ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
篠ノ之束は人格破綻者である。ことコミュニケーションにおいては致命的といってもいい。
一夏や千冬、そして実の妹である篠ノ之箒を除いて、彼女は他人とコミュニケーションをとりたがらない。
他人など塵芥といわんばかりの態度をとることもいくつもある存在だったが、しかしこの写真からはそんな印象を感じない。
「・・・貴様、いくら束が問題児だからといって、洗脳するなど外道の所業だぞ!!」
「ひでえなおい! これでも仲良くなるのに時間かかったんだぞ!?」
激昂する千冬に弁明しながら、アザゼルは過去を思い出すかのように天井を向く。
「そう、あれは別件でネットに情報が流れたときのことだ」
「いい加減にしてくださいアザゼル」
「本当にお仕置きしちゃうわよアザゼル♪」
ミカエルとセラフォルーのツッコミをスルーしながら、アザゼルは続ける。
・・・かなり長いので要約するとこうなる。
流れた情報は一分で抹消することに成功したが、その一分で束に勘付かれ潜入されそうになった。
科学面において彼女をどうこうできるものなど世界にいないといっていい束だが、非常に残念なことに異形関係においてはそこまで優秀ではなかったらしい。
人間としての能力は身体能力についても化け物だが、しかしそれを言うならアザゼルたちは正真正銘の化け物である。ISといえどアザゼルたち最上級堕天使なら撃破は可能だ。
ゆえに、五回くらい返り討ちにしたらしい。
「最終的には無人ISやら世代でいうなら第四世代とかつきそうな最新技術やら使ってきやがったが、俺も興が乗ってロボット軍団を作ってぶっ飛ばしたんたもんだ」
とんだスーパーロボット大戦もあったものである。
そんなこんなの激戦は、束にとって新鮮だということだけは一夏にも分かった。
桁違いの超人である束に並び立つものなど世界にはいない。それが、束の問題児っぷりに拍車をかけたことは想像にたやすい。
そんな自分が本気を出しても返り討ちに合う存在は、彼女にとってある意味で救いなのだろう。
「特にサハリエルとは意気投合してな。二人してISを超える超兵器を、そう、デモン〇イン開発計画をスタートしようとしたときはさすがに戦争起きそうだから止めたもんだ」
「貴方が思ったより常識人で助かったよアザゼル」
そんなことになったら異形社会は混とんとなっていただろう。
サーゼクスの感謝の声をスルーしながら、アザゼルは続けた。
束は異形の技術に興味津々であり、いろいろと試してみたがあまり素質がなかった。
神器とは適合しない。魔法は全然使えない。本気で涙目になる彼女を見ると少しかわいそうに感じていた。
人造神器関係においては才能を見せたが、それでもアザゼルには及ばない。使う方に至っては致命的だ。おそらく彼女が神器を持っても、使いこなせずに暴走して大惨事を起こすことが確定しただろう。
そんな生活を続けていくに至り、束のコミュニケーション能力は大幅に向上した。
他人を拒絶しているといってもよかった彼女が、下級堕天使相手に懇切丁寧技術を教えている光景を見たときは、アザゼルはかなり驚いたものだ。
出会って一年もたつ頃には、研究所で彼女を嫌っていたり苦手意識を持っているようなものは誰一人としていなかった。そんなアイドルとなっていた。
人は、挫折を知ることで成長する。
それは人間なら当たり前のことで、だからこそ彼女は人になったのかもしれない。
だが、第三次世界大戦がはじまる原因であるIS学園襲撃のひと月前に彼女は姿を消した。
「すぐにメールが一つだけ来た。「・・・ツケを払うことになったからもう会えない。ごめん、アザゼルにとって嫌な世界になる。・・・いっくんとちーちゃんをたすけて」・・・ってな」
メールそのものも破損がひどく、非常に緊迫した状況で何とかそれだけが打てたのだということが分かった。
そしてその直後に第三次世界大戦が勃発。
ああ、これだけは断言できる。
第三次世界大戦に、束は不本意なかかわり方をしたのだと。
「ISコアに関しての情報だけは、あいつは絶対しゃべらなかった。・・・いや、あの表情はしゃべれなかったってのが近いだろう」
「何か呪詛をかけられていたと?」
つばを飲み込みながら千冬は聞くが、アザゼルはすぐに首を振る。
「いや、其の前に三大勢力のことを教えたら青い顔をしてたからな。たぶんそっちがかかわってるんじゃないかと思ってたんだが、そのすぐ後に姿を消しちまってなぁ。俺らも新兵器開発するのが楽しかったからそっちは全然ノータッチで」
申し訳なさそうに頭をかくと、アザゼルは一夏と千冬に頭を下げた。
「悪かった。たぶんあいつはろくなことになってない。死んでる可能性だってある」
「そん、な・・・」
一夏はそれに愕然とするが、しかし千冬は違った。
「まったく連絡が取れんと思っていたが、そういうことか」
わずかに瞑目すると、しかしすぐにアザゼルの肩に手を置く。
「気にしないでくれ。あいつはだいぶ好き勝手にやりすぎて恨みも買っている。むしろアイツがそれを自覚するようになったのはあなたのおかげだろう。・・・感謝するほかない」
千冬はそういうが、しかしその手はわずかに震えている。
束にとって長い間たった一人の友であったのだ。思うところはきっとある。
それでも、しかしぐっと耐えたのだ。
「・・・ああ、悪かったな」
アザゼルはその言葉をしっかり受け止めた。
「それに、覚悟はしていたさ」
千冬はそういうと、一夏の方を向いた。
「・・・その事件とほぼ同時に、ISコアが数個届けられた。それだけまともになったアイツがそんなことをするのだから、何かあったことはわかっていたとも」
「一夏くんが使えたのは驚きだったけどねぇ」
レヴィアも思い出して乾いた笑いを浮かべる。
コアの反応は間違いなく初期と同じタイプのISコアなのに、一夏が触れた途端に動き出したときは度肝を抜かれた。
下手にこのコアを公表すればその事実すら公表することになりかねない。
いかに男女両用のコアが生まれたとはいえ、影響力は大きすぎた。
加えて一夏は転生悪魔なのだ。和平が結ばれる前にそんなことが知られれば、それこそ教会が襲い掛かるだろう。
「コアそのものについては束博士ですらわかってないところがあるらしいけど、うかつにこんなこと言うわけにもいかないから研究が進んでないんだよ。できれば協力してくれると嬉しいかな?」
「そういうことなら任せとけ! ああ、俺の手でISコアを徹底的に解析してやるぜ!!」
と、アザゼルがガッツポーズをし、そして視線をイッセー達に向ける。
「さぁて、んじゃあそろそろ俺たち以外の強大な存在にも話を聞いてみるか」
その視線はイッセーとヴァーリ、そしてレヴィアに向けられていた。
「先代魔王の末裔と二天龍。お前らはある意味三大勢力を俺たち以上に揺るがす存在だ。・・・なあ、お前らはどんな未来にしたい?」
「俺は強い奴と戦えればそれでいいさ」
即答でヴァーリが答える中、レヴィアは無言で席に着くと、一口お茶を飲んだ。
「・・・ノーコメントで。できれば僕がここにいたこと自体内緒にしてくれると嬉しいね」
「なんだよ連れねえな。お前さんの意見は割と重要なんだから言ってくれないとこっちが困るぜ? 悪魔としても重要だろう」
アザゼルは同意を求めるようにサーゼクスたちに振り返るが、しかし意外なことにサーゼクスもセラフォルーも平然としていた。
「いや、予想通りだよ」
「いつものことなのよねん」
「そう言われましても、現政権側の旧魔王の末裔ともなれば相当の重要人物です。彼女の意見は冥界を左右しかねません」
あまりの平然っぷりにミカエルも異議を唱える。
だが、だからこそレヴィアは答えるわけにはいかない。
「・・・もし僕がここで和平を唱えれば、開戦派の何割かは和平を選ぶだろうし逆もそうだろう。
レヴィアは苦い表情でそういう。
「それでは意味がない。戦争を望んで離反するにしても、平和を望んで受け入れるにしても、そんな理由で受け入れるなんてことは僕は望まない」
そう告げると、こんどこそレヴィアは沈黙する。
それをアザゼルは困ったような表情で見ていたが、しかしため息をつくとイッセーに視線を移した。
「んじゃ、お前はどうだよ赤龍帝」
「・・・んなこと言われても、俺ただの学生なんだけど?」
そんなもの考えて生活してない。それが普通の男子高校生だ。
だが、残念なことにイッセーは赤龍帝である。ある意味莫大すぎる影響力を保有しているのだ。
しかしいきなり言われても答えられるわけがない。
そこで、アザゼルから爆弾発言が飛び出した。
「簡単に考えろ。平和を望まなかったら戦争だ。平和を望んだら子作りだ」
「・・・っ!?」
イッセーは驚愕に震えた。
ついでに松田と元浜も驚愕に震えていたが、しかしそれはさておく。
「戦争になったらヤッてる暇なんてねえ。だが、平和になればあとは主の存続と繁栄だ。・・・そこのリアス・グレモリーなんかどうよ?」
「はぁっ!」
いきなり話を振られたリアスの顔が赤くなる。
しかしそれはそれとして、それ以上にイッセーの顔が赤かった。
興奮しているだけではなく鼻血まで出ていて赤くなっていた。
「和平オンリー! 和平一択!! 部長とエッチしたいでぐわぁああああああああ!?」
「てめえどういうことだこの野郎が!!」
「死ね! 死んでしまえ裏切り者!!」
「お前どういうことだこの野郎! 俺なんて、俺なんてぇえええええ!!!」
「ずるいよ一夏くん! 僕だってリアスちゃんとあれとか其れとかなめたりこすったりしたいのに!!」
いつもの二人組はもちろんのこと、匙とレヴィアまで一斉にイッセーをボコり始めた。一誠だけに。
そして二秒後、千冬の出席簿が四人を鎮圧した。
「何をやっている馬鹿ども。ついでにレヴィアは本当に何をやっている」
「ふ、普段抑えてる欲望が駄々洩れしました・・・っ」
阿呆四人を鎮圧した千冬は、ため息をつきながらイッセーに視線を送る。
「しかし、本当に阿呆か大物かわからん奴だな。普通、そんなことを言われてもこの状況下で欲望にのまれたりなんてしないぞ」
「いや、その、リアス部長のおっぱいは素晴らしいので欲望が暴走しまして・・・」
思わず頭を下げるイッセーだが、しかし千冬はあきれ半分ながら少し笑っていた。
「いや、意外にお前みたいなのは伸びるときはどこまでも伸びるから油断できん。お前もうかうかしてるとおいてかれるぞ、一夏?」
「・・・それは、すごいいやだ」
一度は完敗すら認めたが、しかしこれはさすがに思うところがある。
仮にも兄の前で妹とSE〇したいとか言ったらだめだろう。というよりなんでサーゼクスは笑っているんだ。
「サーゼクスさま。以前貴方が言っていたこと、して見せます。俺は部長のおっぱいに譲渡をして見せる!」
「ああ、結果を楽しみにして痛い痛い痛いよグレイフィア」
「サーゼクス様。あなたは何をしているのですか何を」
「お兄様?」
阿呆な魔王が従者と妹に説教されそうな中、イッセーはポリポリと頭を掻きながら、しかしはっきりと答える。
「いや。俺本当に馬鹿なんでよくわからないですけど、でも、これだけは断言できます」
イッセーはこぶしを握り締めると、部屋中を見渡して断言した。
「俺のこの力は、リアスさまとレヴィアさん。そして仲間たちのために使います! それだけは絶対です!」
「・・・うう、イッセーくんがこんなかっこいいことをこんなところで堂々と言えるようになるなんて」
レヴィアが感動のあまりに涙すら流すぐらい、今のイッセーは確かに格好良かった。
「これが、ハーレムを作れる男・・・っ」
「俺たちは、この領域にまで至らなければならないのか!!」
松田と元浜は恐れおののくが、しかしまあ、それはともかく。
「なら、会議も大体終了だな」
アザゼルが言う通り、この会談は最高の結末へと至り―
―その瞬間、時が止まった。