ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
「ソーナ・シトリー。それはさすがにどうかと思いますな」
上役の1人がそう告げ、周りの上役たちの何割かが失笑を浮かべる。
それが現実。ソーナ・シトリーの夢がいかに困難であるかの証明だった。
身分に関係なく参加することができるというのが、レーティングゲームの大義名分の一つ。
だが、実際は全く違う。
参加できる下級悪魔や中級悪魔はあくまで上級悪魔の眷属となったもののみ。これは話が違うだろう。
だからこそ、ソーナ・シトリーはそれを正したいと思い夢として掲げた。
だが、それをそんな現実を作っている上役たちが認めるわけがないのだ。
だが―
「……素晴らしい。その夢、我が真なるアスモデウスが認めよう」
―思わぬところから賛同の言葉が放たれた。
ネバン・アスモデウスが拍手しながら肯定の言葉を継げたのだ。
「―ネバン様! お戯れはよしてください!!」
「―これは上級悪魔のたしなみを否定する暴挙ですぞ!?」
上役たちの何人かは慌ててたしなめる声を上げるが、しかしそれをネバンはひと睨みで一蹴した。
「黙れ、落伍者ごときが」
「……なっ!?」
非公式とはいえ上役たちが勢ぞろいしている状況下で、若手が放っていい言葉ではない。
だが、上役たちは絶句して反論ができずにいた。
「良い機会だから余の夢も語ろう。……冥界に運ぶる腐敗の一層。上級悪魔の価値なき者たちの失墜こそが世の望みである」
ネバンは堂々とその言葉を告げると、更に続けていく。
「その銘にふさわしい素質を持たぬ癖に、力を得るための貪欲さすら持たぬ悪魔の名にふさわしくない愚物が今の冥界には蔓延しすぎている。見限った旧魔王派と同様の失態を犯している屑は冥界の癌だ。いずれ我が眷属と同士の手によってうち滅ぼさんと決意している」
「……待ちたまえネバン。それはさすがに過激すぎるのではないか?」
さすがに見かねたサーゼクスが言葉を継げるが、しかし返答として蔑みの視線が返される。
「そのような甘い対応をとっているからこそ、血統の腐敗がなされるのです。あなたほどの力があれば、塵屑どもをすべて滅ぼすなど造作もないことでしょう。……まあ、あれを増やさない腰抜けには無理ではあるのでしょうが」
口調こそ丁寧だったが、その実内容は徹底的な罵倒だった。
しかも恐るべきことにその言葉に賛同するものすら現れはじめる。
「確かに、実力と精神が釣り合ってないものが多すぎるのは今の冥界の欠点ですな」
「同意です。和平が結ばれたのであるならば、戦争が始まる前に改革を行うのも必要かもしれませんぞ?」
明らかにネバンが動くのに合わせての支援砲撃だ。
サーゼクスは内心で臍をかんだ。
……間違いない。ネバンは最初から自分の夢を語ると同時に、同士達をたきつけて宣戦布告をしに来たのだ。
「力を持たぬ人間たちが数の上で最大派閥になり核という脅威を手にしたのだって、教育という研磨を誰もができるようにしたという点に尽きる。……ソーナ・シトリーの夢の実現は、より強い冥界のために必要不可欠でしょう」
そう断言すると、ネバンはソーナに視線を向けて微笑を浮かべる。
「ソーナ・シトリー。真なるアスモデウスの権力をすべて使ってでも、余は貴殿を支持しようではないか。新たなる冥界を担うものを見つけ出すための場、共に創りたいと願っている」
「……そ、それは―」
自分の発言が思わぬ展開を生んだことに気づき、ソーナは思わずたじろいだ。
そこに、とっさに匙が割って入る。
「ちょ、ちょっと待ってくださいネバン様! あのソーナ会長の夢はあくまで―」
だが、匙の言葉は最後まで続かなかった。
「黙れ、まがい物」
冷徹に、心から蔑みの視線を込めてネバンは一蹴する。
「な……っ!」
「いいか? 貴様ら他種族からの転生悪魔は、しょせん悪魔の力を手にしただけのまがい物にすぎん。例えていうなら勲功爵だ。……その程度で魔王の末裔に跪きもしないで声をかけようなど不敬の極みだ。……次は首をはねるぞ!」
「―ネバン! あなたさすがにいい加減にしなさい!!」
さすがに黙っていられなくなったのか、リアスは声を荒げる。
「転生悪魔も私たちと同じ悪魔! それをまがい物だなんてどういうつもり!?」
「寝言は寝て言えリアス・グレモリー! そのような発想もまた腐敗の温床であることがなぜわからん!!」
ネバンもまた声を荒げてそれを否定する。
「自らの種族の誇りも忘れ、特性を得ただけで悪魔になったなどと驕るまがい物などに未来を預けて、それが悪魔の未来を輝かせることになぜつながる!! これは種族差別ではない、民族自決の問題だ!!」
履き捨てるように告げると、再びネバンの視線は上役たちに向けられる。
「まがい物に頼り、挙句の果てに上級を超える最上級のくらいすら与えてすり寄って、そんなことで悪魔の勢力が強くなったところで悪魔という種族が正しい意味で強くなるとは限らないだろうに! 真に必要なのは真なる悪魔の強化であろう!!」
「た、確かにそうですな」
「我々純血たる悪魔が悪魔の先頭に立つ価値を示さねば、意味がないでしょう」
「そ、その通りだ! 薄汚い寄生虫扱いされては、我々純血悪魔の名誉は地に堕ちるではないか!」
サクラとしての意見もあるのだろうが、上役たちの間に波紋が広がっていく。
「……いい加減にしないかネバン!」
サーゼクスは立ち上がると、怒りの表情すら浮かべてネバンを叱責する。
「転生悪魔もまた冥界の宝! 悪魔の未来を担う大事な者たちだ! それを愚弄することは私が許さん」
「……そのような発想を前提としている貴方もまた愚弄の対象だといっている!!」
その言葉は、ネバンから放たれたものではなかった。
上役たちの1人、まだ若い部類のものが立ち上がると、堂々と非難したのだ。
「……はあ。あくまで非難は私がするといったはずだが?」
「申し訳ありません、ネバン様。しかしいまだ己の愚かさに気が付いていないこの男に我慢の限界が来た次第で」
ネバンに対して頭を下げるその上役に、サーゼクスは自分の予想が当たっていたことを察する。
「……すでに相当の人員が取り込まれているとみていいのだな、ネバン」
「ああ、まがい物を主要な立場につけようなどという、誇りを忘れた貴方にも、それに対抗するための力を身に着けることすらしない怠惰な大王派にも見切りをつけた者は多いのだよ」
堂々と、ネバンはここにきて口にした。
「いわば我らは真悪魔派。真なる悪魔の権利を守るべく立ち上がった新たな派閥と覚えてもらおう」
最早何一つ隠すことなく、ネバンははっきりと宣戦を布告した。
「幸い、三大勢力の同盟の件もある。開戦前の火中の栗は天界と堕天使どもに拾わせればいい。ああ、和平とは実にいいことをしてくれたなサーゼクス・ルシファー」
「……和平を結んだ盟友に、危ない橋を渡らせるつもりかね?」
サーゼクスのその言葉に、ネバンは嘲笑すら浮かべる。
「まさか、本当に心から友好を結ぶ勢力が存在すると? 笑顔で握手をする裏で、ナイフを背に回した腕に握り締めるのが外交の基本だろう?」
だからお前はダメなのだと、ネバンは暗に罵倒する。
「古今東西、友好的な勢力は存在しても本当の意味で友達の勢力など存在しない。利潤もなしにリスクを背負うなど馬鹿のすることだ」
「仕方がないでしょうネバン様。サーゼクス・ルシファーは甘い男です。天界の危機となればその身を削ってでも無報酬で助けに行くことでしょう」
「まったく困ったものです。お友達を助けるのに冥界そのものまで動かそうなどと国家首脳として失格ですな」
「貴様、魔王様の崇高たる志がわからないというのか……っ!」
「まて! 真なる大王の血統を無視して、さっきから勝手に話を進めるなよ!?」
魔王派と大王派の上役もまた立ち上がり声を荒げる。
一触即発。そんな状況に若手たちもまた戦闘態勢を取らざるを得ないが、そこに一つの声が響いた。
「……はいはい。全員クールダウンしなさい」
ため息をつきながら、レヴィアは一歩前に出ると、ネバンを静かににらみつける。
「ネバン。君はつまりこういいたいんだね? ……耄碌したジジイや腑抜けた甘ちゃんなんかに悪魔は任せられないと」
「ああそうだ。ならば真なる魔王の血を引く余が動くほかあるまい? お前と違って王族として民を牽引する覚悟が余にはあるのだ」
「牽引? 扇動の間違いだろう?」
お互いに敵意を全開にしながらにらみ合うが、しかしそこに割って入る人がいた。
「……マスターネバン。切れというなら切るが?」
「待てホグニ。さすがに派閥が違うとはいえ同じ勢力が殺し合うのはさすがにまだまずい」
その眷属の姿に、サーゼクスは懐疑的な表情を浮かべる。
「君は、元人間だな?」
「いかにも。マスターネバンの騎士、ホグニというものだ」
肯定の言葉に、場に疑念の空気が生まれる。
「あらん? でもネバンちゃんは転生悪魔の権威はく奪を謳ってるのよ? それでいいの?」
セラフォルーの疑問が全員の代弁だ。
ネバン・アスモデウスは他種族からの転生悪魔を徹底的にこき下ろしていた。
自種族の誇りを捨てたまがい物。そんなものに貴族たち以上の権威を与えるなど馬鹿げていると。
そんな彼女の元に他種族からの転生悪魔がいるというのは、いささか不思議な気がしたのだ。
だが、ホグニはそれに対して鼻で笑う。
「馬鹿馬鹿しい。他国の民族に国籍を与えたからといって、政治の要職につける人間の国などほとんどない。むしろマスターの言うことは全面的に正しいだろうに」
堂々とネバンの言葉を全肯定するホグニに、その場にいる者たちは押し黙る。
「お、オイ待てよ! お前、それでいいのかよ!?」
「む? 少なくとも日本人はそういう政治体制だろう? それとも貴様は、北朝鮮の人間が内閣の大臣に任命されたとして反感を抱かないか?」
イッセーが思わず声を上げるが、しかしその返答に口をつぐむ。
確かに言われてみればその通りだ。
自国の内閣総理大臣を他国からの移民が務めるだなんて聞いたことがない。まず間違いなく誰も投票しない。
「マスターの言うことに賛同する転生悪魔も多いのさ。何より、勲功爵といっただろう? 権威をすべてなくすわけではない」
「有用なものを飼殺すのも力を確保するためには必要だからな。……転生悪魔はその時点で中級悪魔にするぐらいはしてもいいと思っている」
ネバンからの思わぬ意見にどよめきが起こるが、しかしネバンはそれを鼻で笑う。
「自ら眷属に取り入れた者に権力の一つも与えぬようではそれこそ恥だろう? ……もっとも、悪魔の血を持たぬまがい物にそれ以上の権威を与える気はさらさらないがな」
ある程度の線引きをしっかりとしてしたその言葉に、真悪魔派の者たちは言葉を続ける。
「正論ですな。こちらが引き入れた以上相応の待遇は与えるべきだが、まがい物を貴族にしてやる義理もありませぬ」
「全ては力だけで選ばれた愚か者に政治を任せたことが原因です。これからは真に政治の素質ある悪魔を育て上げて政をさせねばなりますまい」
「そのためにも、下民の中にある素質を発掘することは必要不可欠。ソーナ嬢、期待してますぞ」
「左様。真に力ある上級悪魔なら、同じ修練を積めば下級より優れた成果を出せるはずなのだから、気にすることはかけらもないでしょうに。頑張りなされソーナ殿」
次々と投げかける言葉に、ソーナはしかし喜べない。
ネバンたちの言うことは、真に力ある純血悪魔が悪魔を率いるべきという、或る意味では正論の一つだ。
だが、その言葉の裏には一つの裏の意味がある。
……弱者は弱者らしく強者に従え。その裏の意味を察してしまえば、ソーナは素直にうなづけない。
だが、ネバンは笑みを浮かべると堂々と言い切った。
「まあ、戦線布告としてはこれで十分。……では改めて、余の夢を本当の意味で告げるとしよう」
その場を見渡して、ネバンは悠然と告げる。
そこにいるのは紛れもなく魔王の末裔。真に力のある魔王の末裔がそこにいた。
「この悪魔の腐肉をすべてそぎ落とし、真に素晴らしき悪魔の社会を構築する。……そのための礎となることこそが、余の望みである」
前から思っていたことがあるのですよ。
……冥界の政治派閥、小物が多すぎね?
いや、敵は基本小物がD×Dの基本なのはわかるんですけど、毎回毎回小物かポット出ばかりだとちょっと飽きるというか……。
そういうわけで、大物化はともかく小物ではない敵を何とかして出そうというのが自分の基本理念です。ネバンにはその辺を担当してもらいたいと思っております。
とはいえこの作品はアンチ・ヘイトではないので、あくまで正義はレヴィア達側にあります。その辺を譲るつもりはかけらもありませんですよハイ。