ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
それは裏を返せば―
「これは・・・っ!?」
その在りえない光景に、千冬は目を疑った。
人間―ではないものがほとんどだが―が凍ったわけでもないのに固まって動かないという光景は、おそらく人間界では目にすることはできないだろう。
「この感覚、時間停止か!」
「ゼノヴィア、デュランダルをこんなところで引き抜かないでくれないかい? 僕たちそばにいるんだけど」
ゼノヴィアに注意する木場の表情も険しい。
見れば、部屋にいる者たちの過半数が同じように固まっている。
動けているのはサーゼクスを含む首脳陣、そしてレヴィアとリアス。グレイフィア及び木場とゼノヴィアに蘭も動けているが、それ以外は全滅していた。
「おいおい。来るとは思ったけどある意味すごいいいタイミングだな、オイ」
どこか面白そうに、アザゼルは外の様子を見る。
視線を向ければ、なぜか外にいる護衛達の動きは止まっていなかった。
「・・・これまでの戦争が急に終わるとなれば何か起きても不思議ではないが、予期していたのか?」
「当然といえば当然だ。三大勢力の戦争を望むものは何万人もいるからね」
動揺を見せずに立ち上がりながら、サーゼクスは外を見る。
「知れば彼らは動くことが予想できていたが、これはまさか・・・」
「これってもしかしてギャスパーくんの停止かしら?」
セラフォルーも真剣な表情を浮かべて旧校舎の方に視線を向ける。
「ギャスパーの神器が暴発したというのですか!?」
「それはどうだろう。現実問題、視界に映ってないのに」
リアスとレヴィアは真っ向から反論をぶつけるが、しかしそれを否定するかのようにアザゼルが首を振った。
「・・・おそらく、何らかの形で禁手に近い状態になっているんだろうな。それならこの部屋の中をピンポイントで停止する程度のことはできるはずだ」
「だが、ギャスパーくんの意志によるものとは考えづらい。やはりこれは敵襲か」
サーゼクスが険しい顔をしたその時、イッセーが動き出した。
「・・・うお!? え、これっていったい何!?」
「やれやれ。俺の宿敵は未熟すぎる」
状況が飲めずに混乱するイッセーに、ヴァーリは嘲笑交じりの感想を漏らす。
すぐにイッセーに状況が説明されるが、しかしこの状況は非常にまずい。
「だけど、なんでこの部屋だけ? 禁手クラスに強化したのなら、それこそ学園中を包むことぐらいわけないはず・・・」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょうレヴィアさん! そんな無茶な発動されたら・・・」
考え込むレヴィアに蘭が大声を上げるほど、状況は危険だ。
過剰な神器の暴走は所有者の命にもかかわる。
もしこのまま発動が続けば、ギャスパーの命は本当に危うい。
「どちらにせよ、これは明らかな敵襲です。・・・すぐに外の護衛に連絡して―」
ミカエルがそういって通信の魔法陣を展開しようとしたその時だった。
「・・・サーゼクス様、敵襲です。しかしこれは・・・っ!」
「誰が来たのかねグレイフィア? 旧魔王の末裔か、それともほかの神話体系か?」
サーゼクスは真っ先に考えられる相手を述べたに過ぎなかったが、しかし事態はその斜め上を行く。
「南東より魔法使いが数百。そして、ISが40前後です」
その言葉に、全員の目が驚きで見開いた。
それだけの数のISを動かすには、どう考えても国家クラスの規模が必要となる。
つまり、これは表の世界が動いているということにほかならない。
「・・・千冬さん! ISのレーダーで照合を!」
「わかっている」
レヴィアにうなづきながら、千冬はすぐにISを展開するとレーダーで解析する。
そして、その目が怒りに燃え上がった。
「レヴィア。どうやら私の目は曇っていなかったらしい」
「それってまさか・・・っ!」
その言葉に、レヴィアは思わず外に視線を向ける。
すでに視界に映ったその姿は確かにIS。
しかも、灰色のカラーリングをした流線形の装甲を持つそのISは―
「種別はゴースト。人類統一同盟のISだ・・・っ!」
「ISがこれだけの数だと?」
悪魔側の護衛部隊の指揮官は、しかしこの事態に対して冷静だった。
人類統一同盟がどういうつもりかは知らないが、しかし自分たちの仕事は簡単だ。
この会談に対する不穏分子を撃破すること。そこに何の問題もなければ失態もない。
「表の人間風情がなめてくれる! 全員、攻撃を拡散させて面制圧しろ!」
『『『『『『『『『『ハッ!!』』』』』』』』』』
悪魔はもちろん、堕天使と天使も同じように広範囲の攻撃を一斉に放つ。
いかにISの機動力が高くとも、しかし動かすのはただの人間。必然的に機動力に限界はある。そこをついての面制圧ならば攻撃を当てることは容易だった。
そして、ISのシールドエネルギーは異形世界でいうのならば紙装甲といっても過言ではない。少なくとも中級クラスの悪魔なら簡単に貫けるようなものだ。
ゆえにこの攻撃で確実に撃破できると確信し―
その瞬間、その確信は簡単に砕かれた。
前方に押し出た数機のISが大型のシールドを構え、そしてその後ろに一列になってすべてのISが並ぶ。
そして攻撃が直撃し、そのまま防がれて弾き飛ばされた。
「あの装甲、こちら側の技術・・・!」
天使の一人が歯噛みする。
いかにISを撃破できる攻撃だろうと、しかし相手がこちら側の技術を使って装備を用意すれば話は変わる。
見れば伝説の武具に比べれば劣るもののかなり優れた盾だ。
ISを撃破できればそれでいいと攻撃力を下げてでも拡散させたのが裏目に出た。
そして、その隙があまりにも致命的だった。
ほんのわずかな時間で、ISは護衛達の内側にもぐりこむ。
これでは範囲攻撃は使えない。下手に撃てば味方を巻き込んでしまうからだ。
だが、しかしそれがどうしたという。
いかにISが速いとはいえ、この乱戦ならばその機動性も本当の意味で発揮はできない。
それなら十分に勝算がある。
「我らが未来を決める会談、邪魔した報いを受けるがいい!!」
躊躇することなく悪魔の一人が迫り、そしてハンマーを振りかぶる。
戦車の駒で強化された膂力は本物。あたれば一撃でシールドエネルギーを0にできる一撃だ。
「・・・は!」
だが、その一撃はあっさりと空を切る。
そして次の瞬間、ISの拳がめり込んで、そしてプラズマを放出した。
「ぐぅおっ!?」
鳩尾にプラズマの奔流が直撃し、そしてそのまま腹を抱えてうずくまる悪魔に、さらに荷電粒子砲が直撃する。
人類統一同盟のIS、ゴーストは人類統一同盟の行動に合致した性能を発揮するISだ。
すなわち数の暴力。高い生産性と整備性をもつ、兵器としてのある種極点ともいえるポテンシャルにこそ根幹が凝縮されているといってもいい。『兵器』としての優秀さを最優先した質実剛健な設計こそが持ち味だった。
そして何より、最大の効果を発揮するのが第三世代武装。
第三世代武装ヴァルキリー・スレイヴ。
研究禁止とされた、ヴァルキリーの技量を使用者に再現させるヴァルキリー・トレースシステムを劣化再現したもので、ある程度の技量反映しかできない代わりに短時間なら安全に運用できる。
これにより、瞬間的に増えたIS操縦者の数ゆえに発生する搭乗者の訓練期間が大幅に低下。そのうえで数を生かした戦闘を行うことにより、緒戦を圧倒することが可能となった。
そして、いくらISが弱い性能の機体とは言え、しかし特化型のパッケージを使用すれば特化した条件なら脅威となる。
近接格闘型のパッケージと遠距離砲撃型のパッケージを搭載したISは、まさに悪魔相手にもISは戦えることを証明して見せた。
「・・・なめるなぁああああ!!!」
激高した悪魔は組み付こうとするが、ゴーストはすぐに後退することでそれを回避する。
そして次の瞬間、第二陣が襲い掛かった。
12機で編成されたISは、躊躇することなくサブマシンガンを一斉にばらまく。
密集に近いあつまり方をしていたことがあだとなり、その弾丸は大半が誰かの肌に当たる。
だが、護衛達はそれを気にもしない。
せいぜい18mm口径の鉛玉。この階段の護衛に選ばれるほどの実力者にとっては豆鉄砲に等しい。
ゆえに気にせず反撃に移ろうとして―
「・・・ぐほっ」
それは、連鎖する前兆だった。
一人がおなかを抑えて血を吐くと、連鎖するかのように多くのものたちが血を吐いて落ちていく。
「な、なんだ!?」
「どうしたんだ皆!!」
謎の減少に護衛達はさらに混乱する。
ISの手持ち銃火器程度で血反吐を吐くような悪魔が、こんなところに出てこれるわけがない。
しかし、現実問題数十人の兵士たちが戦闘不能なレベルでダメージを追っている。
「教えてやろうか、化け物」
ISの一機がブレードをもって切りかかるのを、護衛隊長は魔法陣で防御する。
「・・・そうだ、それで正解だ。直接体の頑丈さで受けていたらそれで大ダメージを追っていただろう」
ISを操縦する男のその言葉に、悪魔は疑念を浮かべる。
見れば、そのISが持っているのはただの合金製のブレードだ。
そんなものを喰らった程度で大ダメージをおうわけがない。あり得ない。
だが、現実問題多くの護衛達が大ダメージをおって負傷している。
「俺たちのパッケージ、モデルガンマレイはお前たちを倒すための装備だ。・・・その能力は放射線の付与」
「なんだと!?」
馬鹿な、あり得ない。
放射線はあらゆる生物にとって猛毒だ。悪魔といえどもろに喰らえば確かに上級相当でも無視できないダメージを負うだろう。
だが、そんなものに人間が耐えられるはずがない。
「何を驚く? ISはもともと宇宙開発用だ。耐えれて当然なんだよ!!」
その瞬間、ゴーストの姿が掻き消える。
後ろに回り込まれたのかと思い振り仰ぐが、しかし状況はそれどころではない。
・・・すでに、数百人もの魔法使いが一斉に魔法を放っていた。
「・・・悪夢だ」
その言葉を辞世のことばとして、護衛部隊を滅ぼさんと魔法攻撃が放たれた。
「これは、まずいね」
レヴィアは冷や汗を流しながら瞠目する。
ISの機動力は最上級にも届く圧倒的な力を持つ。
もし、そのISに上級悪魔と戦える剣や楯を与えれば、間違いなく神々にとっても脅威となる。
その可能性は一夏のIS訓練の際に理解していたが、実際に敵に回るとこれほどとは。
「とっさに近くの千冬さんに魔力を流して停止から守っていてよかった。・・・すいません、ちょっとしばいてきてください」
「わかった。これは動いた方がよさそうだな」
ISを展開する千冬が壁をけ破り、そして飛び立つ。
そしてそこにヴァーリも鎧を展開して並び立った。
「なら俺も行こう。・・・いい加減暇なんだ」
「勝手にしろ。足を引っ張るようなら承知せんぞ」
「それは怖い・・・な!」
次の瞬間、二つの白が戦場を一瞬で蹂躙する。
ISはその機動力で何とか回避したが、魔法使いたちは一瞬でその数を半分以下にまで減らしていった。
「うっわぁ、千冬さん容赦ないな。・・・殺してはいないけど半身不随だよあれは」
「充分手を抜いてんだろ。この状況下で殺さない余裕があるとはな」
アザゼルはあきれるが、別にこれは死人を出さない仏心でも何でもない。
じっさい、死んでいない味方をフォローするべくさらに数がさかれ、一気に攻撃の密度が低下する。
「いまだ! 攻撃を放って数を減らせ!!」
「無理です! 増援が来ました!!」
護衛達が反撃するより早く、さらに転移された魔法使いたちが攻撃を開始する。
千冬たちも迎撃に回ろうとしたが、その前にゴーストが立ちはだかって妨害を開始した。
「・・・遅い!」
「ぬるいな」
しかし、足止めできたのはほんの短時間。
十機近く足止めに乱入したISは、数分もたたず全機地面にたたきつけられた。
「・・・ヴァーリはともかくブリュンヒルデ強すぎだろ。あいつ本当にただの人間か?」
「伊達に人類最強と呼ばれてはいないのさ。生半可な使用者では鎧袖一触だよ」
今度はアザゼルが冷や汗を流し、レヴィアは自慢げにほほ笑んだ。
だが、しかしそう簡単に事態は動かない。
今度は転送魔法陣でISが召喚され、うかつに接近しないで牽制の射撃で足止めを開始した。
しかし、その光景はあり得ない。
ISの総数はもともと500にも届かない。人類統一同盟は新たに生産しているが、それだって400もなかったはずだ。
それをこんなところに集中投入するなどナンセンスだ。
それなら、いっそのこと投入しない方がまだましだろう。三大勢力を敵に回さなくて済む分、リスクは少ないのだから。
「・・・ISは数が多くないはずだが。人類統一同盟は何を考えている?」
サーゼクスの疑問はほぼ全員の総意だが、しかしそれを考えている暇はない。
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ! 早くギャスパーくんを助けて、それに援護もしないと!!」
その圧倒的戦闘能力で何とかしてくれと言わんばかりの蘭の大声だが、しかし状況はそれを許さない。
「それは難しいですね。我々が結界を解除すれば、それこそ私たちまで停止されてしまいます」
「それに、ギャスパーくんの救出も困難だろう。敵の戦術のかなめである以上、当然結界を別個に張って侵入を妨害しているはずだ」
グレイフィアとサーゼクスの意見は、冷徹なようだが慎重なだけだ。
みすみす敵の重要拠点に殴り込めば、それこそ無用な犠牲者を生むだけで終わる可能性がある。
「・・・安心してくださいルシファー様。旧校舎には未使用の
リアスは一歩前に出てそう告げる。
チェスの駒を参考にしている悪魔の駒には、必然的にチェスの能力を再現する特性が存在する。
その一つがキャスリング。ルークとキングを入れ替える、チェスのルールの一つだった。
「それでいこう。グレイフィア、拡張はできるかね?」
「私たちが強化すれば、あと一人ぐらいは行けるはずです」
「俺が行きます!」
すぐにイッセーが声を張り上げる。
「ギャスパーは俺の後輩です。俺が必ず助け出します!!」
「いうと思ったよ一夏くん。じゃ、
そううなづきながら、レヴィアは外に向かって一歩前に出る。
この緊急事態を前に黙ってみているわけにはいかない。和平の成立のために動いたとなればレヴィアの意志が垣間見えてしまうが、まあ正当防衛でごまかせるだろうとレヴィアは判断した。
その様子を満足げに見ながら、アザゼルは懐からリング状の物体を取り出してイッセーに投げ渡す。
「よし、じゃあヴァンパイアにはこれ渡せ赤龍帝。これをつければ少しの間は制御できるはずさ」
「え? ああ、わかった・・・って二つあるけど」
アザゼルから渡されたものの数に首をかしげるが、アザゼルはにやりと笑うとイッセーを指さす。
「そいつはお前用だよ。万が一の時はそれ遣えば、短時間だが禁手になれるはずさ」
「・・・サンキュー」
微妙に釈然としない顔でイッセーは礼を言うが、しかし文句を言うわけにもいかない。
「さて、ならば私たちは有象無象を切り捨てるとするか」
「そうだね。・・・部長、それでは僕たちはそろそろ行きます」
「ええ、お願いね二人とも―」
リアスがゼノヴィアと祐斗の背中をおし、二人も千党体制を整える。
「しかし、人類統一同盟と魔法使いを結びつけたのは誰だ? ・・・いや、それどころかこれは彼女の言っていた「聖槍」の保有者がIS学園襲撃者であることの証明ではないか」
「異形の技術を流用している可能性は節々にありましたが、しかしどこから・・・?」
転移術式の調整を進めながら、サーゼクスとミカエルは疑念を浮かべる。
それにこたえるのはアザゼルだった。
「魔法使いと人類統一同盟を結び付けた連中には心当たりがある。・・・ウチのとこのシェムハザが、妙な組織の存在を発見してな」
アザゼルがその名を告げようとしたその時だった。
『ええそうです。この襲撃事件は我々、
その言葉とともに、魔法陣が展開される。
「・・・この魔法陣! あのバカ叔母、ここまでするか!!」
魔法陣を目にしたレヴィアは舌打ちをし、そしてグレイフィアに大声をかける。
「速く転移を! 急いで!!」
「今できました。お嬢様、御武運を!!」
そして転移が発動すると同時、莫大な魔力が放出された。
異形技術を応用すれば、いくらでも対抗できるということ。
プロトタイプともいえたISDDではできなかったことを、あえてここでぶちかまします。
それからここでネタバレ。
こっから先、三大勢力はおろか神話勢力もハードモードです。