Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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参集の徴証 02/01/02

 

 帝国軍のみならず在日国連軍であっても正月の三箇日は多くの将兵に休暇が与えられている。A-01第一中隊の結成以来、激務が続いていた中隊長であるまりもにも半ば強制的に休暇が言い渡されており、まりもとペアを組む純夏も同じく休暇に入っていた。

 

「御剣冥夜」という立場から、人目に付きやすいこの時期に下手に御剣家へと帰ることも難しい冥夜と、そして近いとはいえこの世界の実家に帰る気持ちがいまだに持てない武の二人は、白陵基地に残る形で勤務に就いていた。

 そして結果として夕呼に連れ去られるような形ではあったが、年末の大晦日どころか年明け元旦から、特殊任務とも言える形で仕事始めとなった。

 

 ただ中隊長とそして実質的には大隊長をも兼任しているまりもが不在、それも休暇自体いきなり言い渡された形だったようでここ数日の詳細な予定が組まれているわけでもない。第一中隊で残っているのが武と冥夜の二人だけために一応は武が指揮を執る形とはいえ、真那たち斯衛の第19独立警護小隊との連携が主となることもあって、武の一存で決定できることは少ない。

 

 

 

 基地の多くの職員が休暇に入っていることもあり、シミュレーターに空きが多い時期でもあるのでそちらでの訓練予定を入れてはいたが、昨日XG-70dを直接見たことで真那からは少し陣形などを含めた戦術を練り直したいという申し出もあって、今日の連携訓練は中止となっていた。

 

 あの後にも簡単な打ち合わせなどはしたものの、その場で決められることなど僅かなものだ。なによりも空中機動要塞という新機軸の戦力と同調するには、本来ならばそれ相応の時間を必要とする。

 

 空中機動要塞というカテゴリー分類は伊達ではなく、あの巨体でありながら、火力と機動性とを両立しているのだ。戦術機中隊程度での防衛陣形であれば海上での艦艇護衛に準じることもできなくはないが、いま求められているのはXG-70dに随伴してのハイヴ侵攻、それも最深部の主広間、そこの超頭脳級への到達と撃破だ。

 随伴する戦力も大隊規模が想定しており、密集陣系を組んだとしても前後数百メートル、高速侵攻を想定するならば数キロに分散することにもなる。

 

 真那たち第19独立警護小隊はその名の通りに小隊の4機、ここに武と冥夜とが加わるとはいえ半個中隊6機。どのような形で指揮系統に組み込まれるかはいまだ不明だが、武の持つ『桜花作戦』時の記憶を利用するならば、XG-70dの直掩という位置付けで「水先案内人」として扱われることになりそうだった。

 

 かなりの独立権をもって行動できると予測されるからこそ、隊を預かる真那の責は重い。今までのシミュレーション結果を参照しつつ陣形などを考え直したいと、真那から申し出があったのも当然と言えた。

 

 

 

 

 

 

 そんなこともあって武はいつも通りに起床し軽く走り込んだ後、冥夜共々にPXで朝食を取りはしたが、すぐさまに行動に移るには計画が無い。

 

「どうやら、本日の予定は定まっておらぬようだな?」

「溜まっている書類を片付けるってのはあるが、急ぎのはさすがにもうケリを付けたからなぁ」

 

 二杯目の合成玉露に手を伸ばしている武を見て、悟ったかのように冥夜が話す。武とて聞かれるだろうとは判っていたので、さっくりと返す。

 

「年明けの仕事始めの際に、我らからの書類が無くて進められぬ、とは言われたくは無かったからな」

「まあ、シミュレーションで訓練しておきたいことはまだまだあるから良いんだが……」

「あの要塞級、か? 其方が手ずから組んだ状況設定であるからには、意味が大きいのではあろうが……」

 

 武が口にした訓練計画に思い至ったようで、冥夜は僅かに眉を顰める。冥夜をして拒否感から口籠るくらいには、無茶な内容の想定状況の訓練だ。

 

 『あ号標的』自体のシミュレーションデータなど存在するはずもなく、また作るとしても元になるのは武の持つあやふやな記憶だけだ。そんなものでは訓練目標とすることも難しくまた意味も薄い。

 だが事前の情報もなく初見で重頭脳級を相手取るなど自殺行為にも等しいので、疑似的ではあるがおそらくは最も近しいだろうと武は考えて、要塞級を複数体配置することで、重頭脳級の触手攻撃に似た状況を作り出してみた。

 

 

 

「オレが書いたのが下手な絵だってのは判ってるけど、説明はしただろ」

「重頭脳級であったか? たしかにあの説明では具体的には思い描くのが難しいが、なによりも成功条件が困難であるからな」

「ああ……何度か言ったかはずだが、接触されたら躊躇わずに斬り落とせ」

 

 『あ号標的』の触手接触によるハッキングを警戒し、小破判定であっても即座にその部位を切り離せとは指示している。そしてそれに失敗して一定時間が過ぎてしまえば、撃破判定としていた。

 

「そちらはまだよいのだが、破壊も不可能で、ただひたすらに受け流すというのは……ああ、いや。詰まらぬ戯言であったな。忘れるがよい」

「オレらの任は、昨日見たアレ、XG-70dが砲撃を完了するまでの時間稼ぎだ。戦術機が携帯可能な火力で完全破壊ができるとは思えねぇからな」

「なるほど。そのための空中機動要塞、か」

 

 珍しく冥夜が愚痴を零すが、武もその気持ちは判らなくはない。自分で組み上げた状況設定だったが、いつ終わるとも知れぬままに防御行動を強いられるというのは、やはり厳しい。

 ただそれでも冥夜はXG-70dを直接見たからこそ納得もできたようで、少し目を伏せて考え込み始める。おそらくはXG-70dを護衛しながらの立ち回りを構築しようとしているのだろう。

 

「まあ御剣はよくやれてるとは思う。彩峰あたりだったら最初の30秒でキレて、突っ込んじまってそこで終わりだぜ?」

「はははっ、そこは榊が上手く止めるであろう」

「あ~いや、それだと二人して自滅するだけじゃねぇか?」

 

 

 

「ん? おはよう社。朝飯じゃないのか?」

 

 二人して軽く笑いあい、お茶を呑んでいても何も進まないと席を立ちかけた。その時にちょうど霞がこちらを見つけたようで、二人で占拠していたテーブルへと向かってくる。

 頭の耳飾りを揺らしながら、ほてほてと霞が武たちの席に近付いてきた。だが、この朝の時間帯にも拘らずトレーも持たずだった。

 

「……おはよう、ございます?」

 武の疑問には答えず、霞はぎこちなく挨拶をしたうえで、さらに言葉を探すように口を開いた。

 

「白銀少尉、御剣少尉両名は、衛士強化装備着用の上で0900にブリーフィングルームに集合……です」

「ああ、夕呼先生からの伝言か、ありがとう。すぐに向かうよ」

 

 命令の伝達が間違っていないか正しくできたかと問いかけるように、武と冥夜とを霞は交互に見渡す。

 懸念はあるが、それは霞の態度ではなく、夕呼からの指示に関してだ。安心させるように笑って見せる。その武の態度に、霞は納得できたのか、すぐに立ち去ろうとする。

 

「だが、社。時間はまだあるから其方も何か食べておいた方が良いのではないか?」

「……(ふるふる)」

 

 冥夜の言葉には首を振ることで応えて、そのままにぺこりと頭を下げ、またほてほてとゆっくりと歩きながらPXを出ていった。

 

「さて。中隊長代行殿。どうやら今日の予定に頭を悩ます必要はなくなったようだぞ」

「どうやらその通りだな。お茶のおかわりって時間はなさそうだ」

 

 揶揄うように軽く笑いながら冥夜が言うが、すでに立ち上がる用意を始めている。

 慣れてはいるとはいえ、衛士強化装備の着用にはそれなりに時間がかかる。それなりに急がなければ、叱責を受けかねない時間だった。

 

 

 

 

 

 

「あれ? 二人ともなんでコッチにいるんだ?」

「ああ、タケルと御剣少尉か」

 

 指示通りに強化装備を身に纏い、第一中隊に割り当てられているブリーフィングルームに冥夜共々に向かえば、非常に珍しいことに先客がいた。

 

「あけましておめでとう。ブリッジス少尉、イーニァ」

「ああ、そういえば、あけましておめでとう、だな。今年もまたよろしく頼む」

 

 年を開けてから会うのは初めてだったかと、新年の挨拶を二人に告げる。こちらの二人も強化装備を身に着けているところを見ると、どうやら合同の訓練になりそうだった。

 

「あーけしてぇ、あめ、でとう?」

「ん? 言いにくいか、ハッピーニューイヤーってヤツだ。ってロシア語だと何だったっけ……?」

「はは、新年おめでとうってのは、どこでも似たような感じか。二人とも、今年もよろしく頼む」

 

 ユウヤもロシア語での挨拶は知らないのか、簡単に流している。

 

 

「よろしく頼むのはこっちこそだが、機体の方はもう動くのか?」

「少し重くなった程度で大した違いはねぇよ。XM3用のデータ変更も基本的な項目はだいたい流用できたし、ほぼ完了してる」

 

 一応はA-01所属として扱われているために居てもおかしくはないが、ユウヤとイーニァとが所属する形となっている第二中隊は、その構成員のほとんどがソ連のイーダル小隊から回収されたESP発現体であり、いまだ薬物依存治療の最中だったはずだ。

 今の武たちも似たようなものとはいえ、第二中隊の場合は本当に衛士として動けるのはユウヤ一人。不知火・弐型が一機だけだ。

 

 しかもイーニァが持つ能力の特性上、搭乗機は複座型でなければならない。そしてユウヤはこの白陵基地に赴任してからは、複座に改修された弐型のデータ取りが主な任務だったはずだ。

 もともとA-01が武とターニャの進言もあって、中隊付きCP将校を一人、複座型の戦術機で前線まで随伴させることになっていたため、隊に所属する不知火のいくつかは改修が済んでおり、そちらでXM3用の機動データも作られていた。

 

 弐型に合わせての修正などがユウヤの任であったが、それももともとユーコンで弐型の開発に携わっていたのだ。機体重量バランスの細かな修正程度で終わる程度だったらしい。

 

 

 

「気を付けッ! 副司令に対し敬礼ッ!」

「あ~はいはい、だからもうそういう堅っくるしいのは良いから、さっさと済ますわよ。白銀は知っているでしょうけど、こちらは巌谷中佐よ」

 

 弐型の調整に関してもう少し聞いておこうかと思ったがそれよりも先に、夕呼と霞、そして帝国陸軍の制服を身に着けた巌谷中佐がブリーフィングルームに現れた。

 

「帝国陸軍所属の巌谷中佐だ。技術廠・第壱開発局副部長を任されている。香月大佐殿のお言葉ではないが、衛士の皆を前に堅苦しい話や長々とした挨拶は不要とさせてもらうよ。とはいえ簡単に説明が終わる話でもないから、席について楽にしてくれたまえ」

 

 紹介としては簡単すぎる夕呼の言葉に苦笑しながらも、巌谷は以前に会った時のように、気さくな態度で武たちへと言葉を掛ける。

 

 

 

「さて。新年早々、それも本来ならば休暇中のこの時期に集まって貰ったのは、我々が開発中の戦術機用新装備、それの試用を急ぎお願いしたいということだ」

 

 衛士の四人が席に着いたのを確認してから、巌谷は簡潔に話し始めた。

 ただその言葉に、武だけで無くユウヤも怪訝な表情を浮かべてしまう。そして表には一切出してはいないが冥夜も疑問には思っているのだろう気配が、隣に座る武には感じられた。

 なにも気にしていない様子なのは、事情を知らないイーニァと聞き役に徹しているかのような夕呼に霞の三人だ。

 

 技術廠の開発局は以前にユウヤが参加していたXFJ計画の帝国側の中核とも言える部署だ。その内実はそれなりに知っている。そして当然ながら、開発局が自前のテスト用機体を所持していないはずもなく、わざわざ在日とはいえ別組織たる国連軍に持ち込む必要性が感じられない。

 

 

 

「はははっ、疑問に思うのも当然な話ではあるが、もちろん試験自体は開発局の方でほぼ済んでいる。ただ今回持ち込ませて貰った機材は、開発に関して基幹技術をこちらの香月大佐殿から提供していただいたこともあり、また運用においては帝国陸軍に限定せず、斯衛そして君たち国連軍にも担ってもらうことになると考えているからだ」

「中佐は適当に濁してるけど、殿下の肝入り企画よ。心しておきなさい」

 

 なるほどと納得しかけた武たちだったが、差し込まれた夕呼の言葉に、武とそして何よりも冥夜が緊張を高める。

 

「いえ、局の中でも慎重論があった際、開発に賛同していただくためにお目通りさせていただいただけですよ、香月大佐殿。貴女方のXM3に比べるように物ではありません」

 

 夕呼の言葉に身を固めた二人を解きほぐすかのように巌谷は言うが、それで冥夜の姿勢が緩むはずもない。もちろん帝国臣民ではないイーニャもユウヤも深い意味は理解していないようだが、それでも重要な案件であることは察したようだ。

 

(って、そうか巌谷中佐殿も今は帝国陸軍に所属しているけど、元は斯衛だったよな。たしか篁家にも縁があるって話だったから、そういう意味では殿下に繋がるような伝手ってのはある……のか?)

 

 以前、XM3のプレゼンのために斯衛の重鎮との会談が設定された時、巌谷もその場にいたが、彼の第壱開発局副部長という地位を考えれば臨席しているのがおかしな話だったのだ。

 あの時の武は、緊張でその意味を深く考えることも出来なかったが、今思い返せば納得はできる。元々の経歴などからすれば、参考人としてあの場にいるのは不思議ではなかったのだろう。

 

 

 

「まあ君たちに依頼するのは、さほど深い思惑があるわけではない。非公式ではあるが、いまのところ帝国本土に実働状態の不知火・弐型が配備されているのはこの基地だけだ。都合が良い、というには語弊もあるが武御雷もある。それに持ち込んだ機材は、聞いているかもしれないが、君たちも知る篁中尉が主任開発衛士として参加していたものだ。何かしらの縁があるかとも思ってね」

 

 巌谷が並べてみた理由は納得のしやすい物だ。発注元とも言える開発局と言えどいまだ弐型は納入されていない。A-01は部隊自体は非公開ではあるが、そこでの運用データを外部へと出していないわけでもなく、まして今はXM3教導部隊としての第一中隊がある。

 また唯依の名を出したのも、XFJ計画に関与するというだけでなく、武御雷のデータがあっても冥夜の存在に疑問視されることはないという意味合いもありそうだ。

 

「さて。早速だが試してもらいたいのは、こちらだ」

 政治的な思惑に関しては、細かく説明するつもりは巌谷にもないのだろう。素早く話を実務レベルに落とす。

 

 そして巌谷の言葉に合わせて、霞が操作してくれたのか、プロジェクタにその機材の図面と簡単な解説が映し出された。この面子を前にして当然とも言えるが、戦術機用の装備だった。その映像を見て、ユウヤが大きく身を乗り出した。政治的意味は分からずとも、戦術機の関わることとなれば、やはり強く興味が惹かれるようだ。

 

「試製99型電磁投射砲。ご覧の通りに戦術機用の砲兵装だがかなりの大型で、名前の通りに火薬式ではなく、電磁誘導式の速射機関砲だ」

 

 ユウヤの反応を見て、細かな説明よりはともかくも撃ってみるかねと、巌谷笑って見せた。

 

 

 

 

 

 

 白陵基地は在日国連軍横浜基地に付随するような形だが、武たちが以前から所属していたように訓練校としての意味合いも強い。それもあって基地の規模には不釣り合いとも言えるほどの射撃演習場なども確保されている。巌谷は特に言及はしなかったが、そういう面も踏まえて電磁投射砲の試験を持ちかけてきたのかもしれない。

 

 ただその射撃演習場もあくまで通常の突撃砲などを運用するための場でしかなく、長大な射程を有する電磁投射砲の試験としては少々手狭ではあった。

 

 用意された二機の電磁投射砲を、弐型のユウヤを主軸に、武と冥夜の武御雷とで代わる代わる撃ち、また弾薬等の補充作業も熟していった。細かな説明を排していたとはいえ、終わった時には昼食時を逃してしまっていた。

 

 

 

「済まなかったね。思った以上に時間をかけて貰ってしまった」

 

 細かな報告は後で書類にするが、とりあえずは雑談という形で所見が聞きたいという巌谷の言葉を受けて、朝に使ったブリーフィングルームに戻ってきた時には、すでに日が陰りはじめる頃合いだった。

 

 気楽にという巌谷からの提案もあったため、武たち衛士三人と、長テーブルを車座に囲むような形だ。楽にしろという言葉通りに、強化装備を脱いでユウヤも武もBDUを着崩してさえいる。

 ただイーニァには電磁投射砲には興味がないようで、霞に付きまとってどこかへ行ってしまっている。

 

「申し訳ありません。ご用意できるものがこの程度で」

「構わんよ。呼ばれた身の上でなんだが、本当に楽にしてくれたまえ」

 

 言葉通りに、用意できた代替コーヒーも合成玉露も、ポットでテーブルの上に置いただけだ。さらにお茶請けと軽食代わりにと用意したのも、ターニャが以前に大量に持ち込んだ合衆国製のレーションブロックを一口サイズに切り分けた物だ。

 だがこれで良いとまで言う巌谷の言葉は本心からとしか思えず、今はもう衛士からは身を引いているとはいえ、いまだパイロット気質のままなのだろう。

 

 

 

「さて。繰り返しになるが、雑感で良い。電磁投射砲はどうかね? そうだな……ブリッジス少尉?」

 各自がそれぞれに茶をカップに淹れ、一口付けたところで巌谷が切り出した。武と冥夜とが、どこか日本人めいた譲り合いの形で話し出すのを躊躇っていたのを察したようで、巌谷はユウヤを指名する。

 

「自分は帝国陸軍のドクトリンには詳しくありませんから、合衆国陸軍衛士としての所感となりますが、よろしいでしょうか?」

「構わんよ。むしろ貴重な意見だ」

 

 謙遜するかのようなユウヤの言葉に、巌谷は軽く頷いて先を促す。

 

「では、端的に。制圧能力を筆頭に、火力面では感服いたしました。不満どころか、現状で戦術機が携帯できる兵装としては、自分にはこれ以上を想像もできません。ですが……」

「続けたまえ。否定的な視点も重要だと、開発衛士ならばよく判っていることだろう?」

 

 否定意見を伝えるべきかと一瞬口籠ったユウヤへ、巌谷は軽く笑って見せながらあらためて再び先を促す。

 

「ありがとうございます。では、詳しくはない身ではありますが、電磁投射砲は帝国陸軍の戦術機運用ドクトリンから激しく逸脱するものと思われます。機動性能を高めた吹雪に不知火、そして弐型には運用理念と合致しないものと感じられました」

 

 楽にしろとは言われていたが、さすがに否定的な意見を、それも初対面の上官に述べるということで、ユウヤと言えどどこか緊張しているようだ。武から見ても珍しいくらいに、肩に力が入っていた。

 

 

 

「なるほど。よく判る話だ。白銀少尉も、そして御剣少尉もまた似たような意見だろう?」

 

 だが巌谷はそのユウヤの言葉を、どこか甥っ子でも見守るように暖かく笑いながら、あっさりと受け入れる。そして武たちが口籠っていた理由も察していたようだ。

 

「その通りであります」

「自分も二人と同じであります。そしてまた武御雷での運用もまた、機体特性からは外れるかと愚考いたします」

 

 簡単に同意する武に続き、冥夜は極僅かに目線を下げながら、武御雷には合わないと断言する。それは悠陽が受け入れた開発計画を否定してしまうことへの、躊躇いなのだろう。

 

「なに、気にする話ではないよ。その辺りを含めて局の方でも慎重論が大きかったのだ。その上で、だ。白銀少尉? 電磁投射砲を運用するとすれば、どのような戦闘状況を思いつくかね?」

 当たり前だが、軽く触っただけの武たちの意見などは、すでに幾度も議論されつくされた中にあったのだろう。巌谷は当然の話だと受け流し、その先を問うてくる。

 

 

 

「そう……ですね。まず運用における問題としては、一射ごとに分解整備が必要という点は将来的な量産化の際には解消されているとの仮定させていただいて、残るは機動性の阻害と、大量に消費する専用弾頭の補給となるかと」

「想定としては、問題ない。続けてくれまえ」

「兵站面と、なによりも射撃母機となる戦術機の機動性を阻害してしまうことを考えれば、使える面としては構築された防衛線の維持。それも侵攻ルートがほぼ固定されるような局面かと……ってああ、そうか、ッ、失礼しましたッ!?」

「構わんよ。気が付いたようだな、白銀少尉?」

 

 電磁投射砲はハイヴ突入戦の切り札、などと言われているらしいが、そういう面では恐ろしく使い勝手が悪い。ならばどこで使うかとなれば防衛となるが、使える場所を考えると事前の準備が十全に可能な場所にと、また限定される。

 それに武が気が付いたことを巌谷は悟ったようで、武の非礼を笑って受け入れる。

 

「って、ああ……御剣も判ったようだよな。ユウヤには……判りにくいか」

「なんだよ、オレが何か見落としてるっていうのか、タケル?」

「見落としっていうか、だなー、って、申し訳ありません。以前もでしたが、本当に楽にさせていただきます」

「ははっ、白銀少尉にはそちらの方が似合っているさ。ブリッジス少尉も、気にするな」

 

 完全に崩れてしまった武の態度を、巌谷は笑って流す。むしろ率直な意見が聞けると歓迎している節さえある。ただ流石に、冥夜の立ち位置まで理解しているようで、そちらには何も言わない。

 

 

 

「さて。ではXM3の立案者たる白銀少尉に、電磁投射砲だけで無く、あと幾つか今日持ち込んだ兵装に関して語って貰おうか?」

 

 そう言って本当に楽し気に笑う巌谷の姿は、帝国陸軍の将校服を着ていにも拘らず、根っからの戦術機衛士に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




あけましておめでとうございます。年内には完結させたいなぁと、この日になれば書いている気もしますが、今年もお付き合いいただければ幸いです。かつさすがにもう終わりが見えてるので何とか喀什攻略まで書き続けて完結させたいなぁと。

で、ネタとしては久しぶりの巌谷中佐とユーコンというかペトロパブロフスク・カムチャツキーに行っていないのでようやくの試製99型電磁投射砲です。とは言っても砲撃シーンはサクッと飛ばして後はいつものお茶飲み買いが続く……予定です。

でで、ラインの悪魔が加古川の魔女になってるナゾのクロスオーバーが頭を過りましたが、たぶん誰かが書いてくれると信じています


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