ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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月下校庭のエクスカリバー 9

 

「・・・イッセー先輩たちが、エクスカリバーを破壊するために行動してた!?」

 

 トラブルが発生したということで連絡を受けた蘭が、唖然とする。

 

 一歩間違えれば戦争勃発というデリケートな時にこんな真似である。むしろ聖剣使いたちがよく受け入れたと感心する。

 

「それで、イッセーたちは大丈夫だったんですか?」

 

「はい。ですが、祐斗くんは先走って行方が知れないそうですわ」

 

 そうため息をつきながらの朱乃の説明に、一夏も蘭も不安げな表情を浮かべる。

 

「・・・せめてレヴィアの準備が終わるまで待っててくれればよかったのに。いや、気持ちはわかるけどさ」

 

 一夏は拳を握っていろいろとたまったものを押し込める。

 

 ぶつけないのは、自分もまあ似たようなことをするタイプだということを自覚しているからだ。

 

 それがわかっているからか、蘭もすぐに苦笑を浮かべてしまう。

 

「まあ、体当たりでどうにかするのがイッセー先輩ですから」

 

「あらあら。よくわかってますのね?」

 

「・・・一応言っておきますけど、私は一夏さん一筋ですからね?」

 

 数秒間、朱乃と蘭の間で火花が散ったが、一夏は全く気付かない。

 

 そういう空気を読む能力がないため仕方がないが、しかしこれでよく生き残っていたものである。

 

「それで、イッセー達はどうなったんですか?」

 

「・・・リアスにお尻たたき千回の刑にされてますわ」

 

 Sの気配を漂わせる朱乃の笑顔とともに放たれた言葉に一夏はイッセーの冥福を祈った。

 

 一見するときゃしゃな外見のリアスだが、魔力を併用することで下手な格闘家が裸足で逃げ出すほどの怪力を発揮することができるのが上級悪魔だ。間違いなく相当の破壊力になるだろう。

 

 椅子に座れるのだろうかという感想を抱きながら、しかし一夏は不安に思う。

 

 木場がいつもの冷静さを欠いているのは見ていてよくわかっていた。

 

 自分だって、大切な姉が殺されるようなことがあれば、関係する者に対して冷静ではいられない。むしろ冷静でいようなんて考えない。だから止めようとはしなかった。

 

 だが、少し落ち着いて考えすぎていたかもしれない。

 

 レヴィアの教育を受けた結果いろいろと落ち着いていると自覚している一夏だったが、もう少し昔に戻るべきだったのかもしれないと考え直しそうになる。

 

「・・・朱乃さん。俺達、木場を捜しに行っていいですか?」

 

「駄目ですわ」

 

 速攻で断られた。

 

「探すも何も場所がわかりませんもの。それは使い魔でちゃんと探索していますので、一夏くんたちは何かあったときのために英気を養ってください」

 

「・・・でも!」

 

 相手がコカビエルクラスの堕天使なら、すでに敗北して殺されている可能性だってある。

 

 そう思うといてもたってもいられなくなるが、一夏はすぐに気が付いた。

 

 ・・・朱乃の手もわずかだが震えている。

 

 彼女もつらいが我慢している。その事実に気が付いて、一夏はぐっとこらえた。

 

 自分はしょせん戦うことぐらいしか能がない。そんな自分が人捜しなんてできるとも思えない。

 

 ISのハイパーセンサーを使えばだいぶできるだろうが、街中で堂々と使うわけにもいかない能力だ。

 

「・・・わかりました」

 

 一夏は、深呼吸一つしてそう告げる。

 

 だが―

 

「―見つかったらすぐに教えてください。たぶん、俺が一番早くつけるはずですから」

 

 ―それだけは譲れない。

 

「アイツも俺の友達ですから」

 

 その一夏の姿を見て、朱乃はほおを赤くして蘭はそれを見てため息をついた。

 

「・・・一夏さん、やっぱりあなたは上級悪魔を目指すべきです。レヴィアさんに甘えてちゃいけませんよ?」

 

「蘭!?」

 

 もう何もかもあきらめた人間のそれに、一夏は理不尽さを感じて絶叫する。

 

「あらあら。蘭ちゃんは悪魔なんですから、悪魔のルールには従ってもらわないと困りますわ?」

 

「わかってます! わかってますけど、乙女心は複雑なんです!!」

 

 ニコニコ笑顔で朱乃が蘭をからかっていたが、しかしすぐに事態は急変する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー!」

 

「織斑!!」

 

 息を切らせて駆け付けた一夏に、イッセーは声をかけるがその表情は硬い。

 

「コカビエルが宣戦布告したって本当か!?」

 

 そう、この緊急事態はコカビエルの宣戦布告だった。

 

 ・・・リアスが管理している駒王学園を中心として暴れ回る。コカビエルはイッセーの家にわざわざ来た上で宣戦布告したのだ。

 

 その目的は戦争再開。くしくもファルビウムやレヴィアが危惧した展開通りだった。

 

 エクスカリバーを盗み出したのは、天界を統治する熾天使であるミカエルを引きずり出すため。それを魔王サーゼクス・ルシファーの実妹が抑え、魔王レヴィアタンにつらなるレヴィアとソーナがいるこの駒王町で行うことで、連鎖反応で戦争を引き起こす。くわえていえばコカビエルが神の子を見張るもの(グリゴリ)の一員である以上堕天使も必然的に巻き込まれる。

 

 少なくとも、今開戦を求めるデモ運動が起こっている悪魔側が被害を受ければ間違いなく戦争が再開されるだろう。

 

 状況は、あまりにも非常時だった。

 

「織斑くん、レヴィアさんは?」

 

「・・・何とかなったからすぐに来るって言ってるけど、どれだけ急いでも三十分はかかるって」

 

 リアスの質問に答えながら、一夏はどうしたものかと考える。

 

 ()()が来てくれれば勝算はあるが、しかしそれまで自分たちが持ちこたえられるかどうかが問題だ。

 

 コカビエルはそれだけの相手だろう。少なく見積もっても、最上級悪魔クラスは想定するべき敵なのだ。

 

「・・・リアス。今、私達の眷属が学園全体を大規模な結界で覆っています」

 

「と、とりあえず当分は大丈夫だと思います」

 

 生徒会長にしてシトリー家の次期当主であるソーナが、なぜか尻をさすりながらの匙とともに声をかける。

 

 展開されている結界は見事なものだが、しかし相手はコカビエルだ。

 

「・・・どれぐらい持つかしら?」

 

「正直ですが、コカビエルが本気で行動を起こせば数分持てばいい方でしょうね」

 

 リアスにそう答えるソーナは、普段通りの表情のようでいて緊張の色が濃い。

 

「実際、彼が全力を出せばたかが地方都市であるこの街を消滅させることは容易でしょう。そしてコカビエルたちはその準備をしています」

 

 さらに最悪の情報が飛び出てきて、全員の表情がさらにこわばった。

 

「ふざけやがって・・・っ!」

 

 奥歯が砕けるかもしれないほどかみしめながら、一夏は義憤に燃える。

 

 これだけの大被害を起こす事態を、大義すらなく起こそうとする。そんな暴虐な在り方に怒りを覚える。

 

「ああ、あの野郎許せねえ!」

 

 そしてイッセーも怒りに燃えるが、こちらはもっとシンプルだ。

 

 単純に、自分の住んでいる街と平和を乱そうとすることに対する怒り。

 

 そして、それゆえにその炎は強く燃え上がる。

 

「しかし、そんな化け物俺たちでどうにかできるのか・・・?」

 

「お、おう! レヴィアさんの当ても三十分かかるんだろ? 俺たちでそこまで持ちこたえられるのか?」

 

 松田と元浜も気合を入れようとしているが、しかし命がけの実戦を経験していないからか、少し及び腰だった。

 

 しかし当然といえば当然だろう。

 

 悪魔になったと思ったら、いきなり敵勢力の最強格と一戦を交えるのである。むしろ気合を入れているイッセーの方がおかしいといえる。

 

 それがわかってるからか、リアスは微笑を浮かべると手を置いた。

 

「・・・大丈夫よ。ここには赤龍帝もいるのよ? それにレヴィアの手回しでベルゼブブさまとアスモデウスさまの勅命を受けた部隊を派遣される予定だったもの」

 

「ええ、そちらに関しても40分もあれば到着するそうです。レヴィアにはお礼を言わねばなりませんね」

 

 そういうと、二人はほっと息を吐く。

 

 実の兄や姉に迷惑をかけるのは心が痛む。そういう意味ではレヴィアが責任を負う形のこれは正直少し気が楽だった。

 

 あとで、何かお礼をしよう。二人はそう心に決め、そしてゆえに決意する。

 

 なにせ、お礼をするためには生き残らなければならないのだから。

 

「一時間は持たせて見せます。リアス、お願いしましたよ」

 

「ええ。・・・みんな! この戦いはこれまでとは違う死戦になるわ! だけど、必ず生きて帰るわよ!!」

 

『はい!』

 

 緊張感を浮かべながら、グレモリー眷属は気合を入れて学園へと足を踏み入れようとする。

 

「・・・それでは、コカビエルの相手は私がいたしますわ」

 

 そこに、セシリアはISをすでに纏った状態で待ち構えていた。

 

「ええ、悔しいけど、私たちがコカビエルに一撃入れるにはイッセーの協力が必要不可欠。・・・誰かが時間を稼いでくれないとそれも難しいわ」

 

「わかっています。・・・イリナさんを痛めつけてくれたお礼はきちんと致しますわ」

 

 そう、すでにイリナの戦闘は不可能だ。

 

 コカビエルやフリードの前に敗れ、その消耗は甚大。加えて得物である擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)も奪われた。

 

 彼女はもう戦えない。そして、木場とゼノヴィアの行方もいまだ知れない。もしかしたら、死んでいる可能性すらある。

 

 だが、それでも決して負けるわけにはいかない戦いだった。

 

「・・・セシリアだっけ? 悪いが、俺もコカビエルの相手に回るからな」

 

「すいません。私もそっちに回らせてもらいます」

 

 一夏と蘭もセシリアに並ぶ。

 

 切り札を使用したとして勝てる可能性は高くないだろう。だが、戦うことはできるはずだ。

 

 レヴィアは三十分で来るといった。なら、それまで持たせるのは眷属としての使命だ。

 

「・・・流れ弾が当たっても文句は聞きませんわよ?」

 

「大丈夫。かわして見せるって」

 

「そうですよ。私も一夏さんもこれでも結構強いんですよ?」

 

 軽口をたたくセシリアに、自信に満ちた表情を浮かべて二人は答える。

 

「・・・さあ、突入するわよ!!」

 

 そして、リアスの号令とともに全員が結界の中へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界の内側は、すでに魔境となっていた。

 

 校庭中に、巨大な犬のような姿をした獣が何頭もいる。

 

 だが、それは決して狗などというような生き物ではない。

 

 なぜなら、犬には頭は三つもないのだから。

 

「冥府の番犬ケルベロス・・・! こんなものまで持ち込んでいるというの!?」

 

 リアスが舌打ちをする中、しかしそれ以上に問題がある光景が映っていた。

 

 それは巨大な魔法陣。中央にはバルパー・ガリレイが陣取り、そして周囲にエクスカリバーが浮かんでいる。

 

「どうやら、あれが儀式の中心のようですわね!!」

 

 セシリアは儀式を中断させるべく、躊躇なくレールガンを発射する。

 

 バルパーはただの研究者。この一撃を耐えることなどできるわけがない。

 

 だが、その一撃は眼前に降下した光の槍に弾き飛ばされた。

 

「無粋なまねをするな。しょせん絡繰りに頼らなければ戦えない奴はこれだから困る」

 

 侮蔑の感情が混じった声に全員が振り仰げば、そこには宙に浮く椅子にコカビエルが腰かけていた。

 

「バルパー。あとどれぐらいでエクスカリバーは合一する?」

 

「あと五分もかからんよ」

 

「そうか、頼むぞ」

 

 コカビエルはバルパーと短く会話をすると、指を鳴らした。

 

 そして、ケルベロスの視線が一斉に向き、さらには堕天使やはぐれ悪魔祓いが何人も現れる。

 

「さて、余興の時間だ。奴らと遊んでやれ」

 

『はっ!』

 

 コカビエルの命を受け、全員がリアス達に向かって襲い掛かる。

 

 今ここに、駒王町の命運をかけた戦いが始まろうとしていた。

 


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