Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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填補の譎詐 01/12/17

 休暇明けではあったが、朝のミーティングでは特筆すべき伝達もなかった。武と冥夜とは弐型Phase2が整備のため使えないこともあり、午前中は書類仕事になりそうだった。

 

 弐型の整備は昨日の内に完了する予定だったが、先の長時間演習の影響が予想以上に大きく、時間が許すならば一度分解整備まで認めて欲しいとの報告が整備班からあり、それを了承した形だ。

 原型機たる不知火ではなく、より高機動の武御雷を基準に考えられていたが、機体サイズの大型化とそれに伴う重量の増大とで事前想定を大きく超えたらしい。特に下半身の関節周りの負担が大きく、股関節部や足首などは場合によっては配備後の整備スケジュール自体までもを見直すほどに損耗しているという。

 ただ不知火と弐型Phase1、Phase2それぞれの差異を修正し最適化していけば、将来的には関節部の損耗も予定範囲内に収まる可能性が高い。

 

 しかしながら今は武たちが弐型へのXM3対応をすすめているが、これは本来ならばアルゴス小隊の任務だ。フェアリー小隊としてはXM3の提示こそが主任務であり、個々の修正対応などはそれぞれの開発小隊ひいては運用国が対処する範疇だった。たとえ帝国陸軍機たる不知火・弐型であっても、その開発主体はアルゴス小隊であるべきだった。

 そして他の開発小隊とは異なり、XM3自体は一応のところは完成している。先日の演習のように実機でのデモンストレーションも重要ではあるが、それを文章として評価し対外的に明確な利点として説明することも、開発衛士であれば業務の一環とも言えた。

 

 

 

(さて、と。片付けなきゃなねぇ書類は溜まってはいるものの、半日あればそれなりに何とかなるか?)

 

 可能な限りは即日処理しているために、武の机の上乗っている書類は実のところ少ない。武自身に回される書類自体が減らされているのもあるが、むしろ下手にデスクワークを溜め込めるような、物理的に余裕がある環境ではなかった。

 

 プロミネンス計画において、フェアリー小隊は独立した開発小隊として一応は扱われているが、実質的にはアルゴス小隊の補佐と受け取られている。

 欧州連合から計画に参加しているスレイヴニル小隊とガルム小隊との関係にも近いが、あちらがまったく別の機体を開発しているのとは違い、アルゴスとフェアリーとは試験運用している機体はほぼ共通である。

 

 それらの要因と、なによりも時間的な余裕の無さ、そもそもの人員の不足などもあって、フェアリー小隊が小隊独自に使える施設は少ない。小隊指揮官たるまりもであっても、大尉ということもあり独立した執務室は用意されておらず、他の小隊員と共用の部屋にデスクがあるだけだ。

 

 

 

 対してJASRAからもXM3開発の協力という名目で若干名の局員が臨時でユーコン基地に配属されており、各種の連絡業務などを担当しているらしい。ウォーケンはそちらの方でも実務を担っているとは言うが、当然ながら武たちには詳しいことは知らされていない。

 

 他開発小隊に留まらず戦術機を運用する諸外国軍や開発関連企業などへの対応など、小隊で対処せねばならぬ案件は多岐に渡る。武自身に回ってくる書類が少ないとはいえ、実のところフェアリー小隊単体で処理しきれる分量ではなかった。

 それらを本来の業務外であることは承知しながらも、開発協力の名の下にJASRA局員に投げている形だった。

 

 ただJASRA内部であっても、ターニャと「ティクレティウス少尉」の関係は対外的に公開されている情報に限定されており、ターニャがそちらで執務に就くわけにもいかない。

 結果的にターニャの執務室などは用意しようもなく、フェアリー小隊においては小隊付きCP将校でしかないため、ターニャ個人が使えるスペースは机一つだけだ。ただ階級的には異常な措置だが、JASRAとの連絡員を兼ねるウォーケンにも場所は用意されていた。

 

 とはいえスペース的には狭いながらも、かの「ジョンおじさん」を筆頭にカンパニーなども協力しているようで、防諜面でも安全対策の面でもユーコン基地内では突出したレベルとなっている。冗談ながらに、機械化歩兵装甲も室内に配備しておくかとまで言われていたらしい。

 

 ターニャ自身は時折ふらりと消えてはいるが、冥夜が戦術機演習時以外はこの場にいることが多いのも、二人の警護の面から見て当然の処置とも言えた。

 

 

 

 

 

 

「ティクレティウス少尉、少しお時間をいただけませんでしょうか?」

 

 朝のブリーフィングが終わり、小隊の各々が業務を始める時を見計らって、武はターニャに声を掛けた。

 

 まりもは他の開発小隊からXM3の所感を直接聞き取りに行くために、すでに退室している。純夏もそれに付き従っていた。いまこの部屋に居るのは武に冥夜、ターニャとそしてウォーケンだった。武からする話は聞かれていても問題の無い事だが、その後のターニャの返答次第では秘匿すべき事項に関わってくる可能性は高い。まりもたち二人がこの場に居ないことはむしろ好ましかった。

 

「なにかね、白銀少尉?」

「まずはお礼を。昨日、過分なまでの贈り物を頂きありがとうございました」

「少尉殿のお心遣い、心より感謝いたします」

 武の様子を見て、静かに横に並び立った冥夜共々に、頭を下げる。昨日二人の誕生祝として渡されたワインの礼は、伝えておかねばならない。

 

「ああ、気にするな。そもそもが貰いものなのだ。ご覧の通りのこの身体だ。もうしばらくは飾っておくのも一興かとも思っていたが、そこまで寝かせることも無かろうと思ってな」

 

 ターニャは簡単に笑って見せるが、もはや失われてしまった物の一つだ。南米などで代替品は作れるだろうが、同じものは不可能だ。そしてたとえフランスが奪還できたとしても、人々の努力次第ではあるが、かつての品質を蘇らせれる可能性は極めて低い。

 

 だが、あくまでワインの礼は個人的な範疇の話だ。職務中に告げることでもなく、本題に入る。

 

 

 

「その席で、インフィニティーズのレオン・クゼ少尉とお会いする機会が偶然ありまして、伝言を賜りました」

 

 状況から公式の話ではないと判断したようで、ターニャは訝しんだようでいつもの無表情に戻った。ワインの件は横で聞き流していたウォーケンも、レオンの名には興味を引かれたようで身体をこちらに向けてきた。

 

「少尉曰く、合衆国海軍はXM3導入を推進する、とのことです」

「ふむ? クゼ提督らの意見としてではなく、海軍の方針としてそうなりつつある、ということとか」

「そこまでは何とも。ですが少尉自身も詳細は聞かされていなかった模様です」

 

 ターニャの推測を補強できるような情報は武は持っておらず、否定も肯定もできない。そもそもが伝えてきたレオン自身も詳しい話を知らない様子だったが、それ自体は一つの情報ではある。

 

 

 

「陸軍の動きが遅いうちに先に手を出しておこうという腹積もり、だけではないでしょうが……」

 

 ソフトとしてのXM3はコピー可能だが、それを動かすCPU関連は今のところ帝国が一手に生産している。合衆国の生産能力であれば将来的には当然国産に切り替えるだろうが、いましばらくは特許や権利の関係で第四の管理の下、帝国内だけに限定される予定だ。合衆国海軍が数を揃えようとするならば、陸軍が大量採用を決定する前に必要数を確保したいという思惑は間違いなくあるだろう。

 

「教導団衛士という息子の立場を使っての陸軍への牽制、とも考えられなくはないな」

「ああ……こちらへの手向けの意図もありそうですな」

 

 ウォーケンの予想は、作戦指揮を担う軍人として至極妥当だ。配下の戦力の拡充を考えるのは士官の義務とも言える。しかしターニャはその当然の推測も否定はしないものの、それ以外意味合いも可能性として挙げた。

 

「手向け、でありますか?」

 ターニャとの付き合いの長いウォーケンは即座に悟ったようだが、武は意図するところが読み切れない。

 

 

 

「海軍が数を揃えようとしているから、陸軍も急げ……と思わせて、というだけではない、と」

「白銀。我ら帝国とは異なり、合衆国海軍は大規模作戦の予定もなく、現時点では装備の刷新を急ぐようなことはあるまい?」

 

 ターニャの言葉の意味を考える武に、冥夜は海軍側に急ぐ理由がないと指摘してきた。

 武たちがXM3の開発を急いだのは、九州へのBETA上陸が眼前の危機としてあり、また喀什攻略に向けての時間的余裕がなかったからである。そういった意味では、合衆国海軍は、今すぐにXM3導入へ向けて動き出さねばならぬような切迫した事態に直面しているわけではない。

 

「合衆国陸軍内部その戦術機運用に携わる方々へ非公式ながらに海軍としての意思を示し、XM3導入へと踏み切るように動いてくださっている、ということではないか?」

 

 武の疑問に一応の回答はできたものの、冥夜自身も完全には理解できていないようで、考えながら言葉を紡ぐ。ただその推測は、おおよそのところでターニャやウォーケンのものと等しいようで、無言の肯定を受けていた。

 

 

 

(ああ、そうか。俺に話が来てるってことは、当然インフィニティーズの中、ってかその周辺では噂にしてても当然だよな)

 

 教導部隊であるインフィニティーズの隊員がXM3に対して好意的であり、海軍も導入に前向きな意向を示している。そういった公式声明以前の情報を陸軍内に知らしめることがクゼ提督らの意向だと、ようやく思い至った

 

「海軍ではなく、陸軍側にXM3の導入を急がせて、結果として喀什攻略に参加する部隊を強化させる。で第四、いえ、それと協力関係にあるJASRAへと恩を売っておく、ということでしょうか?」

「海軍側からの好感触は、白陵基地における先の公開トライアルの時点で伝えられている。いまあらためて非公式な形でそのような言伝があるということは、何らかの思惑があると見て間違いない」

 

 武の出した推測を、ウォーケンは否定することなく補強してみせる。

 

「海軍には先の九州防衛では世話になったとはいえ、次の攻略作戦に直接参加する手立てがありませんからな」

「機動降下に空母乗りを参加させるとなれば陸軍が煩すぎる。彼らにできる協力となれば、このような形にしかならぬのも仕方あるまい」

 

 ターニャは明言はしないが、クゼ提督だけでなく海軍においてはそれなりの数の者たちがJASRAには好意的なようだ。あるいはルナリアン派閥である可能性も高いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「しかし今更ですが、中国もそうですが、ソビエトからも喀什攻略を反対するような声は上がってきてないんですよね」

 

 対BETA戦においては攻勢の軍事行動は原則として国連軍が主体となり、安保理の承認を必要とする。だが武たちが企図した喀什攻略は第四計画の準備的作戦行動ということで、承認を得ずに作戦は立案され実行に移されようとしている。

 妨害工作とまではいかなくとも、東側からのなんらかの形で反発はあっても当然だと武は思っていた。しかしターニャや夕呼から愚痴一つとして聞かされていないことからも、大きな動きは無いように感じる。

 

「彼らは合衆国に負けてほしいのだよ」

 そんな武の疑問に、ウォーケンが苦笑しつつ簡潔に答えた。

 

「……は?」

「新装備で増長した帝国と、それに乗せられた合衆国とがハイヴ攻略に失敗することで、安保理における発言力が低下することを期待しておるのだろう。非生産的な連中が考えそうなことだ」

 

 理解が進んでいない武に、ターニャが不機嫌な表情を隠そうともせずに言葉を重ねる。

 

 

 

「つまり、喀什攻略は成功する見込みがないと思われている、と?」

「自分たちが失敗したのだから我らも失敗するはずだと、自らの無能を棚に上げて願望に縋っているようだな」

 

 概略の立案に関与した武が言える話ではないが、たしかに作戦の成功率は低く、参加将兵の帰還の目途さえも怪しい。ただそれであって失敗を期待されているとまでは思っていなかった。

 

「あとはユーロの方では、第四計画が主導している形で失敗すれば第五への移行が早まり、国土奪還の眼が見えてくる、と考えている連中も多い」

 中ソだけでなく常任理事国たるフランスが中立的立場でいる理由を、ウォーケンが補足する。ドイツやイタリアなどの他ヨーロッパの亡命政府も、声にはしていないが似たような思惑らしい。

 

「結局、俺たちが失敗すれば、ハイヴ攻略にG弾を使う口実が作りやすいって事ですか」

 武も知見を積み、人類が簡単に一致団結できるとは流石に思わなくなっては来ていたが、各方面から失敗を望まれていると言われてしまえば大概にうんざりもしてしまう。

 

「忌々しいことに、我らが成功をわずかでも望んでいるのは、ここユーコンのプロミネンス計画総責任者たるハルトウィック大佐くらいのものかもしれんぞ?」

「戦術機を主体とした形でのハイヴ攻略、ですか。たしかにここの計画にしてみれば、我らが戦術機のみで成功すれば、計画の正当性は高められそうですね」

 

 プロミネンス計画を壮大な無駄と断じるターニャにしてみれば業腹だろうが、武もその苦々しげな口調にも同調してしまいそうだった。

 

 

 

「そういえば伝えていなかったな。攻略作戦は11案を基本骨子として進めることとなった。XG-70やG弾も使えるものはすべて使うぞ」

「え~と、11案というと……たしか?」

「貴様が当初提案したものを基本として、XG-70を三機投入可能となった時点で修正を加えた形だな」

「え? いや、ですがアレは、合衆国陸軍がF-22を連隊規模で投入してくれればッて」

 

 武が最初期に出した案を基本としたと言われたが、嬉しさよりも何よりも困惑が先に来る。概略はともかく細かな想定は覚えていないが、合衆国から投入される戦力を最大限に見積もった上で、予定戦力などを含め多分に願望の入り混じった案だったはずだ。

 

 そして第四主導の喀什攻略の失敗を想定した上で、『フラガラッハ作戦』として合衆国が独自に代替作戦案を進めていることは以前にターニャから伝えられていた。そちらに予定されている戦力を攻略の第一陣に回して貰うように、合衆国陸軍を説得することは一つも目的だった。

 

 

 

「XM3の能力が評価された結果ではあるな。こちらの希望通りにF-22 108機の投入はほぼ確定した」

「評価、ですか?」

 

 ターニャは皮肉気に嗤いながら告げるが、武はすぐにはその言葉を飲み込めない。以前にも武はターニャからXM3の評価がF-22の投入に繋がる可能性があるとは聞いてはいたが、それが具体的にどのような形なのかが判っていなかった。

 

「白銀少尉、合衆国陸軍の決定に何やら納得できぬ……いや実感がわかぬという顔だな?」

 考え込みながら言葉を漏らす武に、ウォーケンが言う。彼には珍しく、どこか揶揄うような楽しむような響きがあった。

 

「初期想定数よりも低かった合衆国陸軍から、XM3の効果によって想定以上の戦力をあらためて引き出したのだ。その成果は誇るがいい」

「はっ、ありがとうございます」

 

 褒められてはいるのだが、やはり先のウォーケンの言葉通り自身らの成果だという実感がない。形式的に謝意は表すが、それを「成果」だとは考えにくい。

 

 

 

「ふむ? 小隊指揮官程度ならば、敵の殲滅や目標地点までの到達など、明確な目標が設定される。いや設定できる。この程度は学んでおろう?」

「はい。それが可能となるよう、日々努力しております」

 

 公的な身分としては武は小隊副官でしかないが、実のところは中隊副官だ。突撃前衛長ということもあり、場合によっては前衛小隊の指揮を執ることもある。もちろん完全にできているなどと嘯けるはずはないが、為すための努力を続けていることだけは確かだ。

 

「目標の想定と達成あるいは失敗の評価というのは、士官にとっては重要な任務だ。だがそれらは地位が上がるにしたがって具体性を描くのがより困難となっていく。大隊指揮官ともなれば、長期的な状況までも含めて判断せねばならぬこともあろう」

 ウォーケンは武だけでなく冥夜にも何かを教えるかのように話を続ける。

 

「そのためにはただ最終的な目標だけではなく、工程を細かく細分化し、それぞれに最低限達成すべき目標とを設定する必要がある」

 

 もちろんそのすべてを一人で賄うことなどできようもない。だからこそ指揮官は決定はすれど、その前提として副官や参謀だけでなく上官からも意見を聞くことが重要だ。ウォーケンはそこまでは言葉にしないが、武も冥夜もその程度は推測できる。

 

「そして今、諸君らだけの力ではないが、喀什攻略に合衆国陸軍を大規模に参画させるという目標を達成した。それを理解しにくいというのであれば、過程が想定できていなかったということに尽きる。違うかね、白銀少尉?」

「……はっ、少佐殿のおっしゃる通りであります」

 

 そこまで言われて、ようやく武は自分がターニャや夕呼からの指示に従っていれば良いと、心のどこかで依存していたことに気付かされた。喀什攻略に関しては以前から常に考えはすると言いながら、実のところXM3が一応の完成を見た後は、ただ状況に流されていただけと言ってもよい。

 もちろん新任少尉、それも戦術機衛士一人に出来ることなど高が知れてはいるだろうが、それでも可能なことを模索していたかと言われると答えに窮する。

 

 

 

 

 

 

「しかし最新鋭のF-22、それも連隊規模となりますと、それほどまでに評価されているすれば……」

 自省に陥りそうな武の横で、冥夜はXM3のもつ意味を考えていたようで、言葉を探しながらもターニャに告げる。

 

「帝国がXM3によって強化された戦術機戦力をもって、『あ号標的』への到達ではなく、『い号標的』の制圧及び資源奪取を優先する、と合衆国ではお考えであると?」

「その通りだ、御剣少尉。もちろんそのように考える者は合衆国においては極一部である……ということにしておけ」

「失言、失礼いたしました」

 

 先ほどと同じくターニャの言葉を推測し、その「評価」の意味を悟ったのは、冥夜の方が早かった。ターニャは両国間の疑惑は多数派の意見ではないと形だけは否定したものの、冥夜の言葉自体は肯定する。

 

 

 

「加えて、合衆国陸軍が運用予定のXG-70はC型が一機のみ。対して帝国はB及びDの二機を投入する。予備戦力はもちろん合衆国の方が大きいが、最前線へ投入する戦力としては帝国寄りの部隊が多い」

 

 在日国連軍を帝国軍と判断するかどうかは微妙なところではあるが、その構成員の大半の帝国臣民からなる。指揮系統は独立したものではあるが、前線においては合衆国陸軍よりも帝国陸軍へ慮った判断が下される可能性が高い。

 下手に日米共同で『い号標的』へ向かえば、合衆国が満足な戦果を積めない可能性ある。

 

「BETA由来物質は国連管理下に置くという前提はあれど、その奪取に貢献した国家へ配慮されることは当然考えられる」

「実績としてアトリエには合衆国陸軍がまず最初に到達せねばならず、加えて制圧から撤収までを帝国のみならず国連軍にも頼らずに、独力でそれを為さねばならない、ということですか」

「合衆国陸軍精鋭が、自ら大規模に囮任務を務めてくださるのだ。喜ばしいことではないかね、白銀少尉?」」

「はっ、合衆国陸軍、いえ合衆国政府の思惑はどうあれ、これで作戦の成功率は間違いなく高まることでしょう」

 

 武が出した攻略計画には、『い号標的』への進行部隊すべてを陽動として運用するという面もある。むしろ相手側から望んでその任を担ってくれるのであれば、説得の手間もかけずに済む。

 結局のところ、ターニャの思惑はどうであれ、武が狙うのは『あ号標的』たる重頭脳級だけだ。

 

 

 

「私個人としても、BETA由来物質の管理は国連の名の下、合衆国で一元管理するのが現状では最も安寧に繋がると信じている」

 ターニャは、帝国を信頼しないわけではないがね、と嘯いて見せた。

 

「帝国内において、親ソ、親中派が一定数存在することは明らかです。少尉殿の御懸念は当然のことかと」

 答えにくい話に口籠る武に対し、冥夜は事実としてターニャの懸念を受け入れた。

 

 陸軍内部であっても、合衆国寄りのXFJ計画を進めるくらいならば、ソビエトからSu系列の機体を購入すべき、などと言う声があるくらいだ。政界においては与野党を問わず、東側に諂う者も間違いなく存在する。

 もちろん合衆国においても同様の懸念はあるが、現在に至るまでBETA由来物質の流出は確認されていないという明白な実績がある。

 

「下手に帝国が管理して、それが万が一ソビエトに流れて、あちらでG弾など生産されてしまえば取り返しがつきませんからね……」

 

 実現してしまえば、核兵器下での冷戦とは比較にならない形での緊張が発生する。国土を失ったソビエトに相互確証破壊など意味をなさない。ましてそもそもその意味を理解しているかどうかすら怪しい中国共産党に流れてしまえば、どう使われるものか予想もしたくない。

 

 

 

「となれば、後日予定されてるインフィニティーズとの対人演習ですが、我々は負けたほうがよろしいのですか?」

 

 八百長をしろとはっきりと言われたわけではないが、これでもし武たちフェアリー小隊が勝ってでもしてしまえば、合衆国からさらに要らぬ警戒を受けることになりそうだ。XM3の優位性は提示できたとしても、日米間の緊張をもたらすようでは意味が薄い。

 

「白銀少尉……貴様何を言っている? 当然、完膚なきまでに叩き潰すに決まっておろう?」

 

 そんな武の気遣いとも言えぬ配慮の言葉を、ターニャは愉しげに嗤いながら斬り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 




タケルちゃん視点だと判りにくいけど事態はビミョ~に進んでいるのだよーという感じで、状況説明だけで終わってしまいました。対F-22はやはりさらに次回に……
実のところ『い号標的』が早いモノ順というほど簡単なものではないでしょうが、下手に先に帝国軍にアトリエ周辺が占拠でもされていたら、作戦成功後の合衆国の発言力減るんじゃね?という感じです。

ちなみにウォーケンさんの出番が多いのは、コトブキヤのF-22A再販とはあまり関係ないです。

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