ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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修学旅行のパンデモニウム

 

「……さて諸君。これより僕たちは修学旅行へと行くことになる」

 

「レヴィア。まだ三日あるぞ?」

 

 速攻で一夏からツッコミが飛んだが、レヴィアは無視した。

 

 こういうのはノリが大切なのである。

 

「修学旅行。それは学生が羽目を外す時期だ。僕としても、鉄板ともいえる露天風呂の覗きはOKを出したいけど、あいにく外である以上いつもより厳重にいかないといけない……っ!!」

 

「畜生!! 同じく定番であるエロ動画チャンネルも、今回のホテルには存在しねえ!!」

 

「せめて! せめて女子の部屋に行きたかった!!」

 

 松田と元浜も涙を流すが、それ以上にレヴィアが涙を流しているのは明らかに問題がある。

 

 仮にも女子の風紀委員長としてこれはどうだろうかとツッコミ必須の環境だった。

 

「一夏さん。……頑張ってください」

 

 蘭は静かに一夏の肩に手を置いた。

 

 レヴィアに松田に元浜を、一夏は修学旅行中一人で抑えねばならないのである。

 

 なにせ、蘭は一年生だ。修学旅行には参加できない。

 

 とはいえ、後輩の女の子にこの問題児の制御を頼っているのは、一夏としては思うところがありまくる。

 

 こんな朴念仁の自分を愛してくれているのだ、たまには楽をさせてあげたいと思っているのだ。

 

 そういう意味では、この修学旅行はいい機会だと一夏は思っていた。

 

「蘭にはいつも苦労かけてるからな。数日だけど、羽を伸ばしてくれ」

 

「はい。その分修学旅行が終わったらもっと頑張って首根っこをひっつかみます!!」

 

 と、気合を逆に入れられてしまってはちょっと苦笑してしまう。

 

「だけど、このいろいろあるご時世に修学旅行とか、まだまだ日本は平和だってことか」

 

 松田がふとそう漏らすのも当然だ。

 

 なにせ、日本こそ戦火に包まれていないが時は第三次世界大戦の真っただ中である。

 

 さらに異形社会も異形社会で禍の団との戦いが頻発しているし、そういう意味では二重の意味でそんなことをしている場合かという意見もあるだろう。

 

 だが、レヴィアはそんな中笑って見せた。

 

「まあね。それに、サーゼクス様達たっての希望なんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「うん」

 

 元浜に、レヴィアはうなづいて見せた。

 

「本来守るべき子供たちを何度も死地に送り込んでることに思うところがあるみたいでね。学校行事ぐらい、素直に楽しんでもらいたいって思ってるみたいだよ」

 

 そういうレヴィアは笑顔で、三人に告げた。

 

「そういうわけだから、修学旅行は変態行為をしない程度に楽しむこと。しっかり楽しまないと、サーゼクス様達が落ち込むからね?」

 

「「「はい!!」」」

 

 一斉に返事をする男子生徒三人を見て、レヴィアは笑顔を一層強くする。

 

「……さて、それじゃあ話は変わるけど、修学旅行が終わったらいろいろと忙しくなるよ」

 

 すぐさま、表情が真剣なモノへと変更された。

 

「修学旅行と同時期に、三大勢力は日本の妖怪勢力と会談を行う。その推移次第では、学園祭と前後してアグレアスの奪還作戦が行われるだろう」

 

「「「「……っ」」」」

 

 その言葉に、全員が息をのんだ。

 

 当然だ。アグレアスの奪還は三大勢力にとっての急務ともいえる。

 

 悪魔のあらゆる意味で重要な要素にして、天使にとっても希望の光ともいえる転生システム。

 

 これを再び行えるようにするには、アグレアスの遺跡の奪還が必要不可欠。

 

 さらに、王の駒を解析量産する準備が終われば、禍の団……こと真悪魔派は大幅に戦力を強大化させるだろう。

 

 あらゆる意味でアグレアスの奪還は急務。それは当然のことだった。

 

 そして、そのために必要な戦力はもうじき集まる。

 

 アースガルズとの和平はなった。そしてオリュンポスや日本神話体系ともある程度のつながりはできている。

 

 そこに妖怪との和平がなされれば、戦力が低下したからといって他の神話体系に襲われる可能性は大幅に低下する。

 

 ことアースガルズとの和平締結は渡りに船だった。

 

 反対派は元より数が少ないため、積極的に交流している。また、その数少ない反対派で唯一の神であるロキもすでに、その権威を失墜したうえで封印された。

 

 ヴァルキリーや彼女たちに迎えられた勇者たちの協力をもってして、アグレアスを奪還する。

 

 むろん、相当の死者が出るであろう状況なのでこちらの懐も痛くなるだろうが、それは必要経費だ。

 

「そういうわけだから、ある意味最後の息抜きになる。間違いなく、僕らも後詰で出ることになるだろうからね」

 

 レヴィアの言うことはもっともだ。

 

 サーゼクスたちは子供たちの参加を良しとしないだろうが、もはやそれは良しとされない。

 

 なにせ、グレモリー眷属とシトリー眷属とレヴィアタン眷属は、禍の団との大規模な戦闘を潜り抜けてきた実力者だ。

 

 アガレスやバアルの眷属と同様に、すでに並の上級悪魔とその眷属を超える戦力として認識されている。

 

 ただでさえネバンによって戦力が減っている現状で、之だけの実力者を遊ばせる選択肢など存在しない。

 

「だから、この修学旅行は徹底して遊び倒すよ!! 死んでもいいぐらいにこの世の快楽を謳歌するんだ!!」

 

 レヴィアは、気合すら入れてそう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことがあったんだよ」

 

「ああ、そんなことになってるんだったよな」

 

 新幹線の中で、一夏とイッセーはそういいながら緊張していた。

 

 レヴィアには遊べといわれたが、しかしそんなことを言われての難しい。

 

 一夏にしろイッセーにしろ、割と真面目な性分なのだ。真悪魔派との決戦を前にしては、どうしても緊張してしまう。

 

 それに―

 

「赤龍帝の籠手のブラックボックスが飛び出したって……俺の目が飛び出るぞ」

 

「………まさか、いまのはダジャレのつもりだったのか?」

 

 イッセーにすらドンビキされる一夏のジョークセンスはこの際置いておく。

 

 だが、状況はいろいろとややこしいことになっている。

 

 この前、イッセーは特例で悪魔の駒のブラックボックスを開放された。

 

 これにより赤龍帝の籠手の領域を拡張できるかもしれないという目論見で、魔王アジュカ・ベルセブブが特例で起こしたことだ。

 

 何が起こるかわからないこともあり、ほかのメンバーには施されていないが、もしこの実験で結果が出れば、リアスはともかくレヴィアは開放を要請するだろうという予感がある。

 

 そして、その実験はある意味で効果を発揮した。

 

 歴代赤龍帝の残留思念。そのうちの一部が接触を図ってきたのだ。

 

 それも、男女の歴代最強というから驚きである。

 

 そして、二人はイッセーに赤龍帝の籠手のブラックボックスを渡して、解放された悪魔の駒の力でそれを開いたのは良いのだが……。

 

 なぜか、赤龍帝の籠手から飛び出ていってしまったらしい。

 

「どうすんだよ。戻ってくるのか?」

 

『それは大丈夫だ。あれは結局は相棒の力。いずれ引き寄せ合うだろう』

 

 一夏の不安にドライグは安心させるように言うが、しかし問題はそこではない。

 

 ブラックボックスがどこかに行ったことで赤龍帝の籠手に不備が出ないとも限らない。さらに言えば、それがアグレアス奪還作戦にまで引きずると目も当てられない。

 

 すでに赤龍帝の籠手を使いこなし始めているイッセーは、悪魔全体で数えても戦闘職の上位百分の一ぐらいには入る戦力だ。大火力による殲滅戦ならば、千分の一を狙えるだろう。

 

 そんな大戦力が、いくら後詰になるだろうとはいえ使えないというのは足元をすくわれるようなものだ。

 

 とても不安だ。心から不安だ。

 

「どうすんだよイッセー。お前、このままでいいのか?」

 

「仕方ねえだろ織斑。オレだってどうしていいんかわからねえから」

 

 はあ。と二人は同時にため息をついた。

 

 しかも、それとタイミングを同じくして元浜が松田の胸にダイビングするという非常事態が発生した。

 

 空気が実に微妙である。

 

「最近、あいつ等落ち着てきたと思ったけど、やっぱり修学旅行でテンション上がった?」

 

「いや、レヴィアさんに吸い取られてるから大丈夫なだけだろ?」

 

「でもレヴィアさん胸ないし、それが不満なんじゃないかしら?」

 

「いや、元浜の奴はロリコンだぞ? 胸ない方がいいだろ」

 

「貧乳とロリはちげえよ。そういう意味じゃレヴィアさんは相性が悪い」

 

「だよねぇ。レヴィアさん背は高い方だし」

 

 外野がやんややんやと会議を始めているが、とうのレヴィアは意にも介さない。

 

「仕方ない。京都に行ったらデリヘルを頼もうか。僕の貧乳長身なのが原因だからね。責任取ってお金は出すよ。っていうか僕も混ぜろ」

 

「「「マジですか!?」」」

 

「いや、高校生がデリヘルとかないだろ!!」

 

 レヴィアから始まる暴走を止めながら、一夏は心から思った。

 

 蘭と小猫は頼もしかったなぁ。俺、くじけそうだ。

 

 その直後、自分の愛する年下に頼っている自分に気が付いてへこむまであと五秒。

 


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