問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ? 作:問題児愛
ギフトネームをリメイク前と同じにしようかとも思いましたが、変えました。
では、どうぞ(^^)
復活を果たしたライムは、解いたリボンで髪を再びツインテールに結い直す。その様子を見ていた耀は安心して肩の力を抜くと急に疲労が襲ってきたのか、ゆっくりとライムの方へ倒れた。
慌てて耀を受け止めたライムは、心配そうな表情で耀の顔を窺う。
「耀!?どうしたのだ!?」
「………ライムに私の血をいっぱいあげたから、ちょっと疲れた」
「ぬ?そ、そうか………済まぬな、耀。今、楽にしてやるからな」
そう言ってライムは、耀の頭に手を翳した。すると耀の全身は眩い光に包まれ彼女の身体を癒やしていった。
「失った血を戻すことは出来ぬが、疲労を軽減させておいた。これで少しは楽になったと思うが………無理はするでないぞ」
ライムが忠告すると、耀は頷いてライムから離れて身体を軽く動かしてみた。………さっきまでの気怠さはなくなっているようだ。
「………本当だ。ありがとう、ライム」
「いや、礼を言うのは我の方だ。吸血鬼になるかもしれないというリスクを背負って、我に血をくれたのだからな。本当にありがとう、耀」
ライムがお礼を言うと、耀は照れ臭そうに頬を掻いた。そんな耀に、すかさず黒ウサギが飛びついてきて身体のチェックを始めた。
「耀さん!本当に大丈夫でございますか!?身体に違和感はありませんか!?血が欲しくなったりしてませんか!?」
「大丈夫、問題ない。あと、痛いから離して黒ウサギ」
飛びついてきた心配性な黒ウサギを引き剥がそうとする耀。黒ウサギはハッと気がついて慌てて耀を解放した。
そんな耀を、十六夜と白夜叉が羨望の眼差しで眺め、ライムと飛鳥は苦笑いを浮かべた。
飛鳥は、耀と目が合うと苦笑から微笑に変えて見返す。それに耀も微笑と共にブイサインで返した。
一方、十六夜と白夜叉は、耀を羨望から興味深そうな視線に変えて見つめた。
「(………まさか本当に真祖ロリに血を与えるとか、大した奴だな春日部は。一歩間違えれば、吸血鬼になってたかもしれないのにな)」
何せ相手は〝馬鹿〟でも吸血鬼の真祖だ。吸血鬼化のリスクは一般の吸血鬼に血を啜られるよりも遥かに高く危険なはずなのだ。
それを承知の上で血を吸血鬼に捧げられる人間は、普通いない。余程その吸血鬼に惚れ込んだりしていなければ。
吸血鬼の〝魔眼〟で操られたような感じもない。そもそも真祖ロリが無理矢理春日部の血を飲もうとする邪悪な吸血鬼とは思えない。だとしたら一体………と考えていた十六夜はハッと何かに気がつき笑みを浮かべた。
「(おいおい、春日部の奴………真祖ロリに友達以上の感情を抱いてるんじゃねえだろうな?同性同士の禁断の恋………だったら面白くなってきそうだが)」
もしそんな展開になるなら、いいネタが出来て二人を弄り倒せるな、と思い一人笑う十六夜。
十六夜の興味とは別に白夜叉は、耀の持つギフトに興味を示していた。
「(吸血鬼の………それも真祖クラスのギフトを無効化して吸血鬼化を防ぐとはの。〝生命の目録〟といい、中々面白そうなギフトを持っておるなあの娘)」
クックッと笑いながら耀を見つめる白夜叉。それに、と今度はライムに視線を向ける白夜叉。
「(真祖の小娘のギフトも気になるの。〝箱庭の騎士〟に出来ない能力や多重人格のようなもの………それと『ペルセーイス』という苗字。気になる点がいくつもあるからな)」
まあ何にせよ、ギフトに関してはアレを渡せば分かるしの、と白夜叉はニヤリと笑った。
☆
それから暫くして、白夜叉が話を切り出した。
「さて、鑑定の前におんしらに一つ聞いておきたいことがある。おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「全部だな」
「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに。真祖の小娘の全部というのは怪しいがの」
「………ぬ、」
白夜叉に指摘されて押し黙るライム。確かに、全部把握しているか?と聞かれたら自信が無くなってくる。
一方、十六夜は白夜叉の話に首を振る。
「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃない」
ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と、同意するように頷く飛鳥と耀。
白夜叉は、そう来ると思ったわい、と十六夜達の考えを先読みしてニヤリと笑った。
「ふむ。何にせよ〝
そう言って白夜叉は、パンパンと柏手を打つ。すると四人の眼前に光り輝く四枚のカードが現れる。
カードにはそれぞれの名前と体に宿るギフトを表すネームが記されていた。
コバルトブルーのカードに逆廻十六夜・ギフトネーム〝
ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム〝威光〟
パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム〝
ダークレッドのカードにライム=ペルセーイス・ギフトネーム〝禁忌の真祖〟〝魔女〟
それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る。
黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で四人のカードを覗き込んだ。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「お賽銭?」
「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が合ってるのです!?あと、〝お賽銭〟という難しい言葉をよく知ってましたねライムさん!」
「ちょっと待て黒ウサギ!流石の我でも〝お賽銭〟くらいは分かるぞ!?馬鹿にするでないわっ!」
黒ウサギに馬鹿にされて不貞腐れるライム。そんなライムの頭を、耀が優しく撫でて慰める。
黒ウサギは、それもそうですね、と楽し気に笑ってギフトカードの説明を続けた。
「そのギフトカードは顕現しているギフトを収納出来る超高価なカードですよ!耀さんの〝生命の目録〟だって収納可能で、それも好きな時に顕現出来るのですよ!」
「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」
「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」
黒ウサギに叱られながらライム達はそれぞれのカードを物珍しそうに見つめる。
「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは〝ノーネーム〟だからの。少々味気無い絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」
「ふぅん………もしかして水樹って奴も収納出来るのか?」
何気無く水樹にカードを向ける十六夜。すると水樹は光の粒子となってカードの中に呑み込まれた。
見ると十六夜のカードは溢れる程の水を生み出す樹の絵が差し込まれ、ギフト欄の〝正体不明〟の下に〝水樹〟の名前が並んでいる。
「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」
「出せるとも。試すか?」
「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティの為に使ってください!」
チッ、とつまらなそうに舌打ちする十六夜。
黒ウサギはまだ安心出来ないような顔でハラハラと十六夜を監視している。
白夜叉はその様子を高らかに笑いながら見つめた。
「そのギフトカードは、正式名称を〝ラプラスの紙片〟、即ち全知の一端だ。其処に刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった〝恩恵〟の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」
「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」
「ん?それはどういう意味だ小僧。ちと私に見せてみろ」
「あいよ」
十六夜からギフトカードを受け取って確認する白夜叉。其処には確かに〝正体不明〟の文字が刻まれている。
ヤハハと笑う十六夜とは対照的に、白夜叉の表情の変化は劇的だった。
「………いや、そんな馬鹿な。〝正体不明〟だと………?いいやありえん、全知である〝ラプラスの紙片〟がエラーを起こすはずなど」
「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ」
顔色を変えて真剣な眼差しで見ている白夜叉から、パシッとギフトカードを取り上げる十六夜。
だが白夜叉は納得出来ないように怪訝な瞳で十六夜を睨む。それほどギフトネームが〝正体不明〟とは有り得ないものなのだろう。
考え込もうとした白夜叉に、ライムが声をかけた。
「………白夜叉」
「ん?何かな、真祖の小娘?」
「我は白夜叉の試練をクリア出来なかったはずなのだが………我も貰っていいのか?」
そう。ライムは白夜叉の試練をクリア出来ていない。なのに自分の分もあることに疑問を持ったのだ。
白夜叉は、クックッと笑って答えた。
「ああ、勿論貰ってよいぞ。真祖の小娘だけの試練は、おんしにお仕置きする為に用意したものだからな。最初からクリアさせる気は無かったのだよ」
「ぐぬ………道理で容赦なかったのか」
「手加減はしたつもりだがのう。私が本気を出せば、おんしなど瞬殺よ」
呵々と笑う白夜叉。ぬぅ、と唸るライム。大人気ないな、と十六夜達四人は冷めた視線を白夜叉に向けた。
白夜叉は十六夜達の冷たい視線を無視してライムのギフトカードと耀のギフトカードを見回し言った。
「終わった試練の話は置いといて、おんしらのギフトカードも見せてくれんかの。気になる点が幾つかあるのでな」
「「嫌だ」」
「おおそうか、嫌か―――って何だと!?何故だ!ちょっと見せてくれるだけでよいのだぞ!?」
「「なんか、嫌だから」」
「なんかって何だ!?なんかって!というか息ピッタリだのおんしら!」
ぐぬぬ、と唸る白夜叉。絶対に見せるものかとギフトカードを死守する耀とライム。
飛鳥は苦笑しながら二人を見回して言った。
「春日部さん、ライムさん。私には見せてくれるかしら?その代わり私のを見ていいわ」
「うん、飛鳥ならいい」
耀は躊躇なく自分のギフトカードを飛鳥に手渡す。
ありがとう、とお礼を言った飛鳥は、自分のギフトカードを耀に手渡した。
「これが春日部さんの………素敵なギフトで羨ましいわ」
「飛鳥のも………よくわからないけど凄そう」
感想を述べた二人は、それぞれのギフトカードを相手に返す。
それから二人はライムの方を見て手を出した。
「ライムさんのも、見せてくれるわよね?」
「……………っ、」
しかしライムは自分のギフトカードをギュッと握り締めたまま渡そうとしない。
耀は心配そうな表情でライムの顔を窺う。
「ライム………?」
「………済まぬ、耀、飛鳥。友達のお主達なら………と思ってはいるのだが、いざ見せようとすると、な………勇気が出なくて出来ないのだ」
ライムは申し訳なさそうな顔で言って俯く。吸血鬼である自分は受け入れてくれたけど、〝魔女〟でもある自分を果たして受け入れてくれるのだろうか、という不安が募り見せられないでいるのだ。
そんなライムの手を、耀が取って言った。
「大丈夫、ライムが何者だろうと私は嫌いになったりはしない。だから見せて」
「………耀」
「それにライムは私の血を飲んだ。だから私にはライムのギフトカードを見る権利がある」
「ぬ?」
「というわけで、このギフトカードは問答無用で見せてもらうね」
パシッとライムのギフトカードを掠め取る耀。あっ、と弱々しく呟くライムだがもう遅い。
耀はライムのギフトカードを見つめて………え?と驚いたような表情を見せた。
「どうかしたの、春日部さん?」
耀の反応を不思議に思った飛鳥が横からライムのギフトカードを覗き込んだ。そして飛鳥も、え?と耀と同じ顔を見せた。
二人の反応を見て、やっぱり〝魔女〟は怖いよな、と諦めたような表情をして内心で呟くライム。
が、耀と飛鳥の反応は別でライムの肩をそれぞれ掴み驚きの声を上げた。
「ライム、吸血鬼の真祖だけじゃなくて魔女だったの!?」
「ライムさん、貴女、吸血鬼だけではなく魔女だったの!?」
「「「え?魔女?」」」
声を揃えて言った耀と飛鳥の言葉を聞いて、十六夜達も驚きの表情でライムを見た。
ライムは、気まずそうに頬を掻きながらコクリと小さく頷いた。
「あ、ああ………そうだ。我は生前、魔女だった。父は人間、母は魔女の人間と魔女のハーフ………それが我だ」
ハーフと言っても魔女の血を継いでるから魔女は魔女だがな、と自嘲するライム。
生前は魔女。死後は死者として蘇った吸血鬼。それがライム=ペルセーイスである。
耀と飛鳥がポカンと口を開けて固まっている隙に、十六夜が耀の手からライムのギフトカードを掠め取って見た。それを黒ウサギと白夜叉が横から覗き込む。
ライムのギフトカードには確かに〝魔女〟の文字が刻まれている。それと吸血鬼のギフトと思われる〝禁忌の真祖〟というギフトネーム。
「〝禁忌〟………?〝禁忌〟ってまさか、タブーという意味の………?」
黒ウサギが唖然とした顔で呟く。一方、十六夜と白夜叉は、ライムのギフトカードを見て考察を始めていた。
「(真祖ロリの生前は魔女か。たしか吸血鬼の語源にトルコ語の〝Uber〟って魔女を指す言語があったっけな。吸血鬼は人間ではない存在という説があるし、その中には魔女も含まれてる)」
そう。一度死んだ人間が蘇ったものだけでなく、魔女や悪魔、精霊や妖怪などの人間ではない存在を吸血鬼とする説もあるのだ。
だが、真祖ロリは『生前』と言っていたから、魔女という意味での吸血鬼ではなさそうだ。
「(真祖ロリの苗字は『ペルセーイス』ねえ。ギリシャ神話の女神様の末裔か何かなのか?〝禁忌の真祖〟ってギフトネームの方は、流石の俺もお手上げだな。何で真祖ロリの存在が禁忌なのか分かりかねる)」
ギリシャ神話の女神ペルセーイス。
………ん?太陽神?真祖ロリが太陽の光を浴びても死なないのは、先祖に太陽神が関係しているからか?
もう一柱、ペルセースの娘という意味で『ペルセーイス』と呼ばれる女神がいる。ギリシャ神話の月の女神ヘカテー。
だが、この月神は従姉妹の狩りと月の女神アルテミスと同じで配偶神を持たない処女神で子孫はいないはず。
………いないはずだが、魔女の守護者であるためか数多くの魔女の母と同一視されることが多い。その魔女の母の一人、女神ペルセーイスも含まれている。
そう考えると、真祖ロリの先祖を当てるには苗字だけでは情報が足りなすぎた。残念だが諦めるか、と十六夜はそこまでで詮索をやめた。
「(魔女………成る程のう。道理で吸血鬼とは思えない力を使えていたわけだ)」
ライムが耀を治癒した時や氷の柱を発生させるなど、吸血鬼の能力とは思えない力を振るっていたことを思い出し納得する白夜叉。
魔女ならば治癒魔法や氷結魔法を行えてもおかしくない。おかしくないのだが、問題はもう一つのギフトネーム〝禁忌の真祖〟の方だ。
「(〝禁忌の真祖〟………それ即ち
とある出来事がきっかけで過去に出現してしまった
「(真祖の小娘を召喚するように頼んだのは、例の組織か。ならば
そうだとしたら、この真祖の小娘を狙って〝ノーネーム〟が襲われる可能性が出てくる。もしそうなったら黒ウサギ達にも危険が及ぶだろう。
だが、真祖の小娘を自分が匿うことは出来ない。彼女が過去に人間を無差別に襲って吸血鬼化させていたのならば、系統樹を乱す悪しき者。現在私が匿っている
では組織の事を伝えるべきか。いや、やつらもすぐに襲ってくるとは限らない。此処は忠告だけで様子見にしよう。そう決めた白夜叉は一人頷いた。
☆
六人と一匹は暖簾の下げられた店前に移動し、耀達は一礼した。
「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」
「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦する時は対等の条件で挑むのだもの」
「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」
「我はもう白夜叉とは戦いたくないな。実力が違いすぎるからのぅ………」
「ふふ、良かろう。楽しみにしておけ。真祖の小娘も、遠慮はいらんぞ?次はちゃんとおんしに合わせて手を抜いてやるからのう」
ニヤリと笑う白夜叉に、思わず身構えるライム。が、白夜叉の顔はスッと真剣なものになり、黒ウサギ達を見た。
「ところで、今更だが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」
「ああ、名前とか旗の話か?それなら聞いたぜ」
「ならそれを取り戻す為に、〝魔王〟と戦わねばならんことも?」
「聞いてるわよ」
「………では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」
黒ウサギはドキリとした顔で視線を逸らす。そして同時に、もしコミュニティの現状を話さない不義理な真似をしていれば、自分はかけがえのない友人を失っていたかもしれないと思った。
「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」
「〝カッコいい〟で済む話ではないのだがの………全く、若さ故のものなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰れば分かるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」
予言するように断言する白夜叉。飛鳥と耀は一瞬だけ言い返そうと言葉を探したが、魔王と同じく〝
それから、と白夜叉はライムに視線を向ける。
「真祖の小娘、おんしも不老不死だからといって油断するな。吸血鬼は〝不死〟であっても弱点が多い上に殺す方法が数多と存在する。それにこの箱庭には〝不死殺し〟のギフトも存在するからの。魔王と戦う際は気を引き締めて挑むのだぞ」
「う、うむ。我の弱点や殺害方法については把握済みだからその点は心配無用だ。〝不死殺し〟のギフトか………箱庭は恐ろしい所だのぅ」
〝不死殺し〟のギフトが存在すると聞いて、ライムは冷や汗を流す。
さて、と白夜叉は視線を飛鳥と耀に戻して言う。
「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小僧は兎も角、おんしら二人の力では魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ」
「………ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。次は貴女の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」
「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。何時でも遊びに来い。………ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」
「嫌です!」
黒ウサギは速攻で拒絶する。白夜叉は拗ねたように唇を尖らせた。
「つれない事を言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ?三食首輪付きの個室も用意するし」
「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!」
怒る黒ウサギ。笑う白夜叉。店を出たライム達五人と一匹は無愛想な女性店員に見送られて〝サウザンドアイズ〟二一〇五三八〇外門支店を後にした。
☆
白夜叉とのゲームを終え、噴水広場を越えてライム達五人は半刻ほど歩いた後、〝ノーネーム〟の居住区画の門前に着いた。門を見上げると、旗が掲げてあった名残のようなものが見える。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので………」
「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい」
「丁度いいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
先程、白夜叉に虫のように見下されたこともあって、プライドの高い飛鳥は機嫌が悪かった。
黒ウサギは躊躇いつつ門を開ける。すると門の向こうから乾き切った風が吹き抜けた。
砂塵から顔を庇うようにするライム達四人。視界には一面の廃墟が広がっていた。
「っ、これは………!?」
街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀とライムは息を呑み、十六夜はスッと目を細める。
十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸を手に取る。少し握ると、木材は乾いた音を立てて崩れていった。
「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは―――今から何百年前の話だ?」
「僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化し切った街並みが三年前だと?」
そう、彼ら〝ノーネーム〟のコミュニティは―――まるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていたのだ。
美しく整備されていたはずの白地の街路は砂に埋もれ、木造の建築物は軒並み腐って倒れ落ちている。要所で使われていた鉄筋や針金は錆に蝕まれて折れ曲がり、街路樹は石碑のように薄白く枯れて放置されていた。とてもではないが三年前まで人が住み賑わっていたとは思えない有り様に、三人は息を呑んで散策、ライムは無言でその場に立ち尽くす。
「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方は有り得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
十六夜は有り得ないと結論付けながらも、目の前の廃墟に心地良い冷や汗を流している。
飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうな感想を述べた。
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
二人の感想は十六夜の声よりも遥かに重い。
黒ウサギは廃墟から目を逸らし、朽ちた街路を進む。
「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達も皆心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」
大掛かりなギフトゲームの時に、白夜叉みたくゲーム盤を用意するのはコレが理由だ。
力のあるコミュニティと魔王が戦えば、その傷跡は醜く残る。魔王は敢えてそれを楽しんだのだ。
黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進む。飛鳥も、耀も、ライムも、複雑な表情で続く。
ライムは、吸血鬼として蘇った際に凄惨な光景を目にした事があった。が、〝ノーネーム〟のコミュニティは、ライムが見た光景以上に酷かった。それ故に感想も述べることが出来なかったのだ。
一方、十六夜だけは瞳を爛々と輝かせ、不敵に笑って呟いていた。
「魔王―――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
魔女要素を追加しました。
ライムの先祖は考え中です。魔女の母にするか、魔女そのものにするか………(^_^;)
ライムがギフトを使用する際に当たって、
ツインテモード→魔女のギフトを自在に使える。吸血鬼のギフトをそこそこ使える。
狂気モード→吸血鬼のギフトを自在に使える。魔女のギフトは全く使えない。