対人演習が終了し、武たちはハンガーに戻ってきた。
出撃した時期がズレていたために気が付かなかったが、演習相手だったアルゴス小隊も同じハンガーに入っていくところを見るに、本来は彼らが専用として使っている施設のようだ。
「ぅおっ、やっぱ寒ぃな」
吹雪を指定されたガントリーに固定し、コクピットを解放すると、一気に冷える。
ハンガーの中だが、全高20m近い戦術機が出入りする施設だ。直接的な風雨は凌げるものの、気温としては外とさほど変わりはない。なによりも冬のユーコンの寒さは、日本よりもはるかに厳しい。
衛士強化装備は気密装甲兜を付ければ簡易宇宙服として使用できるだけのことはあり、耐寒性にも優れる。
ただ基本的に頭部は露出したままなので、耳元から首筋が特に寒い。それに火照った身体を一気に冷やすのは避けたい。ガントリーの端に放り出したままになっていた国連軍BDUの上着に袖を通し、襟を立てる。
(さて、と……どうしたもんかね)
これが白陵基地とは言わずとも帝国本土の基地ならばすぐさまに機付長に帰還を報告するところだ。が、ここは同じ国連軍ではあるが合衆国とソビエト領との境にあるユーコン基地だ。在日国連軍、というかA-01と同じように動いて良いものかどうかさえ分からない。
しかし武が悩む時間はさほどもなかった。武からなにか指示をするまでもなく、整備の者たちは手慣れた様子で機体の各部チェックに入っていく。元々がアルゴス小隊からの借り物の機体なので、下手に口を出すよりかはこの場にいる整備班に丸投げしておく方が良いかと、武は投げ槍ともいえる判断を下した。
それに直属の上司であり中隊長たるまりもに確認しようにも、彼女はアルゴス小隊の指揮官への連絡のため、先にハンガーを出ている。CP将校としてターニャも来ているものの、機体を降りてしまっては、連絡の手段も思いつかない。
武がそんな風に次の行動に迷っていると、続けてハンガーに入ってきた機体から、冥夜と純夏とが降りてくる。似たような状態なのだろう、純夏は大仰に体を震わし、冥夜はわずかに眉を顰めた後に、二人ともにBDUを手にして素早く羽織った。
演習とはいえ激しい機動を繰り返していたため、コクピット内の空調は抑えてはいた。それでもアラスカの外気に比べれば、はるかに暖かかった。日本から出た体験の無い二人には、ここの気候は少しばかり厳しいのかもしれない
「よぉ、おつかれさん。二人とも初の対人演習だったが、問題はなかったか?」
普段の訓練後よりも少しばかり上気した顔だったので、慣れぬ教練の影響かそれとも気候の違いかと、武は珍しく気遣ってみせる。
体調管理は軍人にとって何よりも重要だ。
そして初陣を果たし「死の八分」を乗り越えたといえど、二人はいまだ新兵だ。対して武には他世界のことで明確な記憶ではないが、なにかと経験がある。中隊全員へ気を配ることは無理だが、同じ小隊の二人くらいならば意識する程度の余裕はあった。
「ふむ。最初は戸惑いはしたが、得るものも多かったと感じてはいる。帝国の衛士教練に対人演習の比率が高いことも、なるほど頷ける話だ」
冥夜は幼少からの鍛錬の積み重ね、あるいは武家としての生い立ちゆえか、もともと他者と鎬を削ることへの抵抗が少ない。対人演習というものへの忌避感も薄く、むしろ先達と戦うことで技術を高めることに、高揚しているように見える。
「そんなことよりもタケルちゃんどーしよーっ? アメリカだよ、英語だよー」
「いや、鑑よ。そんなことって、お前なぁ……」
「むー……だって、対人演習って言っても、いつも通りに神宮司隊長の指揮に従ってただけだよ?」
対して純夏の方は、環境の変化に戸惑っていたようだ。ただ、出てきた言葉に武としても脱力するしかない。
「国連軍衛士が英語できなくてどうするんだよ、まったく。日常会話とは言わないが、命令くらいは聞き取れるようにしておけよ」
使えて当然と偉ぶっては見せるが、武も簡易な軍用会話ならともかく、XM3の技術的説明などは無理だ。解説などは同行してくれる技術関連の英語に堪能な整備班の者たちに任せる場面が増えそうだった。
「あ、でも。ユーコンって、今の季節だとオーロラ見れるのかな? オーロラのお土産ってなんだろ、霞ちゃんにお土産買ってくるって約束したんだけどなー」
「だから、な? 鑑、俺らは観光に来たわけじゃないぞ?」
「って、楽しみじゃないの? 海外だよ海外っ!? それもアメリカだよっ!?」
「時間があれば天然物の牛か鮭が食えるかもしれんというのは楽しみにしたいところだが、そもそも予定がどうなってるのかさえ詳細を聞かされてねぇからなぁ……」
たとえどれほどに世界が変わろうとも、純夏の話があちこちに飛ぶのは、もうそういうものだと身に沁みている。
呆れたような口調をわざと作りはしたものの、純夏のこの変わりの無さは助かる。冥夜も苦笑しているが、その普段通りの純夏の様子に、演習後の緊張を解すことができたようだ。
「それはともかく、だ。直近の問題としては、だ……俺らどこに行きゃいいのか知ってるか?」
「む? 副長のそなたが聞いているのではなかったのか?」
「演習の後だから、どこかに報告行かなきゃだよね?」
武の疑問に対し、冥夜は当然のことのように、問い返してくる。純夏もすべきことは判っているが、場所は知らないようだ。
小隊長であるまりもは、アルゴス小隊隊長との打ち合わせがあるということで、一人先に行った。残った三人は階級的には皆少尉で同格ではあるが、武には副長として指揮権がある。
なによりも訓練分隊時代から、まりもが居ない時は武が指揮を執る体制が出来上がっている。もはや当然のこととして、二人は武の指示を待っていた。
普段であれば帰投後は、ただちに集合する。ただ今回は見知らぬ基地、それも着任早々ということもあるのか、デブリーフィングの予定時間までまだ間がある。
「神宮司隊長から、分隊員の鑑なら詳しい場所を聞いているかとも期待したが……まあ、知ってる奴らに聞くのが一番だな」
武にはまりもから集合場所も伝えられてはいたものの、武だけでなく第一小隊の皆にとっても初めての施設だ。迷わずに時間内に辿り着けるかと言えば、自信がない。
少し奥に固まっている四人の衛士、おそらくは先ほどの対戦相手だったアルゴス小隊のメンバーだろうと当たりを付けて、声を掛けるために歩き出した。
(男女二人ずつ、北欧系っぽいのと南欧系っぽいのに、アジア系が二人、か。日米共同ってことだが、アメリカ絡みの多民族構成か?)
アジア系の少女以外は20歳以上に見えるが、武はそもそもその辺りの観察眼に欠ける。アジア系以外は皆年上に見えているだけかもしれない。
「アルゴス小隊の皆さまですね? フェアリー小隊の副長を務める、白銀武少尉であります」
四人のうち一人、アジア系らしい青年が後ろでくすぶっているが、それは意識から一度切り離し、武は背を伸ばし、普段以上に丁寧に敬礼する。慣れぬ部隊名、それも英語での名乗りと会って少々緊張していたが、それもあってちょうどいい程度に格式は保てたはずだ。
武たちはA-01第一大隊第一中隊だが、A-01は第四計画、それも夕呼直属の非公式実働部隊だ。第一中隊に限ってはXM3発表のデモ部隊として例外的に公表されているが、それでもわざわざ正式部隊名を伝える必要はない。
またユーコン基地の慣習として、開発小隊はそのコールサインをもって呼称されることもあり、第一小隊はフェアリー小隊として扱われる予定だった。
「フェアリー04、御剣冥夜国連軍少尉であります」
「え? あっ、と。フェアリー03、鑑純夏少尉であります」
続いて冥夜と純夏も名乗る。さすがに純夏もその程度の英語は話せたようだ。
「日本人ってのは、みんなそう堅っくるしいのか? 階級にしてもこっちも同じ少尉だ。楽に行こうぜ、お嬢様方」
ラテン系らしい黒髪を伸ばした長身の男が、武たち三人に崩した答礼で返す。軽くウインクしながら大げさなまでに手を広げてくる。
武としては歓迎すべきタイプだが、純夏はともかく、冥夜には慣れぬ類の人物だろう。顔には出していないが、ごくわずかに体勢を引いたことで、警戒を高めたのが判る。
「崩していいなら、そっちの方が助かる。俺も堅っくるしいのは苦手なんだ。あらためて、白銀武だ。さっきは借りた吹雪に乗ってた」
「俺はアルゴス3、ヴァレリオ・ジアコーザ少尉。所属はイタリア共和国陸軍だ。VGで良いさ」
イタリア男子の女性には優しくの精神なのだろうが、冥夜に相手をさせるわけにもいかない。
武は気持ち身体をずらしつつ割り込むように言葉を挟んだが、VGは対人での距離感の測り方が上手なのだろう、あっさりと話し相手を武に切り替えてくる。なにより武とはどこかノリは近いのか、話しやすい。
「アルゴス2、ネパールのタリサ・アマンダル少尉。セカンドの二号機……っても判んねぇよな、青の方だ」
「アルゴス4、スウェーデン王国軍陸軍のステラ・ブレーメル少尉よ」
男二人があっさりと打ち解けた風を装うのを見て、アルゴス小隊の女性二人も続けて名乗る。ただ純夏はコールサインくらいは判ったようだが、所属などはあまり聞き取れていないようだ。愛想笑いで誤魔化しているのが、あからさまだった。
「あ~悪い、コイツ英語ダメなんだ。多分名前も判ってねぇかもしれん」
「英語ダメって、お前ら国連軍だろ」
武の言葉に、タリサが呆れたかのような顔をするが、今までは日本語で問題が無かったのだ。必要にはなるだろうとは思ってはいたが、衛士訓練の詰め込み具合にかまけて、どうしても言語教育などは後回しにしていた。
「あくまで、『在日』国連軍、な」
「む、そう言われてみれば、確かに白陵基地では日本語が主言語ではあったな」
冥夜も今更ながらに気が付いたように言葉を漏らす。
訓練兵時代も、そして任官して以降も、部隊関係者はCP将校を除き皆日本人だ。A-01に限らず国連基地にあっても第四計画に関わる人材は、防諜に関する部分でもあり、ほぼ日本人で占められている。
ただ純夏以外の第一小隊の者は、このアラスカ基地に着いた時から、部隊外への会話は英語に切り替えている。先の演習においてはCP将校を請け負っていたターニャも含め、日本語を用いていたが、それが例外と言えた。
「タケルちゃんが何言ってるのかよく判んないけど、バカにされたのだけはなんとなく判った」
「だから日常会話くらいの英語は自主訓練で身に付けとけって、訓練校時代に散々言われてただろうが」
「ふふっ、安心するがよい。鑑であれば、明日には皆が何を話しているかくらいであれば、英語も身に付けておろう」
軽く笑って見せるものの、冥夜にしても気を張って集中してなんとか意味を追いかけられる程度だ。武だけでなくVGもタリサも母国語ではないこともあり、かなり崩れた英語を使っている。実のところ口を挟む余裕はさほどない。
「まあコイツの英会話能力はこっちで何とかする。が……で、あっちで黄昏てんのは?」
「……俺はこの半年ほど、いったい何をしていたのだろうな」
武の疑問に答えたわけでもないが、アジア系の武たちよりも少しばかり年長に見える黒髪の青年が、自嘲するかのようにそんな言葉を漏らす。言葉は口にしているものの、意識はこちらに向いていない。おそらくは自身の搭乗機なのだろう、白の不知火・弐型をぼんやりと眺めたままだ。
「なにやら、いつぞやの篁中尉殿に似ておらぬか?」
「御剣もそう思うか? コールサインの残りから言って、たぶんアイツがアルゴス1……つまりは主席開発衛士なんだろうけど。日本人か?」
アルゴス小隊の皆に聞かせる話でもないので、少し小声の日本語で冥夜と話す。どこか呆然とした表情は、XM3をシミュレーションで体験した直後の唯依によく似ていた。
「おい、ユウヤッ! 落ち込むのは後にしろよッ!!」
「あ……悪い、アルゴス1、ユウヤ・ブリッジス少尉。合衆国陸軍所属だ」
呆れたかのようなタリサの叫びに、ユウヤと呼ばれた男はようやくこちらに顔を向け、名乗る。ただ名乗りはしたものの、まだ何か思い悩んでいるのか、とくに言葉は続けずに不知火・弐型へと視線が戻る。
(合衆国陸軍? ユウヤ……勇也か、祐弥か? 名前からしても日系ではあるんだろうが、主席開発衛士がアメリカ人ってのは、政治的介入ッてところか)
ユウヤがぼんやりしたままのお陰で、武も気兼ねせずに相手を観察できた。いまは演習で完敗したショックからか気迫には欠けるが、引き締まった身体からユウヤが衛士として常日頃から鍛え上げていることがよく判る。
「ま、こうなったらユウヤのメンテは、相方に任せるしかねぇな」
VGが処置無しとでも言いたいのか、大げさに肩をすくめる。
武や冥夜が、主席開発衛士としてのユウヤ・ブリッジスを見定めようとしているのは、VGも判っているのだろう。その上で気にするなとでもいうように笑ってみせる。ユウヤの衛士としての力量は間違いないと、そう誇るかのような笑顔だった。
「んで、なんでわざわざこんな寒いところで声かけてきたんだ? 今からデブリーフィングで、どうせそっちで顔合わせの予定だったろ?」
ユウヤの話はいったん終わりとこちらも言いたげに、タリサが不思議そうに尋ねてくる。たしかにこの後の予定を考えれば、ハンガーの片隅で顔合わせなど無駄に思えたのもたしかだろう。
「悪い、ウチの小隊長殿が別件で先に行っちまってるってのもあって、な。道案内を頼みつつの、雑談ってところだ」
「道案内って……ハンガーからブリーフィングルームまでで迷うような衛士はいねぇって言いたいところだが……」
「たしかにこのユーコン基地はバカみてぇに広いからな。慣れないうちは迷ってもおかしくはないか」
ユーコン基地は東西250km、南北150km程度だ。東京どころか、山梨から千葉まで含むような広さである。土地に余裕があるために、各施設も相応に大きく、広い。タリサもVGも迷った経験でもあるのか、武の言葉を受け入れる。
「案内は任せて貰うが、それはそれとして、だ。どうせなにか本題があるんだろ?」
ただやはり道案内だけでは納得できなかったようで、重ねてタリサが聞いてくる。
「XM3に関しての率直な意見が欲しいってところだ」
隠すことでもないので、あっさりと武は答えた。
夕呼からもターニャからも、武たちがこのユーコンに文字通りに飛ばされたことの目的はまだ聞かされてはいない。だが到着直後に荷物を解く暇さえ与えられずに対人演習に向かわされたのだ。第一中隊の結成目的からしても、XM3関連の任務であろうことは予測できる。
「この後の合同デブリーフィングで、嫌というほど話題になるはずだぜ?」
「いや、衛士としての直感的な感想、ぶっちゃけ雑談程度の話を今のうちに聞いておきたいと思ってな」
当然、正式な報告としては後で貰うことになる。
それは別として、開発衛士に選ばれるような人材からの、ナマの意見を聞く機会を逃すのは惜しいと武は思う。
「醜態晒しておきながらなんだが、これでも開発衛士だぜ? 上官がいようが媚びるような事は言わねぇよ」
「ウチの部隊長を前にしたくらいで、アンタたちアルゴス小隊が委縮するとは思ってねぇよ」
「ハッ、そりゃどうも」
タリサが侮辱してるのかと睨みつけてくるので、武は即座に言葉を続ける。
どうしても身長差から、タリサが下から武を睨み上げてくるような形になるが、ターニャに比べれば、かわいらしいものである。すくなくとも即座に殺されるような気配はない。
「まあ、だけど、だな。せっかくだから多分に言いにくいし聞きたくないことを言ってやりますか」
「お、おう? 何でも来いやッ」
「……なんかいきなり仲良いなお前ら」
歩き出して少しは持ち直したのか、ユウヤがどこか呆れたかのように声を漏らした。
「そりゃあ、ユウヤみたいに来た早々しかめっ面してるヤツならともかく、タケルはからかい甲斐があるからだろう?」
「おいおい、俺はオモチャじゃねーぞ?」
「いやいや。しかめっ面のユウヤに比べれば、タケルはオモチャにちょうど良い反応だぜ?」
「勘弁してくれよ……」
タリサだけでなくVGも軽く絡んでくる。
二人ともに武で遊んでいるように見せてはいるが、聞き役に徹している冥夜や、言葉が判らぬ純夏のことも気遣ってくれているのだ。
「と、XM3で気になったというよりは、だな。アタシよりもVGかステラの方が感じてたんじゃねぇのか?」
「そこで私に振るの? まあ良いわ」
ステラは印象通りに物静かに後ろを着いてきていたが、タリサの無茶をさらりと受け入れ、所感を述べはじめた。
「先の模擬演習の結果は、XM3による戦術機の機能性向上によるものだとは断言しきれない……ってところかしら」
「勘違いしないでくれよ、タケル。これはなにも負けた腹いせって話じゃない」
後ろを歩くステラを振り返った武だが、その顔に疑問がはっきりと出ていたのだろう。ステラの言葉をVGが補足する。
「あ~そっちの話し判ってなさそうな、カガミだったっけか? ソイツ以外の腕が良過ぎて、XM3がスゲェのかどうか、判断しきれねぇんだよ」
「衛士としての腕って言ってもな。神宮司隊長はともかく、俺たち三人に比べれば間違いなくお前らの方が上だぞ?」
タリサの説明を聞いても、武はいまいち要領を得ない。口にした通りにまりもは別格として、武はユウヤに、冥夜はタリサに、衛士としての技量が及んでいないと感じていた。
「腕の差に関しては言いたいことは山ほどあるが、だ」
「そうね、まずはそのジングウジ?隊長? その方かCP将校かどちらかは知らないけど、作戦指揮の時点で私たちの負けよ。そもそも、ね? 脚の遅いF-4系列が居るから簡単に包囲できて当然だって思いこまさせた挙句、各個撃破の的になるなんて、ね?」
アルゴス小隊が最初に包囲陣を敷こうとすることからすでに、作戦に嵌められていた、とステラは分析する。
武たちは吹雪と撃震。アルゴス小隊のほうはF-15ACTVと不知火・弐型だ。
機動性の強化に主眼を置いたF-15ACTVは、イーグルの名を残すものの実質的には第三世代機相当である。
吹雪はたしかに第三世代機ではあるものの、あくまで練習機であり、主機出力は低い。練習機ゆえの機体の軽さ故に推重比で言えばそれなりではあるものの、F-15ACTVに比してそれほどの優位性は無い。
アルゴス小隊が、機動力を持って優位な地形に押し込めるように包囲し、その上での集中砲撃によって殲滅を図ったのも、双方の機体性能差をよく知るからこそだ。
「だよなー下手に欲張らずに、真正面からの砲撃戦とかの方がまだ勝ち筋が残ったかも?」
「それだとタリサ、あなたが多分最初に墜とされてたでしょうね」
「ハッ、突っ込みすぎるっていう話なら、ユウヤの方だろ?」
ステラに言われずとも、下手に砲撃戦が続けば焦れて突撃しかねないのは、タリサも自覚していた。そして以前に唯依に打ち負かされて以来、ユウヤが近接戦を指向していることも分隊員としてよく判っていた。
「つまりは、単純な同規模遭遇戦だったはずが、誘いこまれる形での部隊分断と、個別対処の状況を作り上げられていたのよ。前提がこう変えられてしまえば、単純に機体性能差を明らかにできたとは言い難いわね」
「で、そのあとは、アレだ。そちらのお姫さんの長刀を用いた近接戦闘能力が、唯依姫と同等、あるいはそれ以上ってのは、横目で見てても判っちまう」
「唯依姫?」
「あ~篁中尉の、俺らん中での渾名みたいのモンだ。え~っと武家?だったか、そっちの国での貴族のお姫様みたいなモンなんだろ?」
「え、あ~そう、なる……のか?」
姫と言われて一瞬誰を指しているのかが判らなかったが、唯依もたしかにそう呼ばれる雰囲気はある。そして冥夜と唯依の長刀を用いた近接戦闘能力の高さは、武もよく知っていた。
「で、止めがお前だ、タケル」
「俺の場合はXM3を開発当初から使ってるから慣れてるだけ……って言ってもダメか?」
時間を稼げというのはターニャからの指示だったが、実のところユウヤの攻勢を躱し流すのが精一杯だったと、自分では判断している。圧し潰せるほどの余裕などなかったのだ。
旧OSの不知火相手であれば余裕だろうと侮っていたと、武は正直に思う。
「まったく、そなたのその自己評価の低さは、相変わらずだな」
横を歩く冥夜が大きく溜息を付きながら言う。アルゴス小隊の四人も、その言葉に大きく同意していた。
「ってかよ? XM3って帝国の方じゃ、もう実機にも採用されてんだろ? ユーコンに持ってきて運用試験って段階じゃねえのは、さっきの演習で嫌ってほど判ったし」
「短い時間だったがいろいろと見せてもらったからな。問題はなさそうどころか完成してるって感じだったよな」
タリサの言葉にVGも続く。それは開発衛士としての判断だ。ユウヤもステラも言葉にはしていないが、XM3の完成度に関しては疑問はなさそうだ。彼らから見ても、XM3をいまさらプロミネンス計画に組み込む意味が分からない。
「ふむ? 任務内容に関しては、私も詳細は伝えられてはいないが……言われてみれば、我らがこのユーコン基地にまで来てなすべきことは何であろうな?」
冥夜も、情報規制に関しては十二分に理解してはいるが、それでも疑問には思ったのだろう。ただ武が口にしないのならば知らぬままで良い、とそういう態度ではある。
「俺たちの任務、ねぇ……」
XM3の公表や、その後の売り込みなどだけであれば、武たちでなくともよい。なにもこれほど急な日程で第一小隊をユーコンに送り込んだ意味があるはずだ。
夕呼がこのユーコンを重視していないのは武も聞いていた。ここに送られてきたのは、ターニャの意向である。そしてその目的に関しては、伝えられていない。なによりもターニャ自身がこの基地に来た目的もあるに違いない。
喀什攻略へと向けた短期的な計画と、その後を見据えて動いているのだろう。
(ターニャ・デグレチャフが思い描く『BETA大戦後の世界』……か)
以前に夕呼から告げられた言葉を思い出す。
同じループ経験者とはいっても、武にはターニャの意図が理解できているわけでもない。それでも何も知らぬままに、先の問題を想像せずに言いなりになっていては、取り返しのつかぬ事態に巻き込まれる可能性が高い。
九州防衛戦で核を用いずに済んだのは、武ではなく他の帝国将兵らの努力の賜物だ。次もそのような幸運に恵まれるなどとは楽観できるはずもない。
「実のところ……俺も知らんし、よく判らんッ!!」
とりあえずは、おどけるようにそう叫んでみせる。
今はターニャの意図が読み取れないいうのは、それはそれで間違いない事実なのだ。知らぬものは知らぬ、判らぬものは判らぬと受け入れて、その上で自分が為すべきこと、できることを考え続けるしかないと、あらためて武は固く誓った。
遅くなりました、ニューヨークに戻るためにワシントンを駆けずり回っていたり、STAR-15とM4A1のMOD3化の勢いでハチの巣回っていたりで、気が付くと二月も半ば。
んで、外から見るとXM3がすごいのは確かだけど、タケルちゃんとまりもちゃんが規格外過ぎてそもそもデモ部隊としてどーなのよコレ、という感じです。というかまりもちゃんXM3撃震で不知火相手できてしまうので、前回の対戦カードはヘンにズラしていてたり……