問題児たちと最後の吸血鬼が異世界から来るそうですよ?   作:問題児愛

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健康診断で採血の時に自分の血を眺めていたら、急に吸血鬼ネタを書きたくなって書きました。後悔はしていない。
〝問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―〟のリメイク版となります。
お気に入り登録してくださっていた方々、誠に申し訳ありません。過去編は書けても、月夜が魔王として開催させようと計画していたオリジナルのギフトゲームが思いつきませんでした。
他にも、評価がた落ちやダメ出しでやる気低減とか、放置しすぎたなどが原因で続きが書けなくなってしまいました。本当にすみません。

リメイク版では、後から設定追加をやめてちゃんと設定を決めてから書きました。興味ある方はどうぞです。


YES!ウサギが呼びました!
プロローグ


 とても懐かしい、夢を見ていた。

 

 ライ麦畑の穂波が、高台から吹き下ろす風で揺れていた。

 青々しかった青葉のグリーンカーペットは季節の移り変わりと共にその色彩を変えていき、今では見事な黄金色となって麦畑を埋め尽くしている。

 他の土地では不作が危ぶまれる中で、この地域だけはまるで恩恵でも受けた様に麦や葡萄の豊作が見込まれていた。

 ―――否、恩恵はもたらされている。〝カノジョ〟の手によって。

 近年稀にみる大豊作に胸を躍らせる農奴たちは老若男女を問わず〝カノジョ〟を取り囲み、口々に持て囃している。

 年の近しい子供も、腰の曲がった老婆も、誰もが〝カノジョ〟に感謝していた。勿論、その中にいる〝ワタシ〟も。

 

『本当に〝    〟お姉ちゃんはスゴい!』

 

 そう〝ワタシ〟が言うと、農奴たちは呆れたような、しかし苦笑いを浮かべながら、

 

『お姉ちゃんではなく、様をつけなさい』

 

 と言ってくる。〝ワタシ〟は『ごめんなさい』と〝カノジョ〟に謝ると、〝カノジョ〟は笑って許してくれた。

 それから、〝カノジョ〟は微笑みながら〝ワタシ〟に手を伸ばしてきて、

 

『〝   〟。また、私の手伝い、してくれる?』

 

『うん!勿論だよ、〝    〟お姉ちゃん!』

 

〝ワタシ〟は〝カノジョ〟の手を取って、元気よく返事した。

 そうだ。〝カノジョ〟やみんなと共に、もっとこの土地を豊かにするんだ。

 これからもずっと―――

 

 

 季節は春。

 満天の青空の下、咲き誇る桜並木の陰でライムは昼寝をしていた。

 

「……………うん」

 

 夢から覚めた金髪ツインテールの少女は、紅い瞳を開いて、芝生の上で伸びをする。

 ふぁ、とライムは欠伸をしたのち、眠い目を擦りながらゆっくりと上体を起こして―――チャキ。

 

「ぬ?」

 

「死ね、ヴァンパイア!」

 

 黒い銃口が眼前に映り、吸血鬼の少女の眉間に銃口を突き付けてきた男が吼えた。

 

「―――ッ!?」

 

 男が引き金を引くよりも速く動いた、吸血鬼(ヴァンパイア)と呼ばれた金髪ツイテの少女はその場から跳び退く。

 その僅か数瞬後に、パァン!と銃声を響かせ、〝銀の弾丸〟がライムの真横を通過していった。

 タン、とフリルまみれの血を彷彿させるような真っ赤なドレスを翻しながら地面に着地するライム。

 男は、チッと舌打ちして、すぐに吸血鬼の少女へと銃口を向けて発砲。やぶれかぶれの連続発砲だ。

 しかしライムには当たらない。優雅に舞うように全ての〝銀の弾丸〟を躱してみせた。

 弾切れになり、クソ、と汚い言葉を吐き捨てた男は、急いで替えの弾を装填しようと下を向いた―――瞬間。

 

「隙ありだ」

 

 一瞬で接近してきた吸血鬼の少女に、銃を奪われてしまった。

 

「なっ………!」

 

 男が、しまった、という顔でライムに目を向ける。

 彼女は、銃をクルクルと指で回しながら男を見返した。

 

「よもや寝起きを襲われるとはのぅ………まったく、この街はゆっくりと昼寝も出来んな」

 

「当たり前だ!テメェみたいな化け物に居場所なんか、何処にもねえんだよ!」

 

 憤怒の炎を燃やした瞳で吸血鬼の少女を睨み、罵声を浴びせる男。

 ライムは、ムッと不機嫌そうな表情を見せて男を睨み返した。

 

「化け物とは酷い奴だな。こんなにも可愛い絶世の美少女吸血鬼たる我をつらまえているというのに」

 

自分(テメェ)で言うな、自分(テメェ)で!」

 

 残念系美少女吸血鬼に思わずツッコミを入れる男。敵であることをうっかり忘れてしまいそうだ。

 ライムは、急に男の顔に自分の顔を近づけて、

 

「ほれ、我のどこが化け物なのか言ってみろ」

 

「―――ッ!?ちょ、顔近っ!離れろ馬鹿っ!」

 

 吸血鬼の少女のドアップ顔に、男は顔を真っ赤にして押し返す。

 恥ずかしがる男にライムはニヤニヤと笑って下がり、

 

「なんだ?我は化け物であろう?何故お前は恥ずかしがる?」

 

「う、うるせえ!いいからさっさと離れやがれ!」

 

 男は苛立ちと共に、チャキ、と吸血鬼の少女の胸元―――心臓部に銃口を押しつける。

 

「ぬっ!?」

 

 胸に押しつけられている銃を見て、ハッと手元に視線を向けるライム。そして男に銃を奪い返されていることに気がつく。

 男はニヤリと笑って吸血鬼の少女に銃を突き付けたまま言った。

 

「〝銀の弾丸〟は既に装填済み。形勢逆転だ。噂通りの()()()()()で助かったぜ」

 

「ぐぬ………誰が間抜け真祖だ!我は―――」

 

「おっと動くなよ。ちょっとでも動いたら、引き金を引くぜ。この距離なら、俺でも確実に仕留められるんでな」

 

「……………」

 

 男の言葉はハッタリではない。少し動いた瞬間に引き金を引かれてしまったら、躱し切れる自信はない。

 それに今は昼過ぎ。真夜中ならともかく、太陽という名の〝天敵〟が昇っている時間帯では、全力は出せない。それは仮令(たとえ)真祖であってもだ。

 しかしこのピンチな状況であっても、ライムは余裕の笑みを浮かべた。

 

「くく、そうだな。ならば―――撃つがよいぞ人間」

 

「は?テメェ、この状況でなに言って」

 

「我を撃ち殺せるものなら、な」

 

 ライムは笑って、身体を黄金の砂に―――否、霧に変えていく。

 男は、ハッと気づいて慌てて引き金を引く。が、もう既に霧になった吸血鬼の少女を撃ち抜くことは出来なかった。

 

「な、クソ!高位吸血鬼共が持つとされる異能―――〝霧化〟か!」

 

 そう。高位吸血鬼とは即ち、真祖及び純血の吸血鬼たちのことを指し、その彼らだけが振るえる異能と呼ばれる特殊能力の一つ―――〝霧化〟だ。

 霧に変身してしまえば、吸血鬼の弱点の一つである〝銀〟は通用しない。その上、触れることすら敵わないのだ。

 それはつまり、男にはどうすることも出来ないことを意味していた。

 

「畜生、こん畜生があああああッ!!!」

 

 あと一手で仕留められた最後の吸血鬼の生き残りにして終焉の真祖―――〝ライム〟。

 それを取り逃がした失態に、男は銃を片手に絶叫を上げる。

 満天の青空の中を黄金の霧となったライムは、そんな憐れな男を嘲笑するように漂い、やがて何処かへと消えていった。

 

 

 吸血鬼。

 それは民話や伝説などに登場する存在で、生命の根源とも言われる血を吸い、栄養源とする蘇った死人または不死の存在。

 その存在や力には実態が無いとされる。

 狼男やフランケンシュタイの怪物と並び、世界中で知られている怪物の一つ。

〝ドラキュラ〟や〝カーミラ〟など、多くの創作において登場してきた生と死の超越者、または生と死の狭間に存在する者、不死者の王とされる。

 一般に吸血鬼は、『一度死んだ人間が何らかの理由により不死者として蘇ったもの』と考えられている。

〝ライム〟はまさに、『一度死んだ人間』であり、『ある強い想い』によって不死者―――吸血鬼として復活したものにして、この世界に於ける始まりの吸血鬼。即ち〝真祖〟なのである。

 そしてこの世界では、吸血鬼の持つ特殊能力を総じて〝異能〟と呼ばれていた。

〝異能〟は様々あり、ライムが見せた変身能力の一つである〝霧化〟以外にも無数に存在するのだが、他の〝異能〟については追々説明するとしよう。

 

 ピンチを切り抜けたライムは、とあるビルの屋上で〝霧化〟を解いて人型に戻る。

 フェンスに腰かけ、ホッと安堵の息を洩らした。

 

「………あの人間の男、吸血鬼狩りのプロでもないのに、我に〝霧化〟を使わせるとはな。中々やりおる」

 

 くく、と愉しそうに笑うライム。命の危機だったというのにそれを愉快に思う彼女の頭のネジは緩んでいるのかもしれない。

 そもそも、彼女が油断しなければ〝霧化〟を使わざるを得ない状況にまで追い込まれないはずなのだが。

 このドジっ子真祖が相手ならば、案外銃の使い方が素人な人間でも殺れるかもしれない。

 銃といえば、男が使用していた〝銀の弾丸〟は、吸血鬼に致命傷を与えられる特殊な弾丸だ。真祖であるライムとて例外ではない。

 しかも、この〝銀の弾丸〟は最後の生き残りの吸血鬼であるライムを確実に滅ぼすために、その辺の店で格安で販売されている。

 物騒極まりない話だが、そのせいで、民間人の大半が〝銀の弾丸〟を入手しており、彼らは日々血眼になってライムを捜している。

 それにより昼寝以外でも、ライムが道歩けば〝銀の弾丸〟が飛び交い、水浴びの最中に襲撃されたこともあった。

 墓地や洞窟などの不気味で薄暗い場所であっても、彼らは銃を片手に日々目を光らせているため、此処にもライムの居場所はない。彼女の心休まるところなど何処にもありはしないのだ。

 

「……………」

 

 しかしそれでも、ライムはこの街から逃げ出そうとはしない。

 彼女にとって此処は、沢山の思い出が詰まった捨てがたいところなのだ。

 仮令(たとえ)人々から〝化け物〟扱いされようとも―――

 

「………ん?」

 

 不意に不自然な風が吹き、一枚の封書がライムの下へ舞い落ちてきた。

 

「………ぬ、我に手紙とな?」

 

 ライムは封書を手に取る。

 封書には達筆で『ライム・ペルセーイス殿へ』と書かれていた。生前の名ではなく、吸血鬼として名乗っている名だった。

 

「我の下の名を知るものがいるとはな………面白い」

 

〝ライム〟という名は知られているが、下の名前を知る者はいない。いや、かつてはいた。

 ライムが心を許した人々には教えていた。しかしその者達はこの世にいない。彼女と関わったがために命を落として。

 では、この手紙の送り主は何故知っていたのか。ライムには知るよしもないが、これは開けないわけにはいかない。

 ライムは嬉々として封書を開けて、その文章を読んだ。

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの〝箱庭〟に来られたし』

 

 

 

「ぬ?」

 

「わっ」

 

「きゃ!」

 

 ライム達四人は気づいたら―――上空4000メートル程の位置で投げ出されていた。

 ライムがどういう状況なのか理解出来ずにいる中、他の三人は落下に伴う圧力に苦しみながらも、同様の感想と言葉を口にしていた。

 

「ど………何処だここ!?」

 

 眼前には見た事の無い風景が広がっていた。

 視線の先に広がる地平線は、世界の果てを彷彿とさせる断崖絶壁。

 眼下に見えるのは、縮尺を見間違う程巨大な天幕に覆われた未知の都市。

 彼らの前に広がる世界は―――完全無欠に異世界だった。




改変要素は多めです。
耀の吸血鬼化ですが、原作の設定矛盾を回避するためなりません。

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