「ユウヤ、知り合いか?」
合衆国陸軍の制服、そしてレオンと呼んだことから知人ではあるのだろうが、ユウヤも相手の男にしても、どちらも態度が刺々しい。
同じ小隊員たるVG達も知らぬようで、とりあえずは静観の姿勢を示している。結局は、一番の部外者とも言える武が取りなすように尋ねる形となった。なによりも二人の関係性が判らぬままでは、仲を取り持つにしろ追い返すにしろ、対応のしようがない。
「失礼いたしました、合衆国陸軍第65戦闘教導団所属、レオン・クゼ少尉であります」
「同じく、シャロン・エイム少尉であります」
武の疑問にユウヤが答えるよりも早くに、名乗る。ユウヤに向けていた侮蔑の視線など一切なかったかのように、奇麗な敬礼だ。後ろにいた女性士官もシャロンと名乗るが、こちらは面白がっている様子をまったく隠す気が無さそうで、ニヤケたままだ。
「失礼。在日国連軍所属、フェアリー小隊の副長を務める、白銀武少尉であります」
「同じく、フェアリー小隊の御剣冥夜少尉であります」
武と冥夜も立ち上がり答礼するが、アルゴスの面々は座ったままだ。合衆国軍の二人も意図的にアルゴス小隊の四名を排除したような形であったが、VGやタリサの様子からして、どちらもわざと喧嘩を売ろうとしていないことは明らかだった。
どこか緊迫した雰囲気に気が付いていないのは、純夏くらいのものだ。
「フェアリー小隊の皆さまにご挨拶をと、こちらを紹介されたのですが、合衆国陸軍衛士の恥晒しとも言える者を見て、差し出口を挟んでしまいました。ご容赦を」
レオン・クゼと名乗った少尉は、冥夜の顔をあらためて見て、その上で目線を下げ非礼を詫びる。
「ん? って、レオン・クゼって、ああ、たしかXFJ計画、開発衛士候補の……」
「ええ。残念ながら選抜からは漏れてしまいましたが」
武が洩らした言葉を、レオンは苦笑気味に肯定する。どこかで見たと思えば、先日見せられた資料にあった顔だった。
(しかし冥夜、というか殿下を知ってるようだけど、父親のクゼ提督あたりから情報は得てる、のか?)
先ほどレオンが冥夜の顔を見て、一瞬強張ったのを武は見逃してはいなかった。それは「煌武院悠陽」を見知っている者の反応だ。将官ならば、同盟国の軍事最高責任者とも言える相手の顔を知っていても不思議ではないが、ユウヤなどからはそういった反応はなかった。
レオンが、といよりもクゼ家が帝国の内情に詳しい、と見たほうが良さそうだ。
「あ~立ち話もなんだ。二人位なら、同席して、も問題ねぇ、よな?」
「大丈夫だろ、イブラヒムのおっさんもそこまでケチなことは言わねぇ」
苛立っている様子を隠す気もないユウヤに聞く話ではないと武は思い、VGに振るが上官の名を出されて一瞬悩む。この場の払いは上官三人が持つということになっているのを失念していた。
「ま、そこのボトルに合わせるくらいまでは出してもらわなきゃ、アルゴスの名が廃るってもんだ」
「……おい、VG。中尉殿にご迷惑かけるなよ」
だがこのまま立たせたままだと、レオンはともかくもユウヤが手を出しそうな気配だ。VGもそれが判ってるようで、気楽に誘う。むしろイブラヒムへの負担を慮ってタリサが止めようとするくらいだ。
「え? いや、良い、のか?」
「ご覧の通り、パーティと言いつつ、いつもの飲み会だ。そっちが気にしねぇんなら、こっちからも聞きたい話があるからゆっくりしてくれ」
席を勧める武やVGに、レオンはどこか戸惑ったように答えを濁す。アルゴス小隊というよりかはユウヤを警戒しているだけでなく、やはり冥夜の様子を窺っているようにも見えてしまう。
「噂のインフィニティーズから、話が聞ける機会なんてそうそうないからな」
武の提案に、VGがそれらしい理由を付けてくれる。
「拗ねるユウヤが見れるんだ、どんどん嫌がらせしてくれ」
「それは篁中尉にも見せたかったわね」
タリサやステラも賛成のようで、笑って場所を用意していく。
「せっかくのお誘いだし、お邪魔していこうよ」
「ってお前なぁ……」
レオンはどこかまだ躊躇いを残していたが、シャロンと名乗った女性士官の方は、タリサの横に素早く座る。どうやらレオンやユウヤの反応を面白がっているのはアルゴス女性陣と同じようだ。
「ああ、ちなみに私たちは以前そっちのユウヤと同じ隊に居たって関係」
シャロンはさらりと関係の説明を済ますが、ユウヤにしろレオンにしろ、その表情からしてそれだけではない対立があるようだった。
(てかユウヤこそ恋愛原子核って奴じゃねえのか、コレ?)
タリサやステラなどは小隊メンバーとしての関係だけだろうが、ユウヤの周りには何気に女性が多い。最初は対立していたそうだが、それを聞いても信じられないほどに、唯依とは固い信頼関係で結ばれているように見える。
それに暴風小隊の隊長からも、よく声を掛けられているらしい。
シャロンとも、何やら因縁がありそうだ。話しぶりからして、いまは恋愛感情などは無いようだが、ユウヤのことを気に入っているのが伝わってくる。それに昼間に出会ったイーニァの様子からしても、イーダル試験小隊のスカーレットツインとも何やら曰く有り気ではあった。
タリサやステラあたりの傍観者的な立場から見れば、ユウヤの周りはたしかに面白そうな関係性なのだろうと、武にしても思えてしまった。
「で、泥塗ったって何の話だ?」
適当に新しいグラスが皆に渡ったところだが、それに口も付けずユウヤは喧嘩腰のままに、レオンを詰問する。
「お前、本当に判ってないのか?」
武たちへの柔らかな対応とは異なり、ユウヤには嘲るようにレオンは応える。
「お前が一ヶ月近く計画をサボタージュしてたらしいってのは、こっちの耳に入るくらいには噂になってる」
「そりゃー耳に入るくらいまで調べてたからねー」
「ってシャロン、今はそんな話はしていない」
クスクスと笑いながら、シャロンがレオンを揶揄う。その言葉を聞く限りは、喧嘩別れになっていたユウヤのことを、積極的に調べてはいたのだろう。
「中尉御自身だけじゃない。篁の名にも傷が付いたことだろう」
「だから、何のことだよ?」
レオンはシャロンの揶揄いを流しつつも苦々しく頭を振る。だがユウヤはまだ何を責められているのか、判っていないようだった。
「今回のXFJ計画に、篁唯依中尉殿が斯衛からわざわざ帝国陸軍への出向などを経た上に国連軍という形で参加していることくらいは、お前でも知ってるよな?」
「ああ……そんなことは話してたな」
「まさかと思うが、帝国斯衛をただの特別編成部隊程度に捕らえてるんじゃないだろうな?」
「ロイヤル・ガードだろ? だから、それがなにか関係あるのかよ」
心底呆れたかのようなレオンの態度に、ユウヤは本気で苛立ちをみせる。今にも席を蹴って立ち上がりそうな勢いだった。
「あ~斯衛は、日本帝国の軍じゃないんだ」
仕方なく、ユウヤを落ち着かせるためもあって、武は口を挟んだ。このあたり冥夜の方が詳しいだろうが立場的に聞き役に徹しており、説明は任された形だ。
「は? なんだそれ?」
「帝国参謀本部からも完全に切り離された、独立した組織だ。城内省直轄で、命令系統どころか予算なんかもまったく別だ」
意味が判らない、といった顔でユウヤが武を見るが、帝国斯衛とはそういう組織なのだ。
独立していると言えば在日国連軍もそうではあるが、こちらはあくまで他国の国連軍同様に、帝国軍から国連へと戦力を提供している形である。もちろん命令系統などは別個ではあるものの、対BETA戦においては原則として防衛作戦であればその国家が、間引きなどを含め侵攻作戦であれば国連軍が主導すると、バンクーバー協定で規定されたからの措置でもある。
対して帝国斯衛は一見武家の私有戦力でありながら、しかも帝国参謀本部からも独立しているにも関わらず、軍として成立している。
「イギリスの近衛師団などとは、役職的に近しいとはいえ組織背景はまったくの別だ」
その程度知っておけと言わんばかりにレオンが言葉を足すが、むしろ同盟国のこととはいえそこまで理解している方が珍しいとも言える。
ユウヤへの叱責のために唯依のことまで調べたのかと武は一瞬考えたが、クゼ家が日本帝国への理解が深いのと、レオン自身がXFJ計画に参加するつもりだったことも思えば左程不思議でもない。
「それで、インペリアル・ロイヤル・ガードが変わった組織だってのは判った。それがタカムラの家ってのまで関わってくるってどういうことだ?」
「……XFJ計画は失敗する要素がなかった。いや成功して当然と言える計画だった」
レオンはユウヤの問いには直接答えず、それでもはぐらかすように言葉を続ける。
「篁唯依中尉殿が変則的な転属の下、XFJ計画に参画されておられたのは、個人として開発者としての実績を積むためであろうことは当然、篁の名を補強する意味もあったはずだ」
レオンが先ほどの武たちの話をどこまで耳にしていたかは判らないが、唯依の父親であり篁家当主たる祐唯の経歴を知っていることは明らかだ。その上で、唯依がXFJ計画の日本側開発主任に選ばれた政治的状況なども推察している。
(五摂家間の力関係とか、俺より詳しいんじゃないか?)
先の話で出ていたように、篁家は嵩宰家に連なる譜代武家でありながら、新興ということもあり家格としては黄に収まっている。
そして当代の政威大将軍は煌武院悠陽ではあるが、斑鳩崇継が選ばれてもおかしくなかったと言われている。しかしながら同じく同年代の崇宰恭子の名が挙がることは比較的に少ない。それは崇宰家を取り巻く家臣団の弱さ故、とも言える。
そのような情勢下、改修とは言え実質的に次期主力戦術機の開発に成功すれば、篁家の名は盤石となり、ひいては崇宰家の安定ももたらす。
「それが計画の遅延のみならず、ここに至っては要求仕様の下方修正だ。技術顧問であられたハイネマン博士は、それらの責を取って辞任された。開発主任衛士にお前を強く推したことも、理由の一つだろう」
部外者にしては詳しいが、やはりレオンの情報は少々偏っている。流石に東側への情報提供疑惑は、秘匿されているのだろう。
「って事に世間ではなってるそうだぜ、タケル?」
ユウヤを叱責するレオンの言葉を、VGが軽く笑って武に押し付けてくる。ハイネマンのことも含め、レオンとは異なりVGにはどうやらそれなりに裏の事情まで知られているようだ。
「あ~悪い。ユウヤのってかXFJ計画の遅延に関しては、割と俺らの責でもある」
「俺らって、フェアリー小隊が、か? ああ……いやそもそもの改良型OS、XM3か」
武の発言の意図を測りかねたのか、レオンは一瞬言葉に詰まったが、すぐにその意味を悟ったようだ。ただユウヤにも伝えるためにも、武はそのままに説明を続けた。
「弐型に搭載するのは、帝国技術廠の方ではほぼ確定していたんだろうが、こっちの提示やら何やらで時間取らせちまってな。どうせならXM3がある程度形になるまで、弐型の開発を遅らせとけっと感じだった……ってところだったんじゃねぇかなぁ、とか?」
以前の様子から推察するにターニャがハイネマンを排斥するため、実戦運用試験などに妨害を入れつつ遅らせていたはずだ。そしてそれによる唯依の経歴への影響など、ターニャはさほど考慮もしていないのだろう。
加えて武には断定はできないが、テロ予防やイーダル小隊への介入などのタイミングも含め、ターニャは今までユーコンでのXM3提示を遅らせてきた節もある。
「……俺の問題は理解した。それはこれからの結果で、タカムラには、いや帝国に対しても返すつもりだ」
ユウヤは誓うかのように、そう言葉にする。
今、ユウヤだけでなく、アルゴス小隊の任はF-15ACVTと弐型Phase1のXM3に合わせた最終調整だ。それは間違いなく、帝国陸軍の戦力増強に繋がっていくものだった。
「ってそうだ、お前ら何しにこのユーコンに来たんだよ? ブルーフラッグに参加するかもって噂があったが、あれは延期と言うか中止になってんだぜ」
ただその誓いとは別に、やはりレオンには思うところがあるようで、用がないなら帰れと言わんばかりに言葉を投げる。
「XM3の見極め、ってのが任務ではあるんだが……」
「今またF-22の調達が、議会の方で問題になってるのよ」
レオンは言いにくそうだったが、秘するほどでもないようでシャロンはあっさりと口にする。
「F-22の調達価格か?」
「調達だけじゃなくて、コスト全般ね」
脚の再塗装だけでF-4が調達できるとまで噂されるF-22だ。武御雷ほどではないにしてもその配備計画は遅れており、追加導入にも否定的な意見があるとは聞いている。なによりもG弾をそのドクトリンの中核としはじめている合衆国陸軍、そして議会からしてみれば、機体価格の高騰から量産の進みが遅いF-22に対し懐疑的な声が上がるのもおかしくはない。
「ボーニングがF-15EのXM3対応化を提案してきてて、それもあってF-22の運用が議会でも改めて問題になりつつある」
「そんなことになってんのかよ……」
弐型の開発と生産に関して、帝国とボーニングとでどのようなやり取りがあったのかなど、流石にタケルには知らされていない。あくまでA-01にPhase2仕様のパーツを導入して貰うこと、在日国連軍の喀什攻略部隊にはF-15ACTV仕様とすることくらいだった。
帝国の方でF-15JなどもXM3に対応した改修計画があるらしいとは聞いていたが、まさか合衆国の、それもボーニングが直々に参画してくるとは思っていなかった。
「まだ現物を触ってはいないが、俺個人としてはXM3は素晴らしいものだと思う。だが陸軍の総意はまた別だ」
「そっちのドクトリンには、あまり合致しねぇように見えるだろうからな」
武は仕方がないと苦笑気味に口にはするが、判ってはいたとはいえ直接の関係者から言われるとやはりショックではある。
なによりも喀什攻略には、合衆国陸軍からの戦力提供が必須なのだ。そして既存OSのF-15Eだけでは、ハイヴ内戦闘において多大な損耗が予想されてしまう。贅沢を言えばXM3に換装したF-22が一個師団参戦して欲しい。
「ただ合衆国海軍側ではXM3の導入は推進するようだ。具体的には誰にとは言われなかったが、そちらには伝えておけって暗に指示されたよ」
レオンは諦めたように笑って流すが、誰から誰へとは流石に口にはしない。
(XM3のお披露目にはたしか第七艦隊からもかなりの高官が来てたって話だったけど、クゼ提督もか? しまったな、今更だけどその辺り確認もしてねぇぞ、俺)
陸軍士官であるレオンに伝えるように指示できる海軍の者など、その父親であるクゼ提督くらいであろう。
武とって悩むべきは、誰に伝えるかということだ。
一瞬冥夜に目を向けた様子からして、レオン自身はXM3の外向けの開発概要から将軍家へと伝えるものだと考えているようだ。だが内実を知る武からすれば、むしろ将軍家を含む城内省への連絡など事後報告でも問題ないものだと判っている。
端的に言って、夕呼に伝える話なのか、ターニャに伝える話なのか、ということだ。合衆国海軍がルナリアンに組しているという意味なのか、あるいは第五ではなく第四に協力することに意思表明なのか、今の武では判断できない。
(いや、海軍は積極的には第五を推進してるわけじゃなかったよな)
合衆国のG弾ドクトリンなどど言われているが、あくまで陸軍主体だ。海兵隊や宇宙軍なども関与するが、海軍はまた独自の立場がある。合衆国海軍は、核のオプションも含むが、あくまで既存戦力をもって対BETA戦を遂行している。
陸軍と海軍とが表立って対立してるわけでもないだろうが、かといって密接な協力体制というわけでもないらしい。その面で言えば、海軍主流派すべてがルナリアン派閥というわけでもないだろうが、「月の後継者」などと噂が立ち始めている夕呼の第四計画に対して協力的であったとしてもおかしくはない。
レオンの様子から何か判らないかと、その顔色を伺ってみるものの、それすらも武には読み取れない。むしろレオン自身慣れぬメッセンジャー役を果たしたという体で、疲れ果てているようにも見えた。
「了解だ。とりあえず、それっぽいところには話をしておくよ」
武にしても、苦笑して受け入れるしかない。
ターニャと夕呼、二人ともに報告することとはいえ、このままでは相手の意図が判らないままのただのメッセンジャーになってしまいそうだ。とはいえ武が知る必要があることなら、どちらかから説明もあるだろうと、いまはそう流しておく。
「しかし既存OSのF-22とXM3換装機との比較くらいなら、わざわざこのユーコンまで来ることねぇだろ?」
レオンの、というよりかクゼ家からのメッセージの意図はともかくも、合衆国側というよりもボーニングとLMとの問題は武にも何となくではあるが理解はできた。
それはそれとして、ならばわざわざ運用コストの大きいF-22を国内とはいえ、国連軍に貸し出している形のユーコンに持ち込む意図が判らない。ここにはソ連を筆頭に東側の眼も多いのだ。F-22は可能な限り秘匿されるべきだというくらいは、武にも判っている。
「タケル、さっきから何他人事みたいに言ってんだ。相手するのはお前らだぜ?」
「ぅえっ?」
VGから言われたが、何をどう相手にするのか思い至らず、純夏共々にヘンな声を上げてしまう。
「いや白銀。我らと直接見えねばならぬのであろう」
「直接って……ああ、そういうことかよ」
冥夜が先に理由に思い至ったようで、レオンが言葉にするよりも先に告げる。
「小隊規模の対人類戦演習、か」
「白黒はっきり付けろって話だな。判りやすくていいじゃねーか」
「いや、お前ら他人事だと思って、気楽に言うなよ」
VGとタリサが面白そうに笑っているが、当事者となるとそう簡単には考えられない。相手がたとえ最強と言われているF-22であってもXM3の提示という前提があり、そしてまた間違いなくターニャの思惑が絡んでいるとなれば、そうそう簡単に負けていい話ではないはずだ。
「当然そっちが使う機体はF-22だよな」
話の流れからしても判り切ったことではあるが、確認だけはしておく。
「そうだ。厳密にはF-22A EMD Phase2。先行量産型ではあるが、合衆国のみならず世界最強の戦術機だと誇りに思える。そして俺たちインフィニティーズの技量も合衆国最高だと自負している」
疑うべくもない事実であると、レオンは断言する。驕りや武たちへの嘲りなどは一切ない。
「は、たいそうな自信だな。その大口を俺の手で叩き潰せないのが残念だぜ」
レオンを睨みつけながらユウヤがそう口にするが、やはり主席開発衛士としては自らの手で弐型を駆り、F-22と雌雄を決したいのだろう。そこには弐型に対する確とした信頼があった。
武も言葉としては表さないが、XM3、そして今の小隊の面々に対する信頼はある。たとえ相手が合衆国陸軍最強と言っても過言ではないインフィニティーズであろうと、負けるつもりなどない。
それは横に座る冥夜も同じようだ。相手の思惑がはっきりしたことで、どこか逆に余裕も出たのか、うっすらとほほ笑んでいた。
「フェアリーには勝って貰いたい、というかどうせタケルたちが勝つんだろうが、それはそれとして……だ」
武たちの様子を見て、またユウヤと同じように、どこか名残惜し気にVGが混ぜ返す。
「そうだな、それは横において、だ」
「コイツだけは撃ち落としてくれ」
タリサもVGに調子を合わせて武を指さした。
「え?いや、なんでこの流れでそうなるんだ?」
ここは自分たちフェアリー小隊を叱咤激励するところじゃないかと、武は口にはしないがそう思う。
「お前が組んだ演習プログラムのせいで、こっちは連日死にかけてんだよッ!!」
「ああ、飯も満足に喉に通らなかったこの数日の恨みは、俺らの代わりに晴らしてもらわなきゃ、な」
言葉にしたのはVGとタリサだが、ステラも思いは似たような物らしい。笑顔ではあるが眼が笑っていなかった。
「ふむ? そなたの演習計画は、やはり無茶が過ぎたようだぞ?」
「いや、時間もないし、ほら皆プロミネンス計画に選ばれるくらいの凄腕衛士だから、な?」
「以前にもそう言って篁中尉殿にも無茶な要求を通しておったであろう? 少しは自重すべきであったな」
冥夜も笑ってはいるが、かつての演習内容を思い出しているのか、アルゴスの皆に同情的に見える。
「俺たちが負ける前提で話しているのはそれはそれで気になるが、こちらの白銀はそれほどなのか?」
「あの演習内容を作ったのがタケルだってのでムカつくからやり返したい……ってのはあるが、コイツが墜とせなきゃ、それだけで負けは確定だな」
レオンは訝し気に周りを見渡しながら尋ねたが、それに答えたのはユウヤだ。レオンの疑問に素直に答える程に、武に対して意識するものがあるらしい。
「フェアリーの場合、こっちのスミカが一見穴に思えるが、それさえも罠だからなー」
「あ~その話は蒸し返すなよ」
「個々人の技量は水準以上。その上でそれぞれに尖ってるわよ、彼らは」
他のアルゴスの面々からも、形はどうあれ小隊として褒められてはいる。そしてそれほどまでに警戒される程度には、小隊としての技量も認められているのだ。
「あのCP将校は直接潰せねぇから、ジングウジをどうにかしても指揮に乱れはないだろうし……」
「そもそもまともに戦闘に持ち込むつもりがないだろう、こいつらの場合」
「今なら1on1をなんとか作り上げれば、互角にまでは持ち込めなくはねぇか」
「だから、それが無理だってんだろッ!!」
XM3の演習を経てそしてその性能を理解した上であっても、やはり初日の負けは開発衛士としての彼らにとってはただ性能差故だったと認めて流してしまうわけにはいかないのだろう。アルゴスの四人がそれぞれに武たち対フェアリー小隊戦を相談し始めてしまう。
「なにか散々な評価だな、白銀?」
「あ~うん。俺は悪くねぇ……全部あの人が悪いに違いない、よな?」
アルゴス小隊との対人演習においては、まりもの指揮が的確だったというのも大きい。ただほぼすべてを決定付けたのは、事前に準備されていたターニャの策だというのは間違いなかった。
「ま、俺たちから言えることは、F-22の性能に奢ってるようじゃあ戦いにもならねえ、ってところだ」
纏めるようにVGが笑って見せたが、それは武たちではなく、むしろレオンとシャロンへの激励にも見えた。
インフィニティーズ顔見世、といいますか対人戦で白黒つけようぜ~の前段階です。それよりもクゼ提督の立ち位置をどうしようかと思いながらも、はっきりと明言できないけどターニャ寄りと言いますか、海軍は比較的にルナリアン寄りなんじゃないかなぁ、と。
といいますかG弾ドクトリンって陸軍とは相性良さそうですが、海軍とかとはビミョーに噛み合わない気がしたり、そもそも海兵隊のモットーなどからはかけ離れてるなぁ、と。
で次回は対F-22予定ですけど、たぶんさっくり終わらせる……予定です。
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