ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
レヴィアが出立して一日後、一夏は一人鍛錬を行っていた。
素振り数百本から、敵をイメージしてのシャドウトレーニング。
相手の動きを脳内に再現し、それに対して真正面から対応するという簡単なものだ。
今回の相手は、今までの中でも上位に位置するライザーを選択。
だが、相手が悪かった。
ライザーが強すぎるという意味ではない。守れる強さを求める者としてみれば、必然的に強敵の方がいいのだから。
悪かったのは相性だ。
ライザーは72柱のフェニックスとしてオーソドックスな戦闘を行う。
つまり、生半可な攻撃は再生力で突破するのだ。
これでは言っては悪いが訓練にならない。
剣の腕を磨くのならば、小技すら技量でしのいでくれる相手の方がいいのは自明の理だ。
そんなことにすら気づかないほど、自分は緊張しているのだということがよくわかった。
「・・・コカビエル、か」
間違いなく、今までとは段違いの相手だろう。ライザーが眷属を全力で投入したとしても返り討ちにできるほどの能力があるはずだ。
「勝てるのか、俺たちに」
タイミングよく冥界で発生したデモのせいで、魔王たちは増援を送れないという。
しかもそのデモは開戦を促す運動だ。
かつての大戦で不具になったり、家族を失った当事者や、若いがゆえに血気盛んで、天界や堕天使と揉めて痛い目を見た者たちが積極的に動いているらしい。
一夏としてみれば競い合う競技があるのならそれで十分だし、戦争なんて起こして民間人を巻き込むのは本意ではないのでまったく理解できないが、怨恨というのは大きいのだろう。
しかし、タイミングがあまりに悪い。
おかげで当分増援が来てくれそうにない。この状態でコカビエルが暴れれば、かなりの被害が出てきてしまうのは間違いない。
レヴィアのいう増援のあてにも心当たりがあるが、しかしできれば巻き込みたくはなかった。
彼女には彼女のやりたいことがある。それを邪魔するのは非常に心苦しかった。
「・・・あらあら、一夏くんは休憩中でしたか?」
その声に、一夏は顔を向けた。
長い黒髪をポニーテールにした、かつての幼馴染を思わせるその姿に、一夏は目を細めた。
「朱乃さん」
「はい。朱乃ですわ」
朱乃は名前を呼ばれたのがうれしいのか、普段とは違う普通の少女が浮かべるような微笑をその顔に浮かべた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
一夏はいつの間にやら朱乃の手製の弁当を食べることになっていた。
持ってきてくれたことには礼を言わなければならないし、ちょうどいい時間帯でおなかが減っていることも事実だ。
だからそれに関しては問題ない。ないのだが。
(・・・これ、あれか?)
一夏は極めて鈍感である。
周りの女性からのアプローチを全く理解できないのは序の口。
ひどいときは校舎裏に呼び出されて誰もいないところを確信して顔を赤くした女子から「付き合ってください」といわれても意味を理解できない。
まず真っ先に考えるのは「どこに買い物に行くんだろう」。そして続いて「なんで顔赤くしているんだろう」。そして最後に「そもそも、なんで誰もいないところに呼び出したんだろう」などと考える筋金入りの朴念仁である。
そういうわけで、レヴィアはそれを矯正するためにあらゆる手段をこうして徹底的に矯正した。
一日一恋愛漫画を徹底し、とにかく女性が告白したがっているパターンを徹底的に叩き込んだ。
叩き込まれた一夏は軽いノイローゼに襲われたが、それ以上に鈍感で女性が傷つくのはまずいとレヴィアに怒られたので気合を入れた。
自分のせいで女の子が傷つくのは男としてあってはならない。その一念で、何とか客観的に見ることでそういうものだということだけはわかるようになった。
なったので、なったので一夏は想定できる。
あれ? これもしかして好意抱かれてね?
朱乃はこういうことを普通にできるタイプではあるが、一人でいるときにわざわざ持ってくるというのがまず警戒点だ。
なにせ一夏はレヴィアの眷属。リアスの眷属ではないのだ。
それになんていうかニコニコしているのはいつものことだが顔が赤い。
『一夏くん。君の周りで顔がほんのり赤い女の子を見かけたら、表情が笑顔なら君がフラグを立てたと思い、それを聞いてみるんだ。そしてその返答にかかわらず僕と蘭ちゃんに相談するんだ。君が笑いものにされるかもしれないが、君はそれぐらいしないと危険すぎる』
などと真剣に両肩に手を置かれて言われては、下僕としては実行するほかない。
ゆえに、今回もそうしよう。
「えっと、これは俺、いつの間にかフラグ立ててました?」
「あら、すぐに気づきましたのね。すごい鈍感だと聞かされていたのですが」
即答だった。
「おれ、好意を抱かれるようなことしましたっけ?」
一夏はそのあたりを即座に聞くことにした。
特に特定個人に好かれるような行動をとったつもりはまたくない。
蘭の場合は一目惚れであり、そのあとある事件をへて本格的に好かれるようになっているが、そういう事件が起こったわけではない。
だから、どうしても気になってしまったのだ。
「・・・そうですわね。といっても、大したことではありませんのよ?」
朱乃は顔を赤くしながら照れくさそうに笑う。
「最初はなんていうか、強くなると思ったからですの」
「強くなる?」
それはそれでうれしいが、それがどうしたのだろうか?
「私も女ですから、守られたいという願望はありますの。祐斗くんもそれは同じでしたが、なんというか・・・あの子はリアスの騎士であろうとしているところがありましたから」
「はあ」
やはりこういう恋愛事情は苦手だ。まったくわからない。
「・・・そうですわね。それが大きく変わったのはレーティングゲームの時でしょうか」
そこで、朱乃の表情に艶めかしさというべき色が増えた。
「敵の女王がフェニックスの涙を使った時、私は反応が遅れてしまいました。其れなのに、一夏君はすぐに反応して対応して見せましたわ。おかげで、捕らわれた後に救われるお姫様みたいな感覚を得たのが一つ」
「は、はあ」
男として当然のことをしただけなのだが、そういわれるとなんていうか照れる。
「そして、そのあとのライザー・フェニックスと一対一での戦い。女の部分がしびれましたわ」
そう告げると、朱乃は一夏にしなだれかかる。
「あ、あの、朱乃さん!?」
「はい。なんですか?」
素直に首を傾げられると、どうしたものかと思ってしまう。
「・・・いや、その、俺は・・・」
実をいうと、あれに対しては個人的な反感もあったのだ。
レーティングゲームのセオリーからしてみれば、実にくだらない男の沽券。
「・・・あれ、実は男のくせして女を戦わせて様子見してるライザーにイライラしてたのが結構あって・・・」
だからそんなに尊敬しないでくれ。
そういう一夏の個人的すぎる理由を伝えてみたのだが、朱乃は少しきょとんとするとすぐに笑みを浮かべた。
「あ、そうですよね。ほんと、いつの時代の話なんだか―」
「いいえ、むしろもっと好きになりましたわ」
そういってさらにしなだれかかられた。
「え、えっと、朱乃さん!?」
「ええ、今時なかなか言えない言葉。そんなことを胸にして戦えるだなんて・・・女がうずきますわ」
うるんだ瞳で見られ、一夏は顔を真っ赤にする。
女がうずく。そんなことを言われたら、矯正されている今の自分なら確かに気づく。
そして、同じぐらいあることに気が付いた。
ああ、姫島朱乃という女は―
「―守られたいんですか、朱乃さんは」
「―ええ、古い女といわれるかもしれませんが、そういう感情もあったりしますのよ」
守られるだけは確かに嫌だ。好きな男が自分のために傷つくのは心が痛む。
だが、同時に傷つきそうになる自分を守ってくれる男を求める。そういう昔の女の感情を朱乃は持っていた。
「今時古いかもしれませんけど、そういう女のロマンにあこがれる自分も確かにありますの。・・・笑います?」
「笑いませんよ」
それどころか、むしろ好ましいという感情すら湧いてくる。
ああ、守ってくれといわれるなんて、むしろ男の本懐だろう。
「そういうことなら任せてください・・・とまで言えないのが残念ですけど、それでも守るために全力を出します。男ですから」
「ええ、私も守られるだけの女ではないので、それぐらいでちょうどいいですわ」
一夏の決断に朱乃は微笑むと、そのまま唇を触れ合わせた。
因みに、一夏がそれに気づくのに五秒かかった。
「・・・な、朱乃さん!?」
「たぶん蘭ちゃんが初めてでしょうけど、それでもおいしくいただきましたわ」
そういっていつもどうりのお嬢様のような笑みを浮かべると、朱乃はすぐに悪戯娘のような可憐な笑みを浮かべた。
「因みに私は不倫もいいと思うタイプですので、ここまで言わせた以上しっかり狙っていきますわ」
「ふ、不倫!? いや、俺が困りますって!!」
一夏としてたまったものではない。
すでに嫁がいる状態で、不倫などと不誠実すぎる。
「あ、悪魔はハーレムOKなんだから、やるならまとめて娶ります! そんな不純な恋愛なんて絶対しません!」
「あら、娶ってくださいますの?」
墓穴を掘った。
この日より、織斑一夏は人生の墓場を豪華にするための毎日を送ることになる。
「・・・っ!?」
「どうしたんですか、蘭ちゃん?」
「ついに、恐れいていた事態が起きた予感が!」
乙女の勘は非常に優れているのである。
はい、ラブコメ回のスタートです!
本作品はクロスオーバーをするにあたって、互いの惚れた相手が変わっていたりとかを普通にするのでお覚悟願います。
あと、数が多いという問題に対抗するため、基本としてIS側のヒロインはゲストヒロイン的立場で運用することになるでしょう。御容赦ください。