Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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附随の憮然 01/12/20

 武たちフェアリー小隊にとってインフィニティーズとの対人演習は予定外だったが、彼らにしても普段の任務との兼ね合いなどもあってか左程の余裕は無いようで、演習の日取りは話を受けたほぼ直後に押し込まれた。

 

 ユーコン基地という恵まれた環境のため機体の調子は良好だ。問題は、急な変更に伴う小隊員への影響だった。

 フェアリー小隊はXM3の提示が任務であり、他開発小隊との合同演習や講習会などが常に予定されているが、押し込まれた形での日程の変更や再調整のためまりもなどは各方面に頭を下げて回ることになった。冥夜や純夏にしても慣れぬ対人戦を前にしての緊張する余力など残せぬほど、急遽舞い込み積み重なり続ける書類を処理することとなった。

 

 元々が人員の少ないフェアリー小隊、つまりところはA-01第一中隊の問題が再発した形ではあるが、秘匿計画である第四直轄ということもあり事務処理のために人員を増やすことは難しい。今いる人材に負担がかかっているとは認識されながらも、抜本的な解決は先送りのままだ。

 

 さすがに演習前日まで徹夜での作業が続くというほどではなかったが、小隊員の体調は万全とは言い難い。最強の戦術機と謳われるF-22 ラプターを相手取るには不安が残るが、それを言訳に無様を見せることは許されるはずもない。

 

 

 

(疲れてましたから負けました、って言えるわけもねぇからなぁ)

 

 演習直前に小隊各員は覚醒効果のある薬剤は投与されたとはいえ、過剰摂取で判断能力を失うわけにもいかず、疲労を誤魔化す程度だ。武であっても吹雪のコクピットに乗り込み、演習エリアに入ってからでさえ、集中できていない。

 接敵までに左程の猶予はない。意識を切り替えるためにも、武はフェイスウィンドウ越しに他三人の顔色を窺った。

 

 純夏は緊張ではなく、慣れぬ書類仕事の疲れが残っているようだ。投薬の影響で血は巡っているが、その効果もあってか視線は落ち着かない。九州での実戦を経たとはいえ、まだまだ任官後一年にも満たない新兵である。むしろ演習ということもあって、意識が散漫になっているようにも見えた。

 

 逆に冥夜の方は、事前の指示通りに武のすぐ後ろに立ち、任務へと集中しているように見える。バイタルデータの方も安定し、このあたりはやはり幼少からの鍛錬の成果と言えるのだろう。

 

 まりもも、小隊長という立場とその責任感からか、一見は普段通りだ。対BETA戦において機体や衛士の体調が本調子ではないことなどむしろ日常であり、少々の疲労などあって当然という風に落ち着いている。

 

 

 

 

 

 

 演習エリアに入ってすぐに、武と冥夜は左腕に装備した追加装甲を地に下す。

 

 続けて右にも持っていた追加装甲で地面を掘り始める。追加装甲はもともとドーザーブレードとしても使えるように設計されていたが、このあたりXM3の各種機能によって掘り起こしなどはかなり高速化されていた。戦術機2機が屈みこめる程度の面積ならば、然程の時間を要しない。

 まりもと純夏の撃震2機が到着する頃には、簡易壕はほぼ完成していた。掘り下げその分を横に積み上げてしまえばそれなりの深さとなる。ここに武たちが持ち込んだ4枚とまりもたちの2枚の追加装甲も加われば、壕としては十二分の強度を持つ。

 

 戦術機は全高だけなら20m近いが、人型を模していることもあり、屈んでしまえば10m弱。それが深さわずか数メートルの簡易壕とはいえ、そこに入ってしまえば追加装甲1枚だけであっても一方向からならばほぼ全身を隠しきれる。

 それが二機並び、さらに六枚の追加装甲を用いれば装甲の死角はほぽ無くすことができた。

 

 無論このような簡易壕など、光線属種以外に遠距離攻撃手段を持たないBETAに対してはまったくの無駄だ。地面に立てた程度の追加装甲程度ならば戦車級であっても即座に乗り越えてくる上に、突撃級は当然、要撃級であっても簡単に押し倒してくる。

 

 

 

 もちろん対人類戦であっても十全な効果は認められないだろう。陸戦兵器としてみれば薄い装甲の戦術機がその機動力を捨てて一ヵ所に留まってしまえば、敵支援砲撃の格好の目標でしかない。155mm迫撃砲など戦術機の機動性をもってすれば回避は可能だが、一ヵ所に留まってしまえば致命的とも言える破壊力だ。

 

 だが、これが対戦術機に限定すれば、また意味も変わってくる。

 戦術機の主兵装たる突撃砲の36mmでは、追加装甲を撃ち貫くことは困難であり、装甲と機体本体との空間的距離を鑑みればたとえ120mmAPFSDSであっても満足な効果を発揮するにはかなりの接近を強要される。

 

「F-22の単純な機動性は、 第一世代機たる撃震は当然、おなじ第三世代機の吹雪をも大きく上回る。とはいえ、わざわざ相手の得意なステージに上がってやる必要もあるまい」

 ブリーフィングにおいて、ターニャはそう言って嗤って見せた。

 

 戦術機の概念が固まる前、陸戦兵器として開発されたF-4系列である撃震は、装甲と耐久性などに限ればF-22に匹敵するどころか一部であれば凌駕する面もある。ラプターからの突撃砲での砲撃では、追加装甲を加えた簡易壕に引きこもった撃震へは満足なダメージを与えるのは難しい。

 

 事前の予想では、正面切っての単純な撃ち合いとなれば、撃震の命中精度は大きく劣ろうとも、ラプター側が有効な砲戦距離まで近付こうとすればそれなりの損耗を与えられると考えられていた。

 

 

 

 

 

 

「フェアリー02から00。所定の位置に到着。索敵に移ります」

 

 壕に潜り込み、主兵装たるMk-57中隊支援砲を構える撃震二機を残し、武と冥夜の吹雪は1km程先行した。

 

 演習エリアに入るまでは左右両碗で二枚の多目的追加装甲を持っていたが、今はそれを簡易壕に構築に使ってしまった。代わりにまりもと純夏の撃震から、冥夜は長刀を、武はもう一門の突撃砲を受け取っている。

 共に背部兵装担架には突撃砲が二門だ。突撃前衛としてはおかしな装備だが、このところは二人ともにほぼこの形になってしまっていた。

 

 後方の撃震の2機は短刀を除けば、Mk-57と突撃砲が1門ずつしか残されていない形だが、壕に籠っての自衛砲撃ならばそれで十分だ。

 

 

 

 隊員に疲労はある。推定戦力比が劣悪なのも明らかだ。さらに演習の単純な勝敗ではなく、任務として設定されている目標が困難すぎる。

 

 小隊の任としてXM3の提示が必要ともなれば、誰もが再現できる戦術とあたりまえの操縦技術によってラプターに勝利する必要がある。逆に例え勝ったとしても、それが機体性能や衛士個人の技量に寄るものと見なされれば、フェアリー小隊にとっては任務失敗である。

 それを判りやすく見せるために、武たちが使用している機体は吹雪と撃震だった。下手にボーニング側の機体と見なされる不知火・弐型にF-15 ACTVを用いて勝ってしまえば、LM側に要らぬ不信を抱かせかねないという政治的配慮もあった。

 

 次期主力機たるF-35はLMが中心とはいえ、欧州連合にアフリカ連合も関わる国際共同開発として進められている。これらの国家群がXM3の採用をほぼ確定しつつある現状、顧客として最大手なのは合衆国陸軍ではあるはいえ、海軍でさえXM3導入に意欲的ともなれば、F-35を既存OSのままに開発を続けることは不可能と言える。

 今後F-35がXM3に最適化されて再設計されなければ、既存機のXM3化改修だけ良しと判断されて開発計画自体の中断さえありうる状況だった。

 

 ターニャは徹底的に叩けというものの、XM3の利点を示すのは当然、ラプターの優位性を見せつつLMの立場を守る必要もあった。

 

 

 

(勝つのは当然、だけど圧勝は禁止、さらには敵の利点も見せろって、どんだけプロレスなんだよ。とはいえまずはこっちも見付けなきゃ話も始まらねぇんだが……)

 

 JIVESで再現された投影視覚では、武たちの吹雪はビル屋上に着座しているよう見えるが、実際はその仮想化されたビルとほぼ同等の高さを持つ岩の上に立っているだけだ。

 そこからコクピットブロックを解放すれば、どこか寝ぼけていた意識が、12月のアラスカの厳しい寒さに叩き起こされる。用意していた双眼鏡を手に、その場に立ち上がる。

 

 当初は掌に乗ってさらに高く掲げ、視界を確保するべきかとも考えられたが、再搭乗にかかる時間が問題視され、コクピットを解放するだけにとどまった。

 

 

 

「うわ……ホントに見えたぜ。って2機? いや4機いるな」

 

 対人演習において負けなしとまで言われるF-22だが、ターニャに言わせるとステルス機としては欠陥機らしい。そもそもレーダーに映らずとも目視ならば見えると、当たり前のように告げられた。

 さらに極静穏モードで音も無く歩行でき、戦術機の振動音センサーであっても捕捉されにくいとまで言われているが、巡航速度とはいえNOEで跳躍ユニットを吹かしていればそのエンジン音だけでも向きが判ってしまう。

 

 見えるはず、見えて当然とは言われていたが、さすがに自分の眼でラプターを目視してしまうと驚きで声も漏れる。しかも一見は2機だけかとも思ったが、あらためて注視すると分隊機同士であろう2機ごとに、ほぼ密着するような形でNOEにて巡航している。

 

 たとえステルス機でなく、レーダーで発見できたとしても、これならば4機一個小隊ではなく、2機一個分隊だと誤認してもおかしくない。戦闘開始前、接敵以前からアクロバットじみた機動を見せてくるほどには、インフィニティーズはフェアリー小隊を高く評価しているということだろう。

 

「02よりフェアリー各機へ。目視にて目標を発見」

『同じく04。こちらも目標を視認。追加の情報を送ります』

 

 武が報告するとほぼ同時、冥夜の方も発見したようで、観測手としての任をはじめる。レーダーでは追尾できないので、二人は機体側の光学センサやレーザー測距器などをなかば手動で操作だ。手間取りながらではあるが、予想速度などの緒元を伝えていく。

 

 

 

 そもそもが偶発的な同規模遭遇戦、という状況設定はF-22にとっては大いなるハンデなのだ。ステルス機ならば、敵戦力の分析そのものが不可能とは言い切れずとも、困難である。機数と侵入経路が不透明なだけであっても、対立側の選択肢は大きくそがれる。

 それがこの演習であれば、両チームともに機数どころか、初期侵入方向も確定しているのだ。索敵の方向が限定できるだけでも大きい。

 

 そもそもこちら側のレーダーには映っていないが、相手たるインフィニティーズからはすでに補足されているはずだ。

 演習エリア外苑ギリギリの後方に残してきた2機と、前方に展開する2機。機種までは特定できては居ないだろうが、その位置関係があれば側方に回り込む余裕などもなく、接敵してくる方向はほぼ絞り込める。

 

 さらに戦術機の大きさが仇となった形だ。

 10km先の人影など手持ちの双眼鏡どころか100倍のスポッティングスコープを使ったとしても満足に見えるものではない。しかし全高20mほどの戦術機、それが抑えているとはいえ雪煙を上げて飛んでいれば発見可能だった。

 

 脚部走行ではなく、跳躍ユニットを使っての戦術機の巡航速度はおよそ300km/h前後だ。F-22は他に比較して高速巡行性能を持つとはいえ、光線級警戒下という想定状況であり、NOEを強いられているためにその能力を十全に発揮できているとは言い難い。

 単純な速度で言えば、ヘリよりも速いとはいえレシプロの戦闘機にも劣る。

 

 冬季迷彩に塗り替えていればまだしも、インフィニティーズのEMD Phase2の先行量産型のラプターは濃紺色だ。むしろこの環境下では目立つ。これが夜間侵攻、あるいは曇天下などであればまた話も変わっていたかもしれないが、加えての晴天、しかも地面には先日までに降り積もった雪が残っている。

 一度見つけてしまえば、裸眼でも追いかけられるほどだ。

 

 

 

『こちらフェアリーCP。レーダー上では確認できない』

 

 武たちがラプターを発見したとはいえ、それはあくまで目視によるものだ。事前想定通りではあるが、確認の意味を込めてかCPからニイラムが報告を付け加える。

 

 このところフェアリー担当とでも言えるようになってしまっているが、CPにはターニャと共にアルゴス小隊のオペレーターであるニイラム・ラワヌナンドも入ってもらっている。

 小隊管理程度ならばターニャであれば片手仕事に片付けてしまいそうだが、貴重な対人演習、それも最新鋭のラプター相手という絶好の条件であるために、ニイラムにも手伝ってもらっている形だ。

 

『ふん。ステルスとはいえ所詮は戦術機。それもNOEでの接敵でしょう。大戦時の爆撃機程度のモノが見つけられぬようであれば、訓練兵からやり直していただくところでした』

 

 ステルス機を接敵前に発見できたという報に、むしろできて当然と嘯いていたターニャが口を挟む。ターニャの言葉通り、巡航程度であれば機体サイズなども含め戦術機はB-25爆撃機などと似たようなものだ。

 

「そう言われると昔のパイロットってのはスゲぇよな」

『我らも先達の皆様方に恥じぬ行いをせねばな』

 

 大戦開幕当初は、戦術機よりも小さい機体をレーダーなどの補助もなく裸眼で索敵していたのだ。戦争の意味やその是非などはともかくも、その技量と彼らが賭けた想いには武であっても自然と頭が下がる。

 

 

 

 そんな武たちフェアリー小隊の対応に気付くはずもなく、インフィニティーズの4機はいまだ巡航速度のままに、前方に位置する武たち2機へと接近して来る。

 こちらから発見される可能性自体は考慮していても、それが実現しているとは考えていないのか、ラプターならば初撃は取れて当然とでも言わんばかりの落ち付きとも言えた。

 

『フェアリー00から01、03へ。各自の判断の下に攻撃を開始せよ』

『……01了解、砲撃を開始する』

『0ッ、03了解、撃ちますッ!?』

 

 緒元を確認しながら、最大射程に入るまで間を取ったまりもに続き、純夏も撃ち始める。初弾が着弾するまでの10秒にも満たぬ間だが、二人ともに全力投射であった。

 

 ブルーフラッグなど同規模小隊遭遇戦を模した演習においては、誘導兵器と共に支援砲撃は無いものとして扱われている。

 

 歩兵の分隊戦と、航空機でのDACTとを混ぜ合わせたような想定条件ともいえる。歩兵の演習であれば攻守の交代などもあるが、その辺りはDACTに合わせたのか双方同条件での殲滅戦だ、

 支援砲撃はないが、装備兵装での間接射撃は認められている。このあたり、歩兵の投擲兵器やグレネードランチャーなどと同じだ。これらを禁じてしまえば突撃砲の120mmモジュールでのHE弾にも制限が出てしまうためだ。

 

 Mk-57による間接砲撃は正直なところかなり目に黒に近いグレーゾーンではあるが、欧州連合軍の影響力がそれなりに強いこのユーコン基地においては、その運用を否定されることはないとの判断だった。

 

 

 

 着弾までのわずかの間に武と冥夜とはコクピットを閉じ、いつでも動けるように軽く緊張を整える。

 

 砲撃を避けるために遮蔽物に隠れるか、あるいはそのままより勢いを乗せての突破か、はたまた光線級警告下で許される高度を取って散会するのか。ここからはインフィニティーズの対応次第となる。

 いくつものパターンが想定され対策も話し合ってはいたが、基本的には敵を引き付けつつ、まりもたちが待つ簡易壕まで下がる形になるはずだ。

 

「……は?」

『あ、いや……これは』

 

 動くタイミングを見計らって、レーダーではなく、光学センサから投影された映像を注視していた武と冥夜、それぞれの口から声が漏れる。即座に動くべきだと訓練された意識は判断するが、感情の方が理解を拒否してしまい、他の者の動きを探り合うかのように止まってしまった。

 そもそも10秒弱で想定されていたMk-57の間接砲撃も、止めるタイミングを失っているかのように、いまだ撃ち続けられている。

 

 

 

『……インフィニティ01、頭部小破及び胸部コクピットブロック大破、撃墜。続いてインフィニティ03、頭部および胸部大破、撃墜。インフィニティ04左腕小破』

 引きつった表情で、それでも務めて冷静にニイラムが報告する。

 

 その報告を受けてようやく砲撃が止む。

 当初の10秒に満たぬ程度の間接砲撃では2機を合わせても40発ほどだ。巡航飛行中でランダム回避など行っていないとはいえ、あくまで初撃を取るための砲撃でしかなく、誰もが当たるはずがないと思っていた。

 命中弾を与えた純夏自身が、一番状況を理解していないように見える。

 

 むしろ初弾の着弾から瞬時に散会し、いま大型ビルの陰に身を掲げているレオンとシャロンの残された二人の方が冷静かもしれない。

 

 

 

(まさか初撃で命中どころか二機撃破って、おかしすぎるだろうッ!?)

 

 以前にターニャが、純夏の間接射撃精度が異常なまでに高いと言っていたが、それを目の当たりにして、武も驚きよりも先に呆れ果ててしまった。可能性としては一応は想定されていたものの、眼前に見せつけられれば判ってはいても対応に困る。

 

(誰であっても再現できる戦術って意味ではまあアリかもしれねぇが、XM3の提示って面ではまったく何の意味もねぇってのが、ホントに「より良い未来」を選び取ったて事なのかね?)

 

 機動戦は武たちの吹雪で見せる予定だったが、防衛線構築におけるコンボ機能での砲戦能力の向上などは、簡易壕に籠ってからの撃震の担当だったのだ。機動を捨てた撃震二機を囮かつ砲台として使い、武と冥夜の吹雪二機で誘いこみながら敵戦力の漸減を図るのが、これからの予定だった。

 

 

 

『高度なファストルック・ファストキル能力……なるほど確かにその二点は重要だが、最重要の一点が欠けているために、高価な鉄屑と化しましたな』

 

 フェアリーもインフィニティーズも満足に動き出せない中、予定通りだと言わんばかりにターニャが嘲るように言葉を紡ぐ。

 

 事前のブリーフィングでターニャが話していたことを武は思い出した。ステルス機動兵器に必要な能力はファストルック・ファストキルだけではない、と。その間を繋ぐ「ファストシュート」能力が無ければ機能しないのだという。

 たとえ先に見つけたとしても先に撃てないようでは、ステルスの利点を放棄しているようなものらしい。BVR(視界外射程)戦闘能力が無ければ意味をなさない。長距離誘導弾の使用を制限、あるいはそもそも標準装備されていない戦術機でしかないF-22 ラプターなどステルス機動兵器としては、明らかな欠陥兵器だというのがターニャの弁だ。

 

 まさに今、目視にて発見されていただけでなく、ルール違反ギリギリではあるが支援砲にて先制射撃を受けたことで、戦術機としてのラプターにはステルス機として欠損があるというターニャの言葉を証明してしまった。

 

『まあ斯様な結果であろうと、彼らも合衆国陸軍の誇る教導部隊だ。よもやノーカウントだと騒ぎ立てることは無かろう』

 

 ターニャ一人が冷静なまま、どこか心からの笑いを含んだ声で言う。たしかに禁止されている支援砲撃とも取られかねないMk-57での撃墜だ。相手側からの物言いがあれば、演習の即時中止も考えられた。

 

 偶然発生したタイムアウトと言えなくもない空白だが、インフィニティーズが中止の判断ができるのはこのタイミングくらいだ。しかし彼ら自身の威信と尊厳に賭けて、この場での中止は選択できようもなかった。

 

 

 

 初撃でのラプター2機撃墜という衝撃に演習とはいえ戦場にあるまじき空白ができてしまったが、一気に戦力を半減されたインフィニティーズの二人は行動に移れない。いまだ両者の距離は5km程はあり、ラプターが持つAMWS-21の有効射程に入るまでにもう一射は受ける可能性が高いのだ。

 しかもシャロンの機体は左腕が使えない。支援突撃砲は片腕でも運用はできるが、通常の突撃砲に比して、長射程での命中精度という利点は失われてしまった。

 

 どうやって命中されられたのか? そもそもなぜ見つかったのか? それらの疑問は棚上げしたとしても、対処方法を考えなければ動きようもない。JIVESで再現された廃墟となった市街地。メインストリートの奥に位置する2機の撃震、その前方を護衛する吹雪へと、無策での突撃をためらうほどには二人ともが優秀過ぎた。

 

 実のところ、ラプターの機体性能によるごり押しで接敵される方が、フェアリー側としては対応が難しかった。レーダー補助の見込めない状況で、ラプターの最高速度で接敵されれば、満足な有効射を与えられたかどうか疑わしい。

 いままで積み重ねてきたDACTなどでは、ラプターはそうやって勝ってきたはずなのだ。だが実質的に初の被撃墜、加えて初撃でのありえざる命中精度、小隊長の脱落などで動きが取れなくなっていた。

 

 

 

『フェアリー00から、フェアリー各機へ。第二段階は省略、第三段階へ移行せよ。01及び03は予定通りに』

『フェアリー01了解。02、04へ。以降は任せた』

 

 ターニャの指示に、まりもが了承し、短く告げる。純夏も言葉にはしないが、ほにゃりと笑って見せた。

 

『フェアリー04、了解』

「あ~02了解、任されました」

 

 冥夜と武の応答を受けた瞬間、投影されていたフェイスウィンドウがノイズだけに変わる。まりもと純夏はIFFを切り、背部兵装担架に下げた突撃砲で、自らコクピットを撃ち抜いた形のはずだ。

 

『フェアリー01、胸部コクピットブロック大破、撃墜。続いてフェアリー03、胸部コクピットブロック大破、撃墜』

 ようやく落ち着いたのか、あるいは予定の行動なので冷静になれたのか、ニイラムも普段通りに冷静に報告する。

 

 

 

「さて。これで戦力比はともかく機数的には同等、判りやすい2on2だ。行けるか、04?」

『無論。惜しい気もするが、先陣はそなたに譲ろう』

「ははっ、そこは分隊長の特権だな。先頭は譲るつもりはねぇ」

 

 インフィニティーズの2機は、先ほどまではMk-57を警戒して動かなかったのだろうが、今はこちらの自殺じみた行動の意味が判らず固まったままだ。だがすぐに意図を掴むだろう。

 

 勝つだけであれば機動力の勝るラプターに先手を取られることは避けたいが、不意を突いて勝利だけを掴んでも意味はない。

 冥夜と共に真っ向勝負へと向かうべく、武は笑いあって見せた。

 

 

 

 

 

 

 




ブルーフラッグと言いますか、対人戦演習としてはルール違反ギリギリだなーと思いながらもこんな感じで。
ちなみに初期案では、対インフィニティーズは、戦術機戦前のデモンストレーションとしてデグさんが古巣の合衆国空軍に掛け合ってE-3Aに支援されたF-111あたりを引っ張ってきて、文字通りにFirst Look・First Shoot・First Killされるというどうしようもないネタでした。

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