ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
「なんじゃこりゃああああああああ!?」
イッセーは、朝っぱらから大声を張り上げた。
それは事情を知るものからすれば当然といえば当然だが、しかしそれはそれとして近所迷惑である。
「朝っぱらから騒がしいよイッセーくん。もうちょっと静かにしないと」
そんなイッセーに当然のごとく注意をするレヴィアだが、しかしそれが先ずおかしい。
「いや、なんでいるのレヴィアさん?」
イッセーは心底首をかしげる。
しかも、その隣には苦笑を浮かべた蘭と一夏までいるのだから不思議だ。
ついでに言うと、荷物も大量におかれている。それも引っ越し業者のトラックに運ばれている。
「あの、リアスさんもしかして言ってないんですか?」
「アーシアの時もそうだったから、あり得そうだな」
「やっぱり直接挨拶するべきだったか。…うかつだった」
三人そろって少し困った表情を浮かべるが、しかしイッセーはそれどころじゃなくしかしそれで冷静になれた。
「あの、俺の家が、なんかとんでもないことになってるんですけど?」
視線を戻せば、そこにあるのは巨大なビル。
少なく見積もっても十階建てはありそうなビルが、そこに誕生していた。
そんな動揺しまくりのイッセーの両肩に、レヴィアは静かに手を置いた。
「落ち着いて聞いてくれ、イッセーくん」
「は、はい」
イッセーは静かにうなづくと、レヴィアのことばをまった。
「一度リアスちゃんを張り倒してきなさい。人のこと言えないけどゴーイングマイウェイすぎる」
「いや、事情を説明してください!!」
渾身のツッコミだった。
「リアスちゃん。君は居候なんだからもう少しイッセーくんに説明しなさい。悪魔の常識人間の非常識!」
「だからって本当に殴ることないじゃない!」
レヴィアの超硬度によるゲンコツで涙目になりながらのリアスの反論だが、こればっかりは仕方がない。
「というより、なんでイッセーくんのご両親は驚愕してないんだよ。あの人たち大物なの? それとも馬鹿なの?」
「あの、俺の両親ただの人間なんですけど?」
あきれ果てるレヴィアにイッセーは弱弱しくツッコミを入れるが、しかし本当に弱弱しい。
一夜にして普通の一軒家が巨大なビルに早変わりすればそうもなるだろう。
「っていうか、これ明らかに敷地面積がおかしいよな? ほかの家の人はどうなったんだ?」
「大丈夫ですわよ一夏君♪ ちゃんと同等以上の家を紹介しましたし、諸経費はこちらで持っておりますもの」
「朱乃先輩! 離れてください! そこは私の位置です!!」
さらりと女の戦いまで勃発している。
「まあ、簡単に言うとね? …面白そうだから観戦しに来たよ!」
「レヴィアさんが一番ひどい!!」
ものすごい本音が漏れてきた。
「だって! この家で同居すれば可愛い可愛いオカルト研究部の女の子たちのムフフな裸が見まくれるじゃないか!! イッセー君だけずるいよ!?」
「そっちが本音ですね!? た、確かに気持ちはよくわかりますけど!!」
なるほど確かに、一緒に女子が住んでいればそういうことはできるかもしれない。
こと風呂場はかなり大きく作られており、一人で使うようなサイズでないことは明白だ。おそらく高確率で女子たちは共同で使うことになるだろう。そうなれば当然裸も見放題だ。
「頼むイッセー。レヴィアの性欲を発散させてくれ! 俺はもう襲われたくない!!」
「お願いしますイッセー先輩! 私も一夏さんにだけ体を許したいんです!! …レヴィアさん上手だからつい流されて…っ」
なんか一夏と蘭に涙ながらに懇願までされた。
「え? じゃあもしかして俺と織斑がレヴィアさんを挟んでサンドイッチとか蘭ちゃんとレヴィアさんの主従丼とか―」
「切るぞ?」
「撃ちますよ?」
「すいませんでした!!」
欲望が漏れたことで速攻で土下座を行う羽目になったが、これはイッセーの自業自得である。
「そういえば、松田と元浜は?」
「ああ、あの二人は普通に実家で暮らしてるだろ? さすがに転校するわけでもないのにそれは無理があるって」
いわれてみればそれもそうかと、イッセーはすぐに納得する。
「っていうか、そっちこそ木場とギャスパーはどうしたんだよ? あの二人は眷属なんだから一緒にいる方が当然なんじゃないか?」
「そうなんだよなぁ。なぜかサーゼクス様は女子眷属としか言わなかったし、なんでだろ?」
イッセーは一夏と二人して首をひねるが、それを見て蘭は頭痛を抑えるのに苦労していた。
おそらく、サーゼクスはこの流れを予期していたのだろう。
レヴィアが面白半分欲望半分で参加し、それに一夏と蘭も入ることを想定していたのだ。
つまり大絶賛現在進行形で二つのハーレムが生まれようとしている。むろん一夏とイッセーである。間違ってもレヴィアではない。
しかもこの流れからして、おそらくサーゼクスは小猫すら巻き込もうとしている。
どちらの男にくっつくかはわからないが、しかし少し下世話な気がしてきた。
「あの人、なんでトラブルメーカー何だろう?」
「根っこが軽いからだと思う、蘭」
年少組は同時にため息をつくほかなかった。
「そういえば、そろそろ実家に帰る時だよね、リアスちゃん」
「ええ、一緒に行く?」
と、レヴィアとリアスは会話を日常会話に戻して話を進めていた。
すでに木場たち男子組も戻ってきたうえでのことだったが、それゆえに大騒ぎに発展する。
「う、うそだ! 部長とレヴィアさんが帰るだなんて!?」
「お、俺たちを置いていくんですか二人とも!?」
「落ち着け、イッセーに松田! たぶん夏休みの里帰りとかそんなのだ!! ですよね!?」
「え、そうだけど?」
三馬鹿が暴走しているのに、さすがのレヴィアも戸惑ってしまうが仕方がない。
魅惑のおっぱいをもつリアスと、皆のエッチなお姉さんであるレヴィアが同時に冥界に帰るなどと驚愕以外の何物でもなかった。
「いや、僕が夏休みに実家戻るのは、風紀委員関係者なら知ってるよね?」
「そんなの吹き飛ぶぐらいショックなんですよ!!」
松田の叫びがまさにすべてを物語っている。
そんなもん吹っ飛ばすぐらい、衝撃だったのだ。
「うぅ…っ。部長が、部長のおっぱいがもう触れないのかと思うと涙が出てきて止まらなかった……!」
「もう。私があなたと離れるわけないでしょう? これから千年単位で一生一緒にいるんだから」
涙を流すイッセーを抱きしめながら、リアスがぽんぽんと慰める。
「一応言っとくけど、主が冥界に帰る以上眷属もついていくからね? と、言うわけで松田君と元浜君も一緒についていくこと」
「そういえば一年ぶりだな、冥界行くのは」
「そうですね。お兄たちにお土産買っておかないと」
さすがに慣れているのか、レヴィア達はすでに予定を調整しているようだった。
「生きているのに冥界に行くなんて緊張します! し、死んだつもりで行きます!」
「アーシア先輩、落ち着いてください、意味が分かりません」
「冥界には興味があったけど、天国に行くために手に仕えていたはずなんだがな・・・。ふ、天罰を与えてきた者たちと同じところに行くとは皮肉だな。ふふふふ」
「ゼノヴィア先輩も落ち着いてください。意味不明ですから」
教会コンビに即座にツッコミを入れていく蘭に、小猫がそっと羊羹を差し出した。
「…楽ができてうれしい。頑張って」
「いや手伝って、小猫」
下級生は下級生でいろいろとあるようだ。
と、そういうわけでそろそろ声をかけようとアザゼルは面白がった。
「ついでに言うと俺も行くぜ」
『え!?』
全員が慌てて振り返ると、そこでようやくアザゼルの存在に気が付いたらしい。
「アザゼル? あなた、どこから入ってきたの?」
「ん? 普通に玄関からだぜ?」
平然とアザゼルが答えるが、しかしその答えに全員が唖然とする。
「気配すら気づきませんでした」
「そりゃぁ修行不足だな。俺は普通に来ただけだぜ?」
「達人は状態ですら気配を消すというけど、やっぱりアザゼル先生も達人なんだな」
「この程度、ちゃんと修行してりゃ誰でも気づけるっての」
木場と一夏の驚きにあきれながら、アザゼルはにやりと笑う。
「ま、俺も三大勢力の会議とかいろいろあるが、お前らが修行するってんなら当然それについていくぜ。なにせ俺は先生だからな」
そういいながら、アザゼルはメモ帳を取り出した。
「冥界での予定はリアスとレヴィアの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。あと、若手悪魔同士で会合があるんだって?」
メモ帳読み上げながらのアザゼルの言葉に、リアスはうなづいて肯定する。
「ええ。お兄様の提案で次世代の冥界を担い若手悪魔たちの間で会合が開かれることになったのよ。私とレヴィアも当然参加するし、上役の貴族たちも挨拶に来るのよ」
「ぶっちゃけめんどくさい。会いたくないのが一人いるけど、あいつも絶対参加するんだろうなぁ」
うへぇと顔に書いてレヴィアがため息をつく。
「そんなに会いたくないんですか?」
「主義主張が僕の正反対なんだよ。アイツは絶対一波乱起こすのが目に見えてるから面倒なんだよなぁ」
イッセーに答えながら、レヴィアは心底いやそうな表情を浮かべて答える。
「名前はネバン・アスモデウス。僕とは別件で亡命してきた正当な魔王末裔の一人だよ。…アイツ、権力遣いまくって土地開発とか教育事業とか進めてるから苦手なんだよなぁ」
「それって、別に悪いことじゃなくね?」
松田が首をかしげるが、しかしレヴィアは首を振った。
「正当な魔王末裔の影響力をフルに生かして民を扇動しているようなものだよ。これじゃあ下級悪魔の盲目的な忠誠心はいつまでたっても治らない。だから僕は意見を出したりしないようにしているのに…」
「…ま、それはそれで問題あると思うけどな。お前は何もしなさすぎだろ」
アザゼルは少し辛辣な感想を返すが、レヴィアの意見は揺るがない。
「いい加減魔王の呪縛から解き放たれるべきなんだよ冥界は。いずれ、襲名される四大魔王の名前もなくなるべきだとは思うんだけど…」
「そいつは難しいだろ。実際上級と下級の間には、戦闘能力で天と地ほどの差があることが多いしな」
アザゼルの言うとおりだ。
悪魔という種族は、血統による能力の差が大きい種族だ。
そんな種族で血統主義をなくすことなど困難だろう。むしろ、完全になくせば逆に混乱を生み出しかねない。
だが、戦闘能力の差は別に政治力とは何の関係もないのだ。
程度はともかくある程度垣根を減らす必要はあるのに、冥界は戦闘能力が政治的ステータスに大きく影響している。
いつか、それが何らかの形で致命傷にならなければいいのだが……。
レヴィアは冥界の未来を憂いて、再びため息をついた。
活動報告に一つ付け加えました。
……割と重要なことなので、できればぜひ一言お願いします!
それから、オリジナル要素が少しずつ入ってきていますが、このヘルキャット編でもすっごいのが出てきます。
こっから三大勢力は、こと冥界はハードモードに突入することになるでしょう。少なくとも、そう簡単に決着がつくような事態にはならないとだけ言っておきます。
原作第五章のような展開にはならないといっておきます。ある意味俺たちの戦いはこれからだエンドに近い感覚になると思います。