ダイの大冒険異伝-火水の法則-   作:越路遼介

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レオナ立つ

 べンガーナ攻めも終え、帰国の途につくべく、帝国軍がその準備をしている時、ポップの元に知らせが入った。

「申し上げます。カール王国軍が帝国ディーノに攻め入るべく進攻を開始いたしました」

 ポップは人間に化けられるエルフの男たち数名に、ベンガーナを攻撃する前すでにカール王国に密偵として入るよう命じてあった。そしてカール王国立つの報はポップにもたらされた。

「ヒュウ」

 ヒムは口笛をならした。

「いよいよ師アバンと直接対決というわけか。まさか今さら先生とは戦えないなんて言わないよな」

「馬鹿を言え」

 ポップは苦笑してヒムの冗談に答えながら密偵に聞いた。

「で、カール王国軍の編成は?」

「はっ、アバンを総大将とし一部隊四千の兵数が五軍。計二万の軍勢です。騎馬隊、鉄砲隊、弓矢隊、魔法隊、大砲隊、重装歩兵隊、軽装猟兵隊と陣容も充実しております」

「へえ結構な大軍じゃないか」

「俺が思うに…」

 ラーハルトがポップに話す。

「滅亡したロモス、パプニカ、リンガイアから兵が流れていったのだろう。このベンガーナはともかく、その三国を攻め滅ぼした時は我らも少数だったからな。逃亡者すべてを殺せなかったのも無理はない」

「そうだな。まあこうして集まってくれて向こうからやってきてくれるのだ。手間も省ける。で、先生、いやアバンの両翼の大将は誰か」

「ハッ アバンの妻フローラ王妃、リンガイアのノヴァ、そしてパプニカのレオナ姫となっております。その他、拳聖ブロキーナ、大魔道士マトリフ、僧侶レイラも参陣の由」

「ほう、そうそうたる面々ではないか。エイミにとってはかつての主君と戦う事になるわけだな」

「彼女を主君と仰いだのは、もう昔の事。あの女はダイくんの仇も討とうとしない腰抜け。遠慮なく首を切り落としますわ」

 ヒムは肩をすくめた。

「ククク…何とも勇ましいな。で、ポップ。レオナと云う女はアバンの輝聖石にも選ばれし者と聞くが、実力はどうなのだ。そこそこ強いのか?」

「持って生まれた将の気質…と云うのは否定できないかもしれんが彼女自身にさほどの武力は無い。ベホマもザオラルも使える中々の賢者と聞くが今のエイミの足元にも及ぶまい。ただ、今言ったように将としての器は十分にある。兵もそれなりに士気が上がり強くもなる。一応戦場ではレオナの軍勢には気をつけたほうが良いだろう」

 その言葉を言い終わると、帷幕の玉座からポップは立ち上がった。

「この戦いは俺一人でカールと戦う。空中から攻撃呪文の雨を降らせりゃすぐ終わる。それがかつての師、アバンに対する俺のけじめだ」

「いや、それは駄目だ」

 ラーハルトがポップを諌めた。

「確かにお前の力を持って、その戦法を取れば十分に勝てる。しかし今やこの戦いは俺たちの戦いでもあるのだ。大将のお前一人、行かせるわけにはいかん」

「そうそう、俺も暴れたいしな。大将のお前は陣でドンと構えていろよ」

 ポップは一瞬とまどいを見せたが、すぐに微笑を浮かべた。

「わかった。皆の言うとおりにしよう。サリーヌ、兵たちは整列を終えているのか」

「御意、鼓舞をされますか」

「よし」

 ポップは帷幕の出口に歩きだした。モンスター、ドワーフ、エルフ、マーメイド、ホビットの連合軍隊が整然と並んでいる。統率の取れた軍隊の証だ。サリーヌはポップに台座を用意した。ポップはそこに立ち上がり兵たちを鼓舞する。

「カール王国が我が国、帝国ディーノに進攻を開始した。おそらく人間が組織的に我々に攻撃を仕掛けてくるのは、これが最初で最後だろう。ゆえに奴らも死に物狂いのはずだ。絶対に油断はするな」

 まだ二十歳にも満たない若者とは思えないほどの威厳と気迫でポップは兵たちに鼓舞する。

余のためだけではない、そなたたちの居場所、せっかく手に入れた安住の地を守るため、皆の力を貸してくれ。帝国ディーノ、総力をあげてカール王国と戦う。すぐに陣払いだ!」

「「ハッ!」」「「オオッ!!」」

 モンスター、ドワーフ、エルフ、マーメイド、ホビットの兵士たちは勇ましくポップの鼓舞に応えた。

 

◆  ◆  ◆

 

 帝国軍は軍勢を引き、数日後に帝国ディーノに辿り着いた。城ではポップと魔将たち、各種族の長、そしてサリーヌが軍議を開いた。

「物見の報告によると、カール軍は各地の義勇軍や有志隊と合流し、いまや兵力は敵方の方が上です」

「ずいぶん集まったものだな」

 敵方の軍勢総数を聞きヒムは少し驚いた様子で言った。ラーハルトは腕を組んだ。

「パプニカを始めとして、我々は王家を中心に攻撃をしてきたが、復旧中の北国オーザムや世界中に点在する村や町にはまだ触手を伸ばしてはいない。たぶんそこから出兵したのだろう。ましてや総帥はアバンだ。勇者の名は今だ世界に根強い。義勇兵が彼の元に集まるのも道理だろうな」

 ラーハルトの言葉が終わると、サリーヌは続けて説明しだした。

「そして行軍の速度から言って、五日後には帝国に到着するものと思います。それで問題はどこでカール軍を迎え撃つか、ですが…」

 サリーヌは長いスティックを地図上に示した。

「カール軍が帝国に至るまでに戦場として適しているのは、ここ旧リンガイア南西の山脈のふもと、タウラス平原…」

「そうだな、そこしかない。どうせなら広い場所で大暴れしたいしな」

 今回はヒムもサリーヌの意見にすんなり同意した。ラーハルトにも異議は無いようだ。2人はポップに視線を向け、それにポップはうなずいた。

「サリーヌ、全軍にタウラス平原にてカール王国軍を迎え撃つ旨を伝えよ」

「御意」

(アバンは私にとっても邪魔な存在…せいぜい私のために露払いして下さいね…魔王様…)

 

◆  ◆  ◆

 

 話は一ヶ月ほど前にさかのぼる…。

 帝国軍がベンガーナに進攻を開始した当たりである。この日カールは雨だった。カール王国の城門にみすぼらしい身なりの若い女がフラフラとやってきた。胸には赤子を抱え、長き旅のすえ、ようやくこの城門に辿り着いた、そんな感じであった。

 カール王国は基本的に城門は閉じない。その姿勢そのものがバーンを倒した後の平和を象徴していたが、ポップの挙兵以後に閉じられるようになった。

「ハアハア…」

 その女はやせ細り、歩くのもおぼつかなかった。そしてカールの紋章を見て、ようやく辿り着いた安堵からか、城門前で崩れ落ちた。だが赤子だけはしっかりと離してはいない。冷たい雨が容赦なく、女に降りかかる。その光景は門番の視界に入り、門番はその女に駆け寄った。

「オイ、しっかりしろ!!」

「…お、お願いします。国王陛下に…アバン様にお目通りを…」

 ういうと、その女は気を失った。

「…すごい熱だ。一刻を争う。城下の病院へ運ぶぞ!」

 門番は同僚の兵士に呼びかけ、その女と赤子を城下へと運んだ。

 

「…う、うう…」

 その女は悪夢を見ているのか、うなされていた。汗も額から絶え間なく流れてくる。その汗を優しく拭き取っている女がいた。高貴な雰囲気を漂わせる女であった。

「ハッッ!」

 うなされていた女は起き上がった。

「久しぶりね…メルル…」

「フローラ様…」

 メルルと赤子は城下の医者に運ばれた後、城の医務室に移された。城下町の医者がメルルを知っていたからだ。その医者はバーンとの戦いの時、カール軍の軍医をしていた。そのおりにメルルが一時看護婦をしたことがあって、面識があったのだ。当然のことながら医者はメルルがポップと結婚したことも知っていて、ことの重大性から医者は秘密裏に王妃フローラに報告した。

 魔王の妻が城下にいる。この事実が町に伝わればメルルと赤子の命は危うい。報告を聞いたフローラは医者に城内の医務室にメルルを運ぶよう命じたのである。

「ずいぶんとうなされていたわね…怖い夢でも?」

「…夢ではありません…。現実の光景です。頭から離れず、ずっと夢に出てくるのです…」

「現実の光景?」

「…父ジャンク、母スティーヌの最期…主人がパプニカを滅亡させたと云う報を聞いた日、二人は自ら命を絶ちました…。首を括り無念そうに死んでいた父と母の顔…忘れられないのです…。祖母のナバラが亡くなり…肉親を亡くした私に本当に優しくしてくれた父と母…それが…それが…」

 シーツの上にメルルの涙が落ちる。

「そう…ポップのご両親…自害されたの…」

「その後…私は逃れるようにランカークス村を出てきて、アバン様にお会いすべく今まで旅をしてきました…」

 ベッドの上でメルルはフローラに平伏した。

「お願いします。アバン様に会わせて下さい!」

「アバン、いえ陛下はここにはいないわ…彼は今、破邪の洞窟に行っているの。もう一度修行をしてくる…そう言っていたわ」

 そういうとフローラはメルルの手を握った。

「貴方が陛下に言いたいことは分かっているつもりよ。だから今はお休み…熱はまだ下がっていないのよ」

 メルルは自分のベッドの横にある籠の中に赤子がいるのを見て少し安心したようだ。

「あの、この子にできればミルクを飲ませてあげたいのですが…」

「大丈夫。先ほどたくさん飲んだわよ。安心しなさい」

「…そうですか…」

 メルルは長旅の疲れと熱のためか、また眠りに入った。やつれはて、とてもまだ二十歳を向かえる前の乙女とは思えないほどだった。そんなメルルの頬をフローラは優しく撫でた。

「かわいそうに…」

 

 それから五日間ほど経ったのち、アバンが城に戻ってきた。彼もまた最下層に辿り着いたのだ。智勇兼備の彼らしく、ポップやエイミとは異なる成長段階を経て彼もまた強くなった。

 勇者の彼は、この洞窟でギガスラッシュ、ギガソード、ミナデイン、マジャスティス、そして弟子ダイの技であったギガブレイクも習得していた。無論、ポップも破邪の洞窟を攻略した際、これらの特技の習得方法を理解したものの、魔法使いの彼には習得が不可能であった。

 アバンは光の魔法、特技ではポップを上回ったのかもしれない。しかしアバンはポップが魔界の大魔の洞窟を踏破したことは知らない。

「心配をかけたね…フローラ」

 洞窟から抜けて、風呂に入り無精ひげも剃り、髪と衣服を整えアバンは愛妻の前に出た。臣下のいない自分たちの居室で口づけをかわす二人。この平和がいつまでも続けば、と2人は願っていた。しかし歴史はどんどん動いているのだ。やがて2人は居室のソファーに腰を下ろした。

「カール騎兵はいつでも出陣が出来るように指示してあるわ。オーザムからの義勇兵。あとリンガイア、パプニカ、ロモスから落ち延びてきた兵が加わっているわ」

「心強い限りだ。あとは主戦場を特定して作戦を練る段階だね」

 アバンはフローラの出した紅茶を飲みながら言う。

「ある意味、バーンより恐ろしい存在となってしまったなポップは」

「そうね…まだ魔物に攻撃されたほうが良いわ。敵の大将が人間だなんて…」

 

 アバンはポップが魔王として侵攻を開始した時、自国の領民やカールに救いを求めて他国より流れてきた移民たち。これらに突き上げを食らう形となった。

(弟子の罪は師の責任)

(勇者があの悪魔を指くわえて見ているのか)

 ひどいのになると、

(カールがいまだ無事なのは、アバンとポップが結託しているからではないか)

 とまで言われる有様だった。アバンは聞こえないふりをした。人の口に戸板はつけられない。しかしアバンとて神や聖人君子ではない。時には王ゆえの孤独を感じ酒をあおった。そして出した結論はもう一度破邪の洞窟に挑みレベルアップを図り、ポップを倒す事であった。

 

 やがて2人の居室にメルルが呼ばれた。

「私に用と云うのは、ポップを倒して欲しいと言うことだね?」

「いえ、違います」

「違う?」

「娘を預かっていただく…あの人の娘と知られれば殺されてしまいます。このカールが一番安全と思ったのです」

「…メルル、貴女は」

 フローラの予想していた通り

「はい、夫ポップの元に参ります。そして討ちます」

「やめておきたまえ」

「しかし…!」

「非力な君では彼の前に辿り着く前に殺されるだろう」

 アバンの言う通りである。ポップが身内には非情に徹しきれていないとエイミ始め幹部たちも分かっているので元妻のメルルは最悪の刺客になりかねない。帝国兵たちはメルルを見るや必殺せよと指示されていたのだ。メルルは知らぬことだが、アバンの耳にこの情報は入っていた。メルルを帝国に向かわせるわけにはいかない。

「刺し違えることさえ…」

「不可能だ。母娘共々、このカールに留まりなさい」

「でも…これ以上あの人に罪を犯して欲しくないのです。たとえ、それがあの人の命を奪う事であっても」

「それは彼の師たる私も同じ思いだよ」

「陛下…」

「私はポップを討つ。彼が狂ってしまった理由は分かる。だからと云って3つの国を滅ぼし、数万の人命を虐殺したことは許されることじゃない」

「その通りです。ノブレス・オブリージュ、私たち王族にはそれなりに義務も生じます。個の情より国として、カール王国としてあの魔王を討たなければなりません」

「フローラ様…」

「城から少し離れているが、ここから南西方向にシャルイ山と云う私の生家が持つ山があり、そこに小さいが山小屋がある。体が治ったら母娘ともどもそこへ行きなさい。畑や井戸もあるし、当面の生活に困らないよう食料や薬草類、お金も運んでおいた」

 メルルは一瞬とまどったが、アバンの言いたいことは理解できた。もうメルルでは手に負えない段階に至っているのだ。

「今回の戦い。カールが私が勝ってもポップへの憎悪は世界の人々からは消えないだろう。できれば城内にいさせてあげたいが、私の目を盗み君を害するものが出てくるかもしれない。薄情と思うかもしれんが受け入れてほしい」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」

 アバンは優しくニコリと笑った。フローラもそんなアバンを見て微笑んだ。

 

◆  ◆  ◆

 

 カール王国はアバンが破邪の洞窟より帰ってきてから、急に慌しくなった。大軍の出兵である。武具、食料、ゴールドの確保も一苦労であるが、王妃フローラ指揮のもと、円滑にそれは進められていった。アバンは作戦の立案と、さらに自分の戦闘力を高める訓練に没頭していた。

 そんな時、ノヴァがアバンのもとを訪ねてきた。私室にて、リンガイア近郊の地図を見つめてアバンは言った。

「そうですか…ロン・ベルク殿が亡くなりましたか…」

「はい…ポップはもう血に飢えた悪魔です…」

「…で、カールに何用かな」

「今回の出兵、私も随伴させて下さい。師の復讐を誓ったものの、残念ながら私一人では奴には勝てません。ですがアバン様と一緒ならきっと勝てる!」

「いいでしょう。こちらとしても強い仲間は一人でも欲しい。しかし、これだけは言っておきます。フローラ采配のもとに、バーンパレスにミナカトールを唱える際、モンスター軍団とパプニカ、カールの騎士団やロン・ベルク殿がそれらと戦いましたね。それに勝つことができたのは、ロン・ベルク殿が言ったようにモンスター兵に統率が無かったからです。一致協力する術を知らなかったからです」

 ノヴァはその時の戦いを思い出しながらアバンの言葉を聞いた。

「しかし、今回は違う。ヒムとラーハルトの指揮のもと、モンスター兵は一枚岩となり、その統率は一糸乱れずと聞いています。そしてホビットなどの軍勢も人間を骨のずいまで怨んでいるため、その士気たるや凄まじいものでしょう。モンスター兵も陣列を組み、作戦も駆使し、潜在的には人間よりも強い種族の連合軍が相手です。今回の戦いはあの時と比較にならないほど過酷かつ熾烈なものとなります。だから当然、討ち死にの覚悟はしてもらいます。良いですね」

 ノヴァは強くうなずいた。

「もとより覚悟の上です。父も、師もポップに殺されました。奴の首を取るためなら命などいりません!」

 アバンもその決意に強くうなずいた。

「結構、では君には第二陣の指揮を頼むとしよう。今日から出兵の日までの軍議は必ず出席するように」

「御意」

 ノヴァはアバンを主君と認めるかのように、そう答えた。

 

 やがてノヴァはアバンより許可をもらい、ダイたちが祭られている廟堂に喪服を着て赴いた。ダイたちの冥福を祈ると同時に、仲間たちの霊に『ポップ打倒』を誓うためである。祭壇に向かいひざまずき、ロン・ベルクの死を祭られているダイたちにノヴァは報告した。

「ダイ、先生が君の元に旅立ってしまったよ。おそらくは今ごろヒュンケルと一緒に剣の稽古をつけてもらっているころかな。俺もいずれ仲間に入れてもらうよ。3人でかかれば、さすがの先生にも一太刀は入れられるさ」

 ノヴァにとり、廟堂の静寂さが心地よかった。師ロン・ベルクが亡くなってからは久しく無かった安らぎでもあった。しかしその時、廟堂のドアが開いた。

「久しぶりね…ノヴァ」

「姫様…」

 ノヴァはレオナのやつれた顔を見て驚いた。ノヴァの知るレオナは快活で笑顔のよく似合う美少女であった。その面影がカケラも見られなかったからだ。

「…私の顔に何か?」

「…おやつれに…なられましたね…」

 レオナはその言葉に微笑を浮かべた。そしてノヴァのいる場所まで来た。

「このたびの出兵、私も将として加えてもらいます。旧パプニカの騎士団の生き残りを従え、魔王ポップと戦います!」

 驚くノヴァ。

「そ、それをアバン様はご許可なされたのですか?」

「いいえ、これから頼みに行くところです」

「失礼ながら姫さま。この戦いは生きて帰れる保証はございません。城に留まれたほうが宜しかろうと」

 ダイの肖像画を見つめてレオナは言う。

「私、ダイくんが亡くなってからずっと泣いている毎日を送っていた…。そしてパプニカもポップに滅ぼされて今はエルフ族の国となってしまい、死んでしまいたいとさえ思ったわ。そうすればダイくんにも死んだ仲間たちに会えると…何度刃物を手首に当てたか分からない」

 悲壮感ただようレオナの横顔をノヴァはじっと見つめている。

「でもある日思ったわ。死んでも何も解決しない。泣いても何も変わらない…。だから私、戦う!自分自身と、ポップと戦う。そう決めたの」

 ノヴァはやつれたレオナの横顔に力強い決意を感じた。

「あとエイミ。今では三賢者ではなく魔将エイミ…。彼女だけは私が殺す」

 静かなる怒り。ノヴァはそんな印象をレオナに持った。

(及ばずながら、私が姫様をお守りいたします…)

 バーンと戦っていた当時、ノヴァはレオナに恋心を抱いていた。だが身分の違い。そしてレオナがダイを愛していることを知っていたノヴァはその恋心を胸にしまった。してはいけない恋だった。だがノヴァはかつての自分の恋心に今誓った。

(たとえ我が身が焼かれようと姫を守り通す。それが俺の姫への愛の証なのだ)

 

 軍事物資も充実し、兵の士気は天を突かんばかりとなったカール軍。雲ひとつ無い晴れ渡った吉日。いよいよカール軍は城を出て帝国ディーノに進攻を開始した。出陣式には王宮楽団のファンファーレが鳴り響き、我らが王アバンの出陣、我らが勇者の出陣と領民は歓呼してアバンと将たちを見送った。

 途中、各地の義勇軍、有志隊も参陣し行軍に加わった。王妃フローラはこれも想定し資金や兵糧、物資も充実させていた。後年『名宰相でもあった』とも言われる由縁である。

 その有志隊の中にはロモスにおいてゴールデンメタル騒動でダイと小競り合いを起こした偽勇者一行のでろりん、へろへろ、まぞっほ、ずるぼん。同じくロモスの武道大会にてマァムと共に決勝トーナメントに進んだ戦士たち。小数ながらテラン軍、マァムの母レイラは、夫ロカとマァムの位牌を持って参陣に望んだ。

 マァムの師、拳聖ブロキーナも嘘か本当かは不明だが病を押して参陣した。そして齢百を向かえるマトリフもはせ参じていた。

 

 まさに種の存続を賭けた戦いである。それがかつて友だった者たちが敵味方に別れて繰り広げられることとなった。勇者ダイはあの世でこれを見てどう思っただろうか。


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