問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

22 / 25
十九話 ペルセウス戦【前】

 ―――二六七四五外門・〝ペルセウス〟本拠。

 約束の一週間後、白亜の宮殿の門を叩いた〝ノーネーム〟一同を迎え、謁見の間で両者は向かい合う。

 ルイオスはにやけた顔で黒ウサギを見たあと、口を開く。

 

「待ってたよ。早く決闘を始めようか」

 

「その事ですが、我々〝ノーネーム〟は、チップの件をお断りにきました」

 

「は?」

 

 予想外の返答に驚きを隠せない。だってそれはつまり、

 

「………あっそ。つまりお前らはあの吸血鬼を見捨てるってことだね」

 

「いいえ、決闘はします。お断りするのはチップの件のみですから。その代わり決闘の方式は〝ペルセウス〟の所持するゲームの中で最も高難度のもので構いません」

 

「はぁ?何言ってんのお前?チップなしだったら決闘受けるわけないじゃん。だからとっとと帰れよ。あーマジうぜえ。期待して待っててこれかよ。趣味じゃねえけど、あの吸血鬼で鬱憤でも晴らそうか。どうせ傷物でも気にしねえような好色家の豚に売り払うんだし―――」

 

 ルイオスの言葉はそこで途切れる。黒ウサギが、ドサッと彼の眼前に巨大な大風呂敷を広げたからだ。

 風呂敷の中からは〝ゴーゴンの首〟の印がある紅と蒼の二つの宝玉が転がり出た。

 それを見て傍で控えていた〝ペルセウス〟の側近達は眼をひん剥いて叫び声を上げる。

 

「こ、これは!!?」

 

「〝ペルセウス〟への挑戦権を示すギフト………!?まさか〝名無し〟風情が、海魔(クラーケン)とグライアイを打倒したというのか!?」

 

 困惑する〝ペルセウス〟一同。本来ならば、挑戦権を得たコミュニティが出た場合、本拠に通達が行くのだが、気がついていなかったらしい。

 しかしそれもそのはず。ここ数日の書類はルイオスの部屋で山積みになっているのだから。

 

「ああ、あの大タコとババアか。そこそこ面白くはあったけど、あれじゃヘビの方がマシだ」

 

 首を竦ませる十六夜。この宝玉は、ペルセウスの伝説に出てくる怪物達をギフトゲームで打倒することにより得られるギフトだ。

 このゲームは力のない最下層のコミュニティにのみ常時開放されている試練で、ペルセウスの武具のレプリカを与えているというもの。様式も調った、立派なギフトゲームである。

〝ペルセウス〟への挑戦権を与えているのは、ペルセウスの伝説を描きつつ、下層のコミュニティの向上心を育てるためのものだったが、ルイオスにそんな立派な志は残っていない。

 ルイオスは宝玉を見つめて、チッと盛大に舌打ちしたあと、十六夜をギロリと睨み、

 

「よくもやってくれたな貴様ッ!!絶対に許さねえッ!!貴様だけは絶対にぶっ殺してやる―――――ッ!!!」

 

「ハッ、やれるもんならやってみろよ。返り討ちにしてやるぜ」

 

 憤慨するルイオスを、不敵な笑みで見返す十六夜。

 ルイオスはその怒りの表情まま黒ウサギ達を鋭く睨み返し吼えた。

 

「貴様らもだッ!チップなしで挑んだことを後悔しろ………ッ!!二度と逆らう気が無くなるぐらい徹底的に………徹底的に潰してやるッ!!!」

 

 それを睨み返し、黒ウサギは宣戦布告する。

 

「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早言葉は不要でしょう。〝ノーネーム〟と〝ペルセウス〟。ギフトゲームにて決着をつけさせていただきます」

 

 

契約書類(ギアスロール)〟文面

 

 

『ギフトゲーム名〝FAIRYTALE in PERSEUS〟

 

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          ライム=ペルセーイス

 ・〝ノーネーム〟ゲームマスター ジン=ラッセル

 ・〝ペルセウス〟ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

 ・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒。

 ・敗北条件  プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。

        プレイヤー側のゲームマスターの失格。

        プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 ・舞台詳細・ルール

  *ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

  *ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

  *ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

  *プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。

  *姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。

  *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝ノーネーム〟はギフトゲームに参加します。

             〝ペルセウス〟印』

 

 

〝契約書類〟に承諾した直後、六人の視界は間を置かずに光へと呑まれた。

 次元の歪みは六人は門前へと追いやり、ギフトゲームへの入り口へと誘う。

 門前に立った十六夜達が不意に振り返る。白亜の宮殿の周辺は箱庭から切り離され、未知の空域を浮かぶ宮殿に変貌していた。ここは最早、箱庭であって箱庭でない場所なのだ。

 

「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

 

 白亜の宮殿を見上げ、胸を躍らせるような声音で十六夜が呟く。その呟きにジンが応える。

 

「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だという事になりますよ。流石にそこまで甘くはないと思いますが」

 

「YES。そのルイオスさんは最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」

 

 黒ウサギが人差し指を立てて説明する。今回のギフトゲームは、ギリシャ神話に出てくるペルセウスの伝説を一部倣ったものだ。

 宮殿内の最奥まで〝主催者(ホスト)〟側に気づかれず到達せねば、戦うまでもなく失格となる。

〝契約書類〟に書かれたルールを確認しながら飛鳥が難しい顔で復唱する。

 

「見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。同じく私達のゲームマスター―――ジン君が最奥に辿り着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北。なら大きく分けて三つの役割分担が必要になるわ」

 

 飛鳥の隣で耀が頷く。本来ならこのギフトゲームは百人、少なくても十人単位でゲームに挑み、その一握りだけがゲームマスターに辿り着けるというもの。

 そんなゲームを、彼らは五人で挑まなければならない。役割分担は必須だった。

 しかしそれにライムが挙手して、

 

「役割分担など決める必要はないぞお主達」

 

「「「「は?」」」」

 

「要は姿を見られなければよいのだろう?それなら我がギフトでどうにかなる」

 

 飛鳥達の間の抜けた声を無視して不敵な笑みを浮かべるライム。それに十六夜は、へえ?と興味深そうにライムを見返した。

 

「なんだ?もしかして全員最奥に行ける素敵プランでもあるのか?」

 

「うむ。だがこの方法は敵だけでなく、我らにも影響を及ぼす。最悪、仲間とはぐれてしまう危険性が出てくる」

 

「あん?」

 

 ライムの不安要素を聞いて、十六夜は即座に彼女が何をしようとしているのか察した。

 

「はぐれるだけじゃない。階段を探すのだって困難に―――」

 

「まあ、視界が悪い霧の中じゃそうなるだろうな」

 

「う、うむ―――って、え?」

 

「「「「霧?」」」」

 

 十六夜の言葉に驚いて彼に振り向くライム。霧という単語を聞いて、飛鳥達も不思議そうに十六夜を見た。

 十六夜は軽薄な笑みを浮かべたまま続けた。

 

「真祖ロリの秘策は、宮殿内に魔女のギフトを使って霧を発生させる。そうすれば敵の視界を奪えて俺達は姿を見られずに宮殿内を自由に歩き回れる。だが視界が悪くなるからはぐれたり、階段を探しづらくなる………こんなところだろ?」

 

「あ、ああ………そんなところだ」

 

 十六夜に自分の秘策を言い当てられて唖然とするライム。すると耀がビッと綺麗に挙手して、

 

「階段探しなら任せて。私が気流を読んで階段を見つけるから」

 

「ぬ?耀はそんなこともできるのか?」

 

「うん。霧で視界が悪くなっても、気流さえ掴めれば問題ない」

 

「おお!それならこの作戦で」

 

「駄目だな」

 

「「(え・ぬ)?」」

 

 ライムの作戦を却下する十六夜。何故?と十六夜を見返すライムと耀に、彼は答えた。

 

「気流を読める春日部に俺達がそれに続くとして、もし敵とばったり鉢合わせでもしたらどうする?最悪、全員姿を見られてゲームオーバーになるな。固まって移動するのはリスクが高すぎだ」

 

「「!?」」

 

 十六夜の言う通りだ。敵はこの一週間何もしていないわけない。準備は万全な状態でギフトゲームを開催しているはずだ。いくら霧で視界を奪おうが一つに固まって一つの階段を目指せば、そこを守っているであろう敵に遭遇でもすれば全員アウトになる最悪なケースも考えられるのだ。

 

「そ、そうだな………そこまで考えてなかった。軽率だった………済まぬ」

 

「ま、気にするな。真祖ロリの作戦は中々面白くはあるが勝てなきゃ意味がねえからな。ここはちゃんと勝ち目のある作戦でいこうぜ」

 

「う、うむ」

 

 ライムは頷き、作戦を練り直す事になった。飛鳥はそれを確認すると、途中だった役割分担の話に移行する。

 

「さて、役割分担なのだけれど。まずジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割。この三つかしらね」

 

「ああ。不可視の敵は春日部に任せる。鼻は利くし耳も眼もいいしな」

 

 十六夜の提案に黒ウサギが続く。

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することができません。ですからゲームマスターを倒す役割は、十六夜さんとライムさんに―――」

 

「いや、我は降りる。飛鳥と囮及び露払い役をする」

 

「え?」

 

 まさかの降板宣言をするライムに驚く黒ウサギ。ライムは十六夜を一瞥したあと、理由を答えた。

 

「ギリシャ神話の末裔と戦ってみたくはあるのだが、我の実力では十六夜の足を引っ張るだけだ。白夜叉相手に封印開放状態で戦っても手も足も出なかったのだぞ?そんな我があの男の相手が務まると思うのか?」

 

「………いえ、比べる相手を間違っているのですよライムさん?」

 

 確かにライムは白夜叉に手も足も出なかったが、その彼女とルイオスでは実力の差は雲泥以上だ。比べること自体間違っているわけなのだが。

 すると十六夜が、へえ?と物騒に瞳を光らせてライムを見つめた。

 

「つまり真祖ロリは、あの下種坊っちゃんが恐くて堪らない。だから助けて十六夜様!―――って解釈でいいんだな?」

 

「こ、恐いわけではないぞ!?我はただ、十六夜の足手まといになるくらいなら、最初から挑まぬ方がいいというだけなのだ!」

 

「まあ、確かに石化のギフトにあっさりやられるような吸血鬼(コウモリ)はいない方がマシか。OK、任せな。その代わり、俺に責任丸投げするわけだし、あとでどうなるか覚えとけよ?」

 

「―――ッ!?う、うむ………心得た」

 

 全身から冷や汗を流しながらも了承したライム。十六夜は、これで言質は取れたな、とほくそ笑む。

 そんな十六夜を耀がギロリと睨んで、

 

「性的なことは絶対に駄目」

 

「それも魅力的ではあるが………安心しな春日部。他人の女を掠め取ったりはしねえよ」

 

「「………っ」」

 

 十六夜の意味深な発言に、耀とライムは顔を赤くした。そう言われると、急に恥ずかしくなってくる。

 飛鳥は、コホン!とわざとらしく大きく咳払いして不機嫌さをアピールし、

 

「勝手に話を進めないでほしいわね。私も囮と露払い役ってどういうことなのかしら?」

 

 不満そうな声を洩らす。

 だが飛鳥のギフトがルイオスを倒すに至らないことは既に知れていることだ。何より飛鳥のギフトは不特定多数を相手にする方がより力を発揮できる。しかしそれが分かっていても不満なものは不満なのだろう。

 少し拗ねた口ぶりの飛鳥を十六夜がからかった。

 

「俺に守られながら戦う屈辱を味わいたいなら別にお嬢様も最奥に来てもいいぜ?その代わり、真祖ロリには死ぬ気で頑張ってもらわねえといけなくなるが」

 

「………む、それを言われたら、はい、なんて言えないじゃない。ライムさん一人にきつい役目を押し付けられるわけないもの、私も囮と露払い役を請け負うわ」

 

 唇を尖らせて返す飛鳥に、ライムは済まなそうに頭を下げる。それに気づいた飛鳥は、貴女が気にすることじゃないわ、と言って手を振った。実際、友人一人に丸投げするのは気が引けるし、その上、十六夜に守られながらでは格好がつかない。そんな無様な戦い方をするなどプライドの高い飛鳥が受け入れるわけないのだ。

 飄々と肩を竦める十六夜。だが黒ウサギはやや神妙な顔で不安を口にする。

 

「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。油断しているうちに倒せねば、非常に厳しい戦いになると思います」

 

 五人の目が一斉に黒ウサギに集中する。飛鳥がやや緊張した面持ちで問う。

 

「………あの外道、それほどまでに強いの?」

 

「いえ、ルイオスさんご自身の力はさほど。問題は彼が所持しているギフトなのです。もし黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは―――」

 

「隷属させた元・魔王様」

 

「そう、元・魔王の………え?」

 

 十六夜の補足に黒ウサギは一瞬、言葉を失った。

 しかし素知らぬ顔で十六夜は構わず続ける。

 

「もしペルセウスの神話通りなら、ゴーゴンの生首がこの世界にあるはずがない。あれは戦神に献上されているはずだからな。それにも関わらず、奴らは石化のギフトを使っている。―――星座として招かれたのが、箱庭の〝ペルセウス〟。ならさしずめ、奴の首にぶら下がっているのは、アルゴルの悪魔ってところか?」

 

「………アルゴルの悪魔?」

 

 十六夜の話が分からない飛鳥達三人は顔を見合わせ、首を傾げる。

 アルゴルの悪魔。その言葉に、ライムの記憶からある名前が飛び出した。

 それは、いつ聞いたのかだけでなく、誰に教わったのかもすら不明な、そんな遠い遥か昔の記憶。

 

 顔が分からない、名前すら思い出せない、白装束を纏った少女は言った。

 

 

『この〝  〟には、魔王アルゴールと呼ばれた、とても強大な〝  〟が存在するよ』

 

 

 その記憶は所々抜け落ちていたが、十六夜の言ったアルゴルの悪魔は、この少女の言っている魔王アルゴールというものに違いないと思った。

 ………え?待って。どうしてわたしはアルゴールが魔王だと教わっているの?魔王ってことは、この話は箱庭で聞いていることになってしまうんじゃ!?

 それは絶対にあり得ないことだった。だってライムは、出生は箱庭ではなく、外界のはずなのだから。だが、不意にこの記憶は自分のものではない可能性を見出だす。

 ………!もしかして今の記憶は―――もう一人のわたしを()()()()彼女のものでは?それならわたしがこの記憶を彼女から受け継いだことになるからおかしくはないはず!

 そう解釈して、コレの話を終わりにした。そう、自分は箱庭ではない、外界の魔女(母親)の娘だったはずだ。そう、仮令―――()()()()()()()()()()()()()としても………。

 

「―――ライム!」

 

「わひゃっ!?」

 

 考え事をしていたライムは、耀に不意に耳元で大きな声で名前を呼ばれて変な声を発した。ライムは振り向いて、耀に文句を言った。

 

「耀!?耳元で大きな声を出すなと言っただろう!?」

 

「ずっと呼んでるのに中々返事しないライムが悪い」

 

「ぬ………それは、済まぬ」

 

「もう………早く行くよ?皆待ってるから」

 

「そうだな………行くか耀」

 

「うん」

 

 頷き合って門の前で待機していた十六夜達を見た。それを確認した飛鳥は、心配そうにライムに訊く。

 

「どうしたのライムさん?難しい顔をしていたのだけれど、何か考え事をしていたのかしら?」

 

「あ、いや、たいしたことではないのだ。だから飛鳥は気にしなくていいぞ」

 

「………そう?ならいいけれど」

 

 飛鳥はこれ以上深く追及はしなかった。今は余計なことに気を使わずに、ギフトゲームを挑む時なのだから。

 話が終わったのを確認した十六夜は、よし、と頷いて―――ズドガァン!という轟音と共に、白亜の宮殿を蹴り破り、一同は突入するのだった。

 

 

 

 

 

 ―――――クフフフ、アンシンしてツきススみなさい。アナタには………ワタシがついてるのだから。




戦闘は次回から。

チップなしでルイルイ激怒。
作戦はライムの霧作戦でいくと思ったら原作通りの作戦で。


ライムの正体を示すキーワード。
ライムの記憶の中に登場した謎の少女とは何者?
ライムの出生は箱庭or外界………真実はどっち?
もう一人のライム(ライム本人は自称だと言うが)の正体は?


以前語ったライムが〝   〟の容姿にそっくりなわけは、この三つのキーワードが解く鍵です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。