ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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放課後のラグナロク

 

「はあ。なんかやる気になれない」

 

 資料を何とかまとめながら、レヴィアはそういってため息をついた。

 

 それをとがめる声も出てこないほど、彼らはこの事態に対して警戒心を強くしていたのだ。

 

「なあ、レヴィア。それで今のところどうなってるんだ?」

 

「見事に膠着状態だよ。旧魔王派と現政権の暴走した連中を取り込んだ真悪魔派は、勢力的にはかなり現政権と並んでいる」

 

 そういって最後の資料を投げるように置きながら、レヴィアは一夏に簡単に説明する。

 

 現状、冥界政府は多大な混乱になっているといってもいい。

 

 ネバンによって冥界最大級の秘匿事項である王の駒が暴露されたうえ、悪魔の駒の生産元であるアグレアスが占拠され、とどめに超越者リゼヴィム・リヴァン・ルシファーがネバンに与したのだ。

 

 三重の特大の衝撃に襲われた冥界は混乱状態であり、レヴィア達はとにかく人間界で待機するように言われている。

 

 王の駒の秘匿使用をばらされた悪魔たちは何とか鎮圧されたが、しかしそれを抜きにしても混乱は大きく、冥界は数日前まで機能停止状態にすら陥っていた。

 

 何とか立て直すことには成功したが、しかしこの影響は非常に大きいのだ。

 

 少なくとも、このままアグレアスをネバンたちに確保されるわけにはいかない。

 

 すでに冥界では各勢力に頭を下げてまで奪還作戦が進められており、遅くとも冬に入る前には行われることとなっている。

 

 だが、ネバンたちも馬鹿ではない。奪還作戦が行われることは間違いなく想定して、そのための準備をとっくの昔に始めていることだろう。

 

 間違いなくこれまでにない激戦になる。下手をすればかつての三大勢力の戦争にも匹敵する規模の激戦になるだろう。

 

 そんな冥界の窮状に、レヴィアとしては気が重くなるばかりだ。

 

「でもどうします? ここでレヴィアさんが出てくれば、少しは収まるかもしれませんけど……」

 

 蘭の言いたいことは最後まで聞かなくても分かる。

 

 確かに、ここで真なるレヴィアタンの血を継ぐレヴィアが声を上げれば、状況を鎮静化させることはできるかもしれない。

 

 だがそれは、レヴィアタンの血をもってして民衆を扇動することに他ならない。それこそレヴィアがいやがっていたことそのものだ。

 

 だから、一夏も蘭も何も言わない。というより何も言えない。

 

 それは、心からレヴィアが望まなかったことなのだから。

 

「とはいえ、頃合いなのかもしれないね……」

 

 そう、レヴィアはため息とともに肩をすくめる。

 

 表情は引くついた苦笑であり、心底ダメージが入っているのが見て取れた。

 

「レヴィア……」

 

「レヴィアさん……」

 

「みなまで言わないでよ二人とも。あくまでそれは最後の手段さ。魔王様()は僕を使うつもりもないようだしね」

 

 だが、最後の手段は使用を考えなければならない状況にも追い込まれ始めている。

 

 それを理解して、レヴィア達はため息をついた。

 

「冥界も大変ですよね。和平が結ばれたと思ったら今度は内紛ですし」

 

「まあ、急激すぎたっていえば急激すぎたしねぇ。反発する人もたくさん出てくるとは思ったけどね」

 

 蘭の言葉にレヴィアはそう告げる。

 

 じっさい、これまでいがみ合ってきた者たちが上の判断でいきなり仲よくしろと言われてもできるわけがない。

 

 サーゼクスもアザゼルもミカエルもそういう意味では非常によくできた大人だったが、逆に言えばそうであるからこそ和平が結べるようなものなのだ。

 

 そうでない、普通の者たちからしてみれば大きな負担となるのは間違いない。ネバンの演説はそこをついた側面もあるのだろう。

 

 そういう意味では冥界の未来は暗く、より険しくなっているといっても過言ではなかった。

 

「冥界も暗い話が多いですね。俺たちはもうちょっと明るい話題がほしいんですけど」

 

 そう元浜が愚痴を言うが、しかしこればかりは仕方がない。

 

 これまで長い間にらみ合いを続けてきた勢力がいきなり和解をすることになったのだ。必然的に反動も出てくるだろう。

 

 だが、明るい話題が全くないわけでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いくぞ、おっぱいドラゴン!!』

 

『冥界の未来をやらせはしない! とうっ!!』

 

 テレビ画面の向こう側で、赤龍帝の鎧が敵を相手に激闘を繰り広げる。

 

 冥界で作られた子供向け番組、乳龍帝おっぱいドラゴンは今日も盛況だった。

 

「あっはははははははは!!! やばい、おなか痛いぃ!!」

 

「レヴィア、ケンカを売っているのかしら?」

 

 爆笑するレヴィアににらみを利かせるリアスたちの前で、テレビでは追い込まれた乳龍帝が逆転の定番モードに突入する。

 

『おっぱいドラゴン! おっぱいよ!』

 

 そんなセリフとともに登場する、リアス・グレモリーそっくりのスイッチ姫。

 

 なんと、この乳龍帝おっぱいドラゴン、ピンチになるとリアスをモデルに創られたスイッチ姫の乳をつついてパワーアップするという設定なのだった。

 

「………俺、ヒーローものとか好きになれないけど、コレいろんな意味で間違ってるのはわかるぞ」

 

「冥界って、人間世界とはまったく異なる世界の流れで動いてますよね」

 

 一夏と蘭はもう遠い目をしてみるほかなくなっている。

 

 とはいえこのおっぱいドラゴン、現魔王側の悪魔はもちろん、堕天使側でも大人気である。既に和平を結んだ神話勢力でも放送される予定であり、かなり人気になっている。

 

 おそらく、神話の世界は科学の世界とはいろいろと違った認識で動いているのだろう。

 

『こんなふざけた文化の世界になどに、我々は負けない』

 

 と人類統一同盟はあえて声明を発表しているほどだった。

 

「ひーひーひー……。とはいえ、それさえ除けば結構いい出来だと思うけどね。昔の人間界のアニメでもこんなのあったらしいじゃないか」

 

「だからって子供向けアニメでこれはないと思います」

 

 いまだ笑いが覚めないレヴィアに、蘭はそう告げるとため息をついた。

 

 これからも冥界にかかわって生きていくのだが、果たしてこの調子で大丈夫なのだろうか?

 

 少し不安になる蘭たちだったが、意外とオカルト研究部では人気があった。

 

「結構面白いと思わない? 昔はイッセーくんと一緒にヒーローごっこしたのを思い出していい気分だわ」

 

 などといいながら、イリナは昔のヒーローの変身ポーズをとって見せる。

 

「いや、俺はヒーローものとかあんまり好きじゃないからわからないけど、これは何かが間違ってるだろ」

 

 一夏の意見は人間世界の出身なら当然出てきそうなものだった。

 

 異形社会と人間世界の神の共存の道は遠い。

 

「ま、まあ俺もこれはちょっと思うところあるけど。でも、昔は一緒んにヒーローごっこしていた男の子みたいなイリナが、いまじゃこんな美少女なんだから驚くよなぁ」

 

 と、イッセーはそんなことを言うが、それを聞いてイリナは顔を真っ赤にする。

 

「い、イッセーくん!? そんなこと自然に言わないでよ!! お、堕ちちゃうぅううううう!!!」

 

 と、イリナは翼を白黒に点滅させる。

 

「ほほう? これが天使が堕天するときの光景なのかい? 初めて見たよ」

 

 興味深そうにレヴィアがそういってからかうが、当人としては割と真剣らしく身もだえしている。

 

「ああ、ミカエル様お慈悲をぉおおおおお!!」

 

 そんな風にイリナが悲鳴を上げる中、リアスは顔を真っ赤にしてため息をついた。

 

「冥界を歩くの、もう無理かしらね……」

 

「あらあら、リアスは子供たちに大人気なのにひどいことを言いますわね。できれば私も出演してみたいですが……」

 

 そうからかう朱乃は視線を一夏に向けて―

 

「―どうですの一夏君? ここは持論を変えて参加してみるのはどうかしら?」

 

「か、勘弁してくださいよ朱乃さん! ヒーロー以前にこの番組はきついです!!」

 

 と、一夏としては真剣に断る。

 

「あらあら、つれないですわ。私、サーゼクス様に相談したこともありますのに」

 

「お願いだからやめてください。あの、何だったら何かしますから」

 

「お前ちょっとひどくないか?」

 

 と一夏はイッセーにツッコミを入れられるぐらい逃げに回るが、その言葉を聞いた瞬間に朱乃は笑みを深くした。

 

「あら、そうですか? でしたら一つお願いがあるのですが―」

 

「……はあ。はめられたね一夏君」

 

 レヴィアは軽くため息をついた。

 

 本命はおそらくこれということなのだろう。朱乃は見事に誘導してのけたのだ。

 

 そして、そこから何を行ってくるかもすぐにわかる。

 

 これは後で蘭ちゃんにフォローが必要かなぁと思いながら見る中、朱乃はにっこりと笑いながら一夏に顔を近付けた。

 

「でしたら、今度私とデートしてくださいな」

 




暗くとげとげしくなる冥界をいやすのはおっぱい。

………うん、何かが間違ってる気がする。

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