Olgamally of Cinder   作:BBBs

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存在

 

 彼女にとって生きることは地獄であった。

 しかしその地獄の始まりは、疾うに記憶の中から無くなっていた。

 

 思うことは死にたくないと言う事だった。

 それはいつしかどうでも良くなっていた。

 

 忘れ去られた記憶の中、残るものは数少ない。

 それを失う恐怖が、生き続ける毎に肥大化していく。

 

 だが、それすらも忘れ去ろうとしていた。

 残るもの、残っていたもの、摩耗し続ける今に有るのは成り果てる恐怖のみ。

 

 彼女はそれを恐れ、僅かに残る自分をかき集めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

『……マリー?』

 

 フードを取った存在、ロマニからマリーと呼ばれたオルガマリー・アニムスフィア。

 くすんだ髪色、生気のない肌、瞳は濁っているようにも見える。

 服装も相まって、カルデアスに落とされる前の姿とは全く違う印象を与える。

 

『え、マリーなのかい? ちょ、ちょっと、今そっちに行きますから!』

 

 ガタガタと何かが倒れる音を鳴らして、ロマニの声が途切れる。

 

「……おいおい、何がどうなったらそうなるんだよ」

 

 ロマニの慌てた声など耳に入らず険しい表情のまま言うのはクー・フーリン、カルデアに召喚される前に特異点Fで出会っているためにその変貌に声を漏らした。

 生気はないが姿形はまさしく特異点Fで出会ったオルガマリー・アニムスフィアそのもの、だからこそ同一人物には見えないその変質。

 正直に言って、それなりの才能は感じさせるが英霊に到れるほどではないと断言できる程度の存在であったはず。

 だと言うのにブリテンの騎士王とアイルランドの光の御子をして、警戒させる気配を放つオルガマリー。

 

「貴様は何だ?」

 

 黒き聖剣の切っ先を下げてはいるが、僅かにも警戒心を緩めること無くアルトリアが問う。

 アルトリアも特異点Fでオルガマリーを見た、有るのはクー・フーリンと同じような感想。

 だからこそ殺意をむき出しにして、オルガマリーもどきを見据える。

 

「……何、とは?」

「そのままの意味だ、貴様はあの小娘とは違う」

 

 特異点Fのオルガマリーと、今目の前にいる呼び出されたオルガマリーと名乗った者は別人だ。

 同一人物とは到底認められない、ほぼ間違いなく根底から違う存在と言っていい。

 それを指摘するも、返ってくるのは同じもの。

 

「私は、オルガマリーよ」

「話しにならんな」

 

 アルトリアが聖剣の切っ先を上げる、この存在は己と同じかそれ以上にまともな者ではあるまいと断じての行動。

 

「おいセイバー、少しくらい待ってって」

 

 ちらりと背後を見るクー・フーリン、そこには神秘の圧力で顔面蒼白で固まっている二人。

 

「少しばかり魔術を使うがよ、後ろの二人を気付けるもんでお前さんに使うもんじゃないから勘違いしないでくれよ」

 

 念を押してオルガマリーに言う、もし戦闘になってしまえば背後の二人を庇いきれるかわからない。

 取り出している武器からそれなりの近接戦から魔術も行使できるだろうと推察、戦闘の可能性を考えれば自身が信頼する物を使うのは戦士としての常だ。

 近接戦でセイバーを抑えられるかもしれないし、キャスターとして破滅的な魔術を放てるかもしれない。

 両方なら最悪、片方でも面倒くさいことになるとクー・フーリン。

 

「ほら、しっかりしろ」

 

 クー・フーリンが杖を軽く振り、ルーン文字が浮かび上がって光が二人を包む。

 心神喪失とも言える二人が思い出したように大きく息を吸って咳き込む。

 

「……おい、まじで止めとけって」

 

 クー・フーリンは前に出て杖をアルトリアの前に置く。

 

「止めるなランサー」

「今はキャスターだっての。 つーかよ、今ここでやりあったらマスターが死んじまうかもしれねぇだろうが、少しは落ち着け」

 

 そうクー・フーリンは言ってはみるものの、今のアルトリアが感じているものを共有していた。

 不愉快とまでは行かないが、このオルガマリーを見ていれば危機感が過るのだ。

 この反転した騎士王はどうも本能の部分が強いようで、より強く感じ取っているのだろう。

 仮にこのオルガマリーが本物であったとして、ここまで変質する何かがあったのは簡単に予想できる。

 問題はその変質する何か(・・・・・・)がどういう物かわからないこと、それまでの境遇か、或いは英雄に付き物の呪い(しゅくふく)でも受けたのか。

 

 何にせよこのオルガマリーにとって良くないものであったのは違いない、もし本人であれば恐らくはもう戻れない所まで来ている(・・・・・・・・・・・・・)とクー・フーリンは半ば確信していた。

 

 

 

 

 

 それからクー・フーリンがやるやらないと逸るアルトリアを抑え、ならばまず貴様からと敵意が向いて、なんでだよと呆れていた所にロマニが駆け込んできた。

 

「マリー!」

 

 ばたばたと形振り構わずといった様子のロマニ。

 

「マスターたちがやばそうなんで下げとくわ。 セイバー、すぐ戻ってくるからその軟弱男をしっかり守っとけよ」

 

 未だ苦しそうな二人を部屋から押し出すクー・フーリン、それにふんと鼻を鳴らして返すアルトリア。

 

「マリー、本当に君なのかい……?」

 

 半信半疑で問いかけるロマニ。

 

「……私はオルガマリーよ」

「どうだかな」

 

 繰り返すオルガマリーに、信じていないアルトリア。

 容姿が似て声も似る、だが偽る手段が幾らでもあるのがこの世界。

 

「……君がオルガマリーであると主張するなら、こちらに証明する手段がある」

 

 その偽りを成させないために、このフィニス・カルデアに魔術的、科学的な認証システムを導入している。

 基本情報として塩基配列から霊器属性、その他色々な極めて変化しづらい情報を登録し、照合して全て一致した時に本人であると認められる。

 それを用いてオルガマリー本人であるかどうか決めようとロマニ、所長であったオルガマリー・アニムスフィアも当然登録してあるためにそれと照会しようと提案した。

 本人かどうか決めるのはこれが一番時間が掛からず、確実であると説明。

 拒否するのであれば、オルガマリー自身がオルガマリーであることを証明できるものを提示しなければならない。

 

 そう説明したところ、少々間を置いてオルガマリーは承諾した。

 

 

 

 

 

「塩基配列は不明、霊器属性は中立・中庸、照会して一致したのは約五割。 どちらかと言えばサーヴァントに近いが恐らくサーヴァントではない、果たして彼女は本当にオルガマリー・アニムスフィアなのだろうか?」

 

 項垂れていたロマニに声を掛けるのはカルデア技術部トップのレオナルド・ダ・ヴィンチ。

 オルガマリーと名乗った存在の情報と、カルデアに登録されているオルガマリー・アニムスフィアの情報をすりあわせての結果。

 登録情報と一致した割合が低ければ偽物、高ければ本物と言えたが結果は半々とどっち付かず。

 オルガマリーと言えるし、オルガマリーとも言えない、どっちにも取れる結果だ。

 

「それでどうする気だい、ロマン? 修復すべき特異点も見つかって、これから激動となっていく。

 カルデアの人間でも、召喚されたサーヴァントでもない、どっち付かずの正体不明を置いておく事はとっても難しいよ。

 彼女の処遇を決めるのはこのカルデアの誰でもない、ロマニ・アーキマンが決めることだよ。

 ……重たいかい? 苦しいかい? だけど、人類最後のマスターはもっと重いものを背負うんだ(・・・・・・・・・・・・・)

 それを理解している君なら、きっと逃げ出さないと思っているよ」

 

 そう、レオナルド・ダ・ヴィンチは真剣な表情でロマニ・アーキマンへと告げた。

 




ぐだ男とぐだ子、どっちにしようか・・・

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