ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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放課後のラグナロク 2

 

「もう! 一夏さんったらどうしてああなんでしょう」

 

「……そうですね。できれば私達にもサービスしてほしいんですが」

 

「おやおや。二人ともやっぱりご機嫌斜めだね」

 

 顔を膨らませながらやけ食いする二人を見ながら、レヴィアはコーヒーを飲む。

 

 今頃、一夏と朱乃はデートを楽しんでいるころだろう。

 

 やはり朱乃は割とこういうのでは一枚上手か。年下である小猫や蘭としては思うところもあるはずだ。

 

 とはいえ、朱乃の初デートに余計な茶々を入れるのもかわいそうではある。

 

 というわけで、まさにデートが始まるタイミングでレヴィアは二人を連れ出してケーキバイキングに来たというわけだ。

 

「まあいいじゃないか。あとで僕からもフォローするように言っておくし、二人ともデートしていいんだよ?」

 

 それぐらいは当然の権利であり、一夏の義務だとすら思う。

 

 ハーレム上等の冥界でフラグを乱立しているのだ。手を貸してやるからしっかりと面倒を見るぐらいするがいいと、レヴィアは本気で考えていた。

 

 一夏は鈍感だが外道ではないし、何より男の沽券をしっかりと考慮する男だ。まとめて娶っても何とかしようと努力するぐらいの男は見せるだろう。

 

 あとは主としてしっかりフォローを入れればいいだけだ。できれば夜の営みに参加させてくれるとなおうれしい。

 

「ねえ小猫ちゃん。できれば僕に房中術をしてくれると嬉しいかな?」

 

「いやです」

 

 バッサリ切られた。

 

「っていうか、レヴィアさんは房中術できるでしょう? する側じゃないですか」

 

 と、蘭は軽くツッコミを入れるが、レヴィアはそれを肩をすくめる。

 

「僕のはちょっとした防護加護を与えるなんちゃって房中術。素質だけでいうなら小猫ちゃんの方がはるかに上だよ」

 

「とはいえするつもりはありません。少なくても、当分はしないです」

 

 小猫ははっきりとそう言った。

 

「それより、こんどは料理を覚えたいです。リアス部長にも教わっているのですが、いい先生に心当たりはありませんか、レヴィアさん」

 

「おや、食べる専門だった小猫ちゃんがどういった心変わりだい?」

 

 からかい半分でそう聞き返すレヴィアだったが、小猫の返答はストレートだった。

 

「一夏さんの家を守るのなら、家事ができないといけませんから」

 

「………蘭ちゃん、頑張らないと追い抜かれるよ」

 

「が、頑張ります!!」

 

 思わぬマジ返しに、レヴィアも蘭も戦慄した。

 

 小猫にここまで言わせるとは、織斑一夏恐るべし。

 

 そんなことをしながらケーキバイキングを食べていると、ふと何かに気づいた小猫が小首をかしげる。

 

「……そういえば、気になったことがあります」

 

「なに、小猫?」

 

 結構おなかが膨れてきた蘭が尋ねると、まだまだ食べる気の小猫は蘭に顔を向けた。

 

「なんで、一夏さんと蘭はレヴィアさんの眷属に?」

 

「「っ」」

 

 その質問に、レヴィアも蘭も息をのんだ。

 

 それに何かを感じながらも、あえて小猫はそれを踏み込む気になる。

 

 今後一夏と一緒にいるのならば、どうせいつかは知ることになることだろう。

 

「レヴィアさんは眷属を作りたがらないと聞きました。それなのに、なんで異形とかかわりがなかった二人を眷属に?」

 

 当時、レヴィアが眷属を作ったと知られたときはニュースにもなったものだ。

 

 冥界の名だたる実力者や貴族が名乗りを上げながらも、しかしレヴィアは下僕悪魔を作ろうとはしなかった。

 

 そんなレヴィアが、いきなり異形と特に関わり合いを持たなかった人間を二人も眷属悪魔にしたと聞いて、冥界は一時期割とニュースで取り上げたものだ。

 

「それに、一夏さんは戦闘スタイル的に騎士の方が向いていると思います」

 

 そう、それもそうだ。

 

 普通に考えれば、剣士は戦車ではなく騎士の駒で転生させるのがトレンドだ。別にそうしなければいけないというルールはないが、それがイメージとして固定されている。

 

 それに蘭も後天的に神器を移植しているだけで、もとは何の異能もたない只の少女。

 

 普通に考えれば兵士の駒一つで足りるはずだ。なぜそんなことをする必要があるのだろうか?

 

 そんな疑問がこもっている質問に、レヴィアも蘭も苦い顔をした。

 

 普通なら、それで小猫もすぐに聞くのをやめるはずだ。

 

 だが、小猫は真剣な瞳をレヴィアに向けた。

 

「ずっと一夏さんと一緒にいるなら、いつかは知るべきことだと思ってます。できれば、いつか答えてほしいです」

 

「ああ、そうだね」

 

 レヴィアはその言葉に素直にうなづいた。

 

 だが、その顔はわずかに青くなっている。

 

 その理由を嫌でも理解しているから、蘭は気づかわし気な視線を向けた。

 

「いいんですか、レヴィアさん?」

 

 それは、本当に言っていいのかという確認だった。

 

 蘭は自分のことなので、その詳細までよく理解している。

 

 そして、それがレヴィアにとって今でもトラウマなのもうすうす気づいている。

 

 だが、レヴィアはそんな蘭に笑みを浮かべた。

 

「むしろ僕が謝るところだよそれは。それに、いい加減区切りをつけないといけないしね」

 

 そうレヴィアは微笑むと、わずかに汗ばんだ手を握り締め―

 

「実は―」

 

 そう言おうとしたまさにその時―

 

「あ、すいません。携帯が」

 

「あ、私も」

 

「……僕もだね」

 

 三人の携帯電話が、一斉になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連絡を受けてすぐに戻ってきたレヴィア達の前に、神がいた。

 

「ふぉっふぉっふぉ。実にかわいい子だらけでより取り見取りじゃのう」

 

「爺さん! 俺の部長におさわりしたら禁手使ってでも吹っ飛ばすからな!!」

 

 リアスたちの臀部に視線を向けているイッセーを本当にやらないか心配に見ながら、レヴィアはやれやれとため息をついた。

 

 北欧神話のアースガルズの主神オーディン。

 

 彼がこんなところに来たのは、観光旅行ではない。

 

 人類統一同盟及び禍の団に対抗するため、現在三大勢力は各神話勢力との和平を謳っている。

 

 それに真っ先に賛同した北欧の主神として、オーディンはほかの勢力との和議を進めていた。

 

 今回は日本神話などの和議が本命。ただしそれより早く来て観光も楽しもうという腹積もりだった。

 

「人類統一同盟は、中国やロシアなどの半分以上を征服。ドイツやフランスなどのヨーロッパ諸国なども併合して恐ろしいほど勢力を伸ばしているからのぅ。それがネバンの小娘と手を結んだともなれば、こちらも最低限の連携はとらんとさすがに危険じゃからな」

 

「全くですオーディンさま。それはそれとしてお近づきの記念にジャパニーズエロ本をどうぞ」

 

 そういって、レヴィアはニコニコとプレゼントを渡す。

 

 中身は厳選したエロ本各種。それを見て、オーディンは笑みを深くした。

 

「おお、いい趣味をしているではないか。わしからもあとで何か送るとしよう」

 

 そう意味もなく威厳たっぷりに言うオーディンの後頭部に、ハリセンが叩き込まれた。

 

「オーディンさま!! 学生相手に何を送ろうとしているんですか!! あなたも、高校生がそんなものをプレゼントにしない!!」

 

 そういって顔を真っ赤にして起こる女性に、オーディンは全く気にせず笑みを浮かべる。

 

「まったく潔癖じゃのう。そんなことだからお主は男の一つもできんのじゃ」

 

 その言葉に、女性は一瞬で崩れ落ちると涙を流した。

 

「男は関係ないじゃないぃいいいいいい!!! 私だって、好きで年齢イコール独身なんて人生送ってるわけじゃないのにぃいいいいい!!!」

 

 そのアップダウンの激しい反応に誰もが反応できない中、オーディンはやれやれと髭をなでながら苦笑する。

 

「スマンのうぅ。こ奴は儂のおつきのロスヴァイセというヴァルキリーなんじゃが、見ての通り男の一人もできん奴での。あまり気にせんでやってくれ」

 

「いや、思いっきりいじってたじゃないですか!」

 

 一夏渾身のツッコミが響いた。

 

「ひどいぜ爺さん! 俺だって彼女がいないからその苦しみはよくわかる!! 謝って爺さん!!」

 

 イッセーにいたっては涙を流して謝罪を要求するが、しかしそこに鋭い視線が一斉に突き刺さる。

 

 だがイッセーはそれに気づかない。その光景をみて、蘭は軽くため息をついた。

 

「あの、レヴィアさん。イッセーさんのことで後でご相談が―」

 

「―オーディン殿。そろそろ時間ですよ」

 

 と、そこで今まで黙っていた一人の男が声をかける。

 

「おお、忘れておったわバラキエル。今夜は寿司を予約しておったんじゃ」

 

 そうオーディンが答える中、朱乃が不機嫌な様子を見せた。

 

 彼の名はバラキエル。神の子を見張るものの幹部の一人で最強候補とまで呼ばれる実力者。

 

 そして、朱乃の実の父親でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな夜、レヴィアは一夏から相談を受けた。

 

「それでなんだい? 一夏君」

 

「ああ、あのバラキエルって人をどうにかできないか?」

 

 真剣な目でそんなことを言われてしまった。

 

「大方「娘は渡さん!」「邪魔しないで! あなたはお父さんなんかじゃない!!」 とかなったのかい?」

 

「なんでわかるんだよ!!」

 

「わかりやすすぎるぐらいわかるよ」

 

 即答で返せるほど想定しやすかった。

 

 なにせ、事実上の婿と舅だ。ひと悶着一つ起きる程度で驚く理由はかけらもない。

 

 それに、朱乃はいろいろと問題があるからだ。

 

「いろいろとあるけど、深い事情をきくかい?」

 

「………ああ、たのむ」

 

 少し考えてから、一夏はうなづいた。

 

 勝手に聞けば朱乃に怒られるかもしれないが、朱乃はなぜか深い事情を話したがらなかった。

 

 なら、一夏は知っている人に聞くしかない。

 

 それで怒られるなら素直に謝ろう。だが、今のままではバラキエルに文句も言えなかった。

 

「簡単に結論から言えば、朱乃ちゃんが子供なのさ」

 

「え?」

 

 なので、いきなり朱乃のほうに非があるといわれて、一夏は面食らった。

 

「な、なんでだ? てっきりバラキエルって人の方が何かしたんだとばっかり思ったけど―」

 

「まあ、あの人に過失がなかったかといえばうそになるけどねぇ」

 

 レヴィアはそういうと、また聞きだけどと前置きをしてから話し始めた。

 

 日本の退魔の一族の名家中の名家である五代宗家の一つ、姫島。

 

 そのうちの一人である姫島朱璃は、あるひ重傷をおったバラキエルを見つけて手当てをした。

 

 例えていうのならばロミオとジュリエット。二人は恋仲になったが、五大宗家はそれを認めず刺客を送るほどだったという。

 

 そんな中も二人は愛を確かめ合い、朱乃を産むほどにまで仲が良かったが、そんな彼らに悲劇が訪れる。

 

 堕天使であるバラキエルを倒しに来て返り討ちにされた刺客が、堕天使に恨みを持つ組織に情報を提供した。

 

 おりしも、その時はバラキエルがたまたま外出していて不在の時だった。

 

 ……バラキエルが気づいて戻ってくる前に、朱璃はその者たちに殺されたそうだ。

 

「当時でいえば当然といえば当然だ。異国の悪徳である堕天使は敵以外に何物でもない。妻に気を使ったとはいえ、五代宗家が手を出せる位置に家を作って住むべきじゃなかった」

 

 レヴィアはそういうが、しかし一夏はよくわからない。

 

「いや、それでも五代宗家のほうが悪いよな? なんで堕天使を執拗に嫌ってるんだ?」

 

「だから言っただろう、子供だって」

 

 レヴィアは苦笑しながら続ける。

 

 母を殺された朱乃の前で、その凶手はこういったのだ。

 

 お前の父親が堕天使だから、お前の母は死んだのだと。

 

「精神の弱い子供だった朱乃ちゃんは、それをうのみにすることで心を防いだ。そして、子供のころの経験はなかなか治らない」

 

「………そんな」

 

 一夏はそれが納得いかない。

 

 確かに敵意をもって迫られたが、それは娘を思う親心だ。

 

 両親に捨てられた一夏には親というものはわからないが、しかし比較的まともな親ではないだろうか?

 

 それなのに、敵視するのは何かが間違っているような気がするのだが……。

 

「ま、いい機会といえばいい機会だよ。この機に折り合いをつけるべきではあるだろうね」

 

 レヴィアはそういいながら、一夏の肩をたたいた。

 

「お義父さんの期限をうかがうためにも、娘との仲をよくさせてあげなさい、一夏くん♪」

 

「か、からかうなって!!」

 

 一夏に手を振り払われながら、レヴィアは哂いながら部屋のドアを閉める。

 

 そして、レヴィアは天井を無表情に見上げた。

 

「……僕も、少しは落ち着いた方がいいのかもね」

 

 そういいながら思い出すのは、数年前のこと。

 

 一夏と蘭を眷属にした、あの日のことを思い出す。

 

 それだけで、今でも強い後悔の炎が心を焼くが、しかしもう数年も前のことでもある。

 

「うん、皆に話してすっきりしようか」

 

 そう、レヴィアは一人口にした。

 


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