Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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疑惧の切開

 合衆国陸軍がXM3の採用を決定した。

 それに留まらずに年内には一個大隊強、年明けにはさらに一個師団強のXM3用CPUが帝国へ発注されるという。

 

 たしかにそれだけ聞けば、XM3の提示及び頒布を企図した武たちフェアリー小隊にとっては朗報だ。

 

 問題は、それだけの数量を短期間に用意できる生産基盤が帝国国内に存在するかどうか、ということだ。そしてキースとターニャの言葉からするに、たとえもし用意できたとすれば、合衆国はさらに追加の供給を要求してくるであろうという。

 そして不可能だと帝国が返答するならば、合衆国内部での生産の許可と、XM3用CPUの根幹技術の提示を求めてくることになる。

 

 実際のところ、合衆国陸軍がG弾ドクトリンに拘らずとも、彼らが用いる戦術であればXM2で十分な戦力向上が見込めるはずだ。そしてその場合ならば、無茶な交渉などなくとも、OSライセンスの提供は帝国も簡単に認める。くわえてXM2ならば現行第三世代機同等のCPUに換装すれば問題なく稼働する。それならばなにも帝国の許可を得ずとも、合衆国ならばもとより自由に生産可能だ。

 

 

 

 つまるところ、合衆国は場合によっては自身への脅威となりかねない、XM3の生産と供給とを管理しておきたい、ということなのだろう。国家として国益を追求するのはある種当然であり、そこは武とて理解はできる。

 

 ただ、XM3によって向上化された第三世代ステルス戦術機と、そしてXM3の提供能力とを合衆国が合わせ持てば、政治・経済・軍事すべての面において今現在以上に影響力を拡大する。合衆国は今でさえソビエトの凋落によって唯一の超大国であるが、場合によっては並び立つどころか諫められる国家も組織も存在しなくなる可能性すらある。

 

(対BETA戦に限れば大した問題じゃねぇ。問題はXM3搭載機が対人類戦に用いられる可能性と、その供給なんかを政治利用されるってこと、か。こうなるとホントに俺は無力だな……)

 さきほどから冥夜が悲痛な想いを何とか隠そうとしていたのはこれか、とようやく武も悟るが話は合衆国内部のことになってしまう。武には具体的な対応策もなく、また言葉だけの慰めでは、冥夜の助けにもならない。

 

 自身の考えを纏めようかと武は用意されたコーヒーに手を伸ばしたものの、すでに冷め始めたそれは苦いだけでどこか濁った味だけが舌に残る。

 

 

 

「ご理解いただけたようで何よりです、御剣少尉殿。もちろんXM-OSの開発国である貴国の方が、その運用方針をご懸念されることは当然のことであると、我らも理解しております」

 憂虞を表した冥夜に、キースではなくレオンが応える。このあたり、教導部隊と言えどインフィニティーズの中でも政治的な立ち位置というのはどうしても存在するようだ。

 

「貴国における剣術の流派の一つ、その真髄には『刀は抜くべからざるもの』という教えがあると伺っております」

 そして、理解しているというだけでは冥夜の懸念を取り除けないということは、武だけでなく言葉を発したレオン自ら判っている。なので帝国の、それもあえて戦う術である剣術の教えをもって、理解の深さを伝えようとする。

 

「ああ……示現流の教えですね。私はまた別の流派ですが、その教えは聞き及んでおります」

 続けられたレオンの言葉、そしてその意味を汲んだのか、冥夜は少しばかり緊張を解いた。

 

「白銀……よもやそなた、知らぬとでも申すつもりか?」

「え……っと、ワリぃ、どんな意味だったっけ?」

 そしてようやく冥夜は合衆国軍人の二人以外に意識が割けるようになったようだ。レオンが出した言葉の意味が判らず、あいまいな表情を浮かべた武に、どこか呆れたかのように問いかけてきた。

 だが武とて、さすがにこの場で知ったかぶりなどできないし、するつもりもない。この世界の日本についてはいまだ真に理解できているとは言い難く、歴史などについても不勉強なのは自覚している。

 

 

 

「示現流は帝国において一、二を争う、とまではいわぬが、著名な流派だぞ? それに篁中尉殿が修めておられる」

「あ~いや、名前くらいはさすがに知ってはいるが、その教えの意味が判んねぇ……」

「……ふむ」

 

 武が知らぬとはっきり言ったことと、あらためて周囲の者たちの反応を見て、冥夜は意味が伝わっていないところがあると悟った。すくなくとも、本来のホスト役であるはずのハルトウィックとその秘書官は知らぬ言葉のようだ。

 もちろん、レオンが冥夜に告げただけで、周囲が理解する必要はない。だが、プロミネンス計画総責任者の前での話し合いだ。合衆国の意向を帝国が理解したとは知らしめておく必要があると冥夜は判断し、言葉の説明を始める。

 

「私とて剣はそれなりに修めているとはいえ、示現流とは異なる。あくまで部外者の聞きかじり、という程度の話と受け取ってくれ」

 さすがに少尉という立場で、大佐たるハルトウィックに教えるということは避けたいようで、あくまで質問した武に対して答えるという形で、冥夜は教えの意味を語り始めた。そしてそれは、キース達を通して合衆国に、帝国の少なくとも将軍家に連なる者がそう理解したという意思表示である。

 

 

 

「そうだな……『刀は抜くべからざるもの』とは、武に優れた人物ならば、そも争わずに済ませよ、とでも言うべきか」

「って、剣術の教えなのに言葉通りの意味で、戦うなってこと……か?」

 冥夜の答えが完結に過ぎて、逆に武は混乱してしまう。

 

「深く考えるほどではあるまい、白銀少尉。つまりは抑止力としての武力ということだ」

「……なるほど」

 

 ターニャからも付け加えられた説明に、合衆国の意向が纏められてはいる。先のラプターの能力の話でもあったが、見せ札としての戦力だ。張り子のトラではもちろん問題であるが、その能力に裏付けがあるならば、十二分に軍事的抑止力となる。

 

「まあ、『一生刀を抜かぬものである』などと話されているが、それは逆に『危急の際迷わず無念無想に打つ』には繋がる、とも言われているがな」

 ターニャがさらに解説を加えつつも、クツクツと哂う。そこまで言われるとキースも苦笑しているが、否定はしない。

 

 

 

(現時点では先制攻撃は想定してはいない。が、必要であればBETA支配地域でも、それこそハイヴ内だろうが、人類に対しての武力行使を躊躇わないってことか。いやそれはそもそも戦術機がどうこうってレベルの話じゃなくなるな)

 

 そもそもラプターは、BETA大戦後の対人類戦争を想定して開発されたことはその性能から見ても明白だが、あくまで戦術機である。そしてXM3もその能力を向上させるとは言え戦術機に限定されたものだ。

 もし合衆国が自身の対立国家に対して明確な軍事力行使をなすならば、それらの能力は全体の極僅かな比率でしかない。戦術機でなければ選択しえない軍事的オプションなどハイヴ内戦闘、それこそアトリエ奪還などの状況に限定される。

 

(ただ、抑止力としてはむしろ判りやすいな。かつての機甲戦力や航空戦力を失った国家群からすれば、今の主戦力は戦術機だ。それを数だけじゃなく性能面でも明確に優劣が見えれば、バカをする連中も減らせるな)

 自覚は薄いが、武とて国連軍とはいえ帝国に属する軍人だ。レオンの例え話とその後の抑止力という言葉を聞いて、同盟国たる合衆国のそういう方針は理解もできなくはない。

 

 ハルトウィックも一応は受け入れたかのように鷹揚な態度を取ってはいる。しかしその横に立つ秘書官の眼は鋭く、キース達を敵視したままだ。西ドイツからすれば、抑止としての戦力増強という言葉は、受け入れがたいのかもしれない。

 このあたり、帝国と西ドイツ、どちらも先の大戦の敗戦国であるが、感情的な相違は大きいのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

「……少し話が変わりますが、御剣少尉に一つお聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、私がお答えできる範囲であれば」

 

 ハルトウィックの緊張を見て取って、緊張した空気を払うためか、レオンがあらためて冥夜に問いかける。冥夜もそれが判っているようで、軽く受け入れた。

 

「ありがとうございます。お聞きしたいのは、先の演習時、御剣少尉の機体には何か損傷でもあったのでしょうか? 事前の調査よりも動きが鈍いように感じられたのですが」

「私が駆った吹雪には一切の不調はございません。ですが……」

 

 レオンの疑惑に、世話になっている整備班の名誉のためにも、まずは冥夜は否定する。

 とはいえ冥夜とシャロンの戦いは確かにどこか精彩を欠いたものだったことは、戦術機に携わってている者たちだけが集まっているこの場では誤魔化しようももないほどに明白だった。

 

 その理由を説明してよいものかと、冥夜は武に目線だけで問いかけてきた。

 だが冥夜の機動の意図は隠すものではなく、むしろ明確に提示していくべきものだと武は考えている。軽く、促すように武は頷き、それを受けて冥夜は話し出した。

 

 

 

「正直に申し上げるならば己が非才の身であれども、インフィニティ04、エイム少尉に相対距離200まで接近した時点で、一切の被害を受けずに撃破できたであろうと申し上げます」

「ふむ。その点は我らとて疑問は無い」

 

 驕るわけではなく、彼我の技量差を客観視した上で、冥夜は断言する。

 問うたレオンだけでなく、キースも演習の最後の戦闘に関しては思うところがあったようだが、冥夜の言葉には素直に納得した。総合的な技量であれば冥夜はシャロンに及ばないが、こと刀剣が届く近接格闘距離においては間違いなく冥夜が勝る。

 

 もちろん単独ではその状況を作り出せないことは、対峙したキースたち同様に、冥夜も自覚している。逆に言えばそこまで御膳立てされれば、いかなる彼我の戦力差であろうと覆せると、自身の技量とそしてXM3での機動性能とを自負しているのだ。

 

「だが、事実として少尉の機体は少なからぬ損傷を受けた。それでも機体側の問題ではなかったと?」

 レオンが問うた話だが、キースがさらに踏み込んでくる。

 

 冥夜の吹雪の損傷は、シャロンとの1on1において受けたものだ。一応は相手を撃破判定まで持ち込んでいるとはいえ、自機も胸部及び左腕小破に右脚部の中破と、痛み分けと言われても仕方がない被害ではあった。

 事前に試してみたいと告げそしてターニャから許可を受けた上であったので、フェアリーにおけるデブリーフィングの際には、損傷の高さ故の叱責などはなかったが、近接戦闘時の長刀利用における問題はあらためて浮き彫りとなった形だ。

 

 

 

「はい、いいえ。先の言葉通り、機体に一切の問題はありません。あの損傷は、XM3にいまだ慣熟できていない我が身の未熟さゆえであります」

「ふむ?」

 

 冥夜の一見矛盾した答えにもキースが考え込む。対して聞き役に徹しているハルトウィックは気が付いたようでどこか面白げに俯瞰していた。

 

「繰り返しとなりますが、あの距離であれば私は、XM3搭載型の吹雪でシャロン少尉の駆るラプターを損害を受けずに斬り墜とすことはできます。ですが、それは私個人の技量による機動、言ってしまえば個人芸に過ぎません」

 

 可能か不可能かで言えば間違いなくできると、冥夜はあらためて断言する。

 そして先に受け入れたように、キースにしてもそこは疑っていないのだ。ならば機体の整備不良でなければ、インフィニティーズは最低限の成果を譲られた、ということになってしまう。

 

 

 

「我らが任は、XM3を提示することに加え、その能力を高めることにあります。我らが担うは次代の剣を鍛え上げることであり、XM3に慣熟できていないと申しはしましたが、私個人のみが再現できる職人技を披露することではありません」

 キースの疑惑を読み取ってはいるのだろうが、それを感じさせぬ態度で、冥夜は原則を打ち出す。

 

 XM3はすでに先のAL世界線においての武が望んだ程度には完成はしている。だがそれは発案者たる武がEX世界線におけるロボットのゲームやアニメなどを見て得た経験から可能な挙動の再現でしかない。

 また第一中隊であれば近接格闘戦に優れた慧や冥夜などであれば、自身のセンスや鍛錬の積み重ねからなる挙動の積み重ねの選択で、今ならばラプターを圧倒することもできる。

 だがそれらの機動選択は、経験を積み重ねた上でなされた判断となる。

 

 いまのXM3に求められているのは、衛士個人の技量に依存した属人的な戦力強化ではなく、定形的なコンボによって可能となる全戦術機の平均水準の向上だ。

 

 

 

「はははっ、我らは在日とはいえ国連軍ですからな。その求めるものは全人類の安寧、まずはなによりもBETAの駆逐であります。そのために必要なものは、長き修練の先に身に付く個人技ではなく、規格化された訓練で習得可能な誰もが使える単純化された選択かと愚考した結果であります」

 

 告げるべき言葉を告げた後、静かに目を閉じた冥夜に代わり、声だけは嗤いながらターニャが引き継ぐ。

 

 武も実働データを見たから判っているが、冥夜の機体に損傷が多いのは、より近付いて斬りかかるのではなく、長刀を牽制にのみ用いて本人は苦手な近距離砲戦を主体としたからだ。

 取り回しが困難とされる長刀で、要撃級からの回避機動を想定した動きと、その後の掃討射撃との数少ないパターンの組み合わせだけで対処したために、テンポを読まれて被害が増えた形だった。

 

 その程度の機動選択に限定しておけば、たとえ新兵と言えど、コンボの組み合わせに悩むことなく要撃級などの大型種の接近からも回避行動が取れると、冥夜が考えた結果だ。

 

 

 

「帝国内でのXM-OS、とくにXM3の習得で課題に挙がったのが、選択範囲の拡大に伴う衛士訓練の長期化の予測、でありました。慣れればより自在に動かせるとは言えど、慣れるのに時間がかかるようでは本末転倒だと。ですので、アルゴス小隊の篁中尉殿の協力も得て、こちらの御剣が近接戦闘時のパターン単純化を進めている次第であります」

 

 日本人的奥ゆかしさからか、冥夜本人が自身の功績を述べようとしないので、ターニャの説明を引き継ぐ形で、武が答えていく。

 

 XM3のコンボはパターン分析とその蓄積によって無限に増大していき、それをOS側が最適な形で反映するとはいえ、それはあくまで強化装備と機体側の蓄積データによる個々の最適化である。そしてこれらにはどうしても搭乗時間がそれなりに必要となってしまう。

 

 最初に身に付けるべきコンボを限定し、選択肢を減らすことで習得にかかる時間を短縮し、また戦闘中の衛士の負担を減らすこともできる。部隊として運用する際にも、個々の水準に差が少なければ、指揮する側も判断に迷わない。

 このあたりの取捨選択は、言われればどのような機動でも再現できてしまう武には、実のところ難しい。幼少時より剣に親しんできた冥夜だからこそ、必要となる基礎の構築と単純化が可能であった。

 

「はは、つまりは衛士の均質化、ということか。帝国の職人気質ではなく、それはむしろ合衆国の大量生産の概念だな。なるほど上がXM3採用を決定したわけがよく判った」

 キースは笑いながら武の説明を受け入れる。

 人口的にも、国内に複数の軍事組織を抱える構造的にもどうしても少数精鋭となりがちな帝国よりむしろ、多種多様な人材を教育せねばならない合衆国軍に、XM3の概念は適しているとも言えた。

 

 

 

 

 

 

(しかし事務次官補殿からの反応がなんなんだ? いつものことだが、まったく判んねぇ。思ってたよりもコーヒーが良くなかったから……とか言われたほうがまだ納得できるぜ)

 

 喀什攻略に、ターニャや武が想定していた戦力が、合衆国陸軍から提供されると聞いても、横に座るターニャが喜色を浮かべることなどなく、むしろ普段以上に憮然とした雰囲気さえ醸し出していた。もちろん事前に知らされていたということであろうが、それにしても反応が薄い。

 XM3に関するキースらの対応にも、さほど動きを見せない。

 

(あ~いや。帝国の方のことを考えると、XM3の生産と供給が合衆国主導になると、煩くなる連中も出てくる、のか?)

 

 先の世界線で経験したようなクーデターとまではいかなくとも、悠陽自らが企図した計画を帝国政府が合衆国に差し出したと捉える層が出てくる可能性は考えられる。もちろん帝国政府も無償で提供するはずもないが、実よりも名に拘る者たちが居ることも確かだ。

 そういった動きへの対応を考えれば単純に喜べないというのはあるかもしれないが、何かまた別の問題をターニャは察しているようにも思えてしまう。

 

 

 

「さて……少々長居し過ぎたましたな。他に何もなければ、我らは下がらせていただきたいと考えますが?」

 そんな武の思考を叩き壊すように、ターニャはいきなり退席の意を表す。形式を重んじるターニャらしからぬ振舞に、さすがに武もその言葉には驚かされ、ターニャを振り返って見つめてしまった。

 

 そもそもホストが挨拶以外何も話していないような状況で、ゲスト側それも下位の者から席を立とうとするのは、あまりにも礼を失する。

 ハルトウィックは現場主義的な合理主義的傾向があるとは、報告書でも見た。それでもこのターニャの対応は合理的どころか、権威への敬意も無く、相手を無視しているにも等しい。

 

「はは、たしかに諸君らの貴重な時間を、これ以上浪費するのはよくないな。私の諸君らの対談から多くのものを得た。名残惜しい気はするが、今日のところはこれまでとするか」

「は……ありがとうございました」

 

 傍若無人としか言いようのないターニャの振舞に、ハルトウィックは軽く笑って見せつつ、受け入れる。

 いくつか質問するべき事柄や、話しかけられたらどこまで答えるべきなのかなどと、それなりには事前に用意していた武は、少しばかり残念にも思うが忙しいことに違いはない。ここで話していても、積み上がっている作業が片付いていくわけではないのだ。

 

 

 

「なんだ白銀少尉、大佐殿に何か質問でもあったのか? 計画を離れる方に尉官如きが直接お聞きせねばならぬことなど無かろう?」

「……は? 計画を離れる?」

 

 わざとらしいまでに呆れたような声を作ったターニャへ、ハルトウィックに背を向ける形で武は再び振り返ってしまった。だが背後のハルトウィックも声にはしないが、そのターニャの言葉に少ながらず驚いている気配は感じられる。

 

「おや? 大佐殿はいまだ内示を受け取っておられませんでしたか? これは失礼を働いしてまったようですな。ブレイザー中尉殿もご存知のご様子でしたので、」

 ハルトウィックの反応を楽しむように、大げさに両手を広げて見せ、ターニャはキースを巻き込みつつも煽って見せる。

 

 

 

「申し訳ないな、少尉。そのような話は私は聞いていない」

「ああ……これは失礼いたしました、大佐殿。たしかに後任に引き継がねばならぬ業務も無ければ、続けなければならぬほどの成果もありませんでしたな」

「貴様、何をッ!? ……っ、失礼、致しまし、た」

 

 あからさまに無能だと嘲るターニャに対し、ハルトウィックの秘書官がついに激昂し声を荒げたが、直属の上官に制されて形だけは引き下がる。

 

「いやはや、後任の方も使途不明金とその送り先に、不正規組織との連絡手段など、もし説明されても困惑するばかりでありましょう」

 ターニャはそんな秘書官の反応を冷めたままに受け流し、それどころか非合法活動に関与していたと言わんばかりにあげつらっていく。

 

「後任人事は進んでいると耳にはしておりましたが、計画そのものの抜本的変更が為されますし、そうですな……プロミネンスの名をそのまま引き継ぐこともありますまい。『エクリプス計画』とでも呼称されるのではありませんかな?」

 

 

 

 慇懃なまでに丁寧な言葉とともに、クツクツと嗤いを作るそのターニャの姿は、しかしかながら武からはどこか苛立ちを抑えているかのようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 




あけましておめでとうございます。年内には完結させたいなぁと、なにやらいつか書いたことを繰り返してしまいますが、今年もお付き合いいただければ幸いです。

で、実はすでに大佐殿のクビは決まっていたのだ~みたいなところです。ハルトウィックさんは立場は面白いのですが、あまり出てこないキャラなのでスルっと?というのは掛かり過ぎていますが、ここで退場してもらって、次回で事後処理の話、の予定です。

ちなみにコレ書いてる横でBit192 Labs様の小説自動生成AIの「AIのべりすと」をどうにか使えないかなぁ……と新作(R18注意)に手を出してしまいましたが、こっちに使うにはいろいろと難しそうなのでこちらは今まで通りに手書きです。


ご興味頂ければ、そちらもご覧ください。
▼R18注意
『爆乳ふたなりコスプレイヤー -オナニー実況限定配信中-』
https://syosetu.org/novel/275930/


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