Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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閑却の桎梏 02/01/03

 

 巌谷の来訪から、開けて1月3日。三箇日ということでいまだ政府も軍も休みではあったが、武たちには関係が無かった。

 昨日、電磁投射砲とともに持ち込まれた87式支援突撃砲の銃剣用の『試製02式近接戦闘中刀』、その運用試験のために朝から訓練場で武御雷を駆っていた。

 

 午前中に二時間、昼食時も近付いてきたためにほど軽く試した程度であったが、大まかな実感は得た。

 二機の武御雷を整備班に預け、また02式中刀を装備した87式支援突撃砲は武と冥夜とが使用した物をそれぞれ一門ずつ、分解整備に近い検査整備を依頼はしておいた。A-01全隊を賄える程度には数を用意して貰っているので、午後からはまた別の物を使っての試験となる。

 

「これは確かに、巌谷中佐殿が渋い顔をなさるわけだ」

「あまり否定的には捉えたくはないが、私も同意見と言わねばならんな」

 

 昼食を取るためにPXへと向かう二人だったが、武だけでなく冥夜も表情は暗い。

 

 細かな報告書などの作成は、午後にもう少しばかり使ってからになりそうだが、昨日の巌谷の言葉通りに、使い勝手の良い兵装でなくなっていることは間違いなかった。

 軍において数少ない娯楽とも言える食事に向かっているのに、その足取りもどうしても重くなってしまう。

 

 ガンブレードなどと言う創作物での妄想じみた物、勝手な願望を並べ立てたということは武自身も自覚はしている。だがそれでも思っていた以上に使いにくのだ。

 

 

 

「肩部のウィンチが逆に邪魔になるとはなぁ」

「通常の87式突撃砲ならば、銃剣を付けたとしても基本は突くだけであったからな。ワイヤーの長さなど負担ともなっておらなんだか」

「斬り払うとしても機体に取り付いた戦車級相手だから……振り回すってことが無かったから気にしてなかったよ」

 

 ターニャの発案だったが、今の帝国軍では突撃砲の懸架補助としてほぼすべての戦術機には、肩部にウィンチが増設されている。

 

 歩兵用のスリング同様に、マガジンの交換時の安定性や、近接戦闘時に長刀を取り回しつつも突撃砲を手放さないための補助装置だったが、衛士からはかなりの好感触を得ているとは聞いている。

 僅かなりとはいえ機体重量の増大はあるが、それも無視できる程度だ。最大戦速での機動の際などは、風圧でかなりの負担がウィンチ基部にもかかるとは言うが、こちらも許容の範囲である。むしろワイヤーに風を当らないように突撃砲を構えた方が、以前の飛行時のポジションよりも機体全体での空力特性も向上するとあって、こちらもまた衛士には好評らしい。

 

 だが当然と言えば当然なのだが、これらは74式長刀には使用されない。

 長刀を肩部ウィンチからぶら下げる必要性がそもそも少ない上に、下手に繋いでしまえば取り回しを困難にするだけだった。歩行用のステッキなどのように手首周辺で軽く結わえるならば意味はあるかもしれないが、わざわざ増設するほどの利点も見いだせない。

 

 

 

 そして試製02式中刀を装着した支援突撃砲は、その全長から74式長刀の代替として、なかば妄想じみた願望から生み出されたものだった。

 問題は、支援突撃砲として利用するならば銃身バランスの悪化を少しでも軽減するためにワイヤーでの懸架が望ましいが、これを近接兵装として刀の如く振り回すのであれば、そのワイヤーが邪魔になるという点だ。

 一々着け外すようならば、そもそも射撃から近接格闘へのスムーズな移行を企図して装着する銃剣の意味がなくなる。

 

 歩兵であればスリングの少々のズレなどは直すことも容易く、長めのライフルであっても銃剣を振り回せたのであろうが、人型とはいえ戦術機ではそこまで細かな制御は困難を極める。

 

「中刀付けた支援突撃砲はウィンチを使わないってすりゃあ単純には解決できるんだが……」

「そうしたとしても、近接兵装としての重心の悪さは変わるまい」

「だよなぁ……そもそもが前に重すぎるんだよな」

 

 巌谷も問題視していたが、02式中刀と支援突撃砲との組み合わせは、何よりも重量バランスが悪い。中刀とはいえ短い刀身で斬撃性を高めるためなのか、かなりのフロントヘビーで突撃砲としての取り回しが非常に難しくなっている。

 中華製の77式長刀のようにその自重で敵を切断する設計思想なのだろうが、これが武御雷など既存の帝国製戦術機の近接機動とは大きく異なっているために挙動データが少ないのも問題だった。

 

 

 

「あとはあれだな。一緒に送ってもらってた滑腔砲の105mm仕様が、こっちは逆に使い勝手が良すぎる」

「GG-105であったか。其方ならば気に入るとは思ってはおったが、それほどのものか? 有効射程距離は8割程度まで下がっておるのだろう?」

「御剣も試してみたから判ってるだろうけど、元の120mmが6発しか装填できなかったことに比べりゃあ、射程のわずかな減少なんで誤差として受け入れるさ」

 

 以前、巌谷の元を訪れた際にあちら側から提案された改良案だった。

 

 元々、30年ほど前に開発された最初期の突撃砲であるWS-16Aは20㎜機関砲と105㎜滑腔砲の組み合わせだった。これらは威力不足で現行の36mm機関砲と120mm滑腔砲へと変更されたが、大口径化に伴って携帯可能弾数は当然の如くに減少した。

 20mm機関砲では戦術機の主目標たる要撃級などを相手取るには威力不足であるが、105mm滑腔砲に関しては使用弾頭の進化・改良の結果、十分な威力を持つに至った。

 

 戦術機に比べれば速度も装弾数も大きく劣る戦車などが使用するにはその有効射程の減少が問題となるが、平均すれば200mほど最大でも500m程度の射程減少ならば、第三世代戦術機それもMX3搭載機であれば然程の問題ではなかった。

 

 ただ小口径化する弊害として射程の減少以外にも、HESHでは炸薬量の問題で威力が劣り、散弾であるキャニスター弾は子弾の数が減少するために効果が薄い。実質的にはAPFSDS専用だった。

 ただキャニスターにしろHESHにしろ36mm機関砲の代替であり、滑腔砲で投射する意味は薄い。

 

 戦術機において120mmが必要とされる場面は対大型種、それも強靭な外殻を誇る突撃級や要塞級、そしてなによりも重光線級を相手取る時だ。当然ながらその際に使用されるのはAPFSDSしか無い。

 

 もちろんそのAPFSDSにしても120mmに比べて有効射程が減少するという問題もあったが、ハイヴ侵攻という面で見れば120mmであってもその最大射程で撃てるような状況などほぼありえない。

 

 

 

「こっちに関しては、次の作戦に参加する帝国の機体は全機この105mmになる……らしい。予備弾薬の備蓄も進めてくれてるって話だし」

「さすがに合衆国の方は無理か?」

 

 前線での補給面での混乱を憂慮してのことだろう。冥夜が伺うように疑問を漏らす。ただ武としてもそれに対する明確な答えはない。

 

「話は通してるんだろうけど、どうだろうな。そもそもが十全の補給体制を整えてから作戦を進めるってのが合衆国の強みだから、方向性が合わねぇだろうし」

 

 あたりまえだが、交代可能な部隊が存在しかつ後方に予備の燃料や弾薬が備蓄できているならば、射程を犠牲にしての小口径化による携帯可能弾数の向上など考慮する必要性も低い。

 武たちが今想定しているハイヴ侵攻にしても、合衆国ではG弾ありきで立案されている。ハイヴ地下茎へと侵攻する戦術機部隊の役割はG弾で排除できなかった残敵の掃討であり、その際には携帯可能な装弾数など大きな問題とは見なされていないのだろう。

 

「まあ今回の侵攻に関してだけなら、弾だけ落ちてるってことは考えられねぇから、その時はWS-16Cごと借りりゃあいいだろ」

 

 実際のところは合衆国陸軍と帝国の各軍とでは担当地域がほぼ重ならないために、現地での補給面での混乱は少ないはずだとと武は考えている。なによりも死体漁りじみた形での弾薬補給が必要ともなれば、そもそもが作戦の失敗が明白だ。それでかき集められる程度の火力では「あ号標的」の撃破など不可能と断言できる。

 

 

 

「となれば我らが105mmを使うことに支障はない、ということだな」

「斯衛の方じゃ、かなりの割合で刷新が予定されてるって話だぜ? 予算とかどうなってんだよ……」

「XM3の導入と、それに伴う武御雷の生産計画の見直しなどもあって、臨時予算などを立てたのではないか?」

「あ~瑞鶴をもうちょっと使うとか、怪しい噂話程度だと不知火・弐型入れるとかもあるしなぁ」

 

 間違いなく武たちの影響だろうが、先の防衛線を経て斯衛の中でも正面装備の見直しが叫ばれているらしい。Mk-57の導入のなどもその一環だろうが、高価で整備性の悪い武御雷の数を無理に揃えるよりかは、既存の瑞鶴の改修や陸軍と合わせて不知火の導入なども意見としては上がっているとは聞く。

 

 

 

「105mmに話を戻せば、マガジンの装弾数が上がってるってことは、単純に数も撃てりゃあリロードの隙も減るってことだからな。中刀着けた支援突撃砲がもうちょっと取り回しやすかったら悩むところだろうが、今のままだと105mmに付け替えた突撃砲に65式の組み合わせってのが一番対処能力が高そうだ」

「それはそれではあるが……其方に限った話ではあるが、いっそのこと元の突撃砲に02式中刀を付けてしまえばよいまではないか?」

「……は? いや……そりゃ、ちょっと、あれ? もしかして行けるのか?」

 

 ふと思いついたと言わんばかりの冥夜の言葉だったが、そういう発想は武にはなかった。それゆえに即座に答えが出せずに、可能ではないかと考え込んでしまう。

 

「今の支援突撃砲に装着している場合、銃身周りの構造で如何ほどの衝撃を受け止めておるかなど私は知らぬからあくまで素人意見だぞ?」

 

 真剣に考え込んだ武を見てその場の思い付きだと、冥夜は押し留めるように言う。

 武自身も冥夜同様に、突撃砲の強度や構造など衛士としての基本知識しかないが、それでも無理のない話にも思えた。

 

「いや……基本的には65式短刀を装着してる時と、掛かる応力にはそれほど違いがあるとは考えにくい。めったにそういう使い方をしないってだけで、あっちでも斬りかかることはあったしな」

 

 冥夜自身は、一応は87式突撃砲に65式短刀を装着はしているが、近接戦闘時には主に74式長刀を用いている。それ以外に、戦車級を振り払うような時には、武御雷の特性を生かして機体各部のブレードエッジ装甲に頼るか、短刀を使うとしても前腕に収納されている00式短刀をそのまま使用することが大半だった。

 それ故に無理に銃剣で切り結ぶような経験は皆無と言ってよく、02式中刀に置き換えた場合の問題などは想像に留まってしまう。

 

 だが武は、九州防衛戦において、突撃前衛装備や74式長刀の二刀流では近接戦闘はともかくも砲火力の乏しさを実感していた。それ故に強襲掃討じみた突撃砲4門装備という形で試験運用をこなしたことも多い。

 その際、近接戦闘能力に優れる武御雷とはいえ、どうしてもリーチの問題で銃剣を主として使うことになっていたのだ。

 

 

 

「ふむ? そういえば其方は両の銃剣で斬り込むという無茶も試しておったな」

 

 試験中とはいえ、武のあまりに無茶な近接機動を思い出したようで、冥夜が目を細め冷ややかに告げる。

 

「あ、まあ、アレだ。その経験があって、できるかどうかの判断がつくかもしれない……ということだ」

「一応は納得しておこう。それで、午後からは其方の機体で試してみるのか?」

「整備の皆に話を通してからになるから、今日中に実機で試せるかどうかは微妙なところだけどな。それに今の形でももう少しは試してみたいこともある」

 

 02式中刀と65式短刀の銃剣仕様とはマウントの形式は共通だった。02式は支援突撃砲のロングバレル化した銃身にも固定しているとはいえ、もともとの87式突撃砲に取り付けられないわけではないはずだ。

 

 とりあえずはまずは飯だと、武は軽く笑いながら止まりつつあった足をPXへと進めていった。

 

 

 

 

 

 

 初期の想定とは異なっているが02式中刀の利用法が浮かんだこともあり、食べたらすぐにハンガーに戻ろうと冥夜と二人急ぎ昼食を済ますことにした。

 だがトレーを受け取り、休日のためにいつも以上に空いている定位置と言える席へと向かうと、そこには見知った者たちが集まっていた。

 

「って、お前らまだ休暇中じゃないのかよ?」

「白銀……まずは挨拶であろう? あけましておめでとう。皆、息災のようで何よりだ。今年もまた昨年同様によろしく頼む」

「ええ、あけましておめでとう、御剣。こちらこそ、いろいろとお願いする立場よ」

 

 第二と第三小隊の皆が、それぞれに新年の挨拶を返してくれるが、代表して話すのはやはり千鶴だった。207A訓練分隊の分隊長だったはずの茜などは一歩引いたところで軽く笑っているのが見えるが、彼女たちの間ではそれが自然な立ち位置なのだろう。

 

「っと、色々話したいとこも聞きたいこともあるだろうけど、とりあえずまずは食わせてもらうぞ?」

「ええ、もちろんよ。それほど急がなくても良いわよ」

 

 先に居たこともあり武と冥夜以外の皆はすでに食事は終わっているようで、軽く断りを入れて急いで食べ始める。

 

 

 

 がっつくわけではないが手慣れた早食いで武は定食を食べ終わり、テーブルに着いている皆を見渡す。まりもも含め孝之と慎二、各小隊長はいないが、純夏も含め第一中隊の少尉9名が揃った形だ。

 

 武と冥夜との新年の挨拶の後は、自然と第一小隊の三人が分かれ、ユーコンと北陸でのそれぞれの任務などの情報交換じみた雑談が始まっている。純夏の方へと向かった壬姫と尊人、冥夜へは茜と晴子。それぞれが久しぶりに会う「戦友」の活躍を、直接聞きたいのだろう。

 

 ただ武の前に座った千鶴と慧の顔付は、どこか詰問するかのようだった。

 

「え~、っと、ごちそうさまでした。お手柔らかに?」

「何言いだしてるのよ、白銀?」

「やはり白銀はヘンタイ?」

 

 叱責されるかのような雰囲気に押されて武は思わず謝ってしまったが、そもそも何が問題なのかが判ってもいない。

 

 

 

「そ、それでだな。北の方はどうだったんだ?」

 とりあえず何に怒られているのか判らなかったので、武は当たり障りのなさそうな話を聞いてみる。

 

「以前この基地で行った富士教導隊との合同教導に比べれば、楽になってたわ。あなたたちの活躍のお陰で、ね?」

「白銀、話、盛り過ぎ。お陰で楽だったけど仕事は増えた」

「いや、まったく判んねぇ……」

 

 なにやら武たち第一小隊の活動が漏れ伝わった影響の話なのだろうが、軽い報告書程度での意見交換しかしてこなかったこともあり、彼女たちが何を問題視しているのか思い至らない。

 

 

 

「ユーコンだったかしら? そちらで貴方たちが撃震でラプターを撃破したとか、とんでもない与太話が流れてきてね」

「あ~アレか。撃墜したのは間違いないが、アレは極めて特殊な状況というか、ラプターに不利過ぎた上に、政治的にもアレなんだよ……」

「って、本当に撃墜したのッ!?」

「ラプター4機と、こっちは吹雪と撃震とがそれぞれ2機。それでラプター全機撃破に対し、こっちは大破2中破2、とまあ結果としては一応撃破だったな」

「……尾ひれの付いた噂話だと思ってたわ」

 

 信じられないという顔の千鶴と慧だったが、それも当然だ。最強と謳われるF-22ラプターを改良されているとはいえ鈍重な第一世代機の撃震で撃破したなど、普通に聞けばただの与太話だ。

 純夏がMk-57の間接砲撃でラプターを撃破した時、武でさえ動きを止めてしまったのだ。話だけでは信じられなくて当然と言えた。何か考え込むような千鶴だったが、誇大化された噂と見なされてもおかしくはなかった。インフィニティーズとの対人演習の関しては詳細を含め秘匿されているわけではないが、わざわざに喧伝はしていない。

 

 なによりも演習それ自体の結果よりも、その後のハルトウィック大佐への詰問と辞任要求とがターニャらにしてみれば主目的であったようで、付き合わされた形の武にしてみればあまり思い返したい事でもなかった。

 

「まあ良いわ。それの関係で私たちが担当していた方々も一層奮起されてね」

「お陰で、話は進んだ」

 

 旧式機たる撃震を運用している部隊はどうしても二線級と見なされる。XM3への換装の可能性も低く、XM1での教導訓練であれば今までと大きな変化もないために、どうしても意欲に欠けていたらしい。

 それが真偽は不明の、おそらくは戦意高揚のプロパガンダでしかないと捉えたとしても、最新鋭機とも互角に渡り合えたという話を聞けばそれに乗ってくる者たちもいたのだろう。

 

 

 

「ああ、そうだ。そのユーコンに関してなんだが、彩峰、ちょっと聞いて良いか?」

「……答えられる範囲、なら、ね」

 

 ユーコンと、そして千鶴ではなく慧にだけ問いかけたことから、武が聞きたいことを予測したのだろう。慧は普段よりもさらに目を細め、まるでこれから前線へと立つかのような緊張を漂わせる。

 

「そんな大したことじゃねぇよ。沙霧大尉殿が昨年の暮れにこちらを訪ねてくださってな。その時は俺と御剣が対応することになったが、お前がこっちに居たら任せたのにって流れで、年末に年始に会えたのかどうかって程度だ」

「白銀、ヘンに気を廻し過ぎ」

「いや、俺たちと入れ替わるみたいに昇進の後にユーコンへと赴任されるって話だったから、彩峰中将殿の下には挨拶には行かれたんだろうな、くらいの話だよ」

 

 

 

 同じ第一中隊の中とはいえ、千鶴にも慧にもユーコンでの政治的問題にまで踏み込んで話せるはずもない。

 

 この世界線においては彩峰中将が存命な上に、帝国内の合衆国への反発も薄く、尚哉が政治的活動へと身を投じる危険性は薄い。武自身も先日直接会って話をした上で、尚哉の将軍家への敬意などは感じたが、今の内閣や政府への反発は然程も伺えなかった。

 だがそれも所詮は対人経験の少ない武自身の感覚でしかない。先のAL世界線でのクーデターを経験した身としては、やはり警戒はしてしまう。

 

「昨日……会ったよ。明日には帝国を発って、日付が変わる前にはユーコンに着くって」

「ああ、ならいいや。流石に知人、それも上官が訪ねてくださってたのに、そのまま放置ってのも気まずかったからな」

「ただ、白銀の話は出たよ」

「あ~それに関しては聞かないでおく」

「……そう。……そう?」

「いやオレ自身への評価とか、本当に気にしてねぇから、な?」

 

 武が口を濁しているように、慧もその場で何が話されたかは具体的には語らない。わざとらしいまでに武個人の話へと矮小化させて、笑い話にして流してしまうことになった。

 

 

 

 

 

 

「で、休暇中だろうに、なんでみんな集まってるんだ? こんな時間に集合して、まさか今から北に飛ぶのか?」

 

 空路の使える現状の帝国内であれば、移動だけならば今出れば今日中には着けるはずだ。たださすがに今行っても相手側も正月休暇だろうと、武は最初の疑問に立ち戻った。

 

「どうせ原因は白銀」

「彩峰に同意するのは嫌だけど、あなたの差し金でしょ? 私たち、いえ小隊長のお二人も含めて機種転換訓練を受けろっていきなり言われて先ほど非常呼集を受けたばかりよ」

「……は?」

 

 第二と第三小隊がいきなり集められた要因など武には思い浮かぶはずもなかった。また何よりも彼女たちが機種転換訓練を受けるという話も、寝耳に水なほどに急な話だ。

 

「貴方たちがユーコンで試験してた不知火の改良型、弐型だったかしら? それの機種転換訓練だそうよ」

 

 ほら貴方が原因でしょ、と千鶴は呆れたように笑って見せるが、聞かされた武はただ茫然と口を開けたままだ。

 横で話を聞いていたはずの冥夜と、意図せず目を合わせてしまう。冥夜の方は動揺はほとんど表には出していないが、その眼だけは縋るように武を見つめていた。

 

 この時期にいきなりの教導任務は切り上げ。加えての機種転換、それも不知火・弐型ともなれば、意図する所はただ一つしか思い至らない。

 

 

 

 武と冥夜だけではない。第一中隊の全員が、喀什攻略へと参加することが確定した。

 

 それは他世界線の結果を知る武からすれば、皆の死を決定付けたも同然だった。

 

 

 

 

 

 

 




ガンブレードみたいな支援突撃砲はたぶん取り廻しに負荷が大きいだろうなぁと半ば計画倒れ寸前です。ただかなり前に描いたはずの滑腔砲の105mm化は確定ということで。流石に開発当初の70年代後半の105mmライフル砲でのAPDSはともかくも、2000年前後の105mm滑腔砲でのAPFSDSなら当初の120mmくらいには侵徹力も上がってるんじゃないかなぁと。93式105mm装弾筒付翼安定徹甲弾のデータがぱっと見当たらないので妄想ですけど。

で久しぶりに第一中隊を集めましょう~でしたが人数わちゃわちゃし過ぎるので委員長メインです。あと当然ながら皆様方も喀什送りになるかと。


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