問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
お待たせしてすみません。
今回のは原作外で耀視点の話になります。
では、どうぞ。
結局、ライムは風呂を出たっきり、私達の前に姿を現さなかった。ライムの過去って何があったんだろう?私達にも話せないなんて一体………
「………部屋にいるかな?」
そう言って私、春日部耀は飛鳥・黒ウサギと別れて、ネグリジェを持ってライムの部屋の前に来ていた。
ちなみに、このネグリジェはライムに着てもらう為のもので、私の格好もネグリジェ。
コンコン、とドアをノックしてライムを呼び出す。
「………ライム、いる?」
しかし返事はなかった。もしかして、寝ちゃったのかな?
そう思って私は、ドアノブに手をかけて捻ってみる。流石に開けっ放しで寝たりはしてないよね?
が、予想を反してノブが回り、ドアは簡単に開いてしまった。………え?まさかライムは施錠を忘れて寝てしまうほどお馬鹿なの?
そう思いながら、真っ暗なライムの部屋を明かるくするべく、照明のスイッチをONにした。
「―――………え?」
私は思わず間の抜けた声を洩らした。何故なら、明るくなった部屋に、ライムの姿が見当たらなかったからだ。 ………ライム?どこ?隠れんぼしてる?
私は持っていたネグリジェをライムのベッドの上に置くと、ライムが隠れられそうな場所を探した。ベッドの下、カーテンの後ろ、箪笥の中、ゴミ箱の………中は流石にいないよね。
「ライム………どこ行っちゃったの?」
探したけど部屋にはいない。私は急に不安になった。私達がライムの過去に触れようとしたから、それを嫌がって屋敷から出て行ったんじゃないかと。
そんなのは、嫌だ!これからライムのことをいっぱい知って、関係を深めたい!だから―――どこもいかないでっ!
私がそう願うと、不意にライムの声が聞こえてきた。脳内に直接。
『―――我の部屋に何用だ耀?』
「(………!ライム!?)」
『ぬ?無論、我だが………どうしたのだ?』
「(ど、どうもこうもない!ライム、今どこにいるの!?)」
『ぬ………別館の屋根上にいるが』
「(分かった。そこから動いちゃ駄目だからね、絶対に!)」
『う、うむ。別に逃げたりはしないのだが』
私はライムの言葉を最後まで聞かずに部屋の電気を消す。窓から飛び出して空中に身を投げ出すと、
そしてあっという間に別館の屋根上に着き、驚きの表情で私を見るライムを発見した。
「耀………?なんだその格好は?」
「え?―――あっ、」
ライムに格好を訊かれて、自分の今の格好がネグリジェだったことを思い出す。う、私ったらライムを捜すことに夢中だったから着替えてくるの忘れてた。恥ずかしい。
恥ずかしそうに私が自分の身体を抱いていると、ライムがニヤリと笑って牙を口元から覗かせた。そして、一瞬で私の眼前に現れたと思ったら―――何故か押し倒されてしまった。
え?なんで?ライム、これから私に何するつもりなの?
「くふふふ、いけない子ね春日部耀。そんな格好でわたしの前に現れたら、襲われるわよ?」
「ライム………これは何の真似?」
「くふふ、今のわたしは貴女の知っているライムじゃな―――いぎゃっ!?」
私は下手な演技をするライムの金髪ツインテールの片方を力いっぱい引っ張る。すると案の定、ライムは謎の悲鳴を上げた。あ、やっぱりいつものライムだった。
ライムが涙目で私を睨んで言ってきた。
「な、何をするのだ耀!」
「………下手な演技をするライムに腹が立ったからやった。後悔はしていない」
「ぬ?演技だと?何を言ってるのか我にはさっぱりだな!」
「………口調、戻ってるよライム」
「―――ッ!?しまった!?」
ハッとして口元を押さえるライム。バレバレだしもう手遅れだよ。やっぱりライムはお馬鹿だね。
私がそんなことを思っていると、ライムが咳払いをし急に真剣な顔をして見つめてきた。何?まだ何かあるの?
「………耀。さっきのは悪ふざけでやったことだが、今から我が話すことは真剣に聞いてほしい」
「………何?」
「次、そのような格好で現れるな。じゃないと我は―――本気で耀を襲うかもしれぬからな」
「………私は別にいいよ。ライムが血を欲しているなら、私の血でいいなら、幾らでも」
「駄目だッ!!」
私の言葉を遮ってライムが怒鳴った。そしてライムは泣きそうな表情を見せて、弱々しく呟く。
「………頼むから、自分を大切にしてくれ。我のことは気にするな。耀からあの時貰った生き血で十分足りているからな」
「………ライム」
辛そうな表情で言ってくるライムを、私はただ見つめることしか出来なかった。なんて声をかけたらいいのか、分からなかったから。
ライムはそれだけを言い残すと、私の上からどいて立ち上がる。私も釣られるように上体を起こしゆっくりと立ち上がる。
金髪を風に靡かせながら、ライムは悲しそうな顔を消して私に笑いかけてきた。
「さて、屋敷の中へ戻るぞ耀。いつまでもそんな格好のまま外にいては風邪を引くぞ?」
「……………」
私はそれに返事をしないで、無言のままライムを見つめた。
そんな私を不思議そうに見つめてライムが訊いてきた。
「………どうしたのだ耀?」
「………ライム、私は、ね。もっと貴女のことを知りたい」
「―――ッ!?」
ライムが驚いて私から距離を取ろうとする。私は逃げようとしたライムの手首を掴んで、今の気持ちを伝えた。
「逃げないで、ライム。私はもっと、もっと貴女と仲良くなりたい」
「……………」
「だから、ね。少しでいい。ほんの少しだけでいいから、ライムのこと………私に教えてくれないかな?」
私は正直な気持ちをライムに伝える。けどライムの表情は芳しくなかった。やっぱり駄目なのかな………
私がそう諦めかけたその時、ライムが怪訝な顔をして私を見返してきた。
「………して」
「え?」
「どうして耀は、そこまでして我を気にかけるのだ?」
「………そうだね。私も、どうしてライムのことを気にかけるのか、よくは分からない」
私がそう言うと、ライムは困惑したような顔をする。よくは分からないって言ったから、当然だよね。
でも、と私は言葉を続けた。
「私はライムのことがほっとけないんだ。もし、もし私がこの手を離しちゃったら………貴女が消えてしまいそうな、そんな予感がするから」
「そんなことは、ない。………我は友を置いて消えたりはせぬよ」
「嘘。私達を置いて消えたりしないっていうわりには―――どうしてそんな悲しそうな顔をするの?」
「………ッ!」
ライムは図星を突かれたように目を見開いて私を見てくる。やっぱり、そうだったんだね。
「ライム、貴女はまだ………自分が本当にここにいていいか、迷ってるんだね」
「………っ、それは………!」
言い淀むライム。私はそんなライムを引き寄せ、ギュッと抱き締めた。
「よ、耀?」
「駄目、絶対に逃がさない。ライムは私の、大切な友達だから」
「………っ!」
「貴女が過去に何をしたかなんて関係ない。ライムは、私の友達。それ以下になるなんて、絶対に有り得ない」
言い切る私。すると、私の肩の上で、ライムが嗚咽のような声を洩らしながら泣き出してしまった。
ライムの方が私より遥かに年上なはずなのに、中身は見た目相応で子供なんだね。
私は泣いているライムの頭を優しく撫でながら、ライムが泣き止むのを待った。
☆
暫くして、私は泣き止んだライムに膝枕をしながら夜空を眺めていた。
すると、ライムが申し訳なさそうな声を発してきた。
「………済まぬな、耀。人に優しくしてもらったのが、数十年ぶりとなるとすぐ涙腺が緩んで涙が止まらなくなるのだ」
「涙脆いなんて、お婆ちゃんみたいだね。あ、ライムは人間でいえばとっくにお婆ちゃんか」
「ぬ、誰がお婆ちゃんだ!我はピチピチの絶世の美少女吸血鬼だ!皺々などではない!」
「はいはい、分かってるよ。ライムはピッチピチの肌を持った絶世の美少女吸血鬼(笑)だもんね」
「う、うむ―――って(笑)はいらぬわッ!!」
怒るライムの頭を、私は撫でながらクスクスと笑った。
そんな私を見て、ライムが剥れた顔をしたが、ふっと表情を戻し、独り言のように話し始めた。
「………我はその数十年前に、ある一人の男に恋をした」
「え?」
「もう二度と、人間と関わるつもりはなかったのだがな。だが我は、ハンター共に襲われていたところを、偶然出逢ったその男に救われて、その優しさに惹かれてしまったのだ」
「………そう、なんだ」
「その男は、吸血鬼である我を匿ってくれた。何故助けてくれたのだと訊いたら、その男はこう言った。『助けを求めていると思ったからな』と。それを聞いた瞬間、涙が出て泣いてしまった」
「………その頃から涙脆かったんだね、ライム」
「う、煩い!だって仕方がないだろう!?たったあれだけの理由で、吸血鬼という人間には恐ろしい化け物に手を差し伸べてくれたのだからな!」
うんうん、と頷くライム。く、擽ったいからあまり動かないでほしいかな………っ!
ライムは恍惚に似た表情を浮かべながら話を続けた。
「しかも、その男は凄い銃の使い手でな。ハンター共をあっという間に一蹴してみせたのだ!」
「………ハンター達生きてる?」
「ぬ?無論、生きておったぞ。その男は、殺さず敵を倒すのがもっとうだったからな」
ふふ、と苦笑を零すライム。ライムはその人が自分を助けるだけでなく、敵にも情けをかけているのが不思議でならないのかな?
私がそう思っていると、ライムが急に悲し気な表情を見せて、
「………その優しさが仇となり、その男は命を落としてしまった」
「―――ッ、そ、うなんだ。ライムは、好きだった人を………殺されちゃった、んだね」
「違う。殺されたのではない」
「………え?」
私の言葉を否定して、ライムが泣きそうな表情で告げた。
「―――
「―――――ッ!!?」
私の心臓がギュッと何かに締め付けられるような感覚がした。………え?好きだった人を、ライムが自分の手で?
「………う、そ………だよね?」
「嘘ではない。我が、恋をしたその男を、手にかけた」
「………ッ!ライムがその人を殺めてしまったのには、何か理由が」
「そんなものは関係ないッ!たとえ如何なる理由であろうと、その男を殺したことに何も変わりはないのだからな………ッ!!」
「………っ、」
私はそれに言い返すことが出来ず押し黙る。ライムの言ってることが尤もだったから。
ライムは泣きそうな表情のまま、愚かな自分自身を嘆くように続けた。
「………我は人殺しの鬼だ。血を啜るだけの鬼、吸血鬼ではない。
「……………」
「それも、殺してきた人間はその男だけではなく、過去に何十何千何万もの人間を殺してきた悪鬼だ」
「……………」
「そんな血に塗れて汚れた我の手を………お主は笑って取ってくれるのか?」
「―――――っ、」
ライムは泣きそうな表情のまま、私に向かって手を差し出してきた。その手を私は、すぐに取れなかった。
怖い。そんな感情が、私の中に一瞬芽生えてしまったから。さっきの話を聞いた後に見たライムの手が、顔が、身体が、血塗れになっているような錯覚を起こしてしまった。
ライムは、殺人鬼。人間を殺してきた過去を持つライムが、怖い。………怖い、けど。私は、ライムの友達でいたい。友達でいることを―――諦めたくない!
私は、ライムの手を取った。
「―――それでも、私は貴女の手を取るよ」
「………!?」
「貴女が怖くない、って言ったら嘘になっちゃうけど………私は貴女と友達でいたい。この関係を終わらせたくない」
「………っ!」
私の言葉に、ライムが驚いて目を見開く。それから不可解そうに顔を歪めて訊いてきた。
「………どうして、殺人鬼である我の手を取ってくれるのだ?どうして、血塗られた過去を持つ我と、友達のままでいたいと言ってくれるのだ?」
ライムのその疑問に、私は笑顔で答えた。
「だってあの時貴女は言ったよね。私や飛鳥を―――
「―――――ッ!!?」
「私は貴女が言ったその言葉を信じてる。あの言葉に嘘偽りはないんだって」
驚愕の表情を見せるライム。私は確信したように続けた。
「貴女は冷酷な殺人鬼なんかじゃない。だって貴女には、過去の過ちを悔いて、苦しんで、哀しむ
「……………」
「貴女が、自らの手で恋をした人を殺めた、って言った時に見せた泣きそうな顔。私や飛鳥達を傷付けたくないから、自分の気持ちを押し殺して、皆には黙ってコミュニティから去ろうとしたこと。こんなこと、殺人鬼がするようなことじゃないよ」
「……………ッ」
「貴女は優しい子だよ。過去の過ちを繰り返さないために、愛しい人を失った後の数十年もの間、人との関わりを断って、ずっと逃げ続けてきたんだよね」
「………っ、」
「さっきも、私が血なら幾らでも飲んでいいって言った時に怒鳴ってくれたのだって、私の身を案じてくれたからでしょ?」
「………ああ」
「だったら、そんな優しい貴女を、私は突き放すなんて出来ない。だから私は貴女の手を取る。友達でいたいんだよ」
私が言い終えると、ライムは泣きそうな顔を手で隠して、
「―――耀は、それで本当に後悔しない?」
「うん」
「本当の本当に?」
「本当の本当」
「本当の本当の本当に?」
「本当の本当の本当」
私が即答で返していくと、ライムは口元に笑みを浮かべた。
そして、急に起き上がったかと思ったら、私を抱き締めた。え?ライム?
「―――ありがとう、耀。我は素敵な友に巡り会えて幸せ者だ」
「………ライム」
「故に、誓おう。我は―――
「え?」
今、なんて言った?命を賭して………私を守る?
「あの頃のわたしは、彼を助けるどころか、この手にかけて死なせてしまった」
「………!」
「だから、もう二度とそうならないように、わたしは絶対にあなたを死なせない!………絶対にあなたを守ってみせる!」
そう言ってライムは、私を力強く抱き締めた。………ちょっと痛いよ、ライム。でも、やっとライムと心が通じ合って、嬉しいな。
最後にライムが、私でも聞き取れないほどの小さな、本当に小さな声で呟いていた。
「絶対に、守ってみせるよ。わたしの愛しい―――
ライムは耀の優しさに惹かれて、妻にすることを決めたそうです。
ライムにとって同性という壁は存在しないも同然のようです。
次回はライムの姫の血を得て原作以上に強くなったガルドとの戦いです。
次話はガルド登場で終わるかもしれませんが。