Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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第五章:終わりなき未来まで
論議の渦紋 01/12/27


 白陵基地の地下深く、夕呼の執務室の前に武は立っていた。

 それほど長く離れていてわけではないが、この部屋を訪れるのもずいぶんと久しぶりな気もする。

 

「……さて、と」

 いつものことながらこの部屋の扉を叩くときは緊張する。加えて今回は話の方向が想像できないのでなおさらだ。

 

 ユーコンからこの白陵基地への帰還命令がフェアリー小隊に下されたのが昨日。そして持ち返るようにと指示された二機の不知火とともに、大型輸送機で太平洋を越えてきたのがつい先ほどのことだ。

 行きもギリギリの日程だったが、今回も似たようなものだった。

 

 今のところ時差ボケなどは実感できないが、それ以前にこの後満足に眠れる時間を確保できるかどうかも怪しい。

 

 

 

 ドアの前には立ったものの、武は少しばかりノックを躊躇ってしまう。帰り次第、即座に顔を出せと夕呼から命じられていたため、自室に荷物を入れる間もなくここにやってきたが、これほど急に呼び出された理由が思い浮かばない。

 

 2001年年末のこの時期、先のAL世界線であれば佐渡島ハイヴの攻略からその後の横浜基地襲撃と、休む間どころか状況を整理する時間さえなかった。そして仲間の死を満足に悼む余裕さえなく『桜花作戦』が発動されたのだった。

 たしかに今も世界の各地ではBETAとの戦闘が続いてはいるが、言葉は悪いが最早それがこの世界での「日常」なのだ。ざっくりとしたニュースなどを確認している限りにおいては、大きな変化もなかったはずだ。

 

 何か逼迫した事態なのかもしれないとは思いながらも、そのような状況が想像できない。武には自分から急ぎで報告しなければならないような案件もない。

 

 ユーコンで武たちが行ってきたのは、当初の予定通りに各国の開発小隊へのXM3の売り込みだ。夕呼がそれほど興味を示していなかった分野でもある。そもそも各開発小隊の反応などは、すでにまりもから詳細な報告が上がっているはずだ。武独自の所感などもたしかにあるが、それが夕呼にとって重要度が高い案件で無いことは武にも断言できる。

 

 

 

(むしろ途中の、というか半ば放り出してきた書類仕事とかを先に片付けたいところなんだけど、そうも言ってられねぇか)

 

 帰還命令が下されたのが移動指定日のほぼ直前というまったく余裕のないままに、武たちフェアリー小隊はユーコンを後にしてきた。

 当然、その日以降に予定していた訓練計画などはすべて破棄された。最低限の引継ぎはしたものの、当然すべて片付けられたわけではなく、移動中の機内で可能な限り残りの書類などを仕上げていたような状態だ。

 

 フェアリー小隊としての任は一応は目途が付いていたとはいえ、弐型とACTVのXM3への最適化などに関しては、あとに残るアルゴス小隊の唯依にほぼすべてを押し付けてきた形だ。

 先ほど別れた冥夜や純夏も一応は自室には向かったが休める余裕は無く、おそらくは第一中隊の事務室で書類仕事を続けなければならないはずだ。

 

 ユーコンでそれらの業務を手伝ってもらっていたJASRAのスタッフは、今回の帰還には同行していない。ターニャやウォーケンらは合衆国で処理せねばならない案件が残っているらしく、いましばらくはユーコンに残るらしい。

 ターニャの以前の行いから、合衆国国内に留まることを好ましく思わない者も多いと聞くが、逆に言えば一度離れてしまえば戻ることも難しい立場らしい。入国できた今回の機会を最大限に利用するつもりなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、こうしてドアの前でアレコレと考えているのも時間の浪費でしかない。もう一度、深呼吸をして意識を覚まし、軽くドアをノックする。

 

「失礼しますッ」

 

 例など無用と言われるとは判ってはいながらも、形式は守って見せる。キーも渡されてはいるが、一応は中から解除されるのを待ち、ドアを開ける。セキュリティのためもあって人目もない区画ではあるが、武としては国連軍士官としての態は維持しているつもりだ。

 

「だからそういう堅っ苦しいのは要らないって言ってるでしょ」

「すいません。俺の場合、普段からいつも気を付けていないとここ以外でも崩してしまいそうで、訓練の一環だとでも思って諦めてください」

 

 夕呼のいつも通りの愚痴じみた注文に、どこか安堵して武は笑って返す。

 ただ笑いに誤魔化してみたものの、いまだ学生気分が残っていることに武はこのところ自覚するようになってきた。意識して軍人としての態度を維持しようとしているのも、それを無くすための一環だ。

 

 「一周目」たるUL世界線での経験をなかば並列したような形で記憶していた事から、この世界線で目覚めての頃は、一応は士官として行動できているつもりではあった。

 

 だがそのUL世界線での経験のうち明確に記憶できているのは2001年の末、第四計画が破棄される前後あたりまでだ。それ以降は横浜基地で任務に就いていたというおぼろげな印象は残ってはいるものの、細部が怪しい。

 そして先の「二周目」のAL世界線ではそもそもが2002年明けまでしか存在できていない。

 

 

 

 結局、連続した記憶の範疇においては、武の任官してからの経験は半年程度でしかない。下手をするとまだ訓練兵であった期間の方が長いようにも感じられてしまう。今の武は、普段意識する範疇では20前の新任少尉、それも衛士訓練だけを施された形ばかりの士官でしかなかった。

 加えて元になっているのはEX世界線での経験と記憶であり、常識判断や歴史認識などはそちらが大部分を占めていると、ようやく自分を分析できるようになってきた程度だ。

 

 喀什攻略までさほど時間の残されていない現在、甘えたような心持ではまたどこかで致命的な失敗を招きかねない。表面的ではあるが形だけでも整えることで、自分を律しておこうと考えてのことだ。

 冥夜や唯依のような生まれながらにして武家の者たちの域にまでは至れないだろうが、それでも常在戦場を念頭に置くだけでも少しは変われるのではないかとは思いたい。

 

 

 

「訓練分隊からまたやり直したいってワケ? まあ、そんなことはどうでも良いわ」

「俺の心持の問題だけですしね。それで、なにか急ぎの任務でも持ち上がりましたか?」

 

 武の心構えなど一顧だにしない素振りのまま、夕呼はそれでも否定することはせずに軽く流す。武にしてもあくまで個人的な気の持ちようの話だ。相談に乗ってもらうような重要な問題ではない。

 

 軽く手持ちのカップを振ってコーヒーを催促してきた夕呼のためにも、そして話がどれほど掛かるのかが判らないので、自分の分も含め少しばかり多めに代替コーヒーを準備する。いつの間にかこの執務室の設備にも慣れてしまっていることに、頭の片隅で苦笑しながらも手だけは動かしていく。

 

 

 

「何言ってんの。年内にこっちに戻ってくるのは、事前の予定通りでしょうが」

「そうでしたっけ?」

 

 予定通りと言われても、そもそもがその予定を聞いた覚えがない。

 ユーコン基地での任務予定など、有って無きが如しとしか言えないものだった。前日伝えられた内容が当日の朝のブリーフィングで変更されることなど、当たり前のように繰り返されていた。

 

 機材開発という任務の内容上、どうしても整備の都合などで遅れることもある。他開発小隊との合同演習などでは、当然ながら相手側の事情での延期や中断もあった。それでいて時間は限られていたため、少しでも空きができれば別の任務が割り当てられることなど当然だった。

 

 流動的な計画どころか、場当たり的と言っていいほどに無茶な状況だったことはたしかだ。

 

 

 

「さすがに計画が切り替わるまでとは言いませんが、年内くらいは向こうにいることになるかとは考えてたんですけどね」

 合衆国というよりかは欧州的な慣習での年末休暇に入れば、先送りしていた案件をフェアリー小隊内で片付けていけると、そういう程度には余裕を見ていたのだ。

 

「バカね。御剣を年末年始に人目があるところに出しておけるわけないじゃない」

「ああ、それがありましたね」

 

 だがそんな武の願望じみた予定を、夕呼はバッサリと切り捨てた。

 

 冥夜の立場は「煌武院悠陽」の仮の姿としての「御剣冥夜」だ。流石に将軍職として人前に出ることの多い年末年始のこの時期に、偽装身分として捉えられている「御剣冥夜」が合衆国にいる形は望ましくない。

 冥夜だけを帝国に戻せば、今度は小隊として動けなくなってしまうので、残りの三人がユーコンに留まる意味も薄い。ならば小隊ごと帰国させて、何らかの任務に充てる方がたしかに合理的ではある。

 

 

 

「ただ出国予定はもう少し早めに伝えて欲しくはありましたね。流石に急過ぎました」

 

 愚痴じみた言葉になってしまうが、余裕は本当になかった。

 世話になったアルゴスの面々には、簡単にしか挨拶できていない。整備の皆にも、二機の不知火を移動する際に何とか言葉を伝えただけだ。

 

 先の九州同様に、霞への土産などは出発直前に急いで買うことになってしまった。そちらに関しては一応は事前に目星をつけていたためにまだそれらしいものを用意できたが、別行動となっている第二第三小隊の面々への土産は文字通りに目に付いたものを買ってきただけであり、あとで何を言われるのか武であっても少々怖い。

 

 夕呼にも、というかこの執務室用にも土産として、合成ではない天然コーヒーの豆を用意はしていたが、それもまだ他の手荷物などと一緒に纏められたままだ。

 

 

 

 

 

 

「はいはい。で、どういう状況だったのよ、あっちは?」

「え~と、報告書なんかは逐次送ってましたよね、俺?」

 

 ちらりと夕呼の机の上を見るが、いつも通りというしかない程度には書類が積み重なっていた。武が出した報告書の重要性程度ならばこの執務室のデスクに積まれることはないだろうし、夕呼ならば一瞥した程度で読み取ってしまう程度のものだ。

 それでも問いただしてくるということは、報告書という形で記録されては困る話をしろということなのだろう。

 

「報告書はアンタなんかのよりも詳細なのが、まりもとあとJASRAから送られてはいるわよ。で、ワケ分からないものまで入ってるから説明しなさいってことよ」

 

 急ぎ顔を出せと言ってきたのはそのことか、とようやく武も思い至る。

 具体的に何がと言われないのが怖いが、夕呼が問うてることは何となくは推測できる。だが具体的には何を報告すべきかが浮かばず、それが顔に出てしまったようだ。

 

 

 

「XM3が売れそうだってのは、まあ良いわ。こっちの企業連中への貸しにはなりそうだし、他からも連絡はいろいろ来てるしね」

 

 XM-OS関連の諸外国軍部への提示が、ユーコン基地での武たちの正式な任務だった。第四計画の主軸とは言い切れないが、それでも計画誘致国への利益供給としても、成功した部類になるだろうとは予測もできる。

 またその結果として、開発責任者という形にはなる夕呼の下へと問い合わせがあっるのも当然だろう。

 

「F-15? 陽炎だったっけ? アレのACTVへの換装予算とか、予想は付くけど、意味判るわけないじゃない。アンタたち向こうで何やってきたのよ」

「あ~それ関係ですか……」

 

 売り込みに行ったはずが、相手先で物を買わされたような形だ。取引としてはおかしくないかもしれないが、想定外の話ではある。そしてその流れ自体、第四計画として夕呼が作ったのではなく、ターニャの誘導によるものだ。

 たしかに要望として上げられてきただけでは、裏で何かがあったとは推測できても、正確な理解は困難だろう。

 

 

 

「あの事務次官補が絡んでる限り、何か目的があってのことだろうとは予想できたから一応ここの国連軍用に二個連隊分確保はしたわ」

「あれ? ACTVって一個連隊分じゃなかったんですか?」

「国連軍側からも予算出すように仕向けたついでに決まってるじゃない。なんでこっちだけカネ使わなきゃならないのって話よ」

 

 武が以前に聞いた話では、喀什攻略に在日国連軍から提供される戦力は一個連隊規模だったはずだ。陽炎をACTV同等に改装するのは、作戦参加部隊だけだと思い込んでいた。

 

「それに、さすがに国連主導の作戦に提供戦力が他組織と同じ程度って訳にはいかないでしょ。A-01は原則的に非公開だし。だから無理やり倍にさせたわよ」

「それは……助かりますね、本当に」

 

 先日までの予定では帝国陸軍と斯衛そして在日国連軍がそれぞれ一個連隊ずつという形だった。ここにA-01が加わるとはいえ、それは秘匿部隊で公表できない。加えて最大戦力は合衆国陸軍から提供される四個連隊だ。

 たしかにこれでは日米の比率的にも、帝国内のそれにしても、少々国連軍としては弱い。比較的に旧式とされる陽炎であっても、二個連隊出せれば国連軍主導という形は保てなくはない。

 

 

 

 正面戦力の拡充は武としても歓迎できる。

 だがたしかに陽炎をACTVへと改装するしないの話は、ハイネマンとの会談の時に出た案件だった。当然ながら、あの時の会談の内容は、記録として残すのは問題があるだろうと思い、報告書という形では夕呼に伝えてはいない。

 

 あの場にいたのは、武たちだけではない。連絡員としてはむしろ最適と言えるはずの鎧衣がいたのだ。その線から夕呼には話は行っているものだと思い込んでいた。

 

「鎧衣課長から概略はお聞きでは?」

「概略は、ね。詳しくはアンタから聞けって感じよ」

 

 武の疑問に対し、夕呼の答えは単純だった。

 そこは仕事して伝えておいてくれよと武としては言いたくもなったが、鎧衣は日本帝国の者ではあるが夕呼の配下にあるわけではない。そういう意味では本来伝えるべき立場なのは武自身ということになりかねない。

 

「俺もあの場には居ましたが、前後の詳細とはか判ってませんよ?」

「ある程度はこっちで補完するわよ。アンタが見た限りを伝えなさい」

「了解です。少し長くなりますが……」

 

 そう夕呼に言われてしまえば、答えないわけにもいかないし、そもそも夕呼に対しては隠すようなことではない。思い出せる限り、ハイネマンとターニャとのやり取りを記伝えていく。

 

 

 

「……なるほど。単純化すれば、XFJ計画が場合によっては白紙化するから、在日国連軍へのACTV導入はその代わりってところね。で、逆に不知火の改装に関しては、帝国の企業の参画範囲が広がる可能性が高い、と」

「多分、そんな感じです」

 

 代替コーヒーを淹れなおすくらいの時間はかかってしまったが、あの場で聞いた限り、そしてその後に見知った範疇を夕呼には話した。

 正直なところ脈絡のない武の話を聞いた後に、夕呼は簡単に纏めるが、武にはおそらく、としか言いようがなかった。

 

 JASRAの、というよりかはターニャの戦術機開発に関与してきた経歴や実績を、武はさほど知っているわけではないのだ。それらがボーニングなどの企業、そしてハイネマンなどにどれほどの影響を与えて来たのかなど想像するのも難しい。

 

 結果的に、あの場では武はジョン・ドゥに誘導されるがままに、帝国側が喀什攻略に投入できる戦術機戦力すべての更新をボーニングに委託するかのような言質を取られる形になってしまったとも言える。

 もちろん、一介の戦術機衛士でしかない白銀武の言葉であれば、大きな意味はない。だが武は第四計画責任者たる夕呼の管理下にあり、またXM3開発に関わる関係で、帝国城内省そして将軍職のかなり近くまで影響力があると見なされていたはずだ。

 くわえて鎧衣課長と、そして何よりも御剣冥夜の存在がそれを補強してしまっていた。

 

 

 

「ボーニングが潰れそうだからって、帝国のカネを使って補填しようって腹積もりにムカつきはするけど、それはあの事務次官補の目論見とは関係なさそうね」

「そう、なんですか?」

「まあ、ボーニングの戦術機部門がかなり問題を抱えていることは間違いないし、それを合衆国政府がなんとか再建させたいってのも確実よ。ただ、そうね……」

 

 不用意な発言をしていたかと内省する武に、夕呼は軽く手を振って笑って見せる。だが口元は笑って見せているが、目はいつも以上に鋭い。

 

「あの事務次官補、保護政策みたいなのは嫌いそうだから、出所はまた別でしょう。おそらくだけど、自然淘汰とその後の適者生存とか、本気で信じてる類じゃないかしら?」

「あ~進化論、的な?なにかですか」

「生物じゃなくて、社会・経済的な範疇で、ね。外部からの援助が無ければ潰れるような企業、たとえボーニング相手とはいえわざわざ保護しようと働きかけたりはしそうにないでしょ?」

 

 夕呼の話が、いつかEX世界線で聞いていたかのようにいきなり別の内容に飛んだのかと、武は知っている言葉を振り絞ってみたものの普通に繋がっていたようだ。そしてそう言われてしまえば、ターニャが自ら失敗していそうな相手を助けに入る姿は、想像するのが難しい。

 

「まあついでにA-01用に、弐型だったかしら? 不知火改修用の予算は押し通しはしたわよ。足元見まくってやったしね」

「それは本当に助かります」

「こっちがそこまでやったせいか、陸軍の連中も慌てて補正予算をかき集めてるわよ。XM3用のCPUも発注されてたしね。戦力としてはまあ、それなりに補強されるんじゃない?」

 

 帝国陸軍が喀什に提供する戦術機が不知火・弐型仕様になるのかどうかは、この時期になってもまだ定かではらしいが、少なくともXM3には換装されるらしい。なによりも「あ号標的」への突入部隊となるであろうA-01の全機が弐型仕様となるのは心強い。

 

 

 

 

 

 

「あと、ソ連の何か開発小隊の機材も差し押さえたって話は来てたけど、それは年末ギリギリにこっちに送りつけてくるらしいわ」

「イーダル小隊ですね、それに関しては俺もほとんど何も聞かされてないので……」

 

 武がイーダル小隊と関わったのは、イーニァと少しばかり立ち話をした程度だ。ユウヤあたりは何かと話をしていたようだが、それも詳しくは聞いていない。

 そしてターニャがどうやってイーダルの設備をソ連から譲り受けたのかなど、判りようもなかった。

 

「XM3の提供をチラつかせながら、ほぼ恫喝みたいなことをしてたみたいよ」

「そういえば、イーダルは第三計画の機材とかを元にしてるって話でしたっけ? 本来なら第四が立ち上がったときに、全部こっちで引き取らなきゃならなかったんですよね?」

「使えるモノなんてほとんどないんでしょうし、不良在庫を押し付けられる気分よ」

 

 夕呼が第三計画から引き抜いたもので武が明確に知っているのは、霞くらいだ。もちろん他にも資料や機材などは引き継いではいるのだろうが、逆に言えば要る物はもう手に入れているのだろう。

 いまさらどれほどの人数になるかは判らないが、ソビエト系の衛士をA-01に送られてきても持て余すだけになりかねない。

 

 第五推進派への懐柔、その程度の意味合いでしょうねと、夕呼も苦笑気味に笑って流してしまう。

 

 

 

「しかし今更なんですけど、よく事務次官補の言葉を信じたものですね。俺は実体験として、同じ時間を繰り返したから理解はできるんですけど」

「何度か転生してるって話? たしかに普通なら単なる痴呆老人の与太話にしかならないんだけど、他の可能性よりかはまだ確率が高いって程度の話よ」

 

 ターニャが転生しているなどと言う話を武が信じられるのは、自身が似たような経験を経ているからだ。

 いくら夕呼が因果律量子論を研究しているとはいえ、転生や生まれ変わりなど追試もできなければそもそもが他サンプルさえ見当たらない。可能性としては否定できずとも、普通は信じるはずもないことだった。

 

 カッサンドラと自身でさえ嘯く程度には、ターニャの発言には信憑性と、何よりも裏付けが乏しい。

 

 

 

「最初にJASRA関連の資料を見た時は、よほど優秀なスタッフを大量に抱え込んでいるのか、状況分析に特化した天才でも居るのかとかも考えたわよ。あるいは合衆国による自作自演か何か、とかもね」

「まあ普通はそう思いますよね。先を知ってると聞いた今でも、おかしすぎるくらいに的確ですから」

 

 JASRAの提言が正しかったと考えるよりかは、その信憑性を高めるために合衆国が何らかの工作をしていたと疑うほうが自然なくらいなのだ。

 

「ソ連のESP発現体の中には未来予知じみた連中もいるって噂もあったけど、そんな精度じゃなかったしね。それにアンタの言った通りよ」

「俺……の、ですか?」

「あの事務次官補がユーロ方面からこの極東に飛ばされてきたのは、『未来を知っている』とかが原因じゃないわよ。それに対して『正解が何か』を提示できてしまうことが、脅威と見なされてるの」

「……ああ、ハイネマン博士も、何か似たようなことを言ってましたよ」

 

 ある程度の分析能力を持つ者であれば、結局ターニャの提言こそが最初から正しかったのだと理解できてしまうという。

 武自身もなるほどたしかに「未来は知っている」。だがだからといって「正しい解決への道筋」など提示できるはずがない。当たり前だが、武が見知っているのは、自分が経験した範疇でしかなく、何が失敗の原因でそれをどう解決すれば成功へと導けるかなど、俯瞰して考えることは非常に難しい。

 

 

 

「ホント……狂人であればどれほどよかったことか。00ユニットになった『カガミスミカ』が脅威だとかなんだとか本人言ってたけど、アレの方がよっぽどよ。これまでの流れをどう選び取ってきたのか、そしてこれから何を選択するのか、よく見ておきなさい」

 

 獰猛なまでに嗤って見せ、夕呼が告げる。

 それはターニャを脅威と認識しながらも、敵対ではなく利用しつくすという、挑戦じみた宣言でもあった。

 

 

 

 

 

 

 




第五部開始~ですが、だいたいいつも通りにコーヒー飲んでの語らいです。でも久しぶりに夕呼先生パート。

ユーコンからの情報が断片的過ぎて何やってるのか判らないから直接口頭で報告しろ~というだけの話のつもりでしたが、OOユニット脅威論ならぬデグさん脅威論という感じです。タケルちゃんとは視点のちがう未来知識持ちなので、横から見てたらこんな感じなのかなぁ、と。

で第五部は予定なら10話くらいできっと最終話まで持っていける……と思いたいなぁとプロット立ててますので、もうしばらくお付き合いいただければと思います。


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