ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
一方そのころ、木場たちも戦闘に巻き込まれていた。
「ひゃっほーい! 神父がより取り見取りだぜい!!」
しかも、本命を引き当てるというある種の強運あるいは凶運を見せて。
「フリード・セルゼン!」
木場は
ゼノヴィアの
だが、それでも剣の性能が圧倒的であることは変わらない。
瞬く間に木場の魔剣はぼろぼろになり、それを見たフリードが楽しそうに歯を剥いた。
「どうよ! このエクスカリバーはそんじゃそこらの魔剣なんかじゃぁ倒せませんぜ!」
「ならスピードで翻弄すれば!」
ゼノヴィア達と対峙した時に比べれば、木場は冷静さを保っている。
ゆえに、本来の機動力で翻弄するスタイルへと変更して戦闘を再開し―
「―残念でえ~す! 僕ちんの
逆にスピードで圧倒された。
「うぉおおおおおおお!? は、早くてみえん!」
「お、おいどうするんだよ! 俺たちこのままじゃ介入できないぞ!!」
元浜と匙が慌てるが、しかし松田はその戦いを静かに見ていた。
指先でリズムをとりながら、木場とフリードの攻防を観察し、その動きのリズムをつかみ取る。
「・・・元浜、匙。俺が隙を作るからその間に何かして見せろ」
「できるのか?」
冷静な松田の口調に、匙は何かしらの勝算を思い浮かべる。
「レヴィアさんの悪魔になってから、ハーレムを作るために俺だって努力はしてんのさ。・・・任せろ」
「ならば俺も見せねばなるまいて。眼鏡キャラの本領をな」
キランと眼鏡を光らせながら、元浜も立ち上がる。
そんな二人の様子を見れば、匙も黙ってみているわけにはいかないだろう。
「OK。俺たちで木場を助けるぜ」
堕天使たちは、正直に言って相手を舐めていた。
インフィニット・ストラトスは、確かに人間が保有する中では最強クラスの兵器である。
最新鋭のジェット機に匹敵する最高速度を、複葉機や攻撃ヘリなど歯牙にもかけない旋回半径で動くという圧倒的な運動性能こそがその強大さの根幹だ。
さらにはシールドエネルギーがあるため装甲車よりは頑丈であり、拡張領域を最大限に使用すれば、戦車ぐらいの火力だって叩き出せる。
そのうえで人からそこまで逸脱していないため、歩兵の代役として動くこともできる。まさに兵器の王様だ。
だが、それをもってしても異形社会にとってはまだ核の方が恐ろしい。
なにせ、ISの火力はせいぜい機甲部隊レベルだ。その程度、上級悪魔なら出せて当然のちゃちな火力でしかない。
それを何発もくらい合いながら戦うのが異形たちの戦いだ。そしてそれを使用する者たちの反応速度は、おおむね人間を超越している。
はっきりいって中の上クラスならISを単独で打倒することは十分可能と予測が出ている。そして自分たちはそれだけの領域に到達した戦士だ。情けないことにそれぐらいならゴロゴロいる。
ゆえに、ISなど恐るるにも足らなかった。
その青いISも、観たところ専用機だがその程度。
見るからに遠距離戦闘型であり、この距離まで詰めれた時点で勝ちは確定だった。
「死ぬがいい!!」
堕天使たちは一瞬で間合いに入る。
その速度は第一世代のISならば十分追いつけるものであり、そしてその動きで堕天使たちは死角へと回り込む。
そして一撃で勝負を決しようと光の槍を投げ放ち―
「残念ですわね」
顔を一切向けることなく、セシリアは首を傾けるだけでそれをかわした。
そしてそのまま顔を向けることなく手に持ったライフルを向けると発砲する。
「ちぃ!」
堕天使たちはそれをかわすが、しかしセシリアは慌てない。
戦闘で最初の一発が命中することは珍しい。彼女も実戦をいくつも潜り抜けている猛者なのだ。それぐらいは理解している。
「ISはハイパーセンサーによって使用者に360度の視界を与えます。そんなことも知らないのなら、ISを倒すことなんて夢のまた夢ですわ」
「ほざくな小娘! 避けるだけがうまくても、我々の体を貫けるものか!!」
堕天使たちは光の槍を広範囲に投げつけながら、しかし負ける気だけはしなかった。
「我々はコカビエル様とともに腐った上層部に活を入れる者。我々の耐久力は上級に次ぐのだよ!」
その言葉に、セシリアも言いたいことが分かったのか静かにうなづく。
通常、ISの火力は決して大きい方ではない。
手持ち火器を中心としている第二世代以前は特に顕著だ。この手のタイプは車載火器をベースにした物が多く、必然的に口径は20mmを下回るものがほとんど。大きいものでは対戦車兵器程度だろう。
そして、そんなものの一発や二発でやられてくれるほど中級以降の異形存在は伊達ではない。
たとえ下級であろうと、戦車と攻撃ヘリをたして二で割らない戦闘が可能なのだ。がくんと実力が上がる中級クラスともなれば、砲撃戦主体の場合、その火力は大規模の機甲部隊にも匹敵するだろう。最上級クラスならば陸軍一個師団を単独で滅ぼせてもおかしくない。
ましてや、機動力に関しても比例して大きく上昇するのだ。生命体としての性能の違いもあり、旋回性能なども戦闘機を遥かに凌ぐ。
そんな化け物とまともに勝負すれば、いかにISといえど価値の目は薄い。いな、火力に特化した第三世代以降でなければ勝ち目などないだろう。
それが異形の現実。
そう、ゆえにISでは彼らを打倒することは困難であり―
「・・・ですが、私の場合は別ですわ」
―異形を祓う者であるセシリアの場合は例外だった。
それを実証するように、セシリアのはなった弾丸が堕天使を貫いた。
「ぐぁあ!? 馬鹿な、俺を、貫いただと!?」
「そんな馬鹿な! 見る限りレールガンではあるが、それでもせいぜい15mm程度のサイズのはず!」
「その程度の弾丸で、牽制ならともかく我らをここまで傷つけられるはずが・・・」
狼狽する隙を突いて、こんどは確実に敵をしとめる。
ああ、確かにスターダスト・ティアーズの主武装はスナイパーライフルだ。
人間の手持ち火器の約二倍のサイズとなっているこのスナイパーライフルは、人間が使用する対物ライフルと口径はそこまで変わらない。
反動を抑制する能力が高いこともあり、電磁投射で放つ威力は実際の対物ライフルに比べれば上だがその程度だ。
そう、そんな科学の代物で、中の上クラスの堕天使を殺せるわけがない。
その種は、弾丸にあった。
「・・・おお、なんかすごい! むちゃくちゃつええ! IS強い!!」
『確かになかなかすごいおもちゃだが、それだけじゃない。相棒、落ちた弾丸を左手でつかめ』
感心しているドライグにいわれるままに、イッセーは撃ち抜くのに使われた弾丸を左手でひろう。
『それを右手で静かにつついてみろ。それで理由は痛いほどにわかる』
「ん? ああ・・・って痛い!?」
激痛が走って、イッセーは大声を上げた。
そして、その激痛には覚えがあった。
忘れるわけがない。つい先日、彼女のそれを喰らったばかりだ。
「これ、聖剣か!?」
『そうだ。剣といってもいろいろな形状がありそれを自由に使えるのが
ドライグがそう感心する中、しかしセシリアも決して楽には勝てているわけではなかった。
「数で押せ! 周囲を囲んで機動力を殺せば、ISの耐久力なら押しつぶせる!!」
「確かに脅威だが、数を集めておいて正解だった!!」
数の差という当たり前の利点を最大限に生かし、堕天使たちはセシリアに前後左右から攻撃を加えていく。
しかもセシリアはイッセーのカバーに入る必要がある。つまりは置いて逃げれない。
「セシリア!」
「安心しなさい」
だが、セシリアは笑顔を浮かべた。
そしてそのタイミングで、背中のパーツが外れていく。
だが、それは相手の攻撃で破壊されたのでは断じてない。
「・・・行きなさい。ガンポッドビット!」
排除されたのではなく射出されたパーツが曲線を描いて動き、堕天使たちの背後に回り込む。
そして、電磁加速の音とともに細い杭状の弾丸と化して堕天使を背後から強襲した。
「ぬぅおおお!」
「お、おのれ! あれは第三世代機か!」
数の差すら大きく詰められ、堕天使たちは一気に総崩れになる。
だが、それでも彼らはまだあきらめていなかった。
「ならば固まれ。障壁を互いに張って防御するのだ!!」
「そのうえでいったん引くぞ! ISと神器の組み合わせ、ここまで脅威だとは思わなかった!」
状況が不利とみて、彼らは即座に逃げを選択する。
それそのものは正しい戦術判断力だ。
だが、しかし致命的なミスがあった。
「なるほど確かに、私とスターダスト・ティアーズの火力ではこれほどの密度の障壁を突破することは困難でしょう・・・ですが」
そう、セシリアはすでに勝利を確信している。
短い付き合いだが、彼はきっと何かをしてくれるという確信があった。
「逃がすわけねえだろ、行くぜドライグ!!」
『おう! 俺も暴れたりないんでな、思う存分ぶっ放せ!!』
『explosion!』
彼は、ただ黙ってみていたわけではない。
自分の真価が時間をかけた上だということがわかっているから、注意が引き付けられているうちにため込んでいたにすぎない。
そう、兵藤一誠は仲間に任せて戦場で縮こまっているような臆病者では決してないのだから。
「喰らいやがれ、ドラゴンショットぉおおおおお!!」
「・・・まさか、赤龍帝ッ!?」
気づいた時にはもう遅い。
赤龍帝ドライグの放つ力の奔流が、堕天使たちを結界ごと易々と吹き飛ばした。
「お~やおや~ん。お兄さん、調子、悪いね?」
さわやかな口調でそう告げ、フリードはニヤニヤと笑いながら木場を攻め立てる。
「まだだ! まだ、終われない・・・っ!」
木場は魔剣を何度も作り直しながら、それでも何とかエクスカリバーを破壊しようと迫る。
目の前に恨みの根源がある。
自分たちがなりたくてなりたくてたまらなかったエクスカリバーの使い手。
それなのに、自分たちは失敗作として処分され、自分以外はみな死んだ。
挙句の果てにその使い手がこんなゲスなどと、出来の悪い悪夢としか言いようがない。
ゆえに負けるわけにはいかない。
しかしこのままでは負けるしかない。
そんな状況に涙を流したくなり―
「よ、木場。助けに来たぜ!」
その言葉に、驚愕した。
気づけば、フリードの動きが止まっていた。
フリードの腰にタックルを仕掛けた松田が、その体勢でにやりと笑う。
「お前が引き付けてたおかげで、エクスカリバーは気にしなくて済んだぜ、ありがとよ!!」
「うっぜぇ! 男に抱き着かれる趣味はねえんだよ!!」
フリードはエクスカリバーで切り裂こうとするが、しかしその腕に紫の触手が巻き付いた。
「おっと! 俺を忘れてもらっちゃぁ困るぜ?」
「チッ! こいつも神器使いか!!」
フリードはエクスカリバーで触手を切り裂こうとするが、しかし触手はなかなか切れない。
「俺のラインはそう簡単には切れねえよ! 松田、そろそろ離れていいぜ!」
「おうよ!」
もとより一瞬だけ足止めできればいいと判断したのだろう。松田はあっさりとためらうことなく距離をとった。
そして、それに続いて新たなる参戦者が現れる。
「・・・木場が悪魔になった経緯から推察して、被験者の女の子は中学生以下の少女だった可能性が非常に大きい」
ぶつぶつつぶやきながら、元浜が眼鏡を動かしつつ前に出る。
そこにあるのは、怒り。
未発達の少女を愛するロリコンとして、そんな未発達な少女が死んでいったことに対する強い怒りが生まれていた。
「ましてや貴様みたいな品のない奴が選ばれるとかマジ屈辱だ。すべてのロリコンを代表して、お前に天誅を下す!」
「悪魔が何言ってやがんだ馬ー鹿! だいたいてめえに何ができるってんだ、あん?」
悔しいがフリードの言う通りだと木場も思った。
高い身体能力をもつ松田や神器持ちの自分や匙とは違う。
元浜は平均的な高校生レベルの能力だし、加えていえば特殊な力も持っていない。
そういう意味では一番戦力にならないのだが、しかし彼には余裕があった。
「知っているか。悪魔に取って魔力で一番大事なのはイメージなのだと」
元浜の眼鏡が動き、光を反射してきらりと光る。
・・・否
「くらうがいい、眼鏡キャラがギャグ系バトルでぶちかます、常識レベルの必殺技!」
それは、月明かりの反射などではなく、魔力の光。
「眼鏡・・・ビィイイイイイイイイッム!!」
「・・・マジですか」
思わず唖然としたフリードはもろに喰らった。
そして爆発が生まれ、あたりが煙に包まれる。
「・・・お前ら、すごいんだな」
想定外の人物たちの大活躍に、匙はあきれながらも感心する。
「ハーレムを目指してるんでな、俺たちも」
「リアス先輩の婚約騒ぎじゃぁ大して役に立てなかったけど、そんなままじゃあいられないさ」
二人してガッツポーズを決めるが、しかし本当に強くなった。
「これは、僕も負けてられないね」
そう、まだ負けてはいられない。
幸いだが、まだフリードは死んでない。
どうやらエクスカリバーで防いだようだ。そして、彼も本気を見せている。
「うひゃひゃひゃひゃ! 雑魚かと思ったら歯ごたえがありそうだねぇ。楽しめそうだねぇ」
すでにその体には打鉄が纏われていた。
ISとエクスカリバー。人間たちが持てる装備としては最高峰の組み合わせは、間違いなく強敵の誕生だろう。
しかし、それを乗り越えれない程度で七本のエクスカリバーをすべて破壊することなどできはしない。
木場は真正面からフリードをにらみつけ―
「・・・ほう?
足音が、聞こえた。
「な、増援だって!?」
匙がいやそうな表情を浮かべるなか、その男は姿を現した。
神父の恰好に身を包んだ中年男性。彼は研究者と思しき興味深そうな視線で木場たちを観察する。
「それに、そこの神器は黒い龍脈《アブソーション・ライン》か? あの系列はほぼアザゼルが集めていたはずだが・・・」
「バルパーのオッサン。今結構白熱してるから茶々入れないでくんない?」
研究者の悪癖といわんばかりに解析に熱中している中年にフリードがツッコミを入れるが、問題はそこではない。
バルパー。その名前はつい最近聞いたばかりだ。
エクスカリバー破壊の算段が付いた後、ゼノヴィア達が教えてくれた聖剣計画の当時の首謀者。
上に何も言わず非人道的な実験を重ねた末、被験者たちを抹殺した異端の徒。
「バルパー・・・ガリレイ!!」
頭に血が上っている中、しかしフリードを警戒してむやみに突っ込まなかったのはかろうじて褒められるべきだろう。
「あ、オッサン。このベロがなかなか切れなくて大変なんだけどさ、どうにかなんない?」
「愚か者。そんなものは聖剣の因子を剣に集めれば簡単に切れるわ」
「・・・ほっと!」
フリードたちは緊張感の緩い会話を続けるが、しかし木場の耳には入らない。
「ちょうどいい。エクスカリバーと聖剣計画の首謀者。・・・まさか両方を一度に切れる機会があるとはね!!」
難易度は上昇しているが、しかし同時に商品もでかい。
この事実に木場は歓喜すら浮かべる。
「ここでお前たちは終わらせる!」
「ハッハー! ISだけでも翻弄されてたあんたが、今の俺を倒せるわけが―」
嘲笑するフリードだったが、即座に交代すると振り下ろされた聖剣を急いでかわす。
「・・・チッ! 外したか」
「ちょっとゼノヴィア! 一人で先走らないでよ!!」
たまたま近くにいて聞きつけたらしい。イリナとゼノヴィアがエクスカリバー片手にフリードとバルパーをにらみつけていた。
「異端の徒、フリード・セルゼンとバルパー・ガリレイ! ここで我がエクスカリバーに断罪されるといい!」
「素敵なエクスカリバーで悪いことする異端者さん! 私たちがさばいてあげるわ、アーメン!」
エクスカリバーが聖なるオーラを放出し、フリードたちは警戒して少し交代する。
「・・・いったん引くぞフリード。さすがに計画の修正が必要だ」
「おk。んじゃ、今度会った時が本当のバトルってことでよろしくねん?」
そういうなり、フリードは閃光弾を発射して相手の動きを止める。
閃光が収まったときには、すでにはるかかなたまで逃げ去っていた。
だが、そんなことを気にしている余裕はない。
この千載一遇の好機、逃すわけにはいかなかった。
「逃がすか、バルパー!!」
「あ、まて木場!!」
松田が慌てて呼び止めるが、木場の耳には届かない。
暗闇の中に木場祐斗の姿が溶け込んでいった。
どうしても、ISの方にテコ入れが必要やったんや・・・っ
いや、上級悪魔クラスとの戦闘まで考慮すると、本当に魔改造の一つや二つはしないとIS側がダメージを与えられないという残酷な現実がございまして。下級中級ならまだ大丈夫なんですがね?
そういうわけで魔改造。セシリアに聖剣創造を与えたのはこれが理由です。