夜が見下ろして、

 

「どうした?翼があるのに、あの程度も避けれねえのか?」

 

「………ッ、貴様ッ!!」

 

 すぐに起き上がったルイオスは、怒りのままにハルパーを十六夜に振り翳すが、

 

「カッ、遅え」

 

 十六夜は難なくその柄を掴み取って、ルイオスごと投げ飛ばし、

 

「ガッ!?」

 

「Gya………!」

 

 闘技場で倒れていたアルゴールの上に叩きつけた。

 ルイオスはあまりのデタラメっぷりに、体を起こしながら狼狽して叫ぶ。

 

「き………貴様、本当に人間か!?一体どんなギフトを持っている!?」

 

「ギフトネーム・〝正体不明(コード・アンノウン)〟―――ん、悪いな。これじゃ分からないか」

 

 飄々と肩を竦ませて笑う十六夜。余裕を見せる十六夜の背中を見てジンが慌てて叫んだ。

 

「い、今のうちにトドメを!石化のギフトを使わせては駄目です!」

 

 星霊アルゴールの本領は、身体能力と別のところにある。

 世界を石化させるほどの強力な呪いの光こそ、彼女の本領なのだ。

 だが、ルイオスは、それは最後の切り札として残しておいて、

 

「アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!奴を殺せ!」

 

「RaAAaaa!!LaAAAA!!」

 

 謳うような不協和音が世界に響く。途端に白亜の宮殿は黒く染まり、壁は生き物のように脈を打つ。宮殿全域にまで広がった黒い染みから、蛇の形を模した石柱が数多に襲う。

 十六夜は避けながら思い出したように呟く。

 

「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」

 

 ゴーゴンには様々な魔獣を生み出した伝説がある。

 そもそも〝星霊〟とは与える側の種でもあるのだ。今や白亜の宮殿は魔宮と化している。

 ルイオスは十六夜を鋭く睨みながら吼えた。

 

「この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ!貴様には足場一つ許されていない!貴様らの相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの!このギフトゲームの舞台に、貴様らの逃げ場は無いものと知れッ!!!これで貴様も終わりだッ!!」

 

 ルイオスの絶叫と、魔王の謳うような不協和音。

 それに合わせて変幻する魔宮は白亜の外壁を、柱を、蛇蠍の如き姿に変えて襲いかかり、十六夜の体を覆う。千の蛇に呑み込まれた十六夜は、その中心でボソリと呟いた。

 

 

「―――……そうかい。つまり、この宮殿ごと壊せばいいんだな?」

 

 

「「え?」」

 

 にべもなく応える。ジンと黒ウサギは、嫌な予感がした。

 十六夜は無造作に上げた拳を、黒く染まった魔宮に向かって振り下ろした。

 千の蛇蠍は一斉に砕け、十六夜の周囲から霧散する。直後に宮殿全域が震え、闘技場が崩壊し、瓦礫は四階に落下した。

 

「わ、わわ!」

 

「ジン坊っちゃん!」

 

 崩壊に巻き込まれそうになったジンを黒ウサギが受け止める。翼を持つルイオス達は上空に逃げていたが、その惨状に息を呑んでいた。

 この闘技場は宮殿内と違い、常時防備用の結界が張られている。それこそ山を打ち砕くほどの力がなければ、この最上階を崩壊させる事など出来ないはずなのだ。

 

「……馬鹿な……どういうことなんだ!?奴の拳は、山河を打ち砕くほどの力があるのか!?」

 

 上空で怒りとも恐怖ともいえる叫びを上げるルイオス。

 残った闘技場を足場から見上げる十六夜は、やや不機嫌そうに声をかけた。

 

「おい、ゲームマスター。これでネタ切れってわけじゃないよな?つか俺を殺すんだろ?まだ五体満足どころか、無傷なんだが?」

 

「………っ、もういい。終わらせろ、アルゴール」

 

 ルイオスは勝てないことを悟り、凶悪な笑顔と共に石化のギフトを解放した。

 アルゴールは謳うような不協和音と共に、褐色の光を放つ。これこそアルゴールを魔王に至らしめた根幹。天地に至る全てを褐色の光で包み、灰色の星へと変えていく星霊の力。

 褐色の光に包まれた十六夜は、真正面からその瞳を捉え―――

 

 

「――――………カッ、ゲームマスターが、今更狡い事してんじゃねえ!!!」

 

 

 褐色の光を、踏み潰した。

 ………比喩はない。他に表現のしようもない。アルゴールの放つ褐色の光は、十六夜の一撃でガラス細工のように砕け散り、影も形もなく吹き飛んだのだ。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 ルイオスが叫ぶ。叫びたくもなるだろう。

 階下から戦況を見守っていたジンと黒ウサギでさえ叫び声を上げていたのだから。

 

「せ、〝星霊〟のギフトを無効化―――いえ、破壊した!?」

 

「あり得ません!あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!?」

 

 白夜叉が〝ありえない〟と結論付けた理由。その二つの恩恵は、相反するギフトのはずなのだ。この神々の箱庭において〝恩恵(ギフト)〟を無効化するものなどさして珍しくはない。だが、それは武具などの形で肉体と別に顕現している物に限る。

 十六夜は他に〝恩恵〟を持っていない。それはギフトカードを見ても明らかだ。

 なのに天地を砕く恩恵と、恩恵を砕く力が両立している事になってしまう。

 だがそんな魂は、絶対にあり得ないはずなのだ。

 

「さあ、続けようぜゲームマスター。〝星霊〟の力はそんなものじゃないだろ?つか俺はこの通りピンピンしてるぜ?」

 

「………っ」

 

 軽薄そうに挑発する十六夜。だがルイオスの戦意はほとんど涸れていた。

〝箱庭の貴族〟は愚か、〝白き夜の魔王〟でさえ知らない出所不明・効果不明・名称不明と三拍子揃った、正真正銘の〝正体不明(コード・アンノウン)〟。

 奇跡を身に宿しながら、奇跡を破壊する矛盾したギフト。

 ルイオスはあり得ない存在を前に当初の怒りなどどこかにいってしまい、呆然としていた。黒ウサギが溜め息混じりに割って入る。

 

「残念ですが、これ以上のものは出てこないと思いますよ?」

 

「何?」

 

「アルゴールが拘束具に繋がれて現れた時点で察するべきでした。………ルイオス様は、星霊を支配するには未熟過ぎるのです」

 

「っ!?」

 

 ルイオスの瞳に灼熱の憤怒が宿る。射殺さんばかりの眼光を放つルイオスだが………否定する声は上がらなかった。黒ウサギの言葉が真実だからだろう。

 

「―――ハッ。所詮は七光と元・魔王様。長所が破られれば打つ手なしってことか」

 

 失望したと吐き捨てる十六夜。これで勝敗は決した。黒ウサギが宣言しようとした、その時―――十六夜は、この上なく凶悪な笑みでルイオスを追い立てた。

 

「ああ、そうだ。もしこのままゲームに負けたら………お前達の旗印。どうなるか分かっているんだろうな?」

 

「な、何?」

 

 不意を突かれたような声を上げるルイオス。それもそうだろう。

 彼らはレティシアを取り戻すために旗印を手に入れるのではなかったのか。

 

「そんなのは後でも出来るだろ?そんなことより、旗印を盾にして即座にもう一度ゲームを申し込む。―――そうだなぁ。次はお前達の名前を戴こうか」

 

 ルイオスの顔から一気に血の気が引いた。

 その時、彼は初めて周囲の惨状に目がいったのだ。砕けた宮殿と、石化した同士達に。

 だが十六夜は一片の慈悲もなく凶悪な笑顔のまま尚も続ける。

 

「その二つを手に入れた後〝ペルセウス〟が箱庭で永遠に活動できないように名も、旗印も、徹底的に貶め続けてやる。たとえお前達が怒ろうが泣こうが喚こうが、コミュニティの存続そのものが出来ないぐらい徹底的に。徹底的にだ。………まあ、それでも必死に縋りついちまうのがコミュニティってものらしいけど?だからこそ貶め甲斐があるってもんだよな?」

 

「や、やめろ………!」

 

 ここで敗北すれば旗印を奪われる。そうなれば〝ペルセウス〟は決闘を断ることは出来ない。ましてやこんな壊滅した状態で戦うなど不可能だ。

 ルイオスは………今になってようわく気が付く。

 自分のコミュニティは今まさに、崩壊の危機に立っているのだと。

 

「そうか。嫌か。―――ならもう方法は一つしかないよな?」

 

 一転して凶悪さを消し、今度はにこやかに笑う十六夜。

 指先で誘うようにルイオスを挑発し、

 

「来いよ、ペルセウス。命懸けで―――俺を楽しませろ」

 

 両手を広げてゲームの続行を促す十六夜。彼はまだまだ遊び足らなかった。自らが招いた組織に直面したルイオスは、覚悟を決めて叫んだ。

 

「負けない………負けられない、負けてたまるか!!奴を倒すぞ、アルゴオォォォル!!」

 

「Ra、GYAAAAAaaaaaaa!!!」

 

 輝く翼と灰色の翼を羽ばたかせ、コミュニティのため、敗北覚悟で二人は十六夜に突っ込んでいったのだった。




子供の血を嗅いで食気ライム暴走。十六夜達も食らう宣言。
食気ライムVSルイオスの側近。食気ライムの予想外の能力に側近撃沈。
食気ライムVS十六夜。たったの二回で十六夜の圧勝。

十六夜VSルイルイ&アルゴール。一方的にボコって十六夜の圧勝。


次回はいよいよ一巻完結。

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