ようやく初日が終わります。
今回も全く物語は進みません。
それでもよければ読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
残り少ない温くなったコーヒーをボーっと眺め、現実を受け入れるべきか悩む。
今日は朝から色んな事がありすぎて、明日からの日々に恐怖を抱いたのは学校を出る前のこと。
神様は、明日どころか今日を終わらせる気はまだないらしい。
食べ放題みたいな名前の芸人さんがここにいれば、○峠さんがこう叫ぶに違いない。
『なんて日だ!!!』
私の頭の中では、もう10回は小○さんが叫んでる。
私も先輩も既にドーナツは食べ終えて、はるさん先輩が逃してくれさえすれば、ドーナツ屋からは帰れる状況で、そんな時に先輩の名前を呼ぶ新たな女性の声。
少しの間をおいて、先輩が女性の名前を呼ぶ。
「……折本。」
オリモトと呼ばれたその女性は、可愛い顔にパーマのかかったショートボブ、そして距離感を感じさせない態度で先輩をレアキャラ扱いしてる。
確かに、色々な面で他人とは違う先輩は、間違いなくレアキャラだけど…。
折本さんは先輩の頭の良さが意外らしく、総武であることに少しだけ驚いている。
そんな会話をしている先輩と折本さんだけど、明らかに先輩の様子がおかしいんだよね。
表情は少し硬いし、返答も少し鈍い。
もしかして元カノさん?とか思ったりしたけど、さすがに昔の彼氏の進学先くらい知ってるはずだし。
「どっちが彼女さん?」
「いや「はーい!私でーす!八幡せんぱいの彼女の一色いろはでーす。てゆーか嫁です。よろしくでーす。」
余計な事を考えていて反応できないところだったけど、なんとか間に合った。
今の質問には、どっちも違うだろうけど一応聞いとこうみたいな感情が、顔にも声にも色濃く出ていた。
あなたが先輩をバカにしたいのかは分からないけど、もしそうなら私の敵ということになる。
同級生なのかなんなのか知らないけど、先輩とそんなに関わりがあるわけじゃなさそうだし、少しだけ様子を見よう。
「えーマジ?超意外なんだけどー!こんな可愛い彼女がいるとか比企谷やるじゃーん!」
うん、悪い人なのかどうかどうにも掴みにくい人だ。
先輩は否定しようとしてるけど、折本さんに肩を叩かれて何も言えないでいる。
「いやー、せんぱいはヤバいんですよー。周りに寄ってくるのは何故か美女ばっかりだし。今日もそちらの年上美女に続いて折本さんまででてきて…。」
私はさも彼氏の周囲を心配する彼女のようなフリをしつつ、折本さんも褒める。
褒められて喜ばない女の子なんていませんからね。
「えー、私も比企谷に寄ってきた美女扱いとか。なにそれウケる!」
喜んでるのか、そんな扱いされて不本意なのかどっちか分かんないけど、ウケるって言ってるからいいや。
「もしかして、比企谷君のお友達?」
はるさん先輩…。先輩に友達なんかいたの?って聞こえるんですけど、絶対そう思ってますよね?
折本さんとはるさん先輩がお互いに自己紹介をして、はるさん先輩が先輩に自分達はどんな関係か聞いてるけど、あなたはただの同級生の姉でしょ!
なんで、友達と同級生の姉の間を取って彼女になるんですか!
結局、学校の先輩・後輩で落ち着いたけど、私は後輩であり友達であり、先輩のスマホの中では嫁なので私の圧勝でーす。
折本かおりさんは、やはり先輩の中学の頃の同級生らしい。
んー、ただの同級生ならなんで先輩はあんな感じだったのかな。
折本さんは先輩のことをちゃんと「ヒキガヤ」って呼ぶし、ホントは普通にいい人なのかな。
先輩は中学時代の黒歴史がいっぱいあるみたいだし、それを知ってる人に会ったのが嫌だったのかな。
ここには、先輩と私で遊ぶことに(今日だけで)定評のあるはるさん先輩もいるし。
でも、先輩の名前をちゃんと呼ぶ人をいい人だとするなら、結衣先輩が極悪人になる気がする。
なんたって『ヒッキー』だもんね。
結衣先輩がそんなつもりないのは先輩に対する態度で分かるけど、知らない人が聞けば先輩は引きこもりだ(笑)
そんなバカな事を考えているうちに話は進み、話題ははるさん先輩の提案で先輩の昔の恋バナの話へ。
この流れはダメな気がするんだけど。
「あー、そういえば私、比企谷に告られたりしたんですよー。」
はぁぁぁぁ⁉︎マジで言ってんの⁉︎
先輩は否定するのがめんどくさいのか何も言ってないから、設定では私彼女なんですけど?
普通過去のことだとしても、彼女(仮)の前でそういう事言う?
てゆーか、もしかしてこの人、先輩の黒歴史の一因だったりする?
話した事もないとか言ってるけど、先輩が会話もしないで勘違いとかするかな?
「へぇ、比企谷君が告白ねぇ〜。」
マズイ。あのはるさん先輩の目は、さっきまで私達で遊んでたときよりも、ヤバい気がする。
先輩も気まずそうに、昔のこととか言ってるけどその意図は折本さんには伝わっていないらしい。
その時のことを思い出しているのか先輩の表情が苦しそうで、今まで黙っていた自分に少し腹が立った。
「そう考えると、その時折本先輩が振ってくれて私はラッキーでしたねー!うまくいって今でも付き合ってたりしたら、わたしは大好きなせんぱいの隣にいれないって事ですもんね!よかったですねー、せんぱい?」
先輩は顔をあげて、こっちを見てくれた。
先輩がさっきまでどんな事を考えていたのか分からないけど、きょとんとした先輩に、苦しそうな感じはもうなかった。
そんな先輩の顔を見て、私も自然と微笑む。
「……そうだな。…ありがとな。」
えへへ。先輩の優しい顔は、今日の屋上以来見れてなかったからラッキーですねー♪
はるさん先輩が、すごい冷めた目で「ふ〜ん。」とか言ってるけど、怖いので無視しましょう。
「折本先輩。折角話してくれるのはありがたいんですけど、せんぱいにとっては、少し辛い思い出だったみたいなので、その話は終わりにしてもらえませんか?」
ここで大事なのは、葉山先輩達の時のように、怒って感情的にならないようにすること。
それをまた繰り返せば、結局先輩に迷惑をかけて、また先輩に謝らせてしまうことになる。
へっへーん、私も少しは成長するのです!
「あ、あーごめんねー。私たまに空気読めなくてさー。あ、そうだ。じゃあ、葉山君って知ってる?」
もう。なんでこの人はピンポイントで地雷を踏んでくるんでしょうか。
先輩も今日のことがあるからか、また黙ってしまった。
「あーやっぱ知らない感じ?比企谷は接点なさそうだもんねー。いろはちゃんもあんまり接点ない?」
おー、まさかの距離感無視で、いろはちゃん呼びされるとは思ってなかった。
どうしよう、ここはなんて答えるべきなんだろう。
先輩は、知り合いじゃないとか言ってるし。
サッカー部のマネージャーでーす、なんて言って、紹介してくれなんて言われてもめんどくさいなぁ。
「あーわたしはあの人のこと苦手なんであんまりですかねー。話したことくらいはあるんですけどねー。」
これが1番無難で、あとからめんどくさい事態にならない返答だと思うんだけど…。
「あーそうなんだ…。千佳、残念だったねー。この子も含めて紹介してほしいって子たくさんいるんだよー。」
そう言って、ようやくお友達を紹介すらしてない事に気付いた折本さんは、そのままその人を私達に紹介する。今さら⁉︎
お友達の名前は、仲町千佳さんというらしい。
まぁ2度と会う事もなさそうだし、会っても覚えてないだろうから別にいいや。
この人たちも、葉山先輩と接点ないと思われてる私のことなんて、全然興味ないだろうし。
この時、はるさん先輩が面白そうとか呟いたことを、私と先輩の耳はしっかりととらえていた。
「はーい、お姉さん紹介しちゃうぞ!」
そう言ってそのまま携帯を取り出し、どこかに電話をかけ始めるはるさん先輩。
折本さん達もみんな戸惑ってるんですけど、まさかその相手って葉山先輩とかじゃないですよね?
「あ、隼人?今すぐ来れる?ていうか、来て。」
おーい、マジ何してんですかはるさん先輩。
先輩も全く同じ意見だったらしく、そのままはるさん先輩をあんた呼びしてました。
先輩、はるさん先輩にあんたとか言ったら、そのまま東京湾でサメのエサになりますって…。
とりあえず、ここは戦略的撤退といきましょう。
「あ、はるさん先輩ー。わたしはあの人のこと苦手だし、先輩もあんまり接点あるわけじゃないんで、わたし達はこれで失礼しますねー。折本先輩達は楽しんでくださーい。」
そう言って私は立ち上がったものの、はるさん先輩からすぐに反撃をくらう。
「えー、いいじゃーん。一色ちゃんと比企谷君が帰っちゃったら、お姉さん寂しいなー。ね、比企谷君は帰らないよねー?」
クッソー!この人ホントに帰らせる気ない。
というか、折本さん達に紹介っていうより、先輩と私で遊ぶために葉山先輩を呼んだって考えたほうが、まだ納得できる。
「あー、雪ノ下さん。一色が葉山のこと苦手ってのはホントなんで今回は勘弁して下さい。それに俺らもただ遊びに来たってわけじゃないのは本当なんで。」
せ、せんぱーい!素敵です!愛してます!結婚しましょう!
て事ですんません、とか言いながら立ち上がって私の手を掴む先輩。
行くぞって言って、私を引っ張ってそのまま階段を降りて、ドーナツ屋を出る。
先輩、また手繋いでますけど、このまま夜の街を散歩してお泊まりとか言う展開になります?
私が1人でかなり暴走をしていたら、店を出てすぐに手を離しやがった先輩。
「とりあえず今日はもう帰るか。あんまり遅くなってもお前が危ないし。送ってったほうがいいか?」
「ふふっ。このくらいの時間なら大丈夫ですよ。駅からそのまま帰りますんで。今日は色々ありすぎてお互い疲れましたしね。せんぱいも早く帰ってゆっくり休んで下さい。」
話はまた今度なって言って、私の頭を撫でる先輩。
えーなんですかこれー、めっちゃときめいてるんですけど、どうすればいいですか?
なんだかんだいって、先輩への思いが恋だと自覚してから初めて頭を撫でてもらったけど、これまで以上に幸せ!
えへへー♪先輩は悪い男ですねー♪
駅までは先輩もついてきてくれると言ってくれて、2人で話しながら並んで歩く。
小町ちゃんとのケンカの原因は、修学旅行で何かあった事を目ざとく悟った小町ちゃんが、先輩に色々聞こうとして、その態度に先輩もウザいと言ってしまったことらしい。
今日の朝は、私にどう話すかを悩んでいたことも重なって、先輩もいつも通りの対応ができなかったみたい。
でも私に1度話したことで、小町ちゃんにも話す気にはなったらしく、帰って無視されなければ謝って話を聞いてもらうみたい。
がんばって下さいね、先輩。
駅の前で先輩と別れるときに、少し寂しくなって先輩のブレザーを掴むと先輩がまた頭を撫でてくれた。
「一色。さっきはありがとな。少し軽くなったわ。お前は俺に遠慮してるのかもしれんが、困ったらちゃんと頼れ。俺ばっかりお前に助けられても意味がないだろ。」
せんぱい…。
でも…、私は先輩の負担にはなりたくないです。
私のことで先輩が無駄に悩んだりするのは、私にとってすごく嫌なことなんです。
それに、私は先輩を少しでも助けてあげられたんだったらそれで充分なんです。
「はぁ…。あのな、一色が俺に傷付いてほしくないとかよく言うだろ?それは俺も同じ気持ちなんだよ。なんて言ったらいいのかわからんが、そんな感じだ。」
せんぱい…、大好き。
その言葉が口から勝手に飛び出していってしまいそうになる。
それくらい嬉しくて、胸があったかくて、どうしようもなくなった私は、言葉の変わりに先輩の胸に飛び込んだ。
先輩が想像通りに慌ててるけど、こうでもしないと今すぐ気持ちを伝えてしまいそうで。
伝えたくないわけじゃない、気持ちを先輩に知られたくないわけでもない、でも今は言えない。
今日の屋上で、色々な目標みたいなものを心に決めた。
でも今日の奉仕部を見てもう1つ思ったことがあって、私はあの2人には、先輩の近くにずっといてくれたあの2人だけには、ちゃんと向き合って勝ちたい。
今の奉仕部の状態で自分勝手には動きたくない。
勝ち負けじゃないのかもしれないけど、先輩の隣は渡しませんってちゃんと伝えたい。
修学旅行の真相を私しか知らない状態で、先輩に好意を持っている結衣先輩を出し抜くような事だけは、私はしたくない。
きっと結衣先輩も、先輩にこれ以上傷付いてほしくないって思ってるから。
雪ノ下先輩がどういう思いで、先輩のやり方が嫌いって言ったのかは私には分からないけど。
もし雪ノ下先輩が先輩に対して好意を持っているなら、ちゃんとその思いを自覚して向き合ってほしい。
だからせめてそれまでは……。
「せんぱい。ありがとうございます。すごく嬉しいです。」
先輩に抱きついたまま、それだけを伝えてゆっくり離れる。
そのまま別れの挨拶だけをして、私は改札をくぐる。
少し遠くにいる先輩が、まだ私の事をしっかり見てくれているのに気付いて、先輩に向かって笑顔を見せた。
今日は厄日だって思ってた。
色々な事が起きて、色々なことを思って、なんて日だって何度も心の中で叫んだ。
でも、嫌なことばっかりじゃなくて、嬉しい事もちゃんといっぱいあったから。
すぐに変わる自分の気持ちに不安になったりもしたけど、今日1日で大きくなった気持ちもあるから。
だから、明日からもがんばろう。
生徒会長のことも、私の事を笑ってる人達なんて無視して、ちゃんと1から考えてみよう。
めぐり先輩が言ってくれたみたいに、自分の気持ちをしっかり探してみよう。
明日からも良い日が続くといーな♪
もっと進めろと言われるかもしれませんが、このくらいが自分で読んでみても丁度良い文字数かなと思います。
読んでいただきありがとうございました。