捻くれた先輩   作:超素人

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こんにちは。


2.嫌われ者の先輩。

日曜日をゆっくり過ごし、代休の月曜日はサッカー部の練習のため学校へ。

文化祭のあとなんだから休みでいーじゃんとか思いながら、ヒキタニ君、ヒキタニ君うるさい戸部先輩を横目にマネージャーの仕事をこなし、少しの腹立たしさを感じながら帰路についた。

 

私の願い届かず(願いっていうほどでもないけど)、先輩の悪い噂は驚くようなスピードで学校中に広まっていた。

文化祭後のクラスの打ち上げでは、既に噂されていたくらいだから、かなりの早さだと思う。

そんな噂とかを聞きたくなかったから、葉山先輩が企画した後夜祭には行かなかったのに。

先輩的には予想通りなんだろうけど、どぉするつもりなんだろ。

 

 

 

そして休み明けの今日。

午前中は全て文化祭のクラスの撤去作業にまわされる。

そんな中、やはりクラスの話題は先輩の噂についてだった。

先輩だいじょうぶかな。

 

まだ出会って3日。

話したのもとても短い時間だけど、あの屋上での真相を全て知っている私にとって、先輩だけが悪のように噂されているこの状況はなかなかムカつく。

朝からクラスの男子が、わざわざご親切に私に挨拶をするついでに噂の事を話しにきてくれた。

あーはいはい、情報速いオレカッケェ。

こいつは今後無視しよう。

 

『2年のヒキタニは文実をめちゃくちゃにした挙句、委員長を屋上に呼び出し、暴言を吐いて泣かせ、葉山先輩に殴られた』

 

色々言っていたけど、要約すれば多分こんな感じ。

うーん。文実の件はわかんないけど、あっているのは暴言のとこくらい。本当にいい加減だと思う。

何も見てないくせに、むしろ先輩のことすら知らないくせに噂だけはどんどん拡散されていく。

余計な尾ひれまでつけて。

 

私もあの時屋上にいなければ、同じように面白がって噂だけを信じていたのかもしれない。

もしかしたら、あの葉山先輩に殴られた先輩を見にいったりしたかもしれない。

 

私自身、勝手な噂を流されたこともあるけど、周りが飽きるのを待つしかないと思う。

下手に反論したりすれば、その事をまた面白がって噂される。

葉山先輩は、全ての真相を知っていながらなにもしていないのだろうか。

確かに広まった噂を止めるのは無理かもしれないけど、あの葉山先輩が庇えば、もしかすると少しでも良い方向に傾くかもしれないのに。

 

そんな事を考えながら、いつも通り男子達をうまく使い、作業をする振りをしながら噂に耳を傾けていたら、いつの間にか午前も終わり昼休みに入った。

 

弁当を忘れてしまった私は、パンを買うため購買に向かう。

知り合いの男の子にパンをゲットしてもらい、教室に戻ろうとしたとき、少し先にちょっとだけ見覚えのある背中を見つけた。

 

男の子に適当に礼を言って、ばれないように追いかける。

噂の渦中にいる先輩に、こんな人集りのなかで声をかけるのはちょっと厳しい。

人違いかもしれないし。

 

先輩にバレる事なく尾行していくと、特別棟の一階、保健室横のスペースに先輩が腰をおろした。

周囲に人影はない。

唯一テニスコートで練習の準備をしている人がいるくらい。

ここなら声をかけても大丈夫かな。

 

「せんぱいこんにちわー。また会いましたね」

 

「……」

 

完璧に無視されました。

こちらに視線さえもよこさない。

先輩しかいない事なんてわかってるくせに。

 

「えーと、ヒキタニ?ヒキガヤ?先輩。無視しないでくださいよー」

 

「別に無視したわけじゃない。先輩なんて俺以外にもいっぱいいるただろ。で、誰?あとヒキガヤな。」

 

わざと言ってんですかね、この人。

この前そこそこ喋ったのに、まさか憶えられてもいないなんて。

こっちはそれなりに心配とかしてたのにホントありえない。

 

「あんなに仲良くお話したのに忘れるなんてヒドくないですかぁー?先週屋上で会ったじゃないですかー。一色です。一色いろはでーす。」

 

「あぁ…、あのあざといやつか。で、なんでこんなとこいんの?」

 

「購買で見かけたんでつけてきました。ちょっとお話しません?」

 

「断る。話すことなんかねぇだろ。だいたいこの前お前の質問にはちゃんと答えてやったろ。わかったら戻れよ。俺飯食いたいんだけど。」

 

「えー、いーじゃないですかー。わたしもパンなんで一緒にたべましょうよー。それに先輩にはなくてもわたしには話したいことがあるんですぅー。」

 

「あざとい。お前がいかないなら俺がどっか行くわ。じゃ。」

 

そう言って本当に立とうとする先輩。

なんでこんなに私に対して態度悪いんですかねー。ムカつく。

咄嗟に先輩のシャツを掴み、逃走を阻止。

よし、本気だそう。

涙目、上目遣いで、くらえ!

 

「ダメ…ですか?」

 

「うぐ…。あ、あざとい。ちょーあざとい。」

 

むー、いろはちゃんの本気を簡単にあざといとか。

でもばれてますよ?ちょっと効きましたよね?顔赤いし♪

 

「ふふっ♪正直に可愛いって言っていーんですよ?せーんぱい。」

 

「あーはいはい。ちょーかわいーよーやばいわー。で、もう行っていい?」

 

「うわっ、うざ!せめてもう少し心込めてくださいよー。あ、行っちゃダメです。てゆーか先輩が座るまで離しませんから。」

 

「はぁー…。なんだよ?また文化祭のことか?それとも葉山か?俺あいつと仲良くねーから何も知らんぞ。」

 

「文化祭っていうより噂についてですかね。あとわたしサッカー部のマネージャーなんで、先輩より葉山先輩と仲良いと思いますよ。」

 

「噂?お前も屋上いたんだから知ってんだろ…。」

 

そう、そこじゃない。私が知りたいのは文実のほう。

あとは先輩のいまの教室とかでの状況。

 

「なんか文実をめちゃくちゃにしたとかいう噂もあるじゃないですかー?聞きたいのはそっちです。あと、一応、せんぱいは大丈夫なのかなーとか…。」

 

「あぁ、そんなんも流れてんのな。屋上の件だけかと思ってたわ。お前はそんなん知ってどうしたいの?誰かに確かめてこいって頼まれたのか?」

 

「知らなかったんですね…。んー頼まれたとかじゃなくて、わたしが知りたいんですよ。やっぱり屋上での真相を知ってるから、嘘ばっかりの噂聞いてると腹立ちますし。」

 

「なんでお前が腹立ててんだよ…。文実の件は、俺がやらかしたのは事実だよ。仮に嘘だったとしてもどーしようもないだろ。」

 

「でも、文実をめちゃくちゃにって、なにやらかせばそんなことになるんですか?相当なことしないと先輩1人でそんなことできませんよね?」

 

「お前にそこまで話す必要ないだろ。つかその内その辺のことも噂で流れるんじゃねぇの?知らんけど。もういいか?」

 

「教えてくれないんですね…。わかりました。自分で調べます。」

 

「それはヤメろ。お前が何のつもりで知りたいのかは、この際どうでもいい。変に誤解されて巻き込まれても知らんぞ。」

 

「その辺はうまくやりますよー。なんですか?もしかして心配してくれてるんですか?はっ、ずっと素っ気なかったくせに急に優しくしてお前に気があるアピールですか?せめて葉山先輩くらいになってから出直してきて下さいごめんなさい。」

 

「うぜぇ…。なんで振られてんだよ…。しかも葉山とかどう考えても無理ゲーじゃねぇか。心配とかじゃねーよ。勝手に巻き込まれて、後から文句言われるのがめんどくさいだけだ。」

 

「そんなことしませんよー。せんぱい、クラスとかでは大丈夫なんですか?その、いじめとか。」

 

「この短時間でいじめにまで発展したら怖いわ。まぁ大丈夫だろ。葉山いるし。あいつはクラスでいじめとか許さんだろ。まぁ、相模とその取り巻きがうざいくらいだ。むしろ、クラスの奴らはこの件でようやく俺を認識したまである。」

 

「うわぁ…。せんぱい…、普段どんだけ影薄いんですか。てゆーか葉山先輩も委員長も同じクラスなんですね。だからこんなところで1人でご飯食べてるんですか?」

 

「ひくなよ…。しかも人のベストプレイスをこんなところって…。ここで飯食ってんのは1年の頃からだ。めっちゃいいとこだろ。静かだし、気持ちいい風吹くし。それに、ボッチには教室に居場所なんてねーんだよ。」

 

ボッチなんだ……。

でも、だとしたらクラスに味方とかいないんじゃないのかな。

しかも委員長も一緒。

先輩は精神的にキツくないんだろうか。

 

「ベストプレイスってなんですか?キモいです先輩。まぁいい所だとは思いますけど。でもホントに大丈夫なんですか?そんな状態で。今までもボッチだったなら、今はもっときついんじゃないですか?」

 

「別に。慣れてるからな。小さいころからずっとボッチだし、周りから悪意向けられるのも俺にとっては普通だ。むしろ、高校入って今までなかったのが異常だ。なに?お前こそ心配してくれてんの?」

 

「それが普通の事のほうが異常だと思いますよ…。心配というか、さっきも言いましたけど、他の人よりはホントの事知ってますから。せんぱいだけが悪いみたいに言われるのは納得いかないって感じですかね。」

 

「ふーん。意外といい奴なのな、お前。男なんて道具くらいにしか思ってなさそうなキャラなのに。まぁ俺は大丈夫だ。でも、なんだ、その、サンキュな。」

 

「……。はっ。な、なんですか急にそんな優しい顔して急に素直にお礼言うなんて。もしかしてわたしにほれちゃいましたか?せんぱいと付き合うとかホント生理的に無理です。ごめんなさい。」

 

「生理的にとか…。もっとオブラートに包めよ。泣くよ?泣いちゃうよ?俺は1日に何回お前に振られるんだよ…。しかも告ってもないのに……。」

 

「泣くのはさすがにやめてくださいキモいんで。まぁいーじゃないですか。こーんな可愛い後輩から振られるなんて、Mっぽい先輩にはご褒美じゃないですか?」

 

「だから…。はぁー…。まず可愛くないし、あざとい。あと俺はMじゃねぇ…。」

 

「あざとくないですぅー。せんぱいって実はホモですか?わたしで可愛くなかったらその辺の女の子なんてほとんどブスって事になりますよ。」

 

「おいそれだけはヤメろ。マジで。あとあざとい。お前絶対女子に嫌われてんだろ。そのうちお前のほうがいじめられそうだわ。」

 

「まぁ、見た目よくてこんなキャラしてたら、そりゃ嫌われますよ。先輩と同じです。もう慣れましたし、それが普通です。それにせんぱいだって嫌いっぽいですよね?屋上でも関わりたくないみたいなこと言ってましたし。」

 

「別に嫌いになるほどお前のことなんて知らんし、お前みたいな女子が苦手ってだけだ。それに、俺には他人に好かれるための努力なんかできねーからな。そこは素直にすげぇと思う。あ、口説いてねーから。勝手に振るなよ。」

 

「なんで先読みしちゃうんですかー?はっ、もしかしてお前の事は理解してるぞアピールですか?会ったばっかりのくせ「あーはいはい」って最後まで言わせてくださいよー。」

 

「だって俺が傷つくだけじゃん。まぁお前みたいな奴に騙されて、勘違いして作られた黒歴史がいっぱいあるからな。お前を理解してるとかじゃない。断じて。」

 

「黒歴史ってなんですか?キモいですよせんぱい。でも、さっきみたいなこと言ってくれる人って今までいなかったんで、それは素直に嬉しいです。ありがとうございますせんぱい。」

 

「……」

 

「どうかしました?」

 

「い、いや、なんでもない。」

 

「なんですかー?教えてくたざいよー。」

 

「あー、なんつうの?アレだよアレ。お前猫被る必要あんの?」

 

「それってどーいう…はっ「口説いてないから」だから言わせてくださいよー。ふふっせんぱいもあざといですよ?」

 

「あざとくねーよ。てかお前パン食べないの?昼休み終わるぞ?」

 

「あーー、せんぱいのせいですからね!!!」

 

完全に時間を忘れてました。

あとちょっとしかないじゃん!

でもそれだけ楽しかった、のかな?

それにさっきのも、最後のも嬉しかった。

 

でもせんぱい?気付いてます?

慣れてるとか普通って言ってましたけど、少しだけ表情険しくなってましたよ?

ホントは辛いんじゃないですか?

 

嘘を付いてるとかじゃないんだろうな。

慣れてるから、それが普通だからしょうがない。

そんな風に思って傷ついてる自分を見ないようにしてるのかもしれない。

私だって、自分の事を好き勝手に言われてるのを聞けば、嫌な気持ちにくらいなるし。

 

きっと私にはどうすることもできない。

先輩を昔から知ってるわけじゃないし、先輩の友達とか仲の良い後輩とかでもない。

私にできることと言えば、よくて話を聞くくらいだと思う。あんまりというか大事なところは何も教えてくれないけど。

だったらせめて理解したいと思った。

 

先輩は迷惑だって言いそうだけど。

でも、ちょっとだけがんばってみよう。

まずは、文実と文化祭のことから。

葉山先輩は最終手段。屋上で隠れて聞いてたことあまり知られたくないし。

 

だから、まずは自分のクラスの実行委員かな。

誰がやったのかさえわかんないけど。

 

やっとパンを食べ終わり、それと同時に先輩が立ち上がる。

もしかして待っててくれたのかな?

あ、そんな事なかった。

「じゃな」って言って行っちゃった。

むー最後そんだけですか?

この距離なら声かけても目立たないよね?

よし!気合い入れて…

 

「せーんぱい!またです!」

 

ふふっ♪できればまた明日です。せーんぱい。

 

 

 

 




1日どころか半日しか進まない。
ありがとうございました。

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