アイドルは労働者(仮)   作:うぃくらっち
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感想欄
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6.初めての世界は、原器の無い世界。

フラコンのCMとトレーラーが公開された。
GW開けの事だから、発売まで2ヶ月と少ししかない。
大体、実写パートが遅延したのが原因である。
765プロの収録日程が調整できなかったり、帝国のアイドルが決まらなかったりしたためだ。
それまではゲーム部分を切り貼りしたトレーラーでお茶を濁していたようだが、携帯機以下のトレーラーでは顧客は満足していなかったようだ。
おかげ様で、満を持して発表されたCMの評判は上々だ。
すなわち、私は大忙しだ。

「喜べ、新たに予算が付いたぞ。御歴々も君の価値に気が付いたようだ」

一体何度目だ増毛P。
あんまり他所から予算を引っ張ってくると嫌われるぞ。
自前の予算も確保できない間抜け共を擁護するつもりは無いが、彼らの悪しき感情は我々にとって何時か手痛いしっぺ返しとなる。
貴方も、武内Pに作詞作曲と舞台を持っていかれた時、激しく興奮していたではないか。

「君がトップアイドルになる事は、私が君をプロデュースした瞬間からの規定事項だ。君に投資するのと、他に投資するのではリターンがまるで異なる」

お褒め頂き至極光栄。
だがそこまでリターンを重視するのが吉と出るのか。

「出るんだな、これが。他のP連中は気が付いてないが、上層部の一部は今年度末の決算と株主総会を気にし始めている」

今年度末の決算と株主総会?
先を見据えて動くのは良いが、あまりにも短期的でピンポイント過ぎないか。

「今年度はアイドル事業部が発足して3年目。3年という数字は短いが、キリのいい数字だ。君自身も薄々気付いているかもしれないが、346プロダクションはアイドル事業部に莫大な資本投下を行っている」

前者は就活のときに調べた。
新設の事業部は不安定だから入りたくなかったのだ。
後者は入ってみて分かったが、新設の事業部にしては予算が潤沢だ。
建物も綺麗だし、自前のスタジオ・機材、挙句の果てにエステサロンまである。
これで黒字だとすれば驚きだ。

「残念ながら大赤字だ。この2年は”先行投資”という建前で株主の追及を逃れてきた。だが3年目でもそれが通じるとは、俺は思わんな」

だろうな、黒字な訳が無い。
大体、346プロダクションにはアイドルが多すぎる。
アイドル1人1人にはレッスン料などの固定費が掛かっている。
これを上回る稼ぎを叩き出しているのは、一体何人いるのだろうか。
高垣楓や城ヶ崎美嘉が幾ら頑張っても、星の数ほどの346プロ所属のアイドルを食わせていけるとはとても思えない。

「3年目終了前に、投資に対して稼ぎが足りないアイドルを()()していくことになるだろう。最悪の場合、アイドル事業部ごとおさらばだ。我々は我々だけ生き残るか、他の連中と一緒に沈むかの二者択一を迫られている」

なるほど、前世でも十分な数の有価証券を持ったことは無かったから、その視点は斬新だ。
世の中の株主というのは、余り長期的な視点を持たないものなのだな。
資本家は金があるから余裕があると思っていたが、そういうわけでもないということか。

また、このアイドル戦国時代、星の数ほどのプロダクションが生まれ、消えている。
その中で、高い視点を持って行動できる増毛Pは有能だ。
贅沢を言えば、もう少し穏便な手を使っていただきたいのだが。

「残念ながら、形振り構っていられる状況ではない。君をプロデュースするのに、最善だと思われる手を取らなくてどうする。金はあるんだ、我等が最も信用できるクライアントに、君の宣材とMVをお願いしようじゃないか」



増毛Pの346プロ内の評判は前にも増して悪い。
原因は先ほどの発言、私の宣伝材料写真やMVを外部の業者に委託していることだ。
346プロは自前でスタジオや機材を有しているため、そういったものは内々で用意可能である。
すなわち、普通のPが取った予算は回りまわって346内の別な部門に落ちることになる。

しかし、増毛Pはそれを外部に委託する。
私としては高クオリティの作品が出来上がるので嬉しいのだが、本来346内の別部門に落ちるはずの予算は、外部に流出している事になる。
彼らから見れば、増毛Pは自分達から仕事を奪った存在になるわけだ。

「346という大企業に胡坐をかいている、つまらない連中だ」

まぁ、彼らには悪いが、こちらもプロジェクトの生死が係っている。
より費用対効果の高い方が選ばれたと思って諦めて頂こう。

「音楽や映像といった創造的なものは、臆病な人事が高得点をつけるような一般人には作れん。創作への熱意は、もっと暗くてジメジメした所から生まれるもんだ。フラコン製作陣はその点、仕事に関しては信用できる」

随分と勝手な主観だが、耳が痛い。
確かに、学園祭の脚本はクラスの人気者より、ボッチに書いて貰った方がキレッキレで面白かった。
先生には、受けは良くなかったようだが、
今世では、私は比較的充実した生活を送っている。
創造的な業務が苦手なのは、こういうところから来ているのかもしれない。
前世では、お世辞にも充実しているとはいえなかったのだがな。



もはや他人とは思えないほどの関係になってしまったフラコン製作陣に何度目かのご挨拶。
MV用にフラコンの撮影で使ったセットを未だ残しておいてくれたらしい。
いや、残すように契約したというべきだろうか。
増毛Pがセットの維持管理費もセットで契約したのだ。
大道具係渾身の力作な様で、ゲーム以外にも出番があると伝えると大変喜んで頂いた。

増毛Pは社内の評判と打って変わって、クライアントからの受けは良い。
何しろ、内製体質の346プロであるにもかかわらず、仕事を持ってきてくれるのだ。
(出来にも寄るが)金払いが良い上に、後から仕様をひっくり返すような事をしない顧客だ。
製作陣からしたら良いお得意様である。

「デビューCDはフラコンとタイアップしているから、フラコンの映像・写真を作るのに最も適した業者を選定したに過ぎない。その方がこちらとしても、無名の新人を有名ブランドの力を借りて売り出すことが出来る。win-winというやつだ」

それにしては、金を払いすぎているような気もするが。
投資分を回収するのは私の仕事なんだぞ。

「君のデビューCDが売れることは、決まりきった未来だ。後はどれだけ沢山売れるかだ。幸い、君は投資すればするほど高い成果を出してくれる。1倍以上で返って来るのが分かっている賭け事なんだ、全額ベットしないでどうする」

期待はありがたいが、限度がある。
少なくとも、発売枚数以上の利益を出す事は出来ないのだから。



いつかのステージで着たような衣装に袖を通す。
アレは、私の汗と流れたメイクでダメになってしまったはずだが。

「アレは一度のステージ用に作った衣装です。複数回着脱できるようにも、洗えるようにも出来ていません。今回はお金も頂けたので、クリーニング・リユース可能なように作りました。長く使う事を想定すると、気合が入っちゃいますね」

1人では着る事が出来ないので、作ってもらった衣装さんに手伝って頂いている。
確かに、前回より格段に生地が良いし、装飾も凝っている様だ。
印刷だった模様が刺繍になったり、プラスティックのボタンが金属製になったりしている。

「デビューライブもこれでやるって伺ってます。あぁ、自分の作った衣装がこんな綺麗な人に、しかも複数回着ていただけるなんて……」

途中から自分の世界に旅立たれてしまったが、初めに重要な事を言っていた。
この衣装でライブを行う、と。
本当に?
姿見に映る自分を見つめる。
白地に赤と黒のアクセント、金色の参謀モールに真紅の勲章、トドメにマントだ、
どれもこれも凝った造りの所為で、重量が前回の倍近くになっている。
素早くターンをしようものなら、重心が狂って倒れるんじゃないだろうか。

「だから、今の内に慣れておきましょうね」

慣れる?
人が物に合わせるというのか。
普通、逆ではないのか。
人間工学をご存じない?

「つべこべ言わずにセットのところに行け。この衣装ならズームされてもCG処理せずに鑑賞に堪える」

いつの間にか更衣室にいた増毛Pに急かされて、撮影会場へと向かう。
勝手に入ってくるんじゃない、変態め。

セットはシリーズ恒例の敵方超兵器、帝国空軍が誇る空中空母上の特設ステージである。
ゲーム中では防弾ガラスで覆われているという設定だが、MVでは士気高揚のため、低空でステージを露出させて帝国中でライブを行うという設定になっている。
そのために、巨大な送風装置が取り付けられた。
T.○.Revolutionごっこも夢じゃない。

「送風装置のテスト、イキマース」

てっきり、ちょっと大きな会議室のエアコンが入る程度だろうと高をくくっていた。
ドン、と大砲のような音と共に、強風が吹き荒れる。
非常に重たい衣装のおかげで飛びはしなかったが、尻餅をついてしまった。
もう少し、いや、かなり風速を落として欲しい。

「送風係、重たい衣装が功を奏しているから少しだけ風速を落とすだけで良いだろう。落としすぎると、空中空母上というリアリティが損なわれる」

おい、フラコンP。
何を考えている。
立っているだけなら構わないが、私はこの強風の中、歌って踊る必要があるんだぞ。
私の演技のリアリティはどうするんだ。

「口パクでオーケーです。歌は既に収録されているものを用いる予定なので」

ただの口パクはばれるぞ。
カットするにしても、声は出しておかなければ、舌の動きが怪しくなる。
それに、踊りについては何も言及しないのか。
だったら、こちらで何とかするしかない。

「この風に慣れる必要があります。15分ほど、スイッチを入れっぱなしにして頂けませんか」

まぁいい、錘があればそう簡単に飛びはしないので、慣れれば何とかなる。
風上に向かって若干の前傾姿勢を、踊りながら取れば良いのだ。
このステージのためだけに振り付けを変えるのは非効率なので、この強風の中で立ち続ける事に慣れる方で行こう。
前傾姿勢が自然に取れればオーケーだ。



3分半の歌を7つのパートに分割し、それぞれで10回近い撮り直しを行った後、ようやく製作陣に納得いただける演技が出来た。
物理的な障害は、思考や効率性ですぐに何とかなるものではない。
最終的には、時間をかけて解決するしかないのだ。

「君にしては、随分苦戦したようだな。もっと飄々とこなすものかと思っていた」

人を何だと思っているんだ増毛P。
強風の中を空気抵抗が大きく重量のある衣装を着て、普通に過ごせる人間などいるものか。
登山家は高山病にならないよう、高度を徐々に上げて高地順応させていくように、極限の環境には慣れが必要なんだ。

「ではその衣装を着たまま宣伝材料写真の撮影と行こう。慣れるのは大事なんだろう」

出来れば一度、脱いで休憩したかったのだが。
強風の所為で汗はかかなかったものの、髪のセットと参謀モールが大変な事になっている。

「それはそれで、面白いんだがな」

まるで3流芸人ではないか。
私は笑うのも笑わせるのも好きだが、笑われるのだけは大嫌いだ。
それは仕事でやる事ではない。
黙ってスタイリストを呼べ。

プロの腕によって、絡まった参謀モールと髪の毛が解きほぐされる。
強風とダンスでずれた衣装も着付けなおして撮影に入る。
初めは好きな格好をしても良いという事なので、ノリノリでアイドルのテンプレポーズを取ってみた。

「イイネイイネー」

カメラマン、本当にそう思ってるんだろうな。
シャッター音が聞こえないのだが。

「撮っておいて損は無いんじゃないか。何かに使えるかもしれない」

聞こえているぞ増毛P。
貴方が変な位置にいるせいで、こっちはレフ板が1個余計にあるように見えるんだ。

「コンセプトは”独裁者の傀儡”です。自分の望みとは違う役割、自由にならない体、時間、心。そういったものがイメージできるポーズをお願いしたいです」

感情面では凄い具体的だが、いざ身体のポーズにしようとすると随分と抽象的な注文だ。
短い期間ではあるが、随分と密度の濃い付き合いをしてきたフラコンP。
何をして欲しいかはおおよそ分かる。
それが正しいかどうかは、カメラの液晶画面を見て判断して頂こう。
さぁカメラマン、シャッターチャンスは一瞬だ、逃すなよ。

先ほどMVで用いたダンスのワンシーン、サビに入る直前の大きな動き。
手も足も、髪も衣装もアイドルを演じる。
だが表情は少し固く。
そして、目は何も見つめることなく、祈る。

「ほぅ……」

「完璧だ」

当然。
フライト・コンバットの世界観は全て頭の中に入っている。

「ジャケットにも使いたいくらいです」

「構わない。MVもこの衣装だ、揃えた方が映えるだろう。勿論、宣材としても使わせてもらう」

隣のプロジェクトは私服で撮っているんだぞ。
万が一にでも並べられたらどうするんだ。
もうちょっと大人しい方がいいんじゃないか。

「残念だが、君のデビューはフラコンと一蓮托生だ。”安曇玲奈”ではなく”帝国のアイドルを演じる安曇玲奈”としてデビューする。ストレートにアイドルデビューさせる事が出来なくて悪いが、君の長所を最も活用した方法だと思っている」

まぁ、アイドルとして何かを成し遂げたいという望みも、目的とするアイドル像も持たない私だ。
フラコンの帝国のアイドルという仕様を頂ける方がありがたいのは確か。
なので、自分の今後を心配する。
こういった役以外の仕事が来ないんじゃないか、と。

「だからこそ、DC版付属の追加ルートだ。今、脚本家が熱心に執筆している。君の事を帝国のアイドルとしか見ていなかったプレーヤーを驚かせる事が出来るだろう。”こんな演技も出来るのか”とな」

まるで自分の手柄のようにいうんじゃない。
私の演技を笑いをこらえながら「似合いそうにもない演技が様になっている」といっていた癖に。

MVと宣材の撮影を終えて直帰する。
一仕事終えたのだ、部屋に戻ってもどうせやる気は出ない。
増毛Pは真面目なので戻るようだが、私は時間休という必殺技を使わせて頂こう。



***



とりあえず6月頭のライブに向けて用意するものは全て揃えた。
あとはP達がロジを終えるのを、準備を整えながら待つだけだ。
とりあえず、より良いライブになるよう思案するところから始めよう。

「安曇さん、少しよろしいでしょうか」

おっかなびっくりフラッグシップ・プロジェクト室の扉を開けたのは島村卯月。
シンデレラプロジェクトの華、笑顔という手段が目的になりえる少女。
噂では、城ヶ崎美嘉のバックダンサーを行った際に有名な作詞家に目を付けられ、早速デビュー曲が与えられたとか。
初舞台も近いに違いない。

「どうぞ、何も無い部屋だけれど。コーヒー? それとも紅茶?」

「えーっと、じゃぁ紅茶でお願いします」

4人がけの打合せ卓に案内すると共に、私もデスクからそちらに移動する。
使い捨てのコップにお湯とバッグの紅茶を放り込む。

気まずい沈黙が続く。

部屋のホストは私だが、用件があって来たのはそちらだ。
別にフォローはしない。
時折、島村卯月が何か言いたそうな表情をするが、紅茶と共に言葉を飲み込んでしまっていた。
だがそれもここまでだ。
もう言葉を飲み込むための紅茶が無い。
ホストとしてはお代わりを注ぐべきなのだろうが、それより彼女に用件を話して頂く方が優先度が高い。

「……あの、ちょっと色々相談がありまして」

ちょっとじゃあ無さそうだ。
ひとつ話し始めると、関係ない蛇足までワラワラついてきて、時間をかけた挙句何の解決もしないパターン。
年頃の女の子のお悩み相談は大抵こういったものだ。
殆どの場合は解決しなくて良い話であるのだが、勤務時間中の私に声を掛けたという事は、そうではないという事だろう。
複数の話題を忘れないうちに、整理しておきたい。

「話し出す前に、大まかで良いから相談事を列挙してもらえないかしら」

きょとん、と首をかしげる島村卯月。
相談事に注文を付けられる経験が無かったのだろうか。
安曇玲奈のお悩み相談室はその辺の連中とは一味違う。
徹底的に解決策を模索するし、何より後ほど工数を記載した請求書が武内Pに届く。

「えっと、私達のデビューライブとシンデレラプロジェクトのこと、あと安曇さんのことの3つです」

宜しい、3つか。
おおよそ、”初舞台が心配”、”後発になるプロジェクトの皆とギクシャクしないか心配”、”安曇玲奈が心配”といったところか。
……私?

「実は、プロデューサーさんからシンデレラプロジェクトの皆に、安曇さんとの接触を控えるようにって言われてまして……今回はお忍びで来ちゃいました。良かったですか?」

それは貴女の側の問題ではなかろうか。
しかし、武内Pからフラッグシップ・プロジェクトを避けてくるとは意外だな。
彼と増毛Pの仲の悪さは、増毛Pが一方的に武内Pを嫌っているだけで、武内Pから増毛Pに対する感情はそこまで悪いものではなかったと思うが。
やはり、増毛Pの残念な性格や頭皮が年頃の女の子のメンタルにダメージを与えると思われたのだろうか。

「私は増毛Pからシンデレラプロジェクトに対する接触禁止令を受けているわけではないから、貴女から来る分には構わないわ」

私からお邪魔するのは向こうにお断りされそうだが、そっちから武内Pのお願いを無視してきて頂く分には問題ない。
まぁ、私はそちらの部屋に業務があるわけではないので、行くことは殆どないだろう。

「なら良かったです。安曇さんのような素敵なアイドルと会えなくなっちゃうのは悲しいことですし」

素敵かどうかはさておき、その様な評価はくすぐったいものがある。
愚痴を聞くだけなのは苦手だが、より効率的な手法を模索しているときや問題を解決したいときは頼って頂いて構わない。
勿論、ロハというわけには行かないが。

「じゃあ2つ目です。美波さんとアーニャちゃんのユニットと、未央ちゃんと凛ちゃんと私のユニットのデビューが決まったのですが、他の皆さんのデビューは企画検討としか言ってくださらなくて……」

そういや増毛Pが言っていたな、企画が決定するまでアイドルには伝えないのが346プロジェクトの方針だと。
未定でも伝えるのとどちらが良いかは一概には言い切れないだろう。
未定でも伝えていた企画がポシャった場合、年頃の女の子には耐えられないのではないか。
一般的に、上げて落とす方がダメージが大きい。

「でも、このままじゃ皆バラバラになってしまいそうで……」

杞憂だろう、と言っても解決にはならないな。
まぁ、346プロの方針とは言え、増毛Pの様に全く守らず全部私に情報を流すようなPもいる。
武内Pも明文化された規定でもないものを馬鹿正直に守り続けるほど、間抜けではないだろう。
どちらかと言うと、シンデレラプロジェクトにはどういうスタンスがよいかを図っている最中ではないだろうか。
本田未央が最短で1ヶ月ちょっと、長いメンバーでも武内Pとは3ヶ月程度しか仕事をしていない。

組織にとって、最も良いものを探すのにはそれなりに時間が掛かる。
不安に思うかもしれないが、武内Pを信じて待つのが一番確実な解決策だ。

「分かりました、プロデューサーさんを信じて待っています」

その内、武内Pから何かしらアクションを起こすだろう。
さぁ3つ目だ。

「単純かもしれませんが、初めてのライブが不安なんです」

悩みの王道だな。
王道故に解決も難しい。
初めての事象に挑戦する時、どの程度準備を整えれば成功するのかの物差しが無い。
だから失敗の未来が脳にへばりつき、長く非効率的な練習を行いがちだ。

「一日の練習時間を決めて、それ以上練習しない事。そして練習時間中は真剣に取り組む事」

余り頑張らないんですか、と島村卯月。
そんな事はない、効率的に頑張るのだ。

「ダラダラ練習をすると疲れるわ。疲れた体じゃ碌な動きは出来ないし、そのまま練習を続けると疲れたキレのない動きが癖になってしまう」

練習時間を区切ると、一日の終わりに少し体力的な余裕ができる。
そこで”もう少し練習できたのでは”と思ってはダメだ。
それは桶の中の燃料が無くなったけど、桶を解体すれば薪があると言っているようなものだ。
燃料を補給するための器がなくなっては本末転倒である。

「でも、もし本番で失敗したら、”あの時練習しておけば”って後悔しませんか」

それは責任の所在を間違えている。
成功の可能性を計る物差しが無かった事と、限界を超えて練習しなかったことは全くの別物だ。

そして、後悔と言うのは結局のところ感情的なものだ。
失敗しても後悔しないためには、失敗を表情に出さない事だ。
だから。

「何があっても笑っていなさい」

歌詞を間違えても、ダンスでこけても、機材が壊れても、客が居なくても。
表情さえ崩れなければ、成功だ。
島村卯月(アイドル)と言うのは、そういうものだろう。



あれで島村卯月の不安が解消したかは分からないが、以来彼女は朗らかな笑顔で適度な練習に励んでいる。
実に素晴らしい事だ。
346カフェで砂糖タップリのカフェオレを飲みながら休憩時間を過ごす。
あと小一時間もすれば定時なので、このまま居るのも悪くない。

「あんまり長く居座られると、回転率が悪くなるんですが」

そうだろうか。
いつもウィークデーの定時間際は結構閑散としている。
店の目の前は渋谷の大通りなので道行く人は多いが、カフェで一服する時間ではない。

「うぅ、ぐうの音もでませんね……いいでしょう。菜々も暇だったんです」

よっこいしょ、と相席するウサミンこと安部菜々さん。

「聞きましたよ、遂に本格デビューらしいじゃないですか」

そういうことになるのだろうか。
前回のライブは撮影だったし、お客さんもこちらがお金を払って集めたエキストラだった。
カメラを回すか分からないが、自力で集客すると言う意味では正しくデビューライブとでも言うべきだろう。
勿論、私だけの舞台ではないが。

「フラコンイベントとタイアップですもんね。フラコン……菜々も見てましたよ、ゲーム会社の幹部(良い年したおっさん)のブンドドCM」

嘘でしょ……
フラコンPに過去の資料と言う事で見せてもらったことがあるだけで、今世の私はリアルタイムで見たことが無いのだが。

「し、CMの話は置いておいて、どんな感じのデビューイベントなんですか?」

こういう場合、どこまで話してよいのだろうか。
イベント自体はフラコン新作の宣伝イベントだ。
フラコンPと広報担当が司会進行を勤め、今作のフラコンの魅力を説明。
ついでに、新たに編集したトレーラーの発表と、連邦・帝国それぞれのテーマソングがCDとしてリリースされる。
帝国側テーマソングは”Ace, High.”なので私が歌うのだが、連邦側のテーマソングは765プロが担当している。
765プロの全員は不可能なので、誰か1人だけでも来てもらえるように交渉中なのだが、どうなる事やら。

まぁ、端的に言うと765プロとフラコンのブランドに乗っかって、ついでに私のCDも売れたらいいな、と言うイベントだ。

「フラコンに765……凄い勢いでアイドルの階段を駆け上がって行きますね……菜々には眩しいです」

そんなことはない。
ウサミン、貴女もいつかきっと通る道だ。
それが少しだけ早いか、遅いかの違いでしかない。

「そういえば、卯月ちゃん達も近々デビューするらしいですね」

そうらしい。
さまざまな要素を勘案すると、彼女らのライブと日程がブッキングしている可能性が高い。
新しい情報も含めると、彼女らのデビューライブは池袋。
対して私は山手線の反対側、秋葉原だ。



***



秋葉原の大通り沿い、ビルの1階部分のイベントスペース。
そこに設置された仮設ステージ上の大型プロジェクターに新編集のトレーラーが流されている。
システム面でのコンセプトは、”Big Wing”。
最新ハードウェアの性能を最大限に利用した、双方合わせて100機以上の航空機が入り乱れて空を飛ぶ。
途切れないミサイルの噴煙はもはや芸術的だ。

「さぁ時間となりました、7月発売予定の新作フライト・コンバット”Idol in the Sky”。今見て頂いたのは今日公開の60秒版トレーラー。CM版よりもより魅力が伝わったかと思います」

進行を務めるのは広報担当。
こういったことには慣れているのか、良く通る声で観客をひきつけている。
まったく、羨ましいものだ。

「でも今日のイベントはトレーラーの公開だけではありません。何を隠そう、今作のフラコンを語る上で欠かせないアイドル達が歌うフラコン主題歌の発売日でもあります!」

わぁっ、と観衆が沸く。
仮設ステージの端に用意された席に視線が集う。

「今回の敵である帝国の主題歌を担当してくださったのは、346プロダクション フラッグシップ・プロジェクト所属の安曇玲奈さん。なんとデビューは今日、いやはや撮影から見てきた身としては全く信じられません」

ご紹介いただいたので、席から立って一礼。
しかし、私の隣に座っている人間を考えれば、私ごとき凡人の想像の範疇なのではないだろうか。
一体、フラコンPはどのようなロジ調整をしたのか、小一時間問い詰めたいほどだ。

目を向けなくても伝わってくる圧倒的な存在感。
早鐘のような鼓動。
止まらない冷や汗。

「そして主人公が所属する連邦の主題歌を担当してくださったのは、765プロダクションオールスターズ。本日は代表して天海春香さんにお越し頂きました!」



伝説が、隣に居る。






みくにゃんのストライキはCPの皆さんが私服なのを勘案するに、あれは土日祝のいずれか。
当然、玲奈ちゃんはお休みなのでイベントに参加できないのだ。



アニデレの映像の途中に青背景で文字が入るカット、エスコン6のトレーラーとそっくりでアレ



リーマロリィーズビィッグウィイング!??? トバナキャイインダ!!