ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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月下校庭のエクスカリバー 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、奴は見逃してよかったんだな?」

 

 ISを解除しながら、千冬は念のためにレヴィアに確認する。

 

 どうも目の前にいる少年と因縁があるようだが、果たしてこの場で切らなくてよかったのだろうか。そういう疑問だった。

 

 それに対して、苦笑が返答として返される。

 

「仕方がないよ。ここでアルビオンとブリュンヒルデの殺し合いが勃発したらそれこそ駒王町が滅びるって。僕の一存で神の子を見張るものと戦争するわけにもいかないしね」

 

 肩をすくめて答えながら、レヴィアはあきれ半分で回りを見る。

 

 校庭はクレーターや血しぶきだらけで、とてもこのままにしていいような状況ではない。

 

 今からこれを直さなければならないが、しかし大仕事になりそうだ。

 

「とりあえずご苦労様、四人とも。大した怪我がなくて何よりだよ」

 

「はい。コカビエルとかいくらなんでも危険すぎるので心臓が止まるかと思いました」

 

 レヴィアのいたわりの言葉に、気が抜けたのか蘭は腰を落としながら返答する。

 

「・・・死ぬかと思った。死ぬかと思った」

 

「こ、これがハーレムを作るための試練なのかよ。ハーレムって、大変なんだな」

 

 元浜と松田もげっそりとした表情で肩を落とす。

 

 死人が出ない競技でハーレムを作れるかと思ったら、悪魔になってから大して日がたってないのにこの凄惨な殺し合いだ。さすがに精神的な負担が大きいだろう。

 

「・・・千冬姉」

 

 そして、一夏は千冬の前に立つ。

 

「情けないところ見せちゃったな。・・・次に会うときは、強くなったところを見せるつもりだったのに」

 

 一夏は申し訳ないような顔をして、静かにうつむく。

 

 そんな一夏の頭に、千冬は力強く手を置いた。

 

「馬鹿者」

 

 そして、即座に力が込められた。

 

「痛い痛い痛い痛い!? マジで痛い!!」

 

「戯けが未熟者が。たかが一年足らずで見違えるほどお前は才能豊かというわけでもないだろう。そんな顔をするな馬鹿者」

 

 容赦なくアイアンクローが放たれ、一夏は絶叫する。

 

「こ、怖い。スパルタだこの人・・・」

 

「ブリュンヒルデって怖い逸話のヴァルキリーだけど、その名にたがわぬ怖さだ・・・」

 

「IS学園でも鬼教師だったらしいですからね・・・」

 

 蘭たちが同情の視線を向ける中、ようやく解放された一夏はそのままへたり込んだ。

 

「いってぇ・・・。いくら情けないからって、アイアンクローはないんじゃないか?」

 

「貴様が情けない表情を浮かべるからだ」

 

 そう一太刀で切り捨ててから、千冬はやっと表情を変えた。

 

「・・・まあ、あれだけの化け物を相手によく立ち向かう意志を示せた。成長は認めてやる」

 

「・・・そっか」

 

「見るといい、あれがブラコンのツンデレというものぐへぁ!?」

 

 どこから取り出したのか、千冬は出席簿をもってして余計なことを言ったレヴィアの後頭部に一撃を叩き込んだ。

 

 煙すら吹いて倒れるレヴィアに、全員が一歩後ろに下がる。

 

 今何か喋れば、あれの二の舞になるのは自分だという確信があった。

 

「まあいい。しかし、あの少年も厄介な輩に目をつけられたものだ」

 

 そういいながら、千冬は視線をイッセー達に向ける。

 

 なぜか尻たたきが発生しているが、しかしその光景は微笑ましい。

 

「兵藤一誠といったか。・・・あの状況であそこまで啖呵を切れるとは器が大きいのかただの阿呆なのか。どちらにしろ今後が気になる相手だな」

 

「め、珍しいですね。千冬さんがそこまで気に掛けるだなんて」

 

 後頭部をさすりながら、レヴィアは起き上がりながらそう聞いてみる。

 

 割と恐れを知らないその姿に眷属たちが一周回った感じの敬意を向ける中、千冬は目を閉じながら苦笑を浮かべる。

 

「大したことではない。だが、あの状況下で膝すら震わさずに啖呵を切れるのは、実力者かただの阿呆が大半。だが、中にはいるんだよ」

 

 その瞼の裏に映っている光景が何なのか、それは一夏達にはわからない。

 

 だが、それはきっと―

 

「生き残れば将来大物になる、そういう器がな」

 

 ―きっと、明るいものだと信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・巡回がてら遊びに来たよリアスちゃん!」

 

 そういいながら、レヴィアは眷属たちとともにオカルト研究部室に突入した。

 

 と、そこに最近見たばかりの人の姿を発見する。

 

「ゼノヴィアにセシリア? なんでまだいるんだ?」

 

 一夏の言う通り、二人はすでに任務を終えたはずである。

 

 本来なら、悪魔の縄張りであるここにいるわけがないのだが・・・。

 

「私の場合はこういうことだ」

 

 そういうなり、ゼノヴィアは背中から悪魔の翼をはやしてのけた。

 

「・・・え?」

 

「ああ、ゼノヴィアの奴。神が死んでたからってヤケクソで部長の眷属悪魔になったらしいんだ」

 

 唖然とする蘭の前で、イッセーはあきれの表情を浮かべながらそう補足する。

 

「マジか。そんなやぶれかぶれで悪魔になっていいものなのか?」

 

「・・・元浜先輩は人のこと言えません」

 

 心底あきれた元浜に、小猫が辛辣なツッコミを入れる。

 

 出世すればハーレムが作れるだなんていううたい文句で即座に転生を決意した松田や元浜に人のことを言う資格はないだろう。

 

 だが、そんな小猫の前で松田は真剣な表情を浮かべる。

 

「小猫ちゃん。おっぱいは命より重いんだぞ!」

 

「では今から死んでください」

 

「え? ちょ・・・あ、マジでごめんぎゃぁあああああああ!?」

 

 余計なことを言った松田の悲鳴をBGMに、レヴィアは苦笑を浮かべてしまう。

 

 貧乳を気にしている少女の前で、胸の話は禁句なのである。

 

「ま、まあそれはわかったけど、セシリアちゃんはなんでまた?」

 

「私は今後の事情を説明するために残りましたわ。ゼノヴィアさんは細かい話を聞いていないもので」

 

 そう告げるとともに、セシリアは簡単に事情を説明する。

 

 エクスカリバーは合一化されたのをいいことに、そのままイリナが持ち帰ることになった。これはもともとそういう任務だったので好都合ともいえるだろう。

 

 そして、教会側は一応という形だったが、聖剣計画の失態について謝罪。同時に、堕天使側の動きが不透明であるとことを理由に苦肉の策ということを隠しもしないが悪魔との連携をとる方針を固めているそうだ。

 

「へえ。教会にしては柔軟すぎる対応だね」

 

「そこまで言うこと? 堕天使が怪しいんだから当然警戒して連絡を取ることぐらいありそうだけど?」

 

 レヴィアの感心する理由がわからないリアスだったが、そんなリアスにレヴィアは逆にあきれてしまう。

 

「あのねえリアスちゃん。教会にとって滅ぼす対象なのは堕天使も悪魔も変わらない。そんな相手と連絡を取り合うだなんてまともな聖職者なら業腹だよ」

 

「だろうね。教会側も今回の事件とその動機を警戒しているということだよ」

 

 そういいながら、ゼノヴィアは悪魔の翼をしまうとため息をついた。

 

「しかし、これで私の背信の徒。ああ、主よお許しくだはうあっ!?」

 

「・・・アーシア先輩みたいなことしてますね」

 

 悪魔になったばかりですぐに神に祈りはじめ、そして天罰を喰らうその姿にアーシアを思い出して、蘭はため息をつく。

 

 いまだにアーシアも直っていないが、そろそろ本当に直した方がいいのではないかと思ってしまう。

 

「まあ、そういうわけですから私は帰りますわ。・・・教会から追放された以上、オルコットの復興のために今よりもっと忙しくなりますもの」

 

 セシリアはそういいながらソファーから立ち上がる。

 

 その言葉に、全員の表情が痛みを浮かべた。

 

「おいおいセシリアちゃん。それマジかよ?」

 

「本当だ。その・・・私が教会をやめるときに、主の死を知っていることを伝えたのが原因で・・・その・・・」

 

「「「お前のせいかよ!!」」」

 

 変態三人組からの総ツッコミがゼノヴィアに向かって放たれた。

 

 完全にとばっちりといえばとばっちりである。これは完璧にゼノヴィアが悪い。

 

「いや、その、私は別にセシリアが知っていることまではいわなかったんだぞ? イリナが知らないということは伝えたが」

 

「ゼノヴィアちゃん? それ、知らないのはイリナちゃんだけだって言ってるようなものだからね?」

 

 レヴィアがため息をつきながらどうしたものかと考える。

 

 さすがにこれは可愛そうだ。さて、どうしたものか。

 

 さてどうしたものかと考えて、レヴィアは良いことを思いついて手を打った。

 

「そうだ。セシリアちゃん暇だったら僕に雇われてくれないかな?」

 

「・・・雇う? 眷属悪魔になるのではなくて?」

 

 微妙なニュアンスにセシリアが首をかしげるが、レヴィアとしてもこのままいきなり眷属悪魔に使用などとは考えない。

 

「ほら、セシリアちゃんは一応信徒なわけだし、いきなり悪魔ってのは抵抗あると思ってね。できれば、一人味方がほしかったんだよ」

 

 そうレヴィアは前置きすると、真剣な表情を見せる。

 

「・・・一年とちょっと前に起きたIS学園の襲撃事件。千冬さんの目撃証言だけだから確証はないが、その襲撃者の中に神滅具の一つである黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の使い手がいたらしい」

 

『!?』

 

 その言葉に、一夏と蘭を除く全員が驚愕する。

 

 IS学園の襲撃事件は、表の世界を揺るがす第三次世界大戦の火ぶたを切った事件だ。その影響力は計り知れない。

 

 それに、神滅具の使い手がいたなどと驚愕の事態以外の何物でもない。

 

 むろん、神滅具の持ち主が必ずしも異能社会の中から見つかるわけではない。それはイッセーの場合でも証明されている。

 

 だが、人類統一同盟の兵士として使い手が参加しているとなればそれは緊急事態だ。

 

「僕から話を聞いた千冬さんがそういう感想を持っているだけだから、冥界はまだ本腰を入れて動いていない。あくまで僕が千冬さんに個人的に出資して調べているだけだ。だけど、いずれ本格的に動くべきだと思っている」

 

 聖槍の存在が人類統一同盟に知られたのならば、遅かれ早かれ異能の研究が盛んになることは間違いないだろう。

 

 そうなれば、聖槍の大本である聖書の教えの天使はもちろん、悪魔や堕天使も存在が公表されるようなものだ。

 

 そして、あらゆる神話と妖怪たちの存在が認識される日も近いだろう。

 

 もしそうなれば、この世界はさらに混沌とした状況へと進むことになる。

 

「正直千冬さんと関係者だけでは動きが大変でね。できれば腕の立つ実力者がほしかったんだよ」

 

 そうレヴィアはいい、そしてセシリアはそれに対して少しの間沈黙する。

 

 だが、その沈黙はわずかだった。

 

「オルコット家復興のため、手段を選んでいる余裕はありませんか。それに・・・」

 

 セシリアの視線がイッセーに向く。

 

 それはイッセー自身が気づくよりも早く戻されたが、しかしセシリアはそれで十分だった。

 

「それに立ち向かい続けていれば、彼に届くかもしれませんわね」

 

「・・・一応言っておくけど、彼、一時期覗きの常習犯だからね?」

 

 レヴィアは親切心で一応警告をしておく。

 

 とたんに、セシリアの顔は怒りで真っ赤に燃え上がった。

 

「なんですってぇ!? イッセーさん! 貴方そんな不埒なことをしていたんですの!?」

 

「そ、そこに楽園があったからです! それに今はやってないから!! あと松田と元浜もやってたから!!」

 

 一瞬でスケープゴートまで用意しながら、イッセーは訳も分からず悲鳴を上げる。

 

 確かに覗きは悪いことだが、いまいきなりそこまで怒られるほどではないような気がする。

 

「こ、このセシリア・オルコットがいる限り、そんなことは許しませんわよ! 今度そのようなことをいたしましたら、スターダスト・ティアーズでハチの巣にしますからね!?」

 

「は、はぃいいい! なんかよくわからないけどごめんなさい!!」

 

 何やらよくわからないが、怒った女の子には逆らわない方がいいということだけはわかっている。

 

 わかっているが、しかしまったくわかってないのだ。

 

 なんで、松田と元浜はスルーしてイッセーだけ怒られているのかということが。

 

「・・・なあ、これってもしかして」

 

「ああ、かっこよかったからねぇ、あの時のイッセー君」

 

 顔から色が消えうせている元浜に、レヴィアは確信を持ってそう告げる。

 

 あの時のイッセーは、途中でとても駄目になったがとても格好良かった。間違いなく格好良かった。

 

 あんなものを見せられれば、割と落ちる女子は多いだろう。

 

 しかもレヴィア達は知らないが、セシリアは強い男を求めている。

 

 コカビエルという圧倒的な強者に全員が程度はともかく臆する中、全く臆さず文句を言ってののけたイッセーに強さを感じてもおかしくはなかった。

 

「ああ、確かにあれは格好良かったからなぁ」

 

「い、一夏さんもかっこいいですから! ですから!!」

 

「ぐぬぬ! イッセーめぇえええ!!!」

 

 同じ男として敬意を見せる一夏をフォローする蘭に、その隣で嫉妬の涙を流す松田。

 

 そしてリアスやアーシアも嫉妬の炎を見せてイッセーをにらんでいた。

 

 何はともあれ季節も夏。

 

 恋も戦いも白熱していく一方であった。

 


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