ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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ついにここまでやってきた!


停止教室のヴァンパイア

 

 時は移り変わり季節は夏。

 

 レヴィア達は風紀委員としての仕事を熱意をもってしているが、レヴィアの性格からそれ以外にもいろいろな行動をとっている。

 

 その一つとして、今ここにプール掃除が行われていた。

 

「掃除終了! 実は僕、制服の下に水着着てたんだよねー!!」

 

「レヴィアさん、子供じゃないんですから・・・」

 

 一番乗りでプールに飛び込もうとするレヴィアを、蘭がしっかりと取り押さえる。

 

 そして、そのまま準備体操を強制した。

 

「いいな、プール」

 

「ああ、水着・・・いい」

 

「夏・・・最高!!」

 

 そしていつもの三人組は、鼻血を流して興奮する。

 

 そして、そのまま小猫に蹴り飛ばされてプールに墜落した。

 

「・・・いいから着替えてください変態先輩衆」

 

「小猫ー? まだ準備運動も終えてないんだからその辺にしておきなさい」

 

「あらあら。小猫ちゃん手加減を忘れてはいけませんわよー?」

 

 プールに撃沈する音に気が付いたリアスと朱乃が、そういってやんわりと注意する。

 

 そう、いまグレモリー眷属とレヴィアタン眷属は、学校のプールを独占していた。

 

 理由は単純だ、ソーナから学校のプール清掃を依頼されたのだ。その報酬として真っ先の使用が許可されたから。

 

 元々オカルト研究部に対する依頼だったが、割と楽しいことが大好きなレヴィアがそれを察知して、眷属を引き連れて乗り込んできたのだ。

 

「しっかし、イッセー君も大変だね。アザゼルが接触してきたんだっけ?」

 

 ひと泳ぎした体を休めながら、レヴィアはリアスにそう尋ねる。

 

 ・・・少し前からイッセーに羽振りのいいお得意様ができていたのだが、それが何とアザゼルだというのだ。

 

 当然とんでもない事態である。

 

 ちなみにいうと、三大勢力の間で初の会談が行われようとしている時期である。

 

 どうやらアザゼルという男、トラブルメーカーの素質があるらしい。

 

「まったくだわ! しかもその会談がこの駒王学園で行われるらしいし・・・」

 

 リアスもさすがに困った顔をしている。

 

 たしかに、魔王の縁者とエクスカリバーと堕天使の幹部が集まった戦闘なんて、最近はめっきりなかった。

 

 千冬のおかげで規模こそそこまで大きくはならなかったものの、質や深度という意味ならば、ここ百年ぐらいでは五指に入るレベルではないだろうか。

 

 それも、二勢力の対立ではなく三勢力の複雑に絡み合ったいさかいだ。影響力は非常に大きい。

 

 そして、その舞台となったのがこの駒王学園。そういう意味では場所としては非常に箔がついているといってもいいだろう。

 

「ソーナのところと同じように、あなたたちにも参加が命じられているのでしょう? どうするの?」

 

「うーん。実はすごい嫌なんだよね」

 

 本当に嫌そうな顔で、レヴィアは頭を抱える。

 

「そんな会談に出席したら、その結果が「真なる魔王レヴィアタン」の意向が入っていることになってしまう。それに民衆がつられたりしたらどうしたものかと」

 

「少し気にしすぎな気もするけれど、つまり不参加のつもりなの?」

 

 できないことはないだろう。レヴィアに与えられた影響力は非常に莫大であり、そして今回の件はリアスたちがいれば事足りるレベルだ。そしてレヴィアはふるうのを好まないだけで、莫大な権力を保有している。

 

「まあ、近くで待機するつもりではあるけどね。だけど参加することになるんだろうなぁ」

 

「貴方も相変わらずねぇ」

 

 そう困り顔で言われながら、レヴィアはプールの方を見る。

 

「・・・よし、そのまま足をしっかり動かして」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「よし! うまいじゃないかアーシア!」

 

「はい、ありがとうわぷっ!?」

 

 泳げない小猫とアーシアを、一夏とイッセーが指導していた。

 

「うんうん。ほほえましい光景だねぇ」

 

「まったくねえ」

 

 ほんわかしながら、二人はその光景を満喫していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてプールは鮮血に染まり始める。

 

「うぉおおおお! 許さんぞイッセー! お前だけリアス先輩にサンオイルぬるなんぞ!!」

 

「うるせえ元浜! 俺が塗るように言われたんだから問題ねえだろ!!」

 

「そうはいかねえ! 俺たちだって塗りたいんだよ!!」

 

 具体的には変態三人組によるサンオイル塗争奪戦が勃発していた。

 

「あの、私はイッセーに塗ってほしいの!!」

 

 と、リアスが怒ったことですぐに収束したが。

 

「じゃあ、松田君と元浜君でどちらが僕に塗るか勝負ってことだね?」

 

 そしてレヴィアがイランことを言ったことで再び返り血の舞う激闘が勃発した。

 

「・・・何やってるんですか、あの人は」

 

 その光景に、蘭はため息をついた。

 

 しかし、すぐに自分も失敗をしたことに気が付いた。

 

 プールに入る前にすでに蘭は日焼け止めを塗っていた。

 

 つまり、一夏に塗ってもらうことができないという事実だ。

 

(・・・何やってるのよ私のバカ!! って違う! こんなところでそんなことしたらほかの男の視線がいっぱいぶつかるから無理に決まってるし!!)

 

 ぶんぶん首を振りながら、蘭はすぐに正気を取り戻す。

 

 そうだ、そんなことになれば松田と元浜はもちろんイッセーまでもが熱視線を向けてくることだろう。

 

 そんな状況下でイッセーに塗らせようとするリアスは剛の者だ。レヴィア? 彼女は平常運転だから特に気にする必要はかけらもない。

 

「落ち着いて、蘭。ほら、水呑んで」

 

「あ、ありがとう小猫ちゃん。・・・んぐ」

 

 パニックを起こしていることを察した小猫からもらった水を飲んで、ようやく蘭は人心地ついた。

 

「あ、小猫ちゃん。アーシア先輩やゼノヴィア先輩は?」

 

「アーシア先輩は疲れて眠ってる。ゼノヴィア先輩は・・・まだ着替えてるみたい」

 

 その言葉に、蘭は小さく首を傾げた。

 

 水着自体はそう着にくいものでもないと思うのだが、なぜそんなに時間がかかっているのだろう?

 

 そんなことを思いながら視線をそらしてその姿を探すと―

 

「では一夏くん。私の背中にサンオイルを塗ってくださいません?」

 

「え!? いや、そういうのは女子に頼んだ方がいいと思うんですけど・・・」

 

「何やってるんですか朱乃さんに一夏さん」

 

 ある意味予想できた光景が出てきて、蘭はため息をついた。

 

「朱乃さん? ここでそんなことをすると、一夏さん以外にも見られますよ? あと松田先輩か元浜先輩が一夏さんに襲い掛かります」

 

「あらあら。少しぐらいなら構いませんわ。其れよりも、一夏くんにサンオイルを塗ってもらうということの方が大事ですわよ」

 

 一瞬痴女かと思ってしまった蘭は悪くない。

 

「・・・一夏さん。とりあえず塗ってあげてください。たぶんそうでもしないと話が進まないんで」

 

「蘭!?」

 

 まさかOKが出るとは思わず、一夏は信じられないようなものを見た。

 

 いつもなら速攻で説教が飛んできそうなのだが、いったいこれはどういうことか。

 

「・・・どうせ、いつかこんなことになると思ってました。悪魔の世界じゃそういうものらしいですし」

 

 不機嫌そうにしながらも、しかし蘭は特にきつくあたりはしない。

 

 しかし、その眼前に勢いよく指を突き付けた。

 

「でも! あとで一緒にお茶してください!! そうじゃないと許しませんからね!!」

 

「あらあら、それなら私も後でデートに・・・」

 

「いや、ちょっと待って!」

 

 どんどん勝手に予定が埋まっていくことに、一夏は何とか軌道を修正しようと試みる。

 

 こういう時こそ男がビシリと決めねばならない、それが男というものだろう。

 

 ・・・なんか全然決めれる気がしないが、しかしそれでも決めようとして―

 

「イッセー、これが終わったら私と子供を作らないか?」

 

 大きな声ですごいことが発生した。

 

 むろん、全員の視線が集まった。

 

 イッセーを真正面から見据えて、ゼノヴィアがまっすぐな目でそんなことを言っていた。

 

「・・・コドモヲツクルって外国語があるんだな。そういうことあるある」

 

「一夏さんぼけないでください。私たちは悪魔です」

 

 現実から逃避しようとする一夏に、蘭が残酷にも引き戻す。

 

「あらあら。ゼノヴィアちゃんもイッセーくん狙いですのね?」

 

「いや、だからってなんでここでそんなこと言うんですか!」

 

 朱乃はターゲットが一夏で無いせいか、非常に余裕だった。

 

「「「・・・イッセー?」」」

 

 そして、殺意が三つ。

 

 男の嫉妬二つと女の嫉妬が一つ。明確に恐怖を生み出す声色だった。

 

「す、ストップ! これ別にイッセー先輩の責任じゃないですから!!」

 

 蘭は慌てて割って入る。

 

 このままだとイッセーが死なない程度にひどい目にあってしまう。

 

「蘭ちゃん! 天使に見える!!」

 

「悪魔です! ゼノヴィア先輩、どういうことか説明してください!!」

 

「ん? ああ、日本では子供を作ることを子作りというのだろう? それをしてもらいたいと―」

 

「何がどうしてそうなったかを言ってるんですぅううううう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れました。心の底から疲れました」

 

「な、なんかマジでごめん」

 

 プールも終了して帰り道、剣道場に寄って帰る予定の一夏と別れた蘭は、イッセーと一緒に帰り道を歩いていた。

 

「・・・女の幸せを知りたいから子供を作りたい、か」

 

 その気持ちはわからなくもないが、しかし一足飛びどころか十足ぐらい飛んでいる気がする。

 

「俺、受け入れた方がよかったんだろうか?」

 

「駄目だと思いますよ? あれ、子供を作りたいだけで恋愛感情とかないですし」

 

 さらりと靡きかけてるイッセーに、蘭はしっかり釘をさす。

 

「そんなことで本当に子どもができたら、リアス先輩は怒るしアーシア先輩は絶対泣きます。断言してもいいです」

 

「マジか! くっそう、可愛いおもちゃやお兄さんがそんなことになったら落ち込むか!」

 

 イッセーはそういって悔しがるが、蘭はそこに引っかかりを覚える。

 

 正直に言えば、リアスもアーシアも突飛な方向に行っているが(裸エプロンとか冷静に考えるとツッコミどころしかない。桐生は説教されるべきである)、しかし誰が見ても分かるぐらい好意を示している。

 

 これで気づかないのは一夏ぐらいだ。仮にも本気でハーレムを目指しているのなら、それに気づかないとさすがにまずい。

 

「あの、イッセー先輩ってハーレム作りたいんですよね?」

 

「そりゃもちろん! 美少女一杯夢いっぱい! そんなハーレムを作りたくてたまらないね!!」

 

 と、元気よくイッセーは言い切るが、すぐに少し暗い表情を浮かべる。

 

「だけど、レイナーレのことあったからさ? まあ、ちょっと時間かけてもいいかな―とは思ってるんだよ」

 

 その言葉に、蘭は納得した。

 

 確かにあんなことがあれば少しぐらい距離をおいてもおかしくないだろう。普通に女嫌いになってもおかしくないような出来事だった。

 

 これは、もしかしたら今の環境は逆に毒なのではないだろうか? そんな不安が脳裏をよぎる。

 

「あの、イッセー先輩―」

 

 自覚があるかどうか位は確かめた方がいいと思い、蘭は声を上げ―

 

「・・・やあ、いい学校だね」

 

 その言葉を遮るように、声が響いた。

 

 振り向いた二人の目には、銀の髪をもった、美形の少年がいた。

 

 だが、なぜか蘭は嫌な予感が収まらない。

 

「・・・イッセー先輩、下がってください」

 

 蘭はいつでも戦えるように腰を軽く落としながら、その少年をにらみつける。

 

 何かが違う。何かがおかしい。

 

 いったい、彼はなんだ?

 

「自己紹介がまだだったな。俺はヴァーリ、白龍皇だ」

 

 ・・・その言葉に、蘭はイッセーを引っ張って一気に二十メートルは後方に跳躍した。

 

「・・・アザゼル総督の時といい、堕天使側は悪魔に喧嘩売ってるの!?」

 

「ら、蘭ちゃん・・・首、しまってる・・・っ」

 

「そこまで警戒することないだろう? 俺もまだこんなところで戦闘する気はないさ」

 

 白龍皇ヴァーリはそういうが、だからといって警戒を無視していいようなことではない。

 

 とはいえ、蘭が本気で戦闘をすれば間違いなく派手なことになる。

 

 そういう意味ではどうしようもない状況下なのだが―

 

「そこまでだ」

 

「―何のつもりだ、白龍皇」

 

 ―そのヴァーリの首元に、聖魔剣とデュランダルが突き付けられた。

 

 普通なら確実に死を覚悟するその状況で、しかしヴァーリは動じない。

 

「辞めておくといい。手が震えてるぞ?」

 

 そう余裕を見せたまま告げると、しかしどこか評価するような表情を浮かべる。

 

「実力差がわかるのは優秀な証拠だ。生き延びることができれば、君たちはきっと強くなれるさ」

 

 そんな傲慢ともいえる強者の余裕を見せたヴァーリはしかし次の瞬間視線を別の方向へとむける。

 

「そういう悪戯をこういうデリケートな時期にするのはやめてもらえるかな?」

 

 そこには、鋭い視線を向けるレヴィアがいた。

 

「それ以上のいたずらは、堕天使側に公式に抗議させてもらう。・・・とっとと帰るといい」

 

「ふむ、なかなか言ってくれるねセーラ・レヴィアタン」

 

 ヴァーリは笑みすら浮かべると、真正面からその視線を受け止める。

 

 数秒間、沈黙が続いた。

 

「・・・やめておこう。俺も弱い者いじめは好きじゃない」

 

 そういうとともに、ヴァーリは踵を返す。

 

「過去、二天龍にかかわったものは碌な死に方をしなかったらしい。君たちはどうなるのかな?」

 

「決まってるじゃないか」

 

 レヴィアは即座に返答する。

 

「前代未聞の碌な死に方をした二天龍の関係者になるのさ」

 

「・・・面白いな、君は」

 

 その言葉とともに、ヴァーリは歩き去っていく。

 

 その後ろ姿を見ながら、レヴィアはけげんな顔をして考え込んでいた。

 

「あの髪、まさか・・・?」

 

レヴィアは一瞬だけ脳裏によぎる影があったが、すぐにそれを否定した。

 

 まさか、あの悪魔の家系が堕天使に与するとは思えなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・この判断が甘かったことを、レヴィアはのちに痛感することになる。

 


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