Persona 3 - Awaken your Soul-   作:薬田レオ

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序章
プロローグ


  死は万人に平等に訪れるというが、これには少し語弊があるだろう。確かに、生きとし生ける者の全てがいずれ死を迎えるが、その結末は不平等なものである。

  清く正しく美しく生きた者が非業の死を遂げることもあれば、極悪非道な塵が満ち足りて逝くこともある。

  ゆえに死ほど不平等で理不尽なものはないだろう。まるで人々の道徳観念を嘲笑うかのように命を刈り取って行く。

  それでも人間は善き行いは善き結末をもたらすことを信じ続ける。それは善人が報われて欲しいからなのか、自分が平穏な終わりを迎えたいからなのか。

  しかし、現実はそう甘くない。地獄というのは音もなく忍び寄って来るのだから。

 

 

―――地獄を見た。その場で唯一意識があった少年はそう思わざるを得なかった。

 

  無理もないだろう。巌戸台と人工島を結ぶムーンライトブリッジはその日、紅蓮の炎に包まれていたのだから。

 

「な……にが……」

 

  頭でも打ったのか、思考がまとまらない。状況を確認するためにも自分の上にのっかっていた生暖かいモノをどけようと手を伸ばそうとして少年は気付いてしまった。そのモノが見覚えのある布に覆われていることに。見間違えるはずがない。それは、母が旅先で好んで着た服だったから。

  恐る恐る少年が周囲を見回すと、そこには転がっていた。さっきまで命だったモノが―――、命だったモノ(母親)が―――、命だったモノ(父親)が―――、あたり一面に転がっていた。それを認識した途端、朦朧とした意識につい先刻見た光景が甦った。橋の上から見える建物が爆発した瞬間、周りの車がすべて停止したこと。両親が自分に覆いかぶさったと思ったら、橋が炎に包まれたこと。そして、この地獄が1体の異形の存在によって生み出せられたことを。自分が生き長らえたのは、そのバケモノを機械人形が今もなお押さえ込んでくれているお陰だということを。

 

  胸の内に湧き出た感情は、恐怖でも悲しみでもなく純粋な憤怒であった。

 

「ふざけるな…!」

 

少年が呟いた。それは家族に降りかかった理不尽への、そして自分の無力さへの怒り。

 

「僕たちが何をしたっていうんだ」

 

許せなかった。納得がいかなかった。だから痛みを堪え、立ち上がる。闘いの渦中へと一歩、また一歩近づく。

 

「お前を僕は…俺は絶対に許さない!!」

 

  この理不尽に反逆すべく少年(有里 湊)は進む。バケモノを滅ぼす者になりたいと心の底から願う。

  ゆえに彼がその力を心の海から引き当てたのは必然だったのだろう。強大な闇に対抗しうる光。それが少年を包み込み変身させる。

 

  そう、その名は

 

「アギトっ!!」

 

  光と闇の闘いが、今、始まる。

 


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