Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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征戍の淵源

「しかし白銀、そなたはやはり少しばかり意地が悪過ぎると思うぞ」

 任官の祝いと今後の関係を思っての挨拶として、元207Bとなった面々に頭を下げた武に対し、冥夜にしてはどこか呆れたかのように言葉を漏らした。

 だが言葉にした冥夜だけでなく、呆れているのは他の皆も同様のようだ。

 

「あれ? 俺何か間違えたか?」

「タケル~それはちょっとないんじゃないかなぁ……」

「ですよねぇ、私たちにも適切な頃合というものがありましたし」

 

 武の疑問に、尊人と壬姫も声をそろえて不満を漏らす。

 

「白銀に付き合うのは後にしなさい。今は先任の皆様方を待たせてるのよ、急ぐわよ」

 さすがに平時の基地内で走り回るわけにもいかず、それでも千鶴はできる限り早く指定された部屋に向かおうと、武の声を切り捨てる。

 

 

 

「まったく。我らの身にもなってみろ。そなたから同期としてよろしくなどと言われてしまえば、そなたから授かった教えに対して、どのように感謝の意を伝えようかと悩んでいた我らはどうすればいいのだ?」

 

 冥夜の剣幕から、急ぎの案件がなければ、正面から睨みつけられて詰られていたに違いない、とそれだけは武にも判った。

 だが、その言葉は少しばかり受け入れるのが難しい。

 

「俺がお前らに教えられたことなんて、神宮寺教官の教えがあったからこそ、だぞ?」

「それでも、だ。任官できた今だからこそ言えるが、神宮寺軍曹であっても我らが立ち位置からくる問題を解決できなかった、いや介入することを避けておられたのだ」

「いや、それはどちらかといえば、だな……」

 

 冥夜にしてみれば武という存在が207Bの中にあった壁を崩してくれたという思いがある。だが状況を知っている武からすれば、まりもが積極的に介入できなかったのは夕呼の方針が不明確だったからだと考えてしまう。

 

「えーっとね? 御剣さんも榊さんもだけど、難しく考えすぎだよ。いままでタケルちゃんありがとう、これからもよろしくねっ、てだけでいいんだよ」

「……珍しく鑑が正しいことを言ってる気がするぞ」

「ふむ。まさに長き付き合いがあるからこそ正鵠を得る、ということか。これは精進せねばなるまいな」

 

 要らぬところまで考えはじめそうな冥夜と、それを何とか否定しようとする武とを止めたのは、純夏の当たり前の言葉だ。

 

「御剣が考えすぎなのは間違いないが、これこそはじめましてよろしくお願いします、といった心機一転というか、俺にとってはいいタイミングなのかもなぁ」

 武としても、それくらいに捉えてくれたほうが、ある面では気が楽だった。これからは戦いに限らず、以前の世界線の記憶にはできる限り頼らず、今の皆との時間と関係とを大切にしたい。その上で冥夜が何を精進しようとしているのか、武は考え込みそうになってしまう。

 ただ、その時間は今は与えられなかった。

 

「あなたたちっ、急ぎなさいっ!!」

「……分隊長でもないのに偉そう。でも急ぐというのには、同意」

 先に行っていた皆からの指摘を受け、武たちも先を急ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 基地内は走れないとはいえ、小走りに近いような速さで歩いてきたため、逆に皆息が乱れていた。

 指定された部屋の前で、一呼吸整え、入室の許可を取る。

 

「失礼しますっ!!」

『おう、入ってくれ』

 

 入室を促され、榊を先頭に粛々と中に入る。さすがに武としても最初くらいは皆と歩調を合わせ、緊張した態を被る。

 

 部屋に居たのは、国連軍軍装の男女が四人だった。

 机に座っていた男が一人、その周りに三人が立って談笑していたようだが、どこか学校の放課後のような気楽さがあった。

 

「お前たちが新人さんか? というか顔知らないのは俺と孝之くらいか。俺は平慎二。でこっちが鳴海孝之。まあ階級は気にするな」

「鳴海孝之だ。慎二とおなじく階級は無しでいい」

 

 20過ぎほどの男が二人に、武たちと同年代の少女が二人。敬礼する新人たちに対し、四人ともに軽く手を上げるだけで応える。

 

「やぁ、久しぶりってほどでもないね。元気そうで何より」

「一応私たちは先任ってなるんだろうけど、平中尉と同じ、気にしないで。見たことないのは、そっちの一人だけ、だね」

 

 

 

(直接会うのは初めてだが、うまくはやっていけそう……だな)

 

 わざと軽そうな雰囲気を作っている平慎二と、どこかぼんやりとしている鳴海孝之。書類では衛士適正や前の中隊での動きを伝えられているものの、やはり本人を前にしないと、武では判断しきれない。以前の世界線では武がA-01に配属される前に死んでいたということもあり、完全に初対面といえる。

 対して女子の二人は、武にとってみれば顔見知り、と言える。しかもこちらは207では同期だったために他の皆もよく見知った者たちだ。

 

「白銀武少尉であります。年は榊たちと同じですが、訳あって訓練時期がずれておりました。と、まあ硬いのはこれくらいにして、よろしく先輩方。そっちの二人は柏木晴子と、涼宮茜でよかったか?」

 

 気にするなといわれても、元207Bの面々がいきなり気軽に接していくのは難しいだろうと思い、武は率先して態度を崩す。

 

「おう気楽にやっていこうぜ、白銀」

「他の皆も、年も気にするなといっても無理かもしれんが、まあ今の白銀の言葉じゃないが学校の先輩程度に考えてくれ」

 慎二に続き、孝之も打ち解けようとはしてくれているようだ。あくまで同僚としての態度で上からの指示という雰囲気はない。

 

 

 

「あの、失礼ながら、楽にしろと言われましても……」

「そうですな。任官したとはいえ、先達の皆様方に追いつけたわけでもありません」

 同期の二人に対しても先を行かれているという負い目があるのだろう。千鶴はそちらにも視線をやりながら言葉を捜してしまう。冥夜にしても、任官することが目的ではなくその先を見るようになったためか、以前よりも先を行く人々への敬意が一層大きくなっている。

 

「ですが一つ、質問よろしいでしょうか?」

「榊だったか? いちいち確認しなくてもいいぜ」

「はい。どなたが中隊長なのでしょうか?」

 

 千鶴としては楽にしろと言われても、上官の前でそんなことができるはずもない。とりあえずは上下関係を確認しておこうとしたのだろうが、ハッキリした答えが返ってこない。

 先任四人が顔を見合わせて、確認しはじめた。

 

「そういえば中隊長って誰なんだ?」

「俺も孝之も中隊長じゃないから、もう一人誰か来るんじゃないか? それこそ水月とか」

「あいつが中隊指揮なんてできるはずないのを判ってて言ってるだろ、慎二」

「速瀬中尉なら、絶対優秀な指揮官になられますっ」

 

 速瀬水月の名が出た途端に、茜が二人に割って入る。たしかにその様子は階級差を感じさせないものであった。

 晴子は後ろで笑っているだけだが、すくなくとも上官のじゃれあいを笑って流す程度の余裕はある。

 

 

 

「はい、お三方っ、ストップっ!、そこまでっ!!」

 そして武にしても普段なら晴子と同じく面白がって眺めていたのだろうが、話題が話題だけに、今は止めざるを得ない

 

「どうした白銀?」

 いきなり声を上げた武に対し、訝しげに慎二が訊ねる。

 新人の緊張を解すためにもわざと崩した態度を取るという意味で、半ば演技が入っていたが、武に止められる意味が判らないようだった。

 

「詳しい話は後で中隊長からありますが、先任の皆さん方の前の所属部隊に関しては、この中隊内においても話さないように、ということです」

 

 配置換えのときに説明されていなかったのかと武も疑問に思う。だが武の立場も考慮に入れれば、下手に事前に伝えられるよりは今から纏めて話をしたほうが、状況を伝えやすいとでも判断されたのかもしれない。

 

「って、なんでお前がそれを知ってるんだ?」

「それも踏まえて、です」

 茜も納得できていないような顔付きだが、それよりも先に孝之が言葉にして問うてくる。晴子は何かを察したようで、笑ったままにこちらを見ているだけだ。

 

「……了解した。確かにあまり大っぴらに話すことじゃなかったな。新入りに気を使わせて悪かった」

「いえ、こちらこそ差し出口を挟み、失礼いたしました。いや、ホントはいろいろと鳴海先輩の武勇伝なんか聞きたいんですけどね」

「いや、先輩扱いでいいとは言ったが、武勇伝はないぞ」

 

 慎二も、元207Bの面々の顔を見てどことなく事情を察したようだ。武に関しても何らかの背景があるのだろうと推測してくれてはいるようだ。

 要らぬ詮索をしてこない慎二に感謝しつつ、孝之をネタに誤魔化しておく。

 

「まあ、そっちがいろいろと訳アリだってのは、俺らも聞いてる。言いにくいことがあるなら別に話さなくていい」

「お前なら、デブジューとかだな、慎二?」

「それはもういいって。それ以上言うなら、水月と涼宮の話をバラすぞ?」

「それこそさっきの白銀の話に抵触するだろ? 残念だったな」

 

 A-01に関しない範疇で慎二と孝之のじゃれあいがふたたび始まったが、それは長く続かなかった。

 

 

 

 

 

 

 ガラリとドアが開き入ってきた士官を見て、武を除く室内の全員が驚く。その士官、神宮寺まりもが普段どおりの厳しさで演壇に立つと、驚いてはいるものの教え込まれた反応で、直立し号令を待つ。

 

 が、次席が誰か判っていないのはその本人一人だけであったようで、奇妙な空白が室内に満ちた。

 

「……鳴海、貴様何をしている?」

「は? 自分でしょうか?」

「いや孝之。この状況を見る限りは、お前が次席指揮官だろうが」

「え? 何で俺が?」

 

 まりもから呆れたように溜息をつかれ、慎二から言われても判っていないようだ。

 

「まったく。訓練校からやり直したいのか、鳴海中尉?」

「は、いえ。それに神宮寺教官が、なぜ、ここに?」

 まりもの登場にも、次席指揮官と言われたことにも思考が追いついていないのか、孝之が口にしたのは、誰もが思っていた疑問だった。

 

 

 

「白銀、説明してなかったのか?」

「はい、いいえ。香月副司令より口止めされておりましたので、中隊各員には中隊長および大隊長に関しては説明しておりません」

「……副司令の命ならば仕方あるまい。鳴海と白銀の件は不問とする。よし座れ」

 

 まりもにしてみれば、武が先に来てるのであれば説明していたはずだという思いもあったのだろうが、夕呼の名が出たところで諦めたようだ。わずかに呆れたような表情を見せたが、すぐに意識を切り替えて説明に入る。

 

「では、あらためて自己紹介というのも今更だが、貴様ら特殊任務部隊A-01部隊、第一大隊第一中隊の中隊長たる神宮司まりも大尉だ。この中隊は、新型OSであるXM3の帝国各軍への教導補佐、その準備段階のために臨時に編成されたものだ。貴様らの双肩に、この国の衛士全員の命が掛かっているといっても過言ではない。全霊を以って任務に当たるように」

 

 ざっくりと自身の階級と、隊の目的を話し、演壇から下がる。

 

「後は白銀少尉、貴様に任す」

「はっ!! 白銀少尉であります。自分を含め、正式な配属は明日からとなりますが、よろしくお願いいたしますっ」

 

 副隊長のような役割を与えられたが、今の孝之では説明どころではない。それにこの中隊の編成などを説明できるのはこの場ではまりもと武だけだ

 

 

 

「さて、我々が所属することになるA-01 第一大隊第一中隊は、書類上では再編と言う形になりますが、実質的には新設されるものと考えてください」

 

 A-01の実情を知っている先任四人は、A-01での「再編」の持つ意味に思い至り顔付きが変わるが、新任たちはそこまで理解できずにそういうこともあるのかと、流している。

 現在のところA-01は武が知る状況よりは戦力を維持しているとはいえ設立初期の連隊規模ではなく、ぎりぎりで二個大隊といったところらしい。

 

 そして人員の補充は可能だが、第四計画が統括する実働部隊を連隊規模以上に拡張することはできない。そこで書類上は存続していたが人員が居なくなってしまった中隊を、新規任務のために再編という形で、再編成したのが今隊の第一中隊である。

 

 今回の武たちの配属と、XM3のA-01全隊への導入を踏まえ、いくつかの配置換えがなされている。孝之たちが第一中隊に配属されたのもその一環だ。

 

 

 

「では編成に関して説明させていただきます。いくつか一般の戦術機中隊の構成からは逸脱している点があるのでご注意ください」

 武は準備しておいた編成表をホワイトボードに張り出し説明を続ける。

 

「第一小隊は、神宮寺まりも大尉が中隊長と第一小隊隊長を兼任。自分、白銀武が副長に、御剣冥夜少尉と鑑純夏少尉の四名で構成されます」

 まりもの中隊長と小隊長の兼任は当然として受け入れられる。次席としては孝之なのだが、この中隊の実質的な副官は武である。その武が第一小隊副長なのも予想の範疇だ。

 

「第二小隊は鳴海孝之中尉が隊長。榊千鶴少尉が副長、柏木晴子少尉、彩峰慧少尉の四名。第三小隊は平慎二中尉が隊長。鎧衣尊人少尉が副長、涼宮茜少尉、珠瀬壬姫少尉の四名。ここまではよろしいでしょうか?」

 

「質問良いか、白銀?」

「どうぞ、平中尉」

「俺と孝之が小隊長なのはまあ良いとして、なんで先任少尉の二人が副長じゃないんだ?」

 

 判ってて聞いてきてくれるんだろうな、と言う武の予想通りの質問を、慎二が口にする。

 

「それに関しての問いとして、先に搭乗機体の編成を説明いたします」

 話しながら武は、ホワイトボードに書き並べられた名前の横に、機体名を入れていく

 

「第一小隊が使用する機体は神宮寺大尉と鑑少尉とが撃震で、自分と御剣少尉が武御雷です」

 昨日のトライアルの後のため、武御雷が配備されると言うことに関しては、驚きがない。ただ小隊内部での複数機種の運用を予想して、誰もが少しばかり顔をしかめる。

 その予想を裏付けるように武は他小隊の編成も説明していく。

 

「第二および第三小隊でも、先任の皆様には吹雪に、新人は撃震を想定しております」

「まあ俺たちは撃震の搭乗時間がゼロだからな。分隊長が小隊副長を兼ねるから、こういう編成になるのも仕方がない、か」

 

 A-01に配属されている慎二たちは、もともとが衛士訓練課程から第三世代機に搭乗している。いまから撃震への機種転換訓練の余裕は無い。

 そして小隊規模で機体を混在させるからと言って、さすがに二機編成の分隊では同一機種で組み合わせなければ満足に連携するのは難しい。

 

「俺からも聞くが、俺の不知火は……」

「はーいっ、ストップっ!!」

 先任四人は吹雪と言う点に関し、孝之が疑問を挟みそうになるが、これまた無理やり押し留める。

 

「ご覧のとおり、この中隊は実戦を考慮したものではなく、あくまでXM3の実働デモンストレーションが目的の広報部隊に近しい性質です」

 そして孝之の疑問に直接は答えずに、話を中隊の目的へと進めていく。

 

「そのため帝国陸軍との共同訓練などが想定されているために、使用できるのは撃震と吹雪です。といいますか、吹雪でさえけっこう無理して用意してるんですよ?」

 A-01で不知火が使用されていることを新人組だけに知られるのであればさほど問題はないのだが、A-01の他部隊に関しては可能な限り今まで通りに隠蔽することが決まっている。

 それに一般的には在日国連軍には不知火は配属されていない、ということになっているのである。XM3の導入に伴い不知火が追加配備されたなどとわざわざ偽装することもない。

 

「基本的には中隊全体での活動ではなく、小隊規模で帝国内の各基地への移動が予定されています。ですので一般的なポジション分けは考慮されておらず、小隊内でも使用機種を統一しておりません。編成に関しては以上です。ここまでで何かご質問は?」

 

 先任たちが隊の編成の歪さに疑問を抱く横で、先日のトライアルを経た新人たちのほうがこの編成には納得しているようだ。特に声を上げることもなく、受け入れている。

 

 

 

「もうひとつ良いか、白銀?」

「どうぞ、平中尉」

「CPはどうなるんだ? まさか各小隊ごとに配置してもらえるほど余裕があるわけじゃないだろうし」

 

 再び説明していなかった分を、慎二が訊ねてきてくれる。なにかと面倒見がいいために配属しておけという、まりもの推薦も頷ける。

 

「先の繰り返しにもなりますが、小隊規模での派遣も想定されているので、基本的には出向先の基地のCPに担当してもらうことになります。ですが……」

 

 武がどう紹介しようかとまりもを見ると、ちょうど扉がノックされた。

 

 

 

「平の疑問の答えが来たようだな。入れッ」

「……失礼します」

 

 まりもの声に少しばかり驚いていたようだが、それでもしっかりと声を出してドアを開け、ほてほてと部屋に入ってくる。

 

「社、霞……特務少尉です。よろしくおねがいします(ぺこり)」

 武の横に並び、霞はそう自己紹介をする。

 頭を下げそうになって思い直したようで、敬礼しながらそう言ったものの、結局最後には頭を下げてしまう。

 

「え、と。社少尉、それだけで良いのか?」

 霞から説明を続けてくれるかと、期待を込めて見ていたのだが、それだけで挨拶は終わってしまった。

 振り向かれこれでいいのかと言いたげに見上げられると、武としてもダメ出しするのも気が引けて、補足するために一歩前に出る。

 

「一応、社少尉がこの中隊の専属CPなんですが、まあ年齢やらなにやらの事情もありまして、基本的にこの基地から離れられないので、担当してもらうのは当基地内に限ります」

 

 霞がこの基地を離れられないのは防諜上の理由なのだが、さすがにそれはまりもにも話せない。ただ霞の場合、見た目から判りやすい年齢という理由があればそれで誤魔化せなくもない。

 

 

 

『失礼します』

 武が言い訳じみた説明を加えようとしていると、再びノックが響く。

 誰か来る予定でもあったかと、疑問に思う間もなく、まりもが入室の許可を出し、ドアが開いた。

 

「……うぇっ!?」

「遅れるとの報告は受けている。ちょうどいい、皆の挨拶が終わりそうなところだ。貴様が最後だな」

 

 そこに居たのは、武が予想もしていなかった人物だ。

 逆にまりものほうは話を聞いていたようで、複雑な表情を見せたもののすんなりと案内をする。

 

 入ってきたのは、霞と似たような形にアレンジされた国連軍C型軍装姿の、幼女。ただスカートではなく男性用に近いパンツスタイルだった。

 

「じっ、と。ティクレティウス少尉殿。なにか御用でしょうか?」

「落ち着きください白銀少尉。先に皆様にご挨拶をさせてもらってもよろしいでしょうか?」

 

 武は事務次官補殿、と呼びかけそうになって、慌てて言い換える。が、まさか相手から敬語で返されるとは思いもよらず、武は対応する言葉を出せない。

 霞が逃げるように武の右側に回ったため、その顔を覗き込む位置に立たされるているのだ。聞いてねぇっ!!と叫ばなかっただけでも、軍人として成長していると間違った方向に自画自賛したくもなる。

 

 

 

「A-01第一中隊の皆さま。この度、中隊付CPを拝命いたしましたターシャ・ティクレティウス特務少尉であります」

 身長はいささか足りていないが、型どおりの敬礼の後、新たな名を再び名乗る。

 

「ご覧のように若輩の身ではありますが、私は一つ誓いを立てております」

 霞とはまた違う、普段わざと見せているのであろう歪んだ笑いなどない、まったくの無表情で、何かに宣言するかのように言葉を続ける。

 

 ――クソッタレのBETAとその同類は引き受けた。

 ――あの不法入国者どもには、寄生虫と劣化ウラン弾頭を腐るほどに食らわせてやると。

 

 静かな言葉のままに表情は動かないが、そこにあるのは時間をかけ硬め上げられた怒りだ。

 ターニャの背景を知っている武とまりもだけではなく、慎二と孝之もその言葉の持つ意味を感じ取ったのか、ただのCPそれも一見は幼子のその姿の先に、間違いなく最前線を見ていた。

 

 

 

「ああ、それとは別に。新任の少尉殿たちに、一言」

 

 実戦を経ていない茜に晴子そして新人たちは、ターニャのその雰囲気に飲まれていたが、ターニャがわずかに微笑ををたたえたことで、緊張が解かれる。

 

 ――ヴァルハラへ行くまでの短い付き合いではあるが、新兵諸君、地獄へようこそ。

 

 本人としては笑顔のつもりらしい、くひっとでも漏らしそうな歪んだ嗤いのように口元が引きつり、合わせて首もとの赤い宝玉が煌いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここで第二章完結~とさせていただきます。XM3作って配布計画を立てるのと、207Bの任官だけのはずが、何か結構な長さになってしまっております。

慎二と孝之はこの後出てこれるかどうかビミョーなところなんですが、A-01組としては使いやすい立ち位置にいるので、ちょっと登場です。ただまあ、原作だと開始時点ですでに死んでいるということで、マブラヴだとどういうキャラか判らぬと言うが問題ですが、慎二はなんとなくで面倒見のいい先輩扱い。孝之どーしましょ?

で、新設中隊のCPはまあ順当に霞とデグさん。どっちも本職が別にあるのでほとんど仕事しない、予定。小隊編成は、まあこんな感じで行きます~程度です。



あと次回以降の更新に関しては、ちょっと未定です。
第三章に関しては一応ざっくりプロットはあるものの、出来上がっている分が心もとないので。できれば年内再開したいところですが、冬コミやらなにやらありまして予定は未定。エタらせることはないはずだと何とかガンバってみます。

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