Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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驕傲の惆悵

「失礼いたします」

「おやおや、お待たせしてしまいましたかな」

 

 時間通り、というよりはわずかに早く、唯依と共にハイネマンが入ってきた。

 唯依は緊張しているのか、普段以上に無表情を作っていた。部屋の外の二人を見たうえで、疑惑を顔には出さないように努力しているのが伺える。

 ハイネマンは、昨日も見たように、一見は和やかな微笑を湛えている。それは薄い笑いを張り付けたようで、意図が掴めぬ不気味さもあった。

 

「お忙しい中、技術顧問のお時間を割いていただきありがとうございます」

 ターニャも、ハイネマン同様に薄い笑いを張り付けて、席を勧める。

 

 ターニャの正面にハイネマン、右に武と冥夜、左にジョン・ドゥ。

 ウォーケンと鎧衣は、一歩下がってターニャの後ろに立ったままだ。あくまで補助に徹するという立場らしい。

 

 同じく唯依もハイネマンの後ろに控えるように移動したが、ターニャに止められた。

 

「篁中尉殿、貴方も席に着いていただけますかな。日本側の開発主任を立たせたままでは、ビジネスの話など進めようもないでしょうに?」

「……は、では失礼いたします」

 

 

 

 ターニャは偽装身分である少尉としての立場を、一応は保つつもりのようだ。唯依に対して敬語で伝える。しかしながらターニャの後ろに少佐であるウォーケンが立っている時点で、まったく意味はなしていないことは明らかだった。

 

「昨日は簡単なご挨拶だけで、申し訳ございません。あらためましてターシャ・ティクレティウス国連軍少尉であります。とはいえご覧の通りの身、あくまで香月大佐の権限下においてのみの士官待遇とお考え下さい」

 薄く笑いながらカップに手を伸ばし、ターニャは堂々と身分を告げる。当然、この部屋の中でそれを信じる者など居はしないだろうが、必要な手順としての名乗りだろう。

 

「なに。この身が第三計画の遺児の可能性が疑われたため、香月大佐の権限の下、ターニャ・デグレチャフが監視を含めて意味合いで親権を得た。その上で能力に応じたという形での、第一戦術戦闘攻撃部隊第一大隊第一中隊付のCP将校として少尉待遇という話ですな」

 長々と自身の身分を説明するのは、ハイネマンに対してだ。現在のターニャの立ち位置、そこから出される言葉は第四計画とJASRAとの共同見識であると明言したに等しい。

 

「ほう? そういう話に収まったのでしたか」

「はい。いまだハイスクールの卒業資格さえ取れていないの身の上。正式に士官となれるのは今しばらく先の話となります」

 

 鎧衣も細かなカバーストーリーは聞かされていなかったのか、わざとらしく納得した振りをする。

 

 

 

「さて、皆様お忙しい身の上でしょう。ゆっくりとお茶を楽しみながら、という贅沢はまたの機会に譲るとして、本題に入りましょう」

 

 ジョン・ドゥや鎧衣をハイネマンに紹介することもなく、ターニャは話を進める。

 その完全な作り笑いのターニャからは、付き合いの短い武であっても、ハイネマンに対する攻撃の意図しか感じられない。

 

 今更ながら先ほどまでの時間にターニャの意向を確認しておくべきだったと後悔する。弐型が完成しているという意見を武と冥夜から確認したということは、ハイネマンの排斥を意図しているのかとも勘ぐってしまう。

 

 とはいえハイネマンはXFJ計画の技術顧問としてボーニングからの出向だ。同社の戦術機開発部門の重役でもある。そんな人物を排除できるような材料は、武は知らされていなし、想像するのも難しい。

 

 

 

(なんというか、針の筵ってこういう感じか?)

 

 ハイネマンへの攻撃に、プロミネンス計画の白紙化という目的に対しても、どのような意味があるのかすら、今の段階では推し量りようもない。判るのは、ターニャには攻撃の意図を隠すつもりがなく、それをハイネマンが一見は余裕をもって受けて立っていることだけだ。

 

 冥夜や唯依はともに無表情なままで、同じテーブルについているとはいえ、半ば以上に観客のような立場で一歩引いた姿勢を保っている。

 

 武も二人に倣って無関係な第三者の振りをしたいと、そう思えるくらいには胃が痛い。

 だがこの場に呼ばれているということは、武自体がハイネマンの攻撃材料に使われるのだろうということくらいは予測でき、そしてまた未来知識に関わる者として逃げ出すわけにはいかないことくらいは、流石に自覚していた。

 

 

 

 

 

 

「本題と申しますと、XM3の件ですかな? ですが私からXM3に関して何か付け加えられるようなものは浮かびませんな。あの素晴らしきOSはすでに完成の域にあると言えましょう。むしろXM3に合わせてType94 Secondを高めねばと考えているくらいですよ」

 

 不審者としか言いようのない鎧衣とジョンが紹介されなかったことを、ハイネマンはさほど気にしていないようで、ターニャに促されたままに話を始めた。

 そしてXM3に不満はないと、にこやかなままにハイネマンは断言する。

 

 XFJ計画の技術顧問たるハイネマンから、XM3に関してなにか参考となる意見があれば聞いておく、というのがこの集まりの表向きの理由だった。

 だからこそXM3に不満はないとハイネマンからそう言われてしまえば、武たちフェアリー小隊からは無理に話を続けるきっかけがつかめない。

 

「むしろ私個人としては、Type94 Secondに関して、帝国の衛士二人からの意見を聞きたいところですな」

 そしてXM3を褒めつつも、自身が興味をもつことにハイネマンが話を切り替えたとしても、その流れに乗るしかないと武には思えた。

 

 

 

「弐型に関してといいますと、やはり実戦運用試験の件、でしょうか?」

 ただターニャにしてみれば、ハイネマンがそちらの話を振ることは想定の内だったようで、促すように問う。

 

(実戦運用試験を止めるってのが、事務次官補の目的か? いや、それもあるだろうが、なにかもう一歩も二歩も踏み込むんだろうなぁ……)

 カップで口元を隠しているが、ターニャの獲物がかかったといいたげな表情は、横に座る武からはよく見て取れた。こうなれば武としては、ターニャの話に着き合うという選択肢が最善に見える。

 

「ははは、先日もそのジョークを聞きましたが、このユーコンでは流行っているようですね。アメリカン・ジョークに疎くて申し訳ありません」

 ターニャがどこに話をもっていこうとしているのかは武はまだ想像もできないが、昨夜の歓迎会でも聞いた話だったので、冗談の類に上手く反応できずに申し訳ないと形式的に頭を下げておく。

 

「試験先はエヴェンスクハイヴに正対するペトロパブロフスク・カムチャツキー基地に赴いて、だ」

「……ああ、失礼いたしました。シベリアン・ジョークの類でしたか」

 

 試験場所を聞いて、ターニャが時折差し込んでくるコミー憎しの冗談の類だったかと、武は一瞬納得しかけた。冥夜も試験場所に関しては知らされていなかったのは同じで、武同様に驚きが顔に出ている。

 

 

 

「残念ながら冗談の類ではないようでな。そちらのハイネマン氏から、帝国側へも幾度も打診されているのだ。すべて拒絶するようには頼んでおいたがね」

「……マジかよ」

 

 笑いが固まったままに、久しぶりにその言葉が漏れる。それくらいには、馬鹿げた話だ。

 ターニャの言葉だけでなく、無表情を保っていた唯依が眉を顰めたところを見るに、冗談ではなさそうだった。

 

 主権国家が主導する戦術機開発、その実戦運用試験を国連機関が差し止めを要請するというのは内政干渉に等しい。しかも合衆国の意向を代弁すると見なされている、JASRAによる発言だ。合衆国が帝国の戦術機開発を妨害している、と受け取られる可能性も高い。

 ただ武が驚いたのは、ターニャがJASRAの権限を使ってまで止めたにも関わらず、幾度も打診があったということの方だ。

 

 

 

「君も衛士なら判るのではないかね? 実戦を経ていない戦術機など、信用のおけるものではあるまい?」

 武の躊躇いをどう捉えたのか、試験をして当然だと言わんばかりにハイネマンは言葉を続ける。

 

「失礼ながら。重ねてお聞きいたしますが、冗談の類では、ない、と?」

 軍に属する人間ではなく、また直接的な取引相手ではないとはいえ、一応は上位に位置する者だ。なんとか丁寧な言葉を維持しようと思いと、言葉が途切れ途切れになってしまう。

 

「白銀少尉、質問に質問で返すとは、言葉に慣れておらぬとはいえ、少々礼を失するぞ」

「は、失礼いたしましたッ」

 

 ターニャに誘導されている、とは間違いなく感じる。

 だが昨日も思ったが、冗談としても笑えぬ類だ。本気で進めようとしているならば、むしろその真意が知りたいくらいだ。

 

 

 

「白銀少尉も実戦運用試験には反対なのかね? できれば理由をお聞かせいただきたい。帝国からは、許可できない、との否定ばかりでね、お陰で無駄に時間を費やしてしまっているのだよ」

 ハイネマンは、薄い笑いを崩さぬままに尋ねてきた。

 

(普通に考えりゃわかるだろ? 戦術機開発においては並ぶ者のいない天才だって話だったんだが、もしかして専門バカって類の人か?)

 呆れた思考が口に出かけるが、武はなんとか思いとどまった。

 

 戦術機は中隊規模12機での運用が原則だ。

 そして実戦運用試験というのであれば、中隊規模ほどの実機を調達し、それを前線部隊に配備して行うのが当然と言える。

 

 XM3教導のために設立された武たち第一中隊は、変則的な機種編成ではあるが、半個中隊を構成できる最小限の規模ともいえる。それも中隊員全員が向き不向きはあれど誰もがどのポジションであっても対応できるように訓練してきたからこそ、実現できているのだ。

 

 現場においては、衛士のみならず整備の者たちも、その半数が平均以下の能力しか持たない者たちによって構成されるのだ。そのような場では開発環境ではありえないミスが起こりうる。

 対して開発小隊はその整備班も含め、間違いなく優秀な人材が集まっている。最も軽微でありながら発生件数の大半を占めるクラスD事故など、開発小隊においては発生する可能性が低すぎる。

 

 ユーコンにおける戦術機開発は、規模にしても一般的な兵器開発からは外れているとはいえ、開発衛士たちが自ら戦場に赴いて小隊規模で試験するなど、さすがに異例に過ぎる。

 

 

 

 ユーコンにおける特例的処置がどの程度の範疇に及ぶのか、武はまだ熟知していない。それ故に否定しやすい事実から列挙していくことにする。

 

「理由、でありますか? では一衛士ではありますが、お答えいたします。第一に、極東シベリア方面に開発小隊を移動させる時間や労力の問題でしょう」

 

 当たり前だが、開発小隊を移動させるとなればHSSTで飛んでいく、などという手段は取れない。当然ながら海路だ。しかも開発資材などを含めての移動となれば、その準備にかなりの時間がかかる。帰ってくるにしても同様だ。アリューシャン列島に沿って航海するだけとはいえ、単純に1週間程度は移動のために時間を浪費することになるだろう。

 

「なるほど。ただ、その時間と費用を掛けるに値するだけの成果は、実戦試験で得られるはずではないかね」

「試験によって得られるものの成果内容が、自分には提示されておりませんので、その点は判断しかねます」

 

 小隊規模どころか、持っていける不知火・弐型は実機のある二機、分隊編成ができるギリギリの数だ。それさえもどちらか一方に問題が発生すれば単独試験しか実施できない。僚機の連携運用なども最低限しか行えない状態で、戦地で何を試すのかと逆に問いたくなるが、耐える。

 

 

 

「次に、皆様ご存知でありましょうが、不知火・弐型は日本帝国で運用されている77式撃震の代替予定機です」

 XFJ計画の技術顧問ならばさすがにこの前提は理解してるよな、と直接問うには無礼にもほどがあるだろうと我慢して、前提として断言だけはしておく。

 

「朝鮮半島からの全軍撤退を受け、現在日本帝国は九州を最前線とし、国土防衛へとその戦力を集中させております」

 これまたこの部屋に集まってきている者たちにとっては、当然の前提だ。

 

「XFJ計画が開始された時点とは、少々状況が変化しております。ゆえに弐型に求められる要求仕様に変更があるやもしれませぬが、そもそもが撃震にしても基本的には本土防衛用の戦力です」

「ふむ。その通りだが、それが何か?」

 

 繰り返し前提条件を確認する武に、さすがに訝しげにハイネマンが問う。

 

 

 

「申し訳ございません。あまりにもおかしな要求がハイネマン氏から為されていたために、自分の知る前提となにか違う点があるのかと、確認させていただきました」

 相手の失点を論うために、事実を積み重ねていくことに、気が向いてしまっていた。ターニャの影響を受けてしまっているな、と自虐気味に笑いが漏れそうになる。

 

「つまりは、弐型は帝国国内においての運用を第一に想定されております。BETA大戦における気象変動が激しいとはいえ、カムチャッカでのデータなど帝国ではほぼ役に立たないかと」

 

 詳しい部分はすでに忘れ去っているが、日本は温帯湿潤気候が大半で一部が冷帯だったはずだ、と武は思い返す。

 このユーコンでも、ギリギリなのだ。カムチャッカでの運用試験データなど、樺太方面に展開している部隊であったとしてもそのまま使うには厳しいだろう。いま戦力が必要とされる九州方面には参考程度にしかならない。

 

「戦術機とは、原則的に全天候性を求められている。気象条件の厳しいカムチャッカで試験するのは、当然ではないかね?」

「当然かどうかというお話であれば、弐型の開発は帝国本土でおこなわれるべきだった、というそもそも論に帰着するかと。であれば先行量産機で一個中隊を編成し、朝鮮半島か、あるいは九州に回すことも容易だったでしょう」

 

 なぜXFJ計画がこのユーコン基地で実施されているのか、その根本的な要因を武は知らない。おそらくは帝国側の純国産主義派と輸入機容認派との軋轢の結果だろうとは予測くらいはできる。

 

 それがF-15ACTVのMSIP強化モジュールを流用するためという意味はあれ、他開発計画に相乗りするかのような中途半端ともいえる形で開発計画が進められていることから、なによりも試験機の数が足りない。

 他開発小隊の内実も鑑みれば、本来ならば弐型は最低でも四機は試験開発されているはずだろう。小隊編成ができてようやく何とか実戦試験の体を為せる。

 

 

 

「ペトロパブロフスク・カムチャツキー基地には、このユーコンから他の開発小隊もいくつか受け入れてもらっていてね。なによりも光線級が居ないため、他前線基地に比較して安全に試験ができる」

 ハイネマンが武の疑問に対し、プロミネンス計画の他開発小隊でも実施されている試験項目の一つだと告げた。

 

(これって、合衆国の目があるユーコン基地では他開発小隊の実働データを盗めないから、自分たちの基地に持ち込ませて盗めるものは盗みたいってことか?)

 

 以前より、ソビエトには各戦線からF-15の残骸を無許可で回収し、それらを元に戦術機開発を続けてきたという黒い実績がある。F-16などに関しては中国共産党も鹵獲に協力していたという情報もある。

 これが冷戦期であるならば、軍の行動としておかしなところはない。敵軍が使用している兵器を鹵獲することは重要な任務ともいえる。

 だが、曲がりなりにも国連の下に連携し、共にBETAとの戦線を作り上げているときに、破損機を収集しているのだ。つまるところ損壊した機体を回収できるような余裕のある状況にも関わらず、味方機の撃破を座視していたとも取れる。

 

 そしてハイネマンが東側、特にソビエトの戦術機開発に技術を流しているという噂があることは、武も資料で見た。

 事実としてSu-27はF-14を基にして設計されたことは明らかだ。グラナンが財務状況の問題解決のために技術提供したこともあるが、F-14の開発技術がその取り決め以上に流出している疑いは残っていた。

 

 結局のところ、ハイネマンは東側の代弁者でしかない。武にはそう捉えるしかなかった。

 

 

 

「ペトロパブロフスク・カムチャツキー基地の立地上の利点はともかく、実戦運用試験が許可できない理由はハイネマン氏にもご理解いただけたかと」

 武が疑惑を出さずにどう纏めるべきかと言葉を探す間に、ターニャがあっさりと話を引き継いだ。

 

「重ねて確認ではありますが、篁中尉殿? 試験の許可は出さないという帝国の判断に変更はございませんな?」

「はい。アルゴス小隊による試験は不要というのが、XFJ計画を主導する帝国技術廠の判断です。それに変更はありません」

 

 唯依は無表情を保ったままに、ターニャからの確認を肯定する。

 

「まあ、終わった話ですな。弐型の実戦運用試験は執り行われない。端的に申し上げて、開発小隊による分隊規模での実戦運用テストなどまったくの無駄。加えてペトロパブロフスク・カムチャツキー基地での運用など論外と言えるでしょう」

「非常に残念なことではありますな。今ならばXM3に換装した上での試験が行えると考えも致しましたが」

 

 武に長々と説明させておきながら、ターニャはあっさりと話を区切った。

 ハイネマンも唯依からの断定を受け、そしてこの場での反論には意味がないと理解しているようで、笑顔を保ったままに頷いてみせる。

 

 

 

 

 

 

「さて。少し話が逸れるが、ATSF計画においてYF-22が採用された要因、というよりはYF-23が不採用となったのはなぜだか知っているかね、白銀少尉?」

「実機模擬戦闘試験ではYF-23の方が成績が良かったと聞き及んでおりますが、合衆国のドクトリンにはYF-22がより合致していた、ということでしょうか?」

 

 ハイネマンがかつて設計したYF-23は「世界最高、最強の多任務万能戦術機」などと噂されている。

 YF-23に関しても軽く調べたことはあるが、何せ採用されなかった機体、それも帝国ではなく合衆国での10年以上前の話だ。夕呼の権限を借りつつも本格的に調査したわけではなかったので、武が知っているのは概略程度のものだ。

 

「単純な話だよ、YF-23はYF-22よりも高かった。それだけだ」

「あ~ああ、なるほど。それは無理ですね」

 

 単純にして究極の理由だ。

 YF-22、そしてF-22も量産化に伴う際に、議会から開発・運用資金の高騰が問題視されたはずだ。そして現実的にF-22の運用コストは他の第三世代機と比べても高い。

 

 それを超えるとなれば、採用されるなとあり得るはずがない。

 

 

 

(やっぱりこのおっさん、バカだろ? いや自己顕示欲とかが強いだけか?)

 

 武の中でハイネマンの評価が、専門バカからただのバカ、あるいは無能な働き者へとへと下がりつつあった。

 

 YF-23は近接格闘戦闘能力においてはYF-22を凌駕していたとは聞く。だがそれは合衆国陸軍が求めていた能力ではない。

 要求仕様を満たすためならば理解もできるが、それ以上の要素を淹れて機体価格を高騰させるなど、本末転倒だ。もしそれが自身の名声のためでもあったならば、ただの計画の私物化と言ってもよい。

 

 たしかに何かの間違いでYF-23が合衆国陸軍に採用されていたとしても、おそらくはF-22以上に生産と運用に難があったであろうことは、容易に想像が付く。ドクトリンから外れた近接戦闘能力が高いともなれば、それに合わせて衛士教育のみならず、整備や兵站などにまで大きく影響したはずだ。

 そしてそのコストに見合う運用が為されるとは、F-22の現状を見ても、残念ながら考えられない。

 

「YF-23不採用を決定したATSF計画関係者の皆様方には、合衆国軍人としての常識的な判断力を持っていたことに、今更ながらに敬意を表します」

 

 有限にして貴重な合衆国の税金を、無駄に費やさずに済んでよかったと、ターニャは嗤って見せる。

 そして武があえて口にしなかったことを、大げさなまでに肩をすくめつつターニャは言い放った。

 

 

 

「端的に申し上げれば、YF-23は駄っ作機でしたな」

 

 

 

 

 

 




ハイネマン及びYF-23に対するアンチ・ヘイト的表現が続きます……と、前書きに注意書き入れようかと思いましたが、こういう感じです。

上の本編でも書いてますが、戦術機のYF-23の何がどう良い機体なのか真剣に判らんッといいますかYF-22に比して試作時点でさえ値段高いという一点だけでさえ、ダメ過ぎじゃないかと?
あと「近接戦を重視するユーラシア各国の戦術機設計は紛れも無くYF-23の影響下にあり」となってはいますが、1985年あたりから開発が始まってる94式不知火には直接関係なさそうだし、タイフーン、ラファール、グリペンあたり? といいながらこの三機はECTSF計画からの欧州オリジナルトレンドデザインって言われるしで結構ナゾです。

んで個人的趣向になりますが、現実の方のYF-23も見た目はともかく多分ダメだったんだろうなぁ、などと思い返しつつ結局好きなのはYF-21のほうだなーっと作業用BGMに"INFORMATION HIGH"を久しぶりに流しております。

でで、ハイネマン氏の行く末は次で多分ケリ付けます。というか今回ちょっと伸びたので入れるに入れられなかったのです……

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