Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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職掌の皆既 02/02/10

 

 カムチャツカでの前線任務は、結局三週間程におよんだ。

 最前線、それも極東ソ連軍が防衛線と設定しているラインを超えた地域だが、それでも日々BETAが進行してくるというわけではない。むしろBTEAとの接触は散発的ともいえる程度ではあったが、それが逆に緊張を緩めることを許さなかった。

 そんな中で可能な限りの実動訓練と、場合によっては単独侵攻じみた襲撃などを織り込みつつ、A-01は名目上の任務である弐型の「実戦運用試験」を繰り返した。

 

 さらに日々少なくとも一個小隊4機、多い場合は中隊規模の12機が、前線拠点として駐屯していたマニリからペトロパブロフスク・カムチャツキー基地へと送り返され、同数が戻ってくるということを織り込まれた。

 それによって意図的に隊内の欠員を作り出すだけでなく、直線距離にして1000km超、間に中央山脈と東山脈とが並列する地域を飛ぶことで長距離侵攻の演習を重ねた。さすがに標高4000mを超える半島最高峰のクリュチェフスカヤ山を通過することはなかったが、峻厳な山々の合間を可能な限り低空で通過させられるという、むしろ実戦よりも厳しい操作を求められるルートがいつも指定されていた。

 

 ペトロパブロフスク・カムチャツキー基地に戻った際にはそれなりの時間の休息が与えられたが、日々更新される運用データを待ち構えている整備と開発の者たちからの質問からは逃れられなかった。なによりも帝国のみならず合衆国本土からボーニングの開発関係者までがペトロパブロフスク・カムチャツキー基地に訪れており、XFJ計画の開発拠点がユーコン基地から移籍したような状況となっていた。

 

 

 

 そのような無理を詰め込んだ日々だったが、それに応じた成果はあった。

 実質的な連隊指揮官となったターニャだけは時折浮かべる作り物の嘲笑以外は無表情のままに、それでいて嬉々とした様子で衛士たちを扱き上げ、足りぬと言われていた連隊規模での連携練度を可能な限り高めていった。

 

 ジャール大隊へのXM1関連の教導ともいえる合同作戦も、当初こそ細かな軋轢はあったものの、短い時間ではあったが必要最低限のことは伝授できたはずだ。実戦経験の豊富な部隊だ。あとは彼ら自身が、隊の運用に応じて最適化していくことになるだろう。

 

 A-01の個々の練度に関しては、もとより新人の多い第一大隊以外は卓越している。XM3のコンボを十二分に活用するならば搭乗時間を積み上げてデータを蓄積させていくしかないが、この短時間でできる限りは煮詰められたはずだ。

 

 なによりも幸いに事に、A-01には一切の人的損失がなかった。

 光線属種のいない戦場とはいえ不慮の事態は当然あり得たが、機体の損耗はともかくも、衛士に至っては軽傷者が数名出ただけだ。それも戦術機搭乗時ではなく、日々の鍛錬の際のほうが多いくらいだった。

 

 

 

 そしてそのカムチャツカの最前線から、白陵基地へと帰還してすでに数日。酷使した機体を整備に任せ、いくつのか報告書を各自が仕上げた後、A-01全体に72時間の休暇が与えられた。

 隊内に詳細な説明はいまだされていないが、それが大規模作戦前の最後の休暇だということくらいは、言われずとも誰もが気付いていた。実家が残っている者の多くは、今は基地を離れ帰郷している。

 

 同じA-01に属するとはいえ整備の者たちはいまが最も忙しいが、それは逆に言えば作戦開始後には休暇が予定されているということだ。今だけは寝食を忘れる勢いで、各機のオーバーホールを進めていた。

 

 他部隊においても喀什攻略に向けての準備は進んでいるのだろうが、末端から見れば参加予定部隊の訓練密度が上がった程度だ。この白陵基地においては実戦経験のある兵士や、一部の勘の良い者たちは何らかの大規模作戦が予定されていると警戒しているようだが、その数は少ない。九州の防衛がまがりなりにも成功したこともあり、基地内の緊張はどうしても解けてしまっている。

 

 

 

 そんな微妙な緊迫感の違いがある白陵基地の、第一中隊に宛がわれているハンガーの片隅で、武は先ほどからペンを走らせていた。

 

 一応はA-01の全衛士へ休暇が申し出されているために、普段の事務室が使いにくいというのもあるが、今書いているのは特に他の資料が必要となる物でもない。時折整備の者たちから質問が投げられることもあるが、榊たちが以前よりいくつか飲料などを用意していたために、この場所は何かと便利だった。

 

「前にも聞いたけど、さ。御剣の屋敷に帰らなくても良かったのか?」

「ふふ、前にも答えたが、別れは済ませてあるからな。いまはここで良い」

 

 武同様に基地に残っていた冥夜も軽く鍛錬を済ませた後に、この場に来ていた。もはや処理するような書類仕事など残ってはいるわけではないが、かといって他にせねばならなこともない。

 与えられた時間を慈しむように、冥夜は武の前に静かに座っていた。

 

 

 

「そういえば、使ってくれているのだな」

「ん? ああ、これか。普段の事務仕事には使うのがもったいないが、こういう時には、な」

「良い物ではあろうが、道具だぞ? 日々使ってくれるほうが嬉しいのだがな」

「さすがにそこまで図太くはなれねぇよ」

 

 軽く笑いながらも、何とか文字を書き連ねていく。

 いま武が使っているのは、昨年誕生日のプレゼントとして冥夜から贈られた万年筆だった。あまりにも高価な物なので仕事用に使うには気が引けていたが、今書いている物には最も適していると思って使っていたのだ。

 

「それで? 何を書いているのか尋ねても良いか?」

「あ~遺しておこうかと思ってる手紙の一つ、ってところだが……」

 

 その遺しておくべき相手である冥夜を前にして話すのもおかしく思うが、内容には触れず遺書の類だとだけは軽く伝える。

 

 

 

「聞くべきではなかったか。許すがよい」

「いやこんな場所で書いてる俺のほうがあまり良くねぇから、気にするな」

「だが遺書といえば、其方、大尉殿に提出していたのではないのか?」

「あっちは当たり障りのないヤツだな。こっちはちょっと内容が内容になりそうなので、この後夕呼先生に添削してもらう予定だ」

 

 そこまで言えば冥夜もある程度内容を察したのか、機密に属することかと目を伏せて冥夜は重ねて詫びる。とはいえさすがに他世界線や武の複数の経験など、遺書とはいえそのまま伝えても良いことかどうかなど武自身には決定できず、夕呼の判断を仰ぐ必要はある。

 

 だがやはり冥夜と純夏にはある程度事情を伝えておきたいとは思い筆を執った。もちろん、皆が生き残ることができれば秘したままにしておくつもりではあるが、自身が死んだ後くらいには巻き込んだ形になるのだから、説明くらいはしておこうという心積もりだった。

 

 武が死んでも、冥夜が生き残ってくれる可能性もなくはない。

 ターニャが直接作戦に参加することになったこともあり、場合によっては前線に出たという体を取るためだけに喀什には降りるが、直後に装甲連絡体で軌道上に戻るということもあり得る。あとはそこに同乗してくれれば、冥夜の生存の可能性は極めて高くなる。

 

 そこからはしばらく武は静かに筆を進める。むろん周囲は整備の喧騒に塗れているのだが、不思議と周辺だけは騒乱から離れていた。

 

 

 

 

 

 

「ああ、よかった。やっぱりこっちにいたか」

「ん、ユウヤか? ッ、失礼いたしましたッ!!」

 

 背後から声をかけられ聞きなれた慣れたその声に軽く応えたが、静かに立ち上がり敬礼する冥夜を見て振り返って驚きとともに立ち上がる。国連軍のBDUを着たユウヤの後ろには、黄色の斯衛制服に身を包んだ唯依と、白の女性士官がいた。

 

 衛士同士ならばさほど階級差は意識されないとはいえ他軍に属する上官、それも規律に厳しい斯衛の士官を前にしてだらしのない姿は見せられない。椅子を蹴倒すような勢いで起立し、できる限り背筋を伸ばして敬礼する。

 

「楽にしたまえ、少尉。休暇中だと聞いたぞ」

「はッ!! 失礼いたしますッ!!」

 

 唯依の言葉に従って敬礼を解こうとする武と冥夜だが、後ろにいる斯衛士官が敬礼ではなく膝を付き首を垂れていることから、どうしてもその動きに礼を崩さぬため動きが鈍い。

 

 

 

「と、……あの、そちらは?」

「ああ……わたしの副官に就いてもらった山城少尉なのだが……山城少尉、立ちたまえ」

「は、い、いえ、しかしながらっ!?」

「こちらはXM3や弐型の開発に協力いただいた国連軍衛士の白銀少尉と御剣少尉だ」

「ッ!? し、失礼いたしましたッ、帝国斯衛軍所属、山城上総少尉でありますッ!!」

 

 いつかどこかで見たなぁと武が意識を飛ばしそうになるが、あらためて山城上総と名乗った白の女性士官に冥夜ともどもに答礼する。年齢的には武や唯依たちと同じくらいに見えるが、少尉ということであれば、まちがいなく彼女のほうが先任である。

 聞くべきか沈黙すべきかという逡巡を一瞬現したようだが、そこはやはり白とはいえ武家の者だ。一切の意識を切り替えて無表情を保つ。

 

 三人に席を勧めるが、上総は丁寧に礼を解き、一歩下がって立ったままに陰に徹する。すこしばかり離れた位置から護衛している真那たちのことにも気が付いているのだろうが、視線を飛ばすようなことはしない。

 

 

 

「中尉殿、斯衛にお戻りになられたのですか?」

「ん? ああ、そういえば少尉には伝えていなかったか。貴君らの働きもあって、弐型が斯衛に採用されることがほぼ確定した。それに合わせて少しばかり早いが、原隊に復帰した」

「それは、おめでとうございます」

「ふふ、XFJ計画としてはいまだ不透明ではあるが、ありがたく受け取っておこう」

 

 代替コーヒーではあるが唯依とユウヤとにカップを用意し、当たり障りのないところから武は話を聞き始める。そして褒めるところかどうか判断しにくいが、とりあえずPhase2仕様の弐型として採用されたということは、唯依たちが目指したものが評価されたことは間違いない。

 

「今現在試験採用されている108機の内、72機は次の作戦に投入される。残りの一個大隊分でしばらくは運用試験を進めるが、先日来よりそちらから提示されたデータもあり、まず採用が覆ることはないはずだ。正式に感謝を告げることは難しいが、関係した方々には言伝を頼みたい」

「承りました」

 

 A-01がカムチャツカで積み重ねたデータは、各衛士のデータこそ秘匿しているものの、機体側のものは各メーカーや帝国技術廠へと提出している。当然に、おなじく試験運用中の斯衛にも流れていたのだろう。

 そして斯衛といえど、いやむしろ帝国国内にしか原則展開しない斯衛であればこそ、あれほど短時間での集中的な機体運用は難しい。機体数の差はあれどデータとしては数倍するものが、A-01から斯衛に提供されたはずだ。

 

 

 

「それに合わせて、武御雷の追加生産は一時的に止める。白が拝領しているA型は全機予備機としC型を回し、いまC型に乗っている黒の者たちには弐型を優先的に受け渡す」

「……なるほど」

 

 弐型を採用するとなれば、立ち位置の近く、また生産性や整備性の低い武御雷はたしかに無理をして生産を続ける意味が薄い。A型はFやR型の予備パーツとして扱い、今後主力となる不知火・弐型を急ぎ配備していく形のようだ。

 

「加えて瑞鶴の一部にはMk-57を主兵装として、支援砲撃任務に充てることになりそうだ」

「ああ、そちらの噂は耳にしておりましたが、決定しましたか」

「第16大隊の、というよりは崇継様のご意向が大きいようだが、こちらもほぼ確定している。舞鶴を中心として日本海側から京を護ることを考えれば、既存の斯衛の砲戦力だけではやはり機動性に欠けるとのご判断らしい」

 

 巌谷から話は聞いていたが、崇継は本当に戦術機を砲兵化して運用するようだ。

 

 

 

 京都から南西を防衛するだけであれば機甲戦力を展開できる土地もなくはないが、これが日本海側となると十分な平地がない。そして斯衛はその名の通りに近衛軍ではあるが、今の帝都城だけではなく、もとより京都守護の意識が強い。散発的とはいえ丹後や豊岡への上陸を見逃せるはずもなく、なによりも若狭湾から舞鶴や小浜への侵攻など許すわけにはいかない。

 

「先の防衛線においては、散発的な上陸に際し飛び回っていたともお聞きいたします。たしかに射程は短く投射火力も低いとはいえ、Mk-57での支援があれば前線の衛士の負担は軽減できるかと」

「無論、その分正面戦力は欠くことになるのだがな」

 

 当たり前だが長砲身とは言え57mmでしかないMk-57では、速射性はともかくも155mmなどの迫撃砲に比するほどの射程もなければ制圧能力は欠ける。それでも戦術機が携帯できるということは、山岳部であっても砲戦力を展開できるのだ。山がちな日本海側の防衛という面では、取りうる選択肢として最良と言えなくもない。

 問題は苦笑気味に告げた唯依の言葉ではないが、それまで前線に上げていた機体のいくつかを後方に下げることになるのだが、単位時間当たりの投射火力は増加するはずだった。

 

 

 

 

 

 

「まあType Secondが斯衛にとはいえ採用されるのはうれしいんだが、その話は別としてだ、タケル……」

「っておい、ユウヤが戦術機の話を別にするって、どういうことだ? 悪いモンでも食ったか?」

「うるせぇよ。ともかくも、こっちのユイを止めてくれ」

「いやぁ、状況がまったく判らねぇ……」

 

 何か議論に疲れたのか、ユウヤが崩れるように椅子に座っていた。唯依との間で何かもめていたことだけは武にも判ったが、問題そのものはまったく見えてこない。

 

「次の作戦に於いて、ブリッジスにはこの『緋焔白霊』を持って戦陣に立ってくれと願い出たのだが、このように頑なに拒まれてな」

「……は? い、いえっ、失礼いたしましたッ!!」

 

 項垂れているユウヤに代わり唯依が説明するが、その意味が武の頭に染み渡るまで僅かの時間を要し、そして理解できた瞬間に礼を失して叫んでしまった。当然、声には出していないが隣に座る冥夜も驚きでかすかにだが目を開いている。

 呆れた様子を隠そうとしなくなっているのは、副官と紹介されてままに、後ろに立つ上総だけだった。

 

 

 

「失礼ながら、その刀は篁家のご当主の証では?」

「そうだが……こちらも伝わっていなかったか。先日我が父、篁祐唯は篁家当主を退き、いまは私が篁家当主だ」

「それ、は……おめでとうございます」

 

 篁祐唯は巌谷と一緒に帝国軍・民間企業合同の戦術機開発である『曙計画』に関与していた人物だ。年齢的には当主を退く理由などなく、また病に侵されているなどという話も聞いたことがない。それでいて当主が唯依に代わったということは、何らかの思惑が武にも透けて見えてしまう。

 

「なに、いろいろと武家の中での政治絡みだ」

「失礼ながら、XFJ計画における中尉殿の功績が認められたものだと推察いたします」

「なるほど……言われてみれば当然ですね。帝国陸軍ではなくとも、斯衛の次期主力としての採用であれば、実績としては計り知れぬほどに大きい」

 

 礼を失する形ではあるが、後ろから上総が口を挟む。上官があまりに自身を卑下するようであるから、思わずといった形だ。ただ述べられた言葉は納得のいくものではある。

 瑞鶴開発に関わったという祐唯の功績も大きいが、弐型の開発というのもそれに劣るものではない。

 

 

 

「ですが……そうであれば、なおさらその『緋焔白霊』をユウヤに預けると言うのは……」

「む……たしかに、一見ではおかしな話ではあるかもしれぬが……」

 

 武は武家とは縁も所縁もないが、武家においての当主の証たる刀の意味合いくらいは薄々感じている。当たり前だが容易く第三者に貸与するような物ではないはずなのだ。それを踏まえて諫めるような口調になってはしまうが、応える唯依もまた歯切れが悪い。

 

「いろいろと身内の恥もあるのだが、それは別としても、だ。次の作戦に於いて斑鳩様からは真壁介六郎殿が斯衛派遣軍の前線指揮官を拝命したとことは聞いているか?」

「え、ええ……そのようには伝え聞いております、が」

「煌武院様からは月詠真那殿が国連軍付きとして参加される。だが、崇宰は他三家同様に表向きには人員の直接的な参与は辞退している」

「は、あ……?」

 

 唯依の話がどう流れるのかが読めず、非礼な返答になってしまうが、ある意味で仕方がない。唯依自身もどう伝えれば良いのか、考えあぐねているようだ。

 

 

 

「公式には斯衛の派遣軍の大多数に弐型が配備されること、そして貴様ら在日国連軍においても一部で運用されることで、篁ひいては崇宰は此度の作戦に多大な関与を果たしているということにされた」

「実際、数名の衛士を送るよりも、大きな成果だとは思われますが……」

「たしかにな。だが、私が当主となった要因の一つは、作戦に直接参加することを思い留めるためであることもまた間違いない。五摂家のご当主方は当然、真壁殿にしても月詠殿にしても、あくまで次代の方々。篁家当主となった私が出るようでは、下々の活躍の場を奪うことになると遠回しに諫められたよ」

「ああ、弐型の採用実績が大きすぎた、と」

「そういうことだ」

 

 苦笑気味に吐き捨てるように唯依は言うが、なるほどたしかに武家の政治だ。

 帝国の、というよりも将軍守護を目的とする斯衛である。もとよりも防衛戦でしか戦場の機会に乏しく、それさえも帝国陸軍の後詰という形になることが予測されている。今予定されている喀什攻略ほどの大規模作戦などそうそう企図されるはずもなく、そこに加わるだけでも名誉なことと見做されるのだろう。たとえ作戦が失敗して喀什の現地で死ぬことになったとしても、むしろ誉として扱われる。ならば対立する他家からすれば、もとより参加させないというのは政略として正しく判りやすい。

 

 

 

「……失礼ながらブリッジス少尉。お聞きいたしたいのですが、よろしいですか?」

 静かにやり取りを聞いていた冥夜が、珍しいことに口を挟む。

 

「ん? 武家とかどうとか俺は本当に判らねぇんだけど、なんだ?」

「家と対立するという心持が私には理解しにくいのだがそれは別として、少尉はブリッジス家とは縁を切っているのか? いや本当に家を捨てたいと考えておられるのか?」

「そっ、それはだなッ、あ……いや。まだはっきりとは、決めかねてねぇ……母さんが実はまだ生きていて、隔離されてはいるが療養中だって話も耳にしたし、な」

 

 武としては冥夜の問うた言葉の意味が理解できないが、それはユウヤも同じらしい。辿々しくも応えてはいるが、言葉はおぼついていない。むしろ唯依のほうが納得する部分があるのか、今ははっきりと顔を上げている。

 

「ふむ……他家のことに口を出すものではないとは思いますが、まずはそこをはっきりとさせておくべきかと思われます。関係を改善する意思があるのか、あるいは断つつもりなのか。作戦参加まで時間がないとはいえ、御実家に対し明瞭な意思表示はしておくべきでしょう」

「どういうことだ?」

「次の作戦が成功するにせよ失敗に終わるにせよ、参加した将兵、特に現地に赴いた衛士には政治的価値が生まれてしまいます」

「まあ……そりゃあそうだろうな」

 

 なんといってもパレオロゴス作戦に続く、大反抗作戦だ。そしてパレオロゴスと違ってあくまで主力は戦術機、それも大規模な戦術機部隊の投射といえど1200機ほどのものであり、当然喀什に降りるのはその程度の人数だ。内合衆国は400人程度であり、当然ながらそこに含まれた者は作戦後にはまちがいなく英雄視される。

 唯依が作戦への参加を遠回しに拒否される理由でもあり、また冥夜が現地で死ぬかあるいは消息不明になることを期待されている要因でもある。

 

 

 

「ただ……そう、だな。どちらにせよ今決断しないのであれば、その『緋焔白霊』は預かったうえで作戦に参加するのが良かろう」

 口調を戻し、冥夜は断言する。

 

「何でそうなるんだよ?」

「それを持っていれば、ブリッジス少尉にとって、作戦後の身の振り用に幅ができるであろう、とそう予測するからだ。だが、これ以上はさすがに踏み込みすぎることゆえに、我らとではなく篁殿と今少しばかりは話し合うがよかろう」

「ご助言、誠にありがとう存じます。深く感謝を」

 

 理解が追い付いていないユウヤを横にも唯依は席を立ち、深々と頭を下げる。

 

「いえ中尉殿、失礼いたしました。差し出がましいことを口に乗せてしまいました。ご容赦を」

「身内の恥ともいえることにまで御配慮頂き、恐悦至極に存じます」

 

 冥夜も立ち上がり軽く頭を下げるが、唯依はそれでも頭を上げずに言葉を紡ぐ。後ろに控えていた上総もあらためて頭を下げていた。

 

 

 

「で、よ。タケル、お前何か判った?」

「いや、まったく判らねぇ……」

 

 どうやら武家の女子の間では理解が深まったようだが、男二人は取り残されたままだ。

 

「ふむ……どうやら白銀には、私から皆琉神威を渡しておくべきか?」

「それは本当にやめてくれ。そうなったら間違いなく作戦前に首と胴体が生き別れになる」

「なるほど。一考しておこう」

 

 空気を換えるように冥夜が笑いながらも、わざとらしいまでに軽く言ってくれる。が、本当に皆琉神威を手渡させるようなことにでもなれば、武の立場など文字通りに吹き飛ばされてしまいそうではあった。

 

 

 

 

 

 




MODEROIDから士魂号 単座型が出ますがやはり欲しいのは複座型だろうとか、ネタ元たるそれを踏まえて武御雷を複座化しての背中にミサイル大量に背負って長刀二本持ちでの強襲とか考えてしまいましたが、さすがにそっち方向ではいろいろ破綻するのでなかったことにしています。

で、一応今回でTE関連はだいたい片が付いたはず? はっきりとは書かない方向ですが、唯依パパの篁祐唯のヤラカシが各方面に発覚してユウヤの政治的価値が高まってしまいましたが、逆にミラ母さん(とハイネマン)のヤラカシが大きすぎて結局使えねぇんじゃないかとかいう流れが裏であるんだろうなぁと思いながらも、バッサリ切ってます。

次回からは喀什直前でさすがにそろそろ終わりが見えるはずです。


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