『榛名をそちらで引き取りたい?』
「ええ、彼女の意思は確認しました」
佐世保鎮守府に戻った飯野は執務室で元帥と電話で話をしていた。
『そうか、彼女は卑田中将にあんな目に遭わされたばかりじゃ。しっかりケアしてやって欲しい』
「了解です。・・・・・・ところで、卑田の他の艦娘はあの後どうなったのですか?」
「・・・・・・ほとんどの艦娘が解体を希望したよ」
「・・・・・・そうですか。卑田はどうなりましたか?」
『艦娘に過度な暴行を加えたこともそうじゃが、自分に逆らったりした気に入らない艦娘を闇市に売ったりと酷い奴じゃった。艦娘の私物化の罪も足されて牢屋行きじゃ。もう出てくることはないじゃろう』
「あいつは何故あそこまで艦娘を酷く扱っていたのでしょうか?・・・・・・特に駆逐艦への扱いが酷すぎます。まるで憎い相手を見ているかのような目でした」
『調べて分かったことじゃが、卑田中将は過去に妻と子供を深海棲艦の襲撃で失っておった。当時、国外に旅行に行っていた彼の妻たちは深海棲艦の発生を知り、慌てて日本へと船で帰国しようとして深海棲艦の襲撃に遭ったらしい。その時艦娘も護衛に就いていたのじゃが軽巡一隻と駆逐艦5隻しかいないところに、戦艦や空母をはじめとする艦隊に襲われ、なすすべもなく船は沈められたそうじゃ。それ以降、彼は駆逐艦を[自分の妻と子供を守れなかった役立たず]という目で見るようになったのじゃろうと思う。彼にとっては他の艦娘も[自分の大切な人を守ってくれなかった奴らと同じ存在]と考えていたのじゃろう』
「・・・・・・そうですか」
『確かに当時の艦娘が彼の家族を守れなかったのは事実じゃ。だからといって艦娘を虐げることが許されるわけではないがな』
「はい」
『そういえば、時雨たちはどうなっておる?』
「ああ、今から彼女たちのために勝利の祝いと感謝のための祝勝会を行おうとしているところです」
『今回の件でお前の知名度は上がった。彼女たちを受け入れてはどうだね?』
「・・・・・・正直、まだ正体を明かすのが怖いです。久しぶりに会った彼女たちは動きはするものの、死んだような目をしていたんです。俺の都合で1年も彼女たちを放っておいて、そのまま横須賀第二支部の提督を辞めた俺を許してくれるのかどうか・・・・・・それに今では飯野勇樹として彼女たちと打ち解けることが出来ましたが、まだ会っていない娘がいます」
『・・・・・・金剛か』
「ええ」
『横須賀第二支部を辞めることになったのは儂が佐世保の提督に任命したせいじゃし、そこまで気にせんでよい』
「・・・・・・彼女たちを待たせているので失礼します」
『早く彼女たち全員を喜ばせてやるのじゃぞ?』
「分かっています。では」
飯野は電話を切ると祝勝会の会場へと向かった。
ーーーーーー
会場にはすでに俺と電が作った料理が所狭しと並んでいた。皐月が最初に俺に気付き、声を上げる。
「あっ!司令官!」
「おう、みんな榛名とは仲良くやってくれてるか?」
「もちろんなのです!榛名さんはとってもいい人なのです」
「その通りっぽい!」
「て、提督・・・・・・」
「それはなによりだ。よし!それじゃ、これより今回の演習の勝利のお祝いと時雨たちへの感謝を込めて祝勝会を行う!俺と電が腕によりをかけて作った料理だ。たくさん食べてくれ!それではーーー乾杯!!」
「「「「「「かんぱーーーーい!!」」」」」」
はしゃぐ皐月たちを見ながら俺は料理を口にする。
「うん。ちゃんと美味しく出来ているな」
「飯野提督、ちょっといいかい?」
料理を持った時雨が俺の前にやってきた。
「時雨か、どうした?」
時雨はジトッとした目を向けてきた。何だ?
「榛名さんに何をしたんだい?飯野提督のことを話している時のあの顔、あれはどう見ても恋する乙女の顔だと思うんだけど?」
「何って・・・・・・ただ目の前で中将を殴った後、彼女を抱き締めて背中をさすってあげただけだが?」
「何か言ったりしたのかい?」
「ええと、美しいとかもう大丈夫だとか言っただけだぞ」
「うわあ・・・・・・そんなことをされればそりゃああなるよ」
「美しいのは事実だし実際可愛いだろ」
「はぁ・・・・・・まあ、飯野提督がロリコンじゃないようで安心したよ」
「何でそうなる!」
「皐月や電をやたらと可愛がっているからね」
「それでロリコン扱いなのか・・・・・・」
「ま、そんなことはどうでもいいんだけど」
「何しに来たんだよ・・・・・・」
「僕が聞きたいのは演習で最後に皐月が見せた
「アレ?」
「榛名さんが急に皐月をうまく狙えなくなったんだ。榛名さんの話では動き出しが全く分からなくなって、その上まるで部分的に瞬間移動しているかのように見えたそうだよ。実際僕もチラリと見た感じ、同じことを思った。」
「ああ、アレか。アレは[すり足]や[縮地法]などに艦娘の身体能力を組み合わせて応用したものだ。特殊な体の動かし方によって相手の意表を突き、相手の意識をそらした瞬間に艦娘の脚力で海面を蹴ったりして移動することによってあたかも急にこちらが瞬間移動したかのように見せる技だよ。航行速度を急に上げ下げしたりするのも使ってたと思うけど。皐月が実戦で使えるようになっていたのは驚いたがな」
「飯野提督が教えたのかい?」
「ああ。皐月は本当に天才だよ。まだまだ未熟だけどな」
「・・・・・・僕はそれと同じものが出来る艦娘を知っている」
時雨が急に真剣な眼差しになる。
「・・・それはすごいな」
「その技は
「・・・・・・へぇ」
「飯野提督は僕たち横須賀第二支部の四天王について詳しすぎる。何故君は僕たちをそこまで詳しく知っているんだい?」
「・・・・・・いずれ分かるよ」
「教えてくれないのかい?」
「すまん。今はまだ心の準備が出来ていない」
「・・・・・・」
「確か、お前たちは明日で横須賀第二支部に帰るんだったよな?」
「・・・・・・うん」
俺は懐から手紙を一枚取り出すと時雨に差し出した。
「これを」
「これは・・・・・・?」
「お前たちのところの金剛に渡してくれ」
「・・・・・・分かったよ」
「いずれちゃんと話すから今は祝勝会を楽しんでくれ」
「うん、分かったよ」
まだ納得しているように見えないが、ここ切り上げさせてもらおう。
「ところで、それ俺が作った料理なんだが美味しく出来てたか?まだ食べてないなら食べてみてくれ」
俺がそう言うと時雨は自分の持つ料理に視線を向けてから、続けてパクリと一口食べた。
「・・・・・・美味しい」
「そりゃよかった!」ニコッ
「っ!」
「ん?」
時雨は何故か赤くなってどこかへ行ってしまった。
「てぇ~とくぅ~!」ガバッ
「うおおおっっ!?」
何だ!?突然榛名が抱きついてきたぞ!?
「は、榛名一体どうし・・・・・・」
「いいよっ榛名!イケイケ~!」ゲラゲラ
続いて飛龍がやってくる。というか酒臭っ!!
「ひ、飛龍!俺の酒を勝手に飲みやがったな!?」
「まあまあ、いいじゃないですか~」
「てぇとく、皐月ちゃんたちからぁ、てぇとくのナデナデはとても気持ちいい、と聞きましたぁ。はるなもナデナデしてくださぁ~い」
「大和撫子どこいった!?」
「いいじゃない。ナデナデしてあげなよほらほら~」
仕方ないので榛名の頭をなでる。
「ほわああああ~~」ニヘラ
「・・・・・・なんかすごく可愛いんだが」
「良かったね~!」ゲラゲラ
「・・・・・・うみゅう」スリスリ
「は、榛名さん?そろそろ離れてくれませんかね~?」
「・・・・・・いやです」ギュウ
「おい飛龍、今すぐ榛名を俺から引き離すんだ。色々と柔らかいものが当たって俺の理性がヤバい」
「そのまま襲えばいいじゃん」
「出来るかバカやろう!!」
その後も色々あったが祝勝会は無事に終わった。
ーーーーーー
次の日の朝。
「それじゃ、朝の点呼をするが・・・・・・榛名はどうした?」
「寝込んでるよ」
「ああ、うん・・・・・・」
「そっとしておいてあげるのです」
「それじゃ、港に時雨たちの見送りに行くぞ」
「あの、2週間本当にありがとうね」
「僕たちも楽しかったしお互い様だよ。こちらこそありがとう」
「皐月ちゃんたちは夕立たちの親友っぽい!」
「またいつか美味しい料理をご馳走するのです」
「ぽい~!」
「私も楽しかったわ。飯野提督・・・・・・あの、榛名ちゃんには後で謝っておいてくれるかな?」
「はぁ・・・・・・後で慰めておくよ」
「これからも私たちが鍛えた技術を生かして頑張ってね」
「うん!」
「なのです!」
「それじゃ、またいつか会いましょう!」
時雨たちの姿が小さくなっていく。
「また、会えるのかな?」
「・・・・・・じきにまた会えるよ」
「え?」
「何でもないさ。さ、戻って執務だ!流れ作業ばかりだが皐月にも手伝ってもらうぞ」
「うえええええ・・・・・・」
「さ、皐月ちゃん、電も頑張るのです!」
皐月に声をかけながら俺たちは執務室へと引き返した。
本編11話まで未だに金剛が名前しか出てない件……
ばぁにんぐらぁぶは来ましたがバーニングラブがまだ出ていない……
榛名が可愛くて皐月が呑まれそう……頑張れ皐月(と電)!!