ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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はい、そろそろ来ますよ、奴が


放課後のラグナロク 3

 

 そんな夜の中、レヴィア達はリアスたちと同様にオーディンの護衛を行っていた。

 

 当人たちとしても、何かしらやることがあった方が気が紛れていいだろうというレヴィアの判断である。

 

 すでに真悪魔派のクーデターによる混乱も収束し始めている。少なくとも、民衆の流動は収まってきていた。

 

 王の駒の不正使用がばれることを恐れて暴走していた者たちも、その大半が捕縛されており、とりあえずの落ち着きを見せているといってもいいだろう。

 

「とはいえ、ここからが本番なんだけどねぇ」

 

 そういいながら、レヴィアはため息をつく。

 

 そう、これは前哨戦にすらなっていない。ただ身内のまとめ上げをしていただけだ。

 

 ネバンたちはこの間にも王の駒の本格的な解析を進め、そして量産するべく行動を開始しているだろう。

 

 少なくとも生産のめどはついているはずだ。そうでなければ、このタイミングで生産のために必要な遺跡を確保するような真似はしない。

 

 ゆえにできるだけ早く奪還作戦をとるべきである。それが遅れれば遅れるほど、王の駒の生産の時間を与えて苦戦を産んでしまう。

 

 幸い、開発者であるアジュカ・ベルゼブブ自ら王の駒は生産が難しいことが告げられている。少なくとも簡単に量産できるものではない。

 

 ならば、数か月は時間を稼げるというのが三大勢力及び和議を結んだ神話体系の想定だ。それまで最低限の足並みをそろえれば勝ち目はある。それほどまでに神々の力は強大なのだ。

 

 だが、人類統一同盟もそれを黙ってみているわけがない。禍の団もなおさらだろう。

 

 間違いなく、奪還作戦は激戦になるはずだ。

 

「レヴィア。奪還作戦には俺たちも参加するんだよな」

 

 一夏は、なんとなくその予感を感じていた。

 

 サーゼクスは望むまい。彼は若手を危険にさらすことを望まない。少なくとも本意ではないだろう。

 

 だが、それでも今の冥界には戦力が足りない。

 

 少なくとも、前回の人類統一同盟との戦闘と同様に後方支援はすることになるだろう。それほどまでに冥界のダメージは大きいのだ。

 

「ああ、覚悟はしておいてくれるかい? さすがに僕も呼ばれるだろうしね」

 

「やっぱり、戦意高揚のためですか?」

 

 蘭の疑念はもっともだ。

 

 レヴィアは本来できるだけ(まつりごと)にはかかわらないようにしていた。

 

 それが冥界のためだと信じている。一人一人の悪魔が自らの意志で進んでこそ冥界のためだ。王は、あくまでそれを守護するだけでいい。

 

 だが、もう状況はそれを許さない。

 

 真なる魔王ベルゼブブの末裔であるシャロッコ率いる人類統一同盟。そしてアスモデウスの末裔であるネバン・アスモデウスによる真悪魔派。さらにはそのネバンの女王(クイーン)はリゼヴィム・リヴァン・ルシファーという隙の生じない構えは強大だ。

 

 それにより、多くの悪魔が真悪魔派についた。

 

 すでにネバンの政策は目覚ましく、血統だけに頼らない真なる実力主義が行われている人類統一同盟では、おこぼれにあずかろうとした血統だけの者たちが何人も粛清されている。

 

 それにより実力がありながらも認められ無かった純血悪魔が新たに爵位を与えられて、政治体制は盤石になっていた。

 

 転生悪魔に対しても名誉爵位が自動的に与えられ、それにより彼らの待遇も改善された。

 

 離反した転生悪魔の多くは単一民族国家などの出身が多く、ネバンの理念に対して一定の理解を持っていたことも大きい。そのうえでこれまでよりもはるかにいい待遇を与えられたことで、その士気は強く小競り合いでは大戦果を挙げることも多かった。

 

 そんな状況では、もはやレヴィアも動かないわけにはいかない。

 

 ネバンを理念を危険視するものとして、何らかの形で抑止力となる必要があった。

 

「やるしかないよ。ああ、やるしかないんだよね……」

 

 そう、レヴィアは自分に言い聞かせるように告げる。

 

 当人としてもできればしたくないが、しかししないわけにはいかないほど状況は切迫しているのだ。

 

 その事実に、一夏も蘭も何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、芸者のお姉さんは眼福じゃったのぉ」

 

 空を飛ぶ馬車の中、オーディンはそういって髭を撫でつける。

 

 それを、血涙を流さんばかりににらみつけるのは三人。

 

 いつものごとく兵藤松田元浜の変態三人衆だった。

 

 理由は非常にわかりやすいことである。自分たちは外で待機されていて、芸者を見ることができなかったからだ。

 

「くそう! 酷いですよそこの神様!! 神様ならもっと俺たちに加護をください!!」

 

 松田が我慢できずに文句を言うが、しかしそこにロスヴァイセが鋭い視線を向けた。

 

「何を言っているんですか、貴方たちはまだ未成年でしょう! そういうのは大人になってからしなさい」

 

「そんな殺生な! 俺たちには彼女がいないんですからそれぐらい許してくださいよ!!」

 

 元浜がそう陳情を懇願するが、途端にロスヴァイセは涙目になってさらに目を吊り上げた。

 

「私だって彼氏いませんもん!! うう、それでも我慢してるんだからあなたたちも我慢しなさい!」

 

「そ、そんな理不尽な!?」

 

 イッセーはその言葉にショックを受ける。

 

 ああいう店はむしろ彼女がいない人が行くところなのにもかかわらず、彼女がいない自分たちに行くなという。

 

 イッセーは明らかに理不尽を感じ、崩れ落ちそうになった。

 

「そ、そんな……っ! 彼女のいない俺たちになんでそんなひどいことを痛い!?」

 

「お前グレモリー先輩と一緒にお風呂入ってるだろうが!!!」

 

「十分すぎるだろうがこの野郎!!」

 

 速攻で松田と元浜が殴りつけるが、しかしイッセーとしては譲れない。

 

「それはそれ、これはこれだ!!」

 

 そういって殴り合いになろうとしたとき、急に馬車が停止する。

 

「うぉ!? な、なんだ?」

 

 イッセーに関節技を決めようとした松田が慌てる中、オーディンはやれやれといわんばかりにため息をついた。

 

「……やっぱりきおったか。あの馬鹿者めが」

 

「オーディンさま、何かご存じなのですか?」

 

 そう言いながらリアスは前を確認すると、そこには若い男が浮遊していた。

 

 問題はその男が放つ気配だ。

 

 人間ではない。悪魔でもない。天使でもなければ堕天使でもない。

 

 その波動は、まさしくオーディンと同じく神の物だった。

 

「はっじめまして、諸君! 我こそは、北欧の悪神ロキだ!!」

 

 その言葉に、ほとんどのものが警戒心を強くする。

 

 北欧の悪神ロキ。北欧神話におけるネームバリューでは神話の中でも一二を争う有名どころ。

 

 だが、ロキは悪神とはいえオーディンと同じくアースガルズの者である。

 

 それがなぜここに、と多くの者が思うなか、アザゼルがロキを見据えて警告を行う。

 

「これはこれは、ロキ殿とは奇遇な出会いですな。ですがこの馬車には主神であるオーディン殿が乗られていますよ? それはご存知ですかな?」

 

 そう挑発交じりの言葉が飛んでくると、ロキもまた挑発目的に嫌味な笑みを浮かべる。

 

「なに。我らが主神殿が我ら以外の神話体系に接触するのが耐えがたい苦痛でね。我慢できずに邪魔しに来たのだ」

 

 一切隠すことなく、堂々と敵対宣言をロキは行う。

 

 それを受け止め、レヴィアは真正面から口を開いた。

 

「……過去に遺恨については聞いている。だが、それを今の子供たちにまで巻き込ませるつもりか、ロキ」

 

「レヴィアタンの末裔か。ならば、神話の何たるかも知らぬ若輩者のために、我らが神々の受けた仕打ちの報いを受けさせるなというのかね?」

 

 相いれない。そう即座に理解できる言葉が交わされ、全員が戦闘を覚悟する。

 

「堂々と言ってくれるじゃねえか、ロキ」

 

「まあな。ほかの神話体系を滅ぼすならともかく、和平をするなどと納得できるわけがない。我らの領地に土足に踏み込んで聖書を広げる貴殿らは特にあり得んな」

 

「んなこたぁミカエルか死んだ神に言えってんだ」

 

 うんざりとするアザゼルだが、ロキはまったく意に介さない。

 

「どちらにせよ、主神オーディン自らが極東の神々などと和議をするのは問題だ。これでは我らが至るべき神々の黄昏(ラグナロク)が成就できないではないか」

 

 そう言ってオーディンにらみつけるロキに、レヴィアは鋭い声を浴びせる。

 

「一つ聞こう! あなたは禍の団とつながっているのか!?」

 

「愚者たるテロリスト共とわが想いを一緒にするとは、万死に値する誤解と知るがいい」

 

「……あいつ等とは無関係なのか。つっても厄介な問題だがな。これが北の抱える問題かよ、オーディン」

 

 アザゼルの同情交じりの言葉に、オーディンはロスヴァイセを伴いながら馬車から出る。

 

「どうにも頭の固いものがまだいるのが現状でな。まさか自ら出向くものまで出てくるとは困ったものだ」

 

「ロキ様! これは明らかに越権行為です!! しかるべき場所で異を唱えてください!!」

 

 ロスヴァイセの非難の言葉に、しかしロキは不快な視線を向ける。

 

「一介の戦乙女ごときが口を挟まないでくれたまえ。私はオーディンに聞いているのだ」

 

「……だそうですが、和議をやめる気は?」

 

「ないわい。少なくともお主よりはサーゼクスたちと話していた方が万倍楽しいしの。日本の神道もユグドラシルに興味を持っていたし、いい機会だからお互いに大使でも招こうかのう」

 

 アザゼルが茶化すように答える中、オーディンは同じく茶化すような表情で答えを返す。

 

 その言葉に、ロキの表情は温度を失った。

 

「理解した。ここまでおろかならば容赦はせん」

 

 その言葉共に、何重もの魔方陣が一瞬で展開される。

 

「―ここで黄昏をおこなおうではないか!!」

 

 そういうが早いか一斉に魔法が放たれ―

 

「なめるな、悪神!!」

 

 その大半をレヴィアの結界が受け止める。

 

 何割かは結界を突破して襲い掛かるが、アザゼルとバラキエルの光力がそれを撃ち落とした。

 

「上等だこの野郎! だったらこっちも遠慮はいらねえな」

 

 その言葉が終わるより早く、莫大な密度の聖なるオーラがロキに直撃する。

 

 それを放ったのはゼノヴィア。デュランダルからは莫大なオーラの残滓が残り、煙のように残留する。

 

 並の上級悪魔なら塵ひとつ残らず吹き飛ぶ威力。最上級ですらまともに受ければ大打撃だろう。

 

「さて、先制攻撃を受けたしこれぐらいは問題ないと思ったが―」

 

 そういいながらゼノヴィアが歯噛みする中、オーラの残滓を振り払って、無傷のロキが姿を現す。

 

「デュランダルか。なかなかの威力だが、神を相手にしてはそよ風に等しい」

 

 そういいながら告げる中、ロキは指を鳴らすと魔方陣を展開する。

 

「魔王の直系と赤龍帝もいる以上、こちらも遠慮はせん」

 

 その言葉とともに、魔方陣から寒気を伴って獣が姿を現す。

 

 それは、莫大な力の具現だった。

 

「さあ、主神を食い殺すといい、フェンリル」

 


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