ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
「……ヴァーリ!」
イッセーの声が響く中、ヴァーリの鎧の隙間から血が零れ落ちた。
見れば、フェンリルを捕縛していたグレイプニルが、戦闘の余波で破壊されている。
「ふはははは! まずは白龍皇から倒させてもらったぞ!!」
ロキが戦場であざ笑う中、しかし状況は全くもって笑えない。
明確な混戦状態で皆が苦労しているなか、最大の懸念材料であるフェンリルが解放された。
しかも頼みの綱のミョルニルは、イッセーに邪念がありすぎてまったくもって使えないという体たらくだった。
このままでは、全滅する可能性すら大きい。うまくいっても共倒れだ。
「さて、それではまずは本来の目的を優先させてもらおう」
そういうと、その視線がレヴィアへとむけられる。
「……ラグナロクの成就を阻害するものは滅ぶべし。ゆけ、我が子よ。雪辱を果たすのだ!!」
その言葉とともに、フェンリルがヴァーリをくわえたままレヴィアへと襲い掛かる。
そして、レヴィアが反応するより早く爪の一撃がレヴィアにたたきつけられた。
「痛っ! この狼、やってくれるね!!」
それを受け止めるレヴィアだが、しかしそのまま超高速で引きずり回されていく。
割って入ろうとするタンニーンやイッセーもあっさりと弾き飛ばされ、人類統一同盟もまともに介入ができない。
終末の獣。その能力に一切たがわない圧倒的な力がそこにあった。
たった一体で戦局すら変えかねないその圧倒的な力。
これが、天龍にも匹敵する獣、フェンリル。
そして、この場にはその子供も存在したのだ。
「さあ、父に恥じぬ戦いをして見せよ! スコル、ハティ!!」
ロキの掛け声とともに、スコルとハティもまた遠吠えを上げて人類統一同盟へと襲い掛かる。
……だが、次の瞬間二匹の動きが止まった。
「な、なんだ!?」
「僕は何もしてないですぅうううう!!!」
一夏の驚きの声にギャスパーが勘違いして否定する中、しかしすぐに理由がわかる。
スコルとハティの体に、小さな何かが突き刺さっている。
それは絃のように長く伸びており、ホグニの持つ剣につながっていた。
いぶかしんでいたロキだが、しかしすぐにその理由に気が付いて目を見開いた。
「貴様、まさか最初からフェンリルが目的か!!」
「ああ、
ホグニはそう平然と告げ、ロキに対して笑顔を見せる。
「貴様ごとき前座にこだわるほど馬鹿じゃない。せいぜい赤龍帝たちに倒されるといい」
心からの嘲笑だった。
そして、その時にはすでに転移魔方陣が発動していた。
「では撤収だ。これ以上の戦闘は戦力が消耗するからな」
「わかった」
「引き際は見誤らん、帰るぞ」
「じゃ、このへんで。ごめんね?」
思い思いに乗り手達も別れの言葉をかけ、そして空間が転移される。
「………悪魔ごときに我が子を戦力として利用されるとは、不愉快だ」
ロキは激怒してオーラをまき散らすが、しかしすぐに動きを止めた。
………そして、すぐに表情をこわばらせる。
あの
そして、今この場にはオリジナルが存在する。
「フェンリル! すぐにコールブランドの使い手を始末するのだ!!」
「いや、そうはさせない」
それより早く、莫大な魔力の奔流が放たれる。
「我、目覚めるは、覇の理にすべてを奪われし二天龍なり」
それは、天龍の真の力。
「無限を妬み、夢幻を想う」
それは、神滅具の真の覚醒。
「我、白き龍の覇道を極め―」
それは、神すら殺す究極の龍。
「―汝を無垢の極限へといざなおう」
その破壊の力が、一気に具現化する。
「これは、
奔流を間近で見ながら、レヴィアは瞠目する。
さすがにこれは、レヴィアでも完全には防げない。
速度ではさすがにフェンリルに劣るだろうが、半減もありパワーならしのぐといったところだろう。それほどまでに圧倒的な力を放っていた。
「黒歌! 俺を予定のフィールドへと転送しろ!!」
「はいはいにゃん」
そして素早く魔方陣が展開される中、ヴァーリは渾身の力を込めてレヴィアをつかむ。
「へ?」
「悪いが、君がいると邪魔なんでね」
そういうと、無理やり引っ張り出して放り投げた。
そして、その瞬間レヴィアもヴァーリの狙いの一つに気が付いた。
「……このチンピラ! 最初からフェンリルを奪うことが―!!」
「まあね。だが安心しろ、この場においてフェンリルは抑えておくとも!!」
レヴィアの文句を笑って流し、ヴァーリはフェンリルとともに転送される。
「……あのチンピラ軍団! やっぱりここでまとめて倒しておくべきだったか!!」
レヴィアは一瞬本気で考えるが、しかし心から我慢して自身を律する。
ここでうかつに暴走すれば、それこそロキに倒される可能性がある。
まだミドガルズオルムの量産型が残っている以上、これ以上の負担はかけられなかった。
「ああもう! あとで覚えてろあのチンピラ!!」
レヴィアは毒づきながら援護に徹しようと動き―
そして、鮮血が飛び散った。
その一連の光景をみて、一夏もまた歯噛みした。
「くそ! あいつ、それが狙いか!!」
人類統一同盟にしろヴァーリにしろ。本命は戦力確保にあった。
自分たちが防衛に精一杯な間、敵は着々と己の強化を続けているということか。
確かに自分たちも強くなってはいるが、それは敵も同じこと。
いたちごっこにしか思えない現状に、一瞬だが不安に体が支配される。
そして、それはあまりにも致命的な隙だった。
「……すまんが、我も暇をしている余裕はないのだよ」
気づけば、目の前にロキが姿を現していた。
考え事はしていながらも、とっさの戦闘をとるだけの余力は残していた。少なくとも、生半可な相手ならば考えながら切る捨てることもできただろう。
だが、ロキは北欧の神の中でも屈指の知名度を持つもの。生半可という言葉で説明をつけるのはあり得ないほどの相手だった。
それが、致命的な隙だった。
すでにロキの手には魔法でできた剣が握られている。
完璧に、かわせない。
「……一夏君!?」
「一夏さん!?」
レヴィアと蘭が守りに行こうとするが、しかしそれでも間に合わず―
「―やらせんぞ!!」
しかし、鮮血は一夏から飛ばなかった。
「―その少年を、やらせるわけにはいかない……!」
「ほう? さすがは堕天使最強の男といったところか」
切り裂かれながらも強い目でにらみつけるバラキエルに、ロキは敬意すら見える視線を向ける。
そして、それゆえに何の遠慮もせずに魔法を叩き込んだ。
「この野郎がぁああああああああ!!!」
イッセーが殴りつけようとするのを、ロキは素早くかわす。
そして、その空いた時間をついてバラキエルは一夏を連れて距離をとった。
「まだまだ若いな。油断、大敵だぞ……っ!!」
「あ、あんた、なんで?」
「……君が死んだら、朱乃が、悲しむ」
「しゃべったらだめです! すぐに治しますから!!」
アーシアが回復のオーラをかける中、一夏は内心で苦痛を感じていた。
人を守れる男になりたかった。
男が女を守る。そんな古風を通り越して時代遅れといってもいい考えを、しかし一夏は達成して見せたかった。
だが、今まさに自分は守られる側だ。
あまりに、あまりに情けない。
「……すまないバラキエル。僕の失態だ」
そして、すぐに結界を張って守りながら、レヴィアもまた涙を流して苦痛に耐える。
「一夏くんは僕の眷属なのに。守れなかったから眷属にしてしまったのに、僕はまた……!」
レヴィアにとっても、これほど苦痛なことはそうはない。
一夏と蘭を守れなかったのは、レヴィアにとって最大の失態だ。
その失態を二度と繰り返しはしないと思っていたのに、バラキエルがいなければそれもままならなかった。
一夏もレヴィアも、この失態に心がきしみを上げていた。
それはいつへし折れても全くおかしくないほどの重みで、実際に心が折れかけている。
なんで自分は、いつまでたっても―
「……馬鹿者」
そんな二人に、バラキエルは嘆息しながらそう言い切った。
思わず目を開く二人に、バラキエルはあきれからくる笑みを浮かべる。
「子どもがいっちょ前に何を言っている。君たちはまだ、大人に守られる年齢なのを忘れるな」
そういうと、バラキエルは回復もそこそこに立ち上がった。
「子どもを守るのは大人の役目。それをしたことで謝られる筋合いはない」
そして、震える体で再びロキと対峙する。
「それに、娘が待っているのだ。……死ぬわけにはいかんさ!!」
「織斑! レヴィアさん!!」
イッセーは、その姿をみて声を上げずにはいられなかった。
一夏が、あの一件でレヴィアと同じように心にしこりを残しているのはなんとなく予想がついていた。
さんざん守る守るといっている奴だ。レヴィアの心に傷をつけてしまったことに、自分が死んだ以上の痛みを負っているのは間違いなかった。
そして、当然レヴィアも心から痛みを覚えている。
なんとなくだが、レヴィアが大人の印象を持っている理由もわかってしまった。
子供の心で大失態を犯して、それを許さないと誓ったのだ。子供のままではいられないだろう。
だけど、だけど、だけど。
そんなつらいのを、自分一人で背負い込むことはないだろう。
「あきらめんな! 背負い込むな!! 俺が、俺たちがついてる!!」
レヴィアも一夏も、イッセーの仲間の一人だ。
つらい時や苦しい時、一人で苦しんでるのを見るのなんて我慢ならない。
そういう時こそ、仲間という存在の出番なのだから。
「だから、負けるな二人とも!! やばい時は、俺も蘭ちゃんも部長もみんなも手伝うから!!」
「………ああ、そうだな」
一夏は、立ち上がった。
「ふっ。さすがは僕のかわいいイッセーくんだ」
レヴィアも、持ちこたえた。
そして、二人の復帰に全員の士気が上がる。
攻撃は一気に火力が上がり、量産型ミドガルズオルム達が一気に押されだした。
「なるほど想いのこもったいい攻撃だ。だが神を相手にするには足りん!!」
しかし、ロキの牙城を崩すには足りない。
それほどまでにロキとは圧倒的強者であり、非常い厄介な存在なのだ。
その牙城を崩すには、何かが足りなかった。
しかし今の段階ですでに限界が近い。これ以上何かをプラスするのは余裕がない。
だがしかし、その瞬間黒い炎を吹き上げた。