Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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空理の穽陥

 

 篁家当主の証たる「緋焔白霊」を、当主を襲名した直後の唯依が、部外者どころか帝国臣民ですらないユウヤに差し出すという間違いなく異常な事態。

 なによりもたとえ当主とはいえ、唯依の独断で進められていることではないはずだ。そうなると少なくとも篁の親族、場合によっては主家たる崇宰家も関与している可能性がある。先ほどの唯依の言葉ではないが「武家の政治」の一環ともなれば、背景情報に疎い武では意図を慮れない。

 

 ユウヤと唯依との間には何らかの問題があるは間違いない。ただそれが武には推測もできない内容であり、また市井の出身であり一衛士でしかない身の上では、関与できる範疇を超えているようにも思えてしまう。

 結果、頼られたとはいえ、何も解決案を出すこともできず撤退する形となる。

 

「あ~悪い、ちょっとこの後予定あるんで、あとはユウヤ、頑張ってくれ」

「おいッ!? 少しくらいは……」

「夕呼先生、っと香月副指令との面談を予定してるんだ。いやほんとに悪い。というか篁中尉殿は深く考えられた上での決断だろうし、あとはユウヤ、お前自身がどうしたいかくらいだろ?」

「まったく……ちょうどよかったってツラしやがって。わかったよ。ちゃんと話し合ってはみる」

 

 さすがに夕呼の名前を出すと、ユウヤもそれで引き下がる。言い訳ではなく本当に予定があるとなれば、上官たる夕呼を差し置いて私事に感けてもらうわけにもいかない。

 なによりもユウヤ自身、大規模作戦前に唯依と話し合う機会をどこか願っていたようにも見えた。

 

 

 

「で、だ。できれば……」

「判っておる。他家の問題であるが故に口は出せぬが、聞き役としては意味があろう」

 無理を言っているとは分かりつつも、武は横に座っていた冥夜へと一言残す。

 

 冥夜の立場としては、本来ならば一切関与するべきではないはずだ。

 篁家は煌武院家と並ぶ五摂家が一つ崇宰家の譜代である。悠陽の影という立場でなくとも、煌武院家に連なる御剣の者が耳にすべき話ではないし、口を挟めるような内容でもない。ただし、いまは「御剣冥夜」という立場だからこそ、半ば暴走ともいえる唯依の振る舞いを見ているだけでさえ、抑止の意味合いが出来上がってしまう。

 

「じゃあ、本当にワリィな。篁中尉殿にも、お話の途中でありながら席を外す御無礼、ご容赦いただきたく存じます」

「いや。こちらこそ私事で迷惑をかけ、申し訳なく思う。急がれよ」

「はッ! では、失礼いたしますッ!!」

 

 ユウヤと、そして冥夜とに問題を残したままなのは気がかりだが、解決するのは武ではなくユウヤ自身の判断によってだ。それにこれ以上は本当に時間がない。武は、唯依とその後ろに控えている上総へと敬礼し、その場を辞した。

 

 

 

 

 

 

 逃げ出すような形で残してきたユウヤと唯依の問題は気になるが、夕呼を待たすわけにいかないことも確かだ。いつも以上に急いで地下へと降りる。

 

「うおっ!?」

 以前に夕呼から与えられていたキーを用いてエレベータを使い、何の気なしに降りるといきなり銃を突きつけらた。咄嗟に身を守るべくエレベーターのドアに戻りかけるが、相手が見慣れた基地の警備兵の二人だと分かって、ゆっくりと意図しながら足を前に出す。

 

「失礼いたします、少尉殿。このフロアに何か御用がおありですか?」

「あ? あ~香月副指令への面会の予定なんだが……何かあったのか?」

 

 いつもは基地正門を警護が担当のはずの国連軍の兵士二人。それがいまはなぜか地下のエレベータフロアで、武へと手にするアサルトライフルを向けている。手慣れたもので、少しばかり声を大きくし、無理に近寄ってこない。

 確認するといった一人が無線でどこかへ連絡しているが、その際も銃口はブレず視線は武へと向けたままだ。もう一人に至っては、僅かに移動しながら武の死角へと回り込もうとしている。

 

 

 

「申し訳ありません、確認いたしますので……」

「あ、ああ。白銀武少尉だ。所属は……第一中隊のってだけじゃダメか?」

「第一中隊の白銀少尉殿、ですね。了解いたしました。少しそのままお待ちください」

 

 さすがに名乗らずに通れるような雰囲気でもなかったので氏名と階級とは告げるが、A-01の名を出していいのか判らず、中途半端な申告となってしまう。

 ただ警備の兵は慣れた様子で、それだけを復唱する。

 

「はい……はい。了解いたしました。お手数をおかけしました少尉殿。問題は無いようですので、お通り下さい」

「ありがとう。引き続き警戒を頼む」

「もちろんでありますッ!!」

 

 通話と、その先での確認が終わったようで、警備の二人はようやく銃を下げた。

 敬礼とともに先を促されたような形だが、武は構わず簡単に返礼だけしておく。

 

 

 

(随分と警戒されてるけど……社が離れるからか、やっぱり)

 

 いくつかの世界線における記憶を思い出しても、ここまで夕呼の身辺に警備が強化されたことはなかったように思う。

 

 原因として思い浮かぶのは、その類稀なるESP能力によってほぼ絶対の対防諜システムともいえる霞の存在だ。

 霞がどれほどの距離やあるいは他の条件で、不審な存在を感知できるのかどうかまで詳細を武は知らない。それでもその能力がただの警備兵どころか、機械化歩兵装甲を纏った兵士以上に有用だということくらいは理解している。

 

 その防諜の要ともいえる霞だが、数日後の喀什攻略に際しては武たち第一中隊付きCP将校としてXG-70dに搭乗することになってしまった。当然ながら作戦期間中は夕呼の傍を離れることになり、場合によっては戻ってくることも叶わないのだ。

 

 しばらくの間は夕呼にはなにかと不便を強いる形になってしまっているのだろうが、それを覆すためにも霞は何としても帰還させようと、改めて武は誓う。

 

 

 

(まあ、もともとそれなり以上というか下手すりゃ帝都城地下くらいには防衛設備も整ってるんだよな、ここって)

 

 そんなことを考える間にも足は止めない。エレベータホールから夕呼の執務室まではいつも通りに誰とも会わなかったが、あらためて周囲を意識すれば監視カメラの数は多く、しかもそれらには対人用の小口径ではあろうが機関銃ユニットも付随している。

 

「失礼しますッ! 白銀武でありますッ!!」

『煩いわね、さっさと入りなさい』

 

 執務室の前にも警備兵がいるかとも思ったが、そちらには人影がなかった。いらないと言われそうだったがノックとともに名乗り、反応待ってから扉を開ける。

 

 

 

 

 

 

 扉を開け中に入ったものの、夕呼の執務室はなにかモニタ類が増設され、普段以上に雑多な状況だ。一応は応接用のテーブル周辺だけは空間があるが、そちらに座るほどの度胸は武にはない。

 

「で、アンタの用事ってナニかしら?」

「あっと、これです。俺の遺書なんですけど、一応内容的に夕呼先生に見てもらっておいた方がいいんじゃないかと」

 

 話しながら、武は先ほど書き上げた二通の遺書を、執務用のデスクに座ったままの夕呼に渡す。さすがに遺書と聞いて夕呼といえどいつものように種類の山の上にそのまま置くことはなかったが、ひらひらと遊ぶように振ってみせた。

 

「遺書って、ロッカーに残して置いたり、まりもの方に出したりじゃななかったっけ?」

「そっちはそっちで用意してますけど、こっちには他世界線のこととか、本当は自分で伝えなきゃって思ったことまで書いちまったから、確認して貰おうかと思いまして」

 

 冥夜に話していたように、一般向けともいえる遺書はもう出来上がっている。遺しているのは両親に向けた物だけだが、内容的にはありきたりで凡庸になってしまった。この世界線では二人に会っていない上に、直接的な記憶が一切ないのだ。感謝の想いが無いとは言わないが、肉親というには今の武からは意識しにくい。

 そして当然ながら、そちらにはA-01のことは当然、軍務に関しては一切書き記していない。武の死後には形ばかりの検閲が入るだろうが、見られて困るような内容ではない。

 

 

 

「はいはい。ふ~ん? 鑑と、御剣宛、ね。渡す機会があればその時にでも目を通すわ」

「よろしくお願いします。他の連中には、二人から話して貰うようには書き記してます」

 

 武の言葉と記された宛名とで、おおよその内容は予測したのだろう。興味が失せたとばかりに、夕呼は書類の山の上に、わざとらしく積み上げて見せた。

 元207B訓練分隊そして第一小隊の面々に対しては、喀什攻略に巻き込んでしまったという自責の念がどうしてもある。軍人であるからには命令に従うのは道理とはいえ、ここまで無茶な侵攻計画に参加させる一因となってしまったことは、どうしても気がかりなのだ。

 

 本来ならば直接頭を下げつつ詳細を伝えたいが、第四計画どころか夕呼の因果律量子論の研究にも関わることであり、武の立場からは直接説明できないことがいまだ悔やまれてしまう。

 

 

 

「で、用事はこれだけ?」

「ですね。あとはもう作戦の開始を待つだけ、ですか」

 

 差し出した遺書に問題があれば書き直したいが、作戦を前に多忙なはずの夕呼にこれ以上の時間を使って内容を確認してくれとは言い難い。武の死後は、死者への礼として、伝えられない部分には適当に黒で消すくらいの手間は、夕呼にお願いしたい。

 

「ならコーヒーの準備でもして、少し待ちなさい」

「え? いま読んでいただけるんですか?」

 

 興味が無いように書類の上に放り出しているが、待てともとれる命を受けて、武は戸惑う。いまも夕呼は武に目を向けることなく、何やらキーボードを叩きながら書類を作成しているのだ。

 

「そんわけないでしょ。もう少ししたらあの事務次官補殿が来られるのよ。ついでだからアンタも最終確認に付き合いなさい」

「あ~了解しました」

 

 ターニャが来ると言われれば、なるほどコーヒーの用意は必要だ。

 荷物が増えたとはいえ慣れ親しんでしまったこの執務室の給湯エリアで、武は夕呼の邪魔にならぬように、お茶の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

「申し訳ない。少しばかり遅くなったか」

 コーヒーの準備などを整えていると、いつも通りといえる無表情、どこか疲労を感じさせる顔つきでターニャがやってきた。

 

「さて。あらためてというほどではないが我らの目標の最終確認だ。これは『あ号標的』の破壊、で問題はないかね、香月博士?」

 

 応接用のテーブルに着くや否やターニャは挨拶もほどほどに話を始める。

 礼を失すると言われてもおかしくない態度だが、夕呼にしろターニャにしろ時間がないのを双方が理解しているからこそだ。それでも敬礼する武に対してもきれいな返礼を返していたところは、やはりターニャの几帳面さを伺わせる。

 

 そして作戦開始までもはや100時間を切った今、計画の実質的なトップ二人といえど、実のところ変更できるような要素は皆無といってもよい。この会合もむしろ作戦成功後のための話し合いといった意味の方が強いのかもしれない。

 

 

 

 しかしターニャの問いはある意味で今まで確認されずに済まされていたことの一つだ。

 武などは『あ号標的』の破壊こそを目指していたが、なるほど確かに第四計画の本来の目的からすれば接触と情報収集とが優先されるはずだった。そうなれば主広間に入った瞬間に1200mm超水平線砲を撃つことなどは難しい。

 

「対話が可能かどうかは現地、それも『あ号標的』との眼前にまで行かねば不明ですし、現場判断でと申し上げたくはありますが、まずは排除を優先していただいて結構です」

 ただ問われた夕呼はあっさりと破壊を受け入れる。

 

「それは……やはり00ユニットがないから、でしょうか?」

「もちろんそれもあるが、そもそもが対話できたとしても必要な情報が入手できる可能性が低いのではないかと、そう予想している」

「そうですわね。現状、必要とする情報はすでにこちらにありますし」

 

 自然と漏れてしまった武の疑問に、二人して簡単に答えてくれる。

 淹れられたコーヒーのその香りを楽しむかのように、ターニャはカップで口元を隠しながらではあるが、説明を加えた。同じく夕呼も新しい情報には期待していないようで、軽く頷いていた。

 

 

 

「たしかに00ユニットがあったとしても、目新しい話は聞けそうにはありませんね」

 言われてみれば当然だと、武も納得する。

 

 本来の第四計画としては、炭素系生物を生物と見做していないBETAとの接触を図るべく、「生物根拠0生体反応0」たる非炭素系の疑似生命体としての00ユニットをBETAとのコミュニケーション・ツールとして運用しBETAの情報を得ることが目標だった。

 しかしこれは先の世界線で『あ号標的』と接触し曲がりなりにも会話を成立させた武の記憶と、何よりも「原作知識」と言い切るターニャからの情報とで、すでに完了しているといってよい。

 

 もちろん00ユニットをODLを介して反応炉、つまりは頭脳級へと接続して各ハイヴ地下茎の詳細な地形情報や、さらには各種BETA群の分布状況などが把握できるならば素晴らしいが、喀什さえ堕としてしまえばそれすらも必須の情報とは言えなくなる。

 重頭脳級たる『あ号標的』が消失すれば、ハイヴ間の情報連結は無くなる。もとより学習速度の遅いBETAだ。各ハイヴの頭脳級単体では新たな種や戦術の発生は無視できる程度だろう。

 そこにXG-70の量産と戦術機戦力の拡張とが重なれば、G弾抜きでのハイヴ攻略さえも現実味を増す。

 

 

 

「あとは……そうだな。予測というよりかは妄想の範疇ではあるが、どのように接触してもBETAからは奴らが『創造主』と呼ぶ存在、シリコニアンへと直接コンタクトを取ることは困難だと思われる。無論、奴らの本星と言えるべき場所を特定することは将来的には可能だろうがね」

 

 おそらくは原作知識なのだろう。ターニャは人類がシリコニアンの支配する恒星系の場所を把握できるとほぼ断言する。ただその上で、喀什の『あ号標的』からの情報には期待していないようにも見受けられた。

 

「白銀、貴様は珪素系生物であると予測されるBETAの『創造主』が知的生命体であると考えられるか?」

「え……はい、形状や生態などはまったく予測できませんが、知性を持つ生物であろうとは考えております」

 

 いきなりのターニャからの問いだったが、そこには疑問がない。岩の塊なのか機械の動物のようなものなのかさえ判らないし、もしかすれば惑星そのものが意識を持っているとしても驚かない。BETAのような土木機械を銀河系規模に展開しているらしいのだ。個体なのか群体なのかさえ判らないが、知的生命体であることは間違いない。

 

「つまりだ。貴様程度の知性であっても、珪素系知的生命体が存在することに疑問を挟まないのだ。どれほどの時を経ているのかわからぬが、『創造主』とやらが炭素系知的生命体、いや炭素系の生命体が存在しないなどと判断すること自体が異常だ。ここまでは良いか?」

「はい。問題ありません」

「ならばなぜ、BETAは炭素系生命体を否定するのか、ということこそが問題となる」

 

 そこまで告げられてターニャの言わんとすること、そして先が鈍い武にもようやく理解が追い付いた。

 

 

 

「え~、っと、つまりは『創造主』とやらは炭素系生命体の存在は予測、あるいは認識している、と。そしてそれを理解していながらも、BETAには炭素系は生命ではない、と命令しているということですか?」

「ただ自立機械のエラーを事前に予防するため、暴走の危険を排除するために、炭素系を基とするBETA群には自身を含めそれらを生命だと認識しないようにしている、という考えは妥当かと思われますわ」

「光速を超えて銀河全域へと広がるとなれば、やはり事故は発生する可能性はある。それらを予防する方策としては理解もできる。まあしかしAIの、ロボットの反乱など、ありふれたSFの題材ではあるが、ね?」

 

 どこか哂うようにターニャはコーヒーを含みながら、武の予測と夕呼の補足とを淡々と受け入れる。その言葉通りにロボットの反乱など陳腐な題材だ。それなりの自己判断能力を持つであろう重頭脳級に対して、創造主とやらがある程度のストッパーを仕込んでいてもおかしな話ではない。

 

「造物主への反乱など、それこそ神話以来の伝統とも言えます」

「はっ、神などすべからく滅び、忘れ去られてしまうべきだな。ならばあの土木機械たるBETAどもにも知性を持って『創造主』へと立ち向かってもらいたいところだ」

 

 創造主ではなく神という概念に思うところがあるのか、ターニャは一瞬で機嫌を損ね、吐き捨てるように言い放つ。

 

 

 

「まあ繰り返すが、妄想の類だ。ただそうであれば我らからすれば脅威であっても末端でしかない重頭脳級対手に対話を持ちかける意味は薄い。またBETA側から『創造主』への連絡というのは非常に限られていてもおかしくはない。むしろ業務報告を上げるだけの一方向や、そもそも連絡手段がない可能性もある」

 自身がらしくもなく怒りを露にしたことをどこか恥じるように、ターニャはふたたびゆっくりとコーヒーを含み、仮定の話だとした上で、さらに推測を重ねる。

 

「つまるところ、シリコニアン本星の情報を得るならば00ユニットに等しい程度のリーディング能力なども必要だろうが、今はまだその段階ではない。火星のマーズゼロか、あるいは土星圏攻略の際でも十分に間に合うだろう」

「XGシリーズの戦力化と量産……その先の航宙艦、いえ月軌道のその先、惑星間航行可能な要塞艦とでもいうべき物が出来上がってからの話ですわね」

 

 夕呼が先を予想したように言葉を挟む。

 それがどれほど先の話かは武には想像もできないが、ターニャの言いようからして他世界線ではそこまで達成したこともあるのだろう。

 

 そして当たり前だが、第五計画の一環であるバーナードへの移民計画と違って、急ぐ話ではない。シリコニアン本星へと恒星間を渡るよりも前に、太陽系内のBETAを排除し、安全を確保しておくことが優先されることは当然ともいえる。

 

 なによりもまずは喀什、そしてその後は地球上のハイヴを排除し、月から火星へと進むことになるのだろう。それに要する年月を考えれば、さすがにこの世界であっても各種の電算機器技術も発達し、夕呼が求めた性能を持つCPUも生産できるはずだ。その頃になれば別に人間を基にした00ユニットではなく、ゼロから構築した珪素系疑似知性体すらも開発できているかもしれない。

 

 

 

「ははは、想像はできなくはありませんが、まさに『夢の21世紀』といった感じですね」

 

 地球をバックに幾千もの宇宙戦艦がずらりと並ぶ。もはやそれは武にしてみればEX世界線で馴染んでいたSFアニメなどの様相だ。なんとなくは思い浮かべられるが、文字通りに「未来の世界」という物で、空想の範疇でしかない。

 やはり自分は一戦術機衛士なのだろうとあらためて意識する。XG-70の砲主兼操縦士ならば何とか務められたが、それを艦隊規模で運用する立場にいる自分など思い描けない。そしてなによりも、それほどの戦力を整えるに至る具体的な道筋などは考えようもない。

 その道筋が想像できないということから、自分には軍政や政治への適性がないことが判ってしまう。

 

「なに、先の話だ。今は喀什の攻略、あのクソったれな『あ号標的』の破壊だ。まあその後も楽観できるわけではないがね」

 

 ターニャのその言葉は武に向けての形ではあったが、どこか自身を戒めるようにも聞こえた。

 

 

 

 たしかに喀什を墜とせれば地球上のBETAの相互連絡能力は消失するかもしれない。だが、それが即座に前線国家の負担軽減となるわけではない。

 喀什の重頭脳級を失ったからといって、末端の各ハイヴにおけるBETAの生成能力が減少するわけではないだろう。そしていままさにハイヴから湧き出すように増え続けているBETAの物量に対して、人類は満足な対応が取れていない。

 XM3を搭載した第三世代戦術機に、戦略航空機動要塞と分類されるXG-70、そしてG弾とが揃ってようやくハイヴ攻略の目途が立っている程度だ。今回の喀什攻略に匹敵するほどの戦力を再度編成するには、人類側の生産能力の限界もあるが、政治的な困難さえも立ちふさがる。

 

「なによりも現状ではG元素の入手が安定しない。結局はあの土木機械共頼りの略奪戦略というのが問題だ」

 

 G弾ほどではないのだろうが、ML機関によって稼働しているXG-70シリーズもG元素を消費する。ある程度定期的に「アトリエ」を制圧して各種のG元素を入手しなければ、動くことさえできなくなる。

 

 

 

「場合によっては攻略しやすいハイヴ、その頭脳級を破壊せずにを管理することさえ視野には入れておくべきでしょう」

「そうだな。いくつかのハイヴは『鉱山』として維持する方向には進むだろう」

「は、ははは……ハイヴが鉱山、ですか」

 

 ターニャと夕呼にしてみれば既定の路線なのかもしれないが、武はその未来に対して乾いた笑いでしか対応できない。

 

 各種のG元素はいまだ人類の手では生成できない。将来的には可能になるかもしれないが、今のところ入手するにはハイヴを攻略し「アトリエ」から奪い取ってくるしかない。

 そして「鉱山の管理」とは言うが、誰が管理するのかという問題が当然沸き起こるはずだ。ハイヴ攻略が現実化してしまえば、あとは人類同士の資源獲得戦争となることも、二人にとってみれば想定の範疇なのだろう。

 

(まったく……F-22があんな性能と機能を持ってるってのは、そこまで見越してのことか)

 

 とくに合衆国はその国土を侵攻されていないということは、つまるところ領土内にハイヴを持たないという意味でもある。そして地球上のハイヴの多くは東側諸国の領土内だ。

 敵対国家の領土内に侵攻しBETA支配地域を踏破、さらにはハイヴ地下茎への侵入と「アトリエ」の制圧、そこからの撤退までを考慮するならば、それが実現可能かどうかはさておきF-22の仕様もなるほどと理解できる。

 

 

 

「だからだ、先の話だと言っている。頭脳級の『安全』な管理など予測も付かぬし、何よりもそこに至る戦力の再編には時間がかかろう」

 

 そんな武の、まさに妄想じみた考えを読み取ったのか、ターニャは薄く笑って先の話だとわざとらしく重ねて告げる。その言葉を夕呼も否定はしない。

 

 ただターニャと夕呼の二人は、すでに「BETA大戦後」を見越して動き始めていることは、武にも判ってしまった。

 

 

 

 

 

 




兵力的にはベリーイージーになるくらいには用意したはずという感じで、デグさん的にはもう勝ったつもりになりつつありますが、喀什攻略はそろそろ次回からです。なので最終ブリーフィングのはずが、いろいろと妄想戦後プランです。
まあマブラヴ二次でよくある(?)かんじに間引き作戦を拡大する形でのアトリエ強襲を定期的に繰り返すことでのG元素略奪計画はあるだろうなぁ、と。

あと基地正門警備のお二人は、ここで出さないともう機会がないのでちょろっと顔出しです。


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