問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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一話 問題児と黒ウサギ

 ―――箱庭二一〇五三八〇外門居住区画、第三六〇工房。

 

「………うまく呼び出せた?黒ウサギ」

 

「みたいですねえ、ジン坊っちゃん」

 

 黒ウサギと呼ばれたウサ耳の少女は、肩を竦ませておどける。

 その隣で小さな身体に似合わないダボダボなローブを着た幼い少年ジンが溜め息を吐いた。

 黒ウサギは扇情的なミニスカートとガーターソックスで包んだ美麗な脚を組み直し、指を愛らしい唇に当てて付け加える。

 

「まあ、後は運任せノリ任せって奴でございますね。あまり悲観的になると良くないですよ?表面上は素敵な場所だと取り繕わないと。初対面で『実は私達のコミュニティ、全壊末期の崖っぷちなんです!』と伝えてしまうのは簡単ですが、それではメンバーに加わるのも警戒されてしまうと黒ウサギは思います」

 

 握り拳を作ったりおどけたりと、コロコロ表情を変えながら力説されたジンも、それに同意するように頷いた。

 

「何から何まで任せて悪いけど………彼らの迎え、お願い出来る?」

 

「任されました」

 

 ピョン、と椅子から跳ね、『工房』の扉に手をかけた黒ウサギに、ジンは不安そうな声をかけた。

 

「彼らの来訪は………僕らのコミュニティを救ってくれるだろうか」

 

「………さあ?けど〝主催者(ホスト)〟曰く、これだけは保証してくれました」

 

 クルリとスカートを靡かせて振り返った黒ウサギはおどけるように悪戯っぽく笑って、

 

「彼ら()()は………人類最高クラスのギフト所持者だ、と」

 

 

『ぎにゃああああああ!!お、お嬢おおおおお!!』

 

 上空4000メートルから落下したライム達四人と一匹は、落下地点に用意してあった緩衝材のような薄い水膜を幾重も通って湖に投げ出される。

 

「ぬっ!」

 

「きゃ!」

 

「わっ!」

 

 ボチャン、と着水。水膜で勢いが衰えていたためライム達は無事で済んだが、茶髪の少女と共に落ちてきた一匹もとい三毛猫はそうもいかない。慌てて茶髪の少女が抱き抱え、水面に引っ張り上げる。

 

「………大丈夫?」

 

()()()()()()()()……………!』

 

 まだ呂律が回らない三毛猫だが、彼(?)の無事を確認した茶髪の少女はホッと胸を撫で下ろす。

 その一方で、金髪の少年と黒髪の少女の()()はさっさと陸地に上がりながら、それぞれが罵詈雑言を吐き捨てていた。

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺り込んだ挙げ句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

「………いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

 ふん、と金髪の少年と黒髪の少女は互いに鼻を鳴らして服の端を絞る。

 その後ろに続く形で茶髪の少女が岸に上がろうとして―――バシャバシャ、と何かが必死に藻掻いているような水音が聞こえて振り返る。

 すると其処には、溺れかけてる金髪の幼い少女ライムが両手をばたつかせていた。どうやら泳げないようだ。

 茶髪の少女は三毛猫を岸に降ろすと、溺れかけてるライムの下へ泳いで向かい、声をかけた。

 

「………大丈夫?掴まる?」

 

「い、いらぬ!吸血鬼の真祖たる我が、人間に助けてもらうなど―――」

 

「………吸血鬼?そう。大丈夫なら私は行くね」

 

「え!?」

 

 ライムが拒むと、茶髪の少女は彼女に背を向けて岸へと泳いで行く。

 そんな茶髪の少女を見て暫し固まったライムは、慌てて彼女の背に叫んだ。

 

「す、済まぬお主!さっきのは冗談だ!冗談だから、我を助けてくれんかのぅ!?」

 

「……………」

 

 ライムの悲鳴に似た叫び声を聞いて、茶髪の少女は溜め息を吐きつつも再び彼女の下へ戻り、

 

「助けて欲しいなら、最初からそう言えばいい。つまらない意地は張らない」

 

「うぐっ………す、済まぬ」

 

 ライムは申し訳なさそうな顔をして茶髪の少女に謝る。

 茶髪の少女はライムの手を取って、その彼女の手の異様な冷たさに驚く。

 この手の冷たさは湖に浸かったからではない。まるで()()の手のような冷たさで生きているようには思えない。

 

「(………そういえばこの子、さっき自分のことを吸血鬼って言ってたっけな)」

 

 その事を思い出して茶髪の少女は吸血鬼の少女の顔を見つめる。

 ライムは、ん?と小首を傾げて茶髪の少女を見つめ返した。

 

「なんだお主?我のことをじっと見つめて。もしや我が美貌に見惚れたか?」

 

「違う。貴女は吸血鬼なの?」

 

「ぐぬ………ん?うむ、如何にも。我は吸血鬼の真祖だ。よくぞ我が正体を見破った!」

 

「………見破るもなにも、自白してたけど?」

 

「ぬぅ!?」

 

 茶髪の少女に指摘されて、みるみるうちに顔を真っ赤にさせるライム。

 そんな彼女を見て茶髪の少女は確信する。この吸血鬼の少女は〝馬鹿〟なのだと。

 そんなお馬鹿吸血鬼少女を連れて岸に上がった茶髪の少女の下へ三毛猫が駆け寄ってきた。

 

『お嬢!急にワシを置いて行ったからビックリしたで!何しに行ってたんや?』

 

「ごめん。この子が溺れかけてたから助けた」

 

 茶髪の少女はそう言ってライムの方を見るよう三毛猫の視線を促す。

 三毛猫は茶髪の少女に促されるままライムを見上げる。

 するとライムは、ほう、と三毛猫を興味深そうに見つめながらしゃがみこんだ。

 

「この猫、お主のか?」

 

「………うん、そうだよ。三毛猫に興味あるの?」

 

「うむ。猫に限らず獣は好きだ。人間共(やつら)と違い、我を()()()扱いせず、寄り添ってきてさえくれるんでな」

 

「………?そうなんだ」

 

 ライムの意味深な発言を聞いて疑問に思う茶髪の少女。奴等?化け物扱い?彼女は一体何の話をしてるのか。

 疑問に思いながらも服の端を絞り始める茶髪の少女。

 ライムは立ち上がると、ハッと茶髪の少女にお礼を言うのを忘れていたことを思い出し、

 

「………さっきは助けてくれてありがとな」

 

「うん。どういたしまして」

 

 照れ臭そうに礼を言うライムを、茶髪の少女は、ふふ、と笑って見つめる。

 彼女のことは良く分からない。けど、三毛猫を、獣を好きと言ってくれたのは嬉しかった。自分も獣達(かれら)のことは大好きなのだから。

 茶髪の少女は服を絞りながらふと小首を傾げて、

 

「此処………どこだろう?」

 

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

 茶髪の少女の呟きに金髪の少年が応える。

 そんな金髪の少年にライムは感心したように瞳を細めて見つめ、

 

「あの状況で確認出来たのか。大した奴だのぅ、お主」

 

 ちなみに、ライムの場合は状況を飲み込めず呆けたまま空を飛べることさえ忘れ溺れかけたという間抜け真祖であった。

 まあな、と金髪の少年は特に誇る事もなく当たり前のように返す。

 それからライム達三人を見回した金髪の少年は軽く曲がった癖っぱねの髪を掻き上げ、

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは〝オマエ〟って呼び方を訂正して。―――私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱き抱えている貴女は?」

 

 久遠飛鳥と名乗った黒髪に二つの大きな赤いリボンを付けている、制服姿の少女が高飛車な物言いで返す。

 

「………春日部耀。以下同文」

 

 春日部耀と名乗った茶髪に白のヘアピンを付けている、スリーブレスのジャケットとショートパンツを着た少女が物静かに返す。

 

「そう。よろしく春日部さん。次に、随分と派手なドレスを着ているそこの貴女は?」

 

「我か?くくく、我が名はライム。吸血鬼の真なる祖であるぞ!」

 

 ライムと名乗った金髪ツインテールに紅い瞳をした、フリルまみれで血のように真っ赤なドレスを着た吸血鬼の少女が高らかに返す。

 

「吸血鬼?それに真なる祖って?」

 

「真なる祖ってのは、真祖のことだろうな。始まりの吸血鬼。つまり、吸血鬼の始祖ってことだ」

 

 飛鳥の疑問に金髪の少年が答える。

 

 真祖。

 それは吸血鬼としての始祖を指す言葉。

 魔術等によって吸血鬼へ変化した者であり、他の吸血鬼から吸血されて吸血鬼化した者ではない。

 

 ライムは嬉しそうに笑って金髪の少年を見つめ、

 

「よく知っているなお主。名はなんと申す?」

 

「逆廻十六夜だ。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれ()()()

 

 逆廻十六夜と名乗った金髪にヘッドホンを首にかけた、学ラン姿の少年は物騒な自己紹介をする。

 

「………!ふははははは!良かろう!特別だぞ?ありがたく思え!」

 

 様付けされて気分を良くしたライムは高らかに笑った。

 そんな彼女を十六夜はニヤリと笑って見つめ、

 

「そいつはありがたい。なら早速、アンタのその小柄な身体にしては発育がいい胸を揉ませてくれると嬉しいんだが?」

 

「ぬ?………ッ!?」

 

 十六夜の視線と言葉が自分の胸を指しているのだと気付き、胸を隠しながら頬を赤く染めるライム。

 そんな彼女を守るように耀が前に出てきて、

 

「そんな真似は私が許さない」

 

「ぬ?………お主、我を守ってくれるのか?」

 

「うん。それと、私のことは耀でいい。私もライムって呼ばせてもらうから」

 

「う、うむ。ではそうさせてもらうぞ耀」

 

 フッと笑うライム。耀も笑みで返す。

 そんな二人を見ていた飛鳥が驚いたような顔をした。

 

「いつの間にか、春日部さんとライムさんが仲良くなってるわね」

 

「だな。何か共通の趣味でもあったんじゃねえのか?例えば………春日部の猫に真祖ロリが興味を持った、とか」

 

 何にしろ、これから面白くなりそうだと、耀とライムを眺めてニヤリと笑う十六夜。

 仲良さそうな二人を眺めて、少し羨ましそうな顔をする飛鳥。

 互いに見つめ合って笑みを浮かべるライムと耀。

 

 そんな彼らを物陰から見ていた黒ウサギは思う。

 

「(うわぁ………なんか問題児ばっかりみたいですねえ………)」

 

 召喚しておいてアレだが………彼らが協力する姿は、客観的に想像出来そうにない。

 黒ウサギは陰鬱そうに重く溜め息を吐きつつも、金髪ツインテの少女に目を向けて首を傾げた。

 

「(それにしてもおかしいですね。〝主催者(ホスト)〟様からは召喚される人材は三人だとお聞きしましたのに)」

 

 なのに来てみたら三人ではなく、()()いた。これは一体どういうことなのだろうか。

 

「(それと驚くべきは彼女の正体がなんと()()()!しかも()()が来たのですよ!―――じゃなくて、驚くところはそこじゃないですね)」

 

 黒ウサギは四人目(イレギュラー)な人材の正体に興奮するが、慌てて深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

「(………どうしてあの真祖様は、太陽の光を浴びても平気なのでしょうか?つまり、太陽の光を受けられない〝箱庭の騎士〟とは別種の吸血鬼となりますね)」

 

 吸血鬼にとって〝太陽の光〟は天敵だ。〝箱庭の騎士〟なるものの説明はのちにするが、ライムも平気というわけではない。

 彼女もまた〝太陽の光〟を直に受けている為、現在進行形で弱りつつある。

 今、平然としていられるのは湖に落ちたことで全身が水に濡れているからであり、長時間〝太陽の光〟を浴び続ければ、乾いてしまい一気に身体が重くなって思うように動かせなくなるだろう。

 元いた世界で、ライムがわざわざ桜の木の陰で昼寝をしていたのも、〝太陽の光〟を直に受けない為だったのだ。

 

「(―――まあ彼女の正体はともかく、人材は多いに越したことはありませんね。取り敢えず、出れるタイミングを計るとするのです!)」

 

 黒ウサギはそう決めると、ライム達四人を暫し見守ることにした。

 

 

 十六夜は苛立たしげに言う。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「………この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

「(全くです)」

 

 黒ウサギはこっそりツッコミを入れた。

 もっとパニックになってくれれば飛び出しやすいのだが、場が落ち着き過ぎて―――ん?

 

「………ライム?なんで私の影の中に入ってしゃがんでるの?」

 

「す、済まぬな耀。我は真祖といえども吸血鬼故、太陽の光を浴び続けるのはしんどいのだ………」

 

 耀の影の中でしゃがみこんで縮こまりながら返すライム。

 そんな彼女に耀は苦笑いを浮かべると、飛鳥が二人の下へ近付いてきて、

 

「そういうことなら、私にも協力させてくれないかしらライムさん」

 

「ぬ?」

 

 飛鳥が耀の右隣に立って、ライムの為に二本目の影になる。

 

「仕方がねえから俺も手伝うぜ真祖ロリ」

 

「ぬ?」

 

 更に十六夜がライム達三人の下へ歩み寄り、耀の左隣に立って、ライムの為に三本目の影になる。

 

「………お主ら。済まぬ、恩に着る!」

 

 耀だけでなく飛鳥と十六夜もライムの為に影になってくれた。

 ライムは彼らの優しさに薄っすらと嬉し涙を浮かべる。

 元いた世界では、彼らを失って以降優しくしてくれた者は誰一人といなかったからだ。獣達が寄り添ってきてくれたことはあったが。

 そんなライムを〝太陽の光〟から守る耀・飛鳥・十六夜―――三銃士のような光景に、黒ウサギは唖然としていた。

 

「(な、何なのですかアレは!?真祖様を太陽の光から彼らが守っているようですが………やはり彼女も太陽の光はきついのですね)」

 

 黒ウサギは吸血鬼の真祖であるライムでも、吸血鬼の弱点である〝太陽の光〟は辛いのだなあ………と思った。

 そして十六夜達三人の視線はライムに集中している。それはつまり、

 

「(………!もしかしてこれは、出て行けるチャンスでございますか!?)」

 

 そう。注意が完全に逸れている今ならば、ひょっこりと出て行っても問題ないのではないか。

 

「(そうと決まれば、あと黒ウサギに必要なのは勇気のみ!……………さあ、行くのでございますよ!)」

 

 そう心に決めた黒ウサギが物陰から飛び出そうとした、その時。

 ふと十六夜が溜め息混じりに呟いた。

 

「―――さてと。真祖ロリがくたばっちまう前に………そろそろ其処に隠れている奴、出てこいよ」

 

「―――――ッ!!?」

 

 物陰に隠れていた黒ウサギは心臓を掴まれたように飛び跳ねた。

 十六夜のその言葉を聞いてライムはゆっくりと立ち上がり、耀と飛鳥の間に割って入る。

 そして四人の視線が黒ウサギに集まった。

 

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの猫を抱いてる奴も気づいていたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「………へえ?面白いなお前。それで勿論、真祖ロリも気づいてたよな?」

 

「………?いや、出てくるまで皆目気付けぬかったぞ?」

 

「「「「は?」」」」

 

 予想外の返しをするライムに十六夜達三人だけでなく、黒ウサギまでもが仰天する。

 

「ぬ?なんだお主ら?」

 

「「「「………いや、何でもない」」」」

 

「………?」

 

 十六夜達四人の反応を不思議そうに眺めるライム。

 一方の十六夜達四人は、彼女は本当に吸血鬼の真祖なるものなのかと疑わしい気持ちになる。

 だがこれだけは満場一致で思った。吸血鬼の真祖ライムは―――〝馬鹿〟なのだと。

 これは余談だが。元いた世界でライムは、吸血鬼狩りのプロに狙われた時は基本、胸を〝銀の弾丸〟で撃ち抜かれて死にかけている。

 プロということで奇襲が巧いからやられるのは仕方がないことではあるが、よく今まで捕獲・殺害されなかったものだ。

 如何に真祖でも、瀕死の状態では異能〝霧化〟は使えない。ならば他の異能によるものか、それとも単に運が良かっただけのか。その真相は謎のままである。

 

 ライムが〝馬鹿〟なのはさておき。十六夜達四人は理不尽な招集を受けた腹いせに殺気の籠った冷ややかな視線を黒ウサギに向ける。

 黒ウサギはやや怯んで、

 

「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「ほう?狼がお主の天敵か」

 

「あっは、取り付くシマもないですね♪―――って、え?」

 

 バンザーイ、と降参のポーズを取った黒ウサギは、ライムの意味深な発言を聞いて固まる。

 ライムはスッと目を閉じて、

 

「異能―――〝黄金の雌狼(ゴールデン・ウルフ)〟」

 

 ライムがそう言った瞬間、彼女の肉体は変化していき………黄金の体毛を持つ狼の姿になった。

 吸血鬼には〝霧化〟以外にも様々な動物に変身できるとされている。

 その中に〝狼〟もある。故にライムは〝狼〟に変身出来るのだ。

 

「フギャア!?お、おおおお狼ッ!?」

 

『くくく、露骨に怖がっておるな!これは愉快だ。ふははははは!』

 

「………っ!!」

 

 高笑いする金狼(ライム)を、黒ウサギが瞳に涙を浮かべながら睨み付ける。

 正体が吸血鬼の真祖と分かっていても、〝狼〟は天敵なので黒ウサギにとって怖いものは怖いのだ。

 一方の耀は、キラキラと瞳を輝かせて金狼(ライム)を見つめると、

 

「えい」

 

『ぬ?』

 

 勢い良く飛び付いた。

 

『よ、耀?』

 

「ライム、凄い!狼になれるんだ!しかも黄金!」

 

『う、うむ。凄いであろう?』

 

「うん。だから触らせて!」

 

『いや、もう既に触っ―――んっ!』

 

 ビクン!と身体を跳ねさせる金狼(ライム)。耀が顎下を『こちょこちょ』してきた為だ。

 イヌ科である〝狼〟にも効果は抜群のようだ。それに、耀のテクニックが上手すぎるのか、金狼(ライム)は次第に快楽へと誘われ、

 

『クウゥゥゥゥン―――っ!!』

 

 ビクンッ!と身体を仰け反らせた金狼(ライム)は、遂に限界を迎えたのか変身が解けて人型の吸血鬼に戻る。

 全身を汗だくにしたライムが耀の顔を見上げて、

 

「耀、お主は、獣を悦ばせるのが………巧いな」

 

「そうかな?」

 

「ああ。この我を瞬殺してしまったのだからな。誇ってよいぞ」

 

「うん、わかった」

 

 ふふ、と笑い合うライムと耀。

 ライムは笑みを浮かべたままゆっくりと立ち上がり―――スパァン!

 

「うぎゃっ!?」

 

 何か強烈な一撃を脳天にもらって、痛む頭を抱えながらしゃがみ込むライム。

 

「ライム!?」

 

 涙目のライムを見て驚く耀。

 ライムの背後にはユラリと立って不気味な笑みを浮かべる黒ウサギがいた。その手に持つのはハリセン。

 

「ウフフフフフ!ようやく元の姿に戻ったようですねお馬鹿様。先程やられた分は―――倍にして返してやるのですよ!!」

 

「………っ!」

 

 ライムに再びハリセンを一閃しようとした黒ウサギ。が、彼女のハリセンがライムの脳天を打ちのめす前に、

 

「苛めちゃ駄目」

 

「フギャ!」

 

 耀が黒ウサギのウサ耳を根っこから鷲掴み力いっぱい引っ張った。

 

「ちょ、邪魔しないでください!これから其処の金髪のお子様に教育を―――って、初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業。あと、ライムを苛めたからお仕置き」

 

「自由にも程が―――え?ですから黒ウサギは苛めてなど、」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

 十六夜が興味を示して黒ウサギのウサ耳を右から掴んで引っ張る。

 

「………じゃあ私も」

 

「ちょ、ちょっと待―――!」

 

 更に飛鳥も近付いてきて黒ウサギのウサ耳を左から掴んで引っ張る。

 左右に力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。

 そんな光景を眺めていたライムは、標的が黒ウサギに集中したことに安堵する。

 

「あ、そうそうライムさん」

 

「―――っ!?」

 

 不意に飛鳥が黒ウサギのウサ耳を引っ張りながら、ライムに声をかけてくる。それに、ドキリ、と心臓を跳ねさせるライム。

 飛鳥はニコリと微笑んで、

 

「私もさっきの金色の狼………だったかしら?触りたいから変身してくれると嬉しいのだけど」

 

「ぬ………」

 

「お?それなら俺も真祖ロリがさっき変身した金狼………触りてえな」

 

「ぬぬっ………」

 

「私ももっと触りたいなあ」

 

「ぐぬぬっ………」

 

 黒ウサギのウサ耳を引っ張りながら飛鳥・十六夜・耀の順にライムに言ってくる。

 ライムは身の危険を感じると、異能〝蝙蝠の金翼(バット・ウィング)〟を背に広げて、空に逃げようと試みる。

 

「へえ?蝙蝠の翼も生やせるのか。しかもまた黄金」

 

 一瞬で背後に回ってきた十六夜が黄金の蝙蝠翼を根元から鷲掴み、

 

「え!?―――いぎゃっ!?」

 

 力いっぱい引っ張った。

 

「お、お主!触るならもっと優しく」

 

「断る」

 

「いぎゃあああああ!!」

 

 十六夜に、背に生えた蝙蝠の翼を引き千切られんばかりの力で引っ張られて絶叫を上げるライム。

 すると飛鳥が黒ウサギのウサ耳から手を離し、ライムの方へ歩み寄った。

 

「十六夜君ばかりズルいわ!私にも触らせなさい!」

 

「触るだけなら許すが―――いぎゃっ!?」

 

 勿論、飛鳥も触るだけでは留まらず、力いっぱいライムの蝙蝠翼を引っ張った。

 

「お、お主ら!いい加減にせぬかっ!さもなくば本気で怒」

 

「「え?なに?」」

 

 グイッ!と勢い良く引っ張った。

 

「いぎゃあああああああ!!!」

 

 背中から感じるあまりの激痛にライムは瞳を涙で滲ませて絶叫を上げた。

 そんな光景を見ていた黒ウサギは、先程ライムに悪戯されたばかりだったが、あまりにも可哀想なので彼女に同情の視線を向ける。

 一方の耀は、ライムが他の人達に弄られているのを眺めて、何故か無性に腹が立っていた。

 そしてその腹いせに、黒ウサギのウサ耳を………力いっぱい引っ張った。

 

「フギャッ!何でですか!?」

 

 理不尽な八つ当たりを受けて黒ウサギが絶叫する。

 このあとも、黒ウサギのウサ耳とライムの蝙蝠翼は、問題児三人の気が済むまで弄ばれ続けるのだった。




異能一覧

黄金の雌狼(ゴールデン・ウルフ)
黄金の雌の狼に変身する異能。実力は通常の狼を遥かに凌駕する。

蝙蝠の金翼(バット・ウィング)
黄金の蝙蝠の翼を背に生やして空を飛べる異能。速度は通常の蝙蝠を遥かに凌駕する。

ついでに、ライムのスリーサイズを公開。

年齢:数百歳(正確な年齢は不明)
身長:136㎝
体重:36㎏
B76
W50
H72
D58

………Dは大きすぎ?(^_^;)

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