アイドルは労働者(仮)   作:かがたにつよし

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フラコン収録が終わって一段落しちゃいましたね。
ここからはCPがユニットごとにデビューしていくだけなので、オリキャラのかかわり方が難しい……

そう言えば、小説分類を短編から連載に変更いたしました。
エタらないよう頑張ります。


5.隣の芝は、私の知ってる芝と違う。

 

島村卯月と会うのはこれで2度目だ。

1度目はアイドルとしてのキャラクターで迷っていたときの事。

島村卯月の第4次シンデレラプロジェクトオーディションの帰り道だ。

 

そして2度目は今日、ここである。

 

「はいっ、346プロダクションでは、社員さんもアイドルをやるんでしょうか!?」

 

私は島村卯月にアイドルだとを明かす事をしなかった。

オーディション中の人間をわざわざ煽る事は無いだろうとの判断だ。

ただ、不誠実であった事は間違いない。

 

だが島村卯月、既に貴女はアイドルになった。

もう何も隠し事をする事は無い。

 

「えぇ、私は346プロダクションの総合職入社試験で内々定を頂いた際、増毛Pにスカウトされました。社員待遇でアイドル活動を行う予定です」

 

「やっぱり、普通の社員さんじゃないって思ってました! お仕事しながらアイドルも出来るなんて、流石安曇さんです。凄くキラキラしてます」

 

いや、お仕事がアイドルになったんです。

そんな純粋無垢な目で見ないでいただきたい。

まるでアイドルと会社員の二足の草鞋を穿いているみたいではないか。

残念ながら、転生したからといって勤務時間は2倍にならないし、一日4時間ずつでどちらも完璧にこなせるほど、それらは甘くない。

 

「お仕事がアイドル……ということは、普通のアイドルなんですね! 私達と同じです」

 

そうです。

()()のアイドルなんです。

皆さんとなんら変わりありません。

 

「違うよしまむー。普通じゃなくて、独裁者系アイドルだよ」

 

そこ、余計な事を吹き込まない。

島村卯月は偏見の無い純粋無垢な目で私を捉えているのだ。

変なバイアスが掛かったらどうする。

 

 

 

「えっと、346プロの総合職ですか……?」

 

若干引き気味な質問者は、クラスの男子が放って置かなさそうな女の子ランキング1位(第2企画第2プロ調べ。母数2)、新田美波である。

大学生という事だが、新歓コンパが大変な事になったことであろうことは想像に難しくない。

 

「ええ、その通りです」

 

「346プロの総合職って滅多に通らないって聞いていたので、ビックリしました」

 

そんな事はない。

同じ総合職でも国家公務員総合職よりはよっぽどハードルが低いだろう。

また、入口はともかく、君も私も346プロダクションでアイドル候補生をやっている事には変わりない。

考え方を変えれば、難しい346プロの入社試験を早々に突破したという事だ。

 

「そうでしょうか……」

 

そうだとも。

アプローチは大した差ではない。

ゴールが大事なのだ。

 

 

 

「あの演説、楽しいの?」

 

うん?

今度はずいぶんと哲学的な質問だ。

質問者は渋谷凛。

哲学的なキャラクターなのか、未だに拗らせているのか、少ない情報では区別が付かない。

 

「隣の部屋から、練習の音が良く聞こえてた。あれって、そんなに打ち込めるものなの?」

 

楽しむ・打ち込むというのは、私の仕事のスタンスとは相容れないモノだ。

基本的に、仕事は何であろうと楽しいものではない。

アイドルという仕事も、日々新たな発見があるものの、楽しさとは無縁だ。

 

「楽しさ無しで、仕事なんて続けられるの?」

 

当然。

働かないと食うものにすら困る故。

 

「あんたは一体、何が楽しいの」

 

やっと答えやすい問いが出た。

 

楽しいのは、勿論休暇だ。

大学に入学し、1人暮らしを始めてから休暇が楽しくて仕方が無かった。

土日や休講日に、気の会う友人とスポーツやゲームに興じるのは最高だ。

放課後に趣味を満喫するのも良い。

長期休暇は青春18切符やヒッチハイク等で金欠ながら旅ができたのは良い得難い経験だった。

346プロでアイドルを始めてからは、経済事情が格段に良くなったので、ブルジョワ的娯楽を堪能している。

この夏はダイビングのライセンスを取って、カロリン諸島の海を散策する予定だ。

 

「へ、へぇ……。感情の無いロボットかと思ってた。その辺は人並みなんだね……」

 

勿論だとも。

感情は生物が行動する原動力だ。

ただ、感情を剥き出しにして動くのは野生動物のすることだ。

我々知性を持つ人間は、感情の炎を心の奥底に閉じ込め、感情の示す方向に理論武装して進まなければならない。

 

 

 

「杏には分からないんだけど、何でそこまで完成度上げるの? お金を稼ぐだけだったら8割位でも十分だし、お客さんは満足してくれると思うよ」

 

胸に輝く”働いたら負け”のスローガン。

立ったら私の肩くらいまでしか身長がなさそうなこの娘は双葉杏。

私とキャラが被ってそうなアイドルだ。

 

なるほど、鋭い指摘だ。

プロというのは一生に一度10割を出すのではなく、8割を常に出し続ける事だという。

しかし、フラコンの仕事――特にあのステージ撮影では、10割とは言わないが9割近くの力を出していたように思う。

 

「それは、自分に投資するのが好きだから、だと思います」

 

そう、私は自己投資が大好きだ。

投資した以上の価値が得られるのであれば、手間は惜しまない。

初仕事における練習という時間的投資もそうだ。

私はその十数時間で、フラコン製作陣(クライアント)の信用を得た。

”次もまた頼みたい”

これは、時と場合によっては千金を積んでも得られない、価値のあるものだ。

特に、アイドルのような仕事をやる上では欠かせないだろう。

 

「定時ダッシュには憧れたけど、ずいぶん大変な事してるんだね……私には無理だよ」

 

あきらめるのは未だ早い。

定時ダッシュとこれらは共存できるのだ。

勤務時間中は、かなりカロリーを消費するが。

 

 

 

フラコンのステージ撮影のデブリだと思っていたが、全く関連の無い質問ばかりになってしまった。

これではまるで、私の自己紹介だ。

今日が実質的なシンデレラプロジェクトとの顔合わせとはいえ、これで良かったのだろうか。

増毛Pにアイコンタクトを取る。

もう〆て良いだろうとのこと。

 

「――っと、武内P?」

 

〆の言葉に入ろうとしたところ、武内Pが手を上げた。

このデブリはアイドル専用ではなかったのか。

 

「最後にひとつ、宜しいでしょうか」

 

良くないと、言える訳が無いだろう。

増毛Pが変な顔をしている。

まぁ、武内Pの事だから突拍子もない質問が飛んでくるとは思えないが。

 

「シンデレラプロジェクトの皆さんは、それぞれなりたいアイドル像を持っています。輝くステージに立ちたい、歌いたい、綺麗な衣装を着たい、キラキラしたい。そういった憧れをアイドルに持っています。安曇さんが目的とするアイドル像はどのようなものでしょうか」

 

なりたいアイドル像?

労働者の味方、という答えは武内Pが意図したものではないだろう。

これは、アイドルが作る自身のキャラクターだ。

だとすると、スカウト時の答えと何も変わらない。

 

「ありません。私が目的とするアイドル像、というものがありません」

 

ザワ、とCPの面々が驚く。

そんなに驚く事だろうか。

私は適切な給与さえ頂ければ、仕事を選ぶつもりはあまり無いのだが。

私を含め、何か一つのことしかできない人間はいない。

皆、それなりに様々な事が出来るし、それらで食べていく事が可能だ。

私は偶然、今世ではそれがアイドルだったという事だ。

 

「今ここで、アイドル生命を絶たれたとしたら、貴女はどうしますか」

 

極端な質問だな。

二元論は格好良く見えるが非現実的だ。

答えるとすれば、ハローワークに失業保険を貰いに行く。

会社都合退職の方が失業保険が出やすいが、再就職が面倒だ。

自己都合退職と、どちらが有利だろうか。

いや、未だ一応学生だった。

就活の継続か院進学だろう。

 

私の回答で満足して頂けたようで、それっきり武内Pが質問する事はなかった。

何故か固まりっぱなしのシンデレラプロジェクトの面子を横目に、増毛Pと2人でプレゼン機材を片付け、CPのプロジェクトルームを後にした。

 

 

 

***

 

 

 

シンデレラプロジェクトと安曇さんは、アイドルとしては実質的な同期に当たる。

共に、平成27年度にデビュー予定だからだ。

 

先日、高垣さんにお願いをして安曇さんの調査をして頂いた。

増毛Pの自慢の懐刀が、どのような思考の持ち主かを見極めなければならない。

高垣さんから返ってきた回答は、意外にも普通のものだった。

独裁者キャラクターは台本通りに演じただけで、本心は皆の見本になるようなアイドルになりたい、とのことであった。

あの言動からは想像も出来ない、綺麗な本心だと思った。

 

だがどうだ。

私はもっと行間を読むべきだった。

いや、言葉を文字通りに読むべきだった。

 

本当に、台本通りに演じていた。

ある意味、労働者の見本のようなアイドルであった。

 

アイドル、普通の女の子が憧れる輝く世界。

それをサラリーマンと同列に見る彼女。

 

「Pチャン……みく達より一歩先にお仕事したとはいえ、アレはどうやって参考にすれば良いにゃ……」

 

シンデレラプロジェクトでトップクラスのプロ意識を持つ前川さんですら、この有様だ。

デビュー前の多感な少女達を、安曇さんに関わらせるべきではなかった。

私の失敗だ、それも2度も。

 

1度目は765プロと合同で行ったステージ撮影の日。

アイドル界の金字塔、765プロのオールスターライブが見学できるという事で増毛Pにお願いして席を都合してもらった。

765プロのステージでは、シンデレラプロジェクトの皆さんも何か学ぶべきものに出会ったような、手応えを得た。

問題はその後だ。

安曇さんのステージ、あれはシンデレラプロジェクトが目指すべきアイドルではない。

あれは1から10まで練習され、作られた演技だ。

表情も、声も、身振りも。

だが、アイドルは、シンデレラプロジェクトは、ステージ上で心の底から笑顔で無ければならない。

自然と浮かぶ笑顔が、ファンの活力となるはずだ。

だから私は、笑顔が素敵な女の子をシンデレラプロジェクトのメンバーとして採用してきた。

そんな娘の笑顔を、安曇さんのステージは凍りつかせかねない。

 

2度目は今日、さっきだ。

安曇さんのステージ見学で負ったシンデレラプロジェクトの皆さんの傷を癒そうと、デブリーフィングという体で安曇さんの初ステージの感想を聞くことにした。

緊張や困惑といった、初々しい感想が出てくると思ったからだ。

ところが、出てきたのは徹頭徹尾、感情からかけ離れた演技のノウハウであった。

傷を癒すどころか、塩を塗りこむ行為であった。

ステージ上で仮面を付ける事を推奨するような、そんな乾いたアイドルは、シンデレラプロジェクトの軸ではない。

 

このままでは、シンデレラプロジェクトのデビューに支障をきたす可能性もある。

安曇さんとシンデレラプロジェクトは、可能な限り引き離さなければならないだろう。

 

 

 

「皆さん、何故固まっているんですか? 安曇さん、変な事言ってましたか?」

 

暗く固まった空気を、島村さんが打ち砕いた。

私が迷ったとき、彼女の声と笑顔が眼前の障害を粉砕する。

渋谷さんの勧誘のときもそうだった。

 

「いや、変というかヤバイ事言ってたでしょ。しまむー、”アイドル生命を絶たれたら?”って質問に、”ハローワークで失業保険”って返すアイドル、普通は居ないよ」

 

他にも、アイドルに楽しさを求めていないとか、年頃の女の子にとって爆弾発言ばかりであった。

 

「そうでしょうか。私、養成所で今までアイドル目指していた時、ずっと頭の片隅には、アイドルを諦める選択肢がありました」

 

島村さんは養成所通いの中、何回もオーディションに落ちている。

同期も「学業に集中する」といって、皆辞めてしまったそうだ。

そんな環境であれば、アイドルではない自分を想像することもあるだろう。

 

「私、安曇さんのお話はよく分からなかったんですけれど、”自己投資が好き”って、つまり、頑張る事が好きって事じゃないですか?」

 

島村さんが少し大げさに身振りを取った。

どことなく、安曇さんの演説中のそれに似ている。

 

 

 

「私も、頑張る事が大好きです。安曇さんとは、仲良く一緒にアイドルが出来そうです!」

 

 

 

冷たく澱んだ空気が吹き飛ばされる。

花開く笑顔。

輝く後光。

 

 

 

「やっぱり、卯月は凄いよ」

 

渋谷さんが呟く。

それは私の耳にしか聞こえないであろう、小さな声であった。

同感だ。

増毛先輩と安曇さんの仕事ぶりに、眼が曇っていたようだ。

シンデレラプロジェクト最後の欠片(ピース)、島村卯月。

”何かが足りない”と悩んでいたこのプロジェクトに、睛を書き加えた少女。

 

彼女の笑顔がある限り、シンデレラプロジェクトは軋まない。

 

 

 

***

 

 

 

ぶぁっくしょーぉおい! えぇい、ちくしょう。

誰か噂したか?

 

「おい、絶対そのクシャミを他所でやるなよ」

 

勿論。

ここは第2プロのプロジェクトルームなので、気を抜いていただけだ。

アイドルモードなら、もっと可愛いクシャミをする。

 

「それはそれで、不気味だな」

 

失礼な。

キャラクターが大事といったのは、増毛Pではないか。

クシャミ一つも、大事なキャラクター構成要素ではないのか。

 

「君のキャラクターは、全体主義アイドルでほぼ決定だ。フラコンのインパクトは大きかったようだ。業界でも噂になりつつある」

 

やはり、そうだったか。

あの演説は少々やりすぎた感があったのだ。

まぁ、結果オーライだ。

左折と右折を間違えたが、運良く目的地にたどり着いたという事にしよう。

ナっちゃんも、初めは労働政策に力を入れていたのだ、初めは。

 

「フラコン関連の仕事で、君は一躍有名人だ。その衝撃は市井の人々にも広がっていく事だろう。346プロ内でも、君を早急にデビューさせるようにとの声が強い」

 

そういえば、未だデビューしていなかったな。

知名度や人気は、細く長く続く方が結果として儲かる事が多いと聞くが、大丈夫なのだろうか。

一発芸人のような扱いは、御免だ。

 

「安心しろ。私が君をプロデュースする限り、その様な事はない。直に346プロのトップアイドルにしてやるから、覚悟しておけ」

 

トップアイドルはいいが、仕事量は1日8時間で終わる程度でお願いしたい。

人生、そこそこが大事なのだ。

大丈夫、私の時間効率だけは保障しよう。

 

「デビューに伴い、無名だったこの第二企画第2プロも、名称が決定される。そして、君のユニット名もだ」

 

プロジェクト名のみならず、ユニット名も決めるのか。

複数人居るプロジェクトのソロユニットならともかく、私しかいないプロジェクトの1ソロユニット名など決める必要があるのか。

 

「そこは、アイドル業界のお約束という奴だ。創造的な仕事は苦手かもしれないが、ユニット名は考えておいてくれ。期限は、GW明けだ」

 

 

 

GWという休暇にも拘らず宿題を与えられてしまった。

こういう課題は、殆どの場合休暇前又は初日に終わらせるのが吉である。

仕事も無かったので、ユニット名のネタ作りと称して346プロ内のカフェテリアでスマートフォンを片手に思案中だ。

決してネットサーフィンしてサボっている訳ではない。

このまま定時まで”思案中”というのを狙っているだけだ。

 

「ご注文は何になさいますか? 独裁者らしくブラックコーヒーにされますか?」

 

先輩アイドルに注文を取って頂けるのはありがたいが、そのキャラクターをアイドル時以外にも持ち出さないでいただきたい。

私はウサミンとは異なり、OFFの時はキャラクターを演じないのだ。

それに、世界一有名な独裁者はただの水を好んでいたそうだぞ。

そして私はブラックコーヒーが飲めない。

ミルクと砂糖をタップリで頼む。

 

「い、意外ですね……菜々はもっと、ブラック飲みながら仕事をするバリキャリなイメージを持ってました」

 

バリキャリ?

久しぶりに聞いた気がする。

”ナウなヤングに馬鹿受け!”位の言葉ではないだろうか。

いや、もう少し新しいか。

少なくとも、17歳の女子高生が使う言葉ではない。

 

注文どおり、半分以上がミルクのカフェオレと、山のような角砂糖を持ってきていただいた。

346カフェにはこの時間帯、他の客も居ないようなので、課題の相談でもさせて頂こう。

1人で悶々と考えるよりは、生産性が高そうだ。

 

「遂にデビューされるんですね! どんなユニットなんですか?」

 

ソロプロジェクトの、ソロユニットです。

しかも名前は未だ無い。

このままだと、私のGWが課題という名の持ち帰り仕事で潰されてしまうのだ。

 

「GWですか、懐かしいですね~ 菜々が学生の頃は……いや、今でも菜々は学生ですけれどね!」

 

そう、学生の特権GWを憎き資本家346プロが奪いに掛かっているのだ。

安部さんにはぜひとも、私のユニット名を一緒に考えて頂きたい。

 

「そうですね~ ”ウサミン星人と愉快な仲間達”とかどうです?」

 

私はウサミン星人ではないです。

しかもセンスが古い。

 

「うぅっ、菜々も頑張って考えたんですよ……」

 

いや、申し訳ない。

そこまで責めるつもりは無かったんだ。

ただ、センスが絶望的なだけで。

今度飲みに行きましょう、私が出しますから。

 

「良いんですか!? 菜々、イイお店知ってるんですよ~……あっ」

 

ダウト。

 

 

 

安部さんには相談に乗っていただいたが、状況は芳しくない。

このままだと思考のドツボに陥りそうだ。

何か、気分転換になるようなイベントが欲しい。

どこか旅行に行っても良いのだが、課題の事を忘れそうだ。

それなりに仕事に関係あるイベントが良いだろう。

 

「安曇玲奈です、増毛Pでお間違いないでしょうか」

 

『増毛だ。定時後に仕事関係者に電話なんて、どうしたんだ。明日は嵐なのか』

 

失礼な。

私だって定時後に業務をすることもある、偶に。

 

「GW中にシンデレラプロジェクトの3人がバックダンサーを勤めるライブがあると、安部さんから聞きました。今から1人分の席を確保する事は可能でしょうか」

 

『休暇中に視察とは、本当に嵐になるんじゃないか。関係者席を武内から貰っている。どうせ君は来ないと思っていたんで、伝えてはなかったんだがな』

 

私は普通の消費者だ。

偶には流行のアイドルのライブに参加したって、いいじゃないか。

 

 

 

シンデレラプロジェクトの補欠組3人がバックダンサーを勤めるのは、城ヶ崎美嘉の『TOKIMEKIエスカレート』。

噂では、城ヶ崎美嘉自身が3人を指名したらしい。

3人がシンデレラプロジェクトに加入してから今日まで、そんなに日付は経っていない。

私は初ステージの練習にかなりの時間を費やした。

彼女らは、十分な練習時間は取れたのだろうか。

取れていないのだとしたら……

 

 

 

それは、才能というヤツだ。

 

 

 

言葉では良く口にするし、耳にもする。

だが、それが何なのかは自分でも良く分かっていない。

 

物事の成功の是非は、本番を始める前に決まっている。

本番までに、どれほど考え、どれほど練習したかが成功率を左右する。

私は8割の成功を確信したとき、残りの2割を天に預けて事を始める。

 

私の世界には、”才能”は存在しない。

 

だが世の中には一定数居るのだ。

十分な練習無しでポップアップから飛び出した瞬間、輝く笑顔を放てる存在が。

大人数の前で怖気付くことなく踊る事の出来る存在が。

 

増毛P、貴方は私を346プロのトップアイドルにすると言った。

だが、それは難しいぞ。

何しろライバルは彼女らだ。

自然な笑顔で輝ける存在だ。

本物の、純粋で天然物のアイドルだ。

極論、何もしなくたって人を魅了できる。

 

私は彼女らに負けないよう、顧客が求めているものを考え、それを実行できるように練習し続けなければならない。

そうしなければ、ファンを惹きつけ続けることが出来ない。

 

 

 

「ライブはどうだった、ユニット名のネタは掴めたか?」

 

ライブは最悪だった。

私が今世でも前世でも持たなかったものを、これでもかと見せ付けられたのだ。

隣の芝は青いどころの話ではない。

 

「そいつは、災難だったな。まぁ、社会ではよくあることだ」

 

流石、出世レースに負けた人間が言うと説得力が違うな。

 

なぁ増毛P、私は346プロの稼ぎ頭(トップアイドル)になるよ。

輝くものを持った連中を押しのけて、思考と理論が最もアイドルにふさわしい事を証明するよ。

そうしたら貴方も、出世レースに返り咲けるでしょう。

 

「あぁそうだ。その通りだ」

 

むさ苦しく、眩しい顔だ。

光学的な輝きだ。

 

「プロジェクト名は、『フラッグシップ・プロジェクト』。346プロのハイエンドが、君だ」

 

第2企画の、それも第2プロジェクトが、そんな名前でいいのか。

許されるのか。

許されているのなら、名前通りにしてやろう。

 

プロジェクト名が決まると、ユニット名は自分の中にストンと生まれた。

まるで、GW前から考えていたかのように、自然なものだった。

 

「ユニット名は、『フロント・フラッガー』。私は皆の旗振り役になるわ」

 

旗は古来から人を先導し、勇気付けてきた。

彼の騒乱の時代も、帝国主義者が、共産主義者が、そして資本主義者がそれぞれ旗を振った。

 

今はアイドル戦国時代。

私は独裁者系アイドル並びに労働者の味方及び希望として、旗を振ろう。

 

 

 

 

 

 




1話1万字、っていう自分ルールを定めようと思った事があるんですが、止めました。
切りのいいところが、7~8000字だったとき、贅肉をつけて太らせたくはない......

ある程度の読み応えを確保して、適度な頻度で投稿できればと思います。
が、今日はコミケの当落日(おい

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