皐月と提督とバーニングラブ×2   作:TS百合好きの名無し

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これ書いてる間ずっと「飛龍の反撃」系3曲を聴いてました。やっぱり神BGMですよね。

飛龍さん頑張る……の回。


演習 VS呉鎮守府3「飛龍の反撃」

 

 

 

「金剛お姉さま……あれは全部で何機いると思いますか?」

 

 

 すでに目視出来る敵の艦攻。大きく横に広がった艦攻たちはまるで大きな鳥のようにも見える。

 

 

「恐らく40機ほどいるネ……」

 

 

「そんな……」

 

 

「……」

 

 

「どうシマスか?コマンド、オーバー」

 

 

『……艦攻の目の前に姿を晒せ』

 

 

「What!?」

 

 

『その場所では身動きが取れない!輪形陣だ!急げ!』

 

 

「は、ハイ!皆さん!」

 

 

《了解っ!!》

 

 

 金剛に続いて一斉に島の影から出る佐世保艦隊。敵の艦攻が彼女たちに狙いを付ける。

 

 

『榛名を先頭へ!』

 

 

「えっ」

 

 

『お前に載せた照明弾の出番だ、敵が降下するタイミングで目の前にぶちかませ!』

 

 

「……ここで照明弾?」

 

 

 暁が戸惑ったように言う。

 

 

「勇兄がやれって言ってるんだ、頼むよ榛名さん!」

 

 

「で、ですが……」

 

 

『総員対空戦闘用意!』

 

 

「榛名、テートクを信じてあげてくだサイ」

 

 

「そろそろ来るっぽい!」

 

 

(……そうだ、迷っている場合じゃありません)

 

 

 照明弾を装填し榛名は40機の艦攻を睨みつける。

 

 

(……降下の瞬間を……)

 

 

 砲門を空へと向ける。

 

 

(……距離約2000m)

 

 

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

(敵艦隊補足!)

 

 

(……島の影から出てきましたね)

 

 

 艦攻に攻撃準備をさせる鳳翔たち。佐世保艦隊が隊列を組んでこちらの艦攻を見ている。

 

 

(……輪形陣、こちらを正面から迎え撃つつもりですか)

 

 

「飽和攻撃を仕掛けましょう」

 

 

「ええ」

 

 

 敵艦6隻に対して40機の艦攻によるやりすぎとも言える攻撃。完全な飽和攻撃であり、回避などそうそう出来るものではない。

 

 

「逃がしませんよ」

 

 

 

 

「弾幕薄いヨ!よく狙って!」

 

 

「この…ちょこまかと!」

 

 

 金剛たちが機銃を掃射する中榛名は深呼吸、自身の役割に集中する。

 

 

「距離1500m……1200m……」

 

 

 狙いを正確に絞っていく。

 

 

(提督は目の前でぶちかませとおっしゃっていました……つまり敵の艦攻の真っ正面で照明弾を炸裂させよという事)

 

 

 素早く思考し砲門をかなり下げて調整。南の空を埋め尽くす敵艦攻はみるみる迫ってきている。

 

 

(全員、守ってみせます!)

 

 

 そして彼女は照明弾を───

 

 

 

 

(1200m……魚雷用意)

 

 

(佐世保の弾幕がすごい…でもそれじゃ全部は落とせないよ!) 

 

 

 敵の対空機銃攻撃を避けて接近させる。

 

 

(1000……800…そろそ───)

 

 

 

「ここです!!」

 

 

 

 それはまさに鳳翔たちの艦攻が魚雷の投下に入ろうとした時の出来事であった。

 

 

 榛名の4つの砲が装填された弾を撃ち出す。撃ち出された砲弾は艦攻たちの目の前で炸裂した。

 

 

(先頭艦が砲で攻撃?───ッ!?)

 

 

 瞬間、激しい光が艦攻と視覚共有していた鳳翔と蒼龍の両目を焼いた。

 

 

「あぐっ!?」

 

 

「うぁっ!?」

 

 

 

 

「ワオ!最高ネ榛名!」

 

 

「当てやすくなったっぽい!」

 

 

「ったく、何が『照明弾』よ!」

 

 

「『閃光弾』の間違いじゃないの!」

 

 

「相手にも目潰し……」

 

 

 照明弾が炸裂し、目に見えて動きの悪くなった艦攻を見事な射撃で撃ち落としながら各々が叫ぶ。

 榛名もすぐさま三式弾を装填し対空戦闘に参加する。

 

 

『よし!飛龍は今の内に烈風を戻せ!体勢を整える!』

 

 

「りょ、了解!」

 

 

 撃ち落とされていく艦攻だが数を生かして扇状に数十本の魚雷を放ってきた。

 

 

「金剛さん、榛名さん、飛龍さんは下がって!」

 

 

「出来るだけ相殺してみる!」

 

 

「金剛さんたちは夕立たちが守るっぽい!」

 

 

 金剛たちの前に飛び出した暁、川内、夕立の3人は一斉に扇状に魚雷を発射する。

 魚雷同士が衝突して無数の水柱が上がり、前方が何も見えなくなった。しかしそれでも相殺しきれなかった魚雷が暁たちに命中する。

 

 

「痛っ……」

 

 

「痛たたた……あー、魚雷発射管がダメになったよ」

 

 

「夕立は機銃が壊れたっぽい」

 

 

「だ、大丈夫ですか皆さん!」

 

 

「演習弾だもの……へっちゃらだし」

 

 

「あの数の艦攻に襲われて1人も大破してないんだから上々だよ」

 

 

「ぽい!」

 

 

『コマンド、被害状況を伝えてくれ、オーバー』

 

 

「金剛、……被害は暁が中破、川内が中破と魚雷発射管の損傷、夕立が中破と機銃の損傷デス、オーバー」

 

 

『コマンド、3人とも中破……大破よりはマシか。敵機はどうなった?オーバー』

 

 

「撤退していきマス……」

 

 

『よし、ではこれからの作戦を説明する。全員しっかりと聞いてくれ。まず────』

 

 

 

 

 

 

「どうしたお前たち!?」

 

 

 小さな悲鳴をあげ、突然目を押さえて苦しみだした空母の2人に武蔵が近付く。

 

 

「目が……」

 

 

「す、すみません……」

 

 

「……何があった?」

 

 

「……艦攻の攻撃の直前で小さな太陽のようなものが4つ目の前に出現したんです」

 

 

「はあ?太陽だと?」

 

 

 蒼龍の発言に武蔵が驚いたように聞き返す。

 

 

「恐らく正体は強力な照明弾ではないかと……油断しました」

 

 

 鳳翔が目を押さえて言う。

 

 

『……昼戦から照明弾だと?』

 

 

「成功させた敵もあっぱれだが攻撃そのものの結果はどうなったのだ?」

 

 

 那智が質問する。

 

 

『鳳翔、教えてくれ』

 

 

「……魚雷は全て投下、激しい水柱が上がったため敵の姿が隠れてしまいましたがあの魚雷の数です、間違いなくダメージは与えたはずです」

 

 

『艦攻はどれだけ残っている?』

 

 

「7割ほど残り今は帰還させている所で、敵は追ってきません」

 

 

『では第二次攻撃は可能だな?』

 

 

「はい」

 

 

(目は少しずつ良くなってきましたし、艦攻もまだ十分残っている。ただ……)

 

 

「……」

 

 

(どさくさに紛れて敵の艦載機がいつの間にか離脱していますね)

 

 

 

 

 

 

「何だありゃ?あの戦艦の娘は一体何を……」

 

 

 40機の艦攻による飽和攻撃を生き延びた佐世保艦隊を見て内山が驚いたように言う。

 

 

「あれは照明弾だよ」

 

 

「……照明弾?にしては眩し過ぎる気がしたが」

 

 

「ウチの明石さんが手を加えたらしいからね。きっと提督は最初からこのために使うつもりで榛名さんに持たせたんだ」

 

 

「よく当てられたなあ榛名さん……!」

 

 

「榛名さんはいつも頑張っているのです!」

 

 

 画面を見て皐月と電が喜ぶ。

 

 

「制空権の確保が難しいからと保険をかけていたってわけか……これ以上ないベストタイミングで炸裂させた榛名って娘もやるな」

 

 

「照明弾を昼戦に使うって発想がそもそもおかしいんだけどね。まあそれが僕たちの提督さ」

 

 

 時雨が苦笑する。

 

 

「あー、確かに士官学校でもあいつの作戦には頭おかしいのがいくつかあったな……」

 

 

「これで一度目の艦攻による攻撃を耐えたわけだけどまだ終わっていないよ」

 

 

「制空権は依然として呉がとっ……ん?佐世保の艦載機がいない……離脱させたのか?」

 

 

「反撃のために体勢を整えるつもりじゃないかな」

 

 

「……もう一度航空戦を挑む気力が空母の娘にあるのか?艦戦だってもうあまり残っていないはずだ。普通あそこまでコテンパンにやられたら自信を喪失しそうな気がするが」

 

 

「それは……」

 

 

「飛龍さん……」

 

 

 皐月と電が不安そうな顔をしたが時雨は違った。

 

 

「3人とも、飛龍が出した艦載機の数を覚えているかい?」

 

 

 全員が時雨を見て答える。

 

 

「30数機に見えたぞ」

 

 

「確か飛龍さんの烈風は36機だった気がする」

 

 

「なのです」

 

 

「そう、36機だ」

 

 

「その8割ほどがもう撃墜されちまったじゃねえか。残り数機でどう戦うんだ?」

 

 

「……あれ?」

 

 

「あっ」

 

 

「……どうしたんだお前ら?」

 

 

「修さん、飛龍の艦載機搭載数は79機だよ」

 

 

「79機……30機以上撃墜されてあと半分は艦攻……なんて事はないか。まだ出していない艦戦があるという事か?いや、載せているなら普通最初から出しているはずだ。もう艦爆、艦攻といった攻撃機しか残ってないんじゃ?」

 

 

「修さんは知らないだろうけれど飛龍は友永隊に並ならぬこだわりを持っていてね、いつも攻撃機は艦攻の友永隊しか載せてないんだ。そして飛龍の友永隊は少数精鋭。きっと今回もそうだろうから間違いなく艦戦……紫電改二がまだ残っているはずだ」

 

 

「何故最初から使わなかったんだよ?」

 

 

「答えなら内山さんが言ったじゃないか『艦載機ってのは数が増えれば増えるほど一機一機の動きに精彩を欠くらしいからな』とね。数を増やしても全てを同時に上手く操れなければ意味がないんだよ」

 

 

「なるほど……鳳翔さんたちの艦戦の練度をそれだけ警戒していたのか。確かに1人と2人じゃ総合的な容量で負けているもんな」

 

 

「それと飛龍のメンタルについてだけど……彼女は逆境であればあるほど燃えるタイプだよ」

 

 

 時雨は画面に目を向けてニヤリと笑う。

 いつの間にか画面のどこにも佐世保艦隊は映っていなかった。映るのは影一つない海と周囲の島々のみ。内山もそれに気付く。

 

 

「ど、何処に消えたんだ?」

 

 

「さあ、佐世保の反撃開始だ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 あの後出された提督の指示により、飛龍はある場所で身をひそめて通信を行っていた。

 

 

「飛龍、配置につきました、オーバー」

 

 

『コマンド、了解……いけそうか?』

 

 

「……」

 

 

『……突然の奇襲に太陽を使った目潰し、見事なコンビネーション、一気に艦載機を落とされてひどく動揺したのは分かる』

 

 

 ゆっくりと提督は話しかける。

 

 

「……」

 

 

『これほどお前が苦戦する相手は最近じゃいなかったからな。自信を喪失していないか心配だ』

 

 

「制空権……取り返せるでしょうか?」

 

 

『そりゃお前次第だ。俺は指示を出すだけだからな』

 

 

「ズルいです……こっちは必死なのに」

 

 

『……』

 

 

「〈空の女王〉とその弟子を私1人で相手しなきゃいけないんですよ?練度は互角以上なのに数の不利もあって……キツいですよ」

 

 

『……くくく』

 

 

「……何ですか?」

 

 

『あー、お前が今どんな顔してるのか簡単に想像出来てな』

 

 

「そこからじゃ見えないですよね?」

 

 

『多分今笑ってるだろお前』

 

 

「……」

 

 

『ここ一年こんな相手とやり合う事なんてまず無かっただろうからな。少し物足りないと感じていたはずだ』

 

 

「……」

 

 

「闘争心……かなーり刺激されたんじゃないか?」

 

 

「……正解」

 

 

 雲の隙間から差し込んだ太陽の光が飛龍の顔を僅かに照らす。彼女は提督の言う通り獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 

『敵は自分以上かもしれない先輩空母と弟子だが勝てるか?』

 

 

「聞くまでもないよ。もう目も治ったし今から使うのはこの紫電だよ?」

 

 

『お前本当にその紫電気に入っているよな』

 

 

「思い出の艦戦だからね」

 

 

 そう言って飛龍は微笑み、紫電の矢を優しく指でなでる。

 

 

『……』

 

 

「昔、提督って本当に兵装開発の運が無くてずっと失敗か低レベル装備ばっかり開発してたじゃん?私も今よりずっと性能の劣る艦載機を使ってたし」

 

 

『……神の見えざる手が働いていたに違いない』

 

 

「ふふっ、でもさ……ある時この紫電改二の開発に成功したんだよね。あの時の提督のはしゃぎようは今でもよく覚えてる。『やったぞ飛龍!紫電改二が出た!ペンギンでも、すでに山のようにある彗星と水上偵察機でもない!紫電改二だぞ!本物だ!初の大成功だ!!』ってね」

 

 

 無駄に上手い声真似をする飛龍に通信機の向こうで提督が咳き込む。

 

 

『ま、まだ覚えているのか……』

 

 

「それで、『さっそく使ってみよう!きっとお前の役に立つはずだ!というか飛ばす所を見せてくれ!』って言って私を出撃させたよね。私、休日だったのに」

 

 

『す、すまん……』

 

 

「飛ばしてみて私もその性能に驚いたよ。後で資材をかなり使っていた事が発覚して提督は金剛さんに怒られていたけど」

 

 

『し、仕方ないだろ……なるべく早くお前にいい装備を与えてやりたかったんだよ』

 

 

「まあ、あの日からずっと私はこれを使っている。今じゃこの紫電は私に一番馴染んでる艦載機だよ……友永隊よりもね」

 

 

『……友永隊よりも?』

 

 

「友永隊も大切だけど、この紫電は提督が私のために必死で用意してくれた大切な艦載機だもの。ちょっとだけ特別」

 

 

『そう言われるとなんだか照れるな』

 

 

「……制空権、とってみせるから」

 

 

『ああ』

 

 

「……」

 

 

『飛龍』

 

 

「何?」

 

 

『俺の中で最強の空母はお前だけだ』

 

 

「知ってる」

 

 

『お前の実力を見せつけろ』

 

 

「当たり前よ」

 

 

『制空権をとれ』

 

 

「了解」

 

 

 飛龍は構えると弓に矢をつがえ引き絞る。強く、強く、強く。

 

 

「……」

 

 

 笑みは消え、凛とした表情になる彼女。

 

 

(負けられない……)

 

 

 キリキリと弓弦が悲鳴のような音を上げる。

 

 

「発艦!」

 

 

 射る。目にもとまらぬ速さで飛んでいく矢はやがて18機の紫電へと姿を変える。

 

 

「返してもらうよ制空権」

 

 

 

 

 

 

 艦攻を帰還させた呉の艦隊は佐世保艦隊がいた場所を目指して進んでいた。

 

 

「おかしい……」

 

 

 佐世保艦隊がいた場所へと偵察機の彩雲を3機飛ばして索敵を行っていた蒼龍が訝しげに呟く。

 

 

『どうした蒼龍?』

 

 

「佐世保の艦隊がいません!消えました!」

 

 

『消えただと?周囲にもか?』

 

 

「まだ遠くの方は見ていませんが、少なくとも先ほどまでいた場所には姿が見えません」

 

 

『……場所を変えて奥に逃げたのか?』

 

 

「どうしますか?」

 

 

『索敵をしながら進路はそのままだ。拠点を目指す』

 

 

「了解……っ!?」

 

 

「……っ!?」

 

 

 突然様子の変わった蒼龍と鳳翔に気付いた武蔵が尋ねる。

 

 

「何があった?」

 

 

「こ、こちらの艦戦が突然攻撃を受けました」

 

 

「……気を抜いていましたね」

 

 

『まだ艦戦を残していたか……叩き落とせ』

 

 

「「了解」」

 

 

(くっ、油断してた……それに)

 

 

(……やはり万全の状態では敵の動きがとても良いですね)

 

 

 

 

 

 

(よし!最初の攻撃は成功した!)

 

 落ちていく敵艦載機を確認しながら飛龍は自身の艦載機に指示を出す。

 飛龍が最初に仕掛けたのは相手よりも高い高度からの奇襲である。

 

 高度と速さを生かして一撃離脱戦法を仕掛けていく。

 

(……今ので8機ぐらい落とせたけど)

 

 さすがに相手の数が多く、あっという間に取り囲まれる飛龍隊。

 

(ここからは甲乙丙で分ける!)

 

 飛龍は隊を甲、乙、丙の各6機編成3つの隊に分ける。甲隊を左へ、丙隊を右へそれぞれブレイク、乙隊は真っ直ぐ飛ばす。

 

(勝負!)

 

 

 

 

「蒼龍さんは右の隊を。私は隊を2つに分けて左と真ん中の隊をやります」

 

 

「分かりました!」

 

 

(さて……)

 

 現在、鳳翔隊が飛龍隊甲を追いかけている状態。だが、飛龍隊甲が急旋回を繰り返すために背後をとりきれない。

 

(厄介ですね……速度差がない)

 

 お互いがお互いを前へ押し出そうと急旋回を繰り返す泥沼のシザース戦。

 完全な拮抗状態となってしまっている。

 

(こちらはともかく……)

 

 

 意識を飛龍隊乙を追う鳳翔隊に移す。

 

(こちらの方が高度が高い)

 

 真っ直ぐ水平飛行をする飛龍隊乙を上から見下ろす鳳翔隊。獲物に狙いを付けようとして鳳翔は違和感を感じる。

 

(……?……おかしい!敵機の速度が増している!?)

 

 予想よりも速い敵機に気付く。

 

(何故水平飛行で速度が……!)

 

 鳳翔は気付いていなかったが飛龍隊乙は初めから完全な水平飛行などしていなかった。気付かれないように機首を下げ、確実に速度を稼いでいたのだ。

 

(くっ……!)

 

 慌てて撃った機銃は何もない場所を通り過ぎる。

 

 

 

 

(今さら気付いても遅いよ)

 

 飛龍隊乙は稼いだ速度を利用し、機体が悲鳴をあげるようなピッチアップ。鳳翔隊を正面にとらえ……

 

(……お返しっ!)

 

 すれ違いざまに機銃を鳳翔機に叩き込む。

 

(3機撃墜被害はなし!…追撃!)

 

 上へ逃れようとする鳳翔隊を追随し、射線にとらえようとする。

 姿勢が水平になった所で射線から逃れようと機体を横滑りさせた鳳翔隊。

 

(逃がすか!)

 

 飛龍隊乙が樽の表面をなぞるような螺旋を描いて動き、鳳翔隊の背後を完全にとる。火を吹く機銃に鳳翔機が落とされていく。

 

(よしっ!次は丙隊の方だ!)

 

 

 

 

(完全がしてやられました……最後のバレルロールも綺麗に決められてしまいましたし……)

 

 鳳翔は顔をしかめる。

 

(それにしても臆さず正面からすれ違いざまに射撃とは……)

 

 完全に不意を突かれて鳳翔は反応出来なかった。

 

(このままではマズい……)

 

 

 

 

(何なのこの艦載機は!?)

 

 飛龍隊丙を追う蒼龍隊は先ほどから攻撃を上手く当てられずにいた。

 

(動きが全然違う……)

 

 宙返りに入った飛龍隊丙を追ってこちらも宙返り。

 

(………!)

 

 蒼龍隊は普通に宙返りしたのに対し、飛龍隊丙は宙返りの頂点で強引に機体をロールさせてさらに宙返り。一気に上をとった。

 

(不利……!)

 

 降下し加速した飛龍隊丙が上から襲いかかった。何機かは回避に成功するが数機撃墜されてしまう。

 

(この……!)

 

 

 

 

 

 

「押してる!」

 

 

「完全に飛龍さんのペースなのです!」

 

 

 紫電の奮闘ぶりに歓声を上げる皐月たち。時雨は満足そうに頷いている。

 

 

「やっぱりやられっぱなしでいたら飛龍じゃないね」

 

 

「……すっげえ」

 

 

 内山は画面に映る多数対多数の大空中戦を食い入るように見ていた。こんな戦闘はめったにみられるものではないと思ったのだ。

 

 

「うん……紫電を使っている時の飛龍は本当に強いよ」

 

 

「烈風とは何か違うのか?」

 

 

「紫電は飛龍にとって思い出のある大切な艦載機……だから気合いの入り方が違うんだろうね」

 

 

「「「え?」」」

 

 

「飛龍も乙女な女の子って事さ」

 

 

 

 

(……そろそろか)

 

 飛龍隊甲乙丙それぞれの戦況を確認する。多数の艦載機を同時に操る負担が頭痛として彼女にやってくる。

 

(さすがに全力で同時に動かすとキツい……)

 

 プレッシャーに駆け引きに精密な同時操作……彼女が負う負担は並のものではない。

 

(くっ、まだ気を抜くな!)

 

歯を食いしばって痛みに耐える。

 

(3つの隊それぞれが戦っている相手の動きに少しずつ無駄が増えてきた……) 

 

 相手の艦載機の動きに焦りのようなものを感じた飛龍は一つ仕掛けてみることにした。

 ワザと高度を落とし相手の前へ躍り出る飛龍隊甲乙丙。出来るだけ操作を誤ったかのように見せかける。

 

(相手が冷静さを取り戻す前に……!)

 

 

 

 

 

 飛龍隊の自殺行為を見た鳳翔は頭痛に耐えながら思考する。

 

(これは……操作ミス?……そうですね、これほどまでの艦載機操作を同時に行えば彼女の負担もかなりものとなっているはず……)

 

 舞い降りたチャンスにより飛龍隊甲乙の背後をとった鳳翔隊。

 

(チャンスをものにしましょう)

 

 飛龍隊甲乙が宙返りの動作に入った。

 

(終わりです!)

 

 鳳翔隊が追随する。

 

 

 

 

(前に出てきた!?……限界がきたのかな?)

 

 さんざんこちらを振り回してくれた飛龍隊丙が蒼龍隊の前に躍り出た。

 

(やってやる!)

 

 宙返りに入った飛龍隊丙。

 

(逃がさない!)

 

 蒼龍隊も追って宙返りに入る。

 

 

 

 鳳翔たちの艦載機は飛龍の艦載機の後を追う。

 

 ……それが仕組まれた罠だとも知らずに。

 

 

 

 

(来い来い来い!!)

 

 自機の後ろに敵機がいる事を確認する飛龍。

 

(乗ってきた……次に自機の状態も確認!)

 

 自機を宙返りに入らせる。

 

(集中っ!)

 

 鳳翔隊たちも宙返りに入るが、飛龍隊の宙返りはただの宙返りではない。

 

 

 

 

(宙返りが終わった所に一斉射撃で落としましょう)

 

 自機に宙返りをさせながら鳳翔は思考する。

 

(……?)

 

 宙返りの後の行動について考えていた鳳翔はふと飛龍隊の宙返りに意識を向け───

 

(何かこれは……痛っ!)

 

 だが頭痛がその思考を遮る。鳳翔隊は普通の宙返りを行う。

 

(……!?)

 

 そして鳳翔は悟る。

 

 

 

 

 同じく宙返りをさせている蒼龍。

 

(頭が痛い!)

 

 かかっている負荷により蒼龍はかなり消耗していた。

 

(でも……宙返りの後でボコボコよ!)

 

 攻撃を外さないために素早く気持ちを落ち着けようとし───

 

(……あれ?これ…普通の宙返りじゃな───!?)

 

 

 

 

 飛龍は必死で痛みに耐え続ける。

 

(ぐぅっ!頭が割れそうっ!)

 

 左横滑り。

 

 普通の宙返りよりも高い高度。

 

 刻々と変わる18機もの艦載機の状態を完全に把握し、失速寸前を維持して機体をコントロール。

 

(左……)

 

 ななめ宙返り。宙返りを終える頃には敵機の姿が自機の目の前に。

 

(捻り込みぃっ!)

 

 一瞬で好守が逆転する。

 

「徹底的にっ」

 

 機銃を掃射。

 

「叩きますっ!!」

 

 

 無防備に後ろを晒す敵機を飛龍隊が一斉に叩き落とした。

 

 

 

 

 

 




こんなに書くのが難しいとは……
今まで書いてこなかった航空戦の描写にさんざん苦しめられました……
飛龍万歳!!皆さんとって初の高レアリティ艦載機って何でしょうか?私は紫電改二です。未だに烈風の開発に一度も成功した事がありません。ヒャッハーさんが改二で持って来てくれた一つのみです(泣)。毎日のようにレシピ回してるのに……神の見えざる手が働いているに違いない!

飛龍ファンもっと増えてくれ。いや、二航戦ファンもっと増えてくれか。二航戦の時報を聞いてみればドハマりする人多そう。きっと幸せになれますよ。蒼龍とかノリが完全にJD。リアルの艦これでケッコン後ボイス聞いて幸せになりました。


ここからは蛇足。
唐突なカミングアウトをいたしますと私は今この作品を書いておりますが、当初は普通(普通って何だ)の艦これ作品じゃなくてTS・転生ものを書くつもりでした。他の作者さんたちの作品を読んでいる内にああいうのが大好きになってしまったので(創作意欲が刺激され)……
序盤の設定集と書き終わっているプロローグが今も放置されているのを今日発見し、もったいないなあと少し思いました(書いたら投稿したくなるという私の病気)。
……皆さんはこういうの好きなんだろうか?

長文失礼しました。所で今回の戦闘描写は読みにくくなかったでしょうか?それとなく感想で言っていただけると嬉しいです。

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