書記ちゃんに告られたい   作:カプロラクタム
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書記ちゃんは盛り上げたい! 後編

 生徒会役員は全員藤原書記から攻めてくると思っただろう。 なぜなら、藤原書記はこういうゲームが得意である事を知っていたからである。 問題は切り出し方である。

 標的は誰か、話題は何から始めるか。 藤原書記以外の3人は穏やかじゃない。 いつも藤原書記の読めない行動に恋愛頭脳戦はあらぬ方向に行き、その展開に苦労しているからだ。


 とは言っても白銀御行は四宮かぐやや大蔵直斗ほど心配していなかった。 それはNGワードが藤原書記が絶対に言わないであろう単語を選んだからである。

 開戦の合図で皆が頭上にNGワードの書いてあるカードを掲げた。藤原書記の頭上にあるカードを見て四宮かぐやと大蔵庶務は安堵した。そう、面白い事にこの場にいる4人の目的は殆ど同じなのである。藤原書記のNGワード『ちぇけら』というのは本当に言わないものだと思えるほどだった。

 そのNGワードを見て四宮かぐやは多少は会話を広げても問題はないかもしれない……と感じた。 とは言っても大蔵直斗が何かを考えているとわかっている以上最低限しか話すつもりはないが、やはり直斗任せは嫌だと考えている。 藤原さんがドボンする心配が殆どないのだから私は死ぬ前に白銀会長を狙い撃つだけ頑張ろう、そう四宮かぐやは考えた。

 だが白銀御行にとっては全くそうは感じなかった。 なぜなら四宮のNGワードが『好き』で大蔵庶務のNGワードは『嫌い』なのである。 下手に風呂敷を広げると仮に四宮を4位にする事ができても自分が3位になる事か難しいかもしれない。 そこで問題になってくるのが藤原書記だ。 彼女に任せると一気にその話題に踏み込むかもしれない。 それは避けたい。 白銀御行が今恐れるのは好き嫌いの話題に踏み込む事だ。

 第一好き嫌いを誘発するなんて大蔵庶務の立場から考えると、四宮のNGワードが『好き』だから『四宮さん、何か嫌いなものはありますか?』とか言って好きという単語を出させようとしたら即アウトだ。 これは困る。 しかし、だからと言って何の話題を言うべきか悩んだ。結局同じようにNGワードを見ていてドボンする心配のない藤原書記に第一声は任せようと結論を出した。


 また、大蔵直斗はこの場で安堵していた。 かぐや様が考えた会長のNGワードというのは会長を理解しているかぐや様だからこそ必中ともいえるものだ。 この『本気』という会長のNGワードを生かすも殺すもこちら側な訳だからその点では難しいかもしれない。 しかし、自分はNGワードを言う心配はないし藤原さんのNGワードも本人がかなり言わないと思われるものだった。時間さえかければ言わせる事はできるだろう。


 三者が一瞬の間にこれだけの事を考え、藤原千花にこの場の第一声を任せようと決めた。

 藤原千花は声を上げる。


「YO!YO!それじゃ始めましょうYO!」

「「「なんだよそのキャラ!!!!!」」」


 他の3人は皆同時に声を上げる。 信じられないような目で藤原書記の方を見た。 藤原書記はドヤ顔でこう答えた。


「会長の事だから私の口癖をNGワードにしてると思ったんだYO! そこを警戒してのこの口癖だYO!」

 いやいやいや、超ニアピンなんだけども…と思う3人。 思わずこれを狙ったんじゃないかと四宮かぐやと大蔵直斗は白銀御行の方を驚愕の眼差しで見つめる。しかし当の本人はそんな事狙ってないし寧ろNGワードとニアピンで物凄く困っている。


 焦っていても聡明な白銀御行生徒会長はすぐに行動しようとする。これではいつ言ってしまうかわからない! 当たり障りのない会話から攻める事にした。


「ごほん、 そ、そういえば大蔵庶務の得意な事や苦手な事ってあるのか?」

「俺ですか? そうですね…得意な事は家事などですかね。 諸事情で昔からよくやっていますし誇れるものだと自負しています。 家事は好きですしね、苦だと思った事もないですし。逆に苦手な事といえば運動ですかね。 俺かボードゲーム部入っている事は知っていたと思うんですけどその理由の一つに運動が苦手だったからって言うのもありますね」

 大蔵直斗、この会話に微量の毒を混ぜる。 白銀会長の得意な事苦手な事と言うのは好き嫌いとの明確な差がない。 この話題を選んだのは少しの焦り故だろうがそれは仕方ないとこの場にいる誰もが思っていた。 しかし、その焦り故そのミスに漬け込んだ。 明確な差がないからこそ返事に『家事が好き』という事を言ったのだ。 これにつられて誰かも好き嫌いについていうかもしれない。あくまで可能性の問題だが可能性が生じる時点でメリットともいえるだろう。

「僕が得意な事とかについて言ったので四宮さんの得意な事とかも聞きたいですね。 何かありますか?」


 四宮かぐやという人物が様々な芸術に打ち込んでいて全部で才能を見せつけ凄まじい結果を残している事は生徒会だけでなく周知院学園の皆が知っているが、何か特筆するものは何かと言われたら分からない人が多い。 直斗は分かるが先ほどの話題を出す相手としてはこれほど相応しい人もいないだろうと思いかぐや様に対して投げかけた。


「……(ニコッ)」


「「(大人気ねええええええええ)」」


 白銀御行、大蔵直斗内心で絶叫である。 いくらなんでもこのゲームにおける必勝法をいきなり切り出すとは思わなかったからである。


「あの、四宮さん。 流石にこのゲームで話さないなんて事はゲームの意に沿わないので今回はやめて頂けると助かります」

「しょうがないですね。 私の得意な事ですか…」


 ここで四宮かぐやは思考する。 NGワードゲームで負ける事には意義はないが会長には勝ちたい。 この流れは自分にとっては向かい風となっているのは肌で感じているとで流れを変えたいところだ。

「私の得意な事は…内緒です。 苦手な事も」

「えー何でですか! 私かぐやさんの事もっと知りたいですよー!」

「女性というのは秘密をいくつか持ってる方が魅力的に見えますよ、藤原さん」


 自分の事は漏らさずに、かと言って答えないのはダメなのでかぐやはこう返した。 つけこもうと思っていた他3人は痛いところである。 先ほど大蔵直斗が入れた毒も触られないのであれば意味がなくなってしまった。

 しかもこの流れでは藤原千花に対して得意な事や苦手な事はもちろん四宮かぐやを含めた女性陣2人に対して個人的な事を聞く事は出来なくなってしまった。

 唯一藤原千花が自分から個人的な情報を述べる事で活路を求めることが出来るが、四宮の一言でペラペラと話す事は魅力がなくなると言われているようでこの空間では言いづらい。 身動きが取れなくなり、たった数回話しただけで主導権を四宮かぐやに握られてしまった。


 この場は膠着状態になった。 しかし、四宮かぐやが主導権を握っているが当の本人はそれに固執するつもりはない。むしろ会長を狙い打ちしてくれるのであれば他の人にあげてもいいくらいだ。 自身の防衛のために主導権を握っただけある。

 逆に他の3人は追い詰められた状況であるが何もできない。 宙ぶらりんな状態である。 四宮かぐやが誰を狙うかは本人以外この場では分からないから余計に怖い。

 そして、この場をこの状態にしたのが四宮かぐやであれば動かすのも四宮かぐやである。


「そういえば藤原さん、パリの人達が来るわけですがフランス語大丈夫ですか?」

 その言葉を受けて藤原千花は少し考えてからいつもより声のボリュームを下げて答えた。

「フランス語ですか……とても心配です……YO。私以前にフランスに行った事あるんですがそこで思いっきり恥をかいてしまってそれ以来おどおどするようになってしまったんです……YO。私は会長やかぐやさんのように賢くないですし、大蔵君のようにその場で対処できる柔軟性も持ってないですから不安でしょうがないです……YO」

 藤原書記はこのように答えると顔を俯いて他の3人から自分の顔を覗かれないようにした。 場の空気は重くなる。 普段明るい藤原書記がこのように落ち込んでいるというのは彼女にとってとても辛かったものだと分かるし、何らかの『恥ずかしい事』について彼女が怯えたというのも他の3人からは信じられなかったからである。

 他人を思いやれる白銀御行会長と四宮かぐや副会長はこの言葉にどのような言葉を返すのかを考える。

 しばらく経って白銀会長はこう答えた。


「そう落ち込むな、藤原書記。 大丈夫だ、まだ時間はある。 藤原書記にはたくさん支えられてばっかりだからな。 俺が()()を出してフランス語を教えてやる」

ドーンだYO!!!!!!!!!!!


 顔を上げた藤原書記が笑顔で白銀会長に指をさし会長がNGワードゲームで敗北した事を伝える。

 しかし彼女以外はポカーンとしている。 いやいやいや、若干しんみりとしていたじゃん。 何してるの藤原書記と皆が思わざるを得ない状況だったからだ。


「藤原さん? さっきのフランス語の下りは? 嘘だったの?」

「ブラフでしたYO!フランスで恥をかいた事があるのは事実ですがそれくらいでおどおどしないですしフランス語も話せますから!」


 イラァ……と言葉が浮き上がるくらい四宮かぐやと白銀御行生徒会長から聞こえる。大蔵直斗でさえもここまでするもんかと苦笑である。

 勝負事だからこういう作戦を使う藤原書記が一枚上手であるだけなのだが心は割り切れない。

 だがしかし、3人はこう感じてもいた。 先ほどの藤原書記が話していた話は全てが嘘なのだろうか? 半年以上も一緒にいれば明確な嘘というのはわかりやすい。仮に今落ち込んでいないかもしれないが当時の彼女にとってはとても重い事だったのかもしれないし、フランスについていい思い出があるかどうかも明言していない。

 そんな彼女に対してこんな事だけで糾弾する訳にもいかないので白銀会長は矛先を収め負けを認め、四宮かぐやは3位になりたいとは思うけれどもわざとなるというのも可笑しいと感じていた。

 四宮かぐやは藤原千花との付き合いが長い。 彼女がゲームなどの勝負事で本気を出すのは知っていたしこれくらいで嫌いになるほど浅い関係でもない。 そういうところを含めて四宮かぐやは誰とでも分け隔てなく接する事ができる藤原さんが自分にはないところで凄いと素直に感じる事ができた。

 手段こそはアレだったが、白銀会長か4位に決まった事で会長にNGワードを言わせた藤原千花の手腕を褒める流れになった。


「凄かったですよ、藤原さん」

「ありがとうだYO!」

「やられた…藤原書記、乾杯だ」

「ふふ、藤原さん凄いですね」

「かぐやさんがパス渡してくれなければ駄目でしたよ!今回はかぐやさんが上手かったです!」

「そうかしら? ありがとう。 藤原さんの素直に相手を褒めるところ、私()()ですよ」

ドーンだYO!!!!!!!!!!!!

「……は?」

 勝とうとは思っていたが緩んでいた空気に飲まれた四宮かぐやがNGワードを漏らした。本人は固まっている。 白銀御行もこれには驚いて口を開けている。

 この状況では偶然四宮かぐやが『好き』という単語を言った、そう思えるが実はそうではない。 これは藤原書記と大蔵直斗の作戦勝ちである。


 2人側からしたら四宮かぐやが主導権を握った事は不測の事態だが、その主導権をこちらに譲った時点でどちらかを落とす準備はできていたのだ。

 藤原書記がブラフを用いて語る事で白銀御行と四宮かぐやがNGワードを言うまでの流れに乗ってしまうのはボードゲーム部で培った経験と半年間以上も過ごしたことから2人は分かっていた。 そう、この勝負こちらに分がありすぎたのである!

 仮に四宮かぐやが主導権を握らなかったら藤原書記が違ったブラフを用いて四宮かぐやを4位に落とし、その後に追い詰められた白銀御行が彼の性格から推測するに『本気で勝負してやろう』とかを言ってしまうだろう。


 今回のNGワードゲームは藤原書記と大蔵庶務の2人勝ちだった事を四宮かぐやは分かり嘆息し、白銀御行は初めから藤原書記と大蔵庶務有利だった事を知り「やられた……」と声を漏らした。

 だが2人からは自然と悔しさで顔を歪ませる事なく「ふふっ」と笑い、それにつられて2人も笑った。 何はともあれ4人の当初の目的は達成したのだ。


「さぁさぁ、ゲームも終わった事だし準備を早く進めて楽になりましょう!」

「あぁそうだな」

 生徒会役員は全員仕事に戻った。仕事を進めながら藤原書記以外の3人が心の中で同じ事を思ったのだった。


(今後口先のゲームで藤原書記(藤原さん)と敵対するのだけはやめよう……絶対に負ける)


 普段ほわほわしている藤原千花に対して生徒会メンバーが明確に負けを認めた瞬間だった……








× × ×

本日の勝敗
かぐや、白銀の敗北(藤原書記を甘く見ていたため)



メインヒロインなのに性格が悪いと思われるかもしれませんが勝負事に真剣なだけで悪意はありませんので嫌わないであげてくださいm(_ _)m

メインヒロインとは一体なんだろうか






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