もうすぐ来る夏イベで是非活躍させたいですね。
とまあ近況報告はこれくらいにして本編です。
「飛龍、制空権確保、オーバー」
『コマンド、了解……さすが俺の空母だ。よくやった』
飛龍は自然とにやける口元を手で隠す。
「ふぅ、すっごく疲れました……」
『だろうな。艦載機の精密な同時操作はかなりキツいんだろ?』
「キツいなんてものじゃありません。頭が割れるかと思いましたよ」
『割れたら少しは大人しい性格になるのか?』
「ひどい!」
『すまんすまん……艦戦は引き続き飛ばしておけよ。彩雲も出せ』
「りょーかい。後でなんかご褒美頂戴!本当に頑張ったんだから!」
『うーん、まあ常識の範囲内でならいいぞ』
「よしっ!」
『……引き続き作戦通りに頼む。戦いはこれからだ』
「はい!」
『じゃあ切るぞ』
「はーい」
通信が切れた後、飛龍は彩雲を一機飛ばす。
「……ふふ、ご褒美何にしよっかなー」
戦闘中とは思えない気の抜きようである。
「膝枕してもらう……とか?……何言ってんだろ私。いやでも、アリかも」
あれこれ想像しブツブツと呟く飛龍。
「……おっと!考えるのは後だ。でもなんか無性に甘えたい気分!」
「制空権……喪失」
震える声で蒼龍が伝えた報告内容に騒然とする呉艦隊。
『なんだと……!?』
「……」
「きっとミスが多かった私のせいです!せっかく優勢だったのに……最後も油断して」
「それは違いますよ蒼龍さん」
「……」
「たとえ最後の敵の捻り込みに気付くのが早かったとして、はたして私たちはそれに対応出来たでしょうか?」
「それは……」
「いつの間にか限界近くだった私たち……それだけ敵に消耗させられていたんです。あの技に即座に対応する事が出来るほどの余裕はすでになかったはず……私たちの完敗ですよ」
「……」
「すみません提督……」
『いい、素直に敵を賞賛すべきだろう。お前たち2人に勝った敵はそれだけ強かったという事だ。それよりも……』
「ああ、とられてしまったものは仕方がない。急ぐぞ」
敵の攻撃機を警戒しながら敵の拠点を目指す呉艦隊はやがて異変に気付く。
「制空権をとられたとなると今度は敵の攻撃機が来るはずなのだが……」
いつまでたっても敵の攻撃機が飛んで来ない事に対し武蔵が戸惑ったように言う。
「来ませんね」
鳳翔たちも首を傾げる。
『どういう事だ?』
「そもそも敵の艦載機はどこに消えたのでしょう?」
霧島が空を見上げて言う。鳳翔たちの艦載機と激しい航空戦を繰り広げたという敵の艦載機の姿がどこにもない。
「本当にこの辺りで戦っていたのですか?」
「は、はい!」
「そのはずなんですが……」
「相手の考えが全く読めないですね……」
『……』
「飛龍は制空権を確保出来たようデスネ」
『ああ、本当によくやってくれたよ』
「ハイ、ようやくワタシたちの出番ネ」
『すでに飛龍には艦載機を離脱させてある。恐らく相手は今頃戸惑っている事だろう』
「いつまでたっても攻撃機が飛んで来なかったら普通疑問に思うデス」
『当然警戒される……が、それでも不意を突くぞ』
「ハイ……ところでテートク、何かないのデスか?」
『え?』
「ここはアレがちょっと……」
『……そうだな、一応用意してある。ちょっと艤装を探ってみろ』
「艤装を?」
言われて金剛は自身の艤装を調べる。しばらくして目的の物を見つけた。
「いつ載せたんデスかこれ……ワタシは載せた覚えがないデスヨ?」
『整備妖精に頼んだ。ちなみにニオイはキツくないはず』
(ワタシこれのニオイかなり苦手なんデスが……)
「……」
『もうすぐ敵がやって来る、それまで我慢してくれ』
「了解デス」
『……一応聞いておくが変に力んでないよな?無理だけはしないでくれ』
「呉の提督がテートクを試しているだけだというのは分かっていマス。デモ……」
『怒ってくれるのは嬉しいがそれが失敗につながらないか心配なんだ』
「むぅ……ワタシが信用出来ないのデスか?」
不満そうな声をあげる金剛。
『そんな事はない。お前は俺が一番信頼している存在だ』
「ならいいデス」
『……』
「テートク、他に何かありマスか?」
『特にない。いつも通りにやってくれれば問題ない』
「そうデスか」
『金剛』
「?」
『Now it's time to hunt』
さあ狩りの時間だ。
「……」
『We are hunter.we don't miss our aim』
我々は狩人。狙った獲物は逃がさない。
「……」
『Trample them』
蹂躙せよ。
「As you wish」
仰せのままに。
金剛の口角がつり上がった。
「飛龍さんの方はどうなったのでしょうか……」
「大丈夫だと思うっぽい……飛龍だもの、きっと……」
榛名、夕立、川内、暁の4人は艦攻による襲撃を受けた地点から北上し待機していた。そこに金剛と飛龍の姿はない。
『……こちらコマンド、聞こえるか?オーバー』
待っていた通信が入る。
「……!榛名、聞こえています、オーバー」
『コマンド、まず結果を伝える……飛龍が無事に制空権を確保。これにより作戦通りの行動をとる事が出来るようになった。南下せよ、作戦開始だ!』
「榛名、了解です!」
全員で顔を見合わせ頷く。
「皆さん、行きましょう!」
「「「応!!」」」
榛名を先頭に単縦陣を組み、佐世保艦隊は南下を開始した。
「本当に制空権とっちまったなあ……」
「さすが飛龍だ」
「最後のやつってよく分からなかったけどすごいね。宙返りが終わるといつの間にか好守が逆転している技なんて」
「普通の宙返りとは違うのですか?」
「ん、ありゃ多分左捻り込みってやつだ。確か……ななめ宙返りなんだが、普通の宙返りよりも高い高度で失速寸前を維持しながら行うやつだよ。零戦の旋回性能を生かした技で、刻々と変わる艦載機の失速条件を常に把握している必要がある」
「そんなに大変なの?」
「18機分の状態を完全把握だぞ?一機でもけっこう大変なのにあのプレッシャーの中でそれを行う……もはや神業と言ってもいいぜ」
「へえ……かっこいいなあ」
「なのです!」
飛龍たちの航空戦についてあれこれと話してから再び観戦を始めた皐月たち。だがしばらくして皐月たちは困惑する。
「紫電がどこかへ飛んでいっちゃった」
「まだ艦攻を使う気配がない……?」
「本当に佐世保艦隊はどこに消えた?拠点の方に戻ったのか?」
画面には複数箇所の映像が映っているがその中に佐世保艦隊の姿はない。
「……ねえ、これって画面に映す場所を切り替える事は出来ないのかい?」
時雨の言葉に内山が反応した。
「あ……そうじゃん!映す場所切り替えられるんだった!」
「……忘れてたの?」
「…ちょ、ちょっとカメラの場所を切り替えてみるか」
内山がリモコンのようなものを取り出して操作すると画面に映る場所が切り替わっていく。
「目を離した隙にどこへ……お?いたぞ!」
画面に佐世保艦隊らしき姿が映ったところで内山が操作を止める。
「位置的に艦攻を迎撃した地点から北上しただけか……ええと、拡大するぞ」
どうやら一度北上していたらしい佐世保艦隊。現在南へ向かって引き返しているように見える。
「何のために北上して……ん?」
画面が拡大されるにつれておかしな点が明らかになる。
「4人しかいない?……あと2人はどこへいった?」
ーーーーーー
「止まれ!」
敵の拠点を目指して北上していた呉艦隊は武蔵の号令で停止する。武蔵たちの北東、北西には大きな島がそれぞれ1つずつあった。島同士の間隔はだいたい200mほどである。
「ここは最初に敵を発見した場所ですね」
「この2つの島の間を通り抜ける時が危ない気がするな……」
島を見て何か嫌な予感がした武蔵はそう呟いた。
『ああ、襲撃を警戒しろ。全員いつでも撃てるようにしておけ』
全員が警戒体勢に入る。
「索敵しましょうか?艦戦もいないようですし」
「頼む。島の裏側が怪しい、敵が隠れているやもしれん」
蒼龍が偵察機を出し偵察機がそれぞれの島へと飛んでいった。それほど距離はないのであっという間に島の裏側へ到達する偵察機。
「……どうだ?」
「……いません。念のため、島の周りを2周します」
島の周りをぐるぐると回る偵察機。2つとも緑があり、野生動物がそこそこ生息していそうな島だ。
「島の裏側、沿岸、周囲に敵の姿はありません」
『もっと北の奥にいるという事か……?』
「少なくともここにはいないと判断して良いのでは?」
蒼龍の報告内容を聞いても武蔵の不安は消えなかった。
(何故だか嫌な予感がする……本当にここにはいないのだろうか)
「武蔵さん?」
「すまない、どうしても不安が拭えなくてな。いかにも敵が潜んでいそうな場所にいないとなると……」
「やはり武蔵もそう思いますか?私も正直なところ、先ほどから嫌な予感がしています」
呉艦隊の頭脳である霧島もどうやら気になっているらしい。
「拠点近くで待ち構えているって事じゃないんですか?」
(はたしてそうなのか?)
だが蒼龍が確かめた結果、島の周囲に敵の姿は見られなかった。彼女が見落としをするとも思えない。
(思い過ごしか……)
悩んでいても時間がもったいないと武蔵は迷いを捨てる。
「ここにいないのならば北しかあるまい。蒼龍は偵察機を回収、我々はこのまま引き続き敵拠点を目指して進撃する!」
『全員、武蔵に従え』
「「「「「了解!!」」」」」
そして呉艦隊が複縦陣で再び北へ進撃を開始し、2つの島を越えた時……海上に何かが見えた。最初に気付いたのは雪風と鳳翔だった。
「あれ?今何か光りませんでした?」
「私にも見えました。正面、12時の方向です」
周囲に警戒の目を向けていたメンバーもその言葉を受け一斉に北を見る。すると確かに複数の何かが光っていた。そのまま進み続ける武蔵たち。
「恐らくあれは……」
さらにそれらは段々と近付いて来ていた。
「……敵艦隊!光っていたのは艦載機か!」
「やはり北にいましたね!」
武蔵たちは目を凝らして遠くに見える敵艦隊を見る。ぼんやりと見える赤と白の巫女服が先頭に見え、その頭上から艦載機が飛んで来ている。
「あの巫女服、間違いない……!」
「正面からぶつかるつもりでしょうか?私の計算では搦め手を使ってくるものだと思っていましたが……」
アテが外れたと言った感じで言う霧島。
「敵艦隊頭上のあれは艦攻?艦攻による攻撃で崩れた所を攻めるつもりかもしれませんね」
「鳳翔と蒼龍は艦攻を出せ、敵の艦戦がいない今なら使えるはずだ!」
呉の艦攻が飛び立ち佐世保艦隊へと向かう。鳳翔たちは接近させた艦攻との視覚共有によって佐世保艦隊の様子を捉え……
「……っ!?」
「……!」
佐世保の艦載機と呉の艦攻がすれ違った瞬間、即座に打ち落とされる呉の艦攻により彼女たちは気付く。
「違います!敵の艦攻じゃない!?前方に見えるあれらはすべて敵の艦戦です!」
「何!?なら艦攻はどこだ!?」
(まさか目の前にいるのは囮という可能性は……)
そんな考えが頭をよぎった武蔵にさらなる報告がもたらされる。
「さ、さらに先頭艦は恐らく旗艦の金剛じゃありません!姉妹艦の榛名です!」
よく見れば巫女服姿の艦娘は1人しか確認出来ない。鳳翔の報告が正しければ金剛は前方の艦隊にいない事になる。
「……な!?」
───今回の演習において武蔵たちが最も警戒していた艦娘が1人。それが金剛であった。
ーーー演習開始前ーーー
「よし、開始場所に着いたな」
「まだ少し時間がありますし軽い作戦会議でも行いませんか?」
霧島の提案に頷く呉の艦娘たち。
「……そうだな、今回の演習で注意するべき事ぐらいは話しておいた方がいい」
「ええ」
「注意するべき事……ですか」
「お前たちは今回の敵の中で誰が最も危険な存在かきちんと理解しているか?」
「最も危険……2つ名持ちの艦娘ですか?」
「合っているがその中で1人に絞るとすれば誰だ?」
武蔵の問いに様々な反応を見せる呉の艦娘たち。霧島は当然分かるという風にメガネをクイっと上げ、鳳翔は頷く。だが蒼龍、那智、雪風の3名は結論が出ないらしく首を傾げている。
「うーん……」
「3人とも危険だと思うのだが」
「……雪風分かりません」
「即答出来ないメンバーもいるようだな。霧島、教えてやれ」
「はい、今回の演習で最も警戒しなければならないのは金剛お姉さまです」
「何故そこまではっきりと言えるのだ?」
自信を持ってそう言った霧島に那智が尋ねる。
「その理由は金剛お姉さまの得意とする戦法にあります。那智さんも聞いた事ぐらいはありますよね?」
「……遠距離では並みより劣るが近距離では強い異例の戦艦だったか」
「ええ、わざわざ自分から近付いて戦う……一見戦艦としてのメリットを捨てた戦法のように見えますが実行出来ればとても有効な戦法です」
「……」
「そりゃ私も最初にこの話を聞いた時は『ああ、その金剛お姉さまはきっと脳味噌が筋肉で出来ているに違いない』と呆れたものですよ。ですが実際あの金剛お姉さまは接近戦において無類の強さを誇る。その事から〈レンジ・ゼロ〉、〈ゼロ・ファイター〉なんて呼ばれる事もあります」
「那智、想像してみろ、密集隊形をとる艦隊のど真ん中に敵艦が1人紛れ込んだらどうなる?」
「1人で突っ込んで来るなど自殺行為だと思うが……」
「その自殺行為をとるのが今回の金剛だ。敵陣の中にたった1人……袋叩きに出来ると思うだろうが実は違う。入られた時点でその艦隊は崩壊する」
「ど、どういう事ですか?」
雪風が手を上げて質問する。
「撃てないんだよ」
「え?」
「自分が撃った敵の背後に味方がいたら同士討ちが発生するため、味方に当てる事を恐れて迂闊に撃てなくなる。逆に敵からすればどこを撃っても自分の獲物に当たるわけだ……どれだけ厄介か分かるな?」
「そして砲の角度的に当てる難易度が跳ね上がります。私たちは普段、そんな射撃をしていませんからね」
「簡単に倒れない戦艦としての耐久力、近距離で食らえばただではすまない戦艦の主砲、そしてやつは戦艦であると同時に高速艦でもある」
ようやくその脅威が正しく理解出来てきたらしく、那智たちは顔を真っ青にしていた。
「呉で一番砲撃精度の高い霧島と応用の利く那智に対処を任せる。いいか───絶対に近付けさせてはならんぞ」
「はい」
「……分かった」
張り詰めた空気が流れる中、彼女たちの提督から通信が入る。
『……こちら本部、無事配置につけたか?』
「ああ……ちと空気が重いがな」
『何かあったか?』
「那智たちにあちらの金剛の説明をしたんだが……」
『それで緊張してしまったと……まったく』
「すまない」
『……いいかお前たち、よく聞け。お前たちは呉の顔だ、俺の誇りだ、勇敢な者たちだ。何も恐れる事などない、最後の瞬間まで闘志を燃やし全力で戦ってくれればそれでいい。俺はお前たちに文句など何一つ言わない……褒める事はするがな』
《……》
『呉の第一艦隊とはどういうものか見せてやれ、俺からはそれだけだ』
彼が話し終えた時……不安そうな顔をしている者はもういなかった。
ーーー
金剛の姿が見えない事に全員の警戒レベルがさらに引き上げられる。
(一番危険な金剛がいない?やつはどこにいる!?)
すると突然霧島が鋭く叫んだ。
「しゃがみなさい蒼龍!」
「えっ!?」
反射的にしゃがんだ蒼龍の上を霧島が放った砲弾が通る。武蔵はその軌道を目で追い、霧島が何を撃ったのかを知る。
「───何故金剛がそこにいる?!」
ーーーーーー
ほんの少し前───武蔵たちが嫌な予感を感じていた頃、金剛はずっと彼女たちの様子を窺っていた。
「Hmm……陣形は複縦陣、先頭艦は武蔵と霧島の2人、後続は鳳翔、蒼龍、那智、雪風の順番デスネ」
敵が偵察機を出した事に気付き彼女は身を潜める。偵察機が島の周囲をぐるぐると回り出した。
(ま、島があったら当然そこを警戒シマスヨネ……デモ)
やがて確認が終わったのか戻っていく偵察機。
(……ちょっとヒヤヒヤシマシタ)
呉艦隊は少しの間何か話していたようだがやがて島から視線を切り進撃を開始、金剛はずっとそんな彼女たちを見ていた。
(付近にはいないと判断したみたいデスネ……)
ゆっくりと彼女は行動を開始する。
(島の裏側、沿岸、周囲……
「ワタシたちは船である前に人間……」
消していた艤装を再展開。彼女はうっすらと笑いながら敵艦隊へと歩みを進める。
(
「古い常識にとらわれていてはテートクには勝てマセンヨ」
そして狩人が島を飛び出した。
改めて考えると金剛さんはヤバい。そして武蔵が欲しくなってきた……大型建造……ダメだ!イベントが来てしまう!弾薬が一向に増えません!
やっと艦隊戦入ります。
次回、決着。