がんばれと、自分にいったところ、こうなりました。
よろしくお願いします。
あの後、少ししてから先輩は戻った。
結衣先輩と『THE・青春』みたいな会話してた。
先輩が戻ったあと、ギリギリまで作業してその日は終わりになった。
こんな状態で体育祭は大丈夫だろうか。
各部活からきている人達の士気は低い。
また文化祭みたいになるのかな…。
また先輩が…。
ううん。前回は、蚊帳の外だった。
今回は、私も中にいる。
きっと、できることがある。
そんな決意をして、家路を歩く。
次の日。
朝練を終えて、昇降口に入る。
なんか戸部先輩が騒いでる。
朝練もあったのに元気だなぁ。
靴箱にゴミを入れられたらしい。
そんな小学生みたいなこと、する人いるんだ。
戸部先輩は、べーべー言いながら、葉山先輩に連れて行かれた。
戸部先輩、どんまいです。
授業中は、ずっと考え事。
体育祭運営委員のこと。
私に何ができるのか。
そもそもなんでこんな風になってるんだろう。
1番の原因は、間違いなくはるかとゆっこ。
あの人達の呼び捨てももう普通だなぁ。
あの人達は、体育祭の邪魔をしたい?
でも、だったら運営委員なんて来ないはず。
そういえば、会議初日のあの2人の言葉。
『偉そうに。』『ホントだよねー。』
相模先輩が原因?
でも、あの人達は文実のときは一緒だった。
それが、なんで今回敵に?
あの2人は実は真面目組だった?
もしそうなら、先輩の悪い噂なんて流す?
あーダメだ。わかんない。
こうなったら…。
「て事でですねー、ヒッキーせんぱい。わたしに何ができるか考えてくれません?」
そう。先輩に聞く。
きっと、先輩は裏まで見えてる。
私には見えない事が、見えてる気がする。
「待て。全然意味わからん。なに?ついに頭おかしくなった?あとヒッキーせんぱいはやめて。マジで。」
「まず、なんで相模先輩とはるかとゆっこはあんな風になってるんですか?文実では、3人とも仲良くサボってたんですよね?なんで今更仲間割れみたいになるんです?」
まずは、現状を正しく知ろう。
じゃないと何もできない、と思う。
「あー、俺の主観だがいいか?」
私は頷いて先を促す。
「おそらく1番は、立場の違いだろう。文実のときは3人一緒。なのに、今回は相模は首脳部側。あいつらは現場班。少なくとも対等じゃねぇな。そして、初日からの相模の態度。それらが、相模と首脳部側への反感に繋がってる。」
なるほど。
確かに初日の態度とか、あの2人じゃなくてもムカつく。
遅刻してきて、意見は出さない。
そのくせ、周りには意見を促す。
「せんぱい。正直わたしは自業自得だと思うし、せんぱいの噂をあんなに広めた相模先輩がこんな風になっていて、いい気味だと思っちゃいます。それでも、せんぱいは相模先輩を見捨てないんですよね?」
先輩は少し考える。
先輩はそんなこと思わないのかな。
「正直、俺は相模なんかどうでもいい。でも、依頼だからしょうがない。」
依頼だから。
だから、投げ捨てない。
相模先輩のためじゃない。
奉仕部にきた依頼を、全うするため。
「だったら、わたしが相模先輩なんか放っておいて、普通に体育祭を楽しんで下さいって依頼したら受けてくれますか?」
そんなわけない。
きっと先輩は1度受けた依頼を投げ出さない。
文化祭がその証拠だ。
「それは……、すまん。」
だよね。
自分で言ったくせに、その答えに安心する。
「ですよねー。わかってました。だから、依頼じゃなくてこれはお願いです。わたしにも手伝わせてください。せんぱいがまた傷付いたりしないように、わたしにできることをさせてください。ダメですか?」
「お前がそこまでする必要はないだろ。ただでさえサッカー部は真面目に仕事してくれてる。それで、充分助かってる。」
それは、サッカー部としてだ。
確かに、先輩の助けになればって思った。
でも、そうじゃないんです。
「もう、嫌なんです。本当の事を知ってても、噂の否定さえできない。それなのに、噂を聞くと腹が立って、後からせんぱいに全部教えてもらって。確かに、わたしは奉仕部じゃないです。でも、今回は部外者でもないです。見てるだけは、イヤです。」
私にできる事があるのかわからない。
これは、私の勝手な押し付けだ。
ウザがられるだけかもしれない。
今回は、そんな事にはならないかもしれない。
でも、またあんな思いをするくらいなら。
「はぁ〜。分かった。お前にも頼る。それでいいか?」
ごめんなさい、先輩。
ワガママばっかりで。
困らせてばっかりで。
「はいっ!!!ありがとうごさいまーす。せんぱい♪」
「…はぁ。変なとこで頑固な、お前。」
やっぱあざといわ、お前。
そう言って笑う先輩。
久しぶりに見た気がする。
先輩の優しい笑顔。
「はちまんせんぱいには言われたくないでーす♪」
だから、私も精一杯のあざとさで返す。
私にとっては、まだただの先輩。
だから、先輩にとって、ただのあざとい後輩でいい。
真っ赤な顔を隠すために、そっぽを向いた先輩。
そっちを向いててください。
私も多分、少し顔が赤いので。
ーーーーーーーーーーーーーー
そして、放課後。
あれから、お互い普通に戻るまで無言。
やっと戻った頃には、昼休み残り5分だった。
でも、そんな沈黙が少し心地よかった。
よし!今日も運営委員だ。がんばろう。
いくら私がそう思っていても、周りはそうじゃない。
会議の時間なのに、止まらないお喋り。
ほとんどが、2年生なのに。
恥ずかしくないの?
相模先輩が進捗状況を聞いても、誰も答えない。
だったら、勝手にしよう。
私が、この人達に合わせる必要はない。
「んっ。んっ。あー報告していーですかね?入場ゲート、プラカードの作成は、順調とは言えませんが、少しずつ進んでます。」
いーね。一斉に静かになった。
首脳部側も現場班も。
先輩そんな顔しないで下さい。
大丈夫ですから。
当たり前の仕事をしただけですよ?
誰も喋らないなら、もう少し。
「あ、応援とかは大丈夫です。葉山先輩から、サッカー部はいつでも手伝うって言ってもらってるので。以上でーす。」
あなたたちは、この名前に逆らえないでしょ?
嫌われたくないもんね。
嘘は1つも言ってない。
運営委員をすると決めた時、言ってくれた事だ。
「う、うん。わかった。ありがとう。」
ようやく、静かになった会議室。
目玉競技の進捗状況。
雪ノ下先輩が報告する。
男子は問題なし。
はるかとゆっこが動いたのは、女子の競技。
さすがの結衣先輩もため息。
先輩、めんどくさいって顔にでてますよ。
で、雪ノ下先輩、怖いです。
口では丁寧な感じなのに。
先輩の言ってた『氷の女王』。
その意味が少しわかった。
はるかとゆっこが言った事を簡単にまとめると、
『危ない、怪我したくない』
『大会前だから』
だって。今さら?
あんたら、普段練習してんじゃないの?
じゃもう体育祭でなきゃいいじゃん。
それに周囲の女子が同調する。
所詮、マネージャーの私は何も言えない。
自分が試合にでるわけじゃないから。
結局、何もできないのかな。
先輩と目が合うと、先輩が小さく首を振る。
そして、雪ノ下先輩に目線を投げた。
すぐに雪ノ下先輩の手が挙がる。
そこからは、凄かった。
今、考え得る対応策。
それを、当然のように述べていく。
あぁ、先輩も信頼するはずだ。
あんな事、私には無理だ。
時間をかければ、思いつくかもしれない。
だけど、この数秒で。
1度も止まることなく、完璧に。
私が、何かしようなんて思い上がりだ。
最初からいらなかったんだ。
キッツイなぁ。
あの2人がまだ何か言ってるみたい。
でも、頭が理解しない。
周りが立ち上がる。
終わったのかな。
サッカー部の2人が声をかけてくる。
後から行くとだけ伝える。
2人も何か感じ取ったのか、先に行ってくれた。
予想以上にショックを受けてるのかな?
先輩にあんな事を言っておきながら。
結局、心配をかけただけ。
葉山先輩を盾にして、逃げただけ。
そんな事が頭の中をぐるぐる回って。
消えなくて。消せなくて。
そんな時だった。
「1年C組の一色いろはさん。で合ってるかしら?」
先ほどまで聞いていた声。
なんで私に?
私は、はい。とだけ答える。
「少し時間をもらえるかしら?部活のほうは大丈夫?」
次は、首肯だけ。
こんな凄い人が、何の用だろう。
先輩に信頼されて、頼られる人。
「もしよければ、首脳部側の会議に参加してほしいのだけれど。無理にとは言わないわ。あくまで、一色さんさえよければ。」
そこで、ようやく私は顔をあげた。
さっきみたいな冷たい雰囲気はない。
「どうして、わたしなんですか?わたしには、なにもできません。」
先輩には頼れる貴女がいる。
優しい味方もいる。
私は不要でしょう?
「そうね。私としても、お礼を言いたいことはあるわ。けど、それは本人に聞きなさい。」
そう言って後ろを向く雪ノ下先輩。
頭を掻いてる先輩がいる。
すぐ後ろにいたんだ。気づかなかったな。
「一色。力を貸してほしい。ダメか?」
どうして?先輩も見てたでしょ?
私じゃ、何もできないですよ?
私なんか…
「一色?ちょっ、お前なんで…。」
「あら、話しかけただけで後輩を泣かせるなんて、流石ね?比企谷君。一色さん、大丈夫よ。これでも一応害は…ない、とは言い切れないわね。」
泣いてる?わたしが?
そんなこと…。
え?ホントだ。
なんで?ちょっと待って。
人前で泣くとかホントありえない。
「おい。まず俺が泣かした前提をやめろ。そして、言い切れ。害はない。」
先輩達の夫婦漫才はいいんですよ。
漫才しながら、ハンカチ渡さないで下さい。
私の事、あざといとか言えませんよ?
「害はあるじゃない。比企谷菌。」
ヒキガヤ菌?
感染力高そうですね?先輩。
てゆーかこの2人、仲良いな。
先輩のハンカチを借りて、涙を拭く。
人前で泣いたのなんて、いつぶりかな。
しかも、気付かないとか。
「お前それ、小町もだからな。」
また妹さんですか?
ホント、シスコンですね。
「あら、小町さんは小町さんでしょう?あなたと一緒にするのは小町さんに失礼よ。」
「あの、せんぱいのシスコンは分かりました。とりあえず少しお手洗いに行ってきてもいいですか?化粧とか、ちょっとですね。」
雪ノ下先輩が許してくれたので、会議室をでる。
会議室では、先輩がまだ何か言ってる。
はぁー、なにやってんだろ。
しかも、なんで泣いたのか自分でもわからない。
トイレの鏡で確認。
幸い、顔はひどくない。
ナチュラルメイクのおかげ。
ただ、まだ少し目が赤い。
あああああぁぁぁ。
恥ずかしい。
トイレを出ると、先輩がいた。
いや、なんで?
顔見られたくないとか分かりません?
先輩は、「おう」とか言ってる。
おうじゃないよ、ばか。
「大丈夫か?てかどうした?」
どうしたんでょうね。
自分でもよくわからない。
何て答えればいいんだろう。
「何かあったなら、今日はいいぞ?言えることなら明日聞いてやる。だから、無理はすんな。」
「あざとい…。あざといです、せんぱい。大丈夫なので早く戻りましょう。」
先輩と一緒に廊下を歩く。
実はこれが初めてだったりする。
ねぇ、先輩。
心配してくれるんですね。
話聞いてくれるんですね。
明日が、あるんですね。
迷惑じゃないですか?
ホントはうっとうしくないですか?
「せんぱい?変な事聞いていいですか?」
勝手に先輩の力になろうとして。
それができなくて落ち込んで。
訳も分からず、泣いて。
「わたしは邪魔じゃないですか?迷惑じゃないですか?」
きっと、気を使って頼ってくれて。
先輩の枷にはなりたくないです。
「アホかお前。そう思ってる奴と一緒に飯食わねぇよ。」
捻くれた答え。
それと同時に、頭に置かれた手。
大きくて、あったかくて。
少し、乱暴に撫でられる。
それが、何故か心地良くて。
ズルいなぁ。
先輩のほうが絶対あざといよ。
「えへへ。素直に言っていいんですよー?いろは、隣にいてくれって正直に、ほら?」
「おう。明日から別のとこで飯食うわ。」
先輩の手が離れる。
まだ少しあったかい。
「わー、ごめんなさい。ごめんなさい。」
ふふっ。あーあ。
泣いた事なんかどーでもよくなっちゃった。
先輩も恥ずかしい思いすればいい。
先輩の袖を掴んで、こっちを向かせる。
人がいなくて、よかった。
「はちまんせんぱい?許して?」
顔を真っ赤に染めた先輩は、自分だけ足早に会議室へ戻っていった。
あの顔で戻っちゃうんだ。
結衣先輩に怒られても、知りませんよ?
廊下の窓を開けて、顔を冷ます。
秋の涼しさを肌で感じる。
少し火照った顔にはちょうどいい。
もうちょっとだけ、時間を下さい。
このまま戻ると私も怒られちゃいます。
先輩、何ができるかわかんないけど、私がんばります。
申し訳ありません。
まさかの中編になりました。
僕が、1番予想外です。
読んで頂きありがとうございました。