ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
「さて、そういうわけで俺が顧問のアザゼル先生だ」
と、旧校舎でアザゼルがふんぞり返っていた。
「…なんでいるの?」
これまた遊びに来たレヴィアは、開口一番に総ツッコミを入れる。
「ソーナが私達を売ったのよ」
リアスは額に手を当てながらため息をついた。
どうやら、セラフォルーに相談するという荒業を使ってこの立場を獲得したらしい。
なかなか強引な手段もあったものである。
「それで? いったい何が目的なんだい?」
レヴィアはあきれ半分でそう尋ねる。
仮にも堕天使の長がこんな勝手な行動をとるのだ。それ相応の理由というものがあるのだろう。
…これまでの情報を精査する限り、そんな大した理由がなくても勝手な行動をとりかねないのが怖いところだが。
「簡単だよ。赤龍帝とその仲間たちの成長を促すこと。…お前ならわかるんじゃねえか? セーラ・レヴィアタン」
「レヴィアと呼んでくれないかな?」
そう前置きしながらも、レヴィアは確かにその理由をわかっていた。
人間の持つ強大な力である神滅具。
今の時代において、そのうち二つが悪魔の手に渡り、しかもそれはかつて三大勢力をズタボロにした二天龍。
それが、こんどは三大勢力と禍の団に分かれて存在している。
そしてその仲間たちも異例の逸材ぞろい。特に木場と蘭は逸材といっていいだろう。
そんな彼らを伸ばすのに、神器研究の第一人者であるアザゼルほどの適任は確かにいない。
「…頑張れ、蘭ちゃん」
「え!? 私ですか!?」
「待ってくれレヴィア! 蘭に手を出すっていうならただじゃ置かないからなアザゼル!」
想定してなかったのか狼狽する蘭をかばう一夏に、アザゼルはやれやれといわんばかりにため息をつく。
「だからアザゼル先生と呼べって。…どっちにしたって、お前らは将来的な主力になるから、鍛えておくに越したことはねえだろうが」
そう告げると、アザゼルは蘭を見て興味津々に目を輝かせる。
「神器移植は本来、莫大なリスクが伴うものだ。それなのに、複数の神器を持ちながら何のデメリットも持たない特異体質。…ある意味鳶雄以上の逸材だ。興味はでかいな
」
「い、一夏さん! 怖いんですけど!?」
「おい、本当に切るぞ?」
「アザゼル先生? からかわないでくれるかな?」
「いや、本気だったんだが…待て、わかったから剣をしまえ」
本気で戦闘態勢をとった一夏とレヴィアにうんざりしながら、アザゼルはしかし両手を広げる。
「まあ、お前らは将来的な禍の団との戦いにおける抑止力という判断をされているってわけさ。だからこそ、その成長のためにはそれ相応の実力者が必要だってことだよ」
「すごいなこの人。自分のこと実力者って言いやがった」
「まあ、堕天使の総督なんてやるには実力なくちゃやってられないからねぇ」
あきれる元浜にレヴィアは苦笑交じりに一応フォローを入れる。
実際、それだけの素質がなければ異形社会で高位に立つのは困難なのだ。最高格ともなれば戦闘能力も相応になければやってられない。
「ま、俺が主にやるのは神器保有者の成長だがな。メインどころはグレモリー眷属の赤龍帝だが、
「よ、よろしくお願いしますアザゼル総督」
ニヤリと笑うアザゼルに嫌な予感を覚えて蘭は一夏の陰に隠れるが、アザゼルは一瞬で回り込むとその頭をくしゃりと撫でた。
「そんなにビビんなよ? 俺は上玉の女には優しいぜ? あとアザゼル先生な」
「アザゼル先生? 蘭ちゃんはすでに一夏くんのものだから手は出さないようにね?」
レヴィアがしっかり牽制球を入れている間に、一夏は蘭を抱き寄せながら距離をとった。
まだそういうことにはなってないとかツッコミを入れている余裕もない。というよりアザゼルの動きが全く読めなかった。
「アザゼル! お前なぁ」
「教師のことは先生と呼べ、一夏」
和平前から悪魔なので警戒心強めの一夏の後頭部に、出席簿が突き立った。
その音に視線を向ければ、そこにはスーツ姿の千冬がいた。
「…ブリュンヒルデ!? なんでここに!!」
「ん? まあ大したことではない」
そう返した次の瞬間、千冬の背から翼が生える。
ちょうどそのタイミングで外の様子を覗いたイッセーが、大きな声を上げた。
「……ええええええ!? 織斑千冬が、悪魔にぃいいいいい!?」
その言葉に、オカ研部室からぞろぞろと出てきて視線が集まる。
「……いちいちじろじろ見るな。目的のためにこれが必要だと判断しただけのことだ」
「も、目的って?」
じろりとにらまれて目力におびえながら、イッセーはとりあえずそれを訪ねる。
その瞬間、千冬には絶対零度の殺意が宿った。
「……奴らに対する落とし前だ」
その言葉に、全員があることを思い出した。
織斑千冬はIS学園で教師を務めていた。そして、それはすなわちIS学園襲撃事件に彼女が巻き込まれたことを意味している。
襲撃事件では少なくない数の死人が出た。それも、防衛のために出撃した教師や専用機持ちだけでなく一般生徒にもだ。
「だが、奴らが異形の力を使っているなら正攻法では打破できん。ゆえにレヴィアに頼んで協力してもらったのだが、奴らから宣戦布告してきたのなら好都合だ」
まだ慣れていない悪魔の翼を動かしながら、千冬は真正面から尋ねたイッセーを見つめて断言する。
「表の方はともかく、裏の方の人類統一同盟は私が潰す。それが、IS学園教師であった私ができる最後の務めだ」
その決意に、ほぼ全員が沈黙するしかなかった。
この場にいるほとんどが、凄惨な争いをほぼ知らない。そんな自分たちが彼女の苦しみを理解できるとも思えなかった。
だからこそ、それに対応できたのは経験者だけだ。
「……うん、まあなんだ」
頭をぼりぼりと書きながら、アザゼルは少しの間考え込むと、千冬の頭に手をのせる。
「あんま、気負いすぎんなよ?」
「……アザゼル先生。弟が世話になるとはいえ、私はもう教職に就いたこともある大人なのですが」
さすがに出席簿をたたきつけるわけにもいかず戸惑う千冬だが、アザゼルはあまり気にせずその頭をくしゃくしゃと撫でる。
「馬鹿だなお前。人間の大人なんぞ俺に比べりゃ子供も同じだ。気負いすぎてる子供見てたら、心配すんのがおとなだっつーの」
そういいながらアザゼルはやれやれと手を放す。
だが、その目は何というか父親のようなそれだった。
「もとをただせばこっちの監視が緩いのが原因なんだ。けじめはこっちでつける・・・って言っても聞かねえか」
「もちろんです。奴らには一矢報いねば死んでも死に切れません」
その言葉に、アザゼルはやれやれといわんばかりに苦笑すると、視線をレヴィアに向ける。
「……ちょうどいい。実は三大勢力で自由に動ける若手の腕利き集めて攻撃型の対テロ部隊を作る予定なんだ。ミカエルのとこも俺のとこも神滅具持ちを含めて何人か送る予定なんだが……。セーラ・レヴィアタン、こいつかせよ?」
それは、或る意味で至極当然のことだった。
三大勢力の和平成立とほぼ同時に宣戦布告してきた人類統一同盟と禍の団。
彼らに対抗するための専門部隊を作るというのは確かに理にかなっている。
「いや、でも神滅具持ちと肩を並べるってすごく大変じゃないんですか?」
イッセーが戸惑うのも当然だが、アザゼルは何言ってんだお前とでも言いたげな顔をしてイッセーを見る。
「お前なぁ。神滅具持ちのヴァーリを一時は圧倒した人類最強だぜ? 戦力としちゃぁ充分だ。俺のとこが送るのも人間のチームだしな」
「まあ、僕が直接動くわけにもいかないからそれは良いけど…。どうです、千冬さん?」
「私はかまわないさ。あの化け物共を相手に、一夏や蘭を巻き込むには時期尚早だしな」
千冬はそう告げると、アザゼルに対して頭を下げる。
「ご厚意、感謝します」
「おう! ま、さっきも言ったがこっちの不手際もあるしな、気にすんな!」
「ま、待ってくれよ千冬姉! 俺たちだって戦えないわけじゃ―」
話が勝手に進んでいく中一夏は前に出るが、その顔にアザゼルの手がストップをかけた。
「いや。今のお前らじゃ聖槍が出てきたら勝ち目がねえ。何より、お前らが主力になるのはまだ先の話さ」
アザゼルがそう告げるのも当然だ。
ただでさえ莫大な寿命を持つ三大勢力側から、そう簡単に若手を出せるわけがない。
どこもかしこも種の存続が危ぶまれている状態には変わりないのだから。
「それに本格的に戦争になるにしても、そいつはお前らが大学卒業してからになるだろうしな。ちゃんと青春してから参加しろ」
「同感だ。学生生活を送りたくても送れなかった者達も何人もいるんだ。好き好んで戦場に出てくるにはお前たちは未熟すぎる」
教師二人にそう言われて、一夏は不満げだが一応下がった。
そんな一夏の肩に、レヴィアはしなだれかかるようにしてくっついた。
「まあまあ一夏くん。そのフラストレーションは僕に性的にぶつけてくれれば痛い痛い痛い本気で痛い!?」
「レヴィア。貴様まさか一夏に手を出してないだろうな? あ?」
千冬のアイアンクローがレヴィアに炸裂する中、同時に動いたのは二人。
「蘭、逃げるぞ!!」
「はい 一夏さん!!」
顔を真っ赤にしながら、一夏と蘭は逃走した。
沈黙が十秒間ぐらい続いてから、千冬の腕にさらに力がこもりそうになる。
「レヴィア、辞世の句ぐらいは聞いてやる」
「………夫婦丼は美味しかったけど、できれば姉弟丼も食べたかったですふぎゃぁああああああああっ!?」
欲望に忠実すぎるレヴィアにとどめが刺された。
「こ、この女に一夏を託した私が愚かだった。アザゼル先生、監視をお願いします」
心底一夏の身を案じて頭を下げる千冬だったが、アザゼルは面白そうに笑うだけだ。
「あ? 別にいいじゃねえか。一夏もいい年こいてんだから、女の一人や二人抱いて経験詰んだ方が将来いい思い出になるぜ?」
「あきらめなさい織斑千冬。
リアスが心底同情しながら千冬の肩に手を置いた。
心からアザゼルたちに頭を痛めているが、しかしアザゼルとしては納得いかないのか不機嫌そうになる。
「眷属の男と同居してるやつに言われたくないぜ。…お、そうだった忘れてた」
と、そこでアザゼルがポンと手を打つ。
「サーゼクスからの伝言だ。……オカルト研究部はぜひイッセーの家で共同生活を送れってよ」
数秒後、大声が響き渡った。
「……これは、面白いことを聞いたよ」
そして、レヴィアは実は止めを刺されてなどいなかった。