人生はとても美しい────。
以前そんな言葉を聞いた事がある。
だが、何もかも失った彼にはそんな言葉も空回りしてしまう。
先日親友が死亡し、彼を守ってくれる人はいない…。
この世界には街を蹂躙する怪獣も、それと戦うウルトラマンもいない。
今の彼にあるのは絶望、そして闇だ。
(……もう俺がこの世にいる理由なんて無い)
彼は雨が激しく降る夜、何も持たずに家を出た。
帰るつもりなんて更々無い。
この世からも…。
ネオン街は鬱陶しい程の輝きを放ち、まるで偽物の光で心の闇を消し去ろうとしてるみたいだ。
その中を彼はフラフラと歩いていた。
「でさー、あそこの店さー」
「まあまあ、今夜、一杯どうだ?」
「あ、いいっすね」
通り行く人々は彼の事など気にせず歩いていく。
「ヘイ彼女、俺達と良いことしない?」
数人の男達が彼に声をかけた。
「あ、その、大丈夫です。それに、男なんで…」
「あっそう。…お前家は?大丈夫なん?」
「大丈夫、です」
彼は言葉に詰まりながらも話しかけてきた男達に返した。
「ま、夜は気をつけろよ」
「はい…」
そう言って彼は男達と別れた。
そして、彼は一つの手頃な高さのビルを見つけ、その上に続く階段を登り始めた。
(もうすぐ…自由に…)
どうせ短い命だ。
いつ捨てようと大差は無い。
ビルの屋上まで登った彼はビルの端に寄った。
(さようなら、父さん、母さん、奈央…)
彼は目を閉じ、飛び降りようとした。
その時、ビルの後ろから見たことの無い怪人達がビルの高さを越えたジャンプをして現れた。
「な、なんだ…!?」
彼は思わずしゃがみこんでしまった。
「貴様か!奴を捕らえろ!」
怪人の命令で黒いスーツとマスクを被った男達が高い声をあげ、彼を捕まえようとした。
「逃げなきゃ…!」
彼はその場から逃げ出そうとした。
すると、どこからか電車のような音が聞こえ、空から電車が線路を作って彼と怪人達の間を通り過ぎた。
電車が通った後には仮面ライダー電王ソードフォームと仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2がそれぞれの武器を持って立っていた。
「俺、参上!」
「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」
「え?か、仮面…ライダー…?」
彼は目の前に立った二人を見て言った。
「おっと、誰か人がいたのか…しょうがねえ、永夢、こいつを頼む」
「はい。モモタロスさんはこっちをお願いします」
「任しとけ!」
そう言ってソードは怪人達に切りかかって行った。
「さあ、逃げましょう」
「あ…ああ」
エグゼイドは彼を連れてその場から離れた。
「あの、貴方は一体…」
「俺は仮面ライダーエグゼイド。医者であり、仮面ライダーだ」
「医者の仮面ライダー?」
「ああ。とは言っても、研修医だけどな」
二人は階段を降りながら話していた。
「行くぜ行くぜ行くぜェーッ!」
ソードはデンガッシャーを振り回してショッカー戦闘員をなぎ払い、リーダー格のクワガタの様な怪人、ンマグッタスの前に立った。
「おい、もう一体蜂みてえな奴がいただろ。そいつはどこへ行った」
「ンマービならもう一人のライダーを追ったぞ?」
「チッ、めんどくせえな!」
ソードはンマグッタスにデンガッシャーを振り下ろした。
「ふん!」
ンマグッタスはクワガタのアゴの様な器官でデンガッシャーを受け止めた。
「どうだ?手も足も出まい!」
「そうだな、確かに手も足も出ねえが…」
ソードは懐からライナーパスを取り出し、ベルトにかざしてエネルギーを溜めた。
『フルチャージ』
デンガッシャーにエネルギーが溜まり、ソードはそのままンマグッタスを真っ二つに切り裂いた。
「うわああああああ!」
ンマグッタスは断末魔と共に爆発した。
「刃は出るんだよ、しかも凶暴にな」
そう言ってソードはデンガッシャーを担いだ。
「こっちだ、早く!」
エグゼイドは彼を連れて夜の街を走っていた。
すると、蜂の様な怪人、ンマービが蜂の様な羽根を広げて飛んできた。
「な、なんだお前は!」
「私はンマービ!蜂の様に舞い、蜂の様に刺す!」
「どうせ蜂じゃないか!」
そう言ってエグゼイドはガシャコンブレイカーを構えた。
「このンマービ、蜂の子を守るためにも全力で行く!」
そう言ってンマービはいきなり宙に飛んだ。
「早速飛んでるじゃねえか!」
「何だっていい!勝てばいい!それだけ!」
そう言ってンマービは手に持った槍でエグゼイドの方に向かってきた。
「はっ!」
エグゼイドは前転で攻撃を避け、ガシャコンブレイカーを地面に突き立てて飛び蹴りを放ってンマービを槍から離した。
「うっ!」
槍から引き離されたンマービは地面に転がった。
そして、エグゼイドは槍を引き抜いて別の場所へ放り投げ、ガシャットをガシャコンブレイカーに挿入した。
『キメワザ!』
エグゼイドはガシャコンブレイカーにエネルギーを貯め始めた。
『MIGHTY CRITICAL FINISH!』
エグゼイドの目とガシャコンブレイカーの刃が光った。
「はぁぁーっ!」
エグゼイドはガシャコンブレイカーから巨大な衝撃波を放ってンマービに直撃させた。
「グァァァーッ!」
ンマービは爆発を起こした。
『GAME CLEAR!』
電子音声と共に敵が倒れた事を確認し、エグゼイドはガシャットを外してベルトを外した。
「さあ、もう大丈夫ですよ」
「あ、ありが…とう」
永夢は頷き、彼が立つのを手伝ってやった。
その後、ソードも変身を解除してデンライナーに戻り、零も永夢を迎えに来た。
「お疲れ様です、宝条さん」
「そんな気を遣わずに、永夢さんとか、下の名前で良いですよ」
「あ、そうですか?じゃあ、永夢さん、お疲れさんです」
「お疲れ様です。…あ、そう言えば、貴方はこんな夜に一体何をしていたんですか?こんな夜に女性一人じゃ危ないですよ?」
零はとりあえず持ってきた懐中電灯で彼の身体を照らした。
「……!?俺…?」
「え!?」
永夢が連れて逃げていたのは、違う世界線の過去の零だった。
「道理で声が似てると思ったら…」
「…そうだ、確かこの日、この時間、俺は───」
零は思い出した。
親友の玲司が死亡し、全てに絶望して自ら命を絶った事を。
「な、なんで俺が…?」
過去の零も酷く驚いていた。
「…まあ、こう言う事になっちまった、って言うか、そんなとこだ」
「は、はあ…」
「で、これからどうするんだ、お前」
零は過去の零に言った。
「…未来から来たんなら分かってるだろ。俺は自分の命を絶つ」
「それって…!ダメだ!そんな事をしちゃ!もっと自分の命を大切に──」
永夢は過去の零の肩を掴んだ。
「うるさい!うるさいうるさい!そんな言葉はもう届かない!もう聞かないんだ!そんな綺麗事!」
「……!」
過去の零は永夢の手を振り払い、彼の言葉を遮って叫んだ。
「なあ、教えてやれよ、未来の俺。俺が何でこんなにも絶望したか。俺が教えるのもお前が教えるのも変わらないし」
息を切らしながらも過去の零は零に向けて言った。
「…一体、何があったんですか、零君」
「……数年前、この仕事に就く前、俺は酷いイジメを受けていたんだ…」
『テメエ見てるとイラつくんだよ!』
『いつもナヨナヨしやがって!見ててストレスが溜まるんだよ!』
『そんなに髪を伸ばしてモテたいのかよっ!』
『やめろ!やめて…っ!』
『少し何でも出来るからって調子に乗んな!』
辛い過去が零の頭を何回も過ぎっていく。
「酷い…そんな事が…」
「俺はその度に玲司に助けて貰ったんだ。けど、その玲司が数日前に亡くなって、俺は酷い暴力と理不尽を受ける毎日。助けでくれるやつなんて誰もいない。だから俺は悟った。こんな世界なんだ、って。こんなに醜く汚い世界に綺麗事なんて通じないんだ、ってな」
「だから、命を絶っても良いって言うのか!?」
「ああ、それに俺には───」
零は過去の零の頬を強くぶった。
あまりの強さに過去の零は地面に転がった。
「……いい加減にしろこの野郎!さっきから聞いてりゃ、なんだテメエは?」
零は過去の零の襟首を掴んだ。
「こんな世界に絶望しただの、世界が醜いだの、どーだって良くなるんだよそんなもん!」
「え…?」
「人間なんてなぁ、少し自分が変わろうとする勇気を出せば周りも変わるんだよ!だからまだ諦めんな。もう少しだけ生き抜いて、立ち向かってみろ」
そう言って零は過去の零を離した。
「そう…なのか?俺は…変われるのか…?」
「大丈夫だよ。人は変われる。まだ君は、サナギなんだ。これから、羽を広げるんだよ」
そう言って永夢は過去の零の手を強く握った。
「変われるかなぁ…!?俺、変われるかなぁ!?」
過去の零のその目には、涙が浮かんでいた。
「大丈夫。羽を広げられば美しい蝶になれる。美しい人生になるさ、未来に希望を持ち続けて生きていれば」
永夢はニッコリ笑って強く頷いた。
「ああ。同じ俺なんだ。変われる筈だ、俺なら」
零も過去の零の手を強く握った。
「あ、あああ…!ありがとう…!」
過去の零は涙を零して頭を下げた。
「ほら、泣いてる場合じゃねえだろ?早く帰って三人を安心させてやれ!」
そう言って零は過去の零の背中を強く叩いた。
「ありがとう!未来の俺!頑張って変わってみるよ!」
そう言いながら過去の零は手を振ってどこかに走り去ってしまった。
「これでここの零君の未来は変わるのかな?」
「どうでしょう…イジメ以外に、何かとても大事な事があったような…?」
しかし、零は思い出すことが出来なかった。
「きっとその内思い出しますよ」
「そうだと良いんですが…」
そう言って永夢と零は開けっ放しの扉からデンライナーに戻った。
今回はここまでです。
まさかお前ら会うのかよと1人くらい言いそう。
それではまた次回!