ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
イッセーたちは教会を探し、地下室をすぐに発見した。
どう考えてもそこで実験をしているのは明白だ。
実験の内容はわからないが、アーシアがただじゃすまないことは簡単に想像できる。
ゆえに、とにかく急いでイッセーは階段を下りていた。
「うぉおおおおおお! アーシアぁあああああ!!」
両開きの扉を蹴破って、イッセーは祭壇の間に殴りこんだ。
そこで儀式を見学していたはぐれ悪魔祓いたちが一斉に振り返るが、しかしイッセーはそいつらには全く構わない。
彼の目に映るのは、まるで聖書の神の子のごとく十字架にはりつけにされた金髪の少女と、その少女の隣に並んでいるかつての恋人の姿だったのだから。
「アーシア! ・・・夕麻ちゃんも」
「クソガキ風情が私の名前を呼ばないでくれる? ミッテルト達は何をしているのかしら?」
不快感を隠しもしないで、しかしレイナーレは十字架から放たれる魔法陣を操作する。
操作が進むごとに光も強くなっていく。
ああ、これはまずい。
「何をする気なんだ! アーシアを離しやがれ!!」
何とか駆け寄ろうとするイッセーに、悪魔祓いたちが襲い掛かる。
このままでは間に合わない。そう心のどこかで認めてしまったその時だった。
「こらこら、イッセーくんは独断専行しすぎだよ」
悪魔祓いたちの持つ光の剣が、急激に弱弱しくなって消えていく。
そして、そこに飛び込んだ影が手に持った剣を一閃すると、漫画みたいに人が吹き飛んだ。
「本当です。追いかけるのも大変だったんですから、ちゃんと後ろを見てくださいね」
「木場、蘭ちゃん!」
イッセーは感動して涙を流しそうになるなが、しかし腰のあたりをむんずとつかまれてそれどころではない。
形容するまでもなく持ち上げられている。しかも視線を合わせれば、一夏も一緒に持ち上げられていた。
「お、織斑? これ、どういうことだ?」
「あきらめろイッセー。これが一番早い」
そろりそろりと下を向けば、そこには軽々と大の男二人を抱えている小猫の姿があった。
「行ってらっしゃいイッセー先輩に一夏先輩」
そのまま豪快に、十字架に向かて二人は投げ飛ばされる。
そんな状況で、一夏は冷静に剣を引き抜いていた。
片刃の両手剣を持ち、一夏はたどり着くと同時に一閃。
十字架の基部を切り裂き、そしてそれをイッセーに押し出した。
「うぉ・・・重い! マジで重い!!」
「頑張ってそのまま逃げろ! こっちは俺が―」
言いながらレイナーレに切りかかるが、しかしレイナーレも負けてはいない。
光の槍で攻撃をかろうじて防ぎながら、高い天井のギリギリまで舞い上がってにらみつける。
「下級悪魔の群れの分際で、この私の偉大な計画の邪魔をしてくれるとはね・・・!」
「何が偉大な計画だよ。上に黙ってこそこそとしてるって聞いてるぜ!!」
真正面から剣と槍をぶつけ合いながら、一夏は吠える。
そう、そのあたりはレヴィアによって確認がすでに取られている。
だから、ここで彼らと殺し合うことには何の問題もないのだ。
ゆえにこちらも遠慮はしない。
もとより、悪を倒すのに容赦するような性分ではないのだ。殺しても問題ないというリミッターの軽減も手伝い、一夏はしっかりと全滅させるつもりでいた。
その気迫を察知したのか、レイナーレもまた吠える。
「だったらこっちも容赦しないわよ! ・・・フリード!」
「はいはいはい~。めんどくさいけどやるしかないのよね~」
そういいながら、白髪の神父が部屋の隅から現れた。
目を見るだけで、彼が狂気にとらわれた人物であることがすぐにわかる。
「フリード。こいつらを始末しなさい! あなたならできるでしょう?」
「かしこまりました~! まあ、俺様ちゃんにはこんな素敵☆アイ♪テムが存在するからりんと!!」
そういいながら引き放つのは手首につけられた腕輪だった。
だが、それはただの腕輪ではない。
「・・・まさか」
「そんの、まさかちゃんだよん!」
一瞬でフリードは光に包まれる。そしてその四肢に鋼の鎧を纏い、背中には鋼鉄の翼が生える。
IS。インフィニット・ストラトスが、異形たちの戦いの場に現れた。
「ほい! そういうことで雑魚の方々はさっさと退散してちょ♪ こっから先は―」
次の瞬間には、十メートル以上離れていた一夏の目の前で、フリードはブレードを振り上げていた。
「巻き込まれて、死んじまうぜ?」
何とか十字架ごと階段を上りきったイッセーは、そのままへたり込んで息を吐く。
走りすぎて気持ちが悪く、少しはいてしまったが何とか大丈夫だ。
少し休めばまた走れる。まあ、その時は十字架の方はおいていこうと思っているが。
「だ・・・大丈夫か・・・アーシア」
「イッセーさん・・・」
アーシア・アルジェントは涙を浮かべながら、静かに首を振っていた。
「私を置いて行ってください。そうすれば、レイナーレ様もイッセーさんを襲いに行ったりはしないはずです」
この期に及んで心から他人の心配だけをするアーシアに、イッセーは苦笑してその額を小突いた。
「いたっ!」
「馬鹿なこと言うんじゃねえよ。俺がアーシアを見捨てるわけないじゃないか」
そういいながら立ち上がると、イッセーはアーシアにかけられた拘束を解こうとやっきになる。
「ハンバーガー、うまかったよな? ゲームセンターも面白かったよな?」
「は、はい。主に怒られてしまいそうな気もしますが、楽しかったです」
「勝手に怒らせときゃいいんだよそんな奴ら。結局アーシアに何もしてくれないんだから」
しいて言うなら神道と関係の深いイッセーからしてみれば、祈りに対して何も返さない神様なんてこちらから願い下げだった。
アーシアには、そんなものに振り回される方がどうかしているって気づいてほしいと常に願う。
「これが終わったら、部長かレヴィアさんにでも頼んで、アーシアの居場所用意してもらうから。だから、アーシアはもっと俺を頼ってくれ」
「そんなわけにはいきません! 見ず知らずの他人にご迷惑をかけるだなんて・・・」
そんな失礼なまねはできない。そう言おうとしたアーシアだったが、それより先にイッセーの声が届いた。
「友達を助けるのなんて、当たり前のことじゃないか」
・・・その言葉が、アーシアの心に深く届く。
アーシア・アルジェントは、翻弄され続けの人生を送ってきた。
生まれたときから孤児院に預けられ、そこで質素ながらも人並みの暮らしを得ていた。
偶然他者をいやす力に目覚め、それによって聖女として祭り上げられた。
信徒はみな敬ってくれたが、決して友達はできない院生でもあった。
そして、悪魔を治したことで魔女として追放され、堕天使の元に転がり込むことになった。
本当にいろいろと不幸な人生だ。
今、その人生を真正面からぶち壊そうとしてくれる少年がいる。
それはきっと、心のどこかでアーシアが求めてやまなかったものなのだろう。
「私、シスター失格ですね・・・」
「辞めちまえばいいだろ、そんなもん」
イッセーはばっさりと言い切った。
彼にしてみれば、こんなかわいくて優しい子に救いをもたらさない神なら、いない方がましだとすら言いきれる。
信仰はすくわれるという見返りあってのものだ。それがないなら信仰する必要なんて欠片もなかった。
だから、神じゃなくて自分がアーシアを救って見せる。
そう思い、神器を展開しながら十字架を破壊しようとして。
「あら駄目よ。その子は私が使うんだから」
その足に、光の槍が深々と突き刺さった。