「我が隊はこれより、下関防衛を目的に出撃する。瀬戸内方面へのBETA群の侵入を阻止することが絶対だ。すでに下関西部へは小規模BETA群の上陸を許してしまった。現地では帝国陸軍所属の戦術機大隊が戦闘を開始している」
衛士控え室に張られたままの地図を背景に、まりもが状況を手短に説明していく。六連島の北から東進してきたらしきBETA集団が、海軍の隙を付くような形で下関市方面へ上陸を果たしたようだ。
もちろん海軍も山口方面に戦力を振り分けていなかったわけではない。
海軍の警戒網の綻びを突かれた形だった。
出雲など大型艦を多数含む艦隊主力は壱岐島の西、対馬から五島列島の間に展開している。北九州から下関周辺はミサイル艇などを数を揃えることとその高速性とで対処しようとしていた。
「北九州コンビナート方面を重要視しすぎた結果、とも言えますか」
真那がつぶやくように漏らした言葉が真実なのだろう。
帝国海軍はBETA上陸阻止のための支援砲撃が主たる任務だが、周辺への誤射誤爆は可能な限り避けたい。
出雲に積まれる46センチ砲は建造から半世紀過ぎた今でさえ、間違いなく強力な火砲だ。それ故に上陸阻止のためとはいえそれを自国に向けて撃つのは難しい。完全にBETA支配地域となっているのであれば躊躇いなく使えるが、基地や港などの施設を守りつつBETAのみを排除するにはまったく向いていない。
北九州コンビナート地帯に対し、戦艦や重巡洋艦群による艦砲対地砲撃を敢行するのは、それこそ核使用に踏み切る直前、最後の手段といえる。
対して魚雷艇やミサイル艇に積まれる76ミリ単装速射砲であれば、周辺への被害は最小限に留められる。艦砲としては当然射程は短く沿岸部に撃ち込むにしろ15キロまでは近付く必要があるが、BETA大型種を狙い打つことも可能である。
光線族種の上陸が確認されるまでは、その射程の短さも問題とはならない。
「艦艇数とその速度とで対応する予定だったようだが、BETAの数に押された形だな」
結局のところ、防衛目的として何を重要視するか、だ。地理的には下関の陥落は許されるはずもないが、かといって九州方面の生産・補給拠点たる北九州コンビナートの被害拡大を認めるわけにもいかない。
そして何よりも佐賀長崎への上陸を阻止せねばならないのだ。
戦力が有限である限り何かを切り捨てなければならないが、北九州側に小型艇を多めに配備しなければならなかった事情は誰しも理解できる。
『どちらかと言いますと錬度不足が明るみに出た、というところでしょう。不用意な砲撃を繰り返した挙句に弾薬不足に陥り、補給に戻った艦艇がいくつかあったようです』
だが、そんなまりもの海軍を擁護するような言葉を、通信越しにターニャはばっさりと切り捨てる。警戒網に穴が開いたのは、実戦経験のない艇長が率いる船が無駄弾を撃ち、補給計画にないタイミングで戦線から退いたからだという。
『此度の件を教訓として、二度と同じ過ちを繰り返さぬこと、期待するしかありませんな』
「……いや、むしろ我々への教訓とすべきだ。萎縮することなく、さりとて勇みすぎず、成すべきことを成そう」
ターニャの揶揄するような言葉に反論するのではなく、新兵たちへの教導の一環としてまりもは話す。
他兵種に比べれば予備弾薬に余裕のある戦術機だが、当たり前だが無尽蔵ではない。とはいえ以前に武が教導の際にも言葉にしていたが、弾薬の消費を躊躇って近接攻撃に拘って機体に損害を受けたり、まして自らのみならず周辺までも巻き込んで損耗を増やすようでは本末転倒だ。
「さほど時間的余裕はない。細かな情報などは移動中に説明する。A-01中隊、出撃ッ!!」
先ほどまでの雑談が功を奏したのか、新人衛士たちも緊張はあれど常の訓練通りに機体に乗り込み、何一つ滞ることなく発艦していく。
(こういうところでも、俺たちの中隊ってやっぱり実戦向き時の編成になってねぇよな)
皆が飛び出していくのを確認しながらそう思ってしまえるように、武が発艦するのは最後だ。
戦術機母艦からの発艦経験としては、先の世界線での甲21号作戦の時が最も記憶に新しい。が、当時も特例的な立場だったとはいえ、新任の武が最後尾ということはなかった。
先行していた撃震と吹雪に続き、冥夜とともに最後尾に並ぶ。
今、移動陣形たる縦型に中隊全16機が二列に並び飛行しているが、通常であれば最前列に立つべき前衛小隊の武たちが後に位置している。今回、武がこのような位置取りなのは、A-01第一中隊に真那たち斯衛の第19小隊が合流したため、先ほど再編成したとおり前衛がすべて武御雷となったからだ。
衛士としての練度であれば、斯衛の戎たちと元207の者たちにはさほど差はないが、機体の差がどうしても大きい。巡航速度での移動とはいえ、武御雷を先頭にしてしまえば、後衛の撃震を引き離さないように注意する必要がある。
(敵眼前での陣形変更のみならず位置変更の必要はあるけど、神宮司大尉のことだからそれもまた教練の一環……くらいには織り込んでるか)
ただその最後尾から部隊全体を見渡す余裕ができたのは、武にしてみれば想定外とはいえ部隊練度を見直すにはいい機会だった。
部隊の大半が新兵どころか着任したてのひよこも同然とみなされてもおかしくない程度の経歴しか積んでいないが、そんな彼女たちは異機種混合の中隊だということを感じさせない程度には手慣れた様子で陣形を組んでいる。
『新米どもにしてみればなかなかに手早い、と褒めてやりたいところだが、まだまだだ。発艦からの陣形形成はあと30秒は縮められる。各自努力しろ』
武の下した評価と近いのか、まりもは少し厳しめに声を固めて言うが、それもおそらくはまりもの気遣いなのだろう。中隊各機が移動のために縦型に陣形を取ったのを確認した後、いつもの訓練と同じだと言わんばかりに中隊での連携機動に軽くダメ出しをする。
『細かな指摘をしてやりたいところだが、先に言ったように時間がない。フェアリーマム、状況の説明を』
時間が許せば発艦機動に関しての教導をしたのだろうが、今はその余裕がない。まりもは言葉短く、中隊CP将校たるターニャに詳細の説明を求めた。
『フェアリーマムより、フェアリー及びブラッド各機へ。下関北部、綾羅木川の南にすでに大隊規模の上陸を許した。継続するBETA群の詳細は不明だが、間違いなく連隊規模になると予測される』
まりもの指示に合わせ、ターニャは各自の網膜投影情報に下関周辺の地図を出し、そこに確認されているBETA群の情報を上書きしていく。だが海上戦力の隙を突かれた形のため、海底を進む後続の情報はあくまで推定でしかない。
『現状上陸している個体の比率は先頭集団ということもあり、半数近くが突撃級。それ以外は戦車級とみられる。このBETA群に対処すべく、191号線を北上する形で帝国本土軍の戦術機大隊が迎撃に向かい、綾羅木川の北岸側には機械化歩兵大隊が展開している』
その言葉に合わせ、地図には青で友軍情報が加えられる。一見、数的には優勢に思えるが、後続が不鮮明なために予断は許されない。
『帝国海軍からは支援砲撃のためミサイル艇が急行しているが、早くとも15分はかかる。瀬戸内海方面からも支援のために一部艦艇が移動しているとの報を受けているが、こちらの詳細は不明』
そして最後に、追加の支援は実質的に間に合わないということを告げる。
さらに瀬戸内方面に展開しているのは、出雲を旗艦とする第六艦隊とは所属が違うためだろう、情報の伝達も遅いようだ。
『状況は理解したな? 我々の任務は簡単だ。このままBETA群の後方から綾羅木川の南岸に上陸し、機械化歩兵大隊への大型種の脅威を取り除きつつ南下、帝国軍戦術機大隊と合流を図る』
ターニャの状況説明を受け、まりもが目的を単純化しつつ任務内容を告げる。
機械化歩兵ならば戦車級までは対応できるが、突撃級は当然、要撃級などの接近を許せば壊滅もあり得る。多少の撃ち漏らしはあったとしても、まずは上陸したBETA群のうち、大型種を殲滅せねば文字通りに防衛線に穴が開く。
逆に、市街地に浸透した小型種を戦術機や砲兵などで排除するは困難だ。なにも商業ビルなどの大型建築物でなくともよい。民家の土塀程度であっても歩兵にとって砲撃からの防壁となるように、BETA小型種にとってもそれらは盾として機能してしまう。
上陸された地点を再奪還するのであれば、小型種を虱潰しに排除できる機械化歩兵部隊は必要不可欠なのだ。
『前衛たる第一小隊は上陸後500メートルほど東進した後に248号線に沿って南下。中衛たる第二小隊は綾羅木川南岸にてこれを援護、そして機械化歩兵大隊への大型種の接近を阻止しろ』
綾羅木川の北岸は海岸からの500m程を除けば田畑が広がっている。こちらへの侵入を許してしまえば、不整地踏破能力に長けるBETAの内陸部への浸透を阻止するのが非常に困難となる。
大隊規模のBETA群それも先頭集団として突撃級が多くを占めるその中へ押し入る武たち前衛も厳しいが、帝国軍機械化歩兵の援護はあるだろうが吹雪四機でBETAの渡河を阻止しなければならない孝之や信二たちの中衛の負担も大きい。
『最後に後衛の第三小隊だが、第一第二小隊が開けた穴を通り抜け、火ノ見山西にまで移動。そこからの中距離支援を行う』
火ノ見山は標高100m程しかないが、平野が広がる作戦予定地点であれば、戦術機からしてみれば十分な射線を確保できる場所だ。綾羅木川北岸も十分に有効射程距離に含むことができる。先行する小隊が撃ち漏らした大型種の掃討を担うには最適といえる場所だった。
『繰り返しにもなるが、我々の任務は防衛線の構築ではない。それほどの戦力もないからな。帝国軍の準備が完了するまでのひと時を稼げればそれだけで良い』
補給の完了した艦艇が来れば、BETA群の追加上陸は大きく減らすことができる。あとは帝国陸軍が新下関駅から東側に防衛線を構築し、上陸した個体を排除していけば当面の脅威は退けたと言える。
(つまりは、だ。そのひと時を稼げなければBETA共は中国道を超えて瀬戸内方面に雪崩れ込むってことだよな)
網膜投影された地図を睨みつけるように読み取りながら、武はそう考える。
BETAはその高い踏破能力とは裏腹に、移動に関しては最適解ともいえる高低差の少ない平野部分を選択する傾向がある。そして進行目標となるのは高密度集積回路や生物素材の多い地域、つまるところは大規模人口集積地たる都市を狙うことが多い。
そのため下関周辺であれば竜王山や四王司山などは迂回され、おそらくは長府方面へ向かうと予測される。
霊鷲山の北側を国道二号かあるいは山陽本線に沿って東に進めば、新下関から長府まではほぼ直線で移動でき、距離としても5キロほどだ。移動速度の速い突撃級や戦車級は当然、小型種であったとしてもただ移動するだけであれば二時間と掛からずに瀬戸内方面へ流れ込んでしまう。
(後がないって程には厳しくはないが、とはいえ気を抜ける場所でもない。支援が来るのは判っているけど、その少しの時間を稼ぎたいってところか)
もちろん瀬戸内方面はそちらはそちらで防衛戦力も用意はされているのだろうが、海岸線全域に防衛線を構築できるほどには帝国軍に余力はない。今回の防衛において用意された帝国本土軍の野戦砲兵科はその多くを九州側に展開しており、山口での本州防衛に割かれているのは予備戦力として想定されている程度だ。地形的にも戦車大隊が十全な能力を発揮するのは困難だろう。
山口方面での防衛は、機械化歩兵や戦術機による機動防衛を軸に、艦艇からの支援砲撃とを想定していると聞いていた。
武たちが抜かれれても良いと高をくくるほどには余裕はないが、即座に本州が蹂躙されるとまでは瀬戸内側での防衛が逼迫しているわけでもない。
(XM3の実戦でのお披露目、加えて『御剣冥夜』の初陣としては、出来すぎたくらいに良い条件だな)
前線、それも防衛の間に合っていない場所だ。当然ながら死地ではあるが、全滅必至の状況ではない。しかもまだ崩れていない戦術機大隊に機械化歩兵大隊の観客付きだ。支援部隊が駆け付ければ、それもまた増える。プロパガンダの意味合いが強いA-01第一中隊の戦場としては、望みうる最高の物件だ。
第四計画直轄とはいえ中隊指揮官でしかないまりもに戦場の選択権などあるはずもない。そしてA-01第一大隊の大隊長はいまだ不在だ。
(夕呼先生が介入してないってことはないんだろうけど、この場を選んだのは事務次官補だろうなぁ……)
夕呼は間違いなく天才だが、あくまで科学者。軍事面においても凡百の指揮官よりは有能かもしれないが、中隊規模の戦術指示に口を挟んでくるとも思えない。そしてCP将校を複座型に慣らすための実践という面もあるが、A-01は九州防衛に全部隊参加している。夕呼にとってA-01の中でも第一中隊の比重は高いほうだろうが、こちらにだけ注力しているわけではないはずだ。
ならばこの場を用意したのは、ターニャしかいない。
「くっ、ははっ……」
そこまで考えて武は苦笑気味に笑いを漏らしてしまう。
ターニャが場を整えたのならば危険はあれど達成不可能ではないと思えた。その程度にはターニャを信頼といっていいのかは疑問だが、判断と能力には敬意を払っていると自覚してしまった。
『ほう? この状況を聞いて笑えるくらいには余裕があるか、02?』
「っ、失礼いたしました」
『いや、その程度の余裕は見習いたいものだ』
まりもの指示を聞きながらも自身の思考に埋没していたことを指摘されたようで、慌てて表情を取り繕い、武は詫びた。ただまりもも強くは追及せずに、視線を少しずらしている。
『フェアリー09より01へ。意見具申よろしいでしょうか?』
『こちら01、許可する。何だ09?』
『どうやら02以外の新兵どもは緊張のあまり声も出せぬ様子。到着までは今しばらく時間もありますので、中隊内に限り雑談を見逃していただけませんか?』
先にまりもが視線をずらしたのは中隊の新人たちの顔を見るためだろう。そして慎二の言葉を受けて武も中隊の新人たちの顔色をうかがう。
フェイスウィンドウ越しではあるが、緊張が強すぎるのは伺えた。いまも慎二の言葉の真意を汲み取れていないのか、視線を彷徨わせている者もいる。
『……ふむ』
まりもは考え込むようなふりのためか一拍開けるが、答えは決まっていた。
今は緊急時だが、最大戦速ではなく巡航速度での飛行だ。
帝国製戦術機は比較的空力特性を重視して設計されているとはいえ、あくまで戦術機だ。航空機ほどに燃費が良いわけではない。むしろロケットとジェットの併用のため燃費は劣悪といえる。現地に到達したが燃料がない、では話にならない。
しかも母艦としていた国東は安全のために海岸線から遠く離れていたために、飛行距離も比較的長い。作戦地域への到着まではあと数分はかかる。
『確かにな。フェアリー01よりブラッド01へ。合同作戦ではあるが、こちらの通話をフリーとする。少々煩くなるやも知れぬが、容赦されよ』
『ブラッド01からフェアリー01へ。こちらへの配慮は無用、いえむしろ歓迎いたします。こちらのヒヨッコどもも声を出せぬようでありましたから』
『聞いたとおりだフェアリー各機。随伴の皆様からも許可いただいたことだ。接敵までは楽にしておけ』
一応は確認という形でまりもは真那へも許可を取るが、真那にしてみても戎たちが力みすぎていることには気が付いていた。斯衛の、それも警護小隊所属という立場から無駄話に参加することはないだろうが、話を聞き流すだけでも少しは身体が解れるはずだと、真那は簡単に同意する。
『ありがとうございます。で、02というか白銀? あの状況説明で笑えるって、何かあったか?』
「あ~っと何と言いますか……」
雑談の許可を得て、慎二が問うてくる。
だが正直に、今から臨む戦場がターニャの想定したものならば作戦目的は達成できるはずだ、などとはさすがに武といえども言えない。
(というか事務次官補のことだ。下手をしなくともこの中隊の中からいくらかの『損耗』が出ることさえも想定の内だとハラくくっといたほうが良いな)
悪い方向に想像を働かせてしまえば、ターニャならばすでに誰かを被害担任機として振り分けているかもしれない、とまで思い至ってしまう。そしてCP将校であれば中隊長以上に、それを実現できる立場だということも判ってしまう。
向かうべき状況の自己想定をより最悪なものへと切り替え、そのうえで皆の緊張を解せそうな話題を探す。
「あらためて小隊の状況を見て、結局機種ごとに再編か、と。判りやすいというかなんと言うか……」
いまここでターニャへの疑惑を言葉にしても皆を疑心暗鬼にさせるだけで意味はない。ならばと口に出したのは、本当に当たり障りのないことだ。
『まったくだな。貴様が斯衛所属であればこのような煩雑な事態にはなっておらんのだがな』
「はッ、月詠中尉には何かとご無理を聞いていただき、申し訳ございません」
『今からでも遅くはないぞ白銀少尉。斯衛への転属を打診するつもりはないのか?』
先と同じく慎二あたりが乗っかってくれることを期待していたのだが、それよりも先に真那がからかうような声で言葉を続けてくれる。表情を見ても半分以上は冗談なのだろうが、斯衛への勧誘とも取れることさえ言ってくる。
「過分なお誘いですが、そうですねぇ……俺が斯衛に行くなら、まずは一般的な礼儀作法から身に付ける必要がありそうで、それが何よりも難関かと」
『ほう? 衛士としての技量にはさすがに自信があるか。そして貴様の立ち居振る舞いが問題とされるくらいは自覚していたようだな』
『違いない、と月詠中尉の言葉に同意してしまいそうだがな、白銀。そなたはそのままで良いのではないか?』
武の言葉に真那は直接は否定しないが、言外に冥夜への態度を改めろと続ける。ただ、それを受けて、冥夜が武を擁護するかのように口を挟む。
『めっ……御剣少尉。あまり白銀を甘やかすのは、如何なものかと』
『ふ、許されよ月詠中尉。その者に礼儀を叩き込むことの困難さを、そなたのほうが理解しているのではないかと思うてな』
「あ~お二方? 俺自身の意向としましては、今すぐ国連軍からの移籍とかはまったく考えてないわけでして……」
真那から認められるような言葉を聞くのは嬉しく思えるが、かといって斯衛へ移るというのはまったく別だ。そもそも今の武の立ち位置としては、夕呼の庇護下から離れられるはずもない。
『いいんじゃないかな? タケルちゃんはタケルちゃんのままでいいよって、話だよね?』
「そういう話なのかねぇ……」
冥夜と真那とのやり取りを受けて、純夏は冥夜の口ぶりを肯定的に捉えたようだ。まだ固いもののへにゃりと笑ってみせて、冥夜の言葉に賛同する。
だが悠陽への対応に関しては、真那だけでなく冥夜からも睨みつけられた経験を持つ武としては、言葉通りに諦められているのではないかとも思ってしまう。
『まあ武がいきなり礼儀正しくなったら、ヘンだよ』
『そうね、礼儀正しい白銀とか、想像できないわね』
『白銀、キモい?』
『あはは~ちょっと見てみたい気はしますけど』
純夏の言葉に続き、元207Bの面々が好き勝手に武の態度を評する。武との付き合いが浅い茜や晴子は乗ってはこないが、他の皆の言葉を聞いて、口元は解れてきていた。
「っと。俺の進退はどうでもいいんで、ここは先輩のお二方から、新兵どもにお言葉をもらいたいところなんですが?」
『あ、タケルちゃん逃げた?』
「逃げてねーよっ、ありがたい教訓を授かろうってだけだ」
自分がネタにされているとはいえ、新人たちが幾分かは緊張が解けたのを見て、いい機会だと先任二人にアドバイスを求める。
『っえ? そうだな。訓練通りにこなして、そのうえで周りを信じろ、とか、か?』
『なに当たり前のこと言ってるんだよ、孝之。じゃなくてだな~って俺もありきたりなことしか浮かばないが……』
孝之が当り障りのないことを口にしたのを受けて、慎二も何か言いかけたが似たようなことしか思いつかなかったようで、あちこちに視線を飛ばしながら何やら考え込む。
『ああ、そうだ。白銀に御剣、お前たちには特に言っておきたいんだが』
ようやく何かに思い至ったようで、慎二が少しばかり表情を改めて、わざわざ武と冥夜の二人を選んで言う。
『足元はあまり気にするな』
「は?」
慎二の忠告に、タケルは素で聞き返ししてしまう。これから向かうのは市街地での戦闘だ。足元に注意しろと言われるならば判るが、その逆は理解できなかった。
口には出していないが、冥夜も意味を捉えきれていないようだ。
『今判らないならそれでいい。だけどな、現地に行ってそれに気が付いたら、ある程度は無視しろ。守るべき優先順位ってのを忘れるな』
「……了解しました。よく判ってはいませんが、ヤバい時には思い出します」
まだ意味は掴み切れてはいないが、間違いなく意味のある忠告だと武は感じとり、心に刻んでおく。
『さて、そろそろと目標地点だが、フェアリーマム、そちらからは何かあるか?』
まりもが雑談の時間は終わりだとばかりに言葉を挟む。
中隊指揮官の立場としては少しばかりおかしいが、やはりどうしても最上位者だと知っているまりもとしては自分から何かを言うよりはと、ターニャに訓示を促す。
『上官の方々を差し置いて何か伝えるというのも、少しばかり憚りますが』
一応はそう謙遜しておきながら、ターニャは少しばかり何かを思い出すように目を瞑り、中隊全員に告げる。
――我々の任務は逆襲部隊。
――この種の任務に従事するのは精鋭である。
機動打撃部隊としての役割を端的にまとめ、つまるところは「戦場の顔なのだ」とターニャは続ける。
――軍の精鋭だと自覚を持て。ここでは我々が、軍なのだ。
『ふ、戦場の顔……か。なるほど、我らに相応しき言葉だ』
ターニャが告げた意図を正しく読み取り、軽くまりもは笑ってみせる。
A-01第一中隊としてであれば、BETA上陸阻止できれば十二分の成果と言える。XM3搭載機の実戦での運用実績さえ作れば、任務としては達成されるのだ。
だが紫の武御雷を先頭に押し戴いての戦いだ。ただ防衛に成功するだけでは足りない。逆境を覆し、圧倒せねば、危険を冒させる意味もない。
『フェアリー01から中隊各機、隊形を縦型から槌壱型へ』
そのうえで冥夜を守るべくその周囲を固めれるように、陣形の変更を命じる。
まりもの指示に合わせ、部隊中央の四機の吹雪はわずかに推力を上げ、先行していた撃震を左右から追い越す。そして部隊最後方に位置していた6機の武御雷がそれまで抑えていた主機の推力を戦闘領域にまで引き上げると、その吹雪さえ軽々と置き去り、部隊前面に横一列に展開する。
槌壱型、上から見ればT字型になるように中隊各機が陣形を整えるのに、さほどの時間は要さなかった。
陣形の変更を確認し、わずかに一拍ほどまりもは眼を閉じる。
『……兵器使用自由、中隊吶喊ッ!!』
そして教え子たちを死地へと連れ行く言葉を、自身へ呪いを刻み込むように吐き出した。
出撃はしたけど、まだ接敵できず……でも、あと二回くらいで防衛戦は終わらしたいところ。で戦闘前のデグさんのセリフ、何か良いのないかな~と、原作読み返していましたが、ちょっと変なところから引用です。
でで、下関周辺は行ったことないでの、GoogleMAPに頼りまくってます。たぶん地形的には東西海上からの支援砲撃さえ十全であれば、復興度外視すればわりと防衛できそうな、光線属種が上陸したら阿鼻叫喚の地獄絵図になりそうな、といった場所? といいますか、ここの山陽本線と中国道か国道二号が破壊されたら、九州方面への物資輸送は全部海上頼りになるとという、その時点で半分詰むなぁ、と。
あとアローヘッド・ワンばかりがよく出てくるので、せっかく異機種混合なので、フォーメーションはハンマーヘッド・ワンで。