ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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レヴィアって意外と不人気なのだろうか?




魔王の字が付くなかでも、エロさえ除けばトップクラスにまともな人材として描写した本作の看板なんだけど……。


放課後のラグナロク 終

 戦いは、終わった。

 

 神々の中でも最高位に属する雷神の一撃を受け、ロキはもう動けない。

 

 この闘い、これ以上の進展はないだろう。

 

 気づけば、すでに量産型のミドガルズオルムもすべてが倒されている。

 

「勝った……のか?」

 

 力尽きて元の姿に戻った匙が、ぽつりとつぶやく。

 

 その姿に苦笑しながら、レヴィアは不敵な笑みを浮かべて一夏の肩をたたく。

 

「さあ、今回の功労者。そろそろやるべきことをやった方がいいんじゃないかい?」

 

 その言葉に、一夏は少しきょとんとするが、すぐに我に返る。

 

 確かに、大将首を取った以上、自分がこの戦いのMVPだ。

 

 なら、やることは一つ。

 

「……勝ったぜ、皆!!」

 

『『『『『ぉおおおおおおおお!!』』』』』

 

 一夏が腕を天に突き出すとともに、歓声が上がる。

 

 その時になって、彼らはみな勝利の喜びに打ち震えた。

 

「……ふ、ふふふふふ」

 

 そして、その笑い声でいきなり凍り付きかけた。

 

「ロキ!? まだ戦えるのかい!?」

 

 レヴィアは心底舌打ちする。

 

 すでに、一夏はミョルニルの制御を失っている。匙もまた、限界を超えている以上ヴリトラの制御はできないだろう。

 

 この状態での戦闘は、間違いなく死人を産む。

 

 だが、ロキは力なく笑うとよろよろと立ち上がった。

 

「安心するがいい。我に抵抗できるほどの力はない」

 

 ロキの言葉の言う通り、彼からは力を感じない。

 

 それほどまでにミョルニルの力は強大だった。ゆえに切り札としてアザゼルたちはそれを使用したのだ。

 

 だが、レヴィアはどこか嫌な予感を感じていた。

 

 なにか、もやもやとした不安の感情がレヴィアの中に渦巻いている。

 

「まさか、我が敗北するとはな。……さすがは()()を使っているだけのことはある」

 

 その言葉に、レヴィア達は一斉に疑念の感情を浮かべた。

 

 確かに、ISは強力な兵器である。

 

 その本領が異形社会に上級にとっても脅威であることは、人類統一同盟との戦いですでに実証されている。

 

 だが、それにしても数を用意せねば、神を殺すほどの切り札となりえるほどではない。少なくともロキがわざわざ褒めるほどのことではないはずだ。

 

 それゆえに全員が不思議な感情を浮かべる中、ロキはあからさまな嘲笑を浮かべた。

 

 まるで、何もわかっていない馬鹿なものをあざ笑うかのような嘲笑だった。

 

「……く、くくくくくっ。やはり貴様たちは何もわかっていない。自分たちがいったい何を使っているのか、篠ノ之束がどれだけ罪深いことをしたのか理解をかけらもしてないのだ。これは哂うほかないな。フハハハハハハハハ!!!」

 

 大声でそう笑いながら、ロキは魔方陣を展開する。

 

 そして、ロキの全身が凍り付き始める。

 

「……待て! お前、一体束さんの何を知って―」

 

「下がれ一夏君! これだけの封印術式、巻き込まれたら逃げられない!!」

 

 思わず問い詰める一夏をレヴィアは羽交い絞めにして遠ざかる。

 

 そんな一夏の視線を真っ向から受け止めて、ロキはしかし嘲笑の表情を崩さない。

 

「我を倒したところでもう遅い。貴様たちがISを使っている限り、真の意味での三大勢力の和平など決して訪れん!! それまで一時の平和を過ごすがいい!!」

 

 高笑いを続けながら、ロキはそのまま全身を氷に包まれる。

 

 イッセーは思わず詰め寄るとこぶしを氷にたたきつけるが、しかしその氷はびくともしなかった。

 

「待ちやがれ! お前、いったい何を知ってるんだ!!」

 

「さがれ、赤龍帝。アースガルズでも高位の神が放つ最大規模の封印術式だ。……解くには最低でも数十年はかかるぞ」

 

 バラキエルがイッセーの肩に手を置いてとどめる中、レヴィアは額に手を当てると深くため息をつく。

 

「……どうやら、篠ノ之束はとんでもないことをしているようだね」

 

 北欧の悪神ロキが、わざわざ名指しで告げるほどの愚かな高位。

 

 神すら恐れぬを地で言っていたはずの当時の篠ノ之束なら何をしても驚かないが、しかしそれゆえにその言葉は危険だ。

 

 三大勢力の和平すら揺るがすほどの何かが、ISには秘められている。

 

 戦いには勝利したが、その事実に素直に勝利を喜ぶことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが終わり、オーディンは北欧へと還っていった。

 

 謎は残ったが、しかし当面の危機は去ったともいえる。

 

 少なくとも、アース神族で随一の和平反対派だったロキを倒したことでアースガルズは三大勢力の同盟相手として一歩進んだのだ。これは間違いなく大きな戦果だろう。

 

 これにより後顧の憂いの一つは間違いなく消えた。一気にアグレアス奪還作戦は進むことになるだろう。

 

 なるのだが………。

 

「うわぁあああああん!! 酷い、ひどすぎます!!」

 

 泣き崩れるロスヴァイセを見て、一同は途方に暮れてしまった。

 

 非常に簡単に一言で言おう。

 

 置いていかれた。

 

「まったくもう。オーディン様も何をやっているんだか」

 

 レヴィアは額に手を当ててため息をついた。

 

 最早彼女はアースガルズには戻れまい。戻ったところで白眼視されるのは目に見えている。

 

「それでどうするのリアスちゃん?」

 

「幸い教師として働けるように働きかけておいたわ。彼女、教員免許を持ってたから」

 

「流石外国。飛び級OKなんだね」

 

 それなら人並みに生活は送ることが可能だろう。

 

 可能だろうが……彼女は異形側の出身である。それも主神の秘書というものすごい勝ち組。

 

 それが「うっかりわすれた」などという理由でリストラされるなどどう考えても負け組である。絶望的負け組である。

 

「……後で魔王末裔として主神に抗議しようか?」

 

 思わず魔王の権限をレヴィアに使わせるか迷わせるほどに、あまりに哀れだった。

 

 だが、リアスはむしろ笑顔を浮かべると、レヴィアに首を振る。

 

「流石にそこまでしなくていいわよ。彼女は私が面倒を見るわ」

 

「おや? もしかして……悪魔のささやき?」

 

「悪魔ですもの」

 

 二人は示し合わせてにやりと笑うと、ロスヴィアセに向き合った。

 

 これより、買収タイム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう」

 

 一夏は、素振りを終えると汗をぬぐいながら息をついた。

 

 ロキとの戦いは奇跡の連続だったといってもいいだろう。

 

 決意はしていた。だが、本当に実行できるかとなれば別問題。それほどまでに死を覚悟しなければならない戦いだった。

 

 それは何とか奇跡的にも全員生き残ることができたが、しかしそれはそれとして問題が生まれてしまった。

 

「束さん、いったいなにしたんだよ……」

 

 あのロキが名指しで告げるほどの何かを、束はしている。

 

 それも、三大勢力の和平が崩れかねないほどのことを彼女はしているというのだ。

 

 あのタイミングでまさか嘘の情報を漏らすとも考えずらいが、しかしいったい何をしでかしたというのか。

 

 考えられるのはISコアだが、いったいこの科学の産物にどれだけやばいものを詰め込んだというのか。

 

「……箒が人類統一同盟にいるのも、それが理由なのか?」

 

 だとするなら、相当のことをしているのだけは想定できる。

 

 一説では、白騎士事件の根幹ともいえるミサイル発射は束の自作自演ではないかという話も存在する。

 

 さすがにそこまでしないだろうとは思うが、しかし可能不可能でいえば可能と思えてしまう天才だ。

 

 いったい何をしていたとしても、どこか納得できてしまう自分がいる。

 

 そういう人物なのだ、束という女性は。

 

「……束さん、箒……」

 

 自分は、あの二人と再会した時にどうすればいいのだろう。

 

 ふと、そんなことを考えてしまう。

 

 それではだめだと思い、一夏はもう一回素振りに集中しようとして―

 

「―一夏」

 

「あ、朱乃さん」

 

 朱乃が、トレーニングルームへと入ってきた。

 

「探しましたわ。今日もトレーニングしてたのね」

 

 そう言いながら一夏に近づく朱乃の手には、皿が一枚持たれていた。

 

 中に入っているのは肉じゃがだった。

 

「あ、これは美味しそうですね」

 

「ええ、実をいうと自信作ですわ。あまりものですけど、一夏に味見してもらおうと思って」

 

「ありがとうございます。じゃあ、一口」

 

 そういって一夏は肉じゃがを口に入れる。

 

 料理には自信のある一夏だが、その一夏から見てもこの肉じゃがはかなりおいしい。

 

 思わず黙々と食べまくってしまうが、しかしそれぐらい美味しかった。

 

「すごい美味しいですよコレ! 朱乃さん、本当に料理が得意なんですね」

 

「あらあら、本当に一夏君は女の子を喜ばせるのが得意ですのね」

 

 そういってくすくす笑う朱乃は、しかしすぐに一夏の口元に視線を向ける。

 

「あらあら、口元にジャガイモのがついてますわよ」

 

「え、ホントですか!?」

 

 慌てて袖でぬぐおうとするが、それより早く朱乃が動いた。

 

 ……具体的には、唇でそれを取ったのだ。

 

「あ、朱乃さん!?」

 

「うふふ。直接ではないですけど、ファーストキスですわ」

 

 顔を赤らめながら朱乃は笑顔を見せる。

 

 その笑顔が、今まで見た中で一番素直で自然で素敵だったせいで―

 

「―そうか、ありがとう」

 

 なんというか、素直にお礼を言いたくなってしまったのだ。

 

 その瞬間、朱乃の顔がものすごい勢いで赤く染まっていく。

 

「………バカ」

 

「ええ!?」

 

 褒めたのになぜ罵倒されねばならないのか。

 

 そんな感情を浮かべながら、しかし一夏は気が付いた。

 

 ……扉の向こうで、小猫と蘭が半目で一夏を見ている。

 

「一夏さんはあれだから困るのよ」

 

「同感。本当にどうにかしてほしい」

 

「なんでだぁあああああああああああああああ!!!」

 

 レヴィアの苦労によって、少しは女心を理解できる男、織斑一夏。

 

 だが、それは雀の涙に等しいごくわずかな量でしかないのであった。

 


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